(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】水和硬化体の型枠用積層シート及びこれを備える水和硬化体の型枠
(51)【国際特許分類】
E04G 11/28 20060101AFI20221018BHJP
E04G 9/05 20060101ALI20221018BHJP
B28B 7/36 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
E04G11/28
E04G9/05
B28B7/36
(21)【出願番号】P 2018134173
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝久
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-210225(JP,A)
【文献】特開2018-035657(JP,A)
【文献】米国特許第05820775(US,A)
【文献】特開2001-009818(JP,A)
【文献】特開平11-013279(JP,A)
【文献】特開平11-22189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 9/00-19/00
B28B 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材の表面にポリフェニレンサルファイド樹脂からなるフィルム(但し、多孔質であるものを除く。)が積層された水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠用積層シート。
【請求項2】
前記フィルムの厚みが、0.01~0.03mmである請求項1記載の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠用積層シート。
【請求項3】
前記フィルムと前記基材とがアクリル系接着剤を介して積層された請求項1又は2記載の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠用積層シート。
【請求項4】
型枠部材と、請求項1~3の何れか1項に記載の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠用積層シートとを備え、前記の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠用積層シートが、そのフィルム側が内表面を構成するように型枠部材の表面に設けられた水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠。
【請求項5】
型枠部材が金属製である請求項4記載の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠。
【請求項6】
請求項4又は5記載の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠と、該型枠を水和硬化体であるコンクリートに沿って摺動させる移動手段とを備える滑動型枠装置。
【請求項7】
請求項6に記載の滑動型枠装置を用いて、前記の水和硬化体の
、型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設する施工方法用型枠を前記水和硬化体であるコンクリートに沿って摺動させる移動手段により、移動させながら連続的にコンクリートを打設する、コンクリートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンクリートやモルタル等のセメントを含む水和硬化体の型枠用積層シート及びこれを備える水和硬化体の型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばコンクリートやモルタル等のセメントを含む水和硬化体の型枠の構成材質には、鉄、ステンレス、アルミ等の金属や木材等が使用されてきた。しかし、これらの材質で作製された型枠の内面には、脱型の際にコンクリートやモルタル等の水和硬化体が付着、残存することがある。そのため、セメントと水を含む水和硬化性組成物を型枠に充填し、その硬化後に脱型するたびに型枠の内表面の清掃や離型剤の塗布が必要であった。そこで、離型性を向上させるために、型枠の内表面に離型性の良好な樹脂を焼付けて塗膜を形成したり、そのような樹脂を含浸させたシートで型枠の内表面を被覆したりすることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)
