(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】トイレットロール
(51)【国際特許分類】
A47K 10/16 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
A47K10/16 A
(21)【出願番号】P 2018087089
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100214226
【氏名又は名称】青木 博文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】大岡 康伸
(72)【発明者】
【氏名】大篭 幸治
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0117135(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスパターンが付与された1プライのトイレットペーパーをロール状に巻取ったトイレットロールであって、
巻直径が
95mm以上
107mm以下、巻長が
94m以上
115m以下、芯の質量を除くロール1個あたりの質量が
210g以上
253g以下、であり、
トイレットペーパーの坪量が、17.5g/m
2
以上20.2g/m
2
以下であり、
トイレットペーパーの、JIS P 8113に基づく、乾燥時の縦方向の引張強さDMDTが、3.52N/25mm以上6.00N/25mm以下であり、
トイレットペーパーの、JIS P 8113に基づく、乾燥時の横方向の引張強さDCDTが、1.22N/25mm以上2.56N/25mm以下であり、
トイレットロールを巻きほぐした際の最内巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の20%から30%に相当する領域を内巻領域、トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の5%から15%に相当する領域を外巻領域、とした場合において、
前記内巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれのティッシュソフトネス測定装置TSAにより測定される滑らかさTS750の値を乗じた数値が、前記外巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれの滑らかさTS750の値を乗じた数値に対して、
80%以上
90%以下であり、
前記内巻領域における、トイレットペーパーの裏面の滑らかさTS750の値が、前記外巻領域における、トイレットペーパーの裏面の滑らかさTS750の値に対して、82%以上91%以下であり、
前記内巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚が、前記外巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚に対して、94%以上97%以下である、
トイレットロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1プライのトイレットペーパーをロール状に巻取ったトイレットロールに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットロールは、主に、4ロール又は12ロール等を1セットとして包装されて市販されている。包装されたトイレットロールは、かさばるものであるため、購入時に持ち運べるトイレットロールの数は限られており、そのような制約から、一度に購入できる量にも限度がある。また、家庭、職場、公共施設等において、トイレットロールを保管することもあるが、必ずしも、広い保管スペースを確保できるわけではない。
【0003】
このような事情から、トイレットペーパーのシート1枚あたりの坪量を14g/m2以下に低減し、1ロールあたりの巻長を長くした長尺のトイレットロールが提案されているほか(例えば、特許文献1及び2参照)、トイレットペーパー1枚あたりの坪量を13g/m2より大きくして風合いや使用感を向上させながら、巻長を長くした長尺のトイレットロールが開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-087703号公報
【文献】特開2013-208297号公報
【文献】特開2014-188342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように、トイレットロールを長尺にすると巻直径が大きくなりやすく、その場合に、巻取りが完了した後の工程において、トイレットロールを静置させるために既存の製造ラインにあらかじめ設けられたガイドレールにトイレットロール側面が擦れやすくなり、擦れシワが発生し、美粧性が損なわれるという問題があった。また、トイレットロールを長尺にすると、巻直径だけでなく、ロール質量が大きくなりやすく、トイレットロールをコンベアで搬送する際に、自重によりコンベアとの摩擦が大きくなり、擦れシワが発生しやすいという問題があった。さらに、エンボスパターンがトイレットペーパーに付与される場合には、エンボスの凹凸部に起因して、より擦れシワが発生しやすかった。
【0006】
また、トイレットロールを長尺にすると、トイレットロールの内巻領域にかかる圧力が大きくなり、内巻領域と外巻領域とでトイレットペーパーの紙質に差が生じ、消費者が使用する際に、使用開始時と使用終了時において、手触りや風合いが異なると感じる場合があった。したがって、本発明は、製造工程に起因する擦れシワが良好に抑えられ、内巻領域と外巻領域における紙質の差が小さく、交換頻度の低い、高品質の長尺トイレットロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。その結果、エンボスパターンが付与された1プライのトイレットペーパーをロール状に巻取ったトイレットロールにおいて、ロールの巻直径、巻長、質量を調整し、さらに、内巻領域と外巻領域における所定の測定値から算出されるパラメーターを調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0008】
(1)本発明の第1の態様は、エンボスパターンが付与された1プライのトイレットペーパーをロール状に巻取ったトイレットロールであって、巻直径が90mm以上110mm以下、巻長が80m以上126m以下、芯の質量を除くロール1個あたりの質量が170g以上300g以下、であり、トイレットロールを巻きほぐした際の最内巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の20%から30%に相当する領域を内巻領域、トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の5%から15%に相当する領域を外巻領域、とした場合において、前記内巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれのティッシュソフトネス測定装置TSAにより測定される滑らかさTS750の値を乗じた数値が、前記外巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれの滑らかさTS750の値を乗じた数値に対して、72%以上であることを特徴とするトイレットロールである。
