(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】塗装ロボット
(51)【国際特許分類】
B05B 12/00 20180101AFI20221017BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20221017BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20221017BHJP
【FI】
B05B12/00 A
B05B13/04
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022500555
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2021012051
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀久
(72)【発明者】
【氏名】石田 浩三
(72)【発明者】
【氏名】小池 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 寿雄
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501745(JP,A)
【文献】特開平5-200333(JP,A)
【文献】国際公開第2008/108401(WO,A1)
【文献】特開2010-137204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B05D 1/00-7/26
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの基部と、前記基部から延出する複数のアームと、
前記複数
のアームのうちの少なくとも一つ
のアームに装着され被塗物を塗装する塗装ヘッド
と、を備え、前記塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、
前
記複数のアームのそれぞれ
に設けられたエンコーダ
と、
前
記エンコーダが発する電気信号に基づいて
、それぞれの
前記アームが他の物体と干渉しない範囲で動作
するように前記複数のアームの動作を制御
する制御装置と、を備えることを特徴とする塗装ロボット。
【請求項2】
一つの基部と、前記基部から延出する複数のアームと、
前記複数
のアームのうちの少なくとも一つ
のアームに装着され被塗物を塗装する塗装ヘッド
と、を備え、前記塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、
前記
複数
のアームを撮影した画像データに基づいて
、それぞれの
前記アームが他の物体と干渉しない範囲で動作
するように前記複数のアームの動作を制御
する制御装置を備えることを特徴とする塗装ロボット。
【請求項3】
前
記制御装置は、
前記画像データに基づいて、
前記複数
のアームの制御に係るティーチングデータを修正
することを特徴とする請求項2に記載の塗装ロボット。
【請求項4】
一つの基部と、前記基部から延出する
第一のアームと
、前記
第一のアーム
に装着され被塗物を塗装する第一の塗装ヘッド
と、前記基部から延出する第二のアームと、前記第二のアームに装着され被塗物を塗装する第二の塗装ヘッドと、を備え、前記第一の塗装ヘッド及び前記第二の塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、
前記塗装ヘッドを洗浄する洗浄装置と、
前
記
第一の塗装ヘッド
および前記第二の塗装ヘッドを一つずつ
前記洗浄装置に案内するよう
に前記
第一のアーム
および前記第二のアームの動作を制御する
制御装置と、を備えることを特徴とする塗装ロボット。
【請求項5】
前記基部が受ける荷重を検知可能な荷重センサをさらに備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の塗装ロボット。
【請求項6】
前記制御装置は、前記塗装ヘッドから吐出された塗料のオーバーミストが到達する範囲および当該範囲か
ら所定距離以下の範囲
に他のアーム
が進入
しないように、
前記複数
のアーム
の動作を制御
することを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の塗装ロボット。