【0003】
特許文献1には、鋼製のコンクリート型枠の内面に粗面処理を施してからその処理面に熱可塑性樹脂の塗膜を焼付塗装法により形成することが記載されている。このようにして塗膜を形成することで、離型剤が不要になるとされている。
【0004】
特許文献2には、底板と、上板と、筒と、シートとからなる水和硬化体の養生用成型枠であって、シートはフッ素系樹脂を含浸させたものであり、筒の内壁面がこのシートで覆われているものが記載されている。このようなシートを用いることで、水和硬化体への外部からの化学成分の混入のおそれをなくし、型枠との良好な離型が実現されるとされている。
【0005】
また、近年では、例えば、縁石、ロールドガッタ、U字溝、L型街渠、円形水路、防護柵、立壁等の同一断面の連続したコンクリート構造物、或いは、橋脚、煙突、吊り橋や斜張橋のRC筒状構造物等を構築する手段としてコンクリート連続打設工法が採用されている。この工法は、例えば型枠等を備える成型機等を用い、型枠内にコンクリートを投入し、その内部で締固め・成型を行うと同時に、成型機等を前進させることにより同一断面の構造物を連続的に構築していくものである。このように、この工法では、コンクリート表面に沿って型枠を前進させるため、コンクリート表面に気泡やシワ等が発生し、コンクリート表面の平滑性が得られない場合がある。そこで、このような工法におけるコンクリート表面の平滑性の悪化を防止するため、コンクリート型枠の内表面に滑性に富む樹脂素材からなる滑性シートを配置した型枠が提案されている(特許文献3)。
【0006】
特許文献3には、型枠を備える滑動型枠装置において、記型枠のコンクリートと接する内面側に、型枠移動時においてコンクリートとの縁切り性を高める、滑性に富む樹脂素材からなる滑性シートを一体に配置した型枠が記載されている。滑性に富む樹脂素材としては、テフロン(登録商標)シート、高密度ポリエチレンが記載されている。
【0007】
また、近年、コンクリート構造物、例えば、マンション等の建築物では、その表面の少なくとも一部に塗料等で外観を被覆することなく、打放しコンクリートにより構造物の外観を構成する場合がある。また、その他のコンクリート構造物でも、設置場所の景観を構成することがある。そのため、コンクリート構造物の表面の外観に対して、従来より高い平滑性が求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平2-133304号公報
【文献】特許第6102333号公報
【文献】特許第3425353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の特許文献1に記載の発明のように熱可塑性樹脂を焼付塗装法により型枠表面に塗膜を形成することは、実際には容易ではない。また、このような塗膜は、脱型の際に塗膜が剥離することがあり、耐久性が低い。また、特許文献3に記載の高密度ポリエチレン製の滑性シートも、実際には型枠に取り付けることが困難である。そのため、特許文献1に記載の型枠や特許文献3に記載の高密度ポリエチレン製の滑走シートが設けられた型枠を用いて、表面の平滑性が良好なコンクリート構造物を提供することは実際には困難である。また、特許文献1に記載の型枠を特許文献3に記載のようなコンクリートに沿って摺動する型枠を備えた滑動型枠装置へ適用することも極めて困難である。さらに、特許文献2、3に記載のフッ素系樹脂を用いたシートを型枠に適用することで離型性は改善される。しかし、本発明者の検討の結果、フッ素系樹脂のシートを用いると、得られるコンクリート構造物やモルタルの硬化物等の表面に気泡が大量に発生し、その表面の平滑性が大きく損なわれることが判明した。
【0010】
そこで、本発明の目的は、コンクリートやモルタル等の水和硬化体から型枠を脱型する際の離型性或いは水和硬化体の表面に対する摺動性が良好で、得られるコンクリート構造物やモルタルの硬化物等の水和硬化体の表面の平滑性を従来よりも良好とすることが可能な水和硬化体の型枠用積層シート及び該積層シートを用いた水和硬化体の型枠を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、シート状の基材の表面にポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」と称する場合がある。)樹脂からなるフィルムが積層された積層シートを用いることで、前述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
