(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/198 20170101AFI20221017BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20221017BHJP
B02C 23/08 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
C01B32/198
B09B5/00 M ZAB
B02C23/08 Z
(21)【出願番号】P 2020564185
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 IB2019052805
(87)【国際公開番号】W WO2019220228
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2018/053416
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブー,ティ・タン
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1109961(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/194-32/23
B09B 5/00
B02C 23/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトを提供することと、
B.前記キッシュグラファイトの前処理ステップであって、以下の連続するサブステップである
i.前記キッシュグラファイトが、次のようにサイズによって
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、
に分類されるふるい分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分b)に関する浮選ステップ、及び
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25~1.0となるように酸が添加される酸浸出ステップ、
を含むステップと、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトの酸化ステップであって、以下の連続するサブステップである、
i.前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)を含む混合物の調製であって、前記混合物が5℃未満の温度に保たれる調製、
ii.ステップC.i)で得られた混合物への酸化剤の添加、
ここで、酸化剤が、過マンガン酸カリウム(KMnO
4
)、H
2
O
2
、O
3
、H
2
S
2
O
8
、H
2
SO
5
、KNO
3
、NaClO及びそれらの混合物から成る群から選択されるものであり、
iii.目標の酸化レベルに達した後、酸化反応を停止させるための化学的要素の添加、
ここで、目標の酸化レベルは、酸化グラフェンが少なくとも45重量%の酸素基を有する酸化度であり、化学的要素が、酸、非脱イオン水、脱イオン水、H
2
O
2
及びそれらの混合物から成る群から選択されるものであり、少なくとも2つの化学的要素が選択される場合、それらが連続的に又は同時に使用される、
iv.任意選択的に、ステップC.iii)で得られた混合物からの酸化グラファイトの分離、及び
v.酸化グラファイトの酸化グラフェンへの剥離、
ここで、剥離が、超音波又は熱剥離を使用することにより行われる、
を含むステップと、
D.酸化グラフェンを還元型酸化グラフェンへと還元することと、
ここで、還元が、アスコルビン酸、尿素、ヒドラジン水化物、NaOH及びKOHから選択されるアルカリ性溶液、没食子酸、タンニン酸、ドーパミン及び茶ポリフェノールから選択されるフェノール類、メチルアルコール、エチルアルコール及びイソプロピルアルコールから選択されるアルコール類、グリシン、クエン酸ナトリウム、並びに水素化ホウ素ナトリウムから成る群から選択される還元剤を用いて実施され、50~120℃の間の温度で24時間未満の還元反応により実施される
を含む、方法。
【請求項2】
ステップB.i)にお
けるキッシュグラファイトのサイズによるふるい分けが、55μm未満のサイズを有す
る画分a)
と55μm以上のサイズを有する画分b)とにより実施され、画分a)が除去され、ステップB.ii)にお
ける浮選が、前記画分b)
に対して実施される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップB.i)
におけるキッシュグラファイトのサイズによるふるい分けの画分b)が、300μm以下のサイズ
で実施され、300μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップB.iii)において、酸量/キッシュグラファイト量の重量比が、0.25~0.9の間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップB.iii)において、酸が、以下の要素である
塩酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップC.iii)において、ステップC.ii)で得られた混合物が、酸化反応を停止させるために使用される
化学的要素に徐々に注入される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップC.iv)において、酸化グラファイトが、遠心分離、デカンテーション又は濾過によって分離される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップC.i)において、酸が、以下の要素である
