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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20221018BHJP
   F24F 11/36 20180101ALI20221018BHJP
【FI】
F25B49/02 520M
F25B49/02 570Z
F24F11/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018179028
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020051648
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(72)【発明者】
【氏名】廣崎 佑
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】前間 慶成
(72)【発明者】
【氏名】島野 太貴
【審査官】西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180927(JP,A)
【文献】特開2010-139226(JP,A)
【文献】特開2016-176648(JP,A)
【文献】特開2016-166680(JP,A)
【文献】特開2014-224611(JP,A)
【文献】特開2002-115939(JP,A)
【文献】特開2018-162912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F24F 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性の冷媒を用いた空気調和機であって、
ヒータによる加熱状態で空気中の前記冷媒の濃度を検出する半導体式の第1冷媒センサと、
非加熱状態で前記冷媒の漏洩を判定する第2冷媒センサと、
前記第1冷媒センサ及び前記第2冷媒センサを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記空気調和機の運転中は、加熱状態とした前記第1冷媒センサの検出結果に基づいて空気中の冷媒の漏洩が可燃濃度であるか否かの判定を行い、
前記空気調和機の停止中は、前記第1冷媒センサを非加熱状態として前記第2冷媒センサの検出結果に基づいて前記冷媒が漏洩したか否かの判定を行い、前記冷媒が漏洩したと判定されたとき、加熱状態として前記第1冷媒センサの検出結果に基づいて空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であるか否かの判定を行い、
前記第2冷媒センサの検出結果に基づいて冷媒が漏洩していないと判定されたときは、前記第1冷媒センサを加熱状態としない、ことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記制御部は、前記空気調和機の停止中に冷媒が漏洩したと判定されたとき、ユーザへ
の報知を行うことを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記制御部は、前記空気調和機の停止中に空気中の冷媒の濃度が可燃濃度と判定された
とき、安全対策を実行することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機、特に冷媒の漏洩を検知する空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可燃性冷媒を使用した空気調和機の冷媒漏洩の検知手段として、半導体式の冷媒センサを搭載しているものが知られている。半導体式の冷媒センサは、ヒータによりセンサ素子を高温(300~400℃)に加熱した状態で使用されるため、熱の影響でセンサ素子が経時劣化することが知られており、経時劣化が進むと、反応が鋭敏化して誤検知が発生する可能性がある。しかし、運転停止中に半導体式の冷媒センサを停止させると、冷媒の漏洩を検知しない期間ができてしまうことになる。そこで、冷媒センサの長寿命化を目的として、運転動作中だけ冷媒センサで漏洩検知を行い、運転停止中は他のセンサで漏洩検知を行うものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このほかのセンサとしては、従来から空気調和機に備えられている温度センサを使用し、冷媒回路中の温度変化から冷媒漏洩の発生を判定するものが考えられており、冷媒漏洩を検知した場合には、ユーザへの報知や安全対策(室内空気の撹拌、すなわち、漏洩冷媒の撹拌のための室内ファンの運転など)が行われる。
