(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】リング状部材の搬送装置及び搬送方法、並びに転がり軸受、機械、及び車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20221018BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20221018BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
F16C43/04
F16C33/64
(21)【出願番号】P 2018196685
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 俊介
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071009(JP,A)
【文献】特開2010-099784(JP,A)
【文献】特開平06-079667(JP,A)
【文献】特開2007-176508(JP,A)
【文献】特開2018-146115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 13/08
F16C 43/04
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリング状部材をそれぞれの中心孔を連通させて並べた配列体が配置される配列体配置部と、
前記リング状部材の中心孔に挿入可能
な棒状体であって、その軸方向
の先端部に
、先細りとなる傾斜面を有する棒体と、
前記棒体の基端部が固定され、前記棒体を移動自在に支持する棒体移動機構と、
前記棒体に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交する径方向反力を検出する外力センサと、
前記棒体移動機構が、前記棒体を、該棒体の先端部から前記配列体の前記中心孔内へ前記リング状部材の配列方向に沿って挿入して、前記配列体の前記配列方向の一端から他端まで挿通させる途中で、
前記棒体の前記先端部が前記リング状部材間の段差に当接し、前記外力センサが
、前記軸方向反力及び径方向反力を検出した場合に、前記棒体を
平行移動させるように前記棒体移動機構を駆動させる棒体位置補正部と、
を備え、
前記棒体位置補正部は、前記外力センサが検出した前記軸方向反力及び径方向反力を合成した合成反力を求め、求めた前記合成反力の作用方向へ前記棒体を平行移動させるリング状部材の搬送装置。
【請求項2】
前記棒体移動機構は、前記棒体を姿勢変更自在に支持する多軸ロボットを備える請求項1
に記載のリング状部材の搬送装置。
【請求項3】
前記外力センサは、前記多軸ロボットの先端軸と前記棒体との間に配置された6軸力覚センサである請求項
2に記載のリング状部材の搬送装置。
【請求項4】
前記棒体の軸方向長さは、前記配列体の前記リング状部材の配列方向長さよりも長い請求項1~
3のいずれか一項に記載のリング状部材の搬送装置。
【請求項5】
前記棒体位置補正部は、前記棒体の前記配列体への挿入途中で、前記外力センサが前記棒体からの閾値以上の前記
合成反力を検出した場合に、前記棒体の挿入動作を中止する機能を有する請求項1~
4のいずれか一項に記載のリング状部材の搬送装置。
【請求項6】
複数のリング状部材をそれぞれの中心孔を連通させて並べた配列体にする工程と、
前記配列体の前記リング状部材の配列方向一端側で、軸方向先端部に
、先細りとなる傾斜面を有する棒体を前記配列体と同軸に配置する工程と、
前記棒体を、前記配列方向に沿って前記中心孔内へ挿入して、前記配列体の配列方向の一端から他端まで挿通する工程と、
前記棒体を、前記配列体に挿通させたまま移動させ、複数の前記リング状部材を搬送する工程と、
を有し、
前記棒体を前記配列体に挿通する工程は、
前記棒体の前記配列体への挿入途中で、
前記棒体の前記先端部が前記リング状部材間の段差に当接して、前記棒体の軸方向に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交する径方向反力
が検出された場合に、