塩酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップD)において、以下のサブステップである
i.還元剤による酸化グラフェンの還元型酸化グラフェンへの還元と、
ii.ステップD.i)で得られた混合物の撹拌と、
iii.任意選択的に、前記還元型酸化グラフェンの洗浄と、
iv.任意選択的に、前記還元型酸化グラフェンの乾燥と
を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップD.ii)において、混合物が、50~120℃の温度に保たれる、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
ステップD.ii)において、撹拌が、24時間未満の間行われる、請求項
9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための方法に関する。特に、還元型酸化グラフェンは、鋼鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材料、ニッケル産業を含む金属産業において、例えば、コーティング又は冷却試薬としての用途がある。
【背景技術】
【0002】
キッシュグラファイトは、製鋼工程、特に高炉工程又は製鉄工程中に生成する副産物である。実際、キッシュグラファイトは通常、その冷却中に溶鉄の自由表面上に生成する。これは、1300~1500℃の溶鉄に由来し、混銑車で運搬される場合は0.40℃/分~25℃/時の間の冷却速度で、又は取鍋輸送中はより速い冷却速度で冷却される。毎年大量のトン数のキッシュグラファイトが製鉄所で生産されている。
【0003】
キッシュグラファイトは、通常50重量%を超える大量の炭素を含むため、グラフェンベースの材料を製造するのに適している。通常、グラフェンベースの材料には、グラフェン、酸化グラフェン、還元型酸化グラフェン又はナノグラファイトが含まれる。
【0004】
還元型酸化グラフェンは、いくつかの含酸素官能基を含む1層又は数層のグラフェンシートで構成される。疎水性である還元型酸化グラフェンには、高い熱伝導率及び高い電気伝導率などの興味深い特性があるため、上記のように多くの用途がある。
【0005】
通常、還元型酸化グラフェンは、以下の
- 硝酸ナトリウム(NaNO3)、硫酸(H2SO4)及び過マンガン酸ナトリウム又は過マンガン酸カリウム(KMnO4)によるキッシュグラファイトの酸化ステップと、
- 還元型酸化グラフェンを得るための酸化グラフェンの還元ステップと、
を含むハマー法に基づいて合成される。
【0006】
特許KR101109961は、グラフェンを製造する方法であって、
- キッシュグラファイトを前処理するステップと、
- 前処理したキッシュグラファイトを酸性溶液で酸化することにより、酸化グラファイトを製造するステップと、
- 酸化グラファイトを剥離することにより、酸化グラフェンを製造するステップと、
- 酸化グラフェンを還元剤で還元することにより、還元型酸化グラフェンを製造するステップと、
を含む方法について開示している。
【0007】
この韓国特許において、キッシュグラファイトの前処理は、フラッシング工程、化学的前処理組成物を使用した精製工程、及び機械的分離工程(サイズによる分離)を含む。精製工程の後、精製されたキッシュグラファイトはサイズによって分離され、40メッシュ以下、すなわち420μm以下の粒径を有するキッシュグラファイトは、酸化グラフェンの製造のために保持される。
【0008】
しかしながら、キッシュグラファイトの前処理は、化学組成物を使用した2つのステップ、すなわちフラッシングステップ及び精製工程ステップを含む。KR101109961の実施例では、フラッシングステップは、水、塩酸及び硝酸を含む水溶液を用いて行われる。次に、精製工程は、キレート剤、酸化鉄除去剤、界面活性剤、アニオン性及び非イオン性ポリマー分散剤、並びに蒸留水を含む前処理組成物を用いて行われる。工業規模では、かなりの化学廃棄物を処理する必要があり、そのような組成物の安定性を制御することが難しいため、2つの化学処理は管理が困難である。
【0009】
さらに、前処理組成物は長時間の調製を必要とする。したがって、生産性が低下する。さらに、この実施例では、酸化グラフェンの還元型酸化グラフェンへの還元は、24時間の間に行われるため、非常に長い。
【0010】
最後に、前処理組成物を使用した精製工程を含むキッシュグラファイトの前処理、及び硝酸ナトリウム(NaNO3)、硫酸(H2SO4)及び過マンガン酸カリウム(KMnO4)を用いて行われる前処理したキッシュグラファイトの酸化は、環境に優しいものではない。実際、キッシュグラファイトの前処理では、かなりの化合物が使用される。酸化中に硝酸ナトリウムを使用すると、NO2、N2O4及びNH3などの環境に優しいものではない有毒ガスが発生する。
【0011】
「XDR,TEM及び電子分光法による酸化グラフェン及び還元型酸化グラフェンの研究」,Journal of electron spectroscopy and related phenomena,2014年8月1日,vol.195,p.145-154(“Graphene oxide and reduced graphene oxide studied by the XDR,TEM and electron spectroscopy methods”,Journal of electron spectroscopy and related phenomena,vol.195,1 August 2014,pages 145-154)と呼ばれる刊行物は、FL-RGOp及びFL-RGOphとして示される還元型酸化グラフェンについて開示している。FL-RGOpは、8.6重量%の酸素を含む。FL-RGOphは、12.1重量%の酸素を含む。