本発明の第一は、シート状の基材の表面にポリフェニレンサルファイド樹脂からなるフィルムが積層された水和硬化体の型枠用積層シートに関する。
【0013】
本発明の実施形態では、前記フィルムの厚みが、0.01~0.03mmであってよい。
【0014】
本発明の実施形態では、前記フィルムと前記基材とがアクリル系接着剤を介して積層されていてもよい。
【0015】
本発明の第二は、型枠部材と、前述の水和硬化体の型枠用積層シートとを備え、前記の水和硬化体の型枠用積層シートが、そのフィルム側が内表面を構成するように型枠部材の表面に設けられた水和硬化体の型枠に関する。
【0016】
本発明の実施形態では、型枠部材が金属製であってもよい。
【0017】
本発明の第三は、前述の水和硬化体の型枠と、該型枠を水和硬化体であるコンクリートに沿って摺動させる移動手段とを備える滑動型枠装置に関する。
【0018】
本発明の第四は、前述の水和硬化体の型枠に水和硬化性組成物を投入し、水和硬化性組成物が硬化した後脱型し、水和硬化体を得る、水和硬化体の製造方法に関する。
【0019】
本発明の第五は、前述の滑動型枠装置を用いて、前記の水和硬化体の型枠を前記水和硬化体であるコンクリートに沿って摺動させる移動手段により、移動させながら連続的にコンクリートを打設する、コンクリートの施工方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、コンクリートやモルタル等の水和硬化体から型枠を脱型する際の離型性或いは水和硬化体の表面に対する摺動性が良好で、得られるコンクリート構造物やモルタルの硬化物等の水和硬化体の表面の平滑性を従来よりも良好とすることが可能な水和硬化体の型枠用シート及び該シートを用いた水和硬化体の型枠を提供することができる。また、当該水和硬化体の型枠は、例えば、プレキャストコンクリートやモルタル製の成型体等を製造するための水和硬化体の型枠や、例えばコンクリート連続打設工法において用いられる滑動型枠装置の水和硬化体の型枠に好適である。また、当該滑動型枠装置は、例えば、連続的にコンクリートを打設するコンクリートの施工方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】シート状の基材の一方の表面にPPSフィルムが直接積層された断面構造を有する水和硬化体の型枠用積層シートの実施形態を模式的に示した断面図である。
【
図2】シート状の基材の一方の表面にPPSフィルムが接着剤層を介して積層された断面構造を有する水和硬化体の型枠用積層シートの実施形態を模式的に示した断面図である。
【
図3】
図2に示す水和硬化体の型枠用積層シートを型枠部材の表面に設けた時の水和硬化体の型枠の一部の断面を模式的に示した断面図である。
【
図4】
図3に示す断面構造を有する型枠に水和硬化性組成物又は水和硬化体が充填された状態を模式的に示した断面図である。
【
図5】実施例で使用した型枠を模式的に示した斜視図である。
【
図6】実施例1のコンクリート構造物の表面の(a)デジタルカメラ及び(b)走査電子顕微鏡の撮像図を示したものである。
【
図7】比較例1のコンクリート構造物の表面の(a)デジタルカメラ及び(b)走査電子顕微鏡の撮像図を示したものである。
【
図8】比較例2のコンクリート構造物の表面の(a)デジタルカメラ及び(b)走査電子顕微鏡の撮像図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の水和硬化体の型枠用積層シート、水和硬化体の型枠、水和硬化体の製造方法、コンクリートの施工方法の各実施形態について説明する。
【0023】
本発明の実施形態に係る水和硬化体の型枠用積層シート(以下、「積層シート」と称する場合がある。)は、シート状の基材の表面にポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂からなるフィルムが積層されたものである。
【0024】
