(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-14
(45)【発行日】2022-10-24
(54)【発明の名称】アンテナ装置、無線端末及び無線モジュール
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20221017BHJP
【FI】
H01Q13/08
(21)【出願番号】P 2022546491
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008818
【審査請求日】2022-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318012780
【氏名又は名称】FCNT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠島 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 学
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-206781(JP,A)
【文献】特開2006-262218(JP,A)
【文献】特開2009-081833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面を有する基板グランドと、
前記基板グランドの平面部分に対し平行に対向配置される平面状の放射素子と、
前記放射素子に繋がる給電点と、
前記放射素子
の前記基板グランドに対向しない面である放射面側において、前記放射面から前記放射面に垂直な放射方向へ向かって導電性材料のグランドパターンを積み重ねた積層体を形成するグランド部と、を備え、
前記積層体の各層のグランドパターンは、前記放射方向を上方向とした場合に、前記放射面側にある他の層のグランドパターンの直上部分の内側に形成されており、前記放射面の直上部分に導電性材料を配置しない非グランド部分が形成されており、且つ、前記非グランド部分が前記放射方向の層へ移るにつれて徐々に拡大するように形成されている、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記非グランド部分は、前記グランドパターンに形成される開口形状の部分であり、
前記
グランド部は、各層の前
記非グランド部分
が前記放射方向の層へ移るにつれて徐々に拡大することによって
開口幅を徐々に拡幅する開口部を有する、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記放射素子は、前記放射面が正方形であり、
前記非グランド部分は、正方形の開口形状である、
請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記非グランド部分は、前記放射方向の層へ移るにつれて
前記放射面の中央部を通る仮想中心軸を挟んで対称に
拡大するように形成されている、
請求項1
から3の何れか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載のアンテナ装置と、
前記アンテナ装置を内蔵する筐体と、を備える、
無線端末。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一項に記載のアンテナ装置を複数並べた、
無線モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、無線端末及び無線モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
無線機器には、各種のアンテナが用いられている(特許文献1-2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-259730号公報
【文献】特開2014-96742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、インターネット等における通信量は増加の一途を辿っており、無線通信の分野においても高速な無線通信が求められている。このため、スマートフォンやその他各種の無線端末では、例えば、ミリ波帯と呼ばれる数十乃至数百GHzの周波数帯の利用が検討されている。このような周波数帯は、波長が極めて短いのでアンテナも小型化可能であり、無線端末の小型化にも好適である。
【0005】