【0012】
しかしながら、FL-RGOp及びFL-RGOphの両方の横方向のサイズは、刊行物に記載されていない。
【0013】
「特定の用途のためのグラファイト及び還元型酸化グラフェンの酸素含有量の調整」,Scientific Reports,2016年2月25日,vol.6,no.1(“Tailoring the oxygen content of graphite and reduced graphene oxide for specific applications”,Scientific Reports,vol.6,no.1,25 February 2016)と呼ばれる刊行物は、11.8重量%~58.8重量%の酸素を有する還元型酸化グラフェンについて開示している。
【0014】
しかしながら、この刊行物は、還元型酸化グラフェンの横方向のサイズに関して全く言及していない。
【0015】
特許出願WO2018178845は、キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトを提供することと、
B.前記キッシュグラファイトの前処理ステップであって、以下の連続するサブステップである、
i.前記キッシュグラファイトが、次のようにサイズによって、
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、
に分類されるふるい分けステップであって、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分b)に関する浮選ステップ、
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25~1.0となるように酸が添加される酸浸出ステップ、
iv.任意選択的に、キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させるステップ、
を含むステップと、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトの酸化ステップと、
D.酸化グラフェンを還元型酸化グラフェンへと還元することと、
を含む方法について開示している。
【0016】
例えば、酸化ステップC)は、前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び任意選択的に硝酸ナトリウムを含む混合物の調製を含み、この混合物は、酸化剤の添加前に5℃未満の温度に保たれる。
【0017】
それにもかかわらず、酸化ステップが硝酸ナトリウム(NaNO3)で行われると、有毒ガスが生成し、汚染方法につながる。さらに、NaNO3を使用すると酸化時間が非常に長くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】韓国登録特許第10-1109961号公報
【文献】国際公開第2018/178845号
【非特許文献】
【0019】
【文献】“Graphene oxide and reduced graphene oxide studied by the XDR,TEM and electron spectroscopy methods”,Journal of electron spectroscopy and related phenomena,vol.195,1 August 2014,pages 145-154
【文献】“Tailoring the oxygen content of graphite and reduced graphene oxide for specific applications”,Scientific Reports,vol.6,no.1,25 February 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための、従来の方法と比較して汚染の少ない方法を提供することである。さらに、可能な限り短い時間で良質の還元型酸化グラフェンを得るための工業的方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これは、請求項1に記載の方法を提供することによって達成される。この方法はまた、単独で又は組み合わせて考慮される、請求項2~16の任意の特徴を含み得る。
【0022】
本発明はまた、請求項17に記載の還元型酸化グラフェンを包含する。
【0023】
以下の用語が定義される。
【0024】
- 酸化グラフェンとは、ケトン基、カルボキシル基、エポキシ基及びヒドロキシル基を含む含酸素官能基を少なくとも45重量%含む1層又は数層のグラフェンを意味し、
- 還元型酸化グラフェンとは、還元された酸化グラフェンを意味する。還元型酸化グラフェンは、いくつかの含酸素官能基を有する1層又は数層のグラフェンを含み、
- 浮選ステップとは、疎水性材料であるキッシュグラファイトを親水性材料から選択的に分離する工程を意味する。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の本発明の詳細な説明により明らかとなるであろう。
【0026】
本発明を説明するために、特に以下の図を参照して、非限定的な実施例の様々な実施形態及び試験について説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明による1層の還元型酸化グラフェンの例を示す。
【
図2】本発明による数層の還元型酸化グラフェンの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、キッシュグラファイトから還元型酸化グラフェンを製造するための方法であって、
A.キッシュグラファイトを提供することと、
B.前記キッシュグラファイトの前処理ステップであって、以下の連続するサブステップである、