PPS樹脂からなるフィルム(以下、「PPSフィルム」と称する場合がある。)は、樹脂成分が実質的にPPS樹脂で構成されたものである。PPS樹脂は、耐アルカリ性に優れる。そのため、アルカリ性を示す生コンクリートやモルタル等の硬化性組成物と接する水和硬化体の型枠の内表面を構成する樹脂として好適である。また、PPS樹脂は耐摩耗性に優れる。そのため、例えば、プレキャストコンクリートやモルタルの成型体の脱型の際や、型枠をコンクリートに沿って摺動させる際に、コンクリートやモルタルの成型体の表面の平滑性を損なうことがない。また、脱型後も、PPSフィルムの損傷や水和硬化体の付着が抑制されることから、連続して型枠を使用可能である。そのため、PPSフィルムは、コンクリート連続打設工法において使用される水和硬化体の型枠用積層シートの構成部材として特に好適である。また、PPS樹脂は吸水性が非常に小さく、耐水性にも優れる。そのため、水やセメント等を含む生コンクリートやモルタル等と接する水和硬化体の型枠の内表面を構成する樹脂として好適である。
【0025】
PPS樹脂は濡れ性が悪いため、PPS樹脂を塗布し、シート状の基材の表面に平滑な表面を有する塗膜を形成することが困難である。しかし、フィルムに成型し、これをシート状基材の表面に積層することで、基材表面に平滑な表面を有するPPS樹脂の層を形成することができる。
【0026】
PPS樹脂は、直鎖型でも架橋型でもよいが、架橋型より機械的特性に優れる直鎖型のものが好ましい。
【0027】
PPSフィルムは、樹脂成分としてのPPS樹脂と必要に応じて添加される各種の添加剤とを含む樹脂組成物を押出成形等することで得ることができる。このような添加剤としては、例えば、充填剤、耐候剤、離型剤、補強剤、難燃剤、強化繊維等が挙げられる。添加剤の添加量は、コンクリートや、モルタルの硬化物等の水和硬化体の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0028】
PPSフィルムの厚みは、型枠が使用される工法等に応じて適宜設定することができるが、加工性の観点から、0.01~0.03mmが好ましい。
【0029】
シート状の基材は、PPSフィルムの外側となる表面が平滑になるようにPPSフィルムを積層可能な平滑な面を有するものであればよい。基材の材質は、特に限定はない。コンクリート硬化時の放熱の観点からは、例えば、鋼、ステンレス、アルミニウム、放熱性樹脂等が好ましい。基材の厚みは、特に限定はなく、水和硬化体の型枠の形状・構造、その表面への設置態様、基材の材質等を考慮して適宜選択可能である。例えば、鋼の場合は、概ね、1~5mmである。
【0030】
基材とPPSフィルムとの積層は、例えば、(i)かしめ、ネジ止め、クリップ等の機械的又は静電気等の静電的な連結による積層、(ii)接着剤を介した連結等の化学的連結による積層、(iii)熱溶着による積層、(iv)これらを組み合わせた連結等が挙げられる。このうち、基材とPPSフィルムとの連結の確実性、簡便性、表面平滑性の観点から、(ii)の積層が好ましい。また、接着剤の層は、基材とPPSフィルムの間の一部に形成されてもよいが、全体に形成されているのが好ましい。(ii)の積層において適用可能な接着剤としては、基材とPPSフィルムの両者に接着可能な接着剤を用いるのが好ましいが、例えば、基材及びPPSフィルムのそれぞれに接着可能な接着剤の間に、これらの接着剤と接着可能な接着剤を積層して3層構造の接着剤層を形成してもよい。また、必要に応じて、接着剤の接合強度を向上させるため、PPSフィルムの表面平滑性に影響がない範囲で、基材及びPPSフィルムの接着剤と接する表面をプライマーで処理したり、粗面化処理をしたりしてもよい。(ii)の積層において使用可能な接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ホットメルト系接着剤、UV硬化系接着剤等が挙げられる。PPSとの接合強度の観点からは、アクリル系接着剤が特に好ましい。接着剤の層の厚みは、接着剤の材質、接着剤の層構造等に応じて適宜決定することができる。例えば、PPSフィルムの厚みの0.5~2倍とすることができる。
【0031】
