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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】溶接機の制御器および溶接機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20221017BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20221017BHJP
   B23K 9/167 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B23K9/127 504H
B23K9/12 331K
B23K9/12 350G
B23K9/127 507C
B23K9/167 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022138027
(22)【出願日】2022-08-31
【審査請求日】2022-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上月 崇功
(72)【発明者】
【氏名】池澤 行雄
(72)【発明者】
【氏名】前川 通高
(72)【発明者】
【氏名】右田 龍弥
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-18809(JP,A)
【文献】特開2007-160349(JP,A)
【文献】特開2003-326362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御器であって、
複数の制御モードを記憶した記憶器と、
前記アクチュエータに対する制御指令を生成するプロセッサと、を含み、
前記プロセッサは、前記記憶器から前記複数の制御モードを取得し、前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、前記複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータに対する制御指令を生成し、
前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む、溶接機の制御器。
【請求項2】
前記2以上の開先倣い制御モードは、
前記溶接トーチと前記ワークとの間の相対距離を一定にする高さ倣い制御モード、
ウィービングの幅方向中心位置を前記ワークの開先の幅方向中心位置に合わせる中央倣い制御モード、および、
前記ウィービング幅を所定値に調整する幅倣い制御モード
のうちの少なくとも何れか2つを含む、請求項1に記載の溶接機の制御器。
【請求項3】
前記溶接機は、非消耗電極式の溶接機であり、アーク電圧を検出する電圧検出器を備え、
前記プロセッサは、前記アーク電圧を、前記ワークに対する前記溶接トーチの高さまたは前記ウィービングの幅方向両端位置に関するデータとして取得する、請求項1または2に記載の溶接機の制御器。
【請求項4】
前記実行計画は、前記オシレート周期における1周期ごとに、実行される制御モードが設定されている、請求項1または2に記載の溶接機の制御器。
【請求項5】
前記2以上の開先倣い制御モードは、前記ワークに対する前記溶接トーチの高さを一定にする高さ倣い制御モードを含み、
前記実行計画は、前記高さ倣い制御モードを実行する割合が他の1つの開先倣い制御モードを実行する割合よりも高く設定される、請求項1または2に記載の溶接機の制御器。
【請求項6】
前記ワークに対する前記溶接トーチの高さまたは前記ウィービングの開先幅方向両端位置に関するデータを取得するデータ取得器を備え、
前記プロセッサは、前記データ取得器が取得したデータに基づいて前記制御指令を生成するための溶接条件を修正する、請求項1または2に記載の溶接機の制御器。
【請求項7】
前記溶接条件は、溶接速度または溶加材の前記開先への供給速度を含み、
前記プロセッサは、前記開先における溶着量が所定の目標値になるように前記溶接条件を修正する、請求項6に記載の溶接機の制御器。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記溶接トーチが前記開先の溶接線方向の移動を複数回繰り返すような前記制御指令を生成し、
前回の移動時に前記データ取得器が取得したデータに基づいて次回の移動時において形成されるビード形状が平坦になるように前記溶接条件を修正する、請求項6に記載の溶接機の制御器。
【請求項9】
溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御方法であって、
前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、予め用意された複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータを制御し、
前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む、溶接機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接機の制御器および溶接機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接対象であるワークに対してワークの溶接線に沿って溶接トーチを自動的に移動させる溶接機が知られている。このような溶接機は、溶接トーチがワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅および所定のトーチ高さで周期的に移動しながらワークの溶接線方向に沿ってビードが形成されるように制御される。
