(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】旋回主軸装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/00 20060101AFI20221018BHJP
B23B 19/00 20060101ALI20221018BHJP
B23Q 1/70 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23Q1/00 E
B23B19/00
B23Q1/70
(21)【出願番号】P 2018124114
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
(72)【発明者】
【氏名】若杉 直矢
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-118867(JP,A)
【文献】特開2011-036922(JP,A)
【文献】特開平07-001206(JP,A)
【文献】特開平02-076603(JP,A)
【文献】特開昭62-176725(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10125722(DE,A1)
【文献】国際公開第2009/098957(WO,A1)
【文献】特開2006-341360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/00
B23B 19/00
B23Q 1/50-1/54
B23Q 1/64
B23Q 1/70
B23Q 5/20
B23Q 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スリーブ及び前記固定スリーブの外周側に配置される回転スリーブを有する旋回軸と、
前記固定スリーブを回転規制して支持し、前記回転スリーブを回転可能に支持する固定本体部と、
前記旋回軸の旋回軸線に対し傾斜した主軸を有する主軸装置を有し、前記固定本体部に対し前記旋回軸線の回りで前記回転スリーブと共に回転可能な旋回本体部と、
前記固定スリーブに取り付けられ、前記回転スリーブの回転角度を検出するエンコーダヘッドが取り付けられるヘッド取付部材と、
を備え、
前記固定スリーブには、前記固定スリーブの一端側から他端側にかけて連通する第一溝が形成され、
前記第一溝には、前記エンコーダヘッドに接続される第一電気配線路が配置され
、
さらに、前記固定スリーブの内周側に配置され、内部に前記主軸装置に接続される第二電気配線路が通される空間部を有し、前記第二電気配線路と共に所定位相のねじりが可能なガイド、を備える、旋回主軸装置。
【請求項2】
前記第一溝は、前記ガイドとの間を遮る保護部材で覆われる、請求項
1に記載の旋回主軸装置。
【請求項3】
前記保護部材は、電磁波を遮蔽可能な材料で形成される、請求項
2に記載の旋回主軸装置。
【請求項4】
前記ヘッド取付部材には、前記第一溝の一端側から前記エンコーダヘッドにかけて連通する第二溝が形成され、
前記第二溝には、前記第一電気配線路が配置される、請求項1-
3の何れか一項に記載の旋回主軸装置。
【請求項5】
前記回転スリーブには、前記エンコーダヘッドで検出される前記回転スリーブの回転角度に対応したエンコーダスケールが、前記回転スリーブと共に回転可能に取り付けられる、請求項1-
4の何れか一項に記載の旋回主軸装置。
【請求項6】
請求項1-
5の何れか一項に記載の旋回主軸装置を備え、
前記主軸装置の主軸には、工作物の加工が可能な回転工具が回転可能に取り付けられる、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回主軸装置及び工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、旋回主軸装置を備える工作機械が記載されている。この旋回主軸装置は、旋回軸を45度に傾斜させた状態で回転可能に支持する固定本体部と、旋回軸と共に回転可能な旋回本体部と、旋回軸回りで旋回本体部に支持される主軸装置とを備える。旋回主軸装置は、主軸装置を旋回軸回りで旋回させて垂直姿勢と水平姿勢の間で旋回割出しを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の工作機械において高精度な加工を実施するためには、オープンタイプやクローズタイプのロータリーエンコーダにより旋回軸の回転角検出を行い、精密な旋回軸の回転制御を行う必要がある。ロータリーエンコーダは、エンコーダヘッドとエンコーダスケールを備え、エンコーダヘッドは、エンコーダスケールの外周に配置されて回転角検出を行う。エンコーダヘッドは、サーボアンプリファイア(サーボアンプ)からの受電、サーボアンプへの送信を実施するために、サーボアンプと電気配線路で接続する必要がある。