前記軸方向反力及び径方向反力を合成した合成反力を求め、求めた前記合成反力の作用方向へ前記棒体を
平行移動させる工程を含む
リング状部材の搬送方法。
【請求項7】
検出された前記軸方向反力が、予め定めた閾値以上である場合に、前記棒体の挿入を中止する請求項
6に記載のリング状部材の搬送方法。
【請求項8】
前記リング状部材は、転動輪と、該転動輪に転がり接触する複数の転動体とを有する転がり軸受であり、
前記転がり軸受を、請求項
6又は請求項7に記載のリング状部材の搬送方法により搬送する転がり軸受の搬送方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の転がり軸受の搬送方法を用いる転がり軸受の製造方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の転がり軸受の製造方法を用いる機械の製造方法。
【請求項11】
請求項
9に記載の転がり軸受の製造方法を用いる車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状部材の搬送装置及び搬送方法、並びに転がり軸受、機械、及び車両の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、転がり軸受が搭載される機械や車両等の製造現場や作業現場においては、多数の転がり軸受を搬送台車等に纏めて載置して、所望の位置へ搬送する作業等が行われる。その際、作業者は、例えば複数の転がり軸受を、軸受外周面を作業台上に載置して、つまり、転がり軸受を立てた姿勢にして作業台上に一列に並べて配置しておき、連通された各軸受の中心孔に、棒体を作業台と平行な方向に挿入する。そして、この棒体を持ち上げることで、棒体が挿入された各軸受を棒体に支持させながら搬送し、搬送台車等に纏めて移載する。棒体は、鋼製の転がり軸受を纏めて支持するため十分な強度が必要であり、できるだけ軸受の中心孔の内径に近い直径のものが採用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、作業台の軸受載置面は必ずしも平坦面ではなく、作業台自体の歪みや載置される転がり軸受の自重等によって微少に撓むことがある。そのため、作業台上に一列に並べて配置された複数の転がり軸受の軸心を、常に完全に一致させることは難しく、軸受の中心孔の位置が径方向にズレて段部を生じさせることがある。その場合、棒体を転がり軸受の中心孔に挿入する際、作業者は棒体から手に伝わる感覚を頼りにして、棒体が段部に突き当たって止まらないように調整しながら挿入している。このような挿入作業は、作業者の負担が大きく、タクトタイムの増加の要因となるため、自動化が要望されている。
また、転がり軸受に限らず、同様の形状を有するリング状部材についても同様の問題があった。
【0004】
本発明は、一列に並べて配置され複数のリング状部材に棒体を円滑に自動挿入でき、効率よくリング状部材を搬送できるリング状部材の搬送装置及び搬送方法、並びに転がり軸受、機械、及び車両の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 複数のリング状部材をそれぞれの中心孔を連通させて並べた配列体が配置される配列体配置部と、
前記リング状部材の中心孔に挿入可能であり、軸方向先端部に向けて先細りとなる傾斜面を有する棒体と、
前記棒体の基端部が固定され、前記棒体を移動自在に支持する棒体移動機構と、
前記棒体に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交する径方向反力を検出する外力センサと、
前記棒体を、該棒体の先端部から前記配列体の前記中心孔内へ前記リング状部材の配列方向に沿って挿入して、前記配列体の前記配列方向の一端から他端まで挿通させる途中で、前記外力センサが前記軸方向反力を検出した場合に、前記棒体を前記径方向反力の作用方向へ移動させるように前記棒体移動機構を駆動させる棒体位置補正部と、
を備え、