ミリ波帯のアンテナには、マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナとも呼ばれる)が多用される。例えば、角型のマイクロストリップアンテナであれば、偏波を考慮した給電をすることで、電波の向きを制御することもできる。また、ミリ波帯の電波は、相互に干渉して波を強めあったり弱めあったりする性質が比較的強いので、平面状の放射素子を縦横に配列したアレイアンテナを用いると、アンテナ全体の指向性を強めたり、放射角を広めたりすることが可能となる。しかし、利用者が携帯可能な小型の無線端末の場合、放射素子を筐体内で縦横に配列するスペースを確保することは容易でない。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、平面状の放射素子の指向性を高めたアンテナ装置、無線端末及び無線モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のようなアンテナ装置によって例示される。
平面状の放射素子と、
放射素子に繋がる給電点と、
放射素子を導電性材料の開口部に内置するグランド部と、を備え、
開口部は、放射素子の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状を有する、
アンテナ装置。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、平面状の放射素子の指向性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の外観斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るアンテナ装置の内部構造を示した図である。
【
図3】
図3は、樹脂の図示を省略した実施形態に係るアンテナ装置の斜視図である。
【
図4】
図4は、比較例に係るアンテナ装置の内部構造を示した図である。
【
図5】
図5は、樹脂の図示を省略した比較例に係るアンテナ装置の斜視図である。
【
図6】
図6は、シミュレーション結果を示した第1の図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション結果を示した第2の図である。
【
図8】
図8は、シミュレーション結果を示した第3の図である。
【
図9】
図9は、シミュレーション結果を示した第4の図である。
【
図10】
図10は、変形例に係るアンテナ装置の内部構造を示した図である。
【
図11】
図11は、樹脂の図示を省略した変形例に係るアンテナ装置の斜視図である。
【
図12】
図12は、シミュレーション結果を示した第5の図である。
【
図13】
図13は、グランド開口部の拡幅度合いとピーク利得との関係のシミュレーション結果を示したグラフである。
【
図14】
図14は、グランドパターンの層数とピーク利得との関係のシミュレーション結果を示したグラフである。
【
図15】
図15は、金属板にグランド開口部を形成した金属加工体を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。
【0011】
実施形態に係るアンテナ装置は、例えば、以下の構成を備える。すなわち、アンテナ装置は、平面状の放射素子と、放射素子に繋がる給電点と、放射素子を導電性材料の開口部に内置するグランド部と、を備え、開口部は、放射素子の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状を有する。
【0012】
上記アンテナ装置によれば、平面状の放射素子の指向性を高めることができる。また、上記アンテナ装置は、例えば、無線端末に実装することができる。無線端末としては、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブルコンピュータ、携帯電話、ノートブック型パーソナルコンピュータ等を挙げることができる。
【0013】
以下、上記アンテナ装置の詳細を説明する。
図1は、実施形態に係るアンテナ装置の外観斜視図である。
図1ではアンテナ装置1の外観を示すために全体視矩形の要部を例示しているが、アンテナ装置1は、このような外観を呈する形態に限定されるものではない。アンテナ装置1は、各種の処理を司る電子回路の配線基板の一部であってもよいし、その他の部材の一部であってもよい。配線基板は、硬質なリジッド基板であっても屈曲可能なフレキシブル基板であってもよい。
【0014】
アンテナ装置1は、基板グランド2、基板グランド2に積層される樹脂3、樹脂3に積層されるグランドパターン4A~4Eによって形成されるグランド部4、グランドパターン4Aに形成される開口形状の非グランド部分4AH等によってグランド部4に形成されるグランド開口部5を備える。以下、アンテナ装置1の内部構造の図面も参照しながら、アンテナ装置1の詳細について説明する。