【0005】
ここで、旋回主軸装置の旋回軸は、設計上、中心側に固定部が配置され、外周側に回転部が配置される。このため、エンコーダヘッドは、外周側の回転部に配置され、エンコーダスケールは、内周側の固定部に配置される。このため、エンコーダヘッドには、曲げやねじれに耐久性のある電気配線路を使用する必要があるが、一般的に、エンコーダヘッドにモールドされている電気配線路は可動線ではない。
【0006】
よって、エンコーダヘッドにモールドされている電気配線路を可動対応電気配線路に中継する必要がある。ところが、エンコーダヘッドのメーカは、ねじれも含めた可動対応電気配線路を延長ケーブルとしてラインナップしていることは稀で、他社の延長ケーブルを使用する場合はサポートの対象外とされる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、可動対応電気配線路が不要なロータリーエンコーダを備える旋回主軸装置及び旋回主軸装置を備える工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の旋回主軸装置は、固定スリーブ及び前記固定スリーブの外周側に配置される回転スリーブを有する旋回軸と、前記固定スリーブを回転規制して支持し、前記回転スリーブを回転可能に支持する固定本体部と、前記旋回軸の旋回軸線に対し傾斜した主軸を有する主軸装置を有し、前記固定本体部に対し前記旋回軸線の回りで前記回転スリーブと共に回転可能な旋回本体部と、前記固定スリーブに取り付けられ、前記回転スリーブの回転角度を検出するエンコーダヘッドが取り付けられるヘッド取付部材と、を備え、前記固定スリーブには、前記固定スリーブの一端側から他端側にかけて連通する第一溝が形成され、前記第一溝には、前記エンコーダヘッドに接続される第一電気配線路が配置され、さらに、前記固定スリーブの内周側に配置され、内部に前記主軸装置に接続される第二電気配線路が通される空間部を有し、前記第二電気配線路と共に所定位相のねじりが可能なガイド、を備える。
【0009】
本発明の旋回主軸装置では、固定スリーブにヘッド取付部材を介してエンコーダヘッドが取り付けられる。そして、固定スリーブには、エンコーダヘッドに接続される第一電気配線路が配置される第一溝が形成される。このため、エンコーダヘッドには、可動対応電気配線路を用いる必要はなく、エンコーダヘッドに接続される第一電気配線路は、回転スリーブを経由する必要はなくなる。よって、旋回軸の検出回転角度の信頼性を向上でき、また、旋回主軸装置のコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態の旋回主軸装置を備える工作機械の斜視図である。
【
図2B】旋回主軸装置における主軸の旋回範囲を旋回軸線方向から見た図である。
【
図3】エンコーダヘッド及びエンコーダスケールの取付状態をX軸線方向に見た断面図である。
【
図4A】
図3のエンコーダスケールを取り外してエンコーダヘッドの取付状態を旋回軸線方向に見た図である。
【
図4B】
図4Aのエンコーダヘッド及びエンコーダスケールの取付状態をVB方向に見た断面図である。
【
図5】
図3のエンコーダヘッド及びエンコーダスケールの取付状態を旋回軸線方向に見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.旋回主軸装置を備える工作機械の構成)
本実施形態の旋回主軸装置を備える工作機械を例に挙げて説明する。
図1に示すように、工作機械1は、工作物を加工する5軸マシニングセンタであり、ベッド11、コラム12、サドル13、旋回主軸装置20、スライドテーブル14及びターンテーブル15を備える。ベッド11は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ベッド11上には、コラム12が起立して設けられる。
【0012】