i.前記キッシュグラファイトが、次のようにサイズによって、
a)50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト、
b)50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト、
に分類されるふるい分けステップであって、
50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分a)が除去されるステップ、
ii.50μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの前記画分b)による浮選ステップ、及び
iii.重量比(酸量)/(キッシュグラファイト量)が0.25~1.0の間となるように酸が添加される酸浸出ステップ、
を含むステップと、
C.酸化グラフェンを得るための、ステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトの酸化ステップであって、以下の連続するサブステップである
i.前処理されたキッシュグラファイト、酸、及び硝酸アンモニウム(NH4NO3)を含む混合物の調製であって、前記混合物が5℃未満の温度に保たれる調製、
ii.ステップC.i)で得られた混合物への酸化剤の添加、
iii.目標の酸化レベルに達した後、酸化反応を停止させるための要素の添加、
iv.任意選択的に、ステップC.iii)で得られた混合物からの酸化グラファイトの分離、及び
v.酸化グラファイトの酸化グラフェンへの剥離、
を含むステップと、
D.酸化グラフェンを還元型酸化グラフェンへと還元することと
を含む方法に関する。
【0029】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明による方法は、高純度の前処理されたキッシュグラファイトから良質の還元型酸化グラフェンの製造を可能にすると思われる。実際、ステップB)の後に得られたキッシュグラファイトの純度は、少なくとも90%である。さらに、キッシュグラファイトの前処理、酸化グラフェンへの酸化及び酸化グラフェンの還元を含む方法は、工業規模で実施するのが容易であり、従来の方法、特にNaNO3を使用する方法よりも汚染が少ない。実際、一方では、酸化中に生成する無毒のガスは、NaNO3によるNO2、N2O4及びNH3の代わりに、NH4NO3によるN2、O2及びH2Oであると考えられている。他方では、NH4NO3で生成するガスの量は、NaNO3で生成するガスの量よりも多い。したがって、より多くのガスがキッシュグラファイト層間にインターカレートされるので、酸化ステップC.ii)の間に、KMnO4はキッシュグラファイト層間を容易に移動して、それらを酸化することができる。これにより、NaNO3と比較して、酸化時間が大幅に短縮される。
【0030】
好ましくは、ステップA)において、キッシュグラファイトは、製鋼工程の残留物である。例えば、キッシュグラファイトは、高炉工場、製鉄所、混銑車及び取鍋輸送中に見られる。
【0031】
ステップB.i)において、ふるい分けステップは、ふるい機で行うことができる。
【0032】
ふるい分け後、キッシュグラファイトのサイズが50μm未満の画分a)は除去される。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、50μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトは、非常に少量の、例えば10%未満のグラファイトを含むと考えられる。
【0033】
好ましくは、ステップB.ii)において、浮選ステップは、水溶液中で浮選剤を用いて行われる。例えば、浮選剤は、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、松根油、ポリグリコール、キシレノール、S-ベンジル-S’-n-ブチルトリチオカーボネート、S,S’-ジメチルトリチオカーボネート及びS-エチル-S’-メチルトリチオカーボネートから選択される発泡剤である。有利には、浮選ステップは、浮選装置を使用して行われる。
【0034】
好ましくは、ステップB.i)において、55μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、55μm以上のサイズを有する。より好ましくは、ステップB.i)において、60μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)が除去され、ステップB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、60μm以上のサイズを有する。
【0035】
好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、300μm以下のサイズを有し、300μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0036】
より好ましくは、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、275μm以下のサイズを有し、275μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0037】
有利には、ステップB.i)及びB.ii)において、キッシュグラファイトの画分b)は、250μm以下のサイズを有し、250μmを超えるサイズを有するキッシュグラファイトのいかなる画分も、ステップB.ii)の前に除去される。
【0038】