【0015】
図2は、実施形態に係るアンテナ装置1の内部構造を示した図である。また、
図3は、樹脂3の図示を省略した実施形態に係るアンテナ装置1の斜視図である。
図2では、アンテナ装置1の外観を正面から示した図、及び、
図2において符号A-Aで示す線でアンテナ装置1を切断した場合の断面図を示している。
【0016】
図2の断面図を見ると判るように、グランドパターン4A~4Eは、互いに距離を空けた状態で樹脂3内に積層されている。また、グランドパターン4Eが形成されている層には、平面状の放射素子6もグランドパターン4Eの非グランド部分4EH内に形成されている。アンテナ装置1は、このように、誘電体の樹脂3に導電性材料の層を積層した多層基板の形態となっている。導電性材料の層としては、例えば、銅箔の層が挙げられる。導電性材料の各層は、基板グランド2のグランド部分と導通しており、電位がグランドと同じになっている。
【0017】
放射素子6は、アンテナ装置1の正面視において正方形(パッチ形状)に形成される放射素子である。放射素子6は、給電点7を介して基板グランド2の高周波回路と接続されている。また、
図3を見ると判るように、アンテナ装置1は、放射素子6に2つの給電点7を設けた偏波共用アンテナとなっている。そして、放射素子6は、給電点7を介して基板グランド2の高周波回路から給電されるミリ波帯の電波を出射したり、外部から送信された電波を受信したりする。給電点7には、適宜の整合回路が設けられていてもよい。また、基板グランド2の高周波回路には、適宜のハイパスフィルタやバンドパスフィルタが採用されていてもよい。
【0018】
放射素子6は、アンテナ装置1が送受信を行う設計周波数の電波の波長λで共振するような長さを縦方向と横方向に有している。すなわち、放射素子6の縦方向と横方向の寸法は、λ/2の正の整数倍に樹脂3の誘電率による波長短縮を考慮した長さとなっている。
【0019】
図2及び
図3を見ると判るように、本実施形態のアンテナ装置1は、グランド部4のグランドパターン4A~4Eの各非グランド部分4AH~4EHが形成するグランド開口部5に放射素子6を内置した形態となっている。そして、グランド開口部5は、グランド部4のグランドパターン4A~4Eの各非グランド部分4AH~4EHが、放射素子6の放射面の放射方向の層へ移るにつれて徐々に拡大することにより、放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状となっている。グランド開口部5は、放射素子6が有する正方形の放射面の中央部を通る仮想中心軸を挟んで対称に拡幅する開口形状となっている。また、各非グランド部分4AH~4EHが正方形であるため、グランド開口部5は、全体視正方形の開口形状となっている。このため、グランド開口部5は、四角錐の底部を裏側から見たような逆四角錐の一部分に似た形態となっている。或いは、グランド開口部5は、縁がテーパー状或いは段差状の開口部と捉えることもできる。
【0020】
上記実施形態のアンテナ装置1であれば、放射素子6を内置するグランド部4のグランド開口部5が、放射素子6の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状となっているため、平面状の放射素子6の指向性を高めることができる。グランド開口部5の開口形状の効果について電磁界シミュレータで検証したので、以下、検証内容について説明する。
【0021】
本検証においては、上記実施形態に係るアンテナ装置1のグランド開口部5を、放射素子6の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅しない開口形状のものを比較例として用意した。
図4は、比較例に係るアンテナ装置の内部構造を示した図である。また、
図5は、樹脂の図示を省略した比較例に係るアンテナ装置101の斜視図である。
図4では、アンテナ装置101の外観を正面から示した図、及び、
図4において符号B-Bで示す線でアンテナ装置101を切断した場合の断面図を示している。本比較例に係るアンテナ装置101において、実施形態に係るアンテナ装置1と同様の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0022】
図4及び