コラム12の側面には、サドル13がX軸線方向に移動可能に設けられる。サドル13の側面には、主軸装置30が取り付けられる旋回主軸装置20がY軸線方向に移動可能に設けられる。また、ベッド11上には、スライドテーブル14がZ軸線方向に移動可能に設けられる。スライドテーブル14上には、ターンテーブル15がY軸線回り(B軸)に回転可能に設けられる。ターンテーブル15には、図略の工作物が治具を介して固定される。
【0013】
図2A及び
図3に示すように、旋回主軸装置20は、旋回軸21、旋回本体部22及び固定本体部23を備える。本例の旋回主軸装置20は、固定本体部23に対して旋回軸21を旋回本体部22と共に回転させて、
図2Bに示すように、主軸装置30の姿勢(回転軸線Rの向き)を水平方向(0度)から垂直方向(180度)を経て所定角度θ(例えば、210度)までの間で変化させて主軸装置30の旋回割出しを行う装置である。詳細は後述するが、旋回本体部22(旋回軸21)の回転角度は、エンコーダヘッド61及びエンコーダスケール62を有するロータリーエンコーダ60で検出される。
【0014】
図3に示すように、旋回軸21は、略中空円筒状の旋回軸本体21A、中空円筒状の回転スリーブ24及び中空円筒状の固定スリーブ25を有し、旋回軸線DがZ軸線に対し45度傾斜するように固定本体部23内に配置される。旋回軸本体21Aは、固定本体部23内で図略のモータ及び減速機構により回転駆動可能に支持される。回転スリーブ24は、旋回軸本体21Aの内周に同軸(旋回軸線D)で挿入され、旋回軸本体21Aと共に回転可能に設けられる。固定スリーブ25は、回転スリーブ24の内周に同軸(旋回軸線D)で嵌入され、固定本体部23に固定され回転規制される。
【0015】
図2Aに示すように、旋回本体部22は、旋回軸線D方向に見たときに旋回本体部22よりも径方向に大きいフランジ部22Aを備える。すなわち、フランジ部22Aは、旋回本体部22の旋回軸21側の開口周縁部から径方向外側に張り出すように一体的に設けられる。
図3に示すように、旋回本体部22は、フランジ部22Aと略同径の円盤部材40を介して旋回軸21の下端に旋回軸線D回りに回転可能に設けられる。
【0016】
さらに、
図2Aに示すように、旋回本体部22には、主軸装置30が主軸31の回転軸線Rを旋回軸21の旋回軸線Dに対し45度傾斜させた状態で旋回軸線D回りに旋回可能に支持される。主軸31の先端側には、回転工具32が着脱可能に取り付けられ、主軸31の後端側には、主軸31の図略の回転用モータのモータ軸が連結される。
【0017】
固定本体部23は、サドル13の側面にY軸線方向に移動可能に設けられる。
図3に示すように、固定本体部23の内部には、主軸装置30に接続される第二電気配線路26が設けられる。すなわち、固定スリーブ25の内周側(中心孔25e)には、内部に第二電気配線路26が通される空間部を有する円筒状のガイド50が配置される。このガイド50は、旋回本体部22の回転に追従して第二電気配線路26と共に所定位相のねじりが可能に構成される。
【0018】
そして、第二電気配線路26は、固定本体部23の内部からガイド50を通って旋回本体部22の内部へ至るように設けられる。第二電気配線路26としては、主軸31の回転用モータの駆動用の動力線等がある。さらに、固定本体部23の内部には、油気圧を通す図略の流体配管路が設けられる。なお、クーラントは、旋回主軸装置20の外部に設けられる図略のノズル等を用いて回転工具32等に供給される。
【0019】
(2.ロータリーエンコーダの取付構造)
次に、ロータリーエンコーダの取付構造について図を参照して説明する。
図3に示すように、ロータリーエンコーダ60は、旋回本体部22(回転スリーブ24)の回転角度を検出する一般的な装置であり、エンコーダヘッド61及びエンコーダスケール62を有する。エンコーダヘッド61は、光源及び光電変換素子を備える。
【0020】
エンコーダスケール62は、一定角度のピッチのスリットを有する格子円盤及びこの格子円盤に重ね合わされる同ピッチのスリットを有する格子スケールを備える。エンコーダヘッド61は、格子円盤のみが回転し、1ピッチの回転毎にスリットを通過する光源からの光を光電変換素子で検出する。そして、回転の変位を求めてカウンタで加減算することで回転角度を検出する。
【0021】
図3、
図4A及び
図4Bに示すように、固定スリーブ25の下端面には、半円盤状のヘッド取付部材63が連結される。ヘッド取付部材63は、軽量化のため半円盤状に形成される。そして、このヘッド取付部材63の外縁部の下面には、ロータリーエンコーダ60のエンコーダヘッド61が取り付けられる。
