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特許7159353膜蒸留用モジュール及びそれを用いた膜蒸留装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】膜蒸留用モジュール及びそれを用いた膜蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/36 20060101AFI20221017BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221017BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B01D61/36
B01D63/02
C02F1/44 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020565233
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2020000744
(87)【国際公開番号】W WO2020145401
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2019003380
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 知孝
(72)【発明者】
【氏名】阿南 智也
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006670(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/080125(WO,A1)
【文献】特開平06-226066(JP,A)
【文献】特開2011-000509(JP,A)
【文献】特開平03-038231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
B01D53/22
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに両端部が接着固定されている複数本の多孔質中空糸膜とを有する膜蒸留用モジュールであって、
多孔質中空糸膜の外側表面の水接触角が90°以上であり、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着しており、
多孔質中空糸膜の内側表面及び外側表面の各々について、非接着固定部位の長手方向における一端から他端までの部位を0%から100%と表したときに、前記一端から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、前記一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との少なくとも一方が、前記一端から40~60%の部位に存在する膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い、膜蒸留用モジュール。
【請求項2】
ハウジングと、前記ハウジングに両端部が接着固定されている複数本の多孔質中空糸膜とを有する膜蒸留用モジュールであって、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着しており、
多孔質中空糸膜の内側表面及び外側表面の各々について、非接着固定部位の長手方向における一端から他端までの部位を0%から100%と表したときに、前記一端から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、前記一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との両方が、前記一端から40~60%の部位に存在する膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い、膜蒸留用モジュール。
【請求項3】
多孔質中空糸膜の非接着固定部位が前記一端から50%未満の部位で原水導入部と最も近接するように原水導入部が配置されており、多孔質中空糸膜の、膜面積当たりの前記疎水性ポリマーの量が、以下の関係:
[前記一端から0~20%の部位の疎水性ポリマーの量]>[前記一端から95~100%の部位の疎水性ポリマーの量]>[前記一端から40~60%の部位の疎水性ポリマーの量]
を満たす、請求項1又は2に記載の膜蒸留用モジュール。
【請求項4】
前記一端から0~20%の部位において、前記多孔質中空糸膜の原水導入面の膜面積当たりの疎水性ポリマー量が、前記多孔質中空糸膜の蒸気送出面の膜面積当たりの疎水性ポリマー量よりも多い、請求項1~3のいずれか一項に記載の膜蒸留用モジュール。
【請求項5】
水生成用の膜蒸留装置であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の膜蒸留用モジュールを備える、膜蒸留装置。
【請求項6】
膜蒸留装置は、膜蒸留用モジュールと連結された冷却装置を更に備え、
膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜が前記一端を下にして略垂直方向に固定され、かつ原水が前記一端から多孔質中空糸膜内側に導入されるように構成されており、
膜蒸留用モジュールと冷却装置との連結部の下端は、多孔質中空糸膜の非接着固定部位全高の1/2よりも高い位置にある、請求項5に記載の膜蒸留装置。
【請求項7】
膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜が前記一端を下にして略垂直方向に固定され、かつ原水が前記一端から多孔質中空糸膜内側に導入されるように構成されており、
膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜の非接着固定部位全高の1/2よりも低い位置に対応する垂直方向位置に排出口を有する、請求項5又は6に記載の膜蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蒸留用モジュール及びそれを具備する膜蒸留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜蒸留法は、被処理水のうち水蒸気のみを透過させる多孔質膜を用いて、加温された原水(高温水)から、飽和水蒸気圧差により多孔質膜を通過した水蒸気を凝縮させ、蒸留水を得る方法である。膜蒸留法は、圧力を掛けて原水をろ過する逆浸透膜で精製水を得る逆浸透法と比べて、高い駆動力を必要としないため、動力エネルギーを低減することができる。また、膜蒸留法は、塩分等の不揮発性の溶質の分離性能が極めて高いため、高純度の水を得ることが可能となる。
【0003】
従来の膜蒸留法では、膜が乾いた状態においては、膜内部への液体の侵入はなく、蒸気のみが通過するため、高純度の純水が得られる。しかしながら、長期間使用した場合や、表面張力の小さな原水を使用した場合においては、膜の原水に接する面(原水導入面)から他方の蒸気が抜ける面(蒸気送出面)へ原水の通液(すなわちウェッティング(Wetting))が起こる。よって、蒸留水に原水が混入したり、膜の透水能力又は水処理能力の保持率が低下するという問題がある。ウェッティングには、膜蒸留法に使用される多孔質膜の孔径、膜の疎水性、被処理水の表面張力等が関与する。一方、膜の透水能力、蒸気透過性能、膜蒸留装置のコンパクト性等には、多孔質膜の孔径及び表面開口率が寄与することが知られている(特許文献1及び2)。
【0004】
特許文献1には、透水性能保持率及び膜面擦傷耐性の観点から、20%以上50%未満の外表面開口率を有し、かつポリオレフィン、オレフィン-ハロゲン化オレフィンコポリマー、ハロゲン化ポリオレフィン等で構成される多孔質中空糸膜が記載されている。
【0005】
特許文献2には、水処理能力とコンパクト性を有する膜蒸留装置に使用される膜として、被処理水に接する膜表面の表面開口率が20%以上70%以下である疎水性多孔質中空糸膜が記載されており、かつウェッティングを抑制するという観点から10μm以下の平均孔径が検討されている。
【0006】
また、膜蒸留におけるウェッティングを抑制するために、多孔質膜の表面を改質することも知られている(特許文献3)。特許文献3には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等で構成された多孔質膜の表面が油分に覆われて濡れ易くなることを抑制するために、フッ素化モノマー又はその重合体で多孔質膜の表面を処理して撥液性にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2001/053213号
【文献】国際公開第2016/006670号