アクリル系接着剤としては、例えば、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレートを繰返し単位の主成分として含む(メタ)アクリル系ポリマーを含有するものが挙げられる。アルキルアクリレート及びアルキルメタクリレートとしては、例えば、炭素数1~18で、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を有するものが挙げられる。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、イソミリスチル基、ラウリル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系ポリマーは、これらのアルキル基を有するアルキルメタクリレート及びアルキルアクリレートのうちの1種を繰返し単位として含むものでもよいし、2種以上含むものでもよい。
【0032】
前述の(i)及び(ii)の積層により積層シートの積層構造の具体例を、図面を用いて説明すると以下のとおりである。
【0033】
図1は、前述の(i)の積層構造を有する積層シートの具体例を模式的に示した断面図である。
図1に示す水和硬化体の型枠用積層シート1では、シート状の基材3の一方の表面にPPSフィルム2が直接積層されている。PPSフィルム2と基材3とは図示しない機械的機構により又は静電的に連結されている。機械的な連結としては、例えば金属製の基材3の場合は、基材3の端部で基材3を折り返してPPSフィルム2を挟み込んでかしめる機構を採用することができる。また、基材3の材質が任意の場合、基材3とPPSフィルム2の端部でネジ、クリップ等でそれらを連結してもよい。積層シート1は、後述する型枠部材に機械的機構により固定する場合に好適である。尚、必要に応じて、基材3とPPSフィルム2とを部分的に接着剤により連結してもよい。
【0034】
図2は、前述の(ii)の積層構造を有する積層シートの具体例を模式的に示した断面図である。
図2に示す水和硬化体の型枠用積層シート1’では、シート状の基材3の一方の表面に、接着剤層4、PPSフィルム2がこの順で積層されている。即ち、PPSフィルム2が接着剤層4を介して基材3の一方の表面に積層されている。
図2に示す積層シート1’では、PPSフィルム2と基材3との間に面全体に一様に接着剤層4が形成されている。積層シート1’は、(a)基材3に接着剤層4を形成してから又は接着剤層4を形成する接着剤を塗布しながら、接着剤層4を被覆するようにPPSフィルム2を配置する方法、(b)PPSフィルム2の一方の表面に接着剤層4を形成してから、接着剤層4を被覆するように基材3を配置する方法等により得ることができる。このようにPPSフィルム2の一方の表面に接着剤層4が形成されたものは、市販のものが使用することができる。例えば、日東電工株式会社製のNo.320A、No.320A#16等が挙げられる。
【0035】
本発明の実施形態に係る水和硬化体の型枠は、前述の水和硬化体の型枠用積層シートと、型枠部材とを備える。そして、前述の水和硬化体の型枠用積層シートが、そのPPSフィルムの側が内表面を構成するように、型枠部材の表面に設けられている。
【0036】
このように、型枠の内表面が、PPSフィルムにより構成されるため、水和硬化体の型枠は、(a)生コンクリートやモルタル等の水和硬化性組成物の示すアルカリ性により型枠の内表面が侵されることがない、(b)型枠を脱型する際や、型枠をコンクリートに沿って摺動させる際に、コンクリートやモルタル硬化物等の水和硬化体の表面の平滑性を損なうことがない、(c)PPS表面の損傷やコンクリートやモルタル硬化物等の水和硬化体の付着が抑制され、連続して使用可能である、という特性を有する。
【0037】
型枠部材の材質は、特に限定はなく、水和硬化体の型枠に使用される公知の材質を用いることができる。このような材質としては、例えば、鋼、ステンレス、アルミニウム等の金属、木材、樹脂等が挙げられる。鋼は、銑鉄から脱炭して得られる炭素を0.02~2%程度含む鉄である。鋼には、炭素以外に、ケイ素、マンガン、リン、硫黄が含まれ得る。木材は、単板でも合板でもよいし、木材の種類も特に限定はない。樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の何れでもよい。型枠部材の材質は、耐久性の観点からは、金属が好ましく、鋼がより好ましい。
【0038】
