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特許7159786プロジェクションシステム及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】プロジェクションシステム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20221018BHJP
   G03B 21/62 20140101ALI20221018BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20221018BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
G03B21/14 Z
G03B21/62
H04N5/74 C
G02B5/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018198378
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020067497
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲志
【審査官】新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-227581(JP,A)
【文献】特開2018-066935(JP,A)
【文献】特開2014-059432(JP,A)
【文献】特開2008-107680(JP,A)
【文献】特開2017-223950(JP,A)
【文献】特開2018-025786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/14
G03B 21/62
H04N 5/74
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影ユニットとスクリーンからなるプロジェクションシステムであり、
前記スクリーンは、偏光分離素子を含み、前記偏光分離素子の片側に調光フィルムを備え、
前記投影ユニットは、投影機の前記スクリーン側に偏光子を備え、
前記偏光子は、前記偏光分離素子で定まるTM偏光軸に一致する透過軸と、前記偏光分離素子で定まるTE偏光軸に一致する透過軸とを、切替える機能を有し、
前記調光フィルムは、白濁状態と透明状態とを可逆的に変化し、かつ印加する電圧によって前記白濁状態におけるヘイズ(白濁度)を2段階以上に切替え可能な調光層を有する、
ことを特徴とするプロジェクションシステム。
【請求項2】
投影ユニットとスクリーンからなるプロジェクションシステムであり、
前記スクリーンは、偏光分離素子を含み、前記偏光分離素子の両側に調光フィルムを備え、
前記投影ユニットは、投影機の前記スクリーン側に偏光子を備え、
前記偏光子は、前記偏光分離素子で定まるTM偏光軸に一致する透過軸と、前記偏光分離素子で定まるTE偏光軸に一致する透過軸とを、切替える機能を有し、
前記調光フィルムは、白濁状態と透明状態とを可逆的に変化し、かつ印加する電圧によって前記白濁状態におけるヘイズ(白濁度)を2段階以上に切替え可能な調光層を有する、
ことを特徴とするプロジェクションシステム。
【請求項3】
屋内と屋外、若しくは室内と室外を仕切る窓に、前記スクリーンが配設されている、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のプロジェクションシステムの使用方法。
【請求項4】
室内を仕切るパーテーションに、前記スクリーンが配設されている、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のプロジェクションシステムの使用方法。
【請求項5】
車内と車外を仕切る窓に、前記スクリーンが配設されている、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のプロジェクションシステムの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影機によりスクリーン上に映像光を投射して映像を表示するプロジェクションシステムに係り、特に、投射された映像光を反射及び透過してその両側の面に映像を表示することが可能なプロジェクションシステム及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