【文献】国際公開第2015/080125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、膜の表面開口率の制御、膜表面の疎水性ポリマーによる修飾等で、膜蒸留におけるウェッティングを抑制する検討がなされている。しかし、膜蒸留用モジュールの構造を考えた場合には、上記の改良だけではウェッティング抑制に対して不十分である。特に、膜モジュールにおいては通常、中空糸膜の両端部が接着樹脂でハウジングに固定されているところ、この接着固定部位と非接着固定部位との境界近傍でウェッティングが起こりやすいことを本発明者は見出した。
【0009】
接着固定部位と非接着固定部位との境界近傍でウェッティングが起こりやすい理由は主として2つ考えられる。第1の理由は、多孔質膜にウェッティング対策を施しても、後工程の膜モジュール製造過程でウェッティングの起点が形成されることである。具体的には多孔質膜を接着樹脂でハウジングに接着固定して膜モジュールを製作する過程において、硬化前の接着樹脂が多孔質膜に浸透して、硬化後の接着固定部位と非接着固定部位との界面近傍の膜の表面及び内部の細孔表面を接着樹脂が被覆する現象が生じる。一般的に接着固定に用いられる樹脂は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の疎水性度合が低い樹脂であるため、多孔質膜自体にウェッティング抑制能力があっても接着樹脂近傍では膜の性状が接着樹脂のものに近くなり、ウェッティングが起こる。
【0010】
第2の理由は、膜蒸留用モジュールの運転中に蒸気の発生量が膜の部位によって均等ではなく、蒸発が活発な部位においてウェッティングが起こることである。
【0011】
例えば多孔質中空糸膜の内側に原水を流す構造では、原水が膜を通って蒸気として送出される際に気化熱を消費するため、原水温度は、原水が導入される部位で最も高く、原水が膜の長手方向に進むに従って低下していく。例えばモジュールに導入される原水の温度が90℃で、モジュールから排出される原水の温度が70℃になる場合もある。このような場合、原水導入口部分の蒸気発生量が多く、この部位でウェッティングが起こりやすい。また例えば、多孔質中空糸膜の外側に原水を流す構造では、蒸気が中空糸膜の内側を経由して、モジュール外に抜けるため、多孔質中空糸膜のうちモジュールからの送出部位に近い部分で蒸気発生が活発であり、この部位でウェッティングが起こりやすい。
【0012】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、ウェッティングが抑制されることで水処理能力の経時安定性に優れる膜蒸留用モジュール、及びこれを備える膜蒸留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ウェッティングの主たる原因となる上記2つの課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、一態様において、接着樹脂による接着固定部位付近に疎水性ポリマーを付着させることで、接着樹脂の中空糸膜への浸み込みが防止されて当該中空糸膜の疎水性が維持され、かつこの部位の蒸発量が低減されて、ウェッティングを抑制できることを見出した。また一態様において、軽微なウェッティングが生じても純水製造において生成水の水質悪化を起こさない膜蒸留装置の最適な構造を見出した。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0014】
[1] ハウジングと、前記ハウジングに両端部が接着固定されている複数本の多孔質中空糸膜とを有する膜蒸留用膜モジュールであって、
多孔質中空糸膜の外側表面の水接触角が90°以上であり、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着しており、
多孔質中空糸膜の内側表面及び外側表面の各々について、非接着固定部位の長手方向における一端から他端までの部位を0%から100%と表したときに、前記一端から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、前記一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との少なくとも一方が、前記一端から40~60%の部位に存在する膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い、膜蒸留用モジュール。
[2] ハウジングと、前記ハウジングに両端部が接着固定されている複数本の多孔質中空糸膜とを有する膜蒸留用膜モジュールであって、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着しており、
多孔質中空糸膜の内側表面及び外側表面の各々について、非接着固定部位の長手方向における一端から他端までの部位を0%から100%と表したときに、前記一端から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、前記一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との両方が、前記一端から40~60%の部位に存在する膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い、膜蒸留用モジュール。
[3] 多孔質中空糸膜の非接着固定部位が前記一端から50%未満の部位で原水導入部と最も近接するように原水導入部が配置されており、多孔質中空糸膜の、膜面積当たりの前記疎水性ポリマーの量が、以下の関係:
[前記一端から0~20%の部位の疎水性ポリマーの量]>[前記一端から95~100%の部位の疎水性ポリマーの量]>[前記一端から40~60%の部位の疎水性ポリマーの量]
を満たす、上記態様1又は2に記載の膜蒸留用モジュール。
[4] 前記一端から0~20%の部位において、前記多孔質中空糸膜の原水導入面の膜面積当たりの疎水性ポリマー量が、前記多孔質中空糸膜の蒸気送出面の膜面積当たりの疎水性ポリマー量よりも多い、上記態様1~3のいずれかに記載の膜蒸留用モジュール。
[5] 水生成用の膜蒸留装置であって、
上記態様1~4のいずれかに記載の膜蒸留用モジュールを備える、膜蒸留装置。
[6] 膜蒸留装置は、膜蒸留用モジュールと連結された冷却装置を更に備え、
膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜が前記一端を下にして略垂直方向に固定され、かつ原水が前記一端から多孔質中空糸膜内側に導入されるように構成されており、
膜蒸留用モジュールと冷却装置との連結部の下端は、多孔質中空糸膜の非接着固定部位全高の1/2よりも高い位置にある、上記態様5に記載の膜蒸留用装置。
[7] 膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜が前記一端を下にして略垂直方向に固定され、かつ原水が前記一端から多孔質中空糸膜内側に導入されるように構成されており、
膜蒸留用モジュールは、多孔質中空糸膜の非接着固定部位全高の1/2よりも低い位置に対応する垂直方向位置に排出口を有する、上記態様5又は6に記載の膜蒸留装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、ウェッティングが抑制されることで水処理能力の経時安定性に優れる膜蒸留用モジュール、及びこれを備える膜蒸留装置が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、本開示の一態様に係る膜蒸留用モジュールを示す模式図である。
図1B図1Bは、本開示の一態様に係る膜蒸留用モジュールを示す模式図である。
図2A図2Aは、疎水性ポリマーが適用されていない多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図である。
図2B図2Bは、疎水性ポリマーが適用されていない多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図である。
図3A図3Aは、疎水性ポリマーが適用されている多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図である。
図3B図3Bは、疎水性ポリマーが適用されている多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図である。
図4図4は、膜蒸留用モジュール10A,10Bにおける多孔質中空糸膜の長手方向の位置と蒸気透過量との関係を示すイメージ図である。
図5A図5Aは、本開示の一態様に係る多孔質中空糸膜の径断面を示す図である。
図5B図5Bは、図5Aに示す多孔質中空糸膜の長手方向断面を示す図である。
図6A図6Aは、本開示の一態様に係る膜蒸留装置の例を示す模式図である。