前記棒体移動機構は、前記棒体を前記配列体に挿通させたまま所望の位置に移動させるリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、一列に並べて置かれた複数のリング状部材に段部が生じていても、棒体がリング状部材同士の段部に突き当たった際、棒体の傾斜面が段部に沿って摺動する。そのときに、棒体に生じた径方向反力の作用方向に棒体を移動させることで、棒体を更に先へ円滑に挿入できる。これによれば、棒体をリング状部材に円滑に自動挿入することが容易に行え、複数のリング状部材を効率よく搬送できる。
【0006】
(2) 前記外力センサは、前記棒体の軸方向に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交し且つ互いに交差する少なくとも2方向の反力を検出し、
前記棒体位置補正部は、前記少なくとも2方向の反力を合成した前記径方向反力を求め、求めた前記径方向反力の作用方向へ前記棒体を移動させる(1)に記載のリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、外力センサが、互いに交差する少なくとも2方向の反力を検出することで径方向反力を検出し、この径方向反力の作用方向へ棒体を移動させることで、棒体を更に先へ挿入することができる。
【0007】
(3) 前記棒体移動機構は、前記棒体を姿勢変更自在に支持する多軸ロボットを備える(1)又は(2)に記載のリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、多軸ロボットにより棒体を所望の位置及び姿勢で配置でき、且つ棒体を高精度に直線移動できる。これにより、リング状部材の中心孔内での棒体の挿入動作を正確に制御できる。
【0008】
(4) 前記外力センサは、前記多軸ロボットの先端軸と前記棒体との間に配置された6軸力覚センサである(3)に記載のリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、6軸力覚センサにより、棒体に負荷される荷重とトルクとを同時に測定でき、高精度に径方向反力の作用方向を特定できる。また、棒体の移動制御をより高精度に行える。
【0009】
(5) 前記棒体の軸方向長さは、前記配列体の前記リング状部材の配列方向長さよりも長い(1)~(4)のいずれか一つに記載のリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、一列に並べられたリング状部材を棒体に一度に支持させることができ、効率よくリング状部材を搬送できる。
【0010】
(6) 前記棒体位置補正部は、前記棒体の前記配列体への挿入途中で、前記外力センサが前記棒体からの閾値以上の前記軸方向反力を検出した場合に、前記棒体の挿入動作を中止する機能を有する(1)~(5)のいずれか一つに記載のリング状部材の搬送装置。
このリング状部材の搬送装置によれば、リング状部材の中心軸ずれが過大であ場合等、棒体が挿入不能である場合に、棒体の挿入動作を中止する。これによりフェールセーフ機構を構築できる。
【0011】
(7) 複数のリング状部材をそれぞれの中心孔を連通させて並べた配列体にする工程と、
前記配列体の前記リング状部材の配列方向一端側で、軸方向先端部に向けて先細りとなる傾斜面を有する棒体を前記配列体と同軸に配置する工程と、
前記棒体を、前記配列方向に沿って前記中心孔内へ挿入して、前記配列体の配列方向の一端から他端まで挿通する工程と、
前記棒体を、前記配列体に挿通させたまま移動させ、複数の前記リング状部材を搬送する工程と、
を有し、
前記棒体を前記配列体に挿通する工程は、
前記棒体の前記配列体への挿入途中で、前記棒体の軸方向に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交する径方向反力を検出し、前記軸方向反力が検出された場合に、前記棒体を前記径方向反力の作用方向へ移動させる工程を含む
リング状部材の搬送方法。
このリング状部材の搬送方法によれば、一列に並べて置かれた複数のリング状部材に段部が生じていても、棒体がリング状部材同士の段部に突き当たった際、棒体の傾斜面が段部に沿って摺動する。そのときに、棒体に生じた径方向反力の作用方向に棒体を移動させることで、棒体を更に先へ円滑に挿入できる。これによれば、棒体をリング状部材に円滑に自動挿入することが容易に行え、複数のリング状部材を効率よく搬送できる。
【0012】