映像を投射するプロジェクターは、フロントプロジェクターと、リアプロジェクターとに分類される。フロントプロジェクターは反射型スクリーンを部屋の壁際に配置し、液晶表示素子や投射レンズ等を含むプロジェクターユニットを部屋内に配置して、投射レンズからスクリーンへ向かって映像光を投射し、スクリーンに映像を表示する。観視者はスクリーンで反射した映像を見る。一方、リアプロジェクターは、プロジェクターユニットが部屋などのボックス型の空間の内部に配置され、さらに透過型スクリーンが設けられているものである。観視者は空間の外側からスクリーンを透過した映像を見るようになっている。
【0003】
一般に、プロジェクターは、光源から送られた光束を光変調素子で変調して光学像を形成し、この光学像を投射光学系によりスクリーンに投射する構成となっている。反射型スクリーンに投射された光束は、反射型スクリーンの表面で拡散して反射される。これにより、反射型スクリーンのフロント側にて映像を表示することができる。透過型スクリーンでは投射された光束は、透過型スクリーンを透過して拡散される。これにより、透過型スクリーンによって映像を表示することができる。
【0004】
投射された映像をスクリーンの両側から視認できるようにするため、または投射された映像とスクリーンの背後の物体とを重ね合わせて視認できるようにするために、スクリーンを従来のスクリーンに代えて、半透明とすることが提案されている。このスクリーンでは、スクリーンに光束を投射することにより、反射光と透過光とが生成されリアとフロントの両側から視認することができる(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1には、透過タイプのホログラムスクリーンをハーフミラーと組み合わせることにより、ホログラムスクリーンの両側から映像光を観察するスクリーンが提案されている。しかしながら、ホログラムスクリーンは偏光選択性を有しておらず、環境光と映像光とを区別できないため、明るい環境光下で映像を鮮明に表示するのは困難である。一方、ハーフミラーを用いたスクリーンでは、一部視野を遮る構造にならざるを得ず、原理上、大型化も困難である。
【0006】
特許文献2のスクリーンは、反射型スクリーンを構成するために、特定の偏光成分の光を選択的に反射するコレステリック液晶を用いている。また、透過型スクリーンを構成するために、反射型スクリーンを透過した光を回折する背面側回折層を用いている。このため、次のような不都合がある。反射型スクリーンにコレステリック液晶を用いているために、反射型スクリーンに入射する光の指向性が液晶による光の旋光性によって制約される。また、透過型スクリーンにおいて光の出射方向を制御するための回折層を必要とするため、部品点数が増加する。さらに、回折層を用いたために、スクリーン上の輝度ムラを生じやすくなる。
【0007】
また、コレステリック液晶構造を有する偏光分離フィルムは、入射角依存性が大きく、入射角によって反射強度、色再現性が異なるため、反射型スクリーンでは、プロジェクターから広角で光を入射した場合(入射角が大きい場合)に正面輝度が低下して、鮮明な画像を表示することが難しい。また、透過型スクリーンでも、画像が白っぽく見え、鮮明度が低くなる。また、円偏光板であるコレステリック液晶構造を有する偏光分離フィルムと、直線偏光板である吸収型偏光板とを組み合わせているため、位相差板を介在させる必要があり、部品点数が増加する。
【0008】
さらに、特許文献2のスクリーンでは、プロジェクターが配設されている側と配設されていない側の両側から視認可能とすることを目的としているが、外光や照明光などの環境光(非映像光)の透過性の制御については考慮されておらず、従って外景や室内の視認性を切り替えることについても記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3482963号公報
【文献】特開2006-227581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたもので、フロント側とリア側の双方への投影を可能とするとともに、非映像光による透過性もユーザニーズに対応して変化させ、多様性を有することが可能なプロジェクションシステム及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のプロジェクションシステムは、投影ユニットとスクリーンからなるプロジェクションシステムであり、
前記スクリーンは、偏光分離素子を含み、前記偏光分離素子の片側に調光フィルムを備え、
前記投影ユニットは、投影機の前記スクリーン側に偏光子を備え、
前記偏光子は、前記偏光分離素子で定まるTM偏光軸に一致する透過軸と、前記偏光分離素子で定まるTE偏光軸に一致する透過軸とを、切替える機能を有し、
前記調光フィルムは、印加する電圧によってヘイズ(白濁度)を2段階以上に切替え可能な調光層を有する、ことを特徴とする。
【0012】