【0004】
しかしながら、運転動作中には半導体式の冷媒センサで漏洩検知を行い、運転停止中には温度センサで漏洩判定を行う場合(図6参照)、停止中の空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であるか否かを温度センサでは判定できない。可燃濃度とは、空気と混合した冷媒が着火によって爆発を起こす濃度である。例えば、R32冷媒だと、空気中の冷媒の濃度が「13.3~29.3%」の範囲内が可燃濃度である。そのため、可燃濃度領域に到達しない程度のスローリークや、室外機からの冷媒漏洩が起きた場合には、室内の撹拌等の安全対策は、結果として過剰なものとなってしまう。もともとユーザが意図していない運転となる安全対策(室内空気の撹拌)は不快な運転でもある。そこで、半導体式の冷媒センサの長寿命化を図りつつ、正確に可燃濃度を判定して過剰な安全対策を抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-180927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたものであって、半導体式の冷媒センサの長寿命化を図りつつ、正確に可燃濃度を判定して過剰な安全対策を抑制することが可能な空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、以下によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、可燃性の冷媒を用いた空気調和機であって、ヒータによる加熱状態で空気中の前記冷媒の濃度を検出する半導体式の第1冷媒センサと、非加熱状態で前記冷媒の漏洩を判定する第2冷媒センサと、前記第1冷媒センサ及び前記第2冷媒センサを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記空気調和機の運転中は、加熱状態とした前記第1冷媒センサの検出結果に基づいて空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であるか否かの判定を行い、前記空気調和機の停止中は、前記第1冷媒センサを非加熱状態として前記第2冷媒センサの検出結果に基づいて前記冷媒が漏洩したか否かの判定を行い、前記冷媒が漏洩したと判定されたとき、前記第1冷媒センサを加熱状態として前記第1冷媒センサの検出結果に基づいて室内の空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であるか否かの判定を行い、前記第2冷媒センサの検出結果に基づいて冷媒が漏洩していないと判定されたときは、前記第1冷媒センサを加熱状態としない
【0008】
(2)上記(1)において、前記制御部は、前記空気調和機の停止中に冷媒が漏洩したと判定されたとき、ユーザへの報知を行う。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)において、前記制御部は、前記空気調和機の停止中に空気中の冷媒の濃度が可燃濃度と判定されたとき、安全対策を実行する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体式の冷媒センサの長寿命化を図りつつ、室内の空気中の冷媒の濃度が可燃濃度となったことを正確に判定することで過剰な安全対策を抑制することが可能な空気調和機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る空気調和機の冷媒回路図である。
図2】本発明の実施形態に係る空気調和機の室内機を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る空気調和機の室内機を示す分解斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る空気調和機の制御構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態に係る第1冷媒センサ及び第2冷媒センサの通電制御を示すタイミングチャートである。
