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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
H05H1/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018158966
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2020035556
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 和宏
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-005316(JP,A)
【文献】特開2010-098007(JP,A)
【文献】特開2001-295081(JP,A)
【文献】特開2005-071661(JP,A)
【文献】特表2016-509330(JP,A)
【文献】特開2008-244233(JP,A)
【文献】特開2012-256895(JP,A)
【文献】特開2010-219276(JP,A)
【文献】特開2017-008389(JP,A)
【文献】特開2008-034186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体を有し、電圧が印加される電圧電極と、
誘電体を有し、接地電位と導通される接地電極と、
金属製の被処理物を保持する被処理物ホルダと、
を備え、
前記電圧電極と前記接地電極とのそれぞれが有する誘電体は、前記被処理物と対向し、
前記電圧電極に前記電圧を印加していないとき、前記被処理物は、前記電圧電極および前記接地電極に対して電位が独立した電気的なフローティング状態であり、
前記電圧電極に前記電圧を印加することにより、前記電圧電極と前記被処理物との間と、前記接地電極と前記被処理物との間との少なくとも一方においてプラズマが発生する、
プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電圧電極と前記接地電極は、互いに対向する、請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電圧電極における前記被処理物と対向する電極面、および前記接地電極における前記被処理物と対向する電極面の少なくとも一方は、前記被処理物の外周面に沿う形状を有する、請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記被処理物の外周面に沿う形状は、曲面である、請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記電圧電極と前記接地電極が配置される円に沿う方向を周方向とする回転軸周りに前記被処理物ホルダを、前記電圧電極と前記接地電極に対して相対的に回転させる回転機構をさらに備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記回転機構は、前記被処理物ホルダを回転させる、請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
少なくとも、前記電圧電極と前記被処理物との間、および前記接地電極と前記被処理物との間、の領域であるプラズマ発生領域を覆うカバーをさらに備え、
前記カバーは、排気機構に接続される、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
軸方向に延びる柱状の前記被処理物における外周面の軸方向一方側一部は、前記電圧電極および前記接地電極と対向し、
前記外周面における前記軸方向一方側一部を除いた部分は、前記電圧電極および前記接地電極と対向せず、
前記排気機構と前記カバーが接続される接続部は、前記電圧電極と前記接地電極よりも軸方向一方側に配置される、請求項7に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記被処理物が延びる軸方向周りの周方向に、前記電圧電極および前記接地電極と隣接して配置される隣接部材をさらに備える、請求項7または請求項8に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記隣接部材は、隙間を介して前記被処理物と径方向に対向する、請求項9に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