図6B図6Bは、本開示の一態様に係る膜蒸留装置の例を示す模式図である。
図7図7は、各種の膜蒸留法を説明する模式図である。
図8図8は、実施例1で使用した膜蒸留装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について以下詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
本発明の一態様は、ハウジングと、該ハウジングに両端部が接着固定されている複数本の多孔質中空糸膜(本開示で、特記なく「中空糸膜」又は「膜」ということもある。)とを有する膜蒸留用膜モジュールであって、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着しており、
多孔質中空糸膜の非接着固定部位の長手方向における一端から他端までの部位を0%から100%と表したときに、該一端から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、該一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との少なくとも一方、好ましくは両方が、該一端から40~60%の部位に存在する膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い、膜蒸留用モジュールを提供する。一態様においては、多孔質中空糸膜の外側表面の水接触角が90°以上である。
本開示で、「非接着固定部位」とは、多孔質中空糸膜のうち両端部の接着固定部位を除く部位を意味する。
本開示の多孔質中空糸膜について、「内側表面」とは、多孔質中空糸膜の表面(すなわち膜構成部材の露出面)のうち膜の中空部に面した部位を意味し、「外側表面」とは上記表面のうち膜外に面した部位(すなわち内側表面の対向面)を意味し、「細孔表面」とは、上記表面のうち内側表面及び外側表面を除く部位(すなわち膜の厚み方向内部で細孔に面した部位)を意味する。
本開示で定義する疎水性ポリマー付着量は、多孔質中空糸膜の「内側表面」及び「外側表面」の少なくとも一方において満たされていればよく、好ましくは少なくとも原水と接する側の表面において満たされており、更に好ましくは、両表面において満たされている。
本開示の多孔質中空糸膜について、「膜面積」とは、上記表面(すなわち膜構成部材の露出面)の面積を意味する。
【0019】
多孔質中空糸膜を接着固定する際に生じる接着樹脂の膜への浸み込みによるウェッティングが起こりやすい部位において、多孔質中空糸膜の細孔を疎水性ポリマーで被覆することによって、膜の疎水性低下を抑制できる。モジュールの片端の接着樹脂近傍の中空糸膜に疎水性ポリマーを被覆することでも、ウェッティング箇所を減らすことができるが、モジュールの両端の接着樹脂近傍の中空糸膜に疎水性ポリマーを被覆する方がより効果が顕著でありさらに好ましい。
また多孔質中空糸膜における疎水性ポリマーの付着量を調整することで、多孔質中空糸膜のうち蒸発が特に激しい部位(特に熱水が導入される部位)における蒸発量を低下させ、膜全体の蒸気発生量分布を平坦に近づけることもでき、その結果、ウェッティングを大幅に抑制することができる。したがって、本実施形態の膜蒸留用モジュールは、ウェッティングが抑制されていることで水処理能力の経時安定性に優れる。
【0020】
[膜蒸留用モジュールの構造]
図1A及び図1Bは、本開示の一態様に係る膜蒸留用モジュールを示す模式図である。図1A及び図1Bを参照し、一態様において、膜蒸留用モジュール10A,10Bは、ハウジング11と、ハウジング11内に収容された複数本の多孔質中空糸膜12とを有し、多孔質中空糸膜12は、両端部が接着樹脂13でハウジング11に接着固定されている(図1A及びB中の接着固定部位A)。多孔質中空糸膜12のうち、接着固定部位A以外の部位は接着樹脂13で固定されていない(図1A及びB中の非接着固定部位NA)。図1Aに示す膜蒸留用モジュール10Aにおいては、多孔質中空糸膜12の内側に原水が導入され、多孔質中空糸膜12の外側から生成水として純水が蒸気として送出される。図1Bに示す膜蒸留用モジュール10Bにおいては、多孔質中空糸膜12の外側に原水が導入され、多孔質中空糸膜12の内側から生成水(蒸気として)が送出される。膜蒸留用モジュール10A,10Bのいずれも、多孔質中空糸膜12の片側表面が原水に触れ、もう一方の表面からは蒸気が発生する仕組みである。
【0021】
図1A及びBに示す構成においては、中空糸膜の原水導入側と反対側(すなわち、図1Aの構成では中空糸膜外側、図1Bの構成では中空糸膜内側)の空間を減圧することで生成水が蒸気として生成する。原水と減圧部とが隔離されるためには、中空糸膜12とハウジング11とそれらを密封できる接着樹脂13の層とが必要となる。接着樹脂13には原水と減圧部との圧力差を維持できる強度が必要であることから、接着樹脂13は、膜の両端部を所定の長さにて固定できるような厚み(すなわち膜の長手方向での長さ)を有することが必要である。接着樹脂13による接着固定部位Aの厚みは、中空糸膜の内側及び外側(すなわち原水側及び減圧側)の温度及び圧力、膜に掛かる応力等により決定される。
【0022】
図2A及び図2Bは、疎水性ポリマーが適用されていない多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図であり、図3A及び図3Bは、疎水性ポリマーが適用されている多孔質中空糸膜の接着固定部位Aと被接着固定部位NAとの境界近傍を示す模式図である。
【0023】
図2A及び図2Bを参照し、ハウジング11に多孔質中空糸膜12が接着樹脂13で接着固定される際、接着固定部位Aと非接着固定部位NAとの境界近傍においては、中空糸膜12の外側表面の露出部を接着樹脂が覆う「せり上がり」(図2A及びB中のせり上がり部13A)と呼ばれる現象が起こることがある。せり上がりは、接着樹脂13が硬化前の流動性のある状態で多孔質中空糸膜12と接触し、硬化までの時間に多孔質中空糸膜12の細孔内に接着樹脂13が侵入することで形成される。通常の場合、せり上がりの範囲は接着固定部位Aと非接着固定部位NAとの境界から膜長手方向に30mm以内の範囲である。
【0024】
図2Bを参照し、疎水性ポリマーが適用されていない多孔質中空糸膜12では、接着固定部位Aと非接着固定部位NAとの境界近傍で、せり上がり部13Aが形成されることに加え、接着固定部位Aと非接着固定部位NAとに亘って、中空糸膜の細孔内への接着樹脂の浸み込みも生じている(図2B中の浸み込み部13B)。この浸み込みが生じている部位では、膜の細孔は残っているものの、細孔表面は接着樹脂の性状を示すことになる。一般的に接着樹脂としては疎水性が低い樹脂が用いられるため、せり上がり部13A及び浸み込み部13Bではウェッティングが生じることが多い。
【0025】
一方、図3A及び図3Bを参照し、少なくとも接着固定部位Aと非接着固定部位NAとの境界近傍に疎水性ポリマー14が付着している多孔質中空糸膜12では、膜の細孔への接着樹脂13の侵入を低減できるため、せり上がり及び浸み込みの抑制、したがってウェッティング抑制が可能となる。
【0026】
以下、膜蒸留用モジュールの各構成要素について説明する。
【0027】
[多孔質中空糸膜]
本実施形態に係る膜蒸留用モジュールにおいて用いる多孔質中空糸膜は、膜の一方の表面から他方の表面まで厚み方向に連通している細孔(連通孔)を有することが必要である。この連通孔は、ポリマー等の膜材料のネットワークの空隙であってよく、枝分かれしていても直通孔でも(すなわち枝分かれしていなくても)よい。細孔は、蒸気を通すが原水(液体)を通さないことが必要である。
【0028】
一態様において、多孔質中空糸膜の外側表面の水接触角は、多孔質中空糸膜の疎水性によってウェッティングを回避する観点から、膜の実質的に全ての領域の外側表面で、90°以上であり、好ましくは110°以上、より好ましくは120°以上である。水接触角は疎水性を表すものであり、特に上限はないが、現実的には上限が150°程度である。前述のように、ウェッティング抑制には、膜全体の疎水性だけでなく、ウェッティングしやすい部位における膜の特性改善が重要である。一態様においては、膜表面が安定した疎水性を示すように、膜の全長又は一部に疎水性ポリマーを付着させる。膜の断面方向においては、内側表面、外側表面、及び連通孔表面の少なくともいずれかの少なくとも一部分に疎水性ポリマーが付着していればよい。
【0029】
本開示で、水接触角は液滴法により測定される値である。液滴法においては、例えば2μLの純水を測定対象物(すなわち多孔質中空糸膜の外側表面)に滴下し、測定対象物と液滴とが形成する角度を投影画像から解析することで数値化する。
【0030】