【0003】
ワークの開先への溶接を適切に行うために種々の倣い制御が知られている。例えば下記特許文献1では、ワークの開先幅に対して適切なウィービング幅を得るためにウィービング幅を制御している。
【0004】
また、溶接トーチの先端に突出された電極とワークとの間で発生するアークによる溶接電流またはアーク電圧から電極の先端とワークとの距離を得ることにより、ワークに対するトーチ高さの制御を行うことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平4-70117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えば大型構造物の製造において、開先のルート面の高さ、ルート間隔等が不均一な場合があり、そのような対象に対して既存の開先倣い制御では品質が安定しない問題がある。
【0007】
そこで、本開示は、開先の状態にかかわらず溶接の質を安定化させることができる溶接機の制御器および溶接機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る溶接機の制御器は、溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御器であって、複数の制御モードを記憶した記憶器と、前記アクチュエータに対する制御指令を生成するプロセッサと、を含み、前記プロセッサは、前記記憶器から前記複数の制御モードを取得し、前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、前記複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータに対する制御指令を生成し、前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。
【0009】
本開示の他の態様に係る溶接機の制御方法は、溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御方法であって、前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、予め用意された複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータを制御し、前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、溶接機において開先の状態にかかわらず溶接の質を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施の形態に係る溶接システムを示す概略構成図である。
図2図2は、高さ倣い制御モードの概念図である。
図3図3は、中央倣い制御モードの概念図である。
図4図4は、幅倣い制御モードの概念図である。
図5図5は、本実施の形態における実行計画の例を示す図である。
図6図6は、開先の形状の位置ずれを示す図である。
図7図7は、開先に形成されるビードの形状不良の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の一実施の形態に係る溶接機の制御器について説明する。本実施の形態においては、溶接機として、非消耗電極式の溶接機であるTIG溶接機を例示する。
【0013】
図1は、本開示の一実施の形態に係る溶接システムを示す概略構成図である。本実施の形態において、溶接システム1は、溶接機10と、溶接機10を制御する制御器20と、を備えている。制御器20は、溶接機10に搭載されてもよいし、溶接機10とは離間して配置されてもよい。制御器20と溶接機10とは、無線または有線通信可能に接続される。
【0014】
溶接機10は、先端に電極11を有する溶接トーチ12を含んでいる。溶接トーチ12の電極11は、溶接対象に向けられる。溶接トーチ12は、溶接対象に対してシールドガスを供給するノズルを有している。溶接トーチ12には、電源13からの電力線14が接続され、電力が供給される。
【0015】
さらに、溶接機10は、溶接トーチ12を移動させるアクチュエータを含んでいる。アクチュエータは、溶接トーチ12を第1方向に移動させる第1アクチュエータ15と、溶接トーチ12を第1方向に直交する第2方向に移動させる第2アクチュエータ16と、を含む。これらのアクチュエータ15,16は、制御器20からの制御指令に基づいて作動し、溶接トーチ12を第1方向および第2方向に移動させる。
【0016】
本実施の形態において、溶接機10は、第1方向に延びる第1レール51および第2方向に延びる第2レール52を含んでいる。溶接トーチ12は、第1レール51に対して第1方向に摺動可能に取り付けられている。第1レール51は、第2レール52に対して第2方向に摺動可能に取り付けられている。第1アクチュエータ15は、第1レール51上の溶接トーチ12を第1方向に摺動させる。第2アクチュエータ16は、第2レール52を第2方向に摺動させることにより、溶接トーチ12を第2方向に移動させる。なお、溶接トーチ12を移動させる構成は、これに限られず、例えば、先端部に溶接トーチ12が備えられた多関節のロボットにより構成されてもよい。
【0017】
溶接機10は、台車19を含んでいる。台車19に第2レール52が固定されている。台車19は、溶接対象であるワーク30に対して移動可能に構成されている。
【0018】
溶接対象であるワーク30は、2つの被溶接材が突き合わされた状態で配置されており、溶接すべき箇所に開先31が形成されている。開先31は、2つの被溶接材が突き合わされた状態で各々の開先面が所定の開先角度を有するように配置されている。なお、この開先角度は、被溶接材同士の当接部近傍が曲面となっている場合もあるため、開先面同士を延長した面同士が交差した際のなす角を意味している。開先31の形状は、種々の形状の中から適宜選択される。