前記電圧電極と前記被処理物とが対向することにより生じる静電容量と、前記接地電極と前記被処理物とが対向することにより生じる静電容量と、は不均等である、請求項1か
ら請求項10のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記電圧電極における前記被処理物と対向する電極面の面積と、前記接地電極における前記被処理物と対向する電極面の面積と、が異なる、請求項11に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
電圧が印加される電圧電極と、
接地電位と導通される接地電極と、
被処理物を保持する被処理物ホルダと、
少なくとも、前記電圧電極と前記被処理物との間、および前記接地電極と前記被処理物との間、の領域であるプラズマ発生領域を覆うカバーと、
前記被処理物が延びる軸方向周りの周方向に、前記電圧電極および前記接地電極と隣接して配置される隣接部材と、
を備え、
前記カバーは、排気機構に接続され、
前記電圧電極と前記接地電極とのそれぞれが有する誘電体は、前記被処理物と対向し、
前記電圧電極に前記電圧を印加していないとき、前記被処理物は、前記電圧電極および前記接地電極に対して電位が独立した電気的なフローティング状態であり、
前記電圧電極に前記電圧を印加することにより、前記電圧電極と前記被処理物との間と、前記接地電極と前記被処理物との間との少なくとも一方においてプラズマが発生する、
プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密閉容器の内部を減圧してプラズマを発生し、当該密閉容器内に配置されたワークをプラズマ処理する技術が多く利用された。しかしながら、近年では、大気圧下で安定的にプラズマ放電させる技術が確立されてきており、開放空間でのプラズマ処理が実用化されている。これにより、減圧に耐える強固な密閉容器が不要となり、安価なプラズマ処理装置が実現されている。
【0003】
このような大気圧プラズマ処理を行うプラズマ処理装置の一例は、特許文献1に開示される。特許文献1のプラズマ処理装置では、筒状のHOT電極に電源が接続される。HOT電極の内面は、誘電体により覆われる。HOT電極に線状の連続する被処理物が挿通され、被処理物の外面はHOT電極の内面に対向する。被処理物は接地される。
【0004】
電源によりHOT電極に電圧を印加し、HOT電極と被処理物との間の放電空間で放電を発生させることで、被処理物の外面をプラズマ処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-115616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、上記特許文献1のように被処理物を接地電位と導通させることが困難或いは好ましくない場合があった。
【0007】
上記状況に鑑み、本発明は、被処理物を接地電位と導通させることなく、被処理物をプラズマ処理することが可能となるプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の例示的なプラズマ処理装置は、誘電体を有し、電圧が印加される電圧電極と、誘電体を有し、接地電位と導通される接地電極と、被処理物を保持する被処理物ホルダと、を備え、前記電圧電極と前記接地電極とのそれぞれが有する誘電体は、前記被処理物と対向し、前記電圧電極に前記電圧を印加していないとき、前記被処理物は、前記電圧電極および前記接地電極に対して電位が独立した電気的なフローティング状態であり、前記電圧電極に前記電圧を印加することにより、前記電圧電極と前記被処理物との間と、前記接地電極と前記被処理物との間との少なくとも一方においてプラズマが発生する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の例示的なプラズマ処理装置によれば、被処理物を接地電位と導通させることなく、被処理物をプラズマ処理することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置を模式的に示す縦断面図である。
図2図2は、電極の第1配置構成例を示す上面図である。
図3図3は、電極の第2配置構成例を示す上面図である。
図4図4は、電極の第3配置構成例を示す上面図である。
図5図5は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置を模式的に示す縦断面図である。
図6図6は、第3実施形態に係るプラズマ処理装置を模式的に示す縦断面図である。
図7図7は、図6のVII-VII線における断面図である。