(8) 棒体を前記径方向反力の作用方向へ移動させる工程では、
前記棒体の前記配列体への挿入途中で、前記棒体の軸方向に作用する軸方向反力、及び前記軸方向に直交し且つ互いに交差する少なくとも2方向の反力を検出し、前記軸方向反力が検出された場合に、前記少なくとも2方向の反力を合成した前記径方向反力を求め、前記棒体を前記径方向反力の作用方向へ移動させる(7)に記載のリング状部材の搬送方法。
このリング状部材の搬送方法によれば、互いに交差する少なくとも2方向の反力を検出することで径方向反力を検出し、この径方向反力の作用方向へ棒体を移動させることで、棒体を更に先へ挿入することができる。
【0013】
(9) 検出された前記軸方向反力が、予め定めた閾値以上である場合に、前記棒体の挿入を中止する(7)に記載のリング状部材の搬送方法。
このリング状部材の搬送方法によれば、棒体に予め定めた閾値以上の軸方向反力が作用する場合に、棒体のこれ以上の挿入を停止することで、フェールセーフ機構を構築できる。
【0014】
(10) 前記リング状部材は、転動輪と、該転動輪に転がり接触する複数の転動体とを有する転がり軸受であり、
前記転がり軸受を、(7)~(9)のいずれか一つに記載のリング状部材の搬送方法により搬送する転がり軸受の搬送方法。
この転がり軸受の搬送方法によれば、一列に並べて置かれた複数の転がり軸受に棒体を円滑に挿入でき、効率よく転がり軸受を搬送できる。
【0015】
(11) (10)に記載の転がり軸受の搬送方法を用いる転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、複数の転がり軸受を纏めて搬送でき、効率よく転がり軸受を製造できる。
【0016】
(12) (11)に記載の転がり軸受の製造方法を用いる機械の製造方法。
この機械の製造方法によれば、転がり軸受が搭載される機械を効率よく製造できる。
【0017】
(13) (11)に記載の転がり軸受の製造方法を用いる車両の製造方法。
この車両の製造方法によれば、転がり軸受が搭載される車両を効率よく製造できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一列に並べて配置された複数のリング状部材に棒体を円滑に自動挿入でき、効率よくリング状部材を搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る転がり軸受の搬送装置を示す概略構成図である。
【
図2】配列体へ棒体を挿入する過程を示す一部断面図である。
【
図4】軸受の搬送方法の各手順を示すフローチャートである。
【
図5】(A)は棒体が段部に当接した状態を示す断面図、(B)は棒体が段部を乗り越えて基準距離だけ前進した状態を示す断面図、(C)は棒体の位置を補正した後、棒体を前進させた状態を示す断面図である。
【
図6】棒体の先端部が段部に突き当てられた状態を示す拡大断面図である。
【
図7】
図5(B)に示す棒体に作用する反力を示す説明図である。
【
図8】(A)棒体の円周方向の任意の1点に軸方向反力が作用した場合の径方向反力を示す説明図、(B)は棒体に作用した径方向反力に応じて、棒体を平行移動する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、リング状部材として、転動輪と、転動輪に転がり接触する複数の転動体とを有する転がり軸受(以下、単に「軸受」と記す。)を例示して説明するが、これに限らない。
【0021】
図1は本発明に係るリング状部材の搬送装置(以下、単に「搬送装置」と記す。)の概略構成図である。
搬送装置100は、軸受を載置する軸受載置台(配列体配置部)11と、棒体13の基端部13aを支持する棒体移動機構15と、外力センサ17と、撮像装置19と、ロボット駆動部21と、制御部23とを備える。
【0022】
軸受載置台11は、略平坦に形成された載置面11aを有する。載置面11aには、複数の軸受27をそれぞれの中心孔27a(内輪の内周面内側)を連通させて並べた配列体29が配置される。載置面11aの一端(
図1の左側の端部)には、配列体29の一端(
図1の左側の端面)が当接する突起片31が固定される。突起片31は、これに限らず、配列体29の一端の中心孔27aを覆う高さまで設け、挿入される棒体13の突き当て部材として利用する構成であってもよい。また、配列体29の他端(