【0019】
溶接機10は、溶接トーチ12の電極11の先端がワーク30の開先31に向くように配置される。このとき、第1方向が開先31の幅方向に一致し、第2方向がワーク30の開先31が形成される表面に対して直交する方向に一致するように溶接機10が配置される。これにより、第1アクチュエータ15は、溶接トーチ12を、ワーク30の開先31の幅方向に移動させるアクチュエータとして構成される。また、第2アクチュエータ16は、溶接トーチ12を、ワーク30に対して高さ方向に移動させるアクチュエータとして構成される。
【0020】
図1の例では、水平面に載置されたワーク30の上方に溶接トーチ12が位置し、電極11が下方を向いている。この場合、第1アクチュエータ15は、溶接トーチ12を水平方向に移動させるアクチュエータであり、第2アクチュエータ16は、溶接トーチ12を鉛直方向に移動させるアクチュエータである。また、図1の例において、台車19は、ワーク30上において開先31の溶接線方向に移動可能に載置されている。
【0021】
さらに、溶接機10は、開先31に溶加材を供給する溶加材供給ノズル18を含んでいる。溶加材は、棒状またはワイヤ状の形状を有している。溶加材供給ノズル18は、アクチュエータ15,16により溶接トーチ12との位置関係を保持するように三次元的に移動する。溶加材供給ノズル18は、溶接トーチ12の電極11に向けられる。
【0022】
電源13は、ワーク30に電力線17を介して接続される。電源13から供給される電力により、溶接トーチ12の電極11とワーク30との間に電圧が印加される。これにより、溶接トーチ12の先端から突出された電極11とワーク30との間にアークが発生する。発生したアークに溶加材が供給されることにより、溶加材とワーク30とが溶着し、ビードが形成される。このようにして、ワーク30が溶接される。溶接機10は、電力線14,17間に印加される電圧、すなわち、アーク電圧を検出する電圧検出器41を含んでいる。
【0023】
電圧検出器41で検出されたアーク電圧は、制御器20に送られる。アーク電圧は、電極11のワーク30に対する位置情報に対応付けられる。電極11の位置は、ワーク30の所定位置に対応付けられた電極11の基準位置からの第1方向移動量および第2方向移動量から決定される。このために、溶接機10は、第1アクチュエータ15による基準位置からの第1方向移動量を検出する第1方向位置検出器42および第2アクチュエータ16による基準位置からの第2方向移動量を検出する第2方向位置検出器43を備えている。電圧検出器41、第1方向位置検出器42および第2方向位置検出器43は、後述するデータ取得器として機能する。
【0024】
制御器20は、プロセッサ21および記憶器22を含んでいる。記憶器22は、データ取得器から取得したデータを記憶する。本実施の形態において、記憶器22は、アーク電圧を電極11の位置情報に対応付けて記憶する。さらに、記憶器22は、溶接機10を制御するための制御プログラムを記憶する。プロセッサ21は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、PLC(Programmable Logic Controller)等のコンピュータを備えている。例えば、プロセッサ21は、CPU、MPU等の処理回路、レジスタ、RAMおよび周辺回路等を備えている。
【0025】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、または手段はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0026】
制御器20は、溶接機10の基本動作として、溶接トーチ12を、ワーク30の開先31の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ、ワーク30の溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させてワーク30の溶接線を倣わせる。本実施の形態において、溶接トーチ12の溶接線方向への移動は、台車19により溶接機10自体が移動することによって実現される。なお、これに代えて、溶接トーチ12の溶接線方向への移動が、溶接機10に対して溶接トーチ12が移動する態様、または、ワーク30が溶接機10に対して移動する態様の何れかの態様で実現されてもよい。また、1つの溶接線に対して複数回の溶接作業が行われ得る。この場合、1回目の溶接作業で形成されたビード上に2回目の溶接作業によるビードが形成される。これにより、開先31において複数回の溶接作業による複数層のビードが積層される。
【0027】
プロセッサ21は、制御プログラムに基づいて溶接機10に対する制御指令を生成する。記憶器22には、溶接機10を制御する際の溶接条件が記憶されている。溶接機10の性能、ワーク30の材質、発生するアークの大きさ等に基づいて、複数のパラメータに対して上限値または下限値等が、溶接条件として設定される。プロセッサ21は、溶接条件を満たすような制御指令を生成する。複数回の溶接作業を行う場合、プロセッサ21は、溶接トーチ12が開先31の溶接線方向の移動を複数回繰り返すような制御指令を生成する。
【0028】
例えば、溶接条件が設定される複数のパラメータは、溶接電流、ウィービング幅、オシレート周期、両端停止時間、中央停止時間、溶加材への供給電流、溶接速度、溶加材の供給速度等を含み得る。溶接電流は、電源13から溶接トーチ12の電極11に供給される電流である。溶加材への供給電流は、溶加材に電流を供給する場合に溶加材に供給される電流である。所定の周期ごとに電圧を上下させるパルス溶接を行う場合には、溶接電流および溶加材への供給電流に関する溶接条件として、ピーク電流およびベース電流をそれぞれ設定し得る。