ステップB.iii)において、(酸量)/(キッシュグラファイト量)の重量比は、0.25~1.0の間、有利には0.25~0.9の間、より好ましくは0.25~0.8の間である。例えば、(酸量)/(キッシュグラファイト量)の重量比は、0.4~1.0の間、0.4~0.9の間又は0.4~1の間である。実際、いかなる理論にも束縛されることを望まないが、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を下回る場合、キッシュグラファイトが多くの不純物を含むリスクがあると思われる。さらに、(酸量)/(キッシュグラファイト量)比が本発明の範囲を超える場合、大量の化学廃棄物が発生するリスクがあると考えられる。
【0039】
好ましくは、ステップB.iii)において、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。
【0040】
次に、任意選択的に、キッシュグラファイトを洗浄及び乾燥させる。
【0041】
本発明による方法のステップB)の後に得られた前処理されたキッシュグラファイトは、50μm以上のサイズを有する。前処理されたキッシュグラファイトは高純度、すなわち少なくとも90%である。さらに、結晶化度は従来の方法と比較して改善され、より高い熱伝導率及び電気伝導率、ひいてはより高い品質が実現される。
【0042】
ステップC.i)において、前処理されたキッシュグラファイトは、酸及び硝酸アンモニウム(NH4NO3)と混合される。好ましくは、ステップC.i)において、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸又はそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態では、混合物は、前処理されたキッシュグラファイト、硫酸及び硝酸アンモニウムを含む。
【0043】
好ましくは、ステップC.ii)において、酸化剤は、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、H2O2、O3、H2S2O8、H2SO5、KNO3、NaClO又はそれらの混合物から選択される。好ましい実施形態では、酸化剤は、過マンガン酸カリウムである。
【0044】
次に、ステップC.iii)において、目標の酸化レベルに達したときに、化学的要素を添加して酸化を停止させる。目標の酸化レベルは、酸化グラフェンの酸化度に依存し、すなわち、本発明に従って少なくとも45重量%の酸素基を有する。酸化グラフェンの酸化レベルは、酸化中の経時的な走査型電子顕微鏡法(SEM)、X線回折分光法(XRD)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、LECO分析及び/又はラマン分光法によって分析することができる。
【0045】
次に、有利には、ステップC.iii)において、酸化反応を停止させるために使用される化学的要素は、酸、非脱イオン水、脱イオン水、H2O2又はそれらの混合物から選択される。
【0046】
好ましい実施形態では、反応を停止させるために少なくとも2つの要素が使用される場合、それらは連続的に又は同時に使用される。好ましくは、脱イオン水を使用して反応を停止させ、次いでH2O2を使用して酸化剤の残りを除去する。別の好ましい実施形態では、H2O2を使用して反応を停止させ、酸化剤の残りを除去する。別の好ましい実施形態では、H2O2を使用して、この以下の反応によって反応を停止させる。
【0047】
2KMnO4+3H2O2=2MnO2+3O2+2KOH+2H2O
【0048】
次に、MnO2を除去するために、酸を使用することができる。例えば、HClを混合物に添加すると、次の反応が起こる。
【0049】
MnO2+2HCl=MnCl2(水溶性)+H2O
【0050】
いかなる理論にも束縛されることを望まないが、反応を停止させる要素が混合物に添加されると、この添加が過度に発熱を生じさせて爆発又は飛散を引き起こすリスクがあると思われる。したがって、好ましくは、ステップC.iii)において、反応を停止させるために使用される要素は、ステップC.ii)で得られた混合物にゆっくりと添加される。より好ましくは、ステップC.ii)で得られた混合物は、酸化反応を停止させるために使用される要素に徐々に注入される。例えば、ステップC.ii)で得られた混合物は、反応を停止させるために脱イオン水に徐々に注入される。
【0051】
ステップC.iv)において、ステップC.iii)で得られた混合物から酸化グラファイトが分離される。好ましくは、酸化グラファイトは、遠心分離、デカンテーション又は濾過によって分離される。
【0052】
次に、任意選択的に、酸化グラファイトを洗浄する。例えば、酸化グラファイトは、脱イオン水、非脱イオン水、酸又はそれらの混合物から選択される要素で洗浄される。例えば、酸は、以下の要素:塩化物酸、リン酸、硫酸、硝酸(nitride acid)又はそれらの混合物から選択される。
【0053】
その後、任意選択的に、酸化グラファイトを、例えば空気で、又は真空状態での高温で乾燥させる。
【0054】
好ましくは、ステップC.v)において、剥離は、超音波又は熱剥離を使用することにより行われる。好ましくは、ステップC.iii)で得られた混合物は、1層又は数層の酸化グラフェンに剥離される。
【0055】
ステップC)の後、少なくとも45重量%の含酸素官能基を含み、少なくとも1層のシートを含む5~50μmの間、好ましくは10~40μmの間、より好ましくは10~30μmの間の平均横方向サイズを有する酸化グラフェンが得られる。
【0056】
次に、好ましくは、ステップD)において、酸化グラフェンを部分的に又は完全に還元して、0.4重量%~25重量%、より好ましくは1~20重量%の酸素基を有する還元型酸化グラフェンを得る。
【0057】
好ましくは、ステップD)は、以下のサブステップである
i.還元剤による酸化グラフェンの還元と、
ii.ステップD.i)で得られた混合物の撹拌と、