【請求項7】
前記制御装置は、前記塗装ヘッドと被
塗物との距離
が前記塗装ヘッドがオーバースプレーを生じない範囲になるように、
前記複数のアーム
の動作を制御
することを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の塗装ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体などに対する塗装を自動化するべく、塗装ロボットが汎用されている。一般的な塗装ロボットの一態様として、6軸垂直多関節型の産業用ロボットの先端に、一つの塗装ノズルを装着した態様のロボットが広く用いられている。
【0003】
数多くの塗装ロボットを使用する塗装ラインでは総延長が長くなり、広大な設置面積を要する。そこで、塗装ロボットの高集積化を志向して、複数のアームを有する塗装ロボットが検討されている。たとえば、特許文献1には、複数のアームを有するロボットにおいて、各アームの先端にロータリーベルのような塗装装置を設けうることが開示されている。また、特許文献2には、複数のアームを有する工業用ロボットを塗装作業に適用しうることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-501745号公報(または国際公開第2003/021519号)
【文献】実開平1-156887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、複数のアームの先端に塗装ヘッドを有する塗装ロボットを運転する場合、アーム間の干渉が問題となる場合があった。塗装ロボットでは、アーム同士が物理的に干渉することに加え、ある特定のアームに装着された塗装ヘッドから吐出された塗料が他のアームの塗装作業を妨げる(他のアームに塗料が付着する、他のアームの作業対象部位に塗料が付着する、など)態様の干渉についても考慮する必要があり、他の産業分野において使用されるロボットに比べて複数のアームを設ける場合の制約が大きい。しかし、特許文献1および2のロボットでは、このような課題について考慮されていなかった。
【0006】
そこで、複数のアームが塗装ヘッドを有する塗装ロボットにおいて、他のアームへの塗料の干渉を低減することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第一の塗装ロボットは、一つの基部と、前記基部から延出する複数のアームと、前記複数のアームのうちの少なくとも一つのアームに装着され被塗物を塗装する塗装ヘッドと、を備え、前記塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、前記複数のアームのそれぞれに設けられたエンコーダと、前記エンコーダが発する電気信号に基づいて、それぞれの前記アームが他の物体と干渉しない範囲で動作するように前記複数のアームの動作を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る第二の塗装ロボットは、一つの基部と、前記基部から延出する複数のアームと、前記複数のアームのうちの少なくとも一つのアームに装着され被塗物を塗装する塗装ヘッドと、を備え、前記塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、前記複数のアームを撮影した画像データに基づいて、それぞれの前記アームが他の物体と干渉しない範囲で動作するように前記複数のアームの動作を制御する制御装置を備えることを特徴とする。
本発明に係る第三の塗装ロボットは、一つの基部と、前記基部から延出する第一のアームと、前記第一のアームに装着され被塗物を塗装する第一の塗装ヘッドと、前記基部から延出する第二のアームと、前記第二のアームに装着され被塗物を塗装する第二の塗装ヘッドと、を備え、前記第一の塗装ヘッド及び前記第二の塗装ヘッドは当該塗装ヘッドから吐出される塗料の90%以上が被塗物に付着する塗装ロボットにおいて、前記塗装ヘッドを洗浄する洗浄装置と、前記第一の塗装ヘッドおよび前記第二の塗装ヘッドを一つずつ前記洗浄装置に案内するように前記第一のアームおよび前記第二のアームの動作を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、高塗着率の塗装ヘッドを設けるため、各アームに装着された塗装ヘッドから吐出された塗料の大部分が被塗物に付着し、他のアームに干渉することが好適に回避されうる。なお、この構成で用いる塗装ヘッドは、塗着率が高い反面、単位時間あたりに塗装可能な面積が比較的小さいという特徴があるが、この構成では単一の塗装ロボットに複数の塗装ヘッドを集約できるので、塗装ロボットの設置面積を過度に増やすことなく、塗装作業の生産性を効果的に向上しうる。