あるいは、本発明のプロジェクションシステムは、投影ユニットとスクリーンからなるプロジェクションシステムであり、
前記スクリーンは、偏光分離素子を含み、前記偏光分離素子の両側に調光フィルムを備え、
前記投影ユニットは、投影機の前記スクリーン側に偏光子を備え、
前記偏光子は、前記偏光分離素子で定まるTM偏光軸に一致する透過軸と、前記偏光分離素子で定まるTE偏光軸に一致する透過軸とを、切替える機能を有し、
前記調光フィルムは、印加する電圧によってヘイズ(白濁度)を2段階以上に切替え可能な調光層を有する、ことを特徴とする。
【0013】
本発明のプロジェクションシステム及びその使用方法は、屋内と屋外、若しくは室内と室外を仕切る窓に、前記スクリーンが配設されている、ことを特徴とする。
【0014】
あるいは、本発明のプロジェクションシステム及びその使用方法は、室内を仕切るパーテーションに、前記スクリーンが配設されている、ことを特徴とする。
【0015】
あるいは、本発明のプロジェクションシステム及びその使用方法は、車内と車外を仕切
る窓に、前記スクリーンが配設されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、フロント側とリア側の双方への選択投影を可能なプロジェクションシステムが提供される。また、該プロジェクションシステムにより、非映像光による内景、外景の透過性もユーザニーズに対応して変化させることが可能な、多様性を有する使用方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示の第1実施形態に係る、プロジェクションシステムの(a)全体的な構成と機能を示す概念図、(b)(a)のうちの偏光切替え板を示す概念図である。
図2】本開示の第1実施形態に係るプロジェクションシステムをリアプロジェクションとして使用する様態を示す概略図である。
図3】本開示の第1実施形態に係るプロジェクションシステムをフロントプロジェクションとして使用する様態を示す概略図である。
図4】本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムをリアプロジェクションとして使用する様態を示す概略図である。
図5】本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムをフロントプロジェクションとして使用する様態を示す概略図である。
図6】本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムを、リアプロジェクションとフロントプロジェクションの両用として同時に使用する様態を示す概略図である。
図7】PNLC型調光層を備えるノーマルモードの調光フィルムの構造と挙動を示す模式断面図である。(a)電源オンで透明時、(b)電源オンで半透明時。
図8】PNLC型調光層を備えるノーマルモードの調光フィルムの構造と挙動を示す模式断面図である。電源オフで遮光時。
図9】ワイヤグリッド偏光子の構造と偏光特性を説明するための模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示のプロジェクションシステム及びその使用方法に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付ける。また、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じではない。
【0019】
図1は、本開示の第1実施形態に係る、プロジェクションシステムの、(a)は全体的な構成と機能を示す概念図であり、(b)は(a)のうちの偏光切替え板を示す概念図である。第1実施形態に係るプロジェクションシステム100は、投影ユニット60とスクリーン40からなり、スクリーン40は、偏光分離素子30を含み、偏光分離素子30の片側(図1では投影ユニット60に対向する側)に調光フィルム10を備えている。また、投影ユニット60は、投影機61のスクリーン40に対向する側に偏光子62を備えている。図示しないが、調光フィルム10の入射側には反射防止膜を設けてもよい。
【0020】
偏光子62は、偏光分離素子30で定まるTM偏光軸に一致する透過軸と、偏光分離素子で定まるTE偏光軸に一致する透過軸とを、切替える機能を有する直線偏光切替え可能な偏光子であり、リアプロジェクションとする場合(図2)は、図1(b)のTM部を映像光が通過するようにし、フロントプロジェクションとする場合(図3)は、図1(b)のTE部を映像光が通過するようにする。切替える方法は、図1(b)のように回転方式(矢印で示す)でもよく、専用の偏光子に入れ替える方式、または切替え時に1/2波長板を挿入する方式でもよい。また、図1(b)のO部で示すように、偏光子を通さない選択を可能としてもよい。調光フィルム10は、印加する電圧によってヘイズ(白濁度)を