【0029】
ウィービング幅は、ワーク30の開先31の幅方向への溶接トーチ12の移動量である。オシレート周期は、溶接トーチ12における開先31の幅方向にウィービングを行う際の移動周期である。両端停止時間は、溶接トーチ12がウィービングの開先幅方向一方側端部へ到達してから他方側へ向けて反転移動を開始するまでの時間である。中央停止時間は、溶接トーチ12がウィービングの開先幅方向中心位置で停止する時間である。これらの停止時間は、0すなわち停止しない場合も含み得る。溶接速度は、溶接トーチ12の溶接線方向への移動速度である。溶加材の供給速度は、溶加材を開先31に供給する速度である。
【0030】
プロセッサ21は、データ取得器である電圧検出器41により検出されたアーク電圧を、ワーク30に対する溶接トーチ12の高さまたはウィービングの開先幅方向両端位置に関するデータとして取得する。上述したように、検出されたアーク電圧とその検出位置とは対応付けられているため、プロセッサ21は、溶接トーチ12の電極11における所望の位置でのアーク電圧を取得することができる。
【0031】
ここで、記憶器22は、複数の制御モードを記憶している。さらに、制御プログラムは、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画を含んでいる。実行計画は、ユーザが設定してもよいし、複数の溶接の要求仕様に応じた複数の実行計画がプリセットされており、ユーザにより選択または自動的に選択されてもよい。プロセッサ21は、記憶器22から複数の制御モードを取得するとともに、記憶器22に記憶された各種のデータおよび制御プログラムの実行計画に基づいて複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択し、当該制御モードに基づいて溶接機10に対する制御指令を生成する。
【0032】
複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。例えば、2以上の開先倣い制御モードは、高さ倣い制御モード、中央倣い制御モードおよび幅倣い制御モードを含む。また、複数の制御モードは、開先倣い制御モードを実行しない制御モードを含み得る。例えば、複数の制御モードは、前のオシレート周期における動作後の溶接トーチ12の高さ、ウィービングの開先幅方向中心位置およびウィービング幅を維持するように溶接トーチ12を動作させる制御モードを含み得る。
【0033】
図2は、高さ倣い制御モードの概念図である。高さ倣い制御モードは、溶接トーチ12とワーク30との間の相対距離を一定にする開先倣い制御モードである。アーク電圧は、溶接トーチ12の電極11と開先31との間の相対距離を示す。アーク電圧が高いほど相対距離は長くなる。したがって、アーク電圧が一定であれば、相対距離も一定であると言える。高さ倣い制御モードにおいて、プロセッサ21は、溶接トーチ12の開先31の幅方向への移動時にアーク電圧が一定となるような制御指令を生成する。
【0034】
図3は、中央倣い制御モードの概念図である。中央倣い制御モードは、ウィービングの開先幅方向中心位置をワーク30の開先31の幅方向中心位置に合わせる開先倣い制御モードである。以下では、ウィービングの開先幅方向中心位置を単にウィービング中心位置Cwと称する場合がある。プロセッサ21は、中央倣い制御モードの実行を開始する第1タイミングにおいて溶接トーチ12の高さを固定した上でウィービングを行い、開先幅方向におけるウィービングの第1端におけるアーク電圧V1および第2端におけるアーク電圧V2を取得する。
【0035】
前述したように、アーク電圧は、溶接トーチ12の電極11と開先31との間の相対距離を示す。そのため、アーク電圧は、電極11の開先31の近い側の壁までの距離を示すともいえる。したがって、第1端におけるアーク電圧V1と第2端におけるアーク電圧V2との差ΔV=V1-V2は、開先31の幅方向中心位置Cgに対するウィービング中心位置Cwのずれを示す。ウィービング両端におけるアーク電圧の差ΔVと、開先31の幅方向中心位置Cgに対するウィービング中心位置Cwのずれ量とは、相関している。プロセッサ21は、次の制御モードの実行タイミングである第2タイミングにおいて上記第1タイミングにおいて検出されたウィービング両端におけるアーク電圧の差ΔVがゼロになるまたは小さくなるように、ウィービング中心位置Cwを修正するような制御指令を生成する。
【0036】
図4は、幅倣い制御モードの概念図である。幅倣い制御モードは、ウィービング幅を所定値に調整する開先倣い制御モードである。プロセッサ21は、開先幅方向におけるウィービングの第1端におけるアーク電圧V1および第2端におけるアーク電圧V2を取得し、これらの値が所定値になるようにウィービング幅Wを修正するような制御指令を生成する。
【0037】
前述したように、アーク電圧は、電極11の開先31の近い側の壁までの距離を示す。したがって、ウィービングの両端におけるアーク電圧を所定の電圧Voにすることで、ウィービングの両端のそれぞれの位置における電極11の開先31の近い側の壁からの距離を所定の距離とすることができる。すなわち、ウィービングの両端におけるアーク電圧を所定の電圧Voにすることでウィービング幅Wを所定の幅Woにすることができる。
【0038】
