(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】ゴルフクラブおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/04 20150101AFI20221017BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20221017BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B53/04 B
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2021524955
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 KR2019008573
(87)【国際公開番号】W WO2020013633
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】10201805971S
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】521013873
【氏名又は名称】アトメタル テック ピーティーイー エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】ATTOMETAL TECH PTE. LTD.
【住所又は居所原語表記】23-14P International Plaza 10 Anson Road Singapore 079903 Singapore
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】キム,チュンニョン ポール
(72)【発明者】
【氏名】チョ,グン サン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェ キュ
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-288130(JP,A)
【文献】特開平11-057080(JP,A)
【文献】特開平11-047321(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0052361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラブヘッドと、該クラブヘッドに連結されたシャフトとを備えるゴルフクラブであって、
前記クラブヘッドは、一面に形成されたクラブフェースを含み、
前記クラブフェースは、
ベース基材と、該ベース基材の表面に備えられた鉄系アモルファス合金を含むコーティング層とを含
み、
前記鉄系アモルファス合金は、
鉄100重量部に対して、
クロム25.4~55.3重量部と、
モリブデン35.6~84.2重量部と、
タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウムおよびこれらの混合物よりなる群から選択されるものの含有量0.9重量部以下と、炭素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種以上を含む、ゴルフクラブ。
【請求項2】
前記コーティング層は、溶融した鉄系アモルファス合金粉末が前記ベース基材の表面に噴射されることにより形成され、前記コーティング層内のアモルファス相の比率が90~100%である、請求項1に記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
前記コーティング層は、前記溶融したアモルファス合金粉末が、噴射後、溶融点からガラス転移温度まで10
1~10
4度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却されて形成される、請求項2に記載のゴルフクラブ。
【請求項4】
前記コーティング層の厚さが0.01~0.3mmである、請求項
1に記載のゴルフクラブ。
【請求項5】
前記ベース基材の厚さが1.4~2.6mmであり、中央部の少なくとも一部が、残りの部分よりも膨らんだ形状を有する、請求項
4に記載のゴルフクラブ。
【請求項6】
前記コーティング層は、前記ベース基材の表面についての全面積の60%以上の面積に形成される、請求項
5に記載のゴルフクラブ。
【請求項7】
前記鉄系アモルファス合金のコーティング層のビッカース硬さが700~1,200Hv(0.2)である、請求項
6に記載のゴルフクラブ。
【請求項8】
前記鉄系アモルファス合金のコーティング層の摩擦係数は、100Nの荷重で0.0005~0.08μmであり、1,000Nの荷重で0.01~0.12μmである、請求項
7に記載のゴルフクラブ。
【請求項9】
前記鉄系アモルファス合金の溶射コーティング層が適用されたゴルフクラブの反発係数(COR)は0.83以上である、請求項
8に記載のゴルフクラブ。
【請求項10】
前記ベース基材は、Ti、Al、V、Mo、Fe、Cr、Sn、Zr、およびこれらの2種以上を含む合金よりなる群から選択される、請求項
1に記載のゴルフクラブ。
【請求項11】
クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェースのベース基材の表面に、鉄系アモルファス合金を含むコーティング層を形成するステップと、
前記コーティング層を研磨するステップと、を含み、
前記コーティング層のアモルファス相の比率が90~100%であ
り、
前記鉄系アモルファス合金は、
鉄100重量部に対して、
クロム25.4~55.3重量部と、
モリブデン35.6~84.2重量部と、
タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウムおよびこれらの混合物よりなる群から選択されるものの含有量0.9重量部以下と、
炭素およびホウ素から選ばれた少なくとも1種以上を含む、ゴルフクラブの製造方法。
【請求項12】
前記コーティング層を形成するステップで、前記コーティング層は溶射によって形成される、請求項
11に記載のゴルフクラブの製造方法。
【請求項13】
前記溶射は、鉄系アモルファス合金粉末を溶融させた後、前記ベース基材の表面に噴射することにより行われる、請求項
12に記載のゴルフクラブの製造方法。
【請求項14】
前記溶融した合金粉末は、噴霧後、溶融点からガラス転移温度まで10
1~10
4度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却される、請求項
13に記載のゴルフクラブの製造方法。
【請求項15】
前記コーティング層を形成するステップで、前記クラブフェースのベース基材を、中央部の少なくとも一部が、残りの部分よりも膨らんだ形状を有するように形状と厚さを調節する、請求項
