(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
B25J15/06 S
(21)【出願番号】P 2018167538
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 将旭
(72)【発明者】
【氏名】古澤 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】品川 幾
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-326802(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026332(WO,A1)
【文献】特開2016-162981(JP,A)
【文献】特開2011-230259(JP,A)
【文献】米国特許第10286560(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に接触する接触面を備え、
前記接触面は、印加される磁場の強度に応じて硬さが変化する磁気粘弾性エラストマから構成され、
前記磁気粘弾性エラストマは、印加される磁場の強度が第1の磁場強度であるとき、前記対象物の表面形状に倣った形状に変形可能な第1の硬さを有し、かつ、印加される磁場の強度が前記第1の磁場強度より高い第2の磁場強度であるとき、前記第1の硬さより高い第2の硬さを有
し、
前記磁気粘弾性エラストマに磁場を印加する永久磁石を備え、
前記永久磁石は、前記磁気粘弾性エラストマに印加される磁場の強度が前記第1の磁場強度になる第1位置と、前記第2の磁場強度になる第2位置との間を移動可能であり、
前記永久磁石に一端が連結されたラックギアと、
前記ラックギアに噛合するピニオンギアと、
前記ピニオンギアを回転させるモータと、を備えたロボットハンド。
【請求項2】
前記磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体と、
前記ハンド本体に着脱可能に取り付けられ、前記磁気粘弾性エラストマの周縁部を、前記接触面が露出するように前記ハンド本体との間に挟持する枠部材と、を備えた、請求項
1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体と、
前記磁気粘弾性エラストマに埋設され、前記磁気粘弾性エラストマから突出した部分が前記ハンド本体に着脱可能に固定された埋込部材と、を備えた、請求項1
又は2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記磁気粘弾性エラストマは、前記磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体に接着部材により固定されている、請求項1~
3のいずれか一項に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、汎用性を有するロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、汎用性を有するロボットハンドとして、ロボットハンド本体と、ロボットハンド本体に取り付けられた吸着パットユニットとからなる吸着式ロボットハンドを提案している。吸着パットユニットは、真空圧通路を有するマニホールドと、マニホールドを貫通して上下方向に摺動可能に設けた支持シャフトと、支持シャフトの先端に取付けた吸着パッドと、エアフロートとからなる。エアフロートは、マニホールド内にその真空圧通路と反対側に径方向に摺動可能に設けられ、支持シャフトをロックする。吸着パットは、支持シャフト及びマニホールドの各通路を介して真空源に連通している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ロボットハンドでは、吸着パッドの形状、及びロボットハンド本体に対する吸着パットの取付角度が固定的である。このため、吸着パットに接触する対象物の表面形状が対象物毎に大きく異なる場合、或いは吸着パットに対する対象物の相対的な姿勢が対象物毎に大きく変化する場合、それらを一つのロボットハンドで吸着把持することは難しい。
【0005】