図1A図1B及び図3Aを参照し、一態様において、多孔質中空糸膜12の非接着固定部位NAの長手方向における一端E1から他端E2までの部位を0%から100%と表したときに、該一端E1から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、該一端から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との少なくとも一方、好ましくは両方は、該一端から40~60%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多い。疎水性ポリマーは、接着固定部位Aと非接着固定部位NAとの境界以外にも適量付着していることがウェッティング抑制の点で有効である。しかし、疎水性ポリマーを膜の全域に亘り多量に付着させることは、蒸気透過量を低減させ、膜蒸留装置としての造水性能を低下させる。膜の該一端E1から0~5%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量と、該一端E1から95~100%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量との少なくとも一方、好ましくは両方を、該一端E1から40~60%の部位(すなわち膜の長手方向の中央部位)に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多くすることで、ウェッティングを抑制しつつ蒸気透過量の多い膜蒸留装置を得ることができる。上記中央部位には疎水性ポリマーが付着していてもいなくてもよく、水接触角が膜の全長を通じて90°以上であればよい。
【0031】
一態様に係る多孔質中空糸膜において、疎水性ポリマーは、接着固定部位Aの全体と、非接着固定部位NAのうち一端E1及び他端E2の各々から長手方向中央側に非接着固定部位NAの全長の、好ましくは0~5%及び95~100%、又は0~10%及び90%~100%、又は0~15%及び85~100%の領域に付着し、他の領域には、上記領域よりも少量(膜面積当たり)の疎水性ポリマーが付着しているか、又は疎水性ポリマーが付着していない。
【0032】
一態様に係る膜蒸留用モジュールにおいては、多孔質中空糸膜の非接着固定部位が一端E1から50%未満の部位で原水導入部と最も近接するように原水導入部が配置されており、好ましくは、多孔質中空糸膜の、該一端E1から0~20%の部位に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量が、該一端E1から40~60%の部位(すなわち膜の長手方向の中央部位)に付着している膜面積当たりの疎水性ポリマーの量よりも多く、より好ましくは、多孔質中空糸膜の、膜面積当たりの疎水性ポリマーの量が、以下の関係:
[一端E1から0~20%の部位の疎水性ポリマーの量]>[一端E1から95~100%の部位の疎水性ポリマーの量]>[一端E1から40~60%の部位の疎水性ポリマーの量]
を満たす。
なお、本開示で多孔質中空糸膜の部位について示す数値(%)は、実際のモジュール製造過程で起こりうる疎水性ポリマーの塗りムラを考慮し、±2%程度の誤差を有してよいものとする。
【0033】
一態様に係る膜蒸留用モジュールにおいては、膜の長手方向の蒸気発生量が均等化されることで、ウェッティングが抑制される。膜モジュールに導入された高温の原水からは、その一部が蒸気に変わる際に気化熱を奪われるため、原水温度は、原水が膜モジュール内を流れるとともに低下していく。膜のうち温度が低下した原水と接する部位では蒸気の発生が少ないことから、膜モジュール内の蒸気の発生量は、膜の部位ごとに異なり、分布が生じる。
【0034】
図4は、膜蒸留用モジュール10A,10Bにおける多孔質中空糸膜の長手方向の位置と蒸気透過量との関係を示すイメージ図である。図1Aに示す膜蒸留用モジュール10Aの構成で疎水性ポリマーを用いない場合、原水が膜の一端側からモジュール内に導入されるため、当該一端側の、接着固定部位と非接着固定部位との境界近傍からの蒸気発生量が多い。また図1Bに示す膜蒸留用モジュール10Bで疎水性ポリマーを用いない場合も、膜の一端及び他端に近い部位で中空糸膜内側の管内圧損が小さいことに起因して、一端及び他端に近い部位で蒸気透過量が多い。本発明者は、数多くの実験から、膜の蒸気発生量が多い部位ではウェッティングが起こりやすいことを見出した。
【0035】
一方、疎水性ポリマーを、特に蒸気発生量が多い部位に付着させて当該部位での蒸発量を低下させ、膜の長手方向の蒸気透過量をなるべく均一化することで、ウェッティングを良好に防ぐことができる。図4では、図3Aに示すように疎水性ポリマー14を有する膜蒸留モジュール10Aにおける多孔質中空糸膜の長手方向の位置と蒸気透過量との関係(膜の長手方向の原水導入部近傍の蒸気透過量が低下している)を示している。
【0036】
疎水性ポリマーは、原水導入部近傍に設けられることが好ましい。一態様においては、疎水性ポリマーを、原水導入部、及び、接着固定部位と非接着固定部位との境界近傍に選択的に塗布してよい。一態様においては、中空糸膜全体に疎水性ポリマーを塗布した上で、原水導入部の疎水性ポリマー塗布量を更に多くしてよい。中空糸膜の全体に亘り疎水性ポリマーの塗布量が多いと蒸気発生量全体が低下するため好ましくない。
【0037】
一態様において、疎水性ポリマーの付着量は、多孔質中空糸膜の厚み方向で勾配を有してよい。好ましい態様においては、原水導入側から生成水送出側に向かって、疎水性ポリマー量が徐々に少なくされる。
【0038】
図5Aは、本開示の一態様に係る多孔質中空糸膜の径断面を示す図であり、図5Bは、図5Aに示す多孔質中空糸膜の長手方向断面を示す図である。図5A及び図5Bを参照し、一態様において、膜面積当たりの疎水性ポリマー量は、内側表面で最も多く、外側表面に向かって徐々に少なくされる。このような勾配は、原水が多孔質中空糸膜の内側を通る構成で好適である。一方、原水が多孔質中空糸膜の外側を通る構成では、膜面積当たりの疎水性ポリマー量が多孔質中空糸膜の内側表面から外側表面に向かって徐々に多くされることが好ましい。膜の厚み方向における疎水性ポリマー量の所望の分布を形成する方法としては、例えば溶媒に溶解した状態の疎水性ポリマーを膜に塗布し、その後に溶媒を蒸発させて乾燥させる際に、膜の内側及び外側のうち濃度を高くしたい方の溶媒蒸発がより多くなるように蒸発条件を設計する方法が挙げられる。図5Bを参照し、例えば、乾燥のための空気を多孔質中空糸膜の内側のみに流して乾燥を行えば、膜の内側で溶媒蒸発がより多くなり、膜の内側に疎水性ポリマーがより多く付着することになる。
【0039】
好ましい態様においては、膜の非接着固定部位の一端から、好ましくは、0~20%の部位、又は0~25%の部位、又は0~30%の部位において、多孔質中空糸膜の原水導入側表面の疎水性ポリマー量が、多孔質中空糸膜の蒸気送出側表面の疎水性ポリマー量よりも多い。
【0040】
中空糸膜の平均孔径は、好ましくは0.01μm~1.0μmの範囲内、より好ましくは0.03μm~0.6μmの範囲内である。平均孔径が0.01μm以上である場合、蒸気の透過抵抗が大きくなり過ぎず純水生産速度が良好であり、1.0μm以下である場合、ウェッティング抑制効果が良好である。上記平均孔径は、ASTM:F316-86に準拠してハーフドライ法で測定される値である。
【0041】
純水生産速度とウェッティング抑制との両立の観点から、膜の孔径分布は狭い方が好ましい。具体的には、平均孔径に対する最大孔径の比である孔径分布は、好ましくは1.2~2.5の範囲内、より好ましくは1.2~2.0の範囲内である。なお上記最大孔径は、バブルポイント法を用いて測定される値である。
【0042】
中空糸膜の空隙率は、良好な純水生産速度を得る観点から、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上であり、膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題が発生しにくい点で、好ましくは85%以下、より好ましくは83%以下、更に好ましくは80%以下である。なお上記空隙率は、本開示の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0043】
中空糸膜の表面開口率は、良好な純水生産速度を得る観点から、内側表面及び外側表面の各々について、好ましくは15%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは20%以上であり、膜自体の強度が良好に維持され、長期使用の際に破断等の問題が発生しにくい点で、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。なお上記表面開口率は、内側表面及び外側表面の各々の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像において、画像解析ソフトで孔部を検出することにより求められる値である。