図6】従来技術に係る第1冷媒センサ及び第2冷媒センサの通電制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付して説明する。
【0013】
(空気調和機の全体構成)
本実施形態に係る空気調和機1は、図1に示すように、屋外に設置される室外機2と、室内に設置され、室外機2に液管4及びガス管5で接続された室内機3を備えている。詳しくは、液管4は、一端が室外機2の閉鎖弁25に、他端が室内機3の液管接続部33に接続されている。また、ガス管5は、一端が室外機2の閉鎖弁26に、他端が室内機3のガス管接続部34に接続されている。以上により、空気調和機1の冷媒回路10が構成されている。
【0014】
(室外機)
まず、室外機2について説明する。室外機2は、圧縮機21と、四方弁22と、室外熱交換器23と、室外ファン24と、液管4の一端が接続された閉鎖弁25と、ガス管5の一端が接続された閉鎖弁26と、膨張弁27とを備えている。そして、室外ファン24を除くこれら各要素が以下に詳述する各冷媒配管で相互に接続され、冷媒回路10の一部をなす室外機冷媒回路10aを構成している。
【0015】
圧縮機21は、図示しないインバータにより回転数が制御されることで、運転容量を変えることができる容量可変型圧縮機である。圧縮機21の冷媒吐出側は、四方弁22のポートaに吐出管61で接続されている。また、圧縮機21の冷媒吸入側は、四方弁22のポートcに吸入管66で接続されている。
【0016】
四方弁22は、冷媒の流れる方向を切り換えるための弁であり、4つのポートa,b,c,dを備えている。ポートaは、前述したように、圧縮機21の冷媒吐出側と吐出管61で接続されている。ポートbは、室外熱交換器23の一方の冷媒出入口と冷媒配管62で接続されている。ポートcは、前述したように、圧縮機21の冷媒吸入側と吸入管66で接続されている。そして、ポートdは、閉鎖弁26と室外機ガス管64で接続されている。
【0017】
室外熱交換器23は、冷媒と、後述する室外ファン24の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気を熱交換させるものである。室外熱交換器23の一方の冷媒出入口は、前述したように四方弁22のポートbと冷媒配管62で接続され、他方の冷媒出入口は、閉鎖弁25と室外機液管63で接続されている。
【0018】
膨張弁27は、液管4に接続されている。膨張弁27は電子膨張弁である。膨張弁27の開度が調整されることで、後述する室内機3の室内熱交換器31に流入する冷媒量、又は、室外熱交換器23から流出する冷媒量を調節する。
【0019】
室外ファン24は、樹脂材で形成されており、室外熱交換器23の近傍に配置されている。室外ファン24は、図示しないファンモータによって回転することで室外機2の図示しない吸込口から室外機2の内部に外気を取り込み、室外熱交換器23において冷媒と熱交換した外気を室外機2の図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。なお、詳しい説明は割愛するが、以上説明した各要素のほかに、室外機2には各種のセンサが設けられている。
【0020】
(室内機)
引き続いて図1及び図2を用いて、室内機3について説明する。室内機3は、室内熱交換器31と、室内ファン32と、液管4の他端が接続された液管接続部33と、ガス管5の他端が接続されたガス管接続部34とを備えている。そして、室内ファン32を除くこれらの各要素が以下に詳述する各冷媒配管で相互に接続され、冷媒回路10の一部をなす室内機冷媒回路10bを構成している。
【0021】
室内熱交換器31は、冷媒と、後述する室内ファン32の回転により室内機3の図示しない吸込口から室内機3の内部に取り込まれた室内空気を熱交換させるものである。室内熱交換器31の一方の冷媒出入口は、液管接続部33に室内機液管67で接続され、他方の冷媒出入口は、ガス管接続部34に室内機ガス管68で接続されている。室内熱交換器31は、室内機3が冷房運転を行う場合は蒸発器として機能し、室内機3が暖房運転を行う場合は凝縮器として機能する。なお、液管接続部33やガス管接続部34では、各冷媒配管が溶接やフレアナット等により接続されている。