14に記載のゴルフクラブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブおよびその製造方法に関するものであり、さらに詳細には、クラブヘッドの表面硬さを高め、かつ反発力および弾性力を改善することにより、飛距離が向上したゴルフクラブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴルフは、ゴルフクラブを用いて、一定の距離離れているホールカップにゴルフボールを入れる運動競技であって、他の運動とは異なり、相当高い精度および精神力が要求される。また、ゴルフは、他のスポーツ種目とは異なり、ゴルファーのショット姿勢、スイングフォームおよびグリップの把持状態によって、打球の方向と飛距離が左右される。ゴルフクラブは、飛距離を増加させるためのドライバー(driver)と、精巧なショットのためのアイアン(iron)と、グリーン上でゴルフボールを打撃するためのパター(putter)など、大きくは3種類のクラブに区分されるのであり、大部分がチタン材質の高強度金属で製造される。特に、ドライバークラブの場合は、飛距離を伸ばすために、姿勢やスピードなどの人的な要因だけでなく、ドライバークラブ(特に、クラブのフェース)の材質や特性による反発力などが重要に作用する。
【0003】
このような理由から、ゴルフドライバーを構成する要素の中でも、クラブのヘッドフェース(head face)の構成を変更して適用する試みが絶え間なく行われており、例えば、クラブヘッドのフェース表面の材質を変更する技術や、例えば内部に別途の部材を混入させるなどの、クラブヘッドフェースの内部構成を変更する技術を研究開発することにより、ゴルフクラブの弾性力を向上させようとする努力が続いている。
【0004】
しかし、従来の技術の中でも、前者の場合は、クラブフェースの表面が品質劣化・損傷を受けるか、或いは品質劣化・損傷を受けても弾性力の向上に限界があり、後者の場合は、クラブフェースの内部に混入させなければならないメカニズムであるので煩雑さがあり、また、長時間の使用時に、混入された部材が損傷してしまうなどの問題が発生するため、ドライバーの使用が難しいという問題点だけでなく、反発力が低下するという問題点を内包している。したがって、ゴルフクラブの性能、例えば反発力などを向上させることができる新規なクラブフェースの開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、クラブヘッドの一面に形成されるクラブフェースとして、ベース基材、および、該ベース基材の表面に備えられた鉄系アモルファス合金を含むコーティング層を含むことにより、クラブヘッドの表面の表面硬さや反発力、弾性力などを向上させることができるゴルフクラブを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、ゴルフヘッドの一面に形成されるクラブフェースの基材表面に、高いアモルファス相の比率を有する鉄系合金を含むコーティング層を形成するゴルフクラブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、クラブヘッドと、該クラブヘッドに連結されたシャフトとを備えるゴルフクラブであって、
前記クラブヘッドは、一面に形成されたクラブフェースを含み、
前記クラブフェースは、
ベース基材と、該ベース基材の表面に備えられた鉄系アモルファス合金を含むコーティング層とを含む、ゴルフクラブを提供する。
【0009】
また、本発明は、クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェースのベース基材の表面に、鉄系アモルファス合金を含むコーティング層を形成するステップと、
前記コーティング層を研磨するステップと、を含み、
前記コーティング層のアモルファス相の比率が90~100%である、ゴルフクラブの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施例に係るゴルフクラブによれば、クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェースのベース基材の表面に、アモルファス鉄系合金層をコーティングすることにより、コーティング後もアモルファス構造の維持が可能であってクラブヘッドの表面の表面硬さや弾性力などを改善させて飛距離を著しく向上させることができる。ここで、形成されたアモルファス鉄系合金コーティング層は、高いアモルファス相を維持する。
【0011】
また、本発明の実施例に係るゴルフクラブの製造方法によれば、クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェースのベース基材の形状と厚さを限界値まで薄く制御するとともに、鉄系アモルファス合金層の厚さを減少させて反発力を極大化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るゴルフクラブフェースにコーティング材料として使用される鉄系アモルファス合金粉末のXRD(X線回折)グラフであって、(a)~(e)は、それぞれ、実施例1、3、6、7、8の鉄系アモルファス合金粉末に対するグラフである。
【
図2】比較例に係るゴルフクラブフェースにコーティング材料として使用される鉄系合金粉末のXRDグラフであって、(a)~(c)は、比較例1、5、7の鉄系合金粉末に対するグラフである。
【
図3】本発明の実施例7によるゴルフクラブフェースにコーティング材料として使用される鉄系アモルファス合金粉末(a)およびその断面(b)と、比較例7によるゴルフクラブフェースにコーティング材料として使用される鉄系合金粉末(c)およびその断面(d)をSEM(走査電子顕微鏡)分析した写真である。
【
図4】本発明によるゴルフクラブフェースに適用されたコーティング物試験片のXRDグラフであって、(a)~(e)は、それぞれ、実施例1、3、6、7、8の鉄系アモルファス合金粉末を適用したコーティング物である実施例9、11、14、15、16の試験片のXRDグラフである。
【
図5】比較例によるゴルフクラブフェースに適用されたコーティング物試験片のXRDグラフであって、(a)~(c)は、それぞれ、比較例1、5、7の鉄系合金粉末を適用したコーティング物である比較例8、12、14の試験片のXRDグラフである。
【
図6】本発明に係るゴルフクラブフェースにコーティングされた鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物、及び比較例によるゴルフクラブフェースにコーティングされた合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面画像であって、(a)~(c)はそれぞれ実施例1、7、8のアモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面画像であり、(d)~(g)は、それぞれ比較例1、3、5、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面画像である。
【
図7】本発明に係るゴルフクラブフェースにコーティング材料として実施例1、3、6、8の鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片の断面を光学顕微鏡で観察した画像(倍率200倍)であって、(a)~(d)は、それぞれ実施例9、11、14、16の試験片の断面を観察した画像である。
【