【0044】
中空糸膜の外径は、例えば、300μm以上5,000μm以下、好ましくは350μm以上4,000μm以下であり、中空糸膜の内径は、例えば、200μm以上4,000μm以下、好ましくは250μm以上3,000μm以下である。
【0045】
本実施形態において、膜蒸留における透水性能と膜の機械的強度との両立の観点から、多孔質膜の膜厚は、10μm~1000μmであることが好ましく、15μm~1000μmであることがより好ましい。膜厚が1000μm以下であれば、透過水の生産効率低下を抑制することができる。他方、膜厚が10μm以上であれば、減圧下使用において膜が変形することを防止することができる。
【0046】
本実施形態に係る多孔質中空糸膜の主たる構成材料は、比較的疎水性の(すなわち水に対する親和性が比較的低い)材料である。膜の構成材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンから成る群から選ばれる少なくとも1つの樹脂を含むことができる。疎水性、製膜性、並びに機械的及び熱的耐久性の観点からは、ポリフッ化ビニリデン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレンが好ましい。樹脂製造後(すなわち重合後)に、又は膜形成後の精練によって、可塑剤等の不純物を除去することがより好ましい。
【0047】
[疎水性ポリマー]
一態様においては、多孔質中空糸膜の少なくとも一部の部位に疎水性ポリマーが付着している。疎水性ポリマーは、多孔質中空糸膜の内側表面、外側表面及び/又は膜内部に疎水性の被膜を形成して、膜に撥水性を付与又は膜の撥水性を向上させることができる。
【0048】
本開示で「疎水性ポリマー」とは、水との親和性が低い性状であるポリマーを意味し、例えば、疎水性構造(例えば、炭化水素基、含フッ素基等の非(低)極性基、炭化水素主鎖、シロキサン主鎖等の非(低)極性骨格等)を有するポリマーである。疎水性ポリマーとしては、炭化水素系ポリマー、未変性又は変性(例えば炭化水素変性及び/又はアミノ変性)のシリコーン系ポリマー、フッ素含有ポリマー(例えば含フッ素側基を有するポリマー)等が挙げられ、より具体的には、例えば、以下のものが挙げられる:
(ア)シロキサン結合を有するポリマー(例えば、ジメチルシリコーンゲル、メチルフェニルシリコーンゲル、有機官能基(アミノ基、フルオロアルキル基等)を導入した反応性変性シリコーンゲル、シランカップリング剤と反応することで架橋構造を形成するシリコーン系ポリマー及びポリマーゲル
(イ)側鎖に(パー)フルオロアルキル基、(パー)フルオロポリエーテル基、アルキルシリル基、フルオロシリル基等を持つポリマー(例えば溶液又は薄膜として)
特に、疎水性ポリマーが、炭素数1~12の(パー)フルオロアルキル基及び/又は(パー)フルオロポリエーテル基を有する、(メタ)アクリレート系モノマー及び/又はビニル系モノマーの重合体であることが好ましい。
【0049】
[疎水性ポリマーの付着量]
中空糸膜の膜面積当たりの疎水性ポリマー付着量は、疎水性ポリマーを溶解できる溶媒での抽出後に溶媒を蒸発等の操作により除去することで、直接重量として、求めることができる。この重量を、中空糸膜の内径又は外径と長さとから求めた膜面積で除して、膜面積当たりの疎水性ポリマー量を算出する。
【0050】
一方、当該付着量を解析機器により求める場合は、多孔質中空糸膜の内側表面及び外側表面の各々について、表面解析装置を用い、多孔質中空糸膜と疎水性ポリマーとのシグナル強度比から付着量を求めることができる。そして膜面積当たりの疎水性ポリマー量は内側表面と外側表面の平均値で表すことと定義する。表面解析装置によれば、多孔質構造である中空糸膜の表層のみの組成分析が可能であることから、上記シグナル強度比によって、中空糸膜の膜面積当たりの疎水性ポリマー付着量を見積もることができる。多孔質中空糸膜に疎水性ポリマーが既知の量で塗布されているブランクの分析結果があれば、その検量線から付着量を定量的に求めることができる。一方、既知の量で塗布されたブランクがない場合でも、多孔質中空糸膜の任意に選んだ複数の部位の間で疎水性ポリマー由来のシグナル/多孔質中空糸膜由来のシグナルの強度比を比較し、シグナル強度比が最小を示した部位での当該シグナル強度比の値を1(但し、シグナル強度比の最小値が0(すなわち疎水性ポリマー不存在)である場合は0)としたときに、シグナル強度比が1.2倍よりも大きい部位を疎水性ポリマーの塗布量が多い部位と判断することができる。解析機器としては、IR(赤外線スペクトル吸収)装置、XPS(X線光電子分光)装置、TOF-SIMS(飛行時間型二次イオン分析)装置等の、表面解析装置を例示できる。
【0051】
[接着樹脂]
多孔質中空糸膜を接着固定するための接着樹脂には、機械的強度が良好で、かつ100℃での耐熱性を有することが望まれる。接着樹脂として使用できる樹脂としては、例えば、熱硬化性のエポキシ樹脂、熱硬化性のウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の観点ではエポキシ樹脂が好ましいが、ハンドリング性の観点ではウレタン樹脂が好ましい。接着固定の方法は、膜蒸留用モジュール作製に関する既知の接着方法に従えばよい。
【0052】
[ハウジング]
ハウジングは、耐圧性、耐熱性、耐衝撃性、耐候性等の観点から材料を選定する。例えば、樹脂、金属等が使用できるが、上記の観点から、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ABS樹脂、繊維強化プラスチック及び塩化ビニル樹脂からなる樹脂群、或いはステンレス、真鍮、チタン等の金属から選択されることが好ましい。
【0053】
ハウジングは、発生した蒸気を冷却して純水に変える冷却機能を有することもできる。この場合、蒸気が通る配管をなくすことができるという利点がある。ハウジングが、冷却機能を有する冷却器を含む場合、膜蒸留用モジュールは、中空糸膜が略垂直(すなわち垂直又はそれに近い状態)になるように設置し、中空糸膜と冷却器との間で膜の全長の1/2よりも高い位置に障壁物を設置することで、軽微なウェッティングによる純水の水質悪化を抑制することができる。
【0054】
[膜蒸留装置]
本実施形態はまた、水生成用の膜蒸留装置であって、本開示の膜蒸留用モジュールを備える、膜蒸留装置を提供する。一態様において、膜蒸留装置は、多孔質中空糸膜と、原水を加温する加温部又は原水を蒸発させる蒸発部とを備える。膜蒸留装置は、所望により、多孔質中空糸膜と、加温部又は蒸発部とに加えて、多孔質中空糸膜を通過した水蒸気を凝縮させる凝縮部、原水又は透過水を送達する管、水蒸気を送達する気相部等を備えてよい。
【0055】
図6A及び図6Bは、本開示の一態様に係る膜蒸留装置の例を示す模式図である。図6Aを参照し、膜蒸留装置100は、膜蒸留用モジュール10Aと、これに連結された冷却装置20とを備えることが好ましい。好ましい態様において、膜蒸留用モジュール10Aは、多孔質中空糸膜12が一端を下にして略垂直方向に固定され、かつ原水が該一端側から多孔質中空糸膜12内側に導入されるように構成されており、多孔質中空糸膜12と冷却装置20との連結部C(連結口)の下端は、多孔質中空糸膜の非接着固定部位の全高の1/2よりも高い位置にある。この場合、以下の理由で、仮に軽微なウェッティングが生じても純水製造において水質悪化を回避できる。すなわち、膜蒸留装置において、ウェッティングは、原水導入部近傍から生じ始める。図6Aに示す配置において、原水導入部Iは膜蒸留用モジュール10Aの下部となる。連結部Cの下端が多孔質中空糸膜12の非接着固定部位の全高の1/2よりも高い位置にある場合には、当該連結部Cの原水導入部Iからの距離が長いため、ウェッティングにより原水が中空糸膜外に浸出したとしても、原水及びその飛沫が連結部に達することはなく、蒸気のみが冷却装置20に到達し、所望の純水を得ることができる。
【0056】
図6A及びBを参照し、膜蒸留装置100,200は、膜蒸留用モジュール10Aの下部(具体的には、多孔質中空糸膜の非接着固定部位全高の1/2よりも低い位置に対応する垂直方向位置)のハウジングに、ウェッティングした液を排出する排出口Dを有することが好ましい。当該排出口Dによれば、運転中に、多孔質中空糸膜外に浸出した原水を手動又は自動で排除することができ、例えウェッティングが生じた場合でも、より長期に運転を継続することができる。排出口Dは、図6Bに示す膜蒸留装置200のようにドレインタンク30に接続されてよい。
【0057】
[膜蒸留方式]
本実施形態に係る膜蒸留装置は、膜蒸留(MD)法に利用されることができる。
図7は、各種の膜蒸留法を説明する模式図である。図7を参照し、主な膜蒸留法の原理は以下の4つである。
(a)蒸発部から生成した水蒸気を、多孔質中空糸膜1を通じて直接凝縮部(冷却装置)に取り込むDCMD法(Direct Contact Membrane Distillation)