なお、幅倣い制御モードは、中央倣い制御モードと同様に第1タイミングにおいて検出されたウィービングの両端におけるアーク電圧を用いて第2タイミングにおいてウィービング幅を修正するような制御モードであってもよい。例えば、第1タイミングにおいて検出されたウィービングの両端におけるアーク電圧が所定の電圧Voより高い場合、制御器20は、ウィービング幅Wを広げるように溶接トーチ12を制御する。また、例えば、第1タイミングにおいて検出されたウィービングの両端におけるアーク電圧が所定の電圧Voより低い場合、制御器20は、ウィービング幅を狭めるように溶接トーチ12を制御する。
【0039】
あるいは、幅倣い制御モードにおいて、当該幅倣い制御モードの開始前におけるウィービング幅にかかわらず、アーク電圧が所定の電圧Voになる位置がウィービングの端部になるように溶接トーチ12の移動が制御されてもよい。例えば、制御器20は、開先幅方向の中央寄りの基準位置からウィービングの第1端に向けて溶接トーチ12を移動させ、アーク電圧が所定の電圧Voになった位置で溶接トーチ12の移動方向を反転させる。反転後、制御器20は、アーク電圧が再び所定の電圧Voになる位置、すなわち、ウィービングの第2端まで溶接トーチ12を移動させる。
【0040】
ここで、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画は、溶接トーチ12の周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかが定められる。本実施の形態において、各制御モードの実行または切替のために予め定められたタイミングは、オシレート周期における1周期ごとに設定される。すなわち、実行計画は、オシレート周期における1周期ごとに、実行される制御モードが設定されている。
【0041】
図5は、本実施の形態における実行計画の例を示す図である。図5において「周期」は、オシレート周期を示す。また、「高さ」は、その周期におけるトーチ高さの設定態様を示し、「中央」は、その周期におけるウィービング中心位置の設定態様を示し、「幅」は、その周期におけるウィービング幅の設定態様を示す。丸印は、対応する開先倣い制御モードを実行することを示す。すなわち、図5において、1周期目、3周期目、5周期目、7周期目、9周期目および11周期目に高さ倣い制御モードが実行される。また、2周期目、6周期目および10周期目に中央倣い制御モードが実行される。また、4周期目および8周期目に幅倣い制御モードが実行される。また、図5における右向き矢印は、前のオシレート周期における値を用いることを示す。
【0042】
図5の例において、プロセッサ21は、オシレート周期における1周期目に高さ倣い制御モードを実行するような制御指令を生成する。このとき、ウィービング中心位置およびウィービング幅は、予め設定された初期値が用いられる。プロセッサ21は、2周期目に中央倣い制御モードを実行するような制御指令を生成する。具体的には、プロセッサ21は、2周期目においてもウィービング中心位置として1周期目と同じ初期値を用いた制御指令を生成する。プロセッサ21は、2周期目におけるウィービング両端におけるアーク電圧を取得し、それらの差ΔVを算出する。このとき、ウィービング両端におけるトーチ高さは、1周期目に実行された高さ倣い制御モードで用いられた値が用いられ、ウィービング幅は、1周期目と同じ初期値が用いられる。
【0043】
プロセッサ21は、3周期目においてウィービング両端におけるアーク電圧の差ΔVに基づいてウィービング中心位置を修正するような制御指令を生成する。さらに、プロセッサ21は、3周期目において高さ倣い制御モード実行するような制御指令を生成する。このとき、ウィービング中心位置は、上記の通り修正された値が用いられ、ウィービング幅は、1周期目と同じ初期値が用いられる。
【0044】
プロセッサ21は、4周期目に幅倣い制御モードを実行するような制御指令を生成する。具体的には、プロセッサ21は、4周期目においてもウィービング幅として1周期目と同じ初期値を用いた制御指令を生成する。プロセッサ21は、4周期目におけるウィービング両端におけるアーク電圧を取得する。このとき、ウィービング両端におけるトーチ高さは、3周期目に実行された高さ倣い制御モードで用いられた値が用いられ、ウィービング中心位置は、3周期目と同じ値が用いられる。
【0045】
プロセッサ21は、5周期目においてウィービング両端におけるアーク電圧と所定の電圧Voとの差に基づいてウィービング幅を修正するような制御指令を生成する。さらに、プロセッサ21は、5周期目において高さ倣い制御モード実行するような制御指令を生成する。このとき、ウィービング中心位置は、3周期目と同じ値が用いられ、ウィービング幅は、上記の通り修正された値が用いられる。
【0046】
上記5周期目の動作は、ウィービング中心位置およびウィービング幅が対応する開先倣い制御によって初期値から変化している可能性があることを除いて1周期目の動作と同じである。以降、6周期目ないし8周期目の動作は、2周期目ないし4周期目の動作と同じであり、9周期目ないし12周期目の動作は、1周期目ないし4周期目の動作と同じというように、オシレート周期の4周期分を1つの動作群としてそれが周期的に繰り返される。
【0047】
上記のように、本実施の形態によれば、プロセッサ21が、溶接トーチ12の周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、アクチュエータ15,16に対する制御指令を生成する。複数の制御モードには、2以上の開先倣い制御モードが含まれるため、溶接動作全体として見れば、2以上の開先倣い制御が包括的に実施される。したがって、開先31の状態にかかわらず溶接の質を安定化させることができる。
【0048】
また、本実施の形態においては、実行計画は、高さ倣い制御モードを実行する割合が他の1つの開先倣い制御モード、すなわち、中央倣い制御モードまたは幅倣い制御モードを実行する割合よりも高く設定される。より具体的には、中央倣い制御モードおよび幅倣い制御モードがオシレート周期における4周期に1回実行されるのに対して、高さ倣い制御モードがオシレート周期における2周期に1回実行される。