【0009】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載のトイレットロールであって、トイレットペーパーの、JIS P 8113に基づく、乾燥時の縦方向の引張強さDMDTが、2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下であることを特徴とするものである。
【0010】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載のトイレットロールであって、トイレットペーパーの、JIS P 8113に基づく、乾燥時の横方向の引張強さDCDTが、0.7N/25mm以上3.0N/25mm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
(4)本発明の第4の態様は、(1)から(3)のいずれかに記載のトイレットロールであって、トイレットペーパーの坪量が、16g/m2以上22g/m2以下であることを特徴とするものである。
【0012】
(5)本発明の第5の態様は、(1)から(4)のいずれかに記載のトイレットロールであって、前記内巻領域における、トイレットペーパーの裏面の滑らかさTS750の値が、前記外巻領域における、トイレットペーパーの裏面の滑らかさTS750の値に対して、74%以上であることを特徴とするものである。
【0013】
(6)本発明の第6の態様は、(1)から(5)のいずれかに記載のトイレットロールであって、前記内巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚が、前記外巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚に対して、93%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造工程に起因する擦れシワが良好に抑えられ、内巻領域と外巻領域における紙質の差が小さく、交換頻度の低い、高品質の長尺トイレットロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るトイレットロールの外観を示す斜視図である。
【
図2】ロール表面側のエンボスパターンの撮影画像を示す図である。
【
図6】エンボスパターンの深さの測定方法を示す図である。
【
図8】ロールの内巻側が軸方向に飛び出した不良品の撮影画像を示す図である。
【
図9】内巻領域及び外巻領域を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、以下の実施形態は例示の目的で提示するものであり、本発明は、以下に示す実施形態に、何ら限定されるものではない。
【0017】
<トイレットロール>
図1は、本発明に係るトイレットロール1の外観を示す斜視図である。本発明のトイレットロール1は、エンボスパターン2が付与された1プライのトイレットペーパー1xをロール状に巻取ったトイレットロール1であって、巻直径DR(ロールの外径)が90mm以上110mm以下、巻長(巻取り長さ)が80m以上126m以下、芯(コア)の質量を除くロール1個あたりの質量が170g以上300g以下、である。
【0018】
本明細書における内巻領域Fとは、
図9に示すように、トイレットロール1を巻きほぐした際の最内巻のトイレットペーパー1xの端縁1f(芯(コア)Eと接する部分)からトイレットロール1の巻長の20%から30%に相当する領域をいい、外巻領域Gとは、トイレットロール1を巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパー1xの端縁1eからトイレットロール1の巻長の5%から15%に相当する領域をいう。
【0019】
また、トイレットペーパー1xの表面のうち、ロール外側に指向した表面をロール表面1a(又はトイレットペーパー1xの表面1a)と称し、ロール中心部に指向した表面をロール裏面1b(又はトイレットペーパー1xの裏面1b)と称する。
【0020】
[巻長]
トイレットロール1の巻長が80m以上126m以下であることにより、トイレットロール1の交換頻度を低くすることができる。また、巻長を上記の範囲に調整することにより、ロール質量が適切となり、トイレットロール1をコンベアで搬送する際に、自重によるトイレットロール1とコンベアとの摩擦を抑え、擦れシワの発生を抑制することができる。また、内巻のトイレットペーパー1xに過大な押圧がかかることを抑制し、外巻と内巻における手触りの差を小さくすることができる。また、トイレットロール1の省スペース性を図ることができるとともに、巻直径DRが適切な範囲に維持され、トイレットロール1がトイレットペーパーホルダーに十分に収容されるものとなる。巻長は、90m以上122m以下であることが好ましく、100m以上118m以下であることがより好ましい。
【0021】
[巻直径]
トイレットロール1の巻直径DRが90mm以上110mm以下であることにより、巻取りが完了した後の工程において、トイレットロール1を静置させるために既存の製造ラインにあらかじめ設けられたガイドレールとトイレットロール1側面との擦れを抑制し、擦れシワの発生を抑えることができると同時に、エンボスパターン2の潰れを抑制し、風合いや美粧性を良好に維持することができ、トイレットロール1の品質を向上させることができる。また、手で持ちやすいサイズとなり、子供や高齢者でも扱いやすいトイレットロール1を得ることができ、品質が向上する。巻直径DRは、95mm以上107mm以下であることが好ましく、100mm以上104mm以下であることがより好ましい。
【0022】
[巻密度]
本発明においては、トイレットロール1の巻密度が1.0m/cm
2以上2.1m/cm
2以下であることが好ましい。ここで、ロールを固く巻き過ぎると、内巻のトイレットペーパー1xに過大な押圧が加わり、内巻のトイレットペーパー1xに設けたエンボスが潰れて、使用時に美粧性が低下することにより品質が低下する。一方、ロールを弱く巻き過ぎると、エンボスは潰れないが、巻直径DRが大きくなって、トイレットロール1のトイレットペーパーホルダーへの装着が困難になったり、内巻の巻付け力が弱くなり過ぎて、
図8の写真に示すように、ロールの内巻側が軸方向に飛び出して不良品が生じたりする。このようなことから、本明細書では、ロールの巻き強さを表すための因子として、巻密度を規定した。
【0023】
巻密度は、(巻長×プライ数)÷(ロールの断面積)で表される。ロールの断面積は、{ロールの外径(巻直径DR)部分の断面積-(コア外径部分の断面積)}で表される。コア(紙管)外径DIは、ロールの中心孔の直径である。
【0024】
