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  • 特許-雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫
(51)【国際特許分類】
   A21C 13/00 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
A21C13/00 C
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021072183
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135843
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】304024496
【氏名又は名称】共立プラント工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516209784
【氏名又は名称】株式会社MILAI・E
(72)【発明者】
【氏名】中井 嘉樹
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026913(JP,A)
【文献】特開2008-199935(JP,A)
【文献】実開昭63-092580(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C 13/00-13/02
F25D
F24F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン生地を並べたトレーを載置する複数段の載置棚を具備した貯蔵庫本体内の温度・湿度・時間を制御し、パン生地を処理工程に応じた最適雰囲気で貯蔵できるようにした雰囲気制御機能付きパン生地貯蔵庫において、庫内空気を循環させる循環ファンの風量をノーマルモードとノーマルモードの1/2~1/3に設定された弱風モードに選択可能とした風量制御機能と、除霜用ヒータをオン・オフ可能とした除霜制御機能を付加し、パンの種類に応じた各処理工程の最適雰囲気を実現する温度変数、湿度変数、時間変数、風速変数、除霜変数を予め設定する雰囲気制御マトリクスを記憶手段に記憶させ、該記憶手段から読み出された5変数に基づいて各処理工程の庫内雰囲気を最適に調整可能にしたことを特徴とした雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地を最適な雰囲気で貯蔵する雰囲気調整機能付き貯蔵庫に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パンを製造する場合、パン生地を捏ねたのち、オーブンに入れて焼き上げるまでに、パン生地を十分に発酵させておく必要があり、パン生地を「冷凍」、「冷蔵」、「予熱」及び「ホイロ(発酵)」を同一装置で行うドウコンディショナが一般的に使用されている。
【0003】
このパン製造工程において、十分な湿度を保つことが安定した発酵を可能にし、焼成後のパンの品質を左右することは広く知られており、生きた酵母を含むパン生地の製造工程では、工程毎に庫内の湿度・温度・時間が適正に制御された最適雰囲気が必須になる。
【0004】
例えば、冷凍工程においては、急冷時にはある程度の風速・風量で庫内に冷風を循環させる必要があるが、冷凍温度に達した後では強い風を必要としない。むしろ、急冷時の風の強さのままではパン生地を表面から乾かし、乾燥を加速させてしまうことになる。冷気を庫内に適度に循環させ、温度と湿度を均一化させる程度の風があればよい。
【0005】
しかしながら、現状のドウコンディショナは、各メーカーによって風に強弱の違いはあるものの、冷凍工程の自動運転における風は一定(固定)となっており、急冷時と冷凍保存時における最適な風の選択を行うことはできないので、急冷時の強い風のまま冷凍保存をしてしまうと、パン生地の表面からの乾燥は早く進むという問題があった。
【0006】
そこで、製パン技術者は、フリーザーで凍結・冷凍保存し、必要に応じて適時ドウコンディショナにパン生地を移し替えてから製パン工程を進める人的対処で適正雰囲気を実現しているが、移し替えの労働負荷が高くなるだけでなく、フリーザーとドウコンディショナを揃える必要があり、経済的負担や省スペースに反するという問題があった。
【0007】
また、長時間における冷凍保存に際し乾燥を防ぐために行われる加湿によって庫内に設置されている冷却器に着霜し、除霜作業時に庫内の水分を庫外に捨てることになるので庫内の湿度を下げることにつながるという問題もあった。