【0049】
高さ倣いを優先することにより溶接の溶着量を優先的に制御しつつウィービング中心位置およびウィービング幅の調整も併せて行うことができる。また、高さ倣いを優先することにより、溶接により形成されるビード表面を平坦にすることができる。
【0050】
本実施の形態において、プロセッサ21は、上記のような開先倣い制御モードに際して取得した溶接トーチの高さまたはウィービングの開先幅方向両端位置に関するデータに基づいて、制御指令を生成するための溶接条件を修正し得る。
【0051】
図6は、開先の形状の位置ずれを示す図である。図6の左側に、基準となる開先部分31Xの形状が例示されている。基準の開先部分31Xにおいては、ワーク30における一方の被溶接材30aと他方の被溶接材30bとが同一平面上に位置し、開先部分31Xのルート面31a,31bの高さも一致している。また、ルート面31a,31b間の間隔であるルート間隔もほとんどないまたはゼロである。
【0052】
一方、図6の右側に、位置ずれが生じた開先部分31Yの形状が例示されている。位置ずれが生じた開先部分31Yにおいては、一方の被溶接材30aと他方の被溶接材30bとが上下方向にずれており、開先部分31Yのルート面31a,31bの上下方向位置もずれている。また、ルート面31a,31b間の間隔も基準の開先部分31Xに比べて広くなっている。被溶接材30aと被溶接材30bとを溶接する場合、開先31の形状は、一の開先31において、溶接線方向の位置によって基準の開先部分31Xおよび位置ずれが生じた開先部分31Yが混在し得る。また、位置ずれが生じた開先部分31Yにおける位置ずれの程度も溶接線方向の位置によって異なり得る。このように、開先31のルート面の高さ、ルート間隔等は、不均一である恐れがある。特に、被溶接材30a,30bが大きく溶接線の長さが長い場合、または、被溶接材30a,30bが曲面である場合には位置ずれが生じた開先部分31Yが発生し易い。
【0053】
位置ずれが生じた開先部分31Yにおいて基準の開先部分31Xとおなじ溶接条件で溶接を行うと、溶着量、すなわち、ビードの積層高さが基準の開先部分31Xとは異なってしまう恐れがある。溶着量が溶接線方向の位置によって異なると、溶接欠陥が生じる、強度が不均一になる等、溶接品質を保持できない場合がある。
【0054】
そのため、プロセッサ21は、開先31の形状に基づいて、開先31における溶着量が所定の目標値になるように溶接条件を修正する。開先31の形状は、例えばウィービング両端位置またはウィービング中心位置で検出されるアーク電圧の溶接線方向における変化から推定可能である。例えば、中央倣い制御モードを実行した後の周期において、ウィービング両端位置におけるアーク電圧V1,V2に差が生じる場合、被溶接材30a,30bが上下方向にずれている可能性がある。中央倣い制御モードの実行結果とウィービング両端位置におけるアーク電圧V1,V2の差とに基づいて被溶接材30a,30bの上下方向ずれが推定され得る。
【0055】
また、幅制御モードの実行による溶接線方向におけるウィービング幅の変化傾向からルート間隔の変化が推定され得る。
【0056】
修正される溶接条件は、例えば、溶接速度または溶加材の開先31への供給速度等を含む。溶接速度を遅くすることにより溶着量は増加する。また、溶加材の供給速度を速くすることによっても溶着量は増加する。このように溶接速度または溶加材の供給速度を増減させることによって溶着量が増減する。溶接速度および溶加材の供給速度の双方が修正されてもよい。
【0057】
さらに、溶接速度または溶加材の供給速度が修正されることにより、他の溶接条件も付随して修正され得る。溶接速度または溶加材の供給速度の変更に伴い、良好な溶接状態を担保するために、例えば、溶接電流、オシレート周期、両端停止時間、溶加材への供給電流等が修正され得る。
【0058】
これによれば、リアルタイムで検出される開先の形状に関するデータに基づいて逐次溶接条件を変更しながら溶接を実行することができる。開先の形状によらず、溶着量が所定の目標値Hwとなるように溶接条件が変化する。このため、位置ずれが生じた開先部分31Yにおいても基準の開先部分31Xと同じ溶着量に制御することができる。したがって、開先31の形状が不均一であっても溶着量を一定にすることができ、所望の溶接品質を保持することができる。
【0059】
図7は、開先に形成されるビードの形状不良の例を示す図である。図7は、ビードが凸状に形成されている例を示している。図7の例では、複数回の溶接作業を行う態様において、前回の溶接作業によりビードBが開先31に形成されている。このビードBは、開先幅方向中心部が両端部に対して盛り上がった凸状のビードとなっている。しかしながら、ビードBの表面は平坦であることが望ましい。
【0060】
従来であれば、前層のビードBが凸状に形成された場合、次の層の溶接作業を実施する前に、グラインダ等を用いてビードBの表面を削る作業を行う必要が生じる。これに対して、本実施の形態においては、次の層の溶接作業において溶接条件を修正することにより、前層のビードBが凸状に形成されているにもかかわらず、次の層のビード表面Sbが平坦になるような溶接作業を行う。
【0061】
このために、プロセッサ21は、溶接トーチ12の前回の移動時にデータ取得器である電圧検出器41が取得したデータに基づいて次回の移動時において形成されるビード形状が平坦になるように溶接条件を修正する。例えば、高さ倣い制御モード実行時におけるウィービング中心位置Cwにおけるトーチ高さが所定値以上であれば、前層のビードBが凸状に形成されていることが推定される。これは、高さ倣い制御モード実行時におけるトーチ高さの軌跡がビード形状を示すとみなされるためである。