(b)蒸発部と凝縮部の間に第三の気相部を設け、冷却体2の面上に蒸発部からの水蒸気を凝縮させ蒸留水を得るAGMD法(Air Gap Membrane Distillation)
(c)第三の気相部に真空ギャップを設け、蒸発部からの水蒸気を凝縮部まで移動させ蒸留水を得るVMD法(Vacuum Membrane Distillation)
(d)第三の気相部にスイーピングガスを流し、蒸発部からの水蒸気を凝縮部まで移動させ蒸留水を得るSGMD法(Sweeping Gas Membrane Distillation)
これらのうち、図7(c)に示されるVMD方式が、安定した透過水質を得られるため、最も好ましい。なお、図7においては、原水として高温水を示しているが、原水が室温付近の温度で、低温水、凝縮部等が室温よりも低い態様でも構わない。
【0058】
[膜の洗浄]
本実施形態の膜蒸留用モジュールを用いて透過水を生産する運転を長時間続けると、被処理水に含まれる無機塩、有機物、微粒子、油分、金属等が、多孔質中空糸膜の原水導入側に析出、付着することで、膜の貫通孔が閉塞し、透過水生産効率が低下することがある。その場合、運転を一旦中断し、目詰まりの原因となる物質を溶解し得る溶液を、多孔質中空糸膜の表面及び膜内部に高流量で流す等の洗浄操作を行うことで、多孔質中空糸膜を初期状態に再生することができる場合がある。目詰まりの原因物質が無機塩又は金属の場合、これらを溶解する能力を有する酸などを用いることができる。例えば、スケールとして一般的な炭酸カルシウムの場合、塩酸、クエン酸等の溶液で膜を洗浄してよい。目詰まりの原因物質が有機物又は微生物(スライム)の場合、例えば、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて洗浄してよい。目詰まりの原因物質が微粒子の場合、洗浄溶媒を高流速で流すことで膜表面から微粒子を排除してよい。
【0059】
膜の細孔内に析出、付着した目詰まり原因物質を洗浄する場合には、例えば、アルコール又はアルコールと水の混合溶液で膜を親水化して濡らした後、洗浄溶媒を流す方法で洗浄してよい。又は、膜に対して圧力をかけて細孔内に溶媒を流すことで洗浄してもよい。また、真水を被処理水(原水)として膜蒸留を行うことで、目詰まり原因物質を膜表面に移動させ、次いで該膜表面を洗浄することで目詰まり原因物質を除去してもよい。
【0060】
[膜蒸留の用途]
本実施形態に係る膜蒸留用モジュール及び膜蒸留装置は、被処理水に含まれるイオン、有機物、無機物等を高度に除去して精製する用途、又は被処理水から水を除去して濃縮する用途に好適に用いることができる。これらの用途として、例えば、海水淡水化、船舶用水製造、超純水製造(半導体工場等)、ボイラー水製造(火力発電所等)、燃料電池システム内水処理、産業廃水処理(食品工場、化学工場、電子産業工場、製薬工場及び清掃工場)、透析用水製造、注射用水製造、随伴水処理(例えば、重質油、シェールオイル、シェールガス及び天然ガス等)並びに海水からの有価物回収等が挙げられる。随伴水は、質量基準で数%から十数%の無機塩分と数ppmから数十ppmの油分とを含む。天然ガスとしては、従来のガス田から得られる在来型の天然ガスに加え、コールベッドメタン(別名:コールシームガス)に代表される非在来型の天然ガスも含まれる。
【0061】
[他の技術との組み合わせ]
本実施形態に係る膜蒸留用モジュール、及びこれを具備する膜蒸留装置は、他の水処理技術と組み合わせた複合システムとして使用してもよい。例えば、RO(Reverse Osmosis)法で処理した際に生成する濃縮水を、本実施形態に係る膜蒸留装置を用いてさらに精製することにより、水の回収率をより高めることができる。また、FO(Forward Osmosis)法で使用するDS(Draw Solution)の回収手段として本実施形態に係る膜蒸留装置を使用することもできる。
【実施例
【0062】
以下、本発明の構成と効果を具体的に例示する実施例等について更に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0063】
<多孔質中空糸膜の諸物性>
本実施例では、以下に記載する各種の測定方法で多孔質中空糸膜の諸物性を求めた。
[外径、内径、膜厚]
多孔質中空糸膜の外径、内径は、中空糸膜を長手方向に垂直な方向にカミソリ等で薄く切り、顕微鏡を用いて断面の外径、内径をそれぞれ測定して求めた。膜厚は下記式(1)により算出した。
【数1】
【0064】
[多孔質中空糸膜の平均孔径]
ASTM:F316-86に記載されている平均孔径の測定方法(別称:ハーフドライ法)により測定した。
約10cm長の多孔質中空糸膜に対し、液体としてエタノールを用いて、25℃、昇圧速度0.01atm/秒での標準測定条件で行った。
【0065】
平均孔径は、下記式(2)により求めた。
平均孔径[μm]=2860×(使用液体の表面張力[dyne/cm])/(ハーフドライ空気圧力[Pa]) ・・・(2)
ここでエタノールの25℃における表面張力は21.97dyne/cmであるので、下記式(3)により求めた。
平均孔径[μm]=62834/(ハーフドライ空気圧力[Pa]) ・・・(3)
【0066】
[多孔質中空糸膜の最大孔径]
多孔質中空糸膜の最大孔径は、バブルポイント法を用いて測定した。長さ8cmの多孔質中空糸膜の一方の末端を閉塞し、他方の末端に圧力計を介して窒素ガス供給ラインを接続した。この状態で窒素ガスを供給してライン内部を窒素に置換した後、多孔質中空糸膜をエタノールに浸漬した。この時、エタノールがライン内に逆流しないように極僅かに窒素で圧力を掛けた状態で、多孔質中空糸膜を浸漬した。多孔質中空糸膜を浸漬した状態で、窒素ガスの圧力をゆっくりと増加させ、多孔質中空糸膜から窒素ガスの泡が安定して出始めた圧力Pを記録した。これより、多孔質中空糸膜の最大孔径dを、下記式(4):
d=C1γ/P・・・(4)
{式中、C1は定数、γは表面張力、そしてPは圧力である。}により算出した。エタノールを浸漬液としたときのC1γ=0.632(kg/cm)であり、式(4)にP(kg/cm2)を代入することにより、最大孔径d(μm)を求めた。
【0067】
[空隙率]
多孔質中空糸膜の空隙率は、下記に記載の方法に準拠して、中空糸膜の重量と中空糸膜を構成する材料の密度とから算出した。
中空糸膜を一定長さに切り、その重量を測定し、空隙率を下記式(5):
【数2】
により求めた。
【0068】
[疎水性ポリマーの付着量の比較]
疎水性ポリマーの付着量の比較はIRスペクトル解析、ATR法(全反射法,内部反射法)で、プリズムとしてZnSe結晶を用いて行った。測定装置はPerkinElmer社製 Spectrumlを用い、結晶の押し付け圧は圧力コンター30前後で行った。疎水性ポリマー由来のピーク強度と膜素材由来のピーク強度との比を求めることで、膜表面に付着した疎水性ポリマー量を求めることができる。実施例においては、側鎖がパーフルオロ基を有するアクリレートのため、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1付近の(νC-F+νC-O)のピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出した。付着量を測定する膜はモジュールから切り出し、中空糸膜を長手方向に対して1cm間隔で切断した。膜の外側表面を分析する際はそのサンプルを使い、内側表面を分析する際には長手方向に膜を切断し、内側表面を分析した。
このピーク強度比を膜の部位ごとに測定し、最小値を1.0倍としたときに1.2倍よりも大きな場合、付着量が多いと判断した。
【0069】
[実施例1]
図8は、実施例1で使用した膜蒸留装置300の構成を示す模式図である。内径0.7mm、外径1.3mm、ASTM-F316-86から求めた平均孔径0.21μm、最大孔径0.29μm、空隙率72%のPVDF製の多孔質中空糸膜12を長さ15cmに切出した。この多孔質中空糸膜12を、疎水性ポリマーとしてのフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FG-1610-F130(0.5)に一度完全に浸漬したのちに、引き上げ、乾燥を行った。その後15cm長の膜の両端の各々から長手方向中央に向かって約4cmまでの部位に、疎水性ポリマーを再塗布して乾燥し、長手方向中央部位の7cm分には再塗布を行わなかった。再塗布用の疎水性ポリマーとして、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤SFE-DP02Hを用いた。
【0070】
