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特許7159693液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20221018BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20221018BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20221018BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08L67/00
C08G63/60
C08K7/22
C08K7/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018158908
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2019065263
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2017190358
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】立川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 繁
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-172479(JP,A)
【文献】特開2012-030476(JP,A)
【文献】特開2004-323705(JP,A)
【文献】特開2004-143270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
C08G 63/00-63/91
C08K 7/22
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、体積中空率が81%以上85%以下であり、真密度が0.40g/cm 以上0.48g/cm 以下であり、重量平均粒子径が10~30μmである中空球体(B)を20~25重量部含む液晶性ポリエステル樹脂組成物であって、液晶性樹脂組成物中での中空球体(B)の形態保持率が80~85%であることを特徴とする液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
中空球体(B)の耐圧強度が100MPa以上120MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、10GHzでの誘電率が5.0以下であるガラス繊維(C)を更に5~15重量部含む請求項1または2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、PAN系炭素繊維(F)を更に5~10重量部含む請求項1または2に記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の液晶性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温靭性に優れるために後加工が容易で、低誘電でかつ減衰特性に優れた液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有する樹脂が数多く開発され、市場に供されている。中でも、分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性を有する液晶性ポリエステル樹脂が、優れた流動性、耐熱性、機械的性質、寸法安定性を有する点で注目され、微細コネクターなどの精密成形品に使用されるようになっている。
【0003】
また、液晶性ポリエステル樹脂は低誘電性や減衰特性に優れることが知られており、液晶性ポリエステル樹脂からなるフィルムや成形品が回路基板やアンテナ部品に用いられている。
【0004】
これらの用途では、等方性や高剛性、低比重であることが求められるが、液晶性ポリエステル樹脂は分子が強固にパッキングしているために、異方性が大きく、比重が大きいために、十分な特性が得られない。
【0005】
このような問題に対し、液晶性樹脂に微細なガラスバルーンを配合することが検討されている(例えば、特許文献1~8)。
【0006】
例えば、特許文献1、2、6では、耐圧強度の高い中空球体を液晶性ポリエステルに配合することで、軽量で寸法安定の高い液晶性ポリエステル組成物が得られている。
【0007】
特許文献3には金型温度140℃以上で成形して表面平滑性の高い成形体を得る製造方法が記載されており、特許文献4には疎水化処理したガラスバルーンを使用することで低誘電で異方性が少ない液晶性ポリエステル組成物が記載されている。
【0008】
特許文献5にはマイカを併用してガラスバルーンの破損率を抑制した衝撃強度の高い組成物が記載されている。
【0009】
特許文献8には特定構造の液晶ポリエステルを使用することで熱伝導率が小さい液晶樹脂組成物が記載されており、特許文献7には、振動減衰特性に優れ、熱伝導率が高い信号読取装置用成形部品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-323705号公報
【文献】特昭64-74258号公報
【文献】特開2012-30476号公報
【文献】特開2009-114418号公報
【文献】特開2011-26541号公報
【文献】特開2007-297432号
【文献】特開2006-152120号公報
【文献】特開2001-31848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、これらの特許文献に開示された発明で得られる組成物では、低誘電率と振動減衰特性を両立することはできていなかった。
【0012】
また、スピーカーなどの振動減衰特性が必要な用途において、後加工により曲面や凹凸などをつけて、反響抑制などの所望の特性を付与することがされるが、これらの特許文献に開示された発明で得られる組成物では、後加工に必要な高温靭性が足りなかった。