本開示の目的は、一つのロボットハンドでより多種多様な対象物を吸着把持することができるロボットハンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様にかかるロボットハンドは、対象物に接触する接触面を備え、接触面は、印加される磁場の強度に応じて硬さが変化する磁気粘弾性エラストマから構成され、磁気粘弾性エラストマは、印加される磁場の強度が第1の磁場強度であるとき、対象物の表面形状に倣った形状に変形可能な第1の硬さを有し、かつ、印加される磁場の強度が第1の磁場強度より高い第2の磁場強度であるとき、第1の硬さより高い第2の硬さを有する。上記ロボットハンドにおいて、磁気粘弾性エラストマに磁場を印加する永久磁石を備え、永久磁石は、磁気粘弾性エラストマに印加される磁場の強度が第1の磁場強度になる第1位置と、第2の磁場強度になる第2位置との間を移動可能である。上記ロボットハンドは、永久磁石に一端が連結されたラックギアと、ラックギアに噛合するピニオンギアと、ピニオンギアを回転させるモータと、を備える。
【0011】
上記ロボットハンドは、磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体と、ハンド本体に着脱可能に取り付けられ、磁気粘弾性エラストマの周縁部を、接触面が露出するようにハンド本体との間に挟持する枠部材と、を備えてもよい。
【0012】
上記ロボットハンドは、磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体と、磁気粘弾性エラストマに埋設され、磁気粘弾性エラストマから突出した部分がハンド本体に着脱可能に固定された埋込部材と、を備えてもよい。
【0013】
上記磁気粘弾性エラストマは、磁気粘弾性エラストマを支持するハンド本体に接着部材により固定されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
このロボットハンドによれば、より多種多様な対象物を吸着把持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】第1実施形態に係るロボットハンドの概略断面図である。
【
図3】磁気粘弾性エラストマの動作を説明する図である。
【
図4】第2実施形態に係るロボットハンドの概略断面図である。
【
図5】第3実施形態に係るロボットハンドの概略断面図である。
【
図6】第4実施形態に係る把持部の概略断面図である。
【
図7】第5実施形態に係る把持部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、いくつかの実施形態にかかるロボットハンドについて、図面を参照しながら説明する。なお、各図において実質的に同一の機能を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
<第1実施形態>
第1実施形態にかかるロボットハンド1は、
図1に示すように、ロボットRの手先部A1に搭載される。ロボットRは、例えば、ロボット支持台Dの上面に固定された垂直多関節ロボットであり、手先部A1、ロボットアームA2~A4、及び関節J1~J3を有する。関節J1~J3は、手先部A1及びロボットアームA2~A4を連結している。各関節J1~J3は、それぞれ回転軸C1~C3(
図1の紙面と垂直な軸)、C4(ロボットアームの長手方向に延びる軸)周りに回転が可能である。従って、ロボットRは、ロボットハンド1を所定の作動範囲内で3次元的に移動させ、かつ所定の姿勢にし、かつロボットハンド1を把持対象となる対象物Wに対して所定の力で押し付けることができる。なお、ロボットRは、スカラロボット、直交ロボットなど他のロボットでもよい。
【0018】
ロボットハンド1の把持対象となる対象物Wは、例えば、テーブルTの上に載置される。ただし、対象物Wは、コンベアなどに載置されていてもよいし、容器の中に格納されていてもよい。対象物Wの表面形状(表面粗さを含む)、硬さ、剛性等は、対象物W毎に異なっていてもよい。また、対象物WのテーブルT上の姿勢は、対象物W毎に異なっていてもよい。対象物Wの例としては、段ボール、ペットボトル、缶、木材、石材、ピロー包装物などが挙げられる。
【0019】
ロボットハンド1は、
図1及び
図2に示すように、対象物Wを把持する把持部10と、ロボットRの手先部A1に接続され、把持部10を支持するハンド本体20とを備えている。