図8】比較例1、4、7によるゴルフクラブフェースにコーティング材料として合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片の断面を光学顕微鏡で観察した画像(倍率200倍)であって、(a)~(c)は、それぞれ比較例8、11、14の試験片の断面を観察した画像である。
【
図9】本発明に係るゴルフクラブフェースにコーティング材料として実施例2、4、7の鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片についての非腐食の断面/腐食した断面を、光学顕微鏡で観察した画像(倍率200倍)であり、(a)~(c)は、それぞれ実施例10、12、15の試験片の観察画像である。
【
図10】比較例2、4、6によるゴルフクラブフェースにコーティング材料として用いた溶射コーティング物試験片についての非腐食の断面/腐食した断面を光学顕微鏡で観察した画像(倍率200倍)であり、(a)~(c)はそれぞれ比較例8、11、13の試験片の観察画像である。
【
図11】本発明の実施例によって製造されたゴルフクラブヘッドの写真(a)、およびゴルフクラブフェースのベース基材の表面に鉄系アモルファス合金層がコーティングされた形態を模式的に示す図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、アモルファスとは、通常の非結晶質で、アモルファス相としても使用される、固体内結晶が行われていない、すなわち、規則的な構造を持たない相をいう。
【0015】
また、本明細書におけるコーティング層とは、鉄系アモルファス合金粉末を用いて作られるコーティング膜などを含むものであり、これらは、主に溶射コーティングによって作られる。
【0016】
また、本明細書における鉄系アモルファス合金粉末とは、鉄が最も多くの重量比で含まれるとともに、粉末内にアモルファスが単純に含まれたというのではなく、実質的に大部分を占めるものであって、例えば、アモルファスの比率が90%以上であるものをいう。
【0017】
前述したように、他の運動とは異なり、非常に高い精度が要求されるゴルフにおいて、特に飛距離を向上させるためのゴルフクラブの素材は、非常に重要に扱われている。このような理由から、クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェース(club face)の表面材質を変更してゴルフクラブの弾性力を向上させようとする試みが絶え間なく行われているのであるが、クラブフェースの表面が品質劣化・損傷を受けるか、或いは品質劣化・損傷を受けても弾性力の向上に限界があるため、より向上した性能を有するゴルフクラブの開発に困難を経験している。このため、本出願人は、従来に比べて反発力などの性能を向上させることができる新規なゴルフクラブの開発に至った。
【0018】
このような本発明に係るアモルファス表面処理されたクラブフェースは、既に製作された(既製品)クラブフェースのベース基材の表面に、本発明の鉄系アモルファス合金をコーティングしたもの(本発明の鉄系アモルファス合金をコーティングしても、本発明の目的の達成に無理がない厚さレベルに限る)であるか、または、既に製作されたクラブフェースのベース基材の厚さを限界レベルまで減らした後(すなわち、コーティングのための従来の素材の薄膜化)、その表面に鉄系アモルファス合金をコーティングしたものであり得る。
【0019】
つまり、本発明に係るゴルフクラブは、クラブヘッドと、前記クラブヘッドに連結されたシャフトとを備えるゴルフクラブであって、前記クラブヘッドは、一面に形成されたクラブフェースを含み、前記クラブフェースは、ベース基材と、前記ベース基材の表面に備えられた鉄系アモルファス合金を含むコーティング層とを含む。
【0020】
<ゴルフクラブ>
本発明の一態様によるゴルフクラブは、ヘッドのベース基材と、ベース基材上に形成されるコーティング層とを備える。
【0021】
ヘッドのベース基材は、ヘッド部の一面に位置した通常のフェース(Face、打撃部)を指す用語をいう。
【0022】
クラブフェースのベース基材に前記鉄系アモルファス合金粉末をコーティングする場合、打球時の反発力が、目的とする程度に至らないおそれがあり、前記ゴルフフェースのベース基材の形状と厚さを調節することが好ましい。
【0023】
クラブフェースのベース基材の厚さは、前記鉄系アモルファス合金のコーティング厚さを考慮して、1.4~2.6mm、好ましくは1.6~2.4mmである。前記ベース基材の厚さが1.4mm未満であれば、ゴルフクラブフェースを構成する基礎素材の厚さが過度に薄くなり、限界レベルを超えることにより、ゴルフクラブフェースの基本性能が低下するおそれがあり、前記ベース基材の厚さが2.6mmを超えれば、前記ベース基材の厚さと鉄系アモルファス合金の厚さとの合計が過度に厚くなり、打球時の反発力が、目的とする程度に至らないおそれがある。
【0024】
クラブフェースのベース基材の形状は、アイアンの場合には平面状であり、ドライバーとウッドの場合にはベース基材の中央部の少なくとも一部が残りの部分よりも膨らんだ形状を有するようにすることが好ましい。前記中央部の厚さが1.8mmである場合には、周辺部の厚さは1.6mm程度であり、前記中央部の厚さが2.2mmである場合には、周辺部の厚さは2.0mm程度であり、前記中央部の厚さが2.6mmである場合には、周辺部の厚さは2.4mm程度であり得る。
【0025】
ベース基材の厚さと形状を調節するためには、例えば、金型の厚さ調整またはCNCミリングなどの方式または装備を用いることができ、金型の厚さ調整によってベース基材の厚さを減少させることがより好ましい。
【0026】
厚さが減少したベース基材に対して厚さ減少により耐久性の低下が発生しうるが、ベース基材の表面組織を緻密化させることが可能な鍛造処理などの表面処理工程を行うことにより、強度や靭性、耐久性などの機械的物性を向上させることができる。
【0027】
一方、前記ベース基材の素材は、Ti、Al、V、Mo、Fe、Cr、Sn、Zr、およびこれらのうちの2種以上の合金など、これまで当業界が市場に出したすべてのゴルフクラブのフェース素材が該当しうる。
【0028】
ベース基材の硬さは、HV300~HV400、好ましくはHV340~HV360でありうる。
【0029】
以下、クラブフェースのベース基材の表面に備えられた鉄系アモルファス合金からなるコーティング層について説明する。
【0030】
コーティング層は、クラブフェースに備えられて、高反発力、弾力性および硬さを付与するための層であって、ベース基材上に基材の表面面積の60%以上となるように形成する。
【0031】
コーティング層を形成する鉄系アモルファス合金は、鉄、クロムおよびモリブデンを主成分として含むのであり、粉末内にアモルファスが単純に含まれたというのではなく実質的に大部分を占めるものであって、例えば、アモルファスの比率が体積基準で90%以上、または90~100%であるものをいう。
【0032】
コーティング層は、溶融した鉄系アモルファス合金粉末が前記ベース基材の表面に噴射されることにより形成されうる。
【0033】
コーティング層は、溶融したアモルファス合金粉末が、噴射後、溶融点からガラス転移温度まで101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却されて形成されるものであり得る。