図5を見ると判るように、比較例のアンテナ装置101は、グランド部104のグランド部104A~4Eの各グランド部104AH~4EHが形成するグランド開口部105に放射素子6を内置した形態となっている。そして、グランド開口部105は、グランド部104のグランド部104A~4Eの各グランド部104AH~4EHが何れも同じ大きさとなっている。よって、比較例のグランド開口部105は、実施形態のグランド開口部5のように放射素子6の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状は有しておらず、放射素子6の放射面の放射方向に向かって開口幅が一定の開口形状となっている。
【0023】
本シミュレーションにおける諸条件を以下に示す(寸法記号は
図2,4の記号に対応)。
<シミュレーション条件>
周波数f=38GHz(波長λ=約8mm*)
(*樹脂の誘電体をEr=4.5とした場合、波長短縮効果により波長は約4mmとなる)
グランドパターン同士の間隔d=0.1mm
放射素子の一辺の長さW=2.0mm
非グランド部分の一辺の長さ(※1)
Lo(mm)=4.0mm
Li(mm)=2.4mm
L(mm)=2.3mm
※1:実施形態における各層の非グランド部分の一辺の長さはLiからLoへ向かって均等に拡幅しているものとする。
【0024】
図6は、シミュレーション結果を示した第1の図である。
図6において、X軸方向は
図2,4に示す正面図における左右方向に相当し、Y軸方向は
図2,4に示す正面図における上下方向に相当し、Z軸方向は
図2,4に示す正面図における紙面に直交する方向に相当する。よって、
図6において、Z軸の矢印方向は、放射素子6,106の放射面の放射方向に相当する。また、
図6におけるグレースケールの濃淡表示は、アンテナの利得を表しており、利得が高い箇所を濃いグレーで示している。
【0025】
図6に示すように、実施形態のアンテナ装置1は、Z軸方向における利得が6.8dBiとなっている。これに対し、比較例のアンテナ装置101は、Z軸方向における利得が5.0dBiとなっている。すなわち、Z軸方向における利得は、実施形態のアンテナ装置1の方が比較例のアンテナ装置101よりも1.8dB高い。よって、実施形態のアンテナ装置1は、比較例のアンテナ装置101に比べて、放射素子6の指向性が高まると言える。
【0026】
以下、実施形態のアンテナ装置1の方が比較例のアンテナ装置101よりも指向性が高まる理由について説明する。
図7は、シミュレーション結果を示した第2の図である。また、
図8は、シミュレーション結果を示した第3の図である。また、
図9は、シミュレーション結果を示した第4の図である。より具体的には、
図7では、実施形態のアンテナ装置1をA-A断面で切断した場合における電界強度の分布を等高線で表した等高線図と、比較例のアンテナ装置101をB-B断面で切断した場合における電界強度の分布を等高線で表した等高線図とを並べて示している。また、
図8では、非グランド部分4AH~4EHの縁の位置と電界強度との関係が判るように、
図7に示す実施形態の等高線図のうちグランド開口部5の縁付近を拡大した拡大図を示している。また、
図9では、グランド部104AH~104EHの縁の位置と電界強度との関係が判るように、
図7に示す比較例の等高線図のうちグランド開口部105の縁付近を拡大した拡大図を示している。
【0027】
まず、
図7に示す実施形態の等高線図と比較例の等高線図とを見比べると判るように、実施形態の方が比較例よりも放射方向における電界強度が強くなっている。そして、
図7において拡大図で示す部分を見ると判るように、グランド開口部5,105の縁付近における電界強度の分布に大きな違いが生じている。すなわち、
図7における実施形態の拡大図と比較例の拡大図とを見比べると、グランド開口部5,105の縁付近から放射方向の側方(
図7の紙面において上方向)に向かう等高線の密度は、実施形態の方が比較例よりも低いことが判る。換言すると、グランド開口部5,105の縁付近では、比較例の方が実施形態よりも電界がグランドパターンに引き寄せられている。これは、
図8を見ると判るように、実施形態では非グランド部分4AH~4EHの縁がグランド開口部5の縁を段差状に形成しているため、グランド開口部5の縁付近におけるグランド部4の成分(グランドとしての力)が弱く、放射方向へ向かう成分を弱めるグランド部4の影響が小さいためと考えられる。一方、
図9を見ると判るように、比較例ではグランド部104AH~104EHの縁がグランド開口部105の縁を段差状に形成していないため、グランド開口部105の縁付近におけるグランド部104の成分(グランドとしての力)が強く、放射方向へ向かう成分を弱めるグランド部104の影響が小さくないためと考えられる。
【0028】