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために検討した結果達成されたものであり、高温靭性に優れるために後加工が容易で、低誘電でかつ減衰特性に優れた液晶性ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するために誠意検討した結果、液晶性ポリエステル樹脂に対し、特定のガラスバルーンを配合することで、上記の目的が初めて達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち本発明は、液晶性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、体積中空率が81%以上85%以下、真密度が0.40g/cm以上0.48g/cm以下であり、重量平均粒子径が10~30μmである中空球体(B)を20~25重量部含む液晶性樹脂組成物に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温靭性に優れるために後加工が容易で、低誘電でかつ減衰特性に優れた液晶性ポリエステル樹脂組成物、およびそれからなる成形品を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いられる、液晶性ポリエステル樹脂(A)は、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなり、かつ異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂である。
【0019】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸などから生成した構造単位が挙げられ、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位が好ましい。芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどから生成した構造単位が挙げられ、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンから生成した構造単位が好ましい。芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などから生成した構造単位が挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸から生成した構造単位が好ましい。
【0020】
液晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、および芳香族ジカルボン酸および/または脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位および/またはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボンから生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸から生成した構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6-ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0021】
これら液晶性ポリエステル樹脂の中でも、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル樹脂は、低発塵性の観点から好ましい。このような液晶性ポリエステル樹脂は、共重合単位が多いため液晶性が低くなり、液晶性ポリエステル樹脂の特性であるフィブリル化を起こしにくいためである。
【0022】
【化1】
【0023】
上記構造単位(I)はp-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を、構造単位(II)は4,4’-ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0024】
構造単位(I)は、構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65~80モル%が好ましい。発生ガス量が低下することから、その下限値は68モル%以上がより好ましく、靭性の観点から上限値は78モル%以下がより好ましい。
【0025】
また、構造単位(II)は、構造単位(II)および(III)の合計に対して55~85モル%が好ましい。特に発生ガス量が低下することから、その下限値は60モル%以上がより好ましく、最も好ましくは70モル%以上であり、靭性の観点から上限値は82モル%以下がより好ましく、最も好ましくは80モル%以下である。
【0026】
また、構造単位(IV)は、構造単位(IV)および(V)の合計に対して50~95モル%が好ましい。特に発生ガス量が低下することから、その下限値はより好ましくは55モル%以上であり、最も好ましくは60モル%以上であり、上限値は靭性の観点から85モル%以下がより好ましく、最も好ましくは75モル%以下である。
【0027】
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計は実質的に等モルであることが好ましい。ここで、「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位が等モルであることを示し、末端を構成する構造単位まで含めた場合には必ずしも等モルとは限らない。ポリマーの末端基を調節するために、ジカルボン酸成分またはジヒドロキシ成分を過剰に加えてもよい。
【0028】