【0034】
鉄系アモルファス合金は、鉄、クロムおよびモリブデンを含むとともに、炭素およびホウ素の中から選ばれた少なくとも1種をさらに含む、鉄系アモルファス合金粉末から提供されることが好ましい。
【0035】
ここで、鉄系アモルファス合金粉末は、例えばアトマイズ法によって合金粉末で製造する際、アモルファス相の比率が体積基準で90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%含まれるアモルファス相の比率が高い粉末である。
【0036】
鉄系アモルファス合金粉末は、様々な形状及び直径に製造されうるのであって、それらの制限がないのであり、前述した鉄系アモルファス合金を作るための第1成分、第2成分、第3成分および第4成分を含む。
【0037】
第1成分は、鉄(Fe)であって、鉄(Fe)は、合金粉末コーティング物の剛性を向上させるために使用される成分であり、第2成分は、クロム(Cr)であって、合金粉末コーティング物の物理化学的特性、例えば、耐摩耗性および耐食性などの物性を向上させるために使用される成分であり、第2成分は、第1成分を100重量部としたとき、55.3重量部以下、好ましくは25.4重量部~55.3重量部で含まれるのが好ましい。
【0038】
第3成分は、モリブデン(Mo)であって、耐摩耗性および耐食性だけでなく、耐摩擦性を与えるために使用される成分であり、第1成分を100重量部としたとき、84.2重量部以下、好ましくは35.6重量部~84.2重量部で含まれるのが好ましい。
【0039】
第4成分は、炭素(C)およびホウ素(B)の少なくとも1種または2種を使用し、第4成分は、残りの構成成分との原子サイズ不整合(atomic size mismatch)またはパッキング効率(packing ratio efficiency)などによってアモルファス形成能を向上させ、第4成分は、第1成分を100重量部としたとき、23.7重量部以下、1.7重量部~23.7重量部、3.4重量部~23.7重量部、または3.4重量部~15重量部で含まれることが好ましい。
【0040】
前述した成分の他に、前記鉄系アモルファス合金粉末は、タングステン、コバルト、イットリウム、マンガン、シリコン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、リン、ニッケル、スカンジウムおよびこれらの混合物よりなる群から選択される追加成分を意図的または非意図的にさらに含むことができる。全追加成分は、総和としての重量部が、鉄重量部を100としたとき、1.125重量部未満、1.000重量部以下、または0.083重量部以下である。すなわち、第1成分、第2成分、第3成分、第4成分、および追加成分の含有量が前述の重量比率に合致する場合、本発明の実施例に係る鉄系合金粉末であると認められる。
【0041】
また、各追加成分は、0.9重量部以下、好ましくは0.05重量部以下で使用される。上記の範囲から外れる追加成分が含まれると、アモルファス形成能が著しく減少するからである。前記鉄系アモルファス合金粉末は、高いアモルファス相の比率によって、それ自体でも、密度、強度、耐摩耗性、耐摩擦性および耐食性などの特性に優れる。
【0042】
鉄系アモルファス合金粉末は、平均粒度が1μm~150μmの範囲内であり得るが、これに限定されるものではなく、用途に応じてふるい分け(Sieving)処理によって粉末サイズを調節することができる。
【0043】
一例として、後述するように溶射コーティングを行おうとする場合、対象である鉄系アモルファス合金粉末は、ふるい分け処理によって粉末サイズを16μm~54μmの範囲に調節して使用することができるのであり、MIM(金属粉末射出成形)を行おうとする場合、対象である鉄系アモルファス合金粉末は、ふるい分け処理によって粉末サイズを20μm以下に調節して使用することができる。
【0044】
また、ベース基材上にコーティング層を3Dプリンティングで形成しようとする場合、対象である鉄系アモルファス合金粉末も、方式ごとに粉末サイズを調節することができる。例えば、粉末床溶融結合(powder bed fusion)方式に基づいて3Dプリンティングを行おうとする場合には、粉末サイズを20μm以下に調節するのであり、指向性エネルギー堆積(direct energy deposit)方式によって3Dプリンティングを行おうとする場合には、粉末サイズを54μm~150μmの範囲に調節して使用することができる。
【0045】
鉄系アモルファス合金粉末は、一例として、密度が略7±0.5g/ccの範囲内であり得るが、これに限定されるものではない。
【0046】
鉄系アモルファス合金粉末は、粉末硬さが略800Hv~1500Hvの範囲内であり得るが、これに限定されるものではない。
【0047】
鉄系アモルファス合金粉末は、再溶融または高温に晒されるため、再び冷却されて固化しても、前述したアモルファスの比率を維持する。ここで、アトマイズ法によって製造された鉄系アモルファス合金粉末内のアモルファスの比率(a)と、鉄系アモルファス合金粉末を、その合金の溶融点以上に溶融させた後に再び冷却して作られた合金における比率(b)は、次の式を満足する。
【0048】
[式1]
0.9≦b/a≦1
【0049】
ここで、前記(b)を導出するために、鉄系アモルファス合金粉末をその合金の溶融点以上に溶融させた後に、再び冷却して合金を製造する方式としては、例えば、溶射コーティング、3Dプリンティング、冶金などを始めとする通常の鋳造方式が該当しうる。
【0050】
また、前記[式1]のb/a比率は、好ましくは0.95~1、さらに好ましくは0.98~1、よりさらに好ましくは0.99~1であり得る。
【0051】
前述したように、コーティング層は溶射によって形成できる。溶射(spray)は、金属または金属化合物を加熱して微細な溶滴の形状にして加工物の表面に噴霧させて密着させる方法であって、コーティング層の形成に溶射の特定の方法が限定されない。例えば、超高速フレーム(火炎)溶射コーティング(HVOF)、プラズマコーティング、レーザークラッディングコーティング、一般のフレーム(火炎)溶射コーティング、ディフュージョンコーティングおよびコールドスプレーコーティング、真空プラズマコーティング(VPS、vacuum plasma spray)、低圧プラズマコーティング(LPPS、low-pressure plasma spray)などが、コーティング層の形成に使用できる。
【0052】
本実施例において、アモルファス相の比率が90%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%と高い粉末である鉄系アモルファス合金粉末が溶射の材料として使用される場合、コーティング層は、アモルファス相を全体体積に対して90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100体積%で含むので、物性に非常に優れる。特に、本発明の合金粉末でもって超高速フレーム(火炎)溶射コーティングを行う場合には、アモルファスの比率が実質的にそのまま維持されるため、物性の向上の程度が極大化される。