例えば、巻長104m、1プライ、巻直径DR97mm、コアの外径39mmの場合、巻密度=(104m×1)÷{3.14×(97mm÷2÷10)2-3.14×(39mm÷2÷10)2}=1.68m/cm2となる。トイレットロール1にコアが無い場合は、中心孔の直径をコア外径とする。
【0025】
巻密度が1.0m/cm2以上2.1m/cm2以下であることにより、巻直径DRが適切な範囲に位置されて、トイレットロール1が、トイレットペーパーホルダー等に収まりやすくなるとともに、内巻の巻付け力が適切なものとなり、ロールの内巻側が軸方向に飛び出して(ロールの保形性が劣り)、不良品となることがなく、シートの柔らかさも好適に維持されるほか、トイレットペーパー1xに設けたエンボスが潰れることなく、使用時の美粧性が維持され、品質が向上する。巻密度は、1.2m/cm2以上1.9m/cm2以下であることがより好ましく、1.4m/cm2以上1.7m/cm2以下であることが更に好ましい。
【0026】
[坪量・紙厚]
トイレットペーパー1xの坪量は、16g/m2以上22g/m2以下であることが好ましく、このときの紙厚は0.5mm/10プライ以上1.2mm/10プライ以下であることが好ましい。坪量及び紙厚が、上記の範囲であることにより、トイレットロール1の手触りや風合いが良好に維持される。また、ロール質量が適切な範囲になり、トイレットロール1をコンベアで搬送する際に、自重によるトイレットロール1とコンベアとの摩擦を抑え、擦れシワの発生を抑制することができる。
【0027】
トイレットペーパー1xの1プライあたりの坪量は、17g/m2以上21g/m2以下であることがより好ましく、18g/m2以上20g/m2以下であることが更に好ましい。トイレットペーパー1xの紙厚は、0.6mm/10プライ以上1.1mm/10プライ以下であることがより好ましく、0.7mm/10プライ以上0.9mm/10プライ以下であることが更に好ましい。トイレットペーパー1x 1プライあたりの坪量及び紙厚を上記範囲に調整する方法としては、エンボス条件を規定する方法を挙げることができる。
【0028】
また、内巻領域Fにおけるトイレットペーパー1xの紙厚(10プライあたり)が、外巻領域Gにおけるトイレットペーパー1xの紙厚(10プライあたり)に対して、93%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましい。外巻領域Gに対する内巻領域Fのトイレットペーパー1xの紙厚が、上記の範囲であることにより、トイレットロール1の使用開始時と使用終了時を比較した場合における、手触りや風合いに差を感じにくくすることができる。なお、内巻領域Fにおけるトイレットペーパー1xの紙厚は、圧力がかかるため、外巻領域Gにおけるトイレットペーパー1xの紙厚よりも小さくなる。
【0029】
[エンボスパターン]
本発明のトイレットロール1(トイレットペーパー1x)は、エンボス加工が施されてなるものであり、エンボスパターン2を有している。本発明のトイレットペーパー1xが有するエンボスパターン2としては、シングルエンボスパターンが好ましい。1プライのトイレットペーパー1xに複数回エンボス処理を行ってもよい。シングルエンボスパターンは、1プライのトイレットペーパー1xの一方の面からのみ、エンボスロール111のエンボス凸部を押し当てて形成され、トイレットペーパー1xのエンボスロール111を押し当てた面に凹部、裏面に凸部が現れるエンボスパターン2(シングルエンボスパターン)が形成される。エンボスロール111の材質としては、金属であることが好ましい。
【0030】
図3は、エンボスパターン2の態様を示す図面である。
図3に示すように、エンボスパターン2の重心を流れ方向MD及び幅方向Wに結ぶ線が、それぞれ略直線状であり、隣接するエンボスパターン2の、幅方向Wにおける離間距離が、流れ方向MDにおける離間距離よりも大きい。このような態様でエンボスパターン2を形成することにより、
図2に示すように、流れ方向MDに沿って複数の直線模様を有する外観となり、美観性に優れる。また、トイレットロール1の使用時には、トイレットペーパー1xを手で持ちながら流れ方向MDに引っ張って使用することが通常であるため、隣接するエンボスパターン2の、幅方向Wにおける離間距離を、流れ方向MDにおける離間距離よりも大きくすることにより、肌触りや指先へのフィット感が向上し、使用時の触感が良好となる。
【0031】
また、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが0°以上10°以下であることが好ましい。
図4は、エンボスパターン2が、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが13°となる場合のエンボスパターン2の態様を示す図面である。このように、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが10°より多くなるようにエンボスパターン2が形成されると、トイレットロール1の厚さ方向に重なったトイレットペーパー1x同士のエンボスパターン2の凹部と凹部、及び、凸部と凸部が、重なりにくくなるため、エンボスが潰れやすくなり、使用時における触感や美粧性を損なうことになる。特に、本発明のトイレットロール1ように、長尺のトイレットロールを巻く際には、トイレットペーパーのテンションを強く張った状態で加工するため、エンボスが伸びてしまい、よりエンボスの美粧性が低下しやすい。そのため、重なったトイレットペーパー1x同士のエンボスパターン2の凹部と凹部、及び、凸部と凸部を、重なりやすくし、エンボスパターン2を潰れにくくするために、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが、0°以上10°以下であることが好ましく、0°以上5°以下であることがより好ましく、0°以上2°以下であることが更に好ましい。また、よりエンボスパターン2を潰れにくくする観点から、
図3に示すように、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが0°であること、換言すると、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線が、流れ方向MDに平行な線に平行であること、が最も好ましい。
【0032】
流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きは以下の方法で測定することができる。まず、トイレットロール1の最外巻の端縁から流れ方向に50cm引き出した位置における、幅方向Wのいずれかの端部から最も近いエンボスパターン2までの距離を測定する。次に、更に流れ方向MDに50cm引き出した位置における、上記の測定を行った側の幅方向Wの端部から、上記の距離を測定したエンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線上にあるエンボスパターン2までの距離を測定する。このように、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線上の2地点における、エンボスパターン2と幅方向Wの一方端部からの距離をそれぞれ測定し、2つの測定値のうち、大きい測定値から小さい測定値を差し引いた数値と、2地点の流れ方向MDに平行な距離(50cm)と、を用いて、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きを求めることができる。