【0020】
把持部10は、対象物Wに接触する接触面11を有している。接触面11は、全域が磁気粘弾性エラストマ12から構成されている。
【0021】
磁気粘弾性エラストマ12は、マトリックスとしての粘弾性を有する基質エラストマと、基質エラストマ内に分散した磁性粒子とを有している。基質エラストマは、例えば、超軟質ウレタン樹脂,エチレン-プロピレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴムリコンゴム等の室温で粘弾性を有する公知の高分子材料であってよい。基質エラストマと磁性粒子の他に、非磁性粒子や分散剤等の添加物を加えてもよい。
【0022】
磁性粒子は、磁場の作用によって磁気分極する性質を有する。磁性粒子は、例えば、酸化鉄、純鉄、電磁軟鉄、方向性ケイ素鋼、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、マグネタイト、コバルト、ニッケル等の金属から形成することができる。また、磁性粒子は、例えば、4-メトキシベンジリデン-4-アセトキシアニリン、トリアミノベンゼン重合体等の有機物、フェライト分散異方性プラスチック等の有機・無機複合体等の公知の材料から形成することもできる。磁性粒子の形状は、特に限定されず、例えば球形、針形、平板形等であってよい。磁性粒子の粒径は、特に限定されず、例えば0.01μm~500μm程度であってよい。
【0023】
磁性粒子は、基質エラストマ内において、印加される磁場の強度が十分に低いとき、互いの相互作用は無視できるほど小さく、かつ、印加される磁場の強度が高まるに従って、磁気相互作用によって互いに作用する引力が増大するようになっている。例えば、磁性粒子は、基質エラストマ内において、印加される磁場の強度が低いときは互いの接触部位が少なく、印加される磁場の強度が高いときは磁気的結合によって互いの接触部位が増大し得るように分散している。なお、磁性粒子は、印加される磁場の強度が低いときに、基質エラストマ内において互いに接触しない程度に分散していてもよいし、一部が接触して連続するように分散していてもよい。磁性粒子の基質エラストマに対する割合は、任意に設定できるが、例えば体積分率で5%~85%程度であってよい。基質エラストマ内の磁性粒子の分散状態は、基質エラストマの各部において均一にしてもよいし、一部に密度差を設けてもよい。
【0024】
磁気粘弾性エラストマ12は、印加される磁場の強度に応じて磁性粒子間に作用する引力が変化するため、印加される磁場の強度に応じて硬さ、剛性など機械的特性が変化する。磁気粘弾性エラストマ12は、印加される磁場の強度が第1の磁場強度B1(以下、磁場強度B1とも称する)であるとき、対象物Wの表面形状に倣った形状に変形可能な第1の硬さH1を有する。また、磁気粘弾性エラストマ12は、印加される磁場の強度が磁場強度B1より高い第2の磁場強度B2(以下、磁場強度B2とも称する)であるとき(B2>B1)、第1の硬さH1より高い第2の硬さH2(H2>H1)を有する。さらに、印加される磁場の強度が磁場強度B2であるときの磁気粘弾性エラストマ12の弾性率は、印加される磁場の強度が磁場強度B1であるときの弾性率よりも高い。
【0025】
第1の硬さH1及び第2の硬さH2は、把持対象となる対象物Wの表面形状、硬さ、対象物Wの強度、剛性、接触面11の対象物Wへの接触圧等に基づいて、それぞれ所定の範囲に設定される。第1の硬さH1のとり得る範囲は、特に限定されないが、典型的には、アスカーF硬度で、0.01~100である。また、第2の硬さH2のとり得る範囲は、特に限定されないが、典型的には、アスカーC硬度で、50~100である。ここで、第1の硬さH1のアスカーF硬度の値をH1Fとし、第2の硬さH2のアスカーC硬度の値をH2Cとする。H1Fを2で割った値とH2Cとの差(H2C-H1F/2)は、少なくとも1以上あることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、よりさらに好ましくは15以上、最も好ましくは20以上である。なお、アスカーF硬度は、タイプFデュロメータ(高分子計器株式会社製)の触針部を接触面11に直接押し当てて測定することができる。また、アスカーC硬度は、タイプCデュロメータ(高分子計器株式会社製)の触針部を接触面11に直接押し当てて測定することができる。