図8図8は、図7に示す構成の変形例を示す上面断面図である。
図9図9は、第1変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物がセットされた状態における被処理物付近を模式的に示す拡大図である。
図10図10は、第2変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物がセットされた状態における被処理物付近を模式的に示す拡大図である。
図11図11は、第3変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物がセットされた状態における被処理物付近を模式的に示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下において、中心軸Cの延びる方向を「軸方向」と称し、軸方向のX1側を「上方」、軸方向のX2側を「下方」とする。また、中心軸周りの方向を「周方向」、中心軸の径方向を「径方向」と称する。
【0012】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。図1は、第1実施形態に係るプラズマ処理装置10を模式的に示す縦断面図である。
【0013】
図1に示すプラズマ処理装置10は、大気圧下でプラズマを発生させ、被処理物である金属製の被処理物1に対してプラズマ処理を行う装置である。プラズマ処理装置10は、電圧電極2と、接地電極3と、被処理物ホルダ4と、高電圧電源部5と、を備える。
【0014】
被処理物1は、上円柱部11と、下円柱部12と、を有する。上円柱部11と下円柱部12は、ともに中心軸Cを中心として軸方向に延びる円柱状を有する。上円柱部11は、下円柱部12の上方に配置される。上円柱部11の軸方向に垂直な断面の径は、下円柱部12の軸方向に垂直な断面の径よりも小さい。上円柱部11および下円柱部12は、金属製である。
【0015】
被処理物ホルダ4は、被処理物1を保持する。被処理物ホルダ4は、中心軸Cを中心として軸方向に延びる有底円筒状に形成され、上方に開口した凹部4Aを有する。凹部4Aは、中心軸Cを中心として軸方向に延びる円柱状の空間である。下円柱部12の下部が凹部4Aに収容されることで、被処理物1は被処理物ホルダ4に保持される。被処理物ホルダ4は、絶縁性材により構成される。
【0016】
電圧電極2は、金属電極部21と、誘電体22と、を有する。被処理物1が被処理物ホルダ4により保持された状態で、金属電極部21の内壁面211は、被処理物1の上円柱部11の外周面と対向する。誘電体22は、内壁面211を覆う。誘電体22と上円柱部11との間には、隙間S2が配置される。
【0017】
誘電体22は、アルミナ、ジルコニアなどのセラミック材料、または快削性セラミックなどが好適に使用される。なお、後述する誘電体32についても同様である。
【0018】
高電圧電源部5は、高周波である高電圧を金属電極部21に印加する。すなわち、電圧電極2には、電圧が印加される。高電圧電源部5が印加する電圧の周波数は、例えば、1kHz~100kHzである。高電圧電源部5が印加する電圧の波形は、パルス波形が望ましいが、その他にも正弦波、矩形波等でもよく、大気圧プラズマ放電で用いられる公知の波形を用いればよい。また、高電圧電源部5が印加する電圧は、例えば5kVpp~20kVppであり、電圧電極2と被処理物1との間のギャップ、および接地電極3と被処理物1との間のギャップ等によって適宜設定される。
【0019】
接地電極3は、金属電極部31と、誘電体32と、を有する。被処理物1が被処理物ホルダ4により保持された状態で、金属電極部31の内壁面311は、被処理物1の上円柱部11の外周面と対向する。誘電体32は、内壁面311を覆う。誘電体32と上円柱部11との間には、隙間S3が配置される。
【0020】
金属電極部31は、接地電位と導通される。すなわち、接地電極3は、接地電位と導通される。
【0021】
金属製である被処理物1は、絶縁性材により構成される被処理物ホルダ4により保持される。そのため、電圧電極2に高電圧電源部5により高電圧を印加していないとき、被処理物1は、フローティング状態の電位を有する。すなわち、電圧電極2に電圧を印加していないとき、被処理物1は、電圧電極2および接地電極3に対して電位が独立した電気的なフローティング状態である。
【0022】
これにより、電圧電極2に高電圧電源部5により高周波である高電圧を印加することで、電圧電極2、上円柱部11、および接地電極3を介した電流経路が形成され、隙間S2,S3において誘電体バリア放電が発生し、隙間S2,S3における処理ガスがプラズマ化されてプラズマPが生成される。プラズマPは、ダイレクトに上円柱部11の外周面に接触するので、上円柱部11の外周面はプラズマ処理される。