【0033】
(エンボスパターンの面積率及び深さ)
本発明のトイレットロール1において、エンボスパターン2の面積率(トイレットペーパー1xのうち、エンボスパターン2のある部分の割合)が、25%以上80%以下となるように調整されている。エンボスパターン2の面積率を上記の範囲に調整することにより、エンボスパターン2の表裏差が適切に維持されるとともに、使用時における触感及び美粧性を良好に維持することができる。ここで、トイレットペーパー用のエンボスパターンの面積率は通常、20%以下である。本発明のようにエンボスパターンの面積率を高くすることで、原紙をカレンダー処理しなくても、紙厚を低くすることができるため、坪量を低くしない長尺トイレットロールであっても、適切な巻直径に調整することができる。エンボスパターン2の面積率は、35%以上70%以下であることがより好ましく、45%以上60%以下であることが更に好ましい。
【0034】
また、本発明のトイレットロール1において、エンボスパターン2の深さは、0.01mm以上0.32mm以下であることが好ましく、0.04mm以上0.27mm以下であることがより好ましく、0.08mm以上0.24mm以下であることが更に好ましい。エンボスパターン2の深さを上記の範囲に調整することにより、より効果的に、エンボスパターン2の表裏差を維持することができ、使用時における触感及び美粧性を良好に維持することができる。
【0035】
エンボスパターン2の面積率及び深さは、マイクロスコープを用いてエンボスパターン2の高低差を測定して求める。なお、上記の面積率及び深さの数値は、後述する補助エンボスパターン21を反映せず、エンボスパターン2のみを測定した数値である。
【0036】
マイクロスコープとしては、KEYENCE社製の製品名「ワンショット3D測定マイクロスコープ VR-3100」を使用することができる。マイクロスコープの画像の観察・測定・画像解析ソフトウェアとしては、製品名「VR-H1A」を使用することができる。また、測定条件は、倍率12倍、視野面積24mm×18mmの条件で測定する。なお、測定倍率と視野面積は、求めるエンボスパターン2の大きさによって、適宜変更してもよい。エンボスパターン2の測定については、測定面はロール裏面1bではなくロール表面1aとし、トイレットロール1のトイレットペーパー1xの最外巻の端縁1eから、トイレットロール1の巻長10%に相当する所定の位置において、幅方向Wに連続するエンボスパターン2を選択し測定する。なお、エンボスパターン2の面積率と深さは、トイレットロール1をロール形状のままで測定する。ここで、トイレットロール1は嵩張る形状のため上記マイクロスコープのピントが合いにくくなる場合がある。この場合、サンプルを載せるステージ(台)を取り除いてピントを調節して測定しても良い。
【0037】
図6(a)は、マイクロスコープによるX-Y平面上の高さプロファイルを示し、トイレットペーパー1x表面の高さが濃淡で表されることがわかる。プロファイル計測の条件にて、エンボスパターン2を跨ぐように線分(水平線)を引き、
図6(b-1)に示すように実際のトイレットペーパー1xの試料表面の連続する凹凸を表す(測定)断面曲線が得られ、
図6(b-1)に示されるグラフが、トイレットロール1の幅方向Wに連続的に形成される凹凸を示している。ここで、
図6(b-1)の(測定)断面曲線は、トイレットロールの表面の凹凸を表す(測定)断面曲線であるが、ノイズ(トイレットロールの表面に繊維塊があったり、繊維がヒゲ状に伸びていたり、繊維のない部分に起因した急峻なピーク)をも含んでおり、凹凸の高低差の算出や、下記に示す面積率の算出に当たっては、このようなノイズピークを除去する必要がある。そこで、
図6(b-1)の(測定)断面曲線を重み平均ラジオボタンでフィルターのサイズを±12とし、スムージングした
図6(b-2)の断面曲線を得る。なお、重み平均ラジオボタンのフィルターを用いたスムージングは、上記の解析ソフトを使用すれば、自動で得られる。そして、
図6(b-2)に示すグラフにおいて、グラフの凸部と、当該凸部に隣接する凸部の縦軸のそれぞれの最大値の平均値を算出し、当該凸部と、当該凸部に隣接する凸部と、に挟まれる凹部における縦軸の最小値を求める。このようにして求められた最大値の平均値から最小値を差し引いた数値をエンボスパターン2の深さとし、
図6(b-1)に示すように連続する凹凸について同様の測定を連続する3か所(補助エンボスが含まれない凹凸)について行う。その後、トイレットロールを90度ずつ合計4カ所において同様の測定を行い、合計12か所の平均値をエンボスパターン2の深さとして最終的に採用する。なお、プロファイル上の幅方向のピッチ(凸部と、当該凸部に隣接する凸部との距離)は、1mm以上12mm以下であることが好ましく、2mm以上9mm以下であることがより好ましく、3mm以上6mm以下であることが更に好ましい。幅方向のピッチを上記範囲にすることで、使用時における触感及び美粧性を良好に維持することができる。
【0038】
次に、エンボスパターン2の面積率の測定方法について、
図6(c)を用いて説明する。
図6(c)に示すように、グラフの凸部と、当該凸部に隣接する凸部において、それぞれ縦軸の最大値となる点を結ぶ線Aを引き、次に、当該凸部と、当該凸部に隣接する凸部と、に挟まれる凹部における縦軸の最小値を示す点から、線Aに垂直な線Bを引く。次に、上記凹部における縦軸の最小値を示す点から、線Aに平行な線Cを引く。次に、当該凸部と当該凸部に隣接する凸部において、それぞれ縦軸の最大値となる点から、線Cに垂直に結ぶ線Dを引く。次に、線Bの中心点から線A及び線Cに平行な線Eを引く。このように、複数の線を引いたうえで、グラフ上の線と、線Bと、線Eに囲まれた領域の面積、すなわち
図6(c)中におけるFとGの領域の面積の和を、グラフの線と、線Dと、線Eに囲まれた領域の面積、すなわち
図6(c)中における、HとIの領域の面積の和に、更に
図6(c)中における、FとGの部分の面積を合わせた総面積で割り、更に100を乗じた数値をエンボスパターン2の面積率(%)とする。よって、
図6(c)において、(F領域の面積+G領域の面積)/(F領域の面積+G領域の面積+H領域の面積+I両機の面積)×100の式で算出される数値がエンボスパターン2の面積率となる。さらに、連続する凹凸について同様の測定を連続する3か所(補助エンボスが含まれない凹凸を測定する)について行う。その後、トイレットロールを90度ずつ合計4カ所において同様の測定を行い、合計12か所の平均値をエンボスパターン2の面積率として最終的に採用する。なお、本発明のような長尺トイレットロールを巻く際には、シートのテンションを強く張った状態で加工するため、エンボスは流れ方向に伸びやすく、また、エンボスパターン2の重心を流れ方向MD及び幅方向Wに結ぶ線が、それぞれ略直線状であり、隣接するエンボスパターン2の、幅方向Wにおける離間距離が、流れ方向MDにおける離間距離よりも大きいため、幅方向の面積率を測定する。エンボスパターン2の面積率は、従来、エンボスパターン2の凸部を用いて、画像解析等で求められてきた。本発明においては、エンボスロールの凸部の面積率と上記の測定方法の面積率に相関があることを見出し、上記の方法によりエンボスパターンの面積率を測定した。