図1の右側の端面)が当接する位置にも設けた構成であってもよい。
【0023】
以下の説明においては、複数の軸受の配列方向(及び
図1の棒体13の軸方向)をX軸、上下方向をZ軸、X軸とZ軸に直交する方向をY軸、と定義して各方向を説明する
【0024】
棒体13は、軸受27の中心孔27aに挿入可能な円柱状の部材である。
図2に示すように、棒体13の軸方向長さL1は、配列体29の軸受27の配列方向長さL2よりも長い。また、棒体13は、複数の軸受27を支持できる十分な強度を有する範囲で、棒体13の外径が軸受27の中心孔27aの内径よりも小さく設定される。棒体13の外径と中心孔27aの内径との差は、軸受27のサイズに応じて適宜に変更できる。棒体13は、撓みが生じにくい材質であることが好ましく、例えば、ステンレス材等の鋼材、セラミックス等により形成される。
【0025】
棒体13の軸方向の先端部13bには、
図3に示すように、先細りとなる傾斜面33が形成される。傾斜面33は、棒体13の先端周縁を面取りした半径Rの滑らかな曲面である以外にも、部分球面状の滑らかな曲面や、テーパ面等であってもよい。また、傾斜面33は、摩擦抵抗が軽減できるように、軸方向に延びる複数本の溝が形成された凹凸面であってもよい。さらに、傾斜面33を樹脂やゴム等の軟性の素材で形成すれば、軸受27との接触による傷付きを防止できる。
【0026】
図1に示す棒体移動機構15は、棒体13の一端部が固定され、棒体13に支持された軸受27を押さえるストッパ30を有するスライダ41と、スライダ41を支持する多軸ロボット43と、を備える。
【0027】
スライダ41は、詳細は省略するが、例えばモータ駆動されるボールねじ軸と、ボールねじ軸に螺合するボールねじナットとを有する直動案内ユニットが用いられる。スライダ41は、スライドレール45と、スライドレール45に沿ったWx方向に相対移動するスライド部47とを有する。スライド部47には、上下動する一軸シリンダ(不図示)を介してストッパ30が取り付けられる。このスライダ41は、スライダ全体が多軸ロボット43のロボットアーム先端軸に支持され、Wx方向にストッパ30を移動自在に支持する。ストッパ30は、軸受27が支持された棒体13から軸受27を取り外す際、軸受27の押さえとして機能する。つまり、棒体13に軸受27を支持させた後、軸受27を所望に位置に配置させる際、多軸ロボット43の駆動により棒体13を引き抜く。このとき、ストッパ30を棒体13の引き抜き方向とは逆方向に、棒体13の引き抜き動作と同期させて等速駆動させる。これにより、棒体13に支持された軸受27を、棒体13と連動させることなく棒体13から分離させる。
【0028】
スライドレール45の一端部には、L字形のホルダ49が下方に向けて固定される。ホルダ49の先端部には、棒体13の基端部13aが支持される。棒体13は、スライド部47とスライドレール45の相対移動方向に軸方向を一致させて、スライドレール45から下方に離間させて配置される。
【0029】
多軸ロボット43は、先端軸51を6軸方向(X,Y,Z軸方向、及びX軸、Y軸、Z軸回りの各回転方向Tx,Ty,Tz)に制御可能な多関節ロボットである。多軸ロボット43は、先端軸51の位置や向きを変更することで、スライダ41と共に棒体13の位置や姿勢が6軸方向に変更自在となる。
【0030】
多軸ロボット43の先端軸51と、スライダ41に設けた棒体13との間には、外力センサ17が配置される。外力センサ17としては、任意の一軸方向の力と、一軸方向に直交し且つ互いに交差する少なくとも2方向の力とを検出できるセンサであればよい。外力センサ17の外力検出方向は、上記一軸方向を棒体13の軸方向と一致させることが好ましい。
【0031】
このような外力センサ17として、例えば、歪みセンサを有する多軸荷重センサや6軸力覚センサを利用できる。特に、6軸力覚センサを用いる場合には、X,Y,Z軸方向の力と、X軸、Y軸、Z軸回りのトルクとを、それぞれ独立して同時に検出できる。
【0032】
外力センサ17は、検出された力(トルク)に応じた検出信号SIG1を、軸毎に制御部23へ出力する。
【0033】