【0053】
また、鉄系アモルファス合金粉末は、測定の際にコーティング密度(coating density)が98~99.9%と非常に高いため、気孔を通じた腐食物の浸透が抑制される。
【0054】
溶射コーティング用として使用される合金粉末の粒度は、10μm~100μm、好ましくは15μm~55μmであって、前記合金粉末の粒度が10μm未満である場合、溶射コーティング工程上、小さい粒子が溶射コーティングガン(gun)にくっ付いて作業効率性が低下するおそれがあり、前記合金粉末の粒度が100μmを超える場合には、完全に溶融せずに母材にぶつかって(つまり、コーティング物を形成せずに床に落ちて)コーティングの生産性および効率が低下するおそれがある。
【0055】
一方、前記鉄系アモルファス合金のビッカース硬さは、700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は、100Nの荷重で0.001μm~0.08μm、好ましくは0.05μm以下であり、1,000Nの荷重で0.06μm~0.12μm、好ましくは0.10μm以下である。
【0056】
特に超高速火炎溶射によるコーティング物の場合は、従来とは異なり、断面積(cross section)に気孔が殆ど存在しないため、最大密度(full density)を示し、気孔が存在しても、約0.1~1.0%に過ぎない気孔率を示すことができる。
【0057】
つまり、超高速フレーム(火炎)溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的には、各層をなすように酸化物(黒色)が積み重なり、波のような形状に多数の層が積層される。通常の場合は、これにより、コーティング物の性質が低下し且つ脆弱になるが、本発明の場合は、コーティング物に気孔/酸化膜がないため超高密度を示し、コーティングの性能向上が可能である。その他に、前記鉄系アモルファス合金粉末を含むコーティング層の耐摩耗性、耐食性および弾性度も、従来の合金粉末を用いる場合に比べて非常に優れる。
【0058】
また、前記ベース基材にコーティングされた鉄系アモルファス合金のコーティング層の厚さは、0.01~0.3mm、好ましくは0.1~0.2mm、さらに好ましくは0.075~0.125nmであって、前記鉄系アモルファス合金の厚さが上記の範囲を外れる場合には、本発明が目的とするゴルフクラブフェースの反発力を満たさないおそれがある。
【0059】
一方、前記鉄系アモルファス合金は、前記ベース基材の表面全体にコーティングされてもよく、打撃方向の表面の一部にのみコーティングされてもよいが、なるべく前記ゴルフクラブフェースのベース基材の表面についての全体の面積の60%以上、好ましくは70~95%、より好ましくは75~90%の範囲で形成されることが、ゴルフボールの打撃の際に当該部位に打撃されたゴルフボールの飛距離を伸ばすことができて好ましい。
【0060】
その他に、前記鉄系アモルファス合金は、必要に応じて格子柄形状などの多様なパターンに形成されてもよい。
【0061】
一方、鉄系アモルファス合金の原料となる鉄系アモルファス合金粉末(powder)は、ガスアトマイザー(gas atomizer)方式によって製造されるものであって、具体的には、ヘリウム、窒素、ネオンまたはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下のアトマイザー内にて、溶融した状態で噴射冷却されて製造されるのでありうる。このように製造する場合、純度の高いアモルファス相の粉末の製造形成が可能である。
【0062】
次に、前記ベース基材の表面に形成された鉄系アモルファス合金のコーティング層の物性について説明する。鉄系アモルファス合金層のコーティング層のビッカース硬さは、700~1,200Hv(0.2)、好ましくは800~1,000Hv(0.2)であり、摩擦係数(耐摩擦性)は、100Nの荷重で0.0005~0.08μm、好ましくは0.001~0.05μmであり、1,000Nの荷重で0.01~0.12μm、好ましくは0.03~0.10μ以下である。鉄系アモルファス合金の溶射コーティング層が適用されたゴルフクラブの反発係数(COR)は、0.83以上の高反発を示す。
【0063】
また、超高速フレーム(火炎)溶射によって形成されるコーティング層の場合、断面積(cross section)に気孔が殆ど存在しないため、99~100%、好ましくは99.5~100%、さらに好ましくは99.8~100%の最大密度(full density)を示すのであり、気孔が存在しても、約0.2~1.0%に過ぎない気孔率を示すのでありうる。
【0064】
つまり、超高速フレーム溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的には、各層をなすように酸化物(黒色)が積み重なり、波のような形状に多数の層が積層される。通常の場合、これにより、コーティング層の性質が低下し且つ脆弱になるが、本発明の場合には、合金層(コーティング物)に気孔/酸化膜が殆どないため超高密度を示し、よって、硬さ、耐食性および耐摩耗性などの物性も向上することができる。一方、本発明のクラブフェースは、通常のクラブフェースの形態を有するものであって、その大きさや形態に特別な制限を置かない。
【0065】
<ゴルフクラブの製造方法>
以下、本発明に係るゴルフクラブの製造方法について説明する。
【0066】
本発明に係るゴルフクラブの製造方法は、クラブヘッドの一面に形成されたクラブフェースのベース基材の表面に、鉄系アモルファス合金粉末を含むコーティング層を形成するステップと、前記鉄系アモルファス合金層を研磨するステップと、を含む。
【0067】
コーティング層を形成するステップにて、前記コーティング層は、溶射によって形成されうる。前記溶射によるコーティングは、当業分野で知られている通常の方式であってもよく、その実施条件や環境も、当該分野のそれを準用することができ、例えば、Sulzer Metco社製のダイヤモンドジェット(Diamond Jet)またはこれと類似する装備を用い、酸素流量(Oxygen flow)、プロパン流量(Propane flow)、空気流量(Air flow)、フィーダ速度(Feeder rate)および窒素流量(Nitrogen flow)などを適切に調節する方式などを採用することができる。
【0068】
具体的には、前記溶射は、前述した鉄系アモルファス合金粉末を溶融させた後、前記ベース基材の表面に噴射することにより行われる。ここで、溶射は、超高速フレーム(火炎)溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)、プラズマ溶射、真空プラズマ溶射およびアークワイヤー溶射よりなる群から選択される方法によって行われ得る。
【0069】