【0022】
室内ファン32は、樹脂材で形成されており、室内熱交換器31の近傍に配置されている。室内ファン32は、図示しないファンモータによって回転することで室内機3の吸込口3aから室内機3の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器31において冷媒と熱交換した室内空気を室内機3の吹出口3bから室内へ吹き出す。
【0023】
以上説明した各要素のほかに、室内機3には各種のセンサが設けられている。図1に示すように、室内機ガス管68には、冷媒の漏洩を検知する冷媒センサ77が、室内熱交換器31には、熱交中間温度を検知するための室内熱交温度センサ78が、それぞれ設けられている。そして、室内機3の図示しない吸込口付近には、室内機3の内部に流入する室内空気の温度すなわち室温を検知する室温センサ79が備えられている。
【0024】
(空気調和機の動作)
前述した空気調和機1の各要素を踏まえ、空気調和機1の空調運転時の冷媒回路10における冷媒の流れと各部の動作について、図1を用いて説明する。なお、以下の説明では、室内機3が暖房運転を行う場合について説明し、冷房/除湿運転を行う場合についての詳細な説明を省略する。なお、図1における矢印は暖房運転時の冷媒の流れを示している。
【0025】
室内機3が暖房運転を行う場合、図1に示すように、四方弁22を実線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートdとが連通し、またポートbとポートcとが連通する状態に切り換える。これにより、冷媒回路10において実線矢印で示す方向に冷媒が循環し、室外熱交換器23が蒸発器として機能するとともに、室内熱交換器31が凝縮器として機能する暖房サイクルとなる。
【0026】
圧縮機21から吐出された高圧の冷媒は、吐出管61を流れて四方弁22に流入し、四方弁22から室外機ガス管64を流れ、閉鎖弁26を介してガス管5に流入する。ガス管5を流れる冷媒は、ガス管接続部34を介して室内機3に流入する。
【0027】
室内機3に流入した冷媒は、室内機ガス管68を流れて室内熱交換器31に流入し、室内ファン32の回転により室内機3の内部に取り込まれた室内空気と熱交換を行って凝縮する。このように、室内熱交換器31が凝縮器として機能し、室内熱交換器31で冷媒と熱交換を行って暖められた室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることによって、室内機3が設置された室内の暖房が行われる。
【0028】
室内熱交換器31から流出した冷媒は、室内機液管67を流れ、液管接続部33を介して液管4に流入する。液管4を流れ閉鎖弁25を介して室外機2に流入した冷媒は、室外機液管63を流れて膨張弁27を通過する際に減圧される。
【0029】
膨張弁27を通過して室外熱交換器23に流入した冷媒は、室外ファン24の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器23から冷媒配管62に流出した冷媒は、四方弁22、吸入管66を流れ、圧縮機21に吸入されて再び圧縮される。
【0030】
なお、室内機3が冷房運転または除湿運転を行う場合、図1に示すように、四方弁22を破線で示す状態、すなわち、四方弁22のポートaとポートbとが連通し、またポートcとポートdとが連通する状態に切り換える。これにより、冷媒回路10は、室外熱交換器23が凝縮器として機能するとともに、室内熱交換器31が蒸発器として機能する冷房サイクルとなる。
【0031】
(床置き式室内機の例)
図2は、本発明の実施形態に係る空気調和機1の室内機3を示す斜視図、図3は、本発明の実施形態に係る空気調和機1の室内機3を示す分解斜視図である。ここでは、室内機3として、床面に設置される床置き式室内機の例を説明する。
【0032】
図2に示すように、室内機3は、その正面に設けられる吸込口3aと、吸込口3aの上下に設けられる上吹出口3bx(吹出口3b)、下吹出口3by(吹出口3b)とを備えている。そして、図3に示すように、室内機3の内部には、吸込口3aと2つの吹出口3bとを結ぶ空気通路に室内熱交換器31が備えられている。なお、本実施例では、各要素の上下の区別を符号枝番x,yで表し、上下の区別をしないときは符号枝番x,yを付さないで説明する。