【0039】
なお、エンボスパターン2の形状は、長方形、正方形、丸形、長丸形等、特に制限はない。また、上記のエンボスパターン2の深さ及びエンボスパターン2の面積率(個数)を適宜調整して、巻直径DRや巻密度を調整することができる。
【0040】
ところで、上記のように、エンボスパターン2が、流れ方向MDに平行な線に対する、エンボスパターン2の重心を流れ方向MDに結ぶ線の傾きが0°となるように形成される場合には、トイレットロール1の製造工程において、エンボスロール111の凸部が対向するゴムロール112の特定の位置に接触し続けることになり、ゴムロール112の当該位置の劣化が進み、ゴムロール112の交換頻度が高くなり、コスト的な負担がかかる場合がある。そのため、幅方向Wに隣接するエンボスパターン2の間に、補助エンボスパターン21を有し、エンボスパターン2と補助エンボスパターン21により略コンマ形状又は略逆コンマ形状を形成することが好ましい。なお、補助エンボスパターンは、本明細書において、トイレットロール1を流れ方向に見た時に、エンボス部の凹部が、非エンボス部より少なく、エンボスパターン2に含まれないエンボスであると定義する。なお、補助エンボスパターン21は、
図5に示すように、幅方向にエンボスパターン2と連結していることが好ましい。
図5は、エンボスパターン2と補助エンボスパターン21により略逆コンマ形状を形成している態様を示している。このように補助エンボスパターン21を設けることで、エンボスロール111の凸部が、ゴムロール112に対して均一に接触することになり、ゴムロール112の劣化速度を遅くすることができる。なお、補助エンボスパターン21の太さは、0.05mm以上2.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1.5mm以下であることがより好ましく、0.2mm以上1.0mm以下であることが更に好ましい。また、補助エンボスパターン21の深さは0.01mm以上0.32mm以下、好ましくは0.04mm以上0.27mm以下、0.08mm以上0.24mm以下、であることが好ましい。補助エンボスパターン21は、エンボスロール111の凹凸を適宜調整することにより、形成することができる。
【0041】
図7はロール巻取り加工機110の一例を示す。原反ロール12は、ロール巻取り加工機110にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール111)によってシングルエンボス処理された後、巻取り機構113によって上記の巻直径DRの幅広の原紙ロール13に巻取られる。その後、この原紙ロール13を所定幅(114mm等)に切り、トイレットロール1となる。なお、原反ロール12は、カレンダー処理を行ってもよいが、本発明においては、エンボス処理によって紙厚及び比容積が低くなるので、カレンダー処理を行う必要性は低く、カレンダー処理を行わない方が、生産性を向上させる観点から好ましい。
【0042】
ロール巻取り加工機110は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支持しながら巻取る方法であり、巻取られたトイレットロール1は、巻き径のコントロールがしやすく、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られたトイレットロール1は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。本発明においては、いずれの方法でも巻取ることができるが、サーフェイス方式であることが好ましい。サーフェイス方式によれば、トイレットロール1を巻く強さでトイレットロール1の巻直径DR及びロール柔らかさを比較的容易に調整することができる。
【0043】
エンボスパターン2の深さは、エンボスロール111と対向するゴムロール112(
図7参照)のニップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によっても異なるが、20mmから50mmであることが好ましく、25mmから45mmであることがより好ましく、30mmから40mmであることが更に好ましい。ニップ幅を上記の範囲内のものとすることにより、エンボスパターン2の表裏差が適切に維持されるとともに、紙厚が好適に維持されてロールの巻直径DRが適切なものとなり、シートの柔らかさについても好適に維持される。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定することができる。測定方法としては、まず、エンボスロール111のニップを逃がし、カーボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロール111にニップをかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボスロール111でニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写されるので、ニップ幅を測定することができる。なお、エンボスロール111の材質は、金属であることが好ましい。
【0044】
エンボスロール111の凹凸が深ければニップ幅を狭くし、エンボスロール111の凹凸が浅ければニップ幅を広くすることで、エンボスパターン2の深さを調整できる。また、エンボスパターン2の深さを確保するよう、ロールを巻く強さを調整できる。例えば、エンボスパターン2の深さが大きくなると、ロールを巻く際にエンボスパターン2が潰れやすくなるので、ロールを巻く強さを弱くすることで、エンボスパターン2の深さを調整できる。
【0045】
ロール巻取り加工機110にて同時に、印刷、エンボス付与、ミシン目加工、テールシール、所定幅(114mm等)のカットを行うことができ、トイレットロール1を製造することができる。さらに、その後、フィルム包装加工してトイレットロール1の包装体を製造することができる。
【0046】
[ロール質量]
ロール質量は、芯(コア)の質量を除く、ロール幅(芯方向のロールの幅)114mmあたりのトイレットロール1の質量である。本発明のトイレットロール1において、芯(コア)の質量を除くロール1個あたりの質量は、170g以上300g以下である。ロール質量が上記の範囲であることにより、トイレットロール1をコンベアで搬送する際に、自重によるトイレットロール1とコンベアとの摩擦を抑え、擦れシワの発生を抑制することができる。また、坪量や巻長が適切に維持され、ロールの交換頻度を低くすることができる。また、芯(コア)の質量を除くロール1個あたりの質量は、190g以上270g以下であることが好ましく、200g以上240g以下であることがより好ましい。
【0047】
[コア外径]