コーティング層を形成するステップにて、前記鉄系アモルファス合金は、鉄、クロムおよびモリブデンを含み、炭素およびホウ素の中から選ばれた少なくとも1種をさらに含む鉄系アモルファス合金粉末を溶融させた後、溶融点からガラス転移温度まで101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却して形成する合金粉末内のアモルファス相の比率(a)と、前記合金粉末を再び溶融させた後、溶融点からガラス転移温度まで101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で製造されたコーティング層内のアモルファス相の比率(b)が0.9≦b/a≦1を満たすことができる。前記b/aの比は、好ましくは0.95~1、さらに好ましくは0.98~1、よりさらに好ましくは0.99~1でありうる。
【0070】
溶融した合金粉末は、噴射後の溶融点からガラス転移温度まで102~103または101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却されて形成される場合にも、コーティング層のアモルファス相の比率が、体積基準で90%以上、95%以上、99%以上、99.9%以上、実質的に100%と、含まれるアモルファス相の比率が高いことを特徴とする。
【0071】
このような溶射コーティングが行われると、複数回のパス(path)が積み重なる構造が形成され、具体的には、各層をなすように酸化物(黒色)が積み重なり、波のような形状に多数の層が板材上に積層される。通常の場合は、これによりコーティング層の性質が低下し且つ脆弱になるが、本発明の場合は、合金層(コーティング層)に気孔/酸化膜が殆どないか或いは最小になって超高密度を示し、硬さ、耐腐食性および耐摩耗性などの物性も向上することができる。
【0072】
鉄系アモルファス合金層を研磨するステップでは、鉄系アモルファス合金粉末を溶射コーティングして、予め定められた厚さにコーティング層を形成した後、コーティング層の表面を研磨して厚さを減少させる。つまり、溶射によって形成されたコーティング層の表面の厚さを減少させることにより、緻密に溶射された部分だけをフェースに残留させる。例えば、厚さ0.1mmの溶射コーティングの後、0.025mm程度の厚さに研磨し、0.075mmの溶射コーティング層がクラブフェースの表面に形成される。
【0073】
一方、コーティング層を形成するステップの前に提供されるクラブフェースのベース基材の形状、強度および厚さを調節するステップをさらに含んでもよい。前記ベース基材の厚さと形状を調節するためには、例えば、金型の厚さ調整またはCNCミリングなどの方式または装備を用いることができ、金型の厚さ調整によってベース基材の厚さを減少させることがより好ましい。
【0074】
厚さが減少したベース基材に対して厚さの減少により強度および耐久性の低下が発生しうるが、ベース基材の表面組織を緻密化させることが可能な鍛造工程を行うことにより、強度、靭性および耐久性などの機械的物性を向上させることができる。
【0075】
本発明は、前記クラブフェースが一側面に形成されたヘッド、前記ヘッドの一端に結合されたシャフト、および前記ヘッドに連結されていないシャフトの他の一端に形成されたグリップ部を含むゴルフクラブを提供する。前記クラブフェースを除くヘッドの残りの部分、シャフトおよびヘッドなど、クラブフェースを除くすべての残りの基材は、当業分野で通用されるものを制限なく準用することができる。
【0076】
本発明は、一般的な素材で製作されたクラブフェースに高反発、高硬度、高弾性、低摩擦のアモルファス合金(一般なフェース素材に比べ2倍以上の硬さを有する)をコーティングして新規なクラブフェースを製造するものであって、ボールスピードの向上はもとより、スピン量の減少および発射角の改善による飛距離の向上という本発明の目的を達成することが可能である。
【0077】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するのであるが、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇および技術思想の範囲内で様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明白であり、それらの変更および修正も添付された特許請求の範囲に属するのは当然だろう。
【実施例】
【0078】
[実施例1~実施例8:鉄系アモルファス合金粉末の製造]
下記表1のような成分と重量比(weight ratio)の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、下記表1に示した冷却速度で冷却して実施例1~実施例8の鉄系アモルファス合金粉末を製造した。
【0079】
【0080】
前記表1に示すように、本発明に係る実施例は、第1成分乃至第4成分を特定の含有量の範囲で含むことにより、101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却して粉末平均直径5μm~50μmの合金粉末を製造した。
【0081】
[製造例1:クラブフェースの準備]
CNCミリング(CNC Milling)を用いて、通常使用される(bare)クラブヘッドのクラブフェース(ベース基材、素材:Ti)の厚さを、中央部の厚さが1.8mmであるとともに、周辺部の厚さを1.6mmとなるように減らしたクラブフェース、中央部の厚さが2.2mmであるとともに、周辺部の厚さを2.0mmとなるように減らしたクラブフェース、および中央部の厚さを2.6mmであるとともに、周辺部の厚さを2.4mmとなるように減らしたクラブフェースをそれぞれ準備した。
【0082】
[実施例9~実施例16:コーティング層の形成]
前記製造例1によって準備されたクラブフェースのベース基材の表面に、実施例1~8の鉄系アモルファス合金粉末をそれぞれ0.1mmの厚さに溶射コーティングして、鉄系アモルファス合金層が備えられたクラブフェースを製造した。
【0083】
具体的に、溶射コーティングは、「Oerlikon Metco Diamond Jet series HVOF gas fuel spray system」の名前の装備のを使用し、燃料は酸素とプロパンガスを使用し、スプレー距離を30cmにして、超高速フレーム溶射(HVOF、High Velocity Oxygen Fuel)で厚さ0.3mmのコーティング物を形成した。このとき、使用された装置および具体的な条件は、次の通りである。
【0084】
DJ Gun HVOF
[条件]Gun type:ハイブリッド(Hybrid)、エアキャップ:2701、LPG流量(LPG Flow)160SCFH、LPG圧(LPG Pressure)90PSI、酸素流量(Oxygen flow)550SCFH、酸素圧(Oxygen Pressure)150PSI、気流量(Air flow)900SCFH、気流圧(Air Pressure)100PSI、窒素流量(Nitrogen flow)28SCFH、窒素圧(Nitrogen Pressure)150PSI、Gun speed:100m/min、Gun pitch:3.0mm、フィーダー速度(Feeder rate)45g/min、スタンドオフ距離(Stand-off distance):250mm
【0085】
[製造例2:ゴルフクラブの製造]
前記実施例9~実施例16から製造されたクラブフェースの一面に形成されたベース基材の表面の鉄系アモルファス合金層を0.025mm研磨した後、ヘッドに取り付けて、シャフトとグリップ部までが連結された、一般的な形態のゴルフクラブを製造した。