【0033】
空気通路のうち上送風路35x(送風路35)には上モータ36x(モータ36)によって回転する上室内ファン32x(室内ファン32)が設けられており、上室内ファン32xは、上吹出口3bxを形成する上ケーシング37x(ケーシング37)によって覆われている。同様に、下送風路35y(送風路35)には下モータ36y(モータ36)によって回転する下室内ファン32y(室内ファン32)が設けられており、下室内ファン32yは、下吹出口3byを形成する下ケーシング37y(ケーシング37)によって覆われている。なお、室内機3には、そのほかに、後述する制御部9を内蔵する電装品箱38や、室内機3の運転状況を表示する表示部39、室内熱交温度センサ78が設けられている。
【0034】
床置き式の室内機3は、冷媒の漏洩が発生した場合、漏洩した冷媒が、室内機3が設置された床面に滞留して可燃濃度に達する可能性があるものの、室内ファン32の動作によって漏洩した冷媒を室内に拡散させやすいという特徴がある。可燃濃度とは、空気と混合した冷媒が着火によって爆発を起こす濃度である。例えば、R32冷媒だと、空気中の冷媒の濃度が「13.3~29.3%」の範囲内が可燃濃度である。
【0035】
(制御部)
図4に示すように、空気調和機1の室内機3には、赤外線リモコン、赤外線受光部などを有する操作部8の設定操作に応じて、室外機2や、室内機3の室内ファン32などを制御する制御部9が設けられている。さらに、制御部9には、冷媒の漏洩を検知するセンサであり方式が異なる第1冷媒センサ(前述の冷媒センサ77)及び第2冷媒センサ(前述の室内熱交温度センサ78、室温センサ79)と、警報音を出力する警報機12とが接続されている。制御部9は、第2冷媒センサによる冷媒の漏洩判定に基づいて、警報機12によってユーザに冷媒の漏洩の報知を行い、また、第1冷媒センサによる冷媒の濃度判定に基づいて、室内ファン32によって室内の空気を撹拌し、漏洩した冷媒を室内に拡散させたり、図示しない遮断弁によって冷媒の循環を遮断したりするなどの安全対策制御を行う。
【0036】
第1冷媒センサである冷媒センサ77は、室内機ガス管68または室内機液管67の近傍に設けられており、低濃度の冷媒を精度良く検知可能な半導体式の冷媒センサである。半導体式の冷媒センサ77は、加熱状態(例えば、300~400℃)において空気中に漏洩した冷媒の漏洩濃度を検知する検知部と、検知部を加熱するヒータを備えている。検知部は、可燃性の冷媒が存在するとセンサ素子の電気抵抗が下がり、電気抵抗の低下率が冷媒の濃度に依存することを利用して冷媒の濃度を検知するものである。センサ素子は、半導体特性を有する金属酸化物(例えば、酸化スズ)の焼結体で形成される。なお、冷媒センサ77は、室内機3の筐体外、つまり室内の空気に曝される位置に設けてもよい。
【0037】
このような検知部のセンサ素子をヒータの発熱で300~400℃に加熱すると、冷媒のような還元性のガスを含まない大気中では、空気中の酸素が一定量その表面に負電荷吸着(酸素が酸化スズの電子を捉えて表面に吸着)し、抵抗値が高い状態となる。このセンサ素子の表面に冷媒のような還元性のガスが接触すると、吸着酸素と反応を起こして吸着酸素が脱離するのに伴い、捉えていた電子が解放されて抵抗値が減少する。このような抵抗値の変化に基づいて、冷媒の漏洩や漏洩した冷媒の濃度を検出することが可能になる。
【0038】
しかしながら、半導体式の冷媒センサ77は、ヒータの加熱による影響で経時劣化することが知られている。その理由は、酸化スズの結晶粒子が、長期間にわたってヒータで加熱されることで、酸化活性が低下するからであり、経時劣化すると、抵抗値が低い状態のままになり、反応が鋭敏化してしまう。すなわち、ごく微量な還元性のガスにも反応してしまうため、例えば生鮮食品から発生する僅かなガスにも反応してしまう(誤検知)。このような冷媒センサ77の経時劣化は、ヒータによる加熱時間の累積を小さくすることで抑制することが可能である。
【0039】