モジュール製作においては、接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をハウジング内に接着固定した。これにより、中空糸膜を、非接着固定部位の長さが約10cmとなり、疎水性ポリマーを再塗布しなかった7cm分がモジュールの長手方向中央に位置するように固定した。なお中空糸膜の本数は、中空糸膜の内面(すなわち内側表面)の合計膜面積が約50cm2となるように調整した。この仕様の膜蒸留用モジュール10Aを3本作製した。
【0071】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュール10Aのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度の条件下で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は、モジュール両端の接着界面(すなわち膜の接着固定部位と非接着固定部位との境界)のそれぞれから長手方向中央に向かって5mmの部分ではいずれも113°であり、長手方向中央部分では108°であった。
【0072】
IRのATR法により、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1の(νC-F+νC-O)とのピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出したところ、両端の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部位では、膜の外側表面及び内側表面の強度比がともに0.06であったのに対して、長手方向中央部分では外側表面、内側表面ともに0.02であり、両端の接着界面近傍の疎水性ポリマー付着量が高いことがわかった。
【0073】
作製した膜蒸留用モジュールを用いて、図8に示す構成の膜蒸留装置300を形成した。下記の条件で1000時間MD運転評価を行い、生成水の導電率を測定した。その際に導電率が500μS/cmを超えた場合はウェッティングが生じたものとして評価は終了した。
【0074】
[評価条件]
原水 3.5質量%の塩水
膜内の循環流量 600ml/分
原水の温度(モジュール入口側) 条件1 70℃ 条件2 90℃
冷却水の温度 15℃
冷却水の循環流量 1000ml/分
生成水側真空度 -90kPaG
【0075】
[1000時間後の生成水の導電率]
膜蒸留装置を1000時間運転した時の生成水の導電率を表1に示す。
条件1の原水温度70℃では1000時間経過後の生成水の導電率は5μS/cm、条件2の原水温度90℃では1000時間経過後の生成水の導電率は10μS/cmと良好な水質を示し、ウェッティングが発生していないことがわかった。
【0076】
[実施例2]
実施例1と同じ多孔質中空糸膜を15cm長に切出した。この多孔質中空糸膜を、疎水性ポリマーとしてのフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FG-1610-F130(0.5)に一度完全に浸漬したのちに、引き上げ、乾燥を行った。その後15cm長の膜の両端の各々から長手方向中央に向かって約4cmまでの部位に、疎水性ポリマーを再塗布して乾燥し、長手方向中央部位の7cm分には再塗布を行わなかった。再塗布用の疎水性ポリマーとして、同じくFG-1610-F130(0.5)を用いた。
【0077】
モジュール製作は、実施例1と同様に行った。接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をハウジング内に接着固定した。これにより、中空糸膜を、非接着固定部位の長さが約10cmとなり、疎水性ポリマーを再塗布しなかった7cm分がモジュールの長手方向中央に位置するように固定した。なお中空糸膜の本数は、中空糸膜の内面の合計膜面積が約50cm2となるように調整した。この仕様の膜蒸留用モジュールを3本作製した。
【0078】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュール10Aのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度の条件下で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は、モジュール両端の接着界面(すなわち膜の接着固定部位と非接着固定部位との境界)のそれぞれから長手方向中央に向かって5mmの部分ではいずれも110°であり、長手方向中央部分では108°であった。
【0079】
IRのATR法により、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1の(νC-F+νC-O)とのピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出したところ、モジュール両端のそれぞれの接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部位では、膜の外側表面及び内側表面の強度比がともに0.03であったのに対して、長手方向中央部分では外側表面、内側表面ともに0.02であり、両端の接着界面近傍の疎水性ポリマー付着量が高いことがわかった。
【0080】
[1000時間後の生成水の導電率]
実施例1と同様に膜蒸留装置の構築及び1000時間運転を行った時の生成水の導電率は、条件1の原水温度70℃では1000時間経過後の生成水の導電率は8μS/cm、条件2の原水温度90℃では1000時間経過後の生成水の導電率は12μS/cmと良好な水質を示し、ウェッティングが発生していないことがわかった。
【0081】
[実施例3]
実施例1と同じ多孔質中空糸膜を15cm長に切出した。この多孔質中空糸膜を、疎水性ポリマーとしてのフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FS-392Bに一度完全に浸漬したのちに、引き上げ、乾燥を行った。その後15cm長の膜の両端の各々から長手方向中央に向かって約4cmまでの部位に、疎水性ポリマーを再塗布して乾燥し、長手方向中央部位の7cm分には再塗布を行わなかった。再塗布用の疎水性ポリマーとして、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤SFE-DP02Hを用いた。
【0082】
モジュール製作は、実施例1と同様に行った。接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をハウジング内に接着固定した。これにより、中空糸膜を、非接着固定部位の長さが約10cmとなり、疎水性ポリマーを再塗布しなかった7cm分がモジュールの長手方向中央に位置するように固定した。なお中空糸膜の本数は、中空糸膜の内面の合計膜面積が約50cm2となるように調整した。この仕様の膜蒸留用モジュールを3本作製した。
【0083】
製作後のモジュールの、原水が流入する側の端面から長手方向に3cmまでの部位を疎水性ポリマーとしてフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FG-1610-C(2.0)に完全に浸し、液切りした後で中空糸膜の内側及び外側に空気を30L/分の量で流して乾燥を行った。
【0084】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュールのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は原水が流入する側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分では125°であり、反対側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分では115°であり、長手方向中央部分では110°であった。
【0085】
膜の非接着固定部位の一端から長手方向に0~20%の範囲で、内側表面と外側表面のIRのATR法により、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1の(νC-F+νC-O)とのピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出したところ、膜の外側表面及び内側表面の強度比がともに0.09であった。一方、該一端から40~60%の範囲のピーク強度比は、外側表面及び内側表面の強度比がともに0.02であり、該一端から95~100%の範囲のピーク強度比は、外側表面及び内側表面の強度比がともに0.05であった。
【0086】
[1000時間後の生成水の導電率]
実施例1と同様に膜蒸留装置の構築及び1000時間運転を行った時の生成水の導電率は、条件1の原水温度70℃では1000時間経過後の生成水の導電率は2μS/cm、条件2の原水温度90℃では1000時間経過後の生成水の導電率は2μS/cmと良好な水質を示し、ウェッティングが発生していないことがわかった。