【0026】
また、印加される磁場の強度の変化に対する磁気粘弾性エラストマ12の硬さ、剛性などの変化率は、例えば、基質エラストマ内における磁性粒子の体積分率を調整することで任意に設定できる。すなわち、磁性粒子の体積分率を調整することで、例えば、第2の硬さH2を与える磁場強度B2を、接触面11の位置において100~500mTに設定でき、第1の硬さH1を与える磁場強度B1を、同位置において0~10mTに設定できる。
【0027】
磁気粘弾性エラストマ12は、
図2に示すように、中央部が最も厚く、中央部から周縁部に向かって徐々に薄くなるように形成されており、接触面11側の表面12aは凸曲面状であり、接触面11の反対側の裏面12bは平坦である。なお、磁気粘弾性エラストマ12の大きさ及び形状は、これに限らず、対象物Wの大きさ及び形状に応じて適宜選択することができる。
【0028】
ハンド本体20は、例えば、アルミ、ステンレス、樹脂などの非磁性材料からなる筒状の部材であり、先端部20aにおいて磁気粘弾性エラストマ12を支持し、後端部20bにおいて手先部A1の先端に固定されている。ハンド本体20の先端部20aには、磁気粘弾性エラストマ12を取り付けるための取付面20cが形成されており、この取付面20cに磁気粘弾性エラストマ12の裏面12bが面接触している。
【0029】
先端部20aにおける取付面20cの周囲には、環状の枠部材21が設けられている。枠部材21は、非磁性材料製であり、ハンド本体20の先端部20aに、不図示の例えばボルトなどの締結部材を用いて着脱自在に取り付けられている。枠部材21は、開口21aから接触面11を露出させた状態で、開口周縁部21bと取付面20cとの間で磁気粘弾性エラストマ12の周縁部を挟持している。
【0030】
ハンド本体20の内部には、磁気粘弾性エラストマ12に磁場を印加する永久磁石30と、永久磁石30を駆動するための磁石移動機構40とが設けられている。
【0031】
永久磁石30は、磁石移動機構40により駆動され、ハンド本体20内に設けられた案内路22内を磁気粘弾性エラストマ12に対して接近離間方向(
図2中左右方向)に進退可能である。具体的には、磁気粘弾性エラストマ12に印加される磁場の強度が磁場強度B1になる後退位置(第1位置)P1(
図2中、実線で示した位置)と、磁場強度B2になる前進位置(第2位置)P2(
図2中、一点鎖線で示した位置)との間を往復移動可能である。永久磁石30の種類は、特に限定されず、例えば、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石、フェライト磁石など公知の永久磁石を使用できる。中でもネオジム磁石は、残留磁束密度が比較的高く、機械的強度も優れているため、好適である。永久磁石30は、円柱状の形状を有しているが、永久磁石30の形状はこれに限らず、多角柱状、球状などであってもよい。
【0032】
磁石移動機構40は、
図2に示すように、ワイヤ41と、ワイヤガイド42と、ドラム43と、モータ44とを備えている。ワイヤ41は、ドラム43に巻き付けられた剛性を有する線状部材であり、先端が永久磁石30に連結されている。ワイヤガイド42は、ハンド本体20に支持された管状の部材であり、その内部にワイヤ41が挿通されている。ワイヤガイド42は、永久磁石30が後退位置P1と前進位置P2との間を移動する間、ワイヤ41を滑らかに案内する。ドラム43は、ハンド本体20に回転可能に支持された円筒状の部材であり、モータ44に駆動されてワイヤ41を巻き取ったり繰り出したりする。ワイヤ41、ワイヤガイド42、及びドラム43は、例えば非磁性材料から形成することができる。なお、本実施形態では、ドラム43及びモータ44がハンド本体20の内部に配置されているが、ドラム43及びモータ44は、ワイヤガイド42を適宜延長したり湾曲させたりすることで、ハンド本体20の外部に配置するようにしてもよい。
【0033】
磁石移動機構40は、モータ44によりドラム43をワイヤ繰り出し方向(
図2中反時計回り)に回転させることで、永久磁石30を後退位置P1から前進位置P2に前進させることができる。また、磁石移動機構40は、モータ44によりドラム43をワイヤ巻き取り方向(
図2中時計回り)に回転させることで、永久磁石30を前進位置P2から後退位置P1に後退させることができる。
【0034】