第一および第二の構成によれば、アーム同士の物理的干渉やアームと被塗物との物理的干渉などを精密に回避しうる。
第三の構成によれば、洗浄装置の設置数を塗装ヘッドの数より少なくした場合であっても、洗浄の順番待ちを抑制しうる。これによって、洗浄装置の設置数を抑制しうる。
【0028】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態に係る塗装ロボットの使用状態を示す図である。
【
図2】実施形態に係る塗装ロボットのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る塗装ロボットの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る塗装ロボットを、自動車の車体V(被塗装物の例)を塗装可能な塗装ロボット1に適用した例について説明する。
【0031】
〔塗装ロボットの構成〕
本実施形態に係る塗装ロボット1は、一つの基部2と、基部2から延出する複数のアーム3と、制御装置4と、を備える(
図1、
図2)。塗装分野で従来用いられている一般的な塗装ロボットとしては、一つの基部から一つのアームが延出している構造が一般的であるが、本実施形態では一つの基部2から複数のアーム3が延出している。
【0032】
基部2は、設置面に垂直な軸の周りに回転動作できるように構成されている。基部2の回転動作によって、三つのアーム3を車体Vの方に向けるなど、塗装ロボット1全体の大まかな配向を調節できる。基部2の回転動作は、制御装置4によって制御される。
【0033】
また、基部2には、基部2が受ける荷重を検知可能な荷重センサ21が設けられている。荷重センサ21は、たとえば、アーム3の動作によって基部2が受ける荷重を検知する。
【0034】
本実施形態では、三つのアーム3が設けられている。それぞれのアーム3の動作は、基部2を含めた動作として、従来の6軸垂直多関節型の産業用ロボットの動作と同様である。したがって、それぞれのアーム3の動作は、基部2および各アーム3における六つの軸を制御する各モータを動作させることによって実現される。各アーム3の教示点は、各軸パルス形式やワールド座標系空間座標形式など公知の方式で指定されうる。アーム3の動作(各軸を制御するモータの動作)は、制御装置4によって制御される。
【0035】
第一アーム3Aの先端には第一塗装ヘッド31A(塗装ヘッド31)が設けられており、第二アーム3Bの先端には第二塗装ヘッド31B(塗装ヘッド31)が設けられている。塗装ヘッド31は、高塗着率タイプの塗装ヘッドであり、好ましくは塗装ヘッド31から吐出された塗料の90%以上(質量基準)が被塗物に付着する塗着率を有する。具体的には、本実施形態における塗装ヘッド31は、たとえば静電霧化方式やジェットノズル方式などの塗装ヘッドであってよく、また、ベルマウス方式などの従来の塗装ヘッドの高塗着率型機であってもよい。これらの例示から明らかなように、塗装ヘッド31の塗着率は、塗装ヘッドの種々の方式の中でも一部の限られた方式によってのみ実現されうる高い水準にある。
【0036】
一方、第三アーム3Cの先端には、ドアオープナー32が設けられている。ドアオープナー32は、車体VのドアDを開閉するための治具であり、本実施形態では鉤状の部材として構成されている。ドアオープナー32をドアDに係止させた状態で第三アーム3Cを動作させると、第三アーム3Cに追随してドアDが動作し、これによってドアDを開閉できる。塗装ロボット1は、ドアオープナー32を用いてドアDを開閉できるので、ドアDの外側および内側の両方に塗装を施すことができる。また、ドアオープナー32によるドアDの開閉と塗装ヘッド31によるドアDの塗装とを連動させることによって、ドアDの内側と外側とを連続的に塗装できる。この作業手順によれば、ドアDの塗装に要する時間を従来に比べて短縮しうる。
【0037】
また、それぞれのアーム3には、エンコーダ33が設けられている。エンコーダ33が発する電気信号は、制御装置4に入力される。制御装置4は、エンコーダ33が発する電気信号に基づいて、それぞれのアーム3の現在位置を認識できる。