本発明の実施形態において、(A)液晶性ポリエステル樹脂における各構造単位の含有量は、以下の処理によって算出することができる。すなわち、液晶性ポリエステル樹脂をNMR(核磁気共鳴)試験管に量りとり、液晶性ポリエステル樹脂が可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン-d2混合溶媒)に溶解して、1H-NMRスペクトル測定を行う。各構造単位の含有量は、各構造単位由来のピーク面積比から算出することができる。
【0029】
本発明における液晶性ポリエステル樹脂の融点は、加工性および流動性の点から300~350℃が好ましく、加工性の観点からその下限値は310℃以上がより好ましく、特に320℃以上が好ましい。また、流動性の観点からその上限値は340℃以下がより好ましく、330℃以下が特に好ましい。このような融点である場合には、加工時の分解ガス発生が抑制でき、かつ流動性が充分に発揮されるため好ましい。
【0030】
本発明の(A)液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は次の方法で測定することができる。示差熱量測定において、液晶性ポリエステル樹脂を室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)の観測後、Tm+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm)を融点(Tm)とした。
【0031】
また、本発明における(A)液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度は1~100Pa・sが好ましく、加工性の観点からその下限値は3Pa・s以上がより好ましく、特に好ましくは5Pa・s以上であり、流動性の観点から上限値は50Pa・s以下がより好ましく、30Pa・s以下が特に好ましい。なお、溶融粘度は液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃の条件で、ずり速度1,000/sの条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0032】
本発明の(A)液晶性ポリエステル樹脂は、公知のポリエステルの重縮合法により得ることができる。例えば、前述の構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル樹脂の場合は、次の製造方法が好ましく挙げられる。
【0033】
(1)p-アセトキシ安息香酸、4,4’-ジアセトキシビフェニル、およびジアセトキシベンゼンとテレフタル酸およびイソフタル酸とから脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0034】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0035】
(3)p-ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、ならびにテレフタル酸およびイソフタル酸のジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0036】
(4)p-ヒドロキシ安息香酸ならびにテレフタル酸およびイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルを製造する方法。
【0037】
本発明において、液晶性ポリエステル樹脂を脱酢酸重縮合反応により製造する際には、液晶性ポリエステル樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。例えば、前述の構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶性ポリエステル樹脂の場合は、所定量のp-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、および無水酢酸を、撹拌翼および留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら加熱して水酸基をアセチル化させた後、液晶性ポリエステル樹脂の溶融温度まで昇温し、減圧により重縮合して反応を完了させる方法が挙げられる。
【0038】
得られたポリマーは、それが溶融する温度で反応容器内を、例えば、およそ1.0kg/cm(0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口よりストランド状に吐出することができる。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ない優れたポリマーを得ることができ、好ましい。
【0039】
液晶性ポリエステル樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、および金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0040】
本発明の液晶性ポリエステル(A)は、2種類以上の液晶性ポリエステルを混合して用いることができる。
【0041】
本発明で用いられる体積中空率が81%以上85%以下であり、真密度が0.48g/cm以下0.40g/cm以上であり、重量平均粒子径が10~30μmである中空球体(B)の材料としては、ガラス、シリカ、軽質炭酸カルシウム、シラス、フライアッシュ、珪藻土、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ホウ酸塩、リン酸塩、ステンレス合金、尿素樹脂、フェノール樹脂などを用いることができ、好ましいのはガラス、シリカ、シラスであり、最も好ましいのはガラスである。
【0042】
ガラスとしては、石英ガラス、アルミナ硼珪酸ガラスや硼珪酸ガラス、ソーダ石灰ガラスなどが用いられ、アルミナ硼珪酸ガラスか硼珪酸ガラスが好ましく、硼珪酸ガラスが誘電率の点からより好ましい。
【0043】
ガラスからなる中空球体としては、多孔性の発泡ガラスビーズや単孔性のガラスバルーンが挙げられ、ガラスバルーンが好ましい。
【0044】