次に、対象物Wを吸着把持する際、及び当該吸着を解除する際のロボットハンド1の動作について説明する。
【0035】
対象物Wを吸着把持する際、まず、ロボットRは、所定の方向から所定の姿勢でロボットハンド1を対象物Wに接近させる。このとき、ロボットハンド1の永久磁石30は、後退位置P1に後退しており、永久磁石30から磁気粘弾性エラストマ12に印加される磁場の強度は、
図3(a)に示すように、磁場強度B1にある。従って、把持部10の接触面11における磁気粘弾性エラストマ12の硬さは、対象物Wの表面形状に倣った形状に変形可能な第1の硬さH1になっている。
【0036】
次に、
図3(b)に示すように、磁気粘弾性エラストマ12に印加する磁場の強度を磁場強度B1に維持したまま、対象物Wに接触面11を所定の力で押しあてる。これにより、接触面11を対象物Wの表面Waに密着させ、接触面11と表面Waとの間を真空に近い状態にする。
【0037】
次に、接触面11を対象物Wの表面Waに密着させたまま、磁石移動機構40により永久磁石30を後退位置P1から前進位置P2に前進させる。これにより、
図3(c)に示すように、永久磁石30から磁気粘弾性エラストマ12に印加される磁場の強度が磁場強度B1から磁場強度B2に高まり、接触面11における磁気粘弾性エラストマ12の硬さが第1の硬さH1から第2の硬さH2に上昇する。そのため、接触面11と対象物Wの表面Waとの密着状態が保持され、接触面11が対象物Wに吸着される。このようにしてロボットハンド1は対象物Wを吸着把持する。
【0038】
一方、接触面11の対象物Wへの吸着を解除するときは、上記と逆の動作を行う。すなわち、磁石移動機構40により永久磁石30を前進位置P2から後退位置P1に後退させる。これにより、永久磁石30から磁気粘弾性エラストマ12に印加される磁場の強度が磁場強度B2から磁場強度B1に減少し、磁気粘弾性エラストマ12の硬さが第2の硬さH2から第1の硬さH1に低下する。そのため、ロボットハンド1を対象物Wから離間する方向に移動させることで、或いは、対象物Wの自重を接触面11と対象物Wの表面Waとを離間させる方向に作用させることで、上記密着状態を解いて、接触面11の対象物Wへの吸着を解除することができる。
【0039】
以下、本実施形態の作用効果について説明する。
【0040】
(1)本実施形態にかかるロボットハンド1は、把持部10の接触面11が磁気粘弾性エラストマ12から構成されているため、対象物Wの吸着に機能性流体(例えば、磁気粘性流体)を用いた場合と比較して、次の点で優位である。すなわち、機能性流体を吸着に用いた場合は、対象物Wを機能性流体で汚損する恐れがあるところ、磁気粘弾性エラストマ12を用いたロボットハンド1ではそのような恐れがない。また、機能性流体を吸着に用いた場合は、把持部の接触面と対象物Wの表面との間の界面に機能性流体を供給する装置を必要とするところ、ロボットハンド1の磁気粘弾性エラストマ12は、その基質エラストマ内に磁性粒子を分散した状態で保持している。このため、ロボットハンド1は、機能性流体を供給するための装置を省略することができる。
【0041】
(2)また、ロボットハンド1は、磁気粘弾性エラストマ12が第1の硬さH1を有するとき、接触面11が対象物Wの表面Waの様々な凹凸形状に倣って変形することができる。このため、一つのロボットハンド1で、
図1に示すような表面形状、姿勢等を異にする多種多様な対象物Wを吸着把持することができる。
【0042】
(3)さらに、ロボットハンド1は、磁気粘弾性エラストマ12の硬さを第2の硬さH2に上昇させることで、接触面11における対象物Wの表面Waに接触している領域全体を対象物Wに吸着させる。このため、真空吸着の場合よりも対象物Wの表面Waに局所的な力(吸引力)がかかりにくい。従って、対象物Wの表面Waが比較的柔らかい場合でも、吸着時に当該表面Waの形状変化を起こしにくく、より確実に対象物Wを吸着把持することができる。
【0043】
(4)また、ロボットハンド1は、対象物Wを吸着把持している間、磁気粘弾性エラストマ12は第2の硬さH2を有し、接触面11における対象物Wの表面Waに接触している領域全体が変形しにくく(形状保持しやすく)なっている。このため、対象物Wを搬送する際も高い吸着力を維持することができる。
【0044】