また、本発明のトイレットロール1の芯の外径である、コア外径は、35mm以上45mm以下であることが好ましく、37mm以上42mm以下であることがより好ましく、38mm以上40mm以下であることが更に好ましい。コア外径が上記の範囲内のものであることにより、トイレットロール1の巻密度を好適に維持しつつ、トイレットロール1を、トイレットペーパーホルダーに収まりやすくすることができ、加えて、製造時のトイレットロール1の取扱性も良好となる。また、トイレットロール1のコアの質量は3.0g以上5.7g以下であることが好ましく、3.7g以上5.2g以下であることがより好ましく、4.2g以上4.8g以下であることが更に好ましい。コア質量を上記の数値範囲内にすることにより、本願のような長尺のトイレットペーパー1xに適した、良好なコアの強度とコアのコストを実現することができる。コアの質量は、ロール質量と同様、ロール幅114mmの質量とする。
【0048】
[比容積]
トイレットペーパー1xの比容積は2.5cm3/g以上6.5cm3/g以下であることが好ましい。トイレットペーパー1xの比容積が上記範囲内のものであることにより、シートの柔らかさが良好なものとなり、バルク(嵩高さ)が好適に維持され、水分の吸収性が良好に維持されるとともに、巻直径DRが大きくなり過ぎることがない。上記比容積は、2.8cm3/g以上6.2cm3/g以下であることがより好ましく、3.1cm3/g以上5.9cm3/g以下であることが更に好ましい。
【0049】
[DMDT、DCDT]
トイレットペーパー1xのJIS P 8113に基づく乾燥時の縦方向の引張強さをDMDT(Dry Machine Direction Tensile strength)、乾燥時の横方向の引張強さをDCDT(Dry Cross Direction Tensile strength)としたとき、DMDTが2.5N/25mm以上7.0N/25mm以下であることが好ましく、3.5N/25mm以上6.0N/25mm以下であることがより好ましく、4.0N/25mm以上5.5N/25mm以下であることが更に好ましい。また、DCDTは、0.7N/25mm以上3.0N/25mm以下であることが好ましく、1.0N/25mm以上2.7N/25mm以下であることがより好ましく、1.3N/25mm以上2.4N/25mm以下であることが更に好ましい。DMDT及びDCDTを上記の範囲に調整することにより、擦れシワの発生を抑制することができ、かつ、柔らかさとともに風合いが好適に維持され、品質を向上させることができる。なお、引張強さの測定は、引張速度300mm/minの条件で行う。また、引張強さは、公知の方法で調整することができる。
【0050】
なお、上記においては、トイレットペーパー1xの抄紙の流れ方向を「縦方向」とし、流れ方向に直角な方向を「横方向」とする。
【0051】
[吸水度]
トイレットペーパー1xの旧JIS S 3104に基づく吸水度は、7.0秒以下であることが好ましく、5.0秒以下であることがより好ましく、3.0秒以下であることが更に好ましい。吸水度は、短時間であることが好ましく、上記時間の範囲内であることにより、吸水性が良好に維持される。なお、水を滴下する際は、トイレットペーパー1xの表面側に滴下する。
【0052】
[ほぐれやすさ]
トイレットペーパー1xのJIS P 4501に基づくほぐれやすさは、8秒以上60秒以下であることが好ましく、15秒以上50秒以下であることがより好ましく、20秒以上40秒以下であることが更に好ましい。ほぐれやすさは、短時間であることが好ましく、上記時間の範囲内であることにより、トイレでの水解性が良好に維持され、温水洗浄便座使用におけるトイレットペーパー1xが水に濡れた時の耐水性も良好になる。
【0053】
[滑らかさTS750]
本発明のトイレットロール1において、トイレットペーパー1xについて、ティッシュソフトネス測定装置TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)の数値から算出されるパラメーターを以下の範囲に調整することにより、トイレットロール1の使用開始時と使用終了時を比較した場合における、手触りや風合いに差を感じにくくすることができる。すなわち、本発明において、内巻領域Fにおける、トイレットペーパー1xの表面1a及び裏面1bそれぞれのティッシュソフトネス測定装置TSAにより測定される滑らかさTS750の値を乗じた数値が、外巻領域Gにおける、トイレットペーパー1xの表面1a及び裏面1bそれぞれの滑らかさTS750の値を乗じた数値に対して、72%以上である。また、当該数値は、77%以上であることが好ましく、82%以上であることがより好ましい。また、内巻領域Fにおける上記数値は、外巻領域Gの上記数値よりも小さくなる。なお、内巻領域F及び外巻領域Gの各領域における表面1aと裏面1bのそれぞれの測定位置は、各領域の範囲内であれば一致する必要はない。
【0054】
さらに、より効果的に、トイレットロール1の使用開始時と使用終了時を比較した場合における、手触りや風合いに差を感じにくくするために、内巻領域Fにおける、トイレットペーパー1xの裏面1bの滑らかさTS750の値が、外巻領域Gにおける、トイレットペーパー1xの裏面1bの滑らかさTS750の値に対して、74%以上であることが好ましく、79%以上であることがより好ましく、84%以上であることが更に好ましい。なお、内巻領域Fにおける上記数値は、外巻領域Gの上記数値よりも小さくなる。
【0055】
ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用したTS750の測定方法や、これに用いられる測定装置については、例えば、特開2013-236904号公報に詳細に記載されている。ティッシュソフトネス測定装置TSAを使用した測定方法については、上記の特許文献を参照されたい。
【0056】
<トイレットペーパー>
トイレットペーパー1xは木材パルプ100質量%からなるものであってもよく、古紙パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを含んでもよい。目標とする品質を得るためには、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)の含有率が0質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更に好ましい。また、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)の含有率が30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上70質量%以下であることが更に好ましい。
【0057】
また、ミルクカートン等の液体飲料用カートン由来の古紙パルプの含有率が0質量%より大きく60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であることが更に好ましく、クラフトパルプの含有率が、40質量%以上100質量%未満であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが更に好ましい。
【0058】