本発明で用いられる中空球体は体積中空率が81%以上85%以下であり、真密度が0.48g/cm以下0.40g/cm以上である。
【0045】
体積中空率は全体積当たりで空隙が占める体積の割合を示しており、体積中空率が大きくなると真密度が低下する相関がある。
【0046】
体積中空率は81%以上85%以下が必須であり、より好ましくは、81%以上83%以下である。体積中空率がこの範囲においては、誘電率、振動減衰特性の両立が可能であり好ましい。一方、体積中空率が81%未満になると、誘電率が高くなり好ましくなく、体積中空率が85%超になると、減衰特性が悪化するため好ましくない。
【0047】
体積中空率は、光学測定顕微鏡でガラスバルーンの中央断面の内径、外径を測定し、算出することができる。
体積中空率=(内径)/(外径)×100(%)
【0048】
体積中空率は、数平均値であり、50個の中空粒子について測定し、数平均値として算出できる。
【0049】
真密度は、0.40g/cm以上0.48g/cm以下が必須であり、より好ましくは0.43g/cm以上0.47g/cm以下である。真密度がこの範囲においては、誘電率、振動減衰特性の両立が可能であり好ましい。一方、真密度が0.40g/cm未満になると、減衰特性が悪化するため好ましくなく、真密度が0.48g/cm超になると、誘電率が悪化するため好ましくない。
【0050】
真密度は、例えばASTM D2840-69に従ったピクノメーターを用いて測定される。
【0051】
また、中空球体(B)の重量平均粒子径は10~30μmであることが必須であり、より好ましくは15~25μmである。
【0052】
重量平均粒子径がこの範囲においては、振動減衰特性、後加工性が良好に得られ好ましく、重量平均粒子径が10μm未満であると、振動減衰特性と後加工性が悪化するため好ましくなく、平均粒子径が30μmを超えると振動減衰特性悪化するため好ましくない。
【0053】
重量平均粒子径は、例えば組成物を焼成した灰分をレーザー回折式粒度分布計を用いて測定した値できる。
【0054】
本発明の中空球体(B)の耐圧強度は100MPa以上120MPa未満であることが好ましく、より好ましくは105MPa~115MPaである。耐圧強度がこの範囲にある場合に、中空球体の破損率を好ましい範囲とすることができ、振動減衰特性と誘電率の両立を実現しやすい。
【0055】
耐圧強度の測定は、例えばグリセロール法によって、一定量のガラスバルーンとグリセロールを混合し、空気が入らないように密閉し、加圧した際の体積変化を観察し、破損率10%を越えた圧力を耐圧強度として測定できる。グリセロール中で加圧し、破損しない限界圧を測定することで行うことができる。
【0056】
また、ガラスバルーンの表面は液晶性ポリエステルとのなじみを良くするためにアミノシランやウレイドシラン、エポキシシラン、フェニルシランなどのシランカップリング剤などで処理することができる。
【0057】
本発明における中空球体の配合量は、液晶性ポリエステル100重量部に対して、20~25重量部であり、より好ましくは21~24重量部である。配合量が液晶性ポリエステル100重量部に対して20重量部未満では、誘電率の低下効果が十分でなく、25重量部より多い場合には、減衰特性が低下するため好ましくない。
【0058】
本発明の液晶性樹脂組成物には、械強度その他の特性を付与するために、さらに充填材を配合することが可能である。充填材は特に限定されるものでないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0059】
これら充填材のなかで特にガラス繊維とPAN系炭素繊維が入手性、機械的強度のバランスの点から好ましく使用される。
【0060】
ガラス繊維またはPAN系炭素繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。
【0061】
ガラス繊維の組成としては、一般的にEガラス、Dガラス、Hガラスなどを適用することができるが、この内でもEガラスやDガラスが好ましく、より好ましくはDガラスである。
【0062】
Dガラスは硼珪酸ガラスであり、10GHzでの誘電率が5.0以下であるため好ましい。 PAN系炭素繊維は、比弾性率の値が100000~400000cmが好ましい。比弾性率は公知の手法で測定された炭素繊維の引張弾性率と密度の値において引張弾性率を密度で割ることにより算出される。
【0063】
また、ガラス繊維またはPAN系炭素繊維の平均繊維径は4~20μmであることが好ましく、より好ましくは平均繊維径は、5~16μmである。下限に特に制限はなく、通常4μm以上であれば十分効果を得ることができる。平均繊維径が20μmを超えると強度が低下する傾向にある。一般的に平均繊維径は、電子走査型顕微鏡(SEM)を用いて倍率800倍で観察し、繊維100本以上を測定し、数平均繊維径を算出して用いる。
【0064】
上記ガラス繊維または炭素繊維をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0065】
中空球体(B)以外の充填材の配合量は、液晶性樹脂組成物100重量部に対し、通常1~50重量部であり、好ましくは5~15重量部である。
【0066】
この範囲においては、誘電率を低下し、減衰特性を向上でき好ましい。
【0067】
中空球体(B)以外の充填材が、PAN系炭素繊維である場合には、液晶性樹脂組成物100重量部に対し、特に5~10重量部が好ましい。PAN系炭素繊維の配合量がこの範囲では、減衰特性が特に良好になるため好ましい。
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所定の特性をさらに付与することができる。
【0069】
本発明の組成物の製造方法としては、特に限定されるものではないが、液晶ポリエステルの重合工程や溶融混練工程において液晶ポリエステルに中空球体を配合する方法が用いられる。好ましくは、液晶ポリエステルの溶融混練工程において液晶ポリエステルにガラスバルーンを配合する方法である。
【0070】
溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、液晶性樹脂の液晶開始温度-50℃~融点+50℃で溶融混練して液晶性樹脂組成物とすることができる。中でも、二軸押出機が好ましい。
【0071】
ここで液晶開始温度とは、せん断速度1000(1/秒)の条件下で流動を開始する温度であり、例えば剪断応力加熱装置(CSS-450)により剪断速度1,000(1/秒)、昇温速度5.0℃/分、対物レンズ60倍において測定し、視野全体が流動開始する温度を測定することで定められる。
【0072】
二軸押出機の構成としては、噛み合い型、非噛み合い型スクリューのいずれでもよいが、樹脂の混練効率から噛み合い型スクリューが好ましい。回転方向は、二軸異方向回転でも二軸同方向回転でもよいが、二軸同方向回転が好ましい。スクリュー長/径比(L/D)は25~60が好ましく、より好ましくは30~50であり、もっとも好ましくは40~45である。
【0073】
元込めフィーダーもしくはサイドフィーダーを有し、好ましくは液晶性ポリエステルを元込めし、中空球体を元込めもしくはサイドフィーダーから添加することができるが、液晶性樹脂の可塑化が安定した状態で微粒子を配合した方が分散状態が均一化できるため、中空球体のサイドフィーダーからの添加が好ましい。
【0074】
押出機はベントを一カ所以上有していることが好ましく、より好ましくは2カ所以上に有していることであり、ベントの場所としては、サイドフィーダー後のニーディングブロックの後ろに設置することが好ましく、より好ましくはサイドフィーダー前のニーディングブロックの前にも設置すると樹脂の発生ガスが効率良く除去できるので好ましい。
【0075】
本発明の中空球体(B)は、組成物中での形態保持率は80~85%であることが本発明の効果を発現する上で好ましい。形態保持率が80%未満では誘電率が低下し、形態保持率が85%超では特に後加工性が悪化する傾向がある。
【0076】
中空球体の組成物もしくは成形品中での形態保持率は、比重を測定し、理論比重との差分から算出することができる。
【0077】
混練方法としては、1)液晶性ポリエステル、中空球体、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるように液晶性ポリエステル、中空球体、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性ポリエステルとその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りの中空球体、任意成分である充填材および残りの添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
【0078】
かくして得られる本発明の液晶性樹脂組成物は、中空球体が特定比率で破損することで、本来両立が難しい誘電率の低減と減衰係数の向上を両立させ、かつ後加工時に必要な高温靭性に優れている。
【0079】
本発明の液晶性樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する成形品、シート、パイプ、フィルム、繊維などに加工することが可能である。
【0080】
また、本発明の成形品は高温化で非常にやわらかくなる特性を有しているため、熱プレス、エンボスなどの2次加工によって容易に賦形が可能である。
【0081】
このようにして得られた液晶性樹脂組成物は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルム、シート用途としては自動車内部天井、ドアトリム、インストロメントパネルのパッド材、バンパーやサイドフレームの緩衝材、ボンネット裏等の吸音パット、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブおよびそれらの周辺部品に有用であり、特に誘電特性と振動減衰特性、後加工性を要するスピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォンなどの用途に最適である。
【実施例
【0082】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%及び部とは、断りのない場合、すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次のように測定した。
【0083】
各特性の評価方法は以下の通りである。
【0084】
[後加工性]
各実施例および比較例で得られた液晶性ポリエステル樹脂組成物を、ファナックロボショットα-30C(ファナック(株)製)を用いて、シリンダ温度を液晶性ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定し、金型温度90℃、射出速度100mm/sの条件で射出成形を行い、130mm×13mm×0.3mm厚の短冊状試験片を作成した。
【0085】
この試験片を250℃において360°屈曲試験を行い、破断した角度を評価した。
【0086】
[誘電率]
上記と同様に、一速一圧の条件で長さ60mm×幅50mm×1mm厚の角板を成形し、10GHzにおける誘電率をネットワークアナライザーを用い、摂動式閉鎖式空洞共振法によって測定した。
【0087】
[振動減衰特性]
上記と同様に、一速一圧の条件で、100mm四方×2mm厚の角板を成形し、得られた成形品の減衰係数を前置増幅器(B&K製2639S型)および電力増幅器(B&K製2706型)および2チャンネルFFT分析器(B&K製2034型)を用いて200~300Hzの領域で測定した。
【0088】
各実施例において用いた(A)~(E)を次に示す。
【0089】
[形態保持率]
中空球体の形態保持率は、上記で得られた成形品の比重を電子比重計ED-120Tにより、23℃において水溶媒で測定し、下記式から破損した重量%を算出し、形態保持率(%)=100-破損した重量%で算出した。