【0038】
制御装置4は、基部2、それぞれのアーム3、ならびに、塗装ヘッド31およびドアオープナー32の動作を制御可能に構成されている。制御装置4は、公知のコンピュータとして構成されており、CPUなどの演算装置、ハードディスクなどの記憶装置、ディスプレイなどの出力装置、キーボードなどの入力装置、LANモジュールなどの通信装置、といったコンピュータとして一般的な構成要素を含む。
【0039】
〔塗装ロボットの制御〕
次に、塗装ロボット1の各部の制御について説明する。以下に説明する(1)オーバーミスト付着回避制御、(2)干渉回避制御、(3)オーバースプレー回避制御、(4)ティーチングデータ修正、(5)過負荷検出、および(6)洗浄制御は、いずれも制御装置4によって実行される。なお、(1)~(6)の各制御は、矛盾しない限りにおいて同時に実行されうる。
【0040】
(1)オーバーミスト付着回避制御
制御装置4は、あるアーム3の塗装ヘッド31から吐出された塗料のオーバーミストが到達する範囲、および当該範囲からの離間距離が所定の距離以下の範囲に、他のアーム3を進入させないように、三つのアーム3のそれぞれの動作を制御できる。換言すれば、制御装置4は、それぞれの塗装ヘッド31に対応する進入禁止領域を設定し、当該進入禁止領域に他のアーム3が進入しないように制御する。ここで、ある塗装ヘッド31に対応する進入禁止領域は、たとえば、当該塗装ヘッド31の吐出口と、当該塗装ヘッド31から吐出された塗料を着液させようとする狙い点と、を結ぶ直線の両側側方50mmの範囲でありうる。
【0041】
(2)干渉回避制御
制御装置4は、三つのアーム3のそれぞれの動作を、それぞれのアーム3が他の物体と干渉しない範囲で制御できる。ここで、他の物体としては、他のアーム3、車体V、他の塗装ロボット、塗装ブース内の構造物、などが例示される。
【0042】
第一の例として、干渉を回避するための制御は、エンコーダ33から入力される信号に基づいて実行されうる。制御装置4は、三つのエンコーダ33が発する電気信号に基づいて、それぞれのアーム3の現在位置を認識でき、これによってそれぞれのアーム3の現在位置を考慮した制御を実行できる。たとえば、あるアーム3の周囲の所定の範囲に他のアーム3が存在することを認識した場合、制御装置4は、塗装ロボット1の全体の動作を停止させる制御を行う。これは、エンコーダ33から入力される信号に基づいて認識されるアーム3の位置関係が、アーム3の動作を継続するとあるアーム3と他のアーム3とが干渉するおそれがあることを示しているからである。同様に、アーム3と、車体Vなどの他の物体との干渉も回避しうる。このように、エンコーダ33によってアーム3の現在位置を認識することで、アーム3と他の物体との干渉を未然に防ぎうる。
【0043】
第二の例として、干渉を回避するための制御は、三つのアーム3を撮影した画像データに基づいて実行されうる。この例では、三つのアーム3および車体Vを撮影範囲に含むカメラ(不図示)によって撮影された画像データが制御装置4に入力され、制御装置4は当該画像データに基づいて三つのアーム3のそれぞれの動作を制御する。たとえば、画像データにおけるアーム3同士の離間距離またはアーム3と車体Vとの離間距離が所定の閾値より小さいときに、干渉のおそれがあると判断し、当該離間距離を増大させる方向にアーム3を動作させるように制御を行う。
【0044】
第三の例として、干渉を回避するための制御は、制御装置4にあらかじめ入力されている、車体Vの寸法情報、塗装ロボット1の各部の寸法情報、塗装ロボット1の各部の可動範囲の情報、塗装ロボット1の各部の制御量の現在値、などの諸情報に基づいて実行されうる。たとえば、各部の寸法情報と、塗装ロボット1の各部の制御量の現在値と、に基づいて、アーム3間相互の離間距離およびアーム3と車体Vとの離間距離を算出できるので、当該離間距離に基づいて干渉を回避するための制御を実行しうる。
【0045】
また、第一~第三のいずれの例においても、アーム3の動作の制御に加えて、実施された制御に係る情報の記録、表示、および送信などが行われてもよい。この場合、実施される動作(情報の記録、表示、および送信など)に対応する装置が制御装置4に備えられうる。制御に係る情報は、塗装ロボット1の姿勢、各アーム3の位置、距離、および方向、被塗物の位置、各種運転パラメータ、時刻、ならびに画像データなどが含まれうるが、これらに限定されない。