水和硬化体の型枠用積層シートと、型枠部材との連結は、例えば、ネジ止め等の機械的連結、接着剤等の化学的連結等により行うことができる。機械的連結の場合、着脱可能な構成を採用することで、積層シートを容易に交換することができる。接着剤を用いる場合は、積層シートの基材の材質、型枠部材の材質を考慮して、接着剤の種類、構成を選択することができる。接着剤を用いて両者を連結する方法としては、例えば、(a)基材と型枠部材の材質の両者に接着性の良好な接着剤の層を形成する、(b)基材と型枠部材の材質のそれぞれに接着性の良好な接着剤の間に、それらの接着剤と接着性の良好な接着剤の層を設けて3層構造の接着剤層を形成する、等が挙げられる。また、基材と型枠部材の接着面には、必要に応じて、接着剤の接合強度を向上させるため、粗面化処理等の処理を施してもよい。使用可能な接着剤としては、例えば、シリコーン系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、アクリル系接着剤、ホットメルト系接着剤、UV硬化系接着剤等が挙げられる。また、シート状の基材とPPSフィルムを積層する方法としては、例えば、ロールトゥロール方式、ホットラミネート方式、コールドラミネート方式、押出ラミネート方式、ドライラミネート方式等の一般的なラミネート方式を採用することができる。
【0039】
型枠の形状構造は、コンクリートやモルタル等の水和硬化体により形成される構造物の形状により、定法に従って適宜決定することができる。型枠は、1又は2以上の型枠部材により構成され得る。また、2以上の型枠部材により構成される場合、積層シートは、各型枠部材の表面に設けられていてもよいし、2以上の型枠部材に対して1つ設けられていてもよい。また、積層シートのみで型枠が構成される部分が含まれていてもよい。
【0040】
図3は、
図2に示す積層シート1’を型枠部材の表面に設けた時の水和硬化体の型枠の一部の断面を模式的に示した断面図である。
図4は、
図3に示す断面構造を有する型枠5にコンクリートやモルタル等の水和硬化性組成物7又はその硬化物である水和硬化体7’が充填された状態を模式的に示した断面図である。
図3に示す断面構造を有する型枠5では、型枠部材6の一方の表面と、基材3とが隣接し、PPSフィルム2が型枠5の内表面を形成するように積層シート1’が設けられている。積層シート1’と型枠部材6とは、図示しないが、それらの周縁部の少なくとも一部で機械的に固定されている。
図3に示す断面構造の型枠5を所望の構造物となる内部構造を形成するように連続させることで、所望の内部構造を有する水和硬化体の型枠が形成される。
【0041】
以上のような水和硬化体の型枠は、例えば、(a)プレキャストコンクリートとしてのコンクリート構造物やモルタルの成型品としての構造物等の水和硬化体を製造する際に用いられる水和硬化体の型枠、(b)水和硬化体の型枠を移動させながら連続的にコンクリートを打設するコンクリートの施工方法において用いられる水和硬化体の型枠として好適である。特に、PPSフィルムによるコンクリート表面への平滑性の付与効果を連続して維持可能なため、(b)のコンクリートの施工方法への適用がより効果的である。
【0042】
前述の(a)のプレキャストコンクリートとしてのコンクリート構造物やモルタルの成型品としての構造物等の水和硬化体の製造方法及び(b)のコンクリートの施工方法としては、従来公知の方法を対象とすることができる。また、(b)の施工方法では、コンクリート型枠をコンクリートに沿って摺動させる移動手段を備える滑動型枠装置が使用される。
【0043】
(a)の製造方法としては、例えばコンクリート構造物の場合は、マンション等のベランダ、各種のブロック類、U字溝、円形水路、汚水桝、擁壁等の規格品であるコンクリート構造物、モルタルの成型体の場合は、ブロック類、コンクリートの表面補修体等のモルタルの構造物等を工場内で製造する際に採用される公知の方法に適用可能である。公知の方法としては、例えば、振動締固め(流込み)方式、即時脱型方式、遠心力成形(方式)等が挙げられる。このうち、振動締固め(流込み)方式について簡単に説明すると以下のとおりである。必要に応じて、所望のコンクリート構造物に適した鉄筋を水和硬化体の型枠内に設置した後、水和硬化体の型枠を組立てる。そして、その型枠内に、コンクリート構造物やモルタルの成型品としての構造物の用途等に応じた生コンクリートやモルタル等の水和硬化性組成物を充填した後、必要に応じて振動機で締固めを行い、水和硬化性組成物内の気体を除去する。その後、必要に応じて蒸気養生を行って、脱型する。
【0044】