撮像装置19は、軸受載置台11に載置された軸受27の配列体29における、棒体13の挿入位置を検出するための画像を撮像する。撮像した画像情報は、画像信号SIG2として制御部23に出力される。
図1に示す場合では、配列体29を、その右端における軸受27の中心孔27aを含めて撮像し、撮像した画像を画像信号SIG2として制御部23に出力する。撮像装置19は、軸受載置台11に位置決めされた任意の定位置に配置されていてもよく、多軸ロボット43の先端軸51やスライダ41の一部に配置されていてもよい。
【0034】
ロボット駆動部21は、制御部23から出力される制御信号SIG3に応じて、多軸ロボット43の各関節とスライダ41とをそれぞれ駆動する駆動信号を出力する。つまり、ロボット駆動部21は、多軸ロボット43に駆動信号SIG4を出力し、制御信号SIG3に応じて棒体13を移動させる。また、必要に応じてスライダ41に駆動信号SIG5を出力し、ストッパ30を駆動する。
【0035】
次に、上記構成の搬送装置100を用いて複数の軸受27を搬送する工程を説明する。以下の各工程は、予め作成されたプログラムに基づいて制御部23が各部に動作指示を行う形態であってもよく、作業者が制御部23から順次に各部へ動作指示を出す形態であってもよい。
【0036】
図4は軸受の搬送方法の各手順を示すフローチャートである。以下、このフローチャートに基づき、
図1~
図3を適宜参照しながら説明する。
図1に示すように、軸受載置台11には、複数の軸受27を、それぞれの中心孔を連通させて直線状に並べた配列体29が配置される。
まず、制御部23は、撮像装置19により配列体29の端面を撮像する(S11)。撮像装置19が撮像した画像の画像信号SIG2は、制御部23に入力される。制御部23は、入力された画像信号SIG2を画像処理して、配列体219の端部における軸受27の中心孔27aの位置を求める。そして、求めた位置を棒体挿入位置として設定する(S12)。
【0037】
次に、制御部23は、棒体13の先端部13bを、配列体29における軸受27の配列方向一端側で、設定された棒体挿入位置に配置するように、多軸ロボット43を駆動する制御信号SIG3を生成し、制御信号SIG3をロボット駆動部21に出力する。ロボット駆動部21は、制御信号SIG3に応じた多軸ロボット43への駆動信号SIG4を出力して、多軸ロボット43を駆動する。これにより、スライダ41に取り付けられた棒体13を、
図1に示す配列体29の棒体挿入位置の近傍に先端部13bを配置し、棒体13を配列体29と同軸となるように姿勢変更する(S13)。
【0038】
そして、制御部23は、棒体13を配列体29の中心孔27aに挿入するように、ロボット駆動部21に制御信号SIG3を出力する。制御信号SIG3を受けたロボット駆動部21は、多軸ロボット43を駆動して、棒体13の中心孔27aへの挿入を開始させる(S14)。
【0039】
図5(A)に、棒体13の先端部13bが配列体29の中心孔27aに挿入された様子を示す。
制御部23は、棒体13を配列体29の中心孔27aに挿入する際、挿入途中で棒体13が受ける外力を外力センサ17により検出する。
【0040】
ここで、
図1に示す軸受載置台11は、載置面11aの撓み等によって、配列体29の一部の軸受に径方向の段差が生じることがある。例えば、
図5(A)に示す配列体29の一部である軸受27A,27B,27Cにおいて、軸受27Bが配列方向前後の軸受27A,27Cから径方向に変位する場合がある。この軸受27Bの変位の大きさによっては、棒体13の先端部13bが段部28に突き当たり、棒体13の挿入力Finに対抗する軸方向反力Fbkが生じる。
【0041】
図6は棒体13の先端部13bが段部28に突き当てられた状態を示す拡大断面図である。
図6に示すように、棒体13の先端部13bに形成された傾斜面33の領域の径方向寸法Lrよりも、段部28の径方向の段差寸法Lsが小さい場合(Lr>Ls)、棒体13を挿入し続けると、棒体13は、傾斜面33に段部28の縁部28aが摺動しながら、
図5(B)に示すように径方向に変位しながら軸方向に移動する。しかし、段部28の段差寸法Lsが径方向寸法Lr以上になると(Lr≦Ls)、棒体13が段部28に突き当たり、これ以上の挿入が不能になる。