ミルクカートン等の液体飲料用カートン由来の古紙パルプは、針葉樹パルプが主体であり、トイレットペーパー1xの強度を向上させやすいというメリットがある一方で、品質的にバラツキが大きく、含有割合が高過ぎると製品の品質に影響することがある。ミルクカートン等の液体飲料用カートン由来の古紙パルプの含有量を上記の範囲内のものとすることにより、品質のバラツキを抑えつつ、トイレットペーパー1xの強度を効果的に向上させることができる。
【0059】
なお、上記のLBKPとしては、ユーカリ属グランディス及びユーカリグロビュラスに代表される、フトモモ科ユーカリ属の材種から形成されるパルプが好ましい。
【0060】
本発明においては、上記のNBKP、LBKP、ミルクカートン由来の古紙のパルプ100質量部に対して、新聞や雑誌古紙等由来の脱墨パルプを25質量部以下の範囲内で配合することができる。なお、脱墨パルプを25質量部配合したときの、トイレットペーパー1x(シート)中の脱墨パルプの含有率は、25質量部/(100質量部+25質量部)×100=20質量%となる。脱墨パルプの含有率は0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上5質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。脱墨パルプも古紙であるため、これをパルプ原料に配合することにより、トイレットペーパー1xの品質のバラツキが大きくなる。また、脱墨パルプは通常、蛍光染料を含んでおり、その含有率が20質量%を超えると、トイレットペーパー1xが蛍光染料を多く含むことになる場合がある。このため、脱墨パルプの含有量は20質量%以下とすることが好ましい。
【0061】
なお、トイレットペーパー1xに適正な強度を確保するために、通常の手段で原料配合し、パルプ繊維の叩解処理を行うことにより強度調整を行うことができる。目標の品質を得るための叩解としては、市販のバージンパルプに対して、JIS P 8121で測定されるカナダ標準ろ水度で、叩解前後におけるろ水度の差を0ml以上150ml以下、より好ましくは10ml以上100ml以下、更に好ましくは20ml以上70ml以下に低減させる叩解処理を挙げることができる。
【0062】
トイレットペーパー1xは、紙料にバージン系原料を使用する場合は、一定範囲の繊維長及び繊維粗度を有する針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプを特定の範囲で配合して抄紙することができる。紙料への添加剤としては最終製品の要求品質に応じ、デボンダー柔軟剤を含めた柔軟剤、嵩高剤、染料、分散剤、乾燥紙力増強剤、濾水向上剤、ピッチコントロール剤、吸収性向上剤等を用いることができる。湿潤紙力増強剤は使用しないことが好ましい。トイレットペーパー1xの紙料に古紙原料を使用する場合も、上記バージン系の場合と同様の処理を行う。
【0063】
[トイレットペーパーの製造方法]
トイレットペーパー1xは、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造することができる。このうち、(2)については既に説明したので省略する。
【0064】
(抄紙及びクレーピング)
まず、公知の抄紙機のワイヤーパート上で上記紙料からウェブを抄紙し、プレスパートのフェルトへ移動させる。ワイヤーパートの方式としては、丸網式、長網(フォードリニアー)式、サクションブレスト式、短網式、ツインワイヤー式、クレセントフォーマー式等が挙げられる。
【0065】
そして、ウェブに対し、サクションプレッシャーロール又はサクションなしのプレッシャーロール又はプレスロール等で機械的に圧縮をしたり、あるいは熱風による通気乾燥等の脱水方法を採用したりして脱水を続ける。また、サクションプレッシャーロール又はサクションなしのプレッシャーロールは、プレスパートからヤンキードライヤーにウェブを移動させる手段としても使用される。
【0066】
ヤンキードライヤーに移動されたウェブは、ヤンキードライヤー及びヤンキードライヤーフードで乾燥された後、クレーピングドクターによりクレーピング処理され、リールパートで巻取られる。
【0067】
クレーピング(クレープと言われる波状の皺をつけること)は、紙を縦方向(抄紙機上のシート走行方向)に機械的に圧縮することである。そして、トイレットペーパー1xのウェブの製造の際、クレーピングドクターによりヤンキードライヤー上のウェブが剥がされ、リールパートで巻取られるが、ヤンキードライヤーとリールパートの速度差(リールパートの速度≦ヤンキードライヤーの速度)によりクレーピングドクターにてクレープ(皺)が形成される。
【0068】
トイレットペーパー1xに必要な品質、すなわち嵩(バルク感)、柔らかさ、吸水性、表面の滑らかさ、美観(クレープの形状)等は上記速度差で左右される。上記速度差等の条件にもよるが、クレーピング後のリール上のウェブの坪量は概略17g/m2以上25g/m2以下となり、クレーピング前のヤンキードライヤー上のウェブの坪量より重くなる。上記坪量は、好ましくは18g/m2以上24g/m2以下、より好ましくは19g/m2以上23g/m2以下である。上記範囲を超えると、強度が高くなって紙がゴワゴワする場合があり、上記範囲未満であると、強度が弱くて破れやすくなったり、手触りや嵩高さが劣ったりする場合がある。
【0069】
ここで、ヤンキードライヤーとリールのスピード差に基づくクレープ率は次式により定義される。
クレープ率(%)=100×{(ヤンキードライヤー速度(m/分)-リール速度(m/分)}÷リール速度(m/分)
【0070】
品質や操業性の良し悪しはこのクレーピングの条件で大方決まり、クレーピング条件を最適とする操業条件が当業者にとって重要な事項となる。本発明においてトイレットペーパー1xを製造する際のクレープ率は10%以上50%以下であることが好ましく、15%以上40%以下であることがより好ましく、20%以上35%以下であることが更に好ましい。
【0071】
エンボス処理前のトイレットペーパー1xの紙厚を好ましくは0.5mm/10枚以上1.2mm/10枚以下、より好ましくは0.6mm/10枚以上1.1mm/10枚以下、更に好ましくは0.7mm/10枚以上0.9mm/10枚以下とする。また、エンボス処理前の原反ロール12におけるトイレットペーパー1xの比容積を好ましくは2.7cm3/g以上6.2cm3/g以下、より好ましくは3.0cm3/g以上5.9cm3/g以下、更に好ましくは3.3cm3/g以上5.6cm3/g以下とする。なお、エンボス処理前のトイレットペーパー1xの紙厚は、原反ロール12における紙厚である。エンボス処理前の紙厚および比容積は、トイレットロールの紙厚および比容積より高めとなる。上記のとおり、本発明に用いるエンボスパターン2は、エンボス処理により紙厚および比容積を低くすることができるため、長尺トイレットロールに適している。
【0072】
原反ロール12を、例えば
図7のロール巻取り加工機110によってエンボス処理し、トイレットロール1を得る。なお、巻密度は、
図7のロール巻取り加工機110において、巻取り機構113で幅広の原紙ロール13に巻取る際、原紙ロール13を外周側から押圧してシートを順次巻くためのライダーロール114の押圧力を、所定範囲に設定することで調整できる。