【0023】
なお、必要であれば、図示しないガス供給手段により隙間S2,S3に外部から所望のガスを供給してもよい。例えば被処理物に付着した切削油などの残渣を除去する場合には窒素に対して酸素を微量に添加したガスであることが望ましいが、本発明ではガス種を限定しない。
【0024】
すなわち、電圧電極2に電圧を印加することにより、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との両方においてプラズマが発生する。
【0025】
このように本実施形態によれば、被処理物1を接地電位と導通させることが困難或いは好ましくない場合でも、被処理物1を接地電位と導通させることなく、電圧電極2、被処理物1、および接地電極3を介した電流経路を形成し、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との両方にプラズマPを発生させることができる。発生したプラズマPがダイレクトに被処理物1に接触することで、被処理物1をプラズマ処理することが可能となる。
【0026】
なお、例えば、被処理物ホルダ4を金属製として、被処理物ホルダ4の外側に不図示の絶縁物を配置しても、被処理物1のフローティング状態を実現することは可能である。
【0027】
また、誘電体22と誘電体32との一方のみを設けることとしても、誘電体バリア放電を行うことは可能である。また、高電圧電源部5により電圧電極2に印加する電圧の波形制御によりアーク放電を抑制できる場合などであれば、誘電体22,32を用いない構成も可能である。すなわち、誘電体は必須ではない。
【0028】
<第1実施形態における電極の配置構成>
次に、上述した第1実施形態に係るプラズマ処理装置10における電圧電極2および接地電極3の具体的な配置構成の一例について説明する。なお、以下では、各構成例の説明の便宜上、電圧電極2および接地電極3の符号に「A」等の符号を付記する。
【0029】
図2は、電極の第1配置構成例を示す上面図である。図2の構成では、被処理物ホルダ4に保持された状態の被処理物1に対して電圧電極2Aおよび接地電極3Aが配置される。電圧電極2Aは、金属電極部21Aと誘電体22Aを有する。接地電極3Aは、金属電極部31Aと誘電体32Aを有する。
【0030】
金属電極部21Aの内壁面211Aは、中心軸Cを通って径方向に延びる径D1と上円柱部11の外周面との一方の交点PI1における接線方向に平面状に延びる。誘電体22Aは、内壁面211Aを覆い、内壁面211Aと平行に延びて平板状に構成される。従って、誘電体22Aの内壁面221Aは、内壁面211Aと平行に延びる平面状となる。
【0031】
上方から視て、隙間S2において、上円柱部11の外周面に沿って交点PI1から両側に離れるに従い、上円柱部11の外周面と誘電体22Aの内壁面221Aとの間隙は広くなる。従って、隙間S2において、上円柱部11の外周面に沿って交点PI1から両側に延びる所定範囲でプラズマPは発生し、当該所定範囲外においてはプラズマは発生しない。
【0032】
金属電極部31Aの内壁面311Aは、径D1と上円柱部11の外周面との他方の交点PI2における接線方向に平面状に延びる。誘電体32Aは、内壁面311Aを覆い、内壁面311Aと平行に延びて平板状に構成される。従って、誘電体32Aの内壁面321Aは、内壁面311Aと平行に延びる平面状となる。
【0033】
上方から視て、隙間S3において、上円柱部11の外周面に沿って交点PI2から両側に離れるに従い、上円柱部11の外周面と誘電体32Aの内壁面321Aとの間隙は広くなる。従って、隙間S3において、上円柱部11の外周面に沿って交点PI2から両側に延びる所定範囲でプラズマPは発生し、当該所定範囲外においてはプラズマは発生しない。
【0034】
誘電体22Aの内壁面221Aと誘電体32Aの内壁面321Aとは、径D1の延びる径方向に上円柱部11を介して対向する。すなわち、電圧電極2Aと接地電極3Aは、互いに対向する。これにより、電圧電極2Aと接地電極3Aとの間の距離を長くすることができるため、両者の間で放電されることを抑制でき、電圧電極2Aと被処理物1との間、或いは被処理物1と接地電極3Aとの間でプラズマを発生させやすくなる。
【0035】
なお、図2の構成における電圧電極2Aの上記接線方向の長さ、および接地電極3Aの上記接線方向の長さを短くして、電圧電極2Aおよび接地電極3Aの設ける範囲を上記所定範囲内とすれば、隙間S2,S3における全周においてプラズマを発生させることができる。