【0042】
そこで制御部23は、多軸ロボット43を駆動して棒体13を配列体29の中心孔27aに挿入するとともに、外力センサ17により、棒体13に軸方向反力Fbkが生じたかを検出する(S15)。軸方向反力Fbkを検出した場合、その軸方向反力Fbkが予め定めた閾値以上かを判定する(S16)。
【0043】
検出された軸方向反力Fbkが予め定めた閾値以上である場合には、段部28と棒体13の傾斜面33の関係がLr≦Lsであるとして、棒体13の挿入動作を中止し、棒体13を後退させる(S17)。そして、異常の発生を、不図示の表示部やスピーカ等により報知して(S18)、搬送処理を中止する。この処理によれば、軸受27Bへの棒体13の挿入が不可能な場合にも、フェールセーフで制御できる。
【0044】
一方、S15で挿入方向反力が生じない場合は、そのまま配列体29の全軸受27への挿入が完了するまで棒体13を進める。
また、S15で軸方向反力Fbkが検出され、S16で軸方向反力Fbkが上記した閾値未満である場合には、制御部23は、棒体13を基準距離ΔLだけ挿入方向へ押し進める(S19)。
【0045】
棒体13が基準距離ΔLだけ押し進められると、
図5(B)の矢印Pに示すように、棒体13が軸方向及び径方向内側に向けて移動する。このとき、棒体13には、挿入方向反力に加えて径方向反力も作用する。
【0046】
図7は
図5(B)に示す棒体13に作用する反力を示す説明図である。
図7に示すように、棒体13は、軸方向移動に伴って、先端部13bの傾斜面33が軸受27Bの段部28の縁部28aに当接しながら滑り、軸受27A,27Bの径方向内側へ斜め方向に移動する。このとき棒体13における段部28の縁部28aとの接触位置に作用する力は、軸方向反力Fbkと径方向反力Frの合力Fとなる。
【0047】
制御部23は、棒体13の基準距離ΔLの移動時に作用する径方向反力Frを、外力センサ17により検出する(S20)。そして、制御部23は、多軸ロボット43の各関節を駆動して、スライダ41と共に棒体13の位置と姿勢を補正する。つまり、棒体13を、径方向反力Frの作用方向(
図7においては上向きの方向)に向けて距離ΔRだけ平行移動させる(S21)。
【0048】
これにより、
図5(C)に示すように、棒体13を軸受27Bの段部28に干渉しない位置に移動させた状態で、更に軸方向への挿入が可能となる。ここでは、制御部23は、棒体13の円滑な挿入を続行可能とする棒体位置補正部として機能する。
【0049】
制御部23は、上記のS15~S21の各ステップを棒体13の挿入が完了するまで繰り返す(S22)。つまり、棒体13の挿入量が、配列体29全長以上の所定の目標挿入量に達したら、その配列体29に対する棒体13の挿入を終了する。棒体13の挿入を終了すると、制御部23は、多軸ロボット43の駆動により、棒体13を配列体29に挿通したまま配列体29を持ち上げ、所望の搬送位置に一度に搬送させる(S23)。
【0050】
搬送する配列体29が更に存在する場合には、上記したS11~S23のステップを繰り返すことで、各配列体29の搬送を繰り返し行う(S24)。
【0051】
以上のステップによれば、棒体13を配列体29の各軸受27の中心孔27aに円滑に挿入でき、軸受間に段部が生じていても、人為的に棒体13の挿入動作を調整する必要がない。また、過大な段部が生じていた場合には、棒体の13の挿入を停止するため、棒体13によって各軸受27に損傷を与えることもない。
【0052】
ここで、S21における、棒体13を径方向反力Frの作用方向に向けて移動させるステップを更に詳細に説明する。
図5(A)~(C)、
図7においては、径方向反力Frが上方に向かう場合を模式的に示しているが、実際の径方向反力Frの作用方向は、軸受27の配置状況に応じて任意の方向となり得る。
【0053】
図8(A)は棒体13の円周方向の任意の1点に軸方向反力Fbkが作用した場合の径方向反力Frを示す説明図である。
図8(A)に示すように、棒体13の円周方向の1点(P1点)で軸受の段部に突き当たると、棒体13の中心点O
1に向けて径方向反力Frが生じる。この径方向反力Frは、上下方向であるZ方向の分力Fzと、軸受の配列方向であるX方向及びZ方向に直交するY方向の分力Fyに分解できる。