2段階以上に切替えることが可能な調光層13を有している。
【0021】
偏光分離素子30は、無偏光の光の電場の振動方向を2方向に分離し、それぞれ透過光、反射光とする素子であり、ワイヤグリッド(WG)偏光子、及びアメリカ3M社のDBEF(Dual Brightness Enhancement Film)を例示することができる。
【0022】
図9は、ワイヤグリッド偏光子の構造と偏光特性を説明するための模式斜視図である。ワイヤグリッド偏光子90は、使用波長域に対して透明なフィルムやガラスなどの透明性基材91上にアルミニウムなどの金属膜のグリッドパターン92を形成した構造からなり、グリッド周期を波長よりも十分小さくすることで、電場の振動方向がグリッドの周期方向(図9でZ方向)であるTM偏光94を透過し、グリッドの長手方向(図9でX方向)であるTE偏光95を反射する偏光素子となる。尚、図9で入射光93はグリッドパターン92側から入射しているが、透明性基材側91から入射しても偏光特性は同じである。特開2006-201782号公報には、プラスチック基板上の大面積ワイヤグリッド偏光子とその製造方法が提案されている。
【0023】
DBEFは、屈折率の異なる樹脂薄膜層を多層積層し、複屈折原理と薄膜干渉原理を利用する偏光素子である。ワイヤグリッド偏光子と同様にTM偏光を透過し、TE偏光を反射させるため、表示装置のバックライトユニットに搭載され、光利用効率を向上させて輝度を増加させることに使用されている。
以下、本願では、偏光分離素子30として、ワイヤグリッド偏光子を例示して説明する。
【0024】
偏光子62としては、一般に用いられる、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムのような親水性高分子フィルムにヨウ素または二色性染料を吸着させて延伸させ、一方向に引き延ばして形成される偏光子を用いることができる。図1(b)の形態では、該偏光子により、延伸方向が異なる2つの領域を有する円形状の偏光子62として構成され、上記のように回転させることによって、偏光子62を透過する直線偏光の偏光軸が、前記のワイヤグリッド偏光子によるTM偏光、またはTE偏光の偏光軸と一致するように切替える機能を有する。
【0025】
調光フィルム10としては、液晶型、エレクトロクロミック型、SPD(Suspended Particle Device=懸濁粒子デバイス)型を例示することができる。これらの素子は、電圧により光透過性が変化し、かつ該変化が可逆的であるという共通の特徴を有する。
【0026】
例えば、液晶型の調光フィルムは、液晶分子に印加される電圧の大きさに応じて液晶分子の配向状態を変え、光を散乱する白濁状態と、光を透過する透明状態とを可逆的に変化させることができる。調光フィルムの白濁度は通常ヘイズ(Haze)と呼ばれ、本開示のプロジェクションシステムで用いる調光フィルム10は、印加する電圧によってヘイズを2段階以上に切替えることができる調光層13を有する。
【0027】
従って、本開示のプロジェクションシステムは、スクリーン40を構成する調光層13に電圧を印加可能な交流電源16と、交流電源16からの電圧を印加するか否かを切り替えるスイッチ17を備える。尚、交流電源は、その実効電圧を変化させうる可変電源であることが好ましい。これは、後述のように、光の透過・散乱の程度を制御し、ヘイズを多様に変化させることができるからである。
【0028】
液晶型調光フィルムの調光層に用いられる高分子液晶にはいくつかの種類があるが、代
表的なものとして高分子ネットワーク型液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)と呼ばれるタイプと、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)と呼ばれるタイプが提案されている。
【0029】
液晶型調光フィルムにはノーマルモードとリバースモードの2型式がある。図7は、PNLC型調光層を備えるノーマルモードの調光フィルム10a、10bの構造と挙動を示す模式断面図である。PNLC型では、液晶分子15は高分子ネットワーク14と呼ばれる3次元網目構造の内部に形成された空隙内に配置されている。尚、図示しないが、PDLC型では、液晶分子を含む液晶材料は高分子マトリックスの中に分散配置されている。
【0030】
図7に示すように、ノーマルモードの調光フィルム10a、10bは、調光層13を両側から透明導電膜による透明電極12a、12bを介して第一透明性フィルム基材11a、第二透明性フィルム基材11bで鋏持した構造となっている。尚、図示しないが、リバースモードの調光フィルムは、調光層と透明電極との層間にさらに配向膜を備え、電源のオン/オフに対する応答がノーマルモードの調光フィルムとは逆になる。