【0046】
(3)オーバースプレー回避制御
制御装置4は、塗装ヘッド31と車体Vとの距離が、塗装ヘッド31がオーバースプレーを生じない範囲になるように、三つのアーム3のそれぞれの動作を制御できる。具体的には、塗装ヘッド31の仕様(機種、型番など)によって、オーバースプレーが生じない被塗装物との離間距離の範囲(以下、適正範囲という。)が決定されるので、塗装ヘッド31と車体Vとの距離が適正範囲内になるように、三つのアーム3のそれぞれの動作を制御する。ここで、塗装ヘッド31と車体Vとの距離の現在値は、上記(2)の第二の例(画像データを用いる方法)および第三の例(制御量などに基づいて算出する方法)などの方法によって決定されうる。なお、第一アーム3Aおよび第二アーム3Bに現に装着されている第一塗装ヘッド31Aおよび第二塗装ヘッド31Bの仕様および適正範囲は、制御装置4の記憶装置にあらかじめ記憶されている。
【0047】
(4)ティーチングデータ修正
制御装置4は、三つのアーム3を撮影した画像データに基づいて、三つのアーム3の制御に係るティーチングデータを修正できる。
【0048】
塗装ロボット1の各部は、教示プログラムが実行される制御装置4によって制御される。教示プログラムには一つまたは複数のティーチングデータが含まれている。それぞれのティーチングデータは、塗装ロボット1が取るべき単位動作を表し、たとえば、当該単位動作においてアーム3が移動すべき点の座標を特定する情報、当該移動の速度を特定する情報、当該移動中の塗装ヘッド31に動作を特定する情報、などが含まれる。
【0049】
ティーチングデータは、車体Vに対して所望の塗装が施されるように設定されるが、種々の要因によって、ティーチングデータに従う塗装ロボット一の動作が本来意図された動作と異なる場合がある。そこで、本実施形態では、三つのアーム3を撮影した画像データに基づいて、三つのアーム3の制御に係るティーチングデータを修正できるように構成されている。具体的には、たとえば、画像データ上において、本来意図された動作における塗装ヘッド31の軌跡と、実際に撮影された塗装ヘッド31の軌跡とを比較し、その差分がなくなるようにティーチングデータを修正する。ティーチングデータの修正は、制御装置4によって自律的に行なわれてもよいし、作業員による入力操作に基づいて人為的に行われてもよい。
【0050】
(5)過負荷検出
制御装置4は、荷重センサ21が検知した荷重が所定の閾値を超えるときに、基部2が過負荷を受けていると判定できる。たとえば、三つのアーム3の全てが基部2を基準として車体Vの前方方向(
図1の右側)に偏って存在しているときに、荷重センサ21は、基部2を車体Vの前方方向に回転させる(倒させる)ように働く荷重を検知する。
【0051】
制御装置4が、過負荷の有無を判定する基準とする荷重は、荷重センサ21が検知した荷重の絶対値であってもよいし、当該荷重の方向を考慮したものであってもよい。たとえば、荷重センサ21が検知した荷重の水平方向成分に基づいて過負荷の有無を判定するように構成すると、上記に例示したようなアーム3が偏在する態様の不具合(過負荷)を検出しやすい。
【0052】
なお、制御装置4が、基部2が過負荷を受けていると判定したときに、当該過負荷に係る情報の記録、表示、および送信などが行われてもよい。この場合、実施される動作(情報の記録、表示、および送信など)に対応する装置が制御装置4に備えられうる。過負荷に係る情報は、検出された荷重の値および方向、塗装ロボット1の姿勢、各種運転パラメータ、時刻、ならびに画像データなどが含まれうるが、これらに限定されない。
【0053】
(6)洗浄制御
制御装置4は、塗装ヘッド31を洗浄するときに、二つの塗装ヘッド31(第一塗装ヘッド31A、第二塗装ヘッド31B)を一つずつ順に洗浄装置に案内するように二つのアーム3(第一アーム3A、第二アーム3B)を制御する。
【0054】
たとえば、