【0036】
図3は、電極の第2配置構成例を示す上面図である。図3の構成では、被処理物ホルダ4に保持された状態の被処理物1に対して電圧電極2Bおよび接地電極3Bが配置される。電圧電極2Bは、金属電極部21Bと誘電体22Bを有する。接地電極3Bは、金属電極部31Bと誘電体32Bを有する。
【0037】
金属電極部21Bの内壁面211Bは、上方から視て、交点PI1の径方向外側位置から上円柱部11の周方向両側に延びる円弧状面を有する。誘電体22Bの内壁面221Bは、上方から視て、上記交点PI1の径方向外側位置よりも径方向内側の位置から上円柱部11の周方向両側に延びる円弧状面を有する。
【0038】
これにより、隙間S2における上円柱部11の外周面と誘電体22Bの内壁面221Bとの間隙の周方向での変動を抑制することができ、隙間S2の全周においてプラズマPを生成することができる。
【0039】
金属電極部31Bの内壁面311Bは、上方から視て、交点PI2の径方向外側位置から上円柱部11の周方向両側に延びる円弧状面を有する。誘電体32Bの内壁面321Bは、上方から視て、上記交点PI2の径方向外側位置よりも径方向内側の位置から上円柱部11の周方向両側に延びる円弧状面を有する。
【0040】
これにより、隙間S3における上円柱部11の外周面と誘電体32Bの内壁面321Bとの間隙の周方向での変動を抑制することができ、隙間S3の全周においてプラズマPを生成することができる。
【0041】
なお、内壁面221B,321Bのうち一方を円弧状面とし、他方は円弧状面以外(例えば図2)としてもよい。
【0042】
すなわち、電圧電極2Bにおける被処理物1と対向する電極面(内壁面221B)、および接地電極3における被処理物1と対向する電極面(内壁面321B)の少なくとも一方は、被処理物1の外周面に沿う形状を有する。
【0043】
これにより、被処理物1の外周面におけるプラズマPが発生する領域を大きくすることができる。また、被処理物1と電極面との間の距離が均一になるため、プラズマPを均一に発生させやすい。特に、プラズマPの発生領域を広げるために電圧電極2Bおよび接地電極3Bを大きくした場合に双方の電極間の距離が短くなりやすいが、電圧電極2Bと接地電極3Bは互いに対向するので、電極間の距離をなるべく長くすることができる。
【0044】
また、上記被処理物1の外周面に沿う形状は、曲面である。これにより、曲面の外周面を有する被処理物1における被処理面積を大きくすることができる。
【0045】
図4は、電極の第3配置構成例を示す上面図である。本構成例は、先述した図2に示す第2配置構成例の変形例である。図4の構成では、図2との構成上の相違として、電圧電極2Aと上円柱部11の外周面とが対向する径方向と、接地電極3Aと上円柱部11の外周面とが対向する径方向とは、直交する。これにより、上円柱部11の外周面における互いに直交する各径方向位置においてプラズマPを発生させ、上記外周面の所望箇所をプラズマ処理することができる。
【0046】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。図5は、第2実施形態に係るプラズマ処理装置101を模式的に示す縦断面図である。
【0047】
本実施形態に係るプラズマ処理装置101は、先述した第1実施形態(図1)との構成上の相違として、回転機構6を備える。回転機構6は、被処理物ホルダ4を中心軸Cを回転軸として周方向に回転駆動する。回転機構6は、不図示のモータ、減速機、制御装置等を有する。
【0048】
被処理物ホルダ4の回転に伴い、被処理物1は上記回転軸周りに回転する。このとき、電極の配置構成は、例えば先述した図2から図4に示す構成がとられる。これにより、被処理物1の上円柱部11の外周面は、電圧電極2または接地電極3によりプラズマ処理される処理位置を逐次、周方向に通過するので、上記外周面を周方向全体にプラズマ処理することができる。
【0049】
すなわち、プラズマ処理装置101は、電圧電極2と接地電極3が配置される円に沿う方向を周方向とする回転軸周りに被処理物ホルダ4を、電圧電極2と接地電極3に対して相対的に回転させる回転機構6を備える。これにより、被処理物1の被処理面を周方向全体にプラズマ処理することが可能となる。なお、上記電圧電極2と接地電極3が配置される円とは、電圧電極2の位置または接地電極3の位置から同一点までの距離が等しい各線分を半径とする円であって、回転機構6の回転中心でもある中心軸Cを中心とする円である。
【0050】