【0087】
[実施例4]
実施例1と同じ多孔質中空糸膜を15cm長に切出した。この多孔質中空糸膜を、疎水性ポリマーとしてのフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FS-392Bに一度完全に浸漬したのちに、引き上げ、乾燥を行った。その後15cm長の膜の両端の各々から長手方向中央に向かって約4cmまでの部位に、疎水性ポリマーを再塗布して乾燥し、長手方向中央部位の7cm分には再塗布を行わなかった。再塗布用の疎水性ポリマーとして、AGCセイミケミカル社製のフッ素樹脂系撥水剤SFE-DP02Hを用いた。
【0088】
モジュール製作は、実施例1と同様に行った。接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をハウジング内に接着固定した。これにより、中空糸膜を、非接着固定部位の長さが約10cmとなり、疎水性ポリマーを再塗布しなかった7cm分がモジュールの長手方向中央に位置するように固定した。なお中空糸膜の本数は、中空糸膜の内面の合計膜面積が約50cm2となるように調整した。この仕様の膜蒸留用モジュールを3本作製した。
【0089】
製作後のモジュールの、原水が流入する側の端面から長手方向に3cmまでの部位を疎水性ポリマーとしてフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FG-1610-F130(2.0)に完全に浸し、液切りした後で中空糸膜の内側のみに空気を30L/分の量で流して乾燥を行った。
【0090】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュールのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は原水が流入する側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分では127°であり、反対側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分では115°であり、長手方向中央の部分では110°であった。
【0091】
膜の非接着固定部位の一端から長手方向に0~20%の範囲で、内側表面と外側表面のIRのATR法により、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1の(νC-F+νC-O)とのピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出したところ、外側表面の強度比0.08に対して、内側表面の強度比は0.15であり、原水と接する膜の内側表面の疎水性ポリマー付着量が高いことがわかった。
【0092】
[1000時間後の生成水の導電率]
実施例1と同様に膜蒸留装置の構築及び1000時間運転を行った時の生成水の導電率は、条件1の原水温度70℃では1000時間経過後の生成水の導電率は1μS/cm、条件2の原水温度90℃では1000時間経過後の生成水の導電率は1μS/cmと良好な水質を示し、ウェッティングが発生していないことがわかった。
【0093】
[比較例1]
実施例1の膜蒸留用モジュールに、いずれの疎水性ポリマーも塗布しない以外は実施例1と同様にしてモジュールを作製した。
【0094】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュールのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は、両端の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分では95°、長手方向中央部分では95°であった。
また、実施例1と同様に測定したIRのATR法によるピーク強度比は、いずれの部位も0であった。
実施例1と同様に膜蒸留装置の構築及び1000時間運転を行い、生成水の導電率を測定した。
【0095】
条件1の原水温度70℃では2日で導電率が500μS/cmを超えウェッティング、条件2の原水温度90℃では3時間経過後に導電率が500μS/cmを超え、ウェッティングが発生していることがわかった。
【0096】
[比較例2]
実施例1と同じく、内径0.7mm、外径1.3mm、平均孔径0.21μm、最大孔径0.29μm、空隙率72%のPVDF製の多孔質中空糸膜を15cm長に切出した。この多孔質中空糸膜を、疎水性ポリマーとしてのフロロテクノロジー社製のフッ素樹脂系撥水剤FG-1610-F-130(0.5)に一度浸漬して、塗布、乾燥を行った。
【0097】
接着樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を使用し、遠心接着により中空糸膜をハウジング内に接着固定した。なお、膜蒸留用モジュールは、実施例1と同様の方法で作製した。
【0098】
上記の方法で得られた膜蒸留用モジュールのうち、1モジュールを解体して多孔質中空糸膜の性状を測定した。多孔質中空糸膜の水接触角は23℃の温度及び50%の相対湿度で、2μLの純水を滴下し、液滴と中空糸膜外側表面とが形成する角度を画像解析により算出して接触角を求めた。測定は5回行い、数平均値を算出した。中空糸膜外側表面の接触角は、原水が流入する側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分で110°、反対側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部分で110°、長手方向中央部分で110°と、いずれの部位でも同じ水接触角となった。
【0099】
また、実施例1と同様に、IRのATR法により、1734Hz-1のνC=Oと1180Hz-1の(νC-F+νC-O)とのピーク強度比、νC=O/(νC-F+νC-O)を算出した結果、両側の接着界面から長手方向中央に向かって5mmの部位で、外側表面の強度比が0.02、内側表面の強度比が0.02、長手方向中央部分で、外側表面、内側表面ともに0.02となり、両端の接着界面近傍の方が強度比が高いわけではなかった。
【0100】
実施例1と同様に膜蒸留装置の構築及び1000時間運転を行い、生成水の導電率を測定した。
【0101】
条件1の原水温度70℃では10日で導電率が500μS/cmとなりウェッティングと判断した。条件2の原水温度90℃では3日経過後の生成水の導電率が500μS/cmとなりウェッティングが発生した。
【0102】
【表1】
【0103】
[実施例5]
実施例1の膜蒸留用モジュールを用いて、実施例1と同様に膜蒸留装置を構築し、原水として随伴水の模擬液(重質油と塩の混合液)を用いた。模擬液の組成は以下のものを用いた。
【0104】
【表2】
【0105】
上記以外の評価条件は以下のように実施例1と同じとした。
【0106】
[評価条件]
原水 随伴水模擬液
膜内の循環流量 600ml/分
原水の温度(モジュール入口側) 条件1 70℃ 条件2 90℃
冷却水の温度 15℃
冷却水の循環流量 1000ml/分
生成水側真空度 -90kPaG
【0107】
[1000時間後の生成水の導電率]
膜蒸留装置を1000時間運転した時の生成水の導電率を表3に示す。
条件1の原水温度70℃では1000時間経過後の生成水の導電率は4μS/cm、条件2の原水温度90℃では1000時間経過後の生成水の導電率は8μS/cmと良好な水質を示し、ウェッティングが発生していないことがわかった。
【0108】
[比較例3]
比較例1の膜蒸留用モジュールを用いて、実施例1と同様に膜蒸留装置を構築し、原水として実施例5と同様の随伴水の模擬液(重質油と塩の混合液)を用いて、実施例5と同様に評価を行った。
【0109】
[1000時間後の生成水の導電率]
膜蒸留装置を1000時間運転した時の生成水の導電率を表3に示す。
条件1の原水温度70℃では36時間で導電率が500μS/cmを超えウェッティング、条件2の原水温度90℃では4時間経過後に導電率が500μS/cmを超え、ウェッティングが発生していることがわかった。
【0110】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の一態様に係る膜蒸留用モジュールは、ウェッティングを抑制でき、良好な水質の生成水を提供し、安定的な運転及び製品の長寿命化に寄与できる。
【符号の説明】
【0112】
10A,10B 膜蒸留用モジュール
11 ハウジング
12 多孔質中空糸膜
13 接着樹脂
13A せり上がり部
14 疎水性ポリマー
20 冷却装置
22 冷却管
30 ドレインタンク
100,200,300 膜蒸留装置
A 接着固定部位
NA 非接着固定部位
C 連結部
D 排出口
I 原水導入部
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8