iii.任意選択的に、還元型酸化グラフェンの洗浄と、
iv.任意選択的に、還元型酸化グラフェンの乾燥と、
を含む。
【0058】
ステップD.i)において、好ましくは、還元剤は、アスコルビン酸、尿素、ヒドラジン水化物、NaOH又はKOHなどのアルカリ性溶液、没食子酸、タンニン酸、ドーパミン又は茶ポリフェノールなどのフェノール類、メチルアルコール、エチルアルコール又はイソプロピルアルコールなどのアルコール類、グリシン、クエン酸ナトリウム又は水素化ホウ素ナトリウムから選択される。より好ましくは、アスコルビン酸はより環境に優しいため、還元剤はアスコルビン酸である。
【0059】
有利には、ステップD.ii)において、混合物は、50~120℃の間、より好ましくは60~95℃の間、有利には80~95℃の間の温度に保たれる。好ましくは、撹拌は、24時間未満、より好ましくは15時間未満、有利には1~10時間の間に行われる。
【0060】
本発明による方法を適用することにより、20重量%未満の含酸素官能基を含み、少なくとも1層のシートを含む30μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは10μm未満の平均横方向サイズを有する還元型酸化グラフェンが得られる。
【0061】
図1は、本発明による1層の還元型酸化グラフェンの例を示す。横方向のサイズは、X軸を通る層の最大の長さを意味し、厚さは、Z軸を通る層の高さを意味し、ナノプレートレットの幅は、Y軸を通して示されている。
【0062】
図2は、本発明による数層の還元型酸化グラフェンの例を示す。横方向のサイズは、X軸を通る層の最大の長さを意味し、厚さは、Z軸を通る層の高さを意味し、ナノプレートレットの幅は、Y軸を通して示されている。
【0063】
好ましくは、還元型酸化グラフェンは、金属基材の耐食性などのいくつかの特性を改善するために、金属基材鋼上に堆積される。
【0064】
別の好ましい実施形態では、還元型酸化グラフェンは、冷却試薬として使用される。実際、酸化グラフェンは、冷却流体に添加することができる。好ましくは、冷却流体は、水、エチレングリコール、エタノール、油、メタノール、シリコーン、プロピレングリコール、アルキル化芳香族化合物、液体Ga、液体In、液体Sn、ギ酸カリウム及びそれらの混合物から選択することができる。この実施形態では、冷却流体は、金属基材を冷却するために使用される。例えば、金属基材は、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、銅合金、チタン、コバルト、金属複合材料、ニッケルから選択される。
【0065】
ここで、情報のみを目的として行われる試験において、本発明を説明する。これらの試験は限定的ではない。
【実施例】
【0066】
試験品1、2及び3を、製鋼所からキッシュグラファイトを提供することによって準備した。次に、キッシュグラファイトをふるい分けして、以下のようにサイズ別に分類した。
a)63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイト
b)63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイト
63μm未満のサイズを有するキッシュグラファイトの画分a)を除去した。
【0067】
試験1及び2では、63μm以上のサイズを有するキッシュグラファイトの画分b)による浮選ステップを行った。浮選ステップは、MIBCを発泡剤として用いてHumboldt Wedag浮選機で行った。以下の条件を適用した。
- セル容積(l):2
- ロータ速度(rpm):2000
- 固形分濃度(%):5~10
- 発泡剤、種類:MIBC
- 発泡剤、添加(g/T):40
- 調整時間(秒):10
- 水条件:自然のpH、室温
【0068】
次に、すべての試験品を水溶液中の塩酸で浸出させた。次に、試験品を脱イオン水で洗浄し、90℃の空気中で乾燥させた。
【0069】
その後、試験品1を硝酸アンモニウム及び硫酸と混合し、試験品2及び3を氷浴中で硝酸ナトリウム及び硫酸と混合した。過マンガン酸カリウムを試験品1~3にゆっくりと添加した。次に、混合物を水浴に移し、35℃に保って、キッシュグラファイトを酸化させた。
【0070】
酸化後、試験品を徐々に脱イオン水に注入した。
【0071】
試験1では、熱を除去して、ガスが発生しなくなるまで水溶液中のH2O2を添加し、MnO2が生成された後、混合物にHClを添加して、MnO2を除去した。
【0072】
試験2及び3では、酸化反応を停止させた後、熱を除去し、水溶液中のH2O2をガスが発生しなくなるまで添加し、混合物を撹拌してH2O2の残りを除去した。
【0073】
次に、すべての試験で、酸化グラファイトをデカンテーションによって混合物から分離した。1層又は2層の酸化グラフェンを得るために、超音波を使用してそれらを剥離した。最後に、酸化グラフェンを遠心分離によって混合物から分離し、水で洗浄し、空気で乾燥させた。
【0074】
L-アスコルビン酸を試験品1~3の水溶液と混合した。反応混合物を90℃で撹拌して、酸化グラフェンシートを還元した。次に、すべての試験品を洗浄及び乾燥させて、還元型酸化グラフェン粉末を得た。
【0075】
酸化グラフェン及び還元型酸化グラフェンを、走査型電子顕微鏡法(SEM)、X線回折分光法(XRD)、透過型電子顕微鏡法(TEM)、LECO分析及びラマン分光法によって分析した。
【0076】
試験2及び3は、それぞれWO2018178845の試験1及び2に対応する。得られた結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
試験1の方法は、試験2及び3に使用された方法よりも環境に優しい。さらに、試験1の方法による酸化時間は半分である。最後に、試験1で得られた還元型酸化グラフェンは、高品質である。