第2冷媒センサである室内熱交温度センサ78及び室温センサ79は、既存の空気調和機に搭載されているものを使用することができる。室内熱交温度センサ78は、図3に示すように、室内熱交換器31の中間部に配置されており、室内熱交換器31の中間部における温度を検出する。室温センサ79は、図2に示した吸込口3aの近傍で室内温度(すなわち、吸込空気の温度)を検出する。空気調和機1の停止中、室内熱交温度センサ78及び室温センサ79によって検出された温度の変化から冷媒漏洩の発生を判定することができる。具体的には、運転停止時は室内熱交温度センサ78の検出値と室温センサ79の検出値はほぼ等しい値となるが、何らかの要因で冷媒漏洩が発生したとき、冷媒配管内の冷媒圧力が低下することで、室内熱交温度センサ78の検出値が低下し始め、空気温度(室温センサ79の検出値)と冷媒温度(室内熱交温度センサ78の検出値)との差は大きくなる。したがって、確実に冷媒漏洩が発生しているときの差を所定値として予め実験等から設定して、各温度センサの検出値の差が上記所定値以上であるか否かを監視することによって、冷媒漏洩の有無を判定することができる。
【0040】
第1冷媒センサに通電させるタイミング及び第2冷媒センサの検出結果に基づく冷媒の漏洩の判定を行うタイミングについて、項をあらためて説明する。
【0041】
(冷媒漏洩検知)
図5は、本実施形態に係る冷媒漏洩検知を示すタイミングチャートである。この図に示すように、制御部9は、空気調和機1の運転中には、通電して加熱状態とした第1冷媒センサである冷媒センサ77の検出結果に基づいて空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であるか否かの判定(以下、可燃濃度判定とする)を行う。そして、空気調和機1の停止中には、冷媒センサ77を非通電すなわち非加熱状態として第2冷媒センサである室内熱交温度センサ78及び室温センサ79による冷媒の漏洩の判定(以下、漏洩判定とする)を行い、漏洩したと判定されたとき、通電して加熱状態とした冷媒センサ77の検出結果に基づいて可燃濃度判定を行う。
【0042】
すなわち、冷媒の漏洩リスク(空気調和機1の運転開始時/停止時や冷房-暖房切換え時といった急激な圧力変動が発生するときに、冷媒配管やその接続部等にピンホールや亀裂が発生するリスク)が高く、また、冷媒漏洩が発生したときに運転停止時と比べて冷媒の濃度が早く上昇する空気調和機1の運転中には、低濃度の冷媒も検出可能な半導体式の冷媒センサ77に通電してセンサ素子を加熱することで冷媒センサ77を動作させて空気中の漏洩冷媒の濃度を検出する。
【0043】
一方、冷媒の漏洩リスクが低く、また、冷媒漏洩が発生しても冷媒の濃度上昇が緩やかである空気調和機1の停止中は、半導体式の冷媒センサ77を非通電にし、温度センサである室内熱交温度センサ78及び室温センサ79に通電して動作させて冷媒の漏洩を判定する。これにより、半導体式の冷媒センサ77に対する通電時間(ヒータによるセンサ素子の加熱時間)が短くなり、冷媒センサ77の経時劣化が抑制される。
【0044】
しかしながら、前述したように、室内熱交温度センサ78及び室温センサ79の温度センサでは可燃濃度を判定できないため、可燃濃度領域に到達しない程度のスローリークや、室外機2からの冷媒漏洩が起きた場合には、室内空気の撹拌等の安全対策は、結果として過剰なものとなってしまう。そこで、室内熱交温度センサ78及び室温センサ79の検出結果に基づいて漏洩判定を行い、漏洩したと判定されたとき、冷媒センサ77に通電して、その検知結果に基づいて可燃濃度判定を行う。これにより、可燃濃度を正確に判定することができ 、過剰な安全対策が実行されることを防ぐことができる。
【0045】
なお、図5では、空気調和機1の運転中と停止中の間で冷媒センサ77と、室内熱交温度センサ78及び室温センサ79を瞬時に切り換えたように記載されているが、圧力変動が大きく、冷媒の漏洩リスクが高い運転停止直後の一定時間(例えば、20分程度)は、引き続き半導体式の冷媒センサ77を動作させて空気中の漏洩冷媒の濃度を検出することが好ましい。このようにすると、室内熱交温度センサ78及び室温センサ79による漏洩判定を経て濃度判定を行う場合と比べて、運転停止後における冷媒のスローリークも迅速に検知することが可能になる。
【0046】
制御部9は、空気調和機1の運転中及び停止中の少なくとも一方に漏洩が検知されたときには、警報機12を用いてユーザへの報知のみを行う。すなわち、窓の開放の指示や、空気調和機1の修理の推奨などを行う。他方、制御部9は、空気調和機1の運転中及び停止中の少なくとも一方に空気中の冷媒の濃度が可燃濃度であると判定されたときには、ユーザへの報知を行うとともに、室内ファン32による室内空気の撹拌などの安全対策を実行する。