また、被処理物ホルダ4は固定とし、電圧電極2および接地電極3を中心軸C周りに回転させる回転機構を設けてもよい。ただし、図5に示す構成のように、回転機構6は、被処理物ホルダ4を回転させることが望ましい。これにより、電極側を回転させる場合よりも、回転機構の構成を簡易とすることができる。
【0051】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。図6は、第3実施形態に係るプラズマ処理装置102を模式的に示す縦断面図である。
【0052】
図6に示すプラズマ処理装置102は、先述した第2実施形態(図5)との構成上の相違として、カバー7を備える。カバー7は、軸方向に延びて下方に開口したカバー部材であり、内部に電圧電極2および接地電極3を収容する。これにより、電圧電極2と上円柱部11との間に配置されるプラズマ発生領域PR1と、接地電極3と上円柱部11との間に配置されるプラズマ発生領域PR2とは、カバー7によって上方から覆われる。
【0053】
カバー7は、接続部8を介して流量計9の一端に接続される。流量計9の他端は、イジェクタ110に接続される。
【0054】
イジェクタ110は、カバー7に接続される負圧発生器である。イジェクタ110は、空気供給部111から供給される空気の高速な気流を生成することで、ベンチュリー効果により、当該気流と直交する方向に負圧を生成する。イジェクタ110により負圧が生成されることで、隙間S2,S3に外気側から処理ガスGが吸引され、プラズマ発生領域PR1,PR2においてプラズマが生成され、カバー7内部のガスが接続部8より外部へ排気される。すなわち、イジェクタ110は、排気機構として機能する。なお、イジェクタ110の代わりに例えば真空ポンプまたはダイアフラムポンプ等を採用してもよい。
【0055】
すなわち、プラズマ処理装置102は、少なくとも、電圧電極2と被処理物1との間、および接地電極3と被処理物1との間、の領域であるプラズマ発生領域PR1,PR2を覆うカバー7を備える。カバー7は、排気機構110に接続される。これにより、プラズマ発生領域PR1,PR2に発生したプラズマによる所定のガスを排気機構110により排気することができる。
【0056】
上記所定のガスとは、例えばオゾン等である。オゾンを排気する場合は、排気経路の途中にオゾンフィルターを配置することが望ましい。
【0057】
なお、流量計9により排気経路を流れるガス流の流量を計測することで、正常に排気が行われているかを検出できる。
【0058】
また、上円柱部11の外周面の上方部は電圧電極2および接地電極3と対向し、上記外周面の下方部は電圧電極2および接地電極3と対向しない。従って、上記外周面の下方部では、放電は発生しない。そして、吸引された処理ガスGに基づいてプラズマ発生領域PR1,PR2にて活性種が発生する。接続部8は、電圧電極2および接地電極3の上方に配置される。従って、発生した活性種は、上方へ移動して接続部8から外部へ排気される。すなわち、活性種が上記外周面の下方部へ移動することが抑制され、プラズマ処理を行いたくない当該下方部が処理されることを回避できる。
【0059】
すなわち、軸方向に延びる柱状の被処理物1における外周面の軸方向一方側一部は、電圧電極2および接地電極3と対向し、上記外周面における軸方向一方側一部を除いた部分は、電圧電極2および接地電極3と対向しない。排気機構110とカバー7が接続される接続部8は、電圧電極2と接地電極3よりも軸方向一方側に配置される。これにより、プラズマ発生領域PR1,PR2で発生した活性種が被処理物1の外周面における軸方向他方側一部側へ移動して、プラズマ処理したくない上記軸方向他方側一部が処理されることを抑制できる。
【0060】
ここで、図7は、図6に示すプラズマ処理装置102のVII-VII線における断面図を示す。なお、図7では、先述した図3に示す電極の配置構成を採用している。図7に示すように、カバー7内部には、絶縁材料で構成される隣接部材13A,13Bが収容される。隣接部材13A,13Bは、電圧電極2および接地電極3と周方向に隣接して配置される。隣接部材13A,13Bと上円柱部11の外周面との間には、それぞれ隙間SA,SBが配置される。
【0061】
隣接部材13A,13Bを仮に配置しない場合、その配置しない箇所を処理ガスが通過し易く、プラズマ発生領域PR1,PR2を処理ガスが通過しにくくなる虞がある。そこで、隣接部材13A,13Bを設けることで、処理ガスがプラズマ発生領域PR1,PR2を通過し易くなる。
【0062】
すなわち、プラズマ処理装置102は、被処理物1が延びる軸方向周りの周方向に、電圧電極2および接地電極3と隣接して配置される隣接部材13A,13Bを備える。これにより、プラズマ発生領域PR1,PR2にガスを流し易くなり、プラズマ処理の効率を向上させることができる。