【0008】
一方、冷蔵工程においても冷凍工程同様、長時間の冷蔵保存に伴う着霜とそれに対する除霜の影響による乾燥の問題が発生し、特にパン生地ではこの冷蔵工程の後工程で生きた酵母による発酵活動が行われるため、冷蔵工程で乾燥によりダメージを受けた酵母はパンの品質劣化の原因となっている。
【0009】
さらに、着霜による冷却能力低下とそれに対する除霜とが交互にやってくることにより発生する庫内の温度変化も生地にダメージを与えることも知られており、昨今はインストアベーカリーの製造工程において、長時間低温熟成が行われるようになってきたこともあり、さらに生地の乾燥防止が重要視されるようになっている。
【0010】
長時間低温熟成によりパンが美味しくなることと、低温熟成で酵母を眠らせておいた状態にしておくことにより、発酵を開始するタイミングと発酵後の焼成開始タイミングをコントロールでき、労働時間の短縮と労働負荷の軽減が実現できる利点がある。
【0011】
自動除霜運転を行うドウコンディショナの場合は、除霜運転を「する/しない」を選ぶことができず、さらには除霜運転の時間の長短設定もできないため、製パン技術者は除霜による乾燥を防ぐために、除霜を手動制御することが必須になるため作業工程を柔軟に組むことができない要因となっている。
【0012】
また、予熱工程、ホイロ工程においてはヒータによる加熱が行われ、庫内に温かな空気が循環することによって生地の乾燥が進むので、頻繁に庫内を確認しながら勘と経験によって生地の微妙な仕上がりをコントロールする必要があった。
【0013】
上記の問題を解決するために、製パン技術者は技術を養い、機械の特性を理解した上で、それぞれのパンの種類に応じて独自の最適な条件(温度、湿度、時間)を設定することによりパンの品質を高める努力をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特願平10-025424
【0015】
特許文献の従来例は、冷蔵装置内に蒸気を供給する蒸気発生装置と、湿度センサと、湿度センサの測定値に基づいて蒸気供給量を調節する湿度制御装置を設けることにより、生地を乾燥させることなく冷却保存する冷蔵装置である。
【0016】
しかしながら、上記の従来例では冷蔵装置内の雰囲気調整機能に係る変数(雰囲気設定条件)が、「温度」「湿度」「時間」の3変数になっているため、パンの種類に応じたキメ細やかな雰囲気調整が難しくなり、熟練技術者頼みの製パン現場となってしまっているという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
焼き立てパンの市場では、パンの種類に応じたキメ細かい雰囲気調整が要求されており、温度・湿度・時間という3つの変数のみの設定で対応する現在のパン生地貯蔵庫では限界があった。
【0018】
また、製パン工程における最適な雰囲気調整を実現するための変数が少ないため、熟練技術者の高い技術と経験・勘に基づいた雰囲気調整を簡単に実現できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の課題を解決することを目的として為されたものであり、製パン工程で選定できる雰囲気調整の変数を増やし、製パン技術者が各種パンの製パン工程ごとに最適雰囲気を容易に設定可能にした雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫を提供するものである。
【0020】
請求項1記載の発明は、パン生地を並べたトレーを載置する複数段の載置棚を具備した貯蔵庫本体内の温度・湿度・時間を制御し、パン生地を処理工程に応じた最適雰囲気で貯蔵できるようにした雰囲気制御機能付きパン生地貯蔵庫において、庫内空気を循環させる循環ファンの風量をノーマルモードとノーマルモードの1/2~1/3に設定された弱風モードに選択可能とした風量制御機能と、除霜用ヒータをオン・オフ可能とした除霜制御機能を付加し、パンの種類に応じた各処理工程の最適雰囲気を実現する温度変数、湿度変数、時間変数、風速変数、除霜変数を予め設定する雰囲気制御マトリクスを記憶手段に記憶させ、該記憶手段から読み出された5変数に基づいて各処理工程の庫内雰囲気を最適に調整可能にしたことを特徴とした雰囲気調整機能付きパン生地貯蔵庫である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る雰囲気制御機能付きパン生地貯蔵庫によれば、パン工程の雰囲気設定において5つの変数(温度変数・湿度変数・時間変数・風速変数・除霜変数)を設定可能にしており、パンの種類ごとに最適な雰囲気調整が可能になるので、従来例に比べきめ細かに最適な条件設定が図れるという効果がある。