【0073】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲には限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例】
【0074】
パルプ組成の含有率(質量%)が、NBKP10%、LBKP60%、ミルクカートン等の液体飲料用カートン由来の古紙パルプ30%となるようにし、脱墨パルプは含有させず、
図7に示す装置により、表1から表3に示すトイレットペーパー(1プライ)及びトイレットロールを製造した。なお、エンボスパターンの形成には、全て同じエンボスロールとゴムロールを用い、エンボスロールと対向するゴムロールのニップ幅を32mmに統一し、
図3に示すように、エンボスパターンの重心を流れ方向及び幅方向に結ぶ線が、それぞれ直線状であり、隣接する前記エンボスパターンの、幅方向における離間距離が、流れ方向における離間距離よりも大きく、流れ方向に平行な線に対する、エンボスパターンの重心を流れ方向に結ぶ線の傾きが0°となるように調整した。
【0075】
以下の測定を行った。なお、各測定は、JIS P 8111に規定する温湿度条件下(23±1℃、50±2%RH)で平衡状態に保持後に行った。
【0076】
坪量:JIS P8124に基づいて測定し、シート1枚あたりに換算した。
【0077】
紙厚:シックネスゲージ(尾崎製作所製のダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK」)を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。なお、トイレットペーパーを10枚重ねて、10プライ分として測定を行った。また、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。なお、ロール上の測定位置は、トイレットロールを巻きほぐした際の最内巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の90%に相当する位置とした。
【0078】
比容積:シート1枚あたりの紙厚を1枚あたりの坪量で割り、単位gあたりの容積cm3で表した。
【0079】
乾燥時の縦方向引張強さDMDTと乾燥時の横方向引張強さDCDT:JIS P 8113に基づいて、トイレットペーパーにつき、破断までの最大荷重をN/25mmの単位で測定した。引張強さの測定は、引張速度300mm/minの条件で行った。
【0080】
巻長:トイレットロールのミシン目とミシン目の間のシートについて、10シート分の長さを実測した。その後、ロールのシート数を実測し、巻長さは10シート分の長さとシート数から比例計算で求めた。例えば、10シート分の長さが1.515m、シート数が330シートの場合、1.515m×(330/10)=50mとなる。なお、ミシン目がない場合は、実測することにより巻長を求めた。
【0081】
ロールの巻直径DR、コア外径DI:ムラテックKDS株式会社製ダイヤメータールールを用いて測定した。測定は、10個のロールを測定し、測定結果を平均した。
【0082】
ロール質量:ロール質量は、電子天秤を用いて測定した。まず、コアを含むロール質量を測定し、その後、コアの質量を測定した。コアを含むロール質量から、コアの質量を差し引き、ロール質量とした。ロール質量は、10個のロールを測定し、測定結果を平均した。なお、ロール幅が114mmと異なる場合は、ロール幅を114mmに換算してロール質量を求めた。例えば、ロール幅が105mmの場合、そのロール質量に係数(114/105)を乗じた質量を、ロール幅が114mmあたりのロール質量とした。
【0083】
巻密度及びTS750については、上記の方法により測定した。なお、TS750については、内巻領域については、トイレットロールを巻きほぐした際の最内巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の25%に相当する位置、外巻領域については、トイレットロールを巻きほぐした際の最外巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の10%に相当する位置、をそれぞれ測定した。
【0084】
なお、外巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれのTS750の値を乗じた数値に対する、内巻領域における、トイレットペーパーの表面及び裏面それぞれのTS750の値を乗じた数値(%)を、表中では、TS750(表×裏 内巻/外巻)と記載している。また、外巻領域における、トイレットペーパーの裏面のTS750の値に対する、内巻領域における、トイレットペーパーの裏面のTS750の値(%)を、表中では、TS750(裏 内巻/外巻)と記載している。
【0085】
また、外巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚に対する内巻領域におけるトイレットペーパーの紙厚(%)を表中では、紙厚(内巻/外巻)と記載している。なお、紙厚に関する当該データを採る場合において、内巻領域については、最内巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の25%に相当する位置を起点として、最内巻に向かう方向にトイレットペーパーを10枚分採取し、上記の同様の方法により測定した。また、外巻領域については、最外巻のトイレットペーパーの端縁からトイレットロールの巻長の10%に相当する位置を起点として、最外巻に向かう方向にトイレットペーパーを10枚分採取し、同様に測定した。
【0086】
官能評価は、モニター20人が、各評価項目について、「よい」又は「悪い」を選択する方式で行った。評価基準は以下のとおりである。◎、○、△を合格とした。
◎:「よい」が18人以上20人以下のとき
○:「よい」が14人以上17人以下のとき
△:「よい」が10人以上13人以下のとき
×:「よい」が、6人以上9人以下のとき
××:「よい」がいないか、1人以上5人以下のとき
【0087】
得られた結果を表1から表3に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
以上より、本発明によれば、製造工程に起因する擦れシワが良好に抑えられ、内巻領域と外巻領域における紙質の差が小さく、交換頻度の低い、高品質の長尺トイレットロールを提供することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 トイレットロール
1a ロール表面
1b ロール裏面
1e 最外巻のトイレットペーパーの端縁
1f 最内巻のトイレットペーパーの端縁
1x トイレットペーパー
12 原反ロール
13 原紙ロール
110 ロール巻取り加工機
111 エンボスロール
112 ゴムロール
113 巻取り機構
114 ライダーロール
2 エンボスパターン
21 補助エンボスパターン
E 芯(コア)
F 内巻領域
G 外巻領域
MD 流れ方向
W 幅方向
DR 巻直径
DI コア外径