【0063】
また、隣接部材13A,13Bは、隙間SA,SBを介して被処理物1と径方向に対向する。これにより、プラズマ発生領域PR1,PR2で発生した活性種の一部を隙間SA,SBに移動させて、被処理物1における上記隙間に面する外周面を処理することができる。特に、本実施形態のように、被処理物1が回転機構6により回転可能な場合は、プラズマ発生領域PR1,PR2で発生した活性種の一部を隙間SA,SBに移動させ易くなる。なお、被処理物1を回転させない構成等である場合に、隙間SA,SBは、設けない構成であってもよい。
【0064】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。図8は、先述した図7に示す構成の変形例であり、カバー7の軸方向途中位置で切断した上面断面図を示す。
【0065】
図8に示す構成では、図7との構成上の相違として、上円柱部11の外周面と対向する誘電体22の内壁面221の面積と、上記外周面と対向する誘電体32の内壁面321の面積と、が異なる。
【0066】
電圧電極2と上円柱部11とで構成されるコンデンサをCH、上円柱部11と接地電極3とで構成されるコンデンサをCLとする。コンデンサCHにおける内壁面221の面積と、コンデンサCLにおける内壁面321の面積との比を、1:n(n>1)とする。すると、静電容量は、CL=nCHとなる。
【0067】
すると、コンデンサCHのインピーダンスは、ZH=1/jωCH
コンデンサCLのインピーダンスは、ZL=1/njωCH=1/n・ZH
となる。
【0068】
従って、コンデンサCLにおける電圧降下は、コンデンサCHにおける電圧降下の1/
nとなる。
【0069】
例えば、電圧電極2と接地電極3との間に10kVの電圧を印加するとして、n=3に設計すると、
コンデンサCHに10×3/4=7.5kV、
コンデンサCLに10×1/4=2.5kVがそれぞれ印加される。
従って、放電開始電圧が7kVとすれば、コンデンサCHにて優先的に放電が行われる。これにより、図8に示すように、電圧電極2側のプラズマ発生領域PR1においてプラズマが優先的に生成される。
【0070】
ここで、図7に示すように内壁面221の面積と内壁面321の面積が等しい場合は、放電開始電圧が7kVとすれば、電圧電極2と接地電極3との間に14kVの電圧を印加する必要があるが、本実施形態であれば10kVで放電が可能となる。
【0071】
なお、内壁面の面積の大小関係を図8と逆にした場合は、コンデンサCL(接地電極3側)で優先的に放電が可能となる。
【0072】
すなわち、電圧電極2に電圧を印加することにより、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との一方においてプラズマが発生する。
【0073】
さらに先述した図1等に示す実施形態も包含して換言すれば、電圧電極2に電圧を印加することにより、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との少なくとも一方においてプラズマが発生する。これにより、被処理物1を接地電位と導通させることが困難或いは好ましくない場合でも、被処理物1を接地電位と導通させることなく、電圧電極2、被処理物1、および接地電極3を介した電流経路を形成し、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との少なくとも一方にプラズマPを発生させることができる。発生したプラズマPがダイレクトに被処理物1に接触することで、被処理物1をプラズマ処理することが可能となる。
【0074】
本実施形態では、電圧電極2と被処理物1とが対向することにより生じる静電容量と、接地電極3と被処理物1とが対向することにより生じる静電容量と、は不均等である。これにより、電圧電極2に印加させる電圧を抑えても、電圧電極2と被処理物1との間と、接地電極3と被処理物1との間との一方で放電を行わせることが可能となる。
【0075】
さらに、電圧電極2における被処理物1と対向する電極面(内壁面221)の面積と、接地電極3における被処理物1と対向する電極面(内壁面321)の面積と、が異なる。これにより、被処理物1と電圧電極2の電極面221との間の距離と、被処理物1と接地電極3の電極面321との間の距離とを同じとしても、静電容量を不均等とすることができるので、被処理物1を回転させる場合等に効果的となる。
【0076】