【0022】
また、5変数を予め設定して記憶手段に記憶させ、該記憶手段から読み出された5変数に基づいて各処理工程の庫内雰囲気を最適に調整できるようにしているので、熟練技術者の高い技術と経験・勘に基づいたパン種に応じた最適雰囲気を容易に実現できるという効果がある。
【0023】
さらにまた、風量制御機能において、風量をノーマルモードと、ノーマルモードの1/2~1/3に設定された弱風モードに選択可能とし、除霜制御機能において、オン・オフの選択可能としたものであり、パンの種類に応じた風量制御および除霜制御をより簡便に調整・設定できるという効果がある。
【発明の実施形態】
【0024】
図1および図2は、本発明一実施例を示すもので、パン生地1を並べたトレー1aを載置する複数段の載置棚2を具備した貯蔵庫本体3内の温度・湿度・時間を制御し、食材生地を処理工程(冷凍・冷蔵・予熱・ホイロ)に応じた最適雰囲気で貯蔵できるようにした雰囲気制御機能付きパン生地貯蔵庫において、庫内空気を循環させる循環ファン9を制御する風量制御機能と、除霜用ヒータ8bを制御する除霜制御機能を付加し、各処理工程の最適雰囲気を実現する温度変数P1、湿度変数P2、時間変数P3、風量変数P4、除霜変数P5を予め設定して記憶手段5bに記憶させ、この記憶手段5bから読み出された5変数P1~P5に基づいて各処理工程の庫内雰囲気を最適に調整できるようにしたパン生地貯蔵庫である。
【0025】
貯蔵庫本体3内の温度・湿度・時間・風量・除霜を制御し、パン生地を処理工程に応じた最適雰囲気を実現するドウコン制御手段4は、CPUよりなる雰囲気制御回路5と、操作盤5aおよび記憶手段5bと、冷凍機6aおよび加湿器7とで構成されており、貯蔵庫本体3内には、冷却器6bとホイロ用ヒータ8aと、除霜用ヒータ8bと、循環用ファン9と、温度センサ10および湿度センサ11が設けられている。図中、3aはトレーを出し入れする前扉、7aは加湿空気の吹き出し管である。
【0026】
複数種類のパンA~Eを製パン可能にする場合、各処理工程における最適雰囲気の変数は、操作盤からキー入力され、図4のような変数マトリックスとして記憶手段5bに格納されることになる。
【0027】
操作盤5aの変数設定において、風量をノーマルモードと、ノーマルモードの1/2~1/3に設定された弱風モードに選択可能とし、除霜制御機能のオン・オフ選択を可能とすれば、風量制御をよりキメ細かく調整・設定できるとともに、除霜制御をより簡便に調整・設定できることになる。
【0028】
本発明に係る雰囲気制御機能付きパン生地貯蔵庫によれば、パン工程の雰囲気設定において5つの変数(温度変数P1・湿度変数P2・時間変数P3・風量変数P4・除霜変数P5)を設定可能にしており、フランスパンの製パン工程では、各工程の5変数を図3のように設定すれば、最適な雰囲気調整が可能になり、従来例に比べきめ細かに最適な雰囲気設定が図れるという効果がある。
【0029】
また、パン生地の大敵である乾燥について、風量制御機能と除霜制御機能を最適な条件に設定することにより、高湿度を維持できるようになるので、品質の劣化を防ぐことができる効果がある。例えば、循環ファンを弱風にすれば庫内の温度変化は小さく緩やかになるため着霜の速度は遅くなるので、除霜の間隔は短くて済むことになる。4時間間隔で行われている除霜作業が8時間間隔で実施されることになれば庫外へ排出される水分は大幅に減ることになるので、その分湿度を低下させずに維持することができる効果がある。
【0030】
さらにまた、雰囲気制御に係る5変数を設定可能にしたことにより、インストアベーカリーの製パン工程における雰囲気調整をきめ細かく設定できるようになり、熟練技術者の高い技術力と勘・経験に頼っていた判断を変数マトリクスとして記憶手段に格納しておけば、複数種のパンの品質安定と、製パン現場における品質管理を容易に実現できるという効果がある。 またマニュアル化を進めることにより製パン技術者の早期育成が可能となり、人手不足時代の店舗経営に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】 本発明一実施例の概略構成図
図2】 同上の断面図
図3】 同上の動作説明図
図4】 同上の動作説明図
【符号の説明】
【0032】
パン生地
1a トレー
2 載置棚
3 貯蔵庫本体
4 ドウコン制御手段
5 雰囲気制御回路
5a 操作盤
5b 記憶手段
6a 冷凍機
6b 冷却器
7 加湿器
8a ホイロ用ヒータ
8b 除霜用ヒータ
9 循環ファン
10 温度センサ
11 湿度センサ
図1
図2
図3
図4