【0031】
以下、本願では、調光フィルム10として、液晶型で、PNLC型調光層を備えるノーマルモードの調光フィルムを例示して説明する。PDLC型調光層であっても同様の説明となる。
【0032】
図7(a)は交流電源16オンで透明時、(b)は交流電源16オンで半透明時の状態を示している。図7(a)の調光フィルム10aでは交流電源16の実効電圧が高く、液晶分子15は電界に沿って配列し、光散乱がなくなって低ヘイズ状態となり、入射光80はほぼそのまま透過光81となっている。
【0033】
図7(b)の調光フィルム10bでは交流電源16の実効電圧が図7(a)よりも低く、液晶分子15はややランダムに配列し、入射光80は高分子と液晶の界面で散乱され、反射散乱光82と透過散乱光83が生じ、調光フィルム10bは半透明状態となっている。尚、図7(b)では、便宜上、透過光81を調光フィルム10bの中央付近、反射散乱光82と透過散乱光83を調光フィルム10bの周辺領域にまとめて図示しているが、これらは位置的に区分できるものではなく、透過成分と散乱成分、反射成分と散乱成分は均等に分布し、それぞれ拡散透過光、拡散反射光となる。
【0034】
図8は、PNLC型調光層を備えるノーマルモードの調光フィルムの構造と、図7とは別の挙動を示す模式断面図であり、電源オフで遮光時の状態を示している。図8の調光フィルム10cには電圧が印加されないため、液晶分子はもっともランダムに配列し、入射光は高分子と液晶の界面で散乱され、ほぼすべて反射散乱光82となり、調光フィルム10cは遮光状態となっている。尚、本願で「遮光状態」とは可視光域でスクリーンの反対側が観視できない状態を意味する。
【0035】
図2は、本開示の第1実施形態に係るプロジェクションシステムをリアプロジェクション100-(R)として使用する様態を示す概略図である。本形態におけるリアプロジェクション100-(R)では、偏光分離素子30で定まるTM偏光軸(図2でZ方向)と一致するように偏光切替え板62-(TM)の透過軸が設定される。これにより、LED等を光源とし投影機61から出射される無偏光の光は、偏光切替え板62-(TM)を透過後、偏光分離素子30を透過できるTM偏光となる。この際、偏光分離素子30に入射する前に、半透明の調光フィルム10bを通過するため、調光フィルム10bを通過後はY-Z平面内で散乱する成分を多く含む拡散光となって偏光分離素子30を出射し、調光フィルム10bと偏光分離素子30をスクリーンとするリアプロジェクションが実現する
【0036】
前記のリアプロジェクションにおいて、交流電源16の電圧が低すぎると、半透明の調光フィルム10bの透明性が不足する。逆に交流電源16の電圧が高すぎると、半透明の調光フィルム10bの散乱性が不足し、スクリーンとして必要な広角な観視性が不足する。
【0037】
一方、外光や照明光などの非映像光も調光フィルム10bで散乱され、偏光分離素子30を透過するが、非映像光はもともと無偏光であるため、偏光切替え板を通過したTM偏光のみが散乱され透過する映像光に比べて散乱光の比率が高くなる。従って、調光フィルム10bのヘイズ度による影響は映像光とは異なり、視認性も異なる。この事情は、後述のフロントプロジェクションで、非視認側の外景が透視される場合においても同様である。
【0038】
以上のことから、光源の特性、リアプロジェクションの使用目的に応じて、交流電源の実効電圧を好適に選択し、映像光及び非映像光の透過・散乱の程度を制御し、最適なヘイズ度として、映像光及び非映像光のコントラストが最良となるようにする。尚、偏光切替え板62-(TM)を通過後はTM偏光成分のみとなっているので、調光フィルム10bで散乱してもTE偏光成分は僅かであり、偏光分離素子30によるTE反射光は無視できるレベルとなる。
【0039】
尚、図2では映像光は調光フィルム10bに入射後、偏光分離素子30に入射する形態としたが、調光フィルム10bは偏光分離素子30の片側にあればよく、偏光分離素子30に入射後、調光フィルム10bに入射する形態であってもよい。後述のように、各種の窓等にスクリーンを配設する場合、窓に固定しない限り、前記の入れ換えは、単にスクリーンの表裏を反転するだけでよい。
【0040】
図3は、本開示の第1実施形態に係るプロジェクションシステムをフロントプロジェクション100-(F)として使用する様態を示す概略図である。本形態におけるフロントプロジェクション100-(F)では、偏光分離素子30で定まるTE偏光軸(図2でX方向)と一致するように偏光切替え板62-(TE)の透過軸が設定される。これにより、LED等を光源とし投影機61から出射される無偏光の光は、偏光切替え板62-(TE)を透過後、偏光分離素子30で反射されるTE偏光となる。この際、偏光分離素子30に入射する前に、半透明の調光フィルム10bを通過するため、調光フィルム10bを通過後はX-Y平面内で散乱する成分を多く含む拡散光となって偏光分離素子30で反射され、調光フィルム10bと偏光分離素子30をスクリーンとするフロントプロジェクションが実現する。