【0086】
前記実施例9から製造されたクラブフェースの写真を
図11(a)に示した。ここで、当該ゴルフクラブフェースのベース基材の表面に鉄系アモルファス合金層がコーティングされた形態を、
図11(b)に模式的に示した。
図11(b)を参照すると、中央部を基準に、ベース基材の表面の全面積の80%程度に、鉄系アモルファス合金層が形成されている場合に該当し、この場合、飛距離を伸ばすのに望ましいことを下記実験例8によって確認した。
【0087】
[比較例1~比較例7:鉄系合金粉末の製造]
下記表2のような成分および重量比の組成で、窒素ガス雰囲気下のアトマイザー内に供給した後、溶融状態でアトマイズさせ、表2に示す冷却速度で冷却して比較例1~比較例7の鉄系合金粉末を製造した。
【0088】
【0089】
前記表2に示すように、本発明に係る製造例は、第1成分乃至第4成分を特定の含有量の範囲で含むことにより、101~104度/秒(degree/sec)の冷却速度で冷却して粉末平均直径5μm~50μmの合金粉末を製造した。
【0090】
[製造例3:クラブフェースの準備]
通常使用されるものであって、素材が前記製造例1の(bare)ゴルフクラブフェースと同じであり、且つ厚さが3.0mmであるゴルフクラブフェースを準備した(すなわち、鉄系アモルファス合金粉末をコーティングしない)。
【0091】
[比較例8~比較例14:鉄系合金粉末を用いたコーティング層の形成]
前記製造例3によって準備されたクラブフェースのベース基材の表面に、比較例1~比較例7の合金粉末を、実施例と同様の方法で、それぞれ0.1mmの厚さに溶射コーティングさせて、コーティング層が備えられたクラブフェースを製造した。
【0092】
[製造例4:ゴルフクラブの製造]
前記製造例3のクラブフェースをヘッドに取り付けて、シャフトとグリップ部までが連結された、一般的な形態のゴルフクラブを製造した。以下で、製造例3のゴルフクラブを用いた場合を、便宜上、比較例15とする。
【0093】
また、前記比較例8~比較例14から製造されたクラブフェースの一面に形成された、ベース基材の表面の合金粉末層を0.025mmずつ研磨した後、ヘッドに取り付けて、シャフトとグリップ部までが連結された、一般的な形態のゴルフクラブを製造した。
【0094】
[実験例1:合金粉末のアモルファス度の評価]
実施例の鉄系アモルファス合金粉末に対するXRD(X線回折)測定結果を
図1に示した。
図1は、本発明に係る鉄系アモルファス合金粉末のXRD(X線回折)グラフであって、(a)~(e)はそれぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系アモルファス合金粉末に対するグラフである。
図1によれば、実施例1、3、6、7、8のいずれも、2シータ(2θ)の値が40~50(degree)でブロードなピークを示すことから、すべて、アモルファス相を形成することが分かる。
【0095】
また、比較例の鉄系アモルファス合金粉末に対するXRD測定結果を
図2に示した。
図2は、比較例に係る鉄系合金粉末のXRDグラフであって、(a)~(c)は比較例1、5、7の鉄系合金粉末に対するグラフである。
図2によれば、比較例1、5、7のいずれも、2シータ(2θ)の値が40~50度(degree)でシャープ(急激)な第1ピークを示し、65~70度(degree)で追加の第2ピークを少なくとも示すことから、アモルファス相と共に、一部に結晶相を形成することが分かる。
【0096】
特に、第2ピークの高さを考慮すると、比較例7から比較例5を経て比較例1に行くほど、すなわち
図2(c)から
図2(a)に行くほど、結晶質が相当数形成されることが確認された。
【0097】
[実験例2:コーティング物のアモルファス度の評価]
実施例7による鉄系アモルファス合金粉末(アトマイズされたもの;as atomized)およびその断面と、比較例7による鉄系合金粉末(アトマイズされたもの;as atomized)およびその断面をSEM分析した写真を
図3に示した。
図3における、(a)と(b)は実施例7の鉄系アモルファス合金粉末(アトマイズされたもの;as atomized)およびその断面に該当し、(c)と(d)は比較例7の鉄系合金粉末(アトマイズされたもの;as atomized)およびその断面に該当する。
【0098】
図3によれば、(b)に示すように、実施例の場合は、組織が観察されなかったため、実質的に0%の気孔率を示すことが分かる。一方、(d)に示すように、比較例の場合は多数の組織が観察された。
【0099】
また、実施例9~16で製造された鉄系アモルファス合金粉末コーティング物試験片についてのアモルファスXRD(X線回折)グラフを
図4に示した。
図4は、本発明によるコーティング物試験片のXRDグラフであって、(a)~(e)はそれぞれ実施例1、3、6、7、8の鉄系アモルファス合金粉末を適用したコーティング物である実施例9、11、14、15、16の試験片のXRDグラフである。
図4によれば、実施例の場合は、ブロードなXRD第1ピークと共に、追加のピークが確認されないので、本発明に係る粉末はアモルファス構造を持っていることが分かった。
【0100】
また、比較例で製造された鉄系合金粉末コーティング物試験片に対するXRDグラフを
図5に示した。
図5は、比較例のコーティング物試験片のXRDグラフであって、(a)~(c)は、それぞれ比較例1、5、7の鉄系合金粉末を適用したコーティング物である比較例8、12、14の試験片のXRDグラフである。
図5によれば、比較例の場合は、急激な第1ピークと共に追加のピークを示すことから、アモルファス相がない構造の結晶性粉末であることを確認することができた。
【0101】
つまり、これにより、本発明の合金粉末は、比較例の合金粉末に比べて、遥かに高いアモルファス形成能を有することが分かる。
【0102】
図1のXRDグラフと
図3のXRDグラフとを比較した結果、
図1の実施例のいずれも、
図3に示すように、粉末であるときのアモルファス構造がコーティング物においてもそのまま維持されることを確認することができた。
【0103】
特に、本実験例の場合、HVOF方式でコーティングして、実質的に全体がアモルファス相(95体積%以上)であるコーティング物が形成されることが確認することができる。
【0104】
[実験例3:合金粉末を用いた溶射コーティング物の巨視的品質評価]
図6は、本発明に係る鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物と比較例の合金粉末を用いた溶射コーティング物の表面画像であって、(a)~(c)はそれぞれ実施例1、7、8のアモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物である実施例9、15、16の表面画像であり、(d)~(g)はそれぞれ比較例1、3、5、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物である比較例8、10、12、14の表面画像である。
【0105】
これによれば、比較例14のコーティング物は、コーティング物の表面品質が良くなかった(