図1に示した塗装ロボット1において、第一アーム3A(第一塗装ヘッド31A)が車体Vの前方半分の塗装を主に担当し、第二アーム3B(第二塗装ヘッド31B)が車体Vの後方半分の塗装を主に担当する場合を想定する。ここで、車体Vの前方半分の塗装が、車体Vの後方半分の塗装に先んじて完了したとすると、第一塗装ヘッド31Aが担当する塗装は完了しているが第二塗装ヘッド31Bが担当する塗装がまだ残っている、という状況が生じる。このとき、制御装置4は、第二塗装ヘッド31Bに塗装を継続させるように第二アーム3Bを制御するとともに、第一アーム3Aを、第一塗装ヘッド31Aを洗浄装置(不図示)に案内させるように制御する。これによって、第二塗装ヘッド31Bによる塗装を継続しながら、第一塗装ヘッド31Aの洗浄を実施できる。その後、第二塗装ヘッド31Bが担当する塗装が完了した後に、第二アーム3Bを、第二塗装ヘッド31B洗浄装置に案内させるように制御する。この構成によって、洗浄待ちを生ずることなく、二つの塗装ヘッド31を洗浄するために必要な洗浄装置の設置数を最小限にできる。
【0055】
〔塗装ロボットの作用効果〕
本実施形態に係る塗装ロボット1によれば、単一のアームのみを有する従来の塗装ロボットを用いる場合に比べて、塗装ロボットの設置数を減らしうる。また、複数の塗装ロボットを設置する場合には、異なる個体の塗装ロボット同士が干渉しないように適切な離間距離を設ける必要があるが、本実施形態に係る塗装ロボット1によれば塗装ロボットの設置数自体を減らすことができるため、離間距離を設ける必要がある箇所の数が減少する。これによって、塗装ラインの総延長を従来に比べて短縮しうる。
【0056】
さらに、従来は別々の工程として設計されていた塗装工程を集約することも行いうる。たとえば、外板塗装工程と内板塗装工程とを別々に設けていた工程を、外板と内板とを並行して塗装する工程に集約しうる。
【0057】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る塗装ロボットのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0058】
本発明に係る塗装ロボットが設置される場所は限定されず、床面、壁面、天井面などでありうる。また、本発明に係る塗装ロボットは、移動可能に構成されていてもよい。たとえば、塗装ブース内に設けられたレール上を走行可能に構成されていてもよい。
【0059】
本発明に係る塗装ロボットにおいて、アームの数は限定されない。アームの数は、たとえば2~4本でありうる。また、各アームの軸数も特に限定されない。複数のアームの軸数は、全て同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0060】
上記の実施形態では、三つのアーム3に、それぞれ、第一塗装ヘッド31A、第二塗装ヘッド31B、およびドアオープナー32が設けられている構成を例として説明した。しかし、本発明に係る塗装ロボットにおいて複数のアームに設けられる作業装置は、少なくとも一つのアームが塗装ヘッドを有する限りにおいて限定されない。アームに設けられうる作業装置としては、塗装ヘッド、ドアオープナー、カメラ、表面温度計、非接触塗料固形分(NV)測定器、非接触膜厚測定器(未乾燥塗料膜厚測定器)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0061】
上記の実施形態では、それぞれのアーム3にエンコーダ33が設けられており、エンコーダ33から出力される電気信号に基づいて干渉回避制御が行われる例について説明した。しかし、本発明において、それぞれのアームが他の物体と干渉しないように制御するための方法は上記に限定されない。たとえば、それぞれのアームに近接センサを設け、当該近接センサの反応に基づいて当該アームの周囲に干渉しうる他の物体が存在することを認識する構成を採用しうる。
【0062】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、たとえば、自動車車体の塗装などに利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 :塗装ロボット
2 :基部
21 :荷重センサ
3 :アーム
3A :第一アーム
3B :第二アーム
3C :第三アーム
31 :塗装ヘッド
31A :第一塗装ヘッド
31B :第二塗装ヘッド
32 :ドアオープナー
33 :エンコーダ
4 :制御装置
V :車体
D :ドア
【要約】
複数のアームが塗装ヘッドを有する塗装ロボットにおいて、他のアームへの塗料の付着を低減する。本発明に係る塗装ロボット1は、一つの基部2と、基部2から延出する複数のアーム3と、制御装置と、を備え、複数のアーム3のうちの少なくとも一つは、高塗着率の塗装ヘッド31を有する。