(5)さらに、ロボットハンド1は、磁気粘弾性エラストマ12に対して永久磁石30を接近離間させることで、磁気粘弾性エラストマ12に印加される磁場の強度を変化させる。永久磁石30は、同じ体積の電磁石よりも高い磁束密度を得ることができるため、ロボットハンド1は、コンパクトな構造でより効率的に磁気粘弾性エラストマ12の硬さを変化させることができる。
【0045】
(6)また、ロボットハンド1は、磁石移動機構40として、永久磁石30に連結されたワイヤ41と、ワイヤ41を案内するワイヤガイド42と、ワイヤ41が巻き付けられたドラム43と、ドラム43を回転させるモータ44と、を備えている。このため、ワイヤガイド42の長さ、形状などを調節することで、ドラム43及びモータ44を自由に(永久磁石30の移動方向の制約を受けずに)レイアウトすることができる。
【0046】
(7)さらに、ロボットハンド1は、磁気粘弾性エラストマ12を支持するハンド本体20と、ハンド本体20に着脱可能に取り付けられた枠部材21と、を備えている。枠部材21は、接触面11が露出するように磁気粘弾性エラストマ12の周縁部をハンド本体20との間に挟持している。このため、枠部材21で周縁部を保護しつつ磁気粘弾性エラストマ12をハンド本体20に固定することができる。また、枠部材21を取り外すことで磁気粘弾性エラストマ12のみを交換することができるため、後述する第4実施形態の場合に比べて交換部品の構造を単純化することができる。
【0047】
(8)また、ロボットハンド1は、圧縮エアを使わずに吸着・吸着解除の動作を行うことが可能であるため、当該動作のためのエア供給設備(例えば、コンプレッサ、配管設備など)を省略することができる。
【0048】
<他の実施形態>
次に、第2~5実施形態にかかるロボットハンドについて、
図4~7を参照して説明する。なお、各実施形態の説明では、それぞれ先行する実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、先行する実施形態において既に説明した要素と同じ機能を有する要素については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
第2~5実施形態にかかるロボットハンドでは、
図4~7に示すように、対象物Wに接触する接触面11が磁気粘弾性エラストマ12から構成されている。従って、これらの実施形態でも、第1実施形態と同様の効果(少なくとも上記(1)~(5)の効果)を得ることができる。
【0050】
特に、第2実施形態にかかるロボットハンド1Aは、
図4に示すように、磁石移動機構40Aとして、ラックギア45と、ピニオンギア46と、モータ47とを備えている。ラックギア45は、永久磁石30の移動方向に沿って延び、先端が永久磁石30に連結されている。ラックギア45は、ハンド本体20に固定されたラックギアガイド48に案内されて、永久磁石30の移動方向に沿って移動可能になっている。ピニオンギア46は、モータ47の出力軸に連結され、ラックギア45に噛合しており、モータ47の駆動力をラックギア45に伝達してラックギア45を駆動する。ラックギア45、ラックギアガイド48、及びピニオンギア46は、例えば非磁性材料から形成することができる。モータ47は、ハンド本体20に固定されており、不図示の制御装置によって位置決め制御されるステッピングモータ、サーボモータ等から構成することができる。
【0051】
磁石移動機構40Aは、モータ47によりピニオンギア46を前進方向(
図4中時計回り)に回転させることで、ラックギア45を前進させ、永久磁石30を後退位置P1から前進位置P2に前進させる。また、磁石移動機構40Aは、モータ47によりピニオンギア46を後退方向(
図4中反時計回り)に回転させることで、ラックギア45を後退させ、永久磁石30を前進位置P2から後退位置P1に後退させる。
【0052】
この構成によれば、モータ47の位置決め制御により永久磁石30の位置を制御することで、磁気粘弾性エラストマ12に印加する磁場の強度を磁場強度B1と磁場強度B2との間の任意の強度に精度よく調整することができる。これにより、磁気粘弾性エラストマ12の硬さを第1の硬さH1と第2の硬さH2との間で可変に設定することができ、対象物Wの種類に応じて吸着力を変更することが可能になる。
【0053】
また、第3実施形態にかかるロボットハンド1Bは、