このように、実施形態のアンテナ装置1は、比較例のアンテナ装置101に比べて、放射電力のグランド部への帰還が減少するため、放射素子6の放射面が向いている方向(放射方向)、すなわち、放射素子6の正面の方向へ向かって放射される電力が強まり、放射方向のピーク利得が改善していると考えられる。
【0029】
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0030】
<放射素子の変形例>
図10は、変形例に係るアンテナ装置の内部構造を示した図である。また、
図11は、樹脂の図示を省略した変形例に係るアンテナ装置11の斜視図である。
図10では、アンテナ装置11の外観を正面から示した図、及び、
図10において符号C-Cで示す線でアンテナ装置11を切断した場合の断面図を示している。本変形例に係るアンテナ装置11において、実施形態に係るアンテナ装置1と同様の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0031】
図10及び
図11を見ると判るように、本変形例に係るアンテナ装置11の放射素子16は、正方形で板状の導電性材料同士を、非導電性の樹脂を介して2枚積み重ねたようなスタック構造の放射素子となっている。放射素子16を構成する2つの板状の導電性材料のうち、基板グランド2に近い方は給電点7が接続される放射素子となっており、基板グランド2に遠い方は給電点7が接続されない無給電の放射素子となっている。このような放射素子16であれば、上記実施形態に係るアンテナ装置1の放射素子6に比べて広帯域化或いは高利得化が可能となる。
【0032】
図12は、シミュレーション結果を示した第5の図である。
図12に示すように、本変形例のアンテナ装置11は、Z軸方向における利得が7.2dBiとなっている。これに対し、比較例のアンテナ装置101は、前述したようにZ軸方向における利得が5.0dBiとなっている。すなわち、Z軸方向における利得は、本変形例のアンテナ装置11の方が比較例のアンテナ装置101よりも2.2dB高い。よって、変形例のアンテナ装置11は、比較例のアンテナ装置101に比べて、放射素子16の指向性が高いと言える。
【0033】
<拡幅度合いの変形例>
また、上記実施形態に係るアンテナ装置1におけるグランド開口部5の拡幅度合いは適宜変形してもよい。
図13は、グランド開口部5の拡幅度合いとピーク利得との関係のシミュレーション結果を示したグラフである。
図13における横軸は、
図2において記号Loで示す寸法を放射素子の一片の長さWで表している。その他の条件については、前述の<シミュレーション条件>の欄に記載の通りである。
【0034】
図13のグラフに示すように、Loが1.1Wから1.5Wまでの間におけるピーク利得は5.6dBiから5.9dBiである。実機の電界強度を測定する測定機の計測誤差が0.8dB程度であることを考慮すると、Loが1.1Wから1.5Wまでの間においては、本実施形態に係るアンテナ装置1における指向性の向上効果が弱いことが判る。また、Loが4.0Wから4.5Wまでの間におけるピーク利得は5.7dBiから5.8dBiである。よって、Loが4.0Wから4.5Wまでの間においても、本実施形態に係るアンテナ装置1における指向性の向上効果が弱いことが判る。
【0035】
一方、Loが2.0Wから3.5Wまでの間におけるピーク利得は6.8dBiから7.2dBiである。したがって、Loが2.0Wから3.5Wまでの間においては、本実施形態に係るアンテナ装置1における指向性の向上効果が十分に発揮されることが判る。したがって、本実施形態のアンテナ装置1は、以下の設計条件に従う場合、非グランド部分4AHの一辺の長さLoを2.0Wから3.5Wまでの間の何れかにすれば、指向性の向上効果がより十分に発揮されると言える。これは、放射方向に向かって拡幅するグランド開口部5の拡幅度合いが弱くて非グランド部分4AHが狭いと放射が遮られ、逆に、放射方向に向かって拡幅するグランド開口部5の拡幅度合いが強くて非グランド部分4AHが広すぎるとグランドの影響力が弱まり過ぎてインピーダンスの変動が大きくなるためと考えられる。
<設計条件>
周波数f=38GHz(波長λ=約8mm*)
(*樹脂の誘電体をEr=4.5とした場合、波長短縮効果により波長は約4mmとなる)
グランドパターン同士の間隔d=0.1mm
放射素子の一辺の長さW=2.0mm
非グランド部分の一辺の長さ(※2)
Li=2.4mm
※2:各層の非グランド部分の一辺の長さはLiからLoへ向かって均等に拡幅しているものとする。
【0036】
<層構成の変形例>
また、上記実施形態に係るアンテナ装置1におけるグランドパターン4A~4Eの層数は適宜変形してもよい。