(b)の施工方法としては、例えば、(b1)縁石、ロールドガッタ、U字溝、L型街渠、円形水路、防護柵、立壁等の同一断面の連続したコンクリート構造物、或いは、(b2)橋脚、煙突、吊り橋や斜張橋のRC筒状構造物等を構築する手段として採用されているコンクリート連続打設工法が挙げられる。このコンクリート連続打設工法としては、例えば、スリップフォーム工法として知られている施工方法に好適である。
【0045】
例えば、(b1)のコンクリート構造物の施工方法では、移動可能な成型機を用いる。この成型機は、走行装置(クローラまたはタイヤ)、センサー制御装置(方向性の制御、高さの制御、傾斜の制御等)、コンクリートを供給する搬送装置、鋼製の型枠および締固め装置を備える。このような成型機としては、例えば、パワーカーバ社製:PC8700、ゴメコ社製:GT6300、GT3300、ヴィルトゲン社製:SP500等が挙げられる。この成型機は、型枠を備え、コンクリートに沿って移動させる移動手段である走行装置を備えるため、本発明の滑動型枠装置の実施形態の一態様である。(b1)の施工方法では、必要に応じて、施工場所に鉄筋を設置し、成型機を所定位置に移動させ、その外側からコンクリート型枠を被せ、この型枠内にコンクリートを流し込み、例えば型枠内に設けられた振動装置(締固め装置)により締固めてある程度コンクリートが固化した後、成型機を移動させることで型枠を移動させる。以上の操作を繰り返すことで、連続的にコンクリートを打設して、コンクリート構造物を所定の場所に施工することができる。
【0046】
(b2)のコンクリート構造物の施工方法では、例えば、特許文献3に記載の滑動型枠装置を使用し、その型枠のコンクリートと接する内表面側に水和硬化体の型枠用積層シートを設けて、連続的にコンクリートを打設して、コンクリート構造物を所定の場所に施工することができる。
【0047】
前述の(a)の水和硬化体の製造方法において使用されるコンクリートやモルタル等の水和硬化性組成物及び(b)のコンクリートの施工方法において使用される生コンクリートの成分は、製造又は施工されるコンクリート構造物やモルタルの成型品としての構造物等の水和硬化体の要求性能等に応じて、従来公知のものを採用可能である。コンクリート及びモルタルの成分の概要を説明すると以下のとおりである。
【0048】
コンクリートの成分は、一般に、セメント、細・粗骨材、混和材、混和剤、補強材等が含まれる。モルタルは、コンクリート成分のうち粗骨材を含まないものであり、他の成分は概ね同様の成分が含まれ得る。但し、モルタルでは、セメントに変えて石灰を含むことができる。
【0049】
セメントは、例えば、ポルトランドセメント、普通エコセメント、高炉セメント(A種、B種、C種)、シリカセメント(A種、B種、C種)、フライアッシュセメント(A種、B種、C種)、速硬エコセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0050】
細・粗骨材としては、砂利、砂、スラグ骨材、石炭灰等が挙げられる。混和材としては、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、ケイ酸質微粉末、石灰石微粉末、膨張材、着色材、ポリマー等が挙げられる。混和剤としては、例えば、消泡剤、気泡抑制剤、硬化促進剤、耐候剤、難燃剤、離型剤、JIS A6204に記載のコンクリート用化学混和剤等が挙げられる。補強材としては、例えば、PC鋼線、繊維等が挙げられる。
【0051】
これらの成分組成、水セメント比は、定法に従って適宜設定することができる。
【0052】
以上のような製造方法により得られるコンクリート構造物やモルタルの成型体等の水和硬化体及び滑動型枠装置を用いた施工方法により得られるコンクリート構造物は、前述のPPSフィルムが水和硬化体の型枠の内表面を構成しているため、その表面が平滑であり、良好な外観を有する。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
厚さが4.5mmと3.2mmの鉄板の表面に、それぞれPPSフィルム(厚さ:0.016mm)の表面にアクリル系接着剤の層が形成されたPPS粘着テープ(日東電工株式会社製、No.320A#16、厚さ:0.035mm)を貼り付け、鉄板の一方の表面にPPSフィルムがアクリル系接着剤の層を介して積層された積層シートを得た。厚さ4.5mmの鉄板を用いた積層シートを206.4mm四方の正方形に切断し、これを型枠の底板とした。厚さ3.2mmの鉄板を用いた積層シートを、100mm四方の正方形及び100mm×206.4mmの長方形に切断し、それぞれ型枠の側壁板A、Bとした。各側壁板A、Bをそれぞれ2つ用意した。側壁板Aの鉄板側の周縁部に沿って断面L字状の鋼製型枠部材を溶接し、側壁板Aの周縁部の端部から垂直方向に延びる補強部を形成した。側壁板Bの周縁部に沿って断面L字状の鋼製型枠部材を溶接し、長辺では、その周縁部の端部から垂直方向に延び、短辺では、その周縁部の端部から所定距離の位置から垂直方向に延びる補強部を形成した。