【0062】
プロセッサ21は、前層においてビードBが凸状に形成されていると推定される溶接線方向位置における溶接条件を修正する。修正される溶接条件は、例えば、両端停止時間、中央停止時間、オシレート周期、溶接電流またはこれらのうちのいくつかの組み合わせを含む。両端停止時間を長くすることにより、ウィービング両端位置におけるビードの形成量が増加する。また、中央停止時間を短くすることにより、ウィービング中心位置におけるビードの形成量が減少する。オシレート周期および溶接電流を調整することによっても形成されるビードの形状を調整し得る。本例においても、両端停止時間等の変更に伴い、良好な溶接状態を担保するために、他の溶接条件が併せて修正され得る。
【0063】
本例においても、リアルタイムで検出される開先の形状に関するデータに基づいて逐次溶接条件を変更しながら溶接を実行することができる。前層のビードBの形状によらず、次層のビード表面Sbが平坦になるように溶接条件が変化する。このため、途中でグラインダ等によりビード表面を削らなくても最終的なビード表面Sbを平坦にすることができ、所望の溶接品質を保持することができる。
【0064】
なお、上記例では、ビード形状が凸状に形成された場合の修正態様について例示したが、ビード形状が凹状に形成された場合も同様に、修正できる。例えば、高さ倣い制御モード実行時におけるウィービング中心位置Cwにおけるトーチ高さが所定値以下であれば、前層のビードBが凹状に形成されることが推定される。
【0065】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0066】
例えば、上記実施の形態においては、実行計画に3つの開先倣い制御モードが含まれる態様を例示したが、実行計画に含まれる開先倣い制御モードの種類は2つでも4つ以上でもよい。例えば、実行計画に含まれる開先倣い制御モードは、高さ倣い制御モードおよび幅倣い制御モードの2つであってもよい。上記実施の形態で説明した3つの開先倣い制御モード以外の開先倣い制御モードが実行計画に含まれてもよい。
【0067】
また、実行計画に含まれる複数の制御モードには、開先倣い制御モード以外の制御モードを含んでもよい。例えば、図5の例において1周期目に、高さ倣い制御モードを実行する代わりに、ウィービングの両端位置におけるトーチ高さを初期値として当該トーチ高さを変えずに溶接トーチ12を移動させる制御モードを実行してもよい。すなわち、トーチ高さ、ウィービング中心位置およびウィービング幅の何れも初期値または前の周期の値を利用するような制御モードが実行されてもよい。このような開先倣い制御モード以外の制御モードは、1周期目だけでなく、何れかの開先倣い制御モードが実行される2つのタイミングの間のタイミングにも実行され得る。
【0068】
また、上記実施の形態においては、溶接機10がTIG溶接機である場合を例示したが、プラズマ溶接機等の他の非消耗電極式の溶接機についても本開示の制御方法を適用可能である。また、本開示の制御方法は、例えば、MAG溶接機、FCAW溶接機、MIG溶接機等の消耗電極式の溶接機についても適用可能である。なお、消耗電極式の溶接機においては、データ取得器として、アーク電圧を検出する電圧検出器41に代えて、溶接電流を検出する電流検出器が用いられる。なお、溶接機10が非消耗電極式と消耗電極式とで切り替え可能な構成の場合、データ取得器は、電圧検出器および電流検出器の双方を含み得る。
【0069】
また、上記実施の形態においては、制御モードが切り替えられるタイミングがオシレート周期における1周期ごとに到来する態様を例示したが、これに限られない。例えば、オシレート周期における所定数の周期ごとに制御モードが切り替えられてもよい。例えば、オシレート周期における2周期ごとに制御モードが切り替えられてもよい。
【0070】
なお、制御モードの切替タイミングにかかわらず、同じ制御モードを連続して実行してもよい。例えば、オシレート周期における1周期目および2周期目に、高さ倣い制御モードが実行され、3周期目に、幅倣い制御モードが実行されてもよい。言い換えると、制御モードが切り替えられるタイミングは、一定でなくてもよい。例えば、制御モードが切り替えられる1回目のタイミングと2回目のタイミングとの間の時間間隔と、2回目のタイミングと3回目のタイミングとの間の時間間隔とが、異なっていてもよい。
【0071】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る溶接機の制御器は、溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御器であって、複数の制御モードを記憶した記憶器と、前記アクチュエータに対する制御指令を生成するプロセッサと、を含み、前記プロセッサは、前記記憶器から前記複数の制御モードを取得し、前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、前記複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータに対する制御指令を生成し、前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。
【0072】
上記構成によれば、プロセッサが、溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、アクチュエータに対する制御指令を生成する。複数の制御モードには、2以上の開先倣い制御モードが含まれるため、溶接動作全体として見れば、2以上の開先倣い制御が包括的に実施される。したがって、開先の状態にかかわらず溶接の質を安定化させることができる。
【0073】
[項目2]