図14は、グランドパターンの層数とピーク利得との関係のシミュレーション結果を示したグラフである。グランドパターンの層数以外の条件については、前述の<シミュレーション条件>の欄に記載の通りである。
【0037】
図14のグラフに示すように、本実施形態のアンテナ装置1では、グランドパターンの層数が増加するに従ってピーク利得が向上する。しかし、グランドパターンの層数が10程度に達すると利得の向上効果が飽和することが判る。したがって、本実施形態のアンテナ装置1は、以下の設計条件に従う場合、グランドパターンの層数は10までが合理的な範囲と言える。
<設計条件>
周波数f=38GHz(波長λ=約8mm*)
(*樹脂の誘電体をEr=4.5とした場合、波長短縮効果により波長は約4mmとなる)
グランドパターン同士の間隔d=0.1mm
放射素子の一辺の長さW=2.0mm
非グランド部分の一辺の長さ(※3)
Lo(mm)=4.0mm
Li(mm)=2.4mm
※3:各層の非グランド部分の一辺の長さはLiからLoへ向かって均等に拡幅しているものとする。
【0038】
<その他の変形例>
また、アンテナ装置1及びアンテナ装置11は、適宜変形可能である。例えば、放射素子6は、円形、楕円形、三角形、五角以上の多角形であってもよい。この場合、グランド開口部5は、放射素子6の形状に応じた形となる。
【0039】
また、グランド開口部5は、正方形の縁の四辺全ての長さが均等に長くなる形で拡幅していたが、これに限定されるものではない。グランド開口部5は、例えば、四辺のうち何れか一乃至三辺の部分においてのみ放射方向に向かって拡幅する形態であってもよい。
【0040】
また、アンテナ装置1及びアンテナ装置11は、単体として配置される形態のみならず、例えば、縦横に配列されてもよい。アンテナ装置1及びアンテナ装置11を縦横に配列したアレイアンテナであれば、指向性のより高いアンテナを実現することが可能である。
【0041】
また、グランド開口部5は、例えば、厚みを有する金属板に形成されたものであってもよい。
図15は、金属板にグランド開口部15を形成した金属加工体8を示した図である。金属板にグランド開口部15を形成したようなものであっても、上記実施形態や変形例と同様、平面状の給電点7の指向性を高めることができる。また、金属板に形成したグランド開口部15であれば、縁の部分を段差状にすることで放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する形態のみならず、例えば、縁の部分を傾斜面にすることで放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する形態を実現することも可能である。
【0042】
<適用例1>
上記実施形態や変形例は、各種の無線端末に適用することができる。
図16は、スマートフォンの一例を示した図である。例えば、上記実施形態のアンテナ装置1は、無線端末の一種であるスマートフォン21に内蔵させてもよい。アンテナ装置1をスマートフォン21に適用すれば、スマートフォン21は、指向性の高いアンテナ装置1を使って高速の無線通信を行うことが可能となる。
【0043】
<適用例2>
上記実施形態や変形例は、アンテナ装置を複数並べた無線モジュールの形態に適用してもよい。
図17は、無線モジュールの一例を示した図である。
図17では、パッチアンテナである上記実施形態のアンテナ装置1を縦方向に沿って4つ並べた無線モジュール31を例示している。また、
図17では、
図2と同様、樹脂3の図示を省略している。例えば、上記実施形態のアンテナ装置1は、縦や横方向、またはその組み合わせとなる方向へ複数並べることでより指向性を高めることができる。本適用例2の形態やその変形例を通信機器に適用すれば、当該通信機器は、より指向性の高いアンテナを使って高速の無線通信を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1,11,101・・アンテナ装置
2・・基板グランド
3・・樹脂
4,14,104・・グランド部
5,15,105・・グランド開口部
6,16・・放射素子
7・・給電点
8・・金属加工体
21・・スマートフォン
31・・無線モジュール
4A,4B,4C,4D,4E・・グランドパターン
4AH,4BH,4CH,4DH,4EH・・非グランド部分
【要約】
平面状の放射素子の指向性を高めたアンテナ装置、無線端末及び無線モジュールを提供する。アンテナ装置であって、平面状の放射素子と、放射素子に繋がる給電点と、放射素子を導電性材料の開口部に内置するグランド部と、を備え、開口部は、放射素子の放射面の放射方向に向かって開口幅を徐々に拡幅する開口形状を有する。