比重=100/{液晶性樹脂の比重×液晶性樹脂の配合重量%+ガラスバルーンの真比重×(ガラスバルーンの配合重量%-破損した重量%}+ガラスバルーンのガラスの比重×破損した重量%+充填材の比重×充填材の配合重量%+その他の添加剤の比重×その他の添加剤の配合重量%}。
【0090】
(A)液晶性ポリエステル樹脂
[参考例1]液晶性ポリエステル樹脂(A-1)の合成
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1367重量部(フェノール性水酸基合計の1.03当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で2時間反応させた後、320℃まで4時間で。昇温した。その後、重合温度を320℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に90分間反応を続け、撹拌に要するトルクが15kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶性ポリエステル樹脂(A-1)を得た。
【0091】
この液晶性ポリエステル樹脂(A-1)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))と4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対するp-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))の割合は、70モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対する4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))の割合は、70モル%であった。テレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))とイソフタル酸由来の構造単位(構造単位(V))の合計に対するテレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))の割合は、65モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))およびハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計は全構造単位に対して23モル%であり、テレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))およびイソフタル酸由来の構造単位(構造単位(V))の合計全構造単位に対して23モル%であった。液晶性ポリエステル樹脂(A-2)の融点(Tm)は314℃であった。高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度324℃、せん断速度1,000/sで測定した溶融粘度は20Pa・sであった。
【0092】
[参考例2]液晶性ポリエステル樹脂(A-2)の合成
撹拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸932重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル251重量部、ハイドロキノン99重量部、テレフタル酸284重量部、イソフタル酸90重量部および無水酢酸1252重量部(フェノール性水酸基合計の1.09当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1時間反応させた後、ジャケット温度を145℃から270℃までを平均昇温速度0.68℃/分で昇温させ、270℃から350℃までを平均昇温速度1.4℃/分で昇温させた。昇温時間は4時間であった。その後、重合温度を350℃に保持し、1.0時間で1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、撹拌に要するトルクが10kg・cmに到達したところで重合を完了させた。次に反応容器内を1.0kg/cm2(0.1MPa)に加圧し、直径10mmの円形吐出口を1個持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶性ポリエステル樹脂(A-2)を得た。
【0093】
この液晶性ポリエステル樹脂(A-2)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))と4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対するp-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位(構造単位(I))の割合は、75モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))とハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計に対する4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))の割合は、60モル%であった。テレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))とイソフタル酸由来の構造単位(構造単位(V))の合計に対するテレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))の割合は、76モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位(構造単位(II))およびハイドロキノン由来の構造単位(構造単位(III))の合計は全構造単位に対して20モル%であり、テレフタル酸由来の構造単位(構造単位(IV))およびイソフタル酸由来の構造単位(構造単位(V))の合計全構造単位に対して20モル%であった。液晶性ポリエステル樹脂(A-2)の融点(Tm)は325℃であった。高化式フローテスター(オリフィス0.5φ×10mm)を用い、温度335℃、せん断速度1,000/sで測定した溶融粘度は8Pa・sであった。