図5に示すように、磁石移動機構40Bとして、圧縮エアが供給及び排出されるシリンダ室50を備えている。シリンダ室50内には、ピストンとしての永久磁石30が、シリンダ室50の内面50aと永久磁石30の周面30aとの間に十分な気密性を保持しつつ後退位置P1と前進位置P2との間を往復移動可能に収容されている。シリンダ室50は、永久磁石30により仕切られており、永久磁石30の磁気粘弾性エラストマ12側に形成された前シリンダ室51と、その反対側に形成された後シリンダ室52とを含む。シリンダ室50の前端部には、前シリンダ室51に圧縮エアを供給または排出するための前側給排管53が接続され、シリンダ室50の後端部には、後シリンダ室52に圧縮エアを供給または排出するための後側給排管54が接続されている。
【0054】
磁石移動機構40Bは、圧縮エアを後側給排管54から後シリンダ室52に供給し、前シリンダ室51内の空気を前側給排管53から排出することで、永久磁石30を後退位置P1から前進位置P2に前進させる。また、磁石移動機構40は、圧縮エアを前側給排管53から前シリンダ室51に供給し、後シリンダ室52内の空気を後側給排管54から排出することで、永久磁石30を前進位置P2から後退位置P1に後退させる。
【0055】
この構成によれば、磁石移動機構40Bの駆動源として、既存の工場エアを有効に利用することができる。
【0056】
さらに、第4実施形態にかかるロボットハンド1Cは、
図6に示すように、枠部材21に代えて、磁気粘弾性エラストマ12に埋設された埋込部材60を備えている。埋込部材60は、非磁性材料製であり、磁気粘弾性エラストマ12に埋設された板状部61と、各々一端が板状部61に連結された複数のスタッドボルト62とを有している。各スタッドボルト62の他端側の端部は、磁気粘弾性エラストマ12の裏面12bから外部に突出し、ハンド本体20の先端部20aに固定されたブラケット63の孔に挿通されて、ナット64がねじ込まれている。すなわち、スタッドボルト62の磁気粘弾性エラストマ12から突出した部分は、ブラケット63及びナット64を介して、ハンド本体20に着脱可能に固定されている。なお、板状部61は、磁気粘弾性エラストマ12の周縁部に沿って複数箇所に設けられてもよいし、環状に連続して延設されてもよい。
【0057】
この構成によれば、磁気粘弾性エラストマ12を容易に交換することができる。また、埋込部材60は、磁気粘弾性エラストマ12を、その表面12aの一部を他の部材(枠部材21など)で覆うことなく固定できるので、同じ大きさ及び形状を有する磁気粘弾性エラストマ12に対して接触面11をより広くとることができる。なお、ロボットハンド1Cは、埋込部材60に加えて枠部材21を備えてもよい。
【0058】
また、第5実施形態にかかるロボットハンド1Dは、
図7に示すように、枠部材21または埋込部材60に代えて、両面テープなどの接着部材70により磁気粘弾性エラストマ12をハンド本体20に固定している。接着部材70は、磁気粘弾性エラストマ12の裏面12bとハンド本体20の取付面20cとの間に介在して裏面12bと取付面20cとを接合している。
【0059】
この構成によれば、簡易、軽量な構造で磁気粘弾性エラストマ12をハンド本体20に固定することができ、かつ、同じ大きさ及び形状を有する磁気粘弾性エラストマ12に対して接触面11をより広くとることができる。なお、ロボットハンド1Dは、接着部材70に加えて枠部材21及び埋込部材60の一方または両方を備えてもよい。
【0060】
さらに他の実施形態にかかるロボットハンドでは、永久磁石30に代えて、電磁石を採用してもよい。この構成によれば、電磁石のコイルに供給する電流を増減させることで、磁気粘弾性エラストマ12に印加する磁場の強度を変化させることができるので、上述の磁石移動機構40,40A,40Bを省略することができる。
【0061】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B,1C,1D ロボットハンド
11 接触面
12 磁気粘弾性エラストマ
20 ハンド本体
21 枠部材
30 永久磁石
41 ワイヤ
42 ワイヤガイド
43 ドラム
44 モータ
45 ラックギア
46 ピニオンギア
47 モータ
50 シリンダ室
60 埋込部材
70 接着部材
B1 第1の磁場強度
B2 第2の磁場強度
P1 後退位置(第1位置)
P2 前進位置(第2位置)
W 対象物