図6(g)参照)が、これに対し、残りの、実施例および比較例のコーティング物はいずれも、コーティング物の表面品質が秀れているか、または良好であった。
【0106】
[実験例4:合金粉末を用いた溶射コーティング物の微視的品質評価]
図7は、本発明に係る実施例1、3、6、8の鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片の断面を光学顕微鏡(Leica DM4 M)で観察した画像であって、(a)~(d)は、それぞれ実施例9、11、14、16の試験片の断面を観察した画像である。
図8は、比較例1、4、7の合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片の断面を光学顕微鏡で観察した画像であって、(a)~(c)はそれぞれ比較例8、11、14の試験片の断面を観察した画像である。実施例9、11、14、16のコーティング物の断面がすべて高い密度を示すことを確認することができた。
【0107】
一方、
図8に示すように、比較例8、11、14のコーティング物の断面は、多数の溶融していない粒子を含んでいるだけでなく、灰色の相(grey phase)が多く含まれていることが観察されたのであり、レイヤ(layer)-レイヤ(layer)特性が現れた。
【0108】
[実験例5:合金粉末を用いた溶射コーティング物の硬さ評価]
前記実施例11、実施例14、実施例16の溶射コーティング物と比較例8、比較例10、比較例12、比較例14の溶射コーティング物に対して、HVS-10デジタル低負荷ビッカース硬さ試験機(HVS-10 digital low load Vickers Hardness Tester Machine)を用いて、コーティング物試験片の断面に対する微小硬さ(Micro-hardness)試験を行った。その結果を下記表3に示す。
【0109】
【0110】
前記表3に示すように、断面における実施例16の合金粉末を適用した試験片の平均硬さが最も優れており、残りの実施例の場合は、比較例と類似の硬さ値を示した。
【0111】
[実験例6:合金粉末を用いた溶射コーティング物の耐食性評価]
図9は、本発明に係る実施例2、4、7の鉄系アモルファス合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片についての非腐食の断面/腐食した断面を光学顕微鏡で観察した画像であって、(a)~(c)はそれぞれ実施例10、12、15の試験片の観察画像であり、
図10は、比較例2、4、6の合金粉末を用いた溶射コーティング物試験片についての非腐食の断面/腐食した断面を光学顕微鏡で観察した画像であって、(a)~(c)はそれぞれ比較例8、11、13の試験片の観察画像である。
【0112】
具体的には、それぞれの溶射コーティング物試験片を室温下で濃度95~98%の硫酸(H
2SO
4)溶液に5分間浸した後、光学顕微鏡(Leica DM4 M)を用いて、腐食していないコーティング物試験片と、腐食したコーティング物試験片との断面(cross-section)及び表面(surface)を観察したのであり、
図9および
図10における左側は非腐食物、右側は腐食物をそれぞれ示した。
【0113】
観察結果、実施例10、12、15のコーティング物試験片を用いた場合、
図9に示すように、硫酸に浸漬した前と後の様子にあまり差異がないため、耐食性に最も優れることを確認することができた。
【0114】
一方、比較例8、11、13のコーティング物試験片を用いた場合、
図10に示すように、腐食が強く進んで非常に良くない耐食性を示した。
【0115】
これは、コーティング物がアモルファスであるか否かに起因したものであり、実施例の場合には、コーティング物が強酸性の腐食物に全く反応していないのに対し、結晶質を含む比較例の場合には、コーティング物が腐食物に反応して腐食することにより、良くない耐食性を示した。
【0116】
[実験例7:合金粉末を用いた溶射コーティング物の摩擦力の評価]
摩擦力(摩擦係数)を評価するために、前記の実施例14~実施例16、比較例11~比較例14で製造された合金粉末コーティング物試験片を、潤滑油条件下の金属リング-ランプ(ring-lump)テストによって摩耗幅(wear width)を得た。具体的には、リング-ランプテストは、L-MM46抵抗摩擦ハイドロマンティック(hydromantic)の潤滑油があるMR-H3A高速リング-ランプ摩耗機械を用いて、テストパラメータ(parameters)を50N、5min→100N、25min→1000N、55minの順に行った。
【0117】
パラメータ100N、25minおよび1000N、55minのサンプル摩擦係数(friction coefficient)を下記表4に示し、摩耗幅の測定結果を下記表5に示した。
【0118】
【0119】
【0120】
前記表4および表5の結果をまとめると、平均的に、実施例9、14のコーティング物は摩擦係数が低く、比較例8、10の場合は摩擦係数が非常に高いことが分かる。また、
図11と前記表5からは、実施例が狭い幅を有し、残りの、比較例は相対的に広い幅を有することを確認することができた。
【0121】
[実験例8:ゴルフボールの飛距離の測定]
前記製造例2と製造例4で得られたゴルフクラブを、それぞれ超高速カメラ方式のボール弾道分析スイングロボット(Foresight GCQuad)に装着した後、90mphおよび95mphの条件でゴルフスイングロボットの飛距離打撃試験を行った。試験項目は、ボール速度(Ball Speed)、発射角(Launch Angle)、バックスピン量(Backspin)、サイド角度(Side Angle)、キャリー(Carry)およびトータル飛距離などであった。試験はそれぞれ5回繰り返し行った。下記表6および表7にその平均値をそれぞれ示した。
【0122】
【0123】
【0124】
前述したようにスイングロボットを用いて製造されたゴルフクラブでゴルフボールを打撃試験した結果、ボール速度と発射角が増加し、スピン量は減少し、特に、トータルの飛距離の飛躍的な向上があった。また、実施例16のトータルの飛距離の場合、比較例15に比べ、最高23ヤード(yard)が増えたことを確認することができた。
【0125】
以上の結果より、ゴルフクラブフェースの厚さを限界レベルまで薄膜化し、これをアモルファス合金層で表面処理することにより、クラブフェースの硬さなどが向上するため、ボール速度、発射角およびスピン量が改善されて、飛距離が飛躍的に増加することが分かった。
【0126】
[実験例9:クラブフェースにコーティングされたアモルファス合金の反発係数の評価]
反発係数(COR、Coefficient of Restitution)を評価するために、前記実施例16~実施例18および比較例15のゴルフクラブフェース試験片から、反発係数テストによって反発係数を得た。
【0127】
その結果、実施例16~実施例18のゴルフクラブフェース試験片は、反発係数(COR)がいずれも0.83以上であって、高反発ドライバーを提供することができることを確認した。
【0128】
一方、比較例15のゴルフクラブフェース試験片は、反発係数(COR)が0.83未満であって、高反発ドライバーを提供することができないことを確認した。