【0055】
前述の底板、型枠部材を設けた側壁板A、Bを用い、それぞれのPPSフィルム側が型枠の内壁面となるように、底板、2つの側壁板A、Bを型枠部材を介してボルト・ナットにより固定し、上面部が開放した立方体(100mm×100mm×100mm)の内部空間を有するように型枠を形成した。
図5は、この型枠を模式的に示した斜視図である。
図5に示すように、型枠5は、底板8のPPSフィルム側の面に対して、側壁板A9及び側壁板B10のPPSフィルム2側の面が直交し、側壁板A同士及び側壁板B同士が対向するように配置されて、内部空間11が形成されている。底板8と側壁板A9及び側壁板B10並びに側壁板A9と側壁板B10はそれぞれの型枠部材6の補強部12に設けられた貫通穴を介してボルト・ナット13により固定されている。底板8、側壁板A9及び側壁板B10は、
図2に示す積層シート1’の断面構造を有する。
【0056】
普通ポルトランドセメント:300g、砂:600g、砂利:300g、水:150gを混合し、水和硬化性組成物であるコンクリート(生コンクリート)を調製した。得られたコンクリートを
図5に示すような型枠(5)の内部空間(11)に流し込み、上面部をならし、24℃で24時間静置し、水和硬化体であるコンクリート構造物を得た。得られたコンクリート構造物を用いて、下記の評価を行った。
【0057】
(比較例1)
ステンレス製の金属板(厚さ:3mm)の表面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製シート(厚さ:0.5mm)を、熱溶融させたテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を介して熱溶着して、金属板の一方の表面にPFAを介してPTFE製シートが積層された積層シートを得た。得られた積層シートを用いて型枠を形成した以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造物を得た。得られたコンクリート構造物を用いて、下記の評価を行った。
【0058】
(比較例2)
積層シートに変えて、PPSフィルム及び接着剤層を設けない鉄板のみを用いた以外は、実施例1と同様にして、コンクリート構造物を得た。得られたコンクリート構造物を用いて、下記の評価を行った。
【0059】
(評価)
<コンクリート構造物の表面の外観観察>
実施例1及び比較例1、2のコンクリート構造物の表面を、デジタルカメラ及び走査電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、S-3400N)により撮影し、観察した。撮像図を
図6~8に示す。
【0060】
<コンクリート構造物の表面の気泡率>
実施例1及び比較例1、2のコンクリート構造物の表面を、走査電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、S-3400N)による撮像図から、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社、WinROOF)を用いて、気泡率を算出した。算出結果は、実施例1が0.1%、比較例1が26.8%、比較例2が3.1%であった。
【0061】
実施例1及び比較例1、2の結果より、PPSフィルムを用いることで、平滑性の優れたプレキャストコンクリートとしてのコンクリート構造物が得られることが分かる。また、スリップフォーム工法等のコンクリート連続打設工法においても、同様に平滑性の優れたコンクリート構造物が施工されると期待できる。さらに、コンクリートと同様に、モルタル等の水和硬化体についても、平滑性の優れた成型品が得られると期待できる。
【符号の説明】
【0062】
1、1’ コンクリート型枠用積層シート
2 PPSフィルム
3 基材
4 接着剤層
5 型枠
6 型枠部材
7 水和硬化性組成物
7’ 水和硬化体
8 底板
9 側壁板A
10 側壁板B
11 内部空間
12 補強部
13 ボルト・ナット