また、静電容量を変化させる方法は面積とギャップである。放電を回避する目的で、静電容量を大きく設定したいと所望する場合に、ギャップを狭くすると、ギャップ間の電位差が同じ場合にギャップ間の電界強度が上がるために放電しやすい状況となってしまって意図する状況を作れない可能性がある。ギャップを維持したまま面積を大きくして静電容量を大きくすれば、上記の電界強度は変わらずに静電容量が上がるため、インピーダンスを下げて放電回避の効果をより確実にすることができる。
【0077】
<その他の変形例>
次に、その他の変形実施例について説明する。図9は、第1変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物W1がセットされた状態における被処理物W1付近を模式的に示す拡大図である。図9に示す構成では、板状の被処理物W1に対して棒状の電圧電極EHおよび棒状の接地電極ELを使用する。
【0078】
電圧電極EHおよび接地電極ELは、被処理物W1の一方側の同一面WSに対向して配置する。被処理物W1は、電圧電極EHに高電圧を印加しないときに、電気的にフローティング状態とされる。これにより、電圧電極EHに高電圧を印加することで、電圧電極EH、被処理物W1、および接地電極ELを介した電流経路が形成され、電圧電極EHの先端と被処理物W1の同一面WSとの間、および接地電極ELの先端と被処理物W1の同一面WSとの間にプラズマを発生させ、同一面WSをプラズマ処理することが可能となる。
【0079】
また、図10は、第2変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物W1がセットされた状態における被処理物W1付近を模式的に示す拡大図である。図10に示す構成では、図9と異なり、電圧電極EHは被処理物W1の一方側の面WS1と対向して配置され、接地電極ELは被処理物W1の他方側の面WS2と対向して配置される。
【0080】
これにより、電圧電極EHに高電圧を印加することで、電圧電極EH、被処理物W1、および接地電極ELを介した電流経路が形成され、電圧電極EHの先端と面WS1との間、および接地電極ELの先端と面WS2との間にプラズマを発生させ、面WS1,WS2をプラズマ処理することが可能となる。
【0081】
また、図11は、第3変形例に係るプラズマ処理装置に被処理物W2がセットされた状態における被処理物W2付近を模式的に示す拡大図である。図11に示す構成では、有蓋円筒形状である被処理物W2に対して電圧電極EHおよび接地電極ELを配置する。被処理物W2は、電圧電極EHに高電圧を印加しないときに、電気的にフローティング状態とされる。
【0082】
電圧電極EHおよび接地電極ELは、被処理物W2の開口端部の外周側に位置する円環状の端面WS21と対向して配置される。これにより、電圧電極EHに高電圧を印加することで、電圧電極EH、被処理物W2、および接地電極ELを介した電流経路が形成され、電圧電極EHの先端と端面WS21との間、および接地電極ELの先端と端面WS21との間にプラズマを発生させ、端面WS21をプラズマ処理することが可能となる。このとき、電圧電極EHおよび接地電極ELを端面WS21に沿って回転させる回転機構を設ければ、端面WS21を全周において処理することが可能となる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨の範囲内であれば、実施形態は種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、被処理物のプラズマ処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1・・・被処理物、11・・・上円柱部、12・・・下円柱部、2、2A、2B・・・電圧電極、21、21A、21B・・・金属電極部、22、22A、22B・・・誘電体、211A、211B・・・内壁面、221、221A、221B・・・内壁面、3、3A、3B・・・接地電極、31、31A、31B・・・金属電極部、32、32A、32B・・・誘電体、311A、311B・・・内壁面、321、321A、321B・・・内壁面、4・・・被処理物ホルダ、5・・・高電圧電源部、6・・・回転機構、7・・・カバー、8・・・接続部、9・・・流量計、110・・・イジェクタ、111・・・空気供給部、13A、13B・・・隣接部材、10、101、102・・・プラズマ処理装置、S2、S3・・・隙間、PR1、PR2・・・プラズマ発生領域、SA、SB・・・隙間、P・・・プラズマ、G・・・処理ガス、C・・・中心軸、EH・・・電圧電極、EL・・・接地電極、W1、W2・・・被処理物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11