【0094】
(B)中空球体
B-1 3M製iM16K(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径20μm、体積中空率81.9%、真密度0.46g/cm、耐圧強度110MPa)
比較例で使用する中空球体について以下に示す。
【0095】
(E)その他の中空球体
E-1 3M製S60HS(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径24μm、体積中空率76%、真密度0.60g/cm、耐圧強度124MPa)
E-2 3M製iM30K(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径27μm、体積中空率76%、真密度0.6g/cm、耐圧強度193MPa)
E-3 3M製K46(ソーダ石灰硼珪酸ガラスバルーン:重量平均粒子径40μm、体積中空率82%、真密度0.47g/cm、耐圧強度41MPa)
なお、中空球体の特性は以下の方法で測定した。
【0096】
[重量平均粒子径]
上述の誘電率測定用で得た成形品を灰化し、沈降法によってガラスバルーンを単離した。レーザー回折式粒度分布計(島津製作所製SALD-3000)によって重量平均粒子径を求めた。
【0097】
[体積中空率]
上述の誘電率測定用で得た成形品をミクロトームで切削し、光学測定顕微鏡で観察しガラスバルーンの内径、外径を測定し、体積中空率を下記式から算出した。
ガラスバルーンとして観察された外径最大値の95~100%の範囲のものを50個測定し、数平均体積中空率を算出した。
体積中空率=(内径)/(外径)×100(%)
【0098】
[真密度]
上述の誘電率測定用で得た成形品を灰化し、沈降法によってガラスバルーンを単離した。ピクノメーターAUTO TRUE DENSER MAT-7000(ASTMD2840-69準拠)でガラスバルーンの真密度を測定した。
【0099】
[耐圧強度]
上述の誘電率測定用で得た成形品を灰化し、沈降法によってガラスバルーンを単離した。グリセロール法によって、グリセロール中にガラスバルーンを入れ、空気が入らないように密閉し、加圧した際の体積変動を観察し10%破損した圧力を耐圧強度とした。
【0100】
(C)ガラス繊維
C-1 日本電気硝子(株)社製 DPF80M-01N(誘電率4.2(10GHz)硼珪酸ガラスミルドファイバー)
【0101】
(D)その他のガラス繊維
D-1 日本電気硝子(株)社製 EPG70MD-01N(誘電率6.6(10GHz)アルミナ硼珪酸ガラスミルドファイバー)
【0102】
(F)PAN系炭素繊維
F-1 東レ(株)社製 TV14-006(東レ(株)製(引張弾性率230GPa)
【0103】
[実施例1~9、比較例1~5]
スクリュー径44mmの同軸方向回転ベント付き2軸押出機(日本製鋼所製、TEX-44)を用いて、液晶性ポリエステル樹脂(A)を表1に示す配合量でホッパーから投入し、および中空球体(B)または(E)およびガラス繊維(C)、炭素繊維(F)または(D)を表1に示す配合量で中間供給口から投入した。シリンダ温度は、液晶性ポリエステル樹脂(A)の融点+10℃に設定し(2種類の液晶性ポリエステルを使用した場合には、融点が高い方の液晶性ポリエステルの融点+10℃)、溶融混練して液晶性ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて各種特性値を評価した。試験結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1の結果から明らかなように、実施例の液晶性ポリエステル樹脂組成物は誘電率と振動減衰特性、後加工性に優れていることが分かる(実施例1~8)。また、低誘電ガラス繊維(C)を併用することで、本発明の効果である振動減衰特性が誘電特性を低下することなく更に向上することが分かる(実施例4~6)。
【0106】
特にPAN系炭素繊維(F)を併用すると、振動減衰特性に特に優れた成形品が得られることがわかる(実施例9)。
【0107】
一方、本発明の規定する粒子径、体積中空率、真密度の範囲にはない中空球体では、これらの特性が得られないことが分かる(比較例3~5)。また、その配合量が本発明の規定する範囲より多すぎても、少なすぎても、本発明の効果が得られないことがわかる(比較例1,2)。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物は、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LED用部品、液晶バックライトボビン、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、リレー用スプールおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品(プラズマ、有機EL、液晶)、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ECUコネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、シート用途としてはドアトリム、バンパーやサイドフレームの緩衝材、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウオッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブなどを挙げることができる。
【0109】
特に、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物及び成形品は、特に誘電特性と振動減衰特性、後加工性を要するスピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォンなどの用途に好適に用いられる。