項目1の溶接機の制御器において、前記2以上の開先倣い制御モードは、前記溶接トーチと前記ワークとの間の相対距離を一定にする高さ倣い制御モード、ウィービングの開先幅方向中心位置を前記ワークの開先の幅方向中心位置に合わせる中央倣い制御モード、および、前記ウィービング幅を所定値に調整する幅倣い制御モードのうちの少なくとも何れか2つを含んでもよい。
【0074】
[項目3]
項目1または2の溶接機の制御器において、前記溶接機は、非消耗電極式の溶接機であり、アーク電圧を検出する電圧検出器を備え、前記プロセッサは、前記アーク電圧を、前記ワークに対する前記溶接トーチの高さまたは前記ウィービングの開先幅方向両端位置に関するデータとして取得してもよい。
【0075】
[項目4]
項目1から3の何れかの溶接機の制御器において、前記実行計画は、前記オシレート周期における1周期ごとに、実行される制御モードが設定されていてもよい。
【0076】
[項目5]
項目1から4の何れかの溶接機の制御器において、前記2以上の開先倣い制御モードは、前記ワークに対する前記溶接トーチの高さを一定にする高さ倣い制御モードを含み、前記実行計画は、前記高さ倣い制御モードを実行する割合が他の1つの開先倣い制御モードを実行する割合よりも高く設定されてもよい。
【0077】
高さ倣いを優先することにより溶接の溶着量を優先的に制御することができる。また、高さ倣いを優先することにより、溶接により形成されるビード表面を平坦にすることができる。
【0078】
[項目6]
項目1から5の何れかの溶接機の制御器において、前記ワークに対する前記溶接トーチの高さまたは前記ウィービングの開先幅方向両端位置に関するデータを取得するデータ取得器を備え、前記プロセッサは、前記データ取得器が取得したデータに基づいて前記制御指令を生成するための溶接条件を修正してもよい。
【0079】
これによれば、リアルタイムで検出される開先の形状に関するデータに基づいて逐次溶接条件を変更しながら溶接を実行することができる。
【0080】
[項目7]
項目6の溶接機の制御器において、前記溶接条件は、溶接速度または溶加材の前記開先への供給速度を含み、前記プロセッサは、前記開先における溶着量が所定の目標値になるように前記溶接条件を修正してもよい。
【0081】
これにより、開先の形状によらず、溶着量が所定の目標値となるように溶接条件が変化する。このため、位置ずれが生じた開先部分においても基準の開先部分と同じ溶着量に制御することができる。したがって、開先の形状が不均一であっても溶着量を一定にすることができ、所望の溶接品質を保持することができる。
【0082】
[項目8]
項目6または7の溶接機の制御器において、前記プロセッサは、前記溶接トーチが前記開先の溶接線方向の移動を複数回繰り返すような前記制御指令を生成し、前回の移動時に前記データ取得器が取得したデータに基づいて次回の移動時において形成されるビード形状が平坦になるように前記溶接条件を修正してもよい。
【0083】
これによれば、前層のビードの形状によらず、次層のビード表面が平坦になるように溶接条件が変化する。このため、途中でグラインダ等によりビード表面を削らなくても最終的なビード表面を平坦にすることができ、所望の溶接品質を保持することができる。
【0084】
[項目9]
本開示の他の態様に係る溶接機の制御方法は、溶接トーチと、前記溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、前記ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、前記溶接トーチを、前記ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつ前記ワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させて前記ワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御方法であって、前記溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、予め用意された複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、前記アクチュエータを制御し、前記複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。
【符号の説明】
【0085】
10 溶接機
12 溶接トーチ
15,16 アクチュエータ
20 制御器
21 プロセッサ
22 記憶器
30 ワーク
31 開先
41 電圧検出器(データ取得器)
42 第1方向位置検出器(データ取得器)
43 第2方向位置検出器(データ取得器)
【要約】
【課題】開先の状態にかかわらず溶接の質を安定化させることができる溶接機の制御器および溶接機の制御方法を提供する。
【解決手段】溶接機の制御器は、溶接トーチと、溶接トーチを、溶接対象であるワークの開先の幅方向に移動させるとともに、ワークに対して高さ方向に移動させるアクチュエータと、を備え、溶接トーチを、ワークの開先の幅方向に所定のウィービング幅で周期的に移動させつつワークの溶接線方向に所定のトーチ高さで移動させてワークの溶接線を倣わせる溶接機の制御器であって、プロセッサは、記憶器から複数の制御モードを取得し、溶接トーチの周期的な移動におけるオシレート周期に基づいて予め定められたタイミングごとに、複数の制御モードのうちの何れの制御モードを実行するかを定めた実行計画に従って、アクチュエータに対する制御指令を生成し、複数の制御モードは、2以上の開先倣い制御モードを含む。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7