【0022】
作業者は、高所に位置するエンコーダヘッド61に対し下方からアクセス可能となるので、メンテナンス作業等を容易に行うことができる。また、仮に、クーラントが、エンコーダヘッド61の上方に位置する固定本体部23と旋回本体部22の連結部から浸入しても、ヘッド取付部材63に遮られるため、エンコーダヘッド61に対するクーラントの影響を抑制できる。
【0023】
図4Bに示すように、固定スリーブ25の内周には、固定スリーブ25の下端側(一端側)から上端側(他端側)にかけて軸線方向に連通する第一溝25Dが形成される。この第一溝25Dには、エンコーダヘッド61に接続される第一電気配線路64が配置される。
【0024】
そして、第一電気配線路64が配置される第一溝25Dは、保護部材65で覆われる。この保護部材65は、ガイド50との間を遮って接触を防止するとともに、回転用モータの駆動用の動力線(第二電気配線路26)から発生する電磁波を遮蔽してノイズ発生を防止する。よって、電磁波を遮蔽可能な材料、例えば鉄等で形成される。
【0025】
図4A及び
図4Bに示すように、ヘッド取付部材63には、第一溝25Dの下端側からエンコーダヘッド61にかけて連通する第二溝63Dが形成される。第二溝63Dは、ヘッド取付部材63の内周において第一溝25Dの下端からヘッド取付部材63の下面にかけて軸線方向に延びるように形成される。さらに、ヘッド取付部材63の径方向外側に延びた後、ヘッド取付部材63の外周縁部に沿って円弧状に延びてエンコーダヘッド61に至るように形成される。
【0026】
この第二溝63Dには、第一電気配線路64が配置される。そして、第一電気配線路64が配置される第二溝63Dは、保護部材66で覆われる。この保護部材66は、第一電気配線路64の垂れ下がりを防止するとともに、回転用モータの駆動用の動力線から発生する電磁波を遮蔽してノイズ発生を防止する。よって、電磁波を遮蔽可能な材料、例えば鉄等で形成される。
【0027】
図4及び
図5に示すように、回転スリーブ24の下端面には、円盤部材40及び半円盤状の支持部材67を介して円盤状のスケール取付部材68が連結される。支持部材67は、軽量化のため半円盤状に形成される。そして、スケール取付部材68の下端面には、ロータリーエンコーダ60のエンコーダスケール62が取り付けられる。スケール取付部材68とエンコーダスケール62は、インローで一体化される。そして、スケール取付部材68は、内周面を使って芯出しされる。
【0028】
本実施形態の旋回主軸装置20では、固定スリーブ25にヘッド取付部材63を介してエンコーダヘッド61が取り付けられる。そして、固定スリーブ25には、エンコーダヘッド61に接続される第一電気配線路64が配置される第一溝25Dが形成される。このため、エンコーダヘッド61には、可動対応電気配線路を用いる必要はなく、エンコーダヘッド61に接続される第一電気配線路64は、回転スリーブ24を経由する必要はなくなる。よって、旋回軸21の検出回転角度の信頼性を向上でき、また、旋回主軸装置20のコストダウンを図ることができる。
【0029】
(3.その他)
上述した実施形態では、傾斜した旋回軸21を有する旋回主軸装置20に適用する場合を説明したが、水平な旋回軸を有する旋回主軸装置や垂直な旋回軸を有する旋回主軸装置にも同様に適用可能である。また、旋回軸を有するテーブル(トラニオン、チルト)や主軸チルトにも同様に適用可能である。
【0030】
また、旋回軸21の旋回軸線DがZ軸線に対し45度傾斜する旋回主軸装置20について説明したが、旋回軸の旋回軸線DがZ軸線に対し任意の角度傾斜する旋回主軸装置についても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:工作機械、 20:旋回主軸装置、 21:旋回軸、 21A:旋回軸本体、 22:旋回本体部、 23:固定本体部、 24:回転スリーブ、 25:固定スリーブ、 25D:第一溝、 26:第二電気配線路、 30:主軸装置、 31:主軸、 32:回転工具、 40:円盤部材、 50:ガイド、 60:ロータリーエンコーダ、 61:エンコーダヘッド、 62:エンコーダスケール、 63:ヘッド取付部材、 63D:第二溝、 64:第一電気配線路、 65,66:保護部材、 67:支持部材、 68:スケール取付部材、 D:旋回軸線