【0054】
一方、多軸ロボット43の先端軸に設けた外力センサ17は、棒体13に生じた軸方向反力Fbkに対応する軸方向力fbkと、Y方向の外力fy、Z方向の外力fzを検出する。軸方向力fbkは、前述したS16の判定に用いられる。
【0055】
制御部23は、外力センサ17により検出された外力fy,fzを合成して、径方向力frを求め、この径方向力frが棒体13に作用した径方向反力Frとみなし、径方向反力Frの作用方向Φを求める。ここでの作用方向Φは、Y方向からの傾き角として表している。
【0056】
図8(B)は棒体13に作用した径方向反力Frに応じて、棒体13を平行移動する様子を示す説明図である。
制御部23は、
図8(B)に示すように、外力センサ17により検出された外力fy,fz(
図8(A)参照)に応じて、棒体13のY方向への移動量ΔLyと、Z方法への移動量ΔLzを求める。そして、多軸ロボット43の駆動により、棒体13をY方向にΔLy、Z方向にΔLzだけ移動させ、棒体13の中心位置をO
1からΦ方向に距離ΔRだけずれたO
2に移動させる。
【0057】
これにより、
図5(C)に示す棒体13が軸受27Bの段部28に干渉しない位置に移動させた状態になる。
【0058】
また、制御部23は、棒体13をΦ方向に移動させる際、移動量ΔLy,ΔLzを設定して動作させる以外にも、外力センサ17により外力fy,fzが検出されなくなるまで棒体13を移動させる動作にしてもよい。いずれの場合でも、棒体13を径方向力が作用しない位置まで移動させる。
【0059】
以上説明したように、本構成の軸受(リング状部材)の搬送方法によれば、軸受の中心孔に棒体を挿入する際、棒体に発生する外力を検出し、軸方向の外力が閾値以上に過大になる場合には挿入動作を中止し、閾値未満である場合には棒体の挿入に伴って、径方向の外力の作用方向に棒体を平行移動させる。これにより、棒体は、軸受の段部に干渉することなく、円滑に挿入される。よって、一列に並べて配置された複数の軸受の一部に段部が形成されていても、棒体の挿入を自動的に調整して挿入完了させることができる。そして、棒体が挿入された複数の軸受を、一度に効率よく搬送できる。
【0060】
外力センサ17として6軸力覚センサを用いる場合には、上記したX軸、Y軸、Z軸方向の外力を検出する以外にも、X軸、Y軸、Z軸回りのトルクも検出できる。これらトルクの検出値を併用することで、棒体13に作用する外力をより正確に求めることができる。そして、得られた検出値を用いて、多軸ロボットを、位置と力を分離して制御するハイブリッド制御方式や、位置と力を線形関係で関係付けて制御するインピーダンス制御方式等により制御すれば、より高速で 精密なロボット駆動が可能となる。その場合、棒体13をより高精度に駆動でき、サイズの小さい軸受であっても、棒体13を配列体29へ確実に挿入させることができる。
【0061】
上記した転がり軸受(リング状部材)の搬送装置及び搬送方法は、転がり軸受の製造の他、転がり軸受を備える各種の機械(器械等の動力が手動のものも含む)の製造にも適用可能である。例えば、レール、スライダ等の直動案内装置、ねじ軸、ナット等のボールねじ装置やねじ装置、直動案内軸受とボールねじとを組み合わせた装置やXYテーブル等のアクチュエータ、等の直動装置への適用も可能である。
また、ステアリングコラム、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、ウォーム減速機、トルクセンサ等の操舵装置への適用も可能である。
そして、上記機械、操舵装置等を含む車両、工作機械、住宅機器等に、上記搬送装置及び搬送方法並びに製造方法を広く適用することができる。
これにより得られた機械、車両等によれば、効率よく搬送が行えるため、生産性を高めて、しかも低コストな構成にできる。
【0062】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
11 軸受載置台(配列体配置部)
13 棒体
13a 基端部
13b 先端部
15 棒体移動機構
17 外力センサ
21 ロボット駆動部
23 制御部
27 転がり軸受(リング状部材)
28 段部
29 配列体
33 傾斜面
43 多軸ロボット
100 搬送装置