【0047】
(実施形態の効果)
以上に述べた本実施形態の空気調和機1によれば、ヒータによる加熱状態で室内の空気中の冷媒の濃度を検出する半導体式の第1冷媒センサ77と、非加熱状態で冷媒の漏洩を判定する際に用いる第2冷媒センサ78,79と、第1冷媒センサ77及び第2冷媒センサ78,79の動作を制御する制御部9と、を備え、制御部9は、空気調和機1の運転中には、加熱状態とした第1冷媒センサ77の検出結果に基づいて可燃濃度判定を行い、空気調和機1の停止中には、第1冷媒センサ77を非加熱状態として第2冷媒センサ78,79の検出結果に基づいて漏洩判定を行い、漏洩と判定した後、加熱状態とした第1冷媒センサ77の検出結果に基づいて可燃濃度判定を行うので、冷媒の漏洩検知期間を短縮することなく、半導体式である冷媒センサ77の加熱時間を短縮して冷媒センサ77の経時劣化を抑制できるとともに、室内の空気中の冷媒の濃度が可燃濃度となったことを正確に判定することが可能となる。
【0048】
また、制御部9は、空気調和機1の運転中及び停止中の少なくとも一方に漏洩と判定されたときには、警報機12を用いてユーザへの報知を行い、他方、空気調和機1の運転中及び停止中の少なくとも一方に可燃濃度と判定されたときには、警報機12を用いてユーザへの報知を行うとともに、室内ファン32による撹拌などの安全対策を実行することにより、もともとユーザが意図していない運転となる安全対策(室内の撹拌)が過剰とならないようにすることが可能となる。
【0049】
また、冷媒の漏洩リスクが高い空気調和機1の運転中には、また、停止中であっても冷媒の漏洩判定があった際には、低濃度の冷媒も検出可能な半導体式の冷媒センサ77に通電するので、冷媒の漏洩を高精度に検知することができる。
【0050】
また、本実施形態では、漏洩した冷媒が床面に滞留しやすい床置き式の室内機3に第1冷媒センサ77及び第2冷媒センサ78,79が搭載されているので、本発明の効果が顕著になる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0052】
例えば、上述した実施形態は、床置き式の室内機3を例として説明したが、本発明は壁掛け式の室内機3でも実施することができる。
【0053】
また、上述の実施形態では、第1冷媒センサ77及び第2冷媒センサ78,79を室内機3の内部に配置することを想定しているが、室内機3の外部に配置してもよい。
【0054】
また、上述の実施形態では、第2冷媒センサ78,79として温度センサを用いているが、温度センサ以外(半導体式も除外)の方式で冷媒を検知する冷媒センサであってもよい。
【0055】
また、上述の実施形態では、第2冷媒センサのうち、室内の空気の温度を検出する手段として室温センサ79を用いているが、図示しない外気温度センサを室外機に設け、外気温度センサの検出値である外気温度を空気温度に設定しても良い。例えば、室内機3の内部における室温センサ79の近傍の機内配管から激しい冷媒漏洩が生じた場合、配管外に漏れた冷媒の影響で室温センサ79の検出値が一時的に低下する可能性がある。その結果、空気温度(室温センサ79の検出値)と室内熱交温度センサ78の検出値との差が所定値以上となり難く、速やかに可燃濃度判定に移行できない、という問題がある。したがって、室温センサ79の検出値に加えて、図示しない外気温度センサの検出値を空気温度に設定する。具体的には、室温センサ79と図示しない外気温度センサのうち、単位時間当たりの温度変化が小さい方を空気温度に設定し、室内熱交温度センサ78の検出値との差が所定値以上か否かを判定する。これにより、室温センサ79の近傍の機内配管から激しい冷媒漏洩が生じて、配管外に漏れた冷媒の影響で室温センサ79の検出値が一時的に低下するような条件でも、速やかに可燃濃度判定に移行することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…空気調和機、2…室外機、3…室内機、3a…吸込口、3b…吹出口、31…熱交換器、32…室内ファン、8…操作部、9…制御部、12…警報機、77…冷媒センサ(第1冷媒センサ)、78…室内熱交温度センサ(第2冷媒センサ)、79…室温センサ(第2冷媒センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6