【0041】
前記のフロントプロジェクションにおいて、交流電源16の電圧が高すぎると、半透明の調光フィルム10bの透明性が不足する。逆に交流電源16の電圧が低すぎると、半透明の調光フィルム10bの散乱性が不足し、スクリーンとして必要な広角な観視性が不足する。従って、光源の特性、フロントプロジェクションの使用目的に応じて、交流電源の実効電圧を好適に選択し、光の透過・散乱の程度を制御し、最適なヘイズ度となるようにする。尚、偏光切替え板62-(TE)を通過後はTE偏光成分のみとなっているので、調光フィルム10bで散乱してもTM偏光成分は僅かであり、偏光分離素子30によるTM透過光は僅かである。
【0042】
また、図3の形態で、外光や照明光などの非映像光も偏光分離素子30で反射され、調光フィルムで散乱されるが、非映像光はもともと無偏光であるため、偏光切替え板を通過したTE偏光のみが反射され散乱される映像光に比べて、散乱光の比率が高くなる。この
ため、本開示のプロジェクションシステムで用いるスクリーンは鏡面性が低くなり、従来のリアプロジェクションでしばしば問題となる視認側の背景の映り込みを軽減することができる。
【0043】
図4は、本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムをリアプロジェクション200-(R)として使用する様態を示す概略図である。第2実施形態のプロジェクションシステムに係るスクリーン50は、第1実施形態のプロジェクションシステムに係るスクリーン40(図1)の構造と異なり、偏光分離素子30の両側に第一調光フィルム10と第二調光フィルム20とを備えている。また、それぞれに交流電源16a、16bとスイッチ17a、17bを備えている。
【0044】
従って、第2実施形態に係るプロジェクションシステムを使用するリアプロジェクション200-(R)では、図2において第1実施形態に係るプロジェクションシステムをリアプロジェクション100-(R)として使用する場合の偏光分離素子30を出射したTM偏光成分を多く含む拡散光は、さらに第二調光フィルム20によって透過・散乱を受ける。この際、第二調光フィルム20への印加電圧を高くして図7(a)の調光フィルム10aのような透明状態にすれば、視認される拡散透過光73は、第1実施形態に係るプロジェクションシステムを使用するリアプロジェクション100-(R)における拡散透過光63とほぼ同じものが得られる。
【0045】
逆に、第一調光フィルム10への印加電圧を高くして図7(a)の調光フィルム10aのような透明状態にすれば、第1実施形態に係るプロジェクションシステムを使用するリアプロジェクション100-(R)と異なり、TM偏光は偏光分離素子30に入射・透過後、第二調光フィルム20で透過・散乱を受けることになる。上記のように、第一調光フィルム10、第二調光フィルム20に印加する電圧を種々変化させることによって、使用目的に応じた多様なリアプロジェクションとすることができる。
【0046】
また、図4の第2実施形態のリアプロジェクションでは、偏光分離素子30の両側に調光フィルムを備えるため視認側の鏡面性も低くなり、視認側の外景の映り込みが軽減され、映像のコントラストを高めることができる。
【0047】
図5は、本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムをフロントプロジェクション200-(F)として使用する様態を示す概略図である。本例では、第二調光フィルム20のスイッチ17bを切り、電源オフ状態とし、第二調光フィルム20を図8の調光フィルム10cのような遮光状態としている。従って、映像光の視認側から外景が見えることはなく、外景側から映像光が見えることもないので、秘匿性を必要とする使用目的に適したフロントプロジェクションとなる。
【0048】
図5の形態で第二調光フィルム20を遮光状態とすることにより、第二調光フィルム20に赤外線カット機能による冷房効率改善や、紫外線カット機能を付与することができる。
【0049】
さらに、図5のフロントプロジェクション200-(F)では、第二調光フィルム20を遮光状態とするので、偏光分離素子30をTM偏光が透過しても第二調光フィルム20により遮断されるため、投影ユニットには偏光切替え板(図4では62-(TM))を必要としない(あるいは投影機からの出射光が図1(b)のO部を通るように偏光切替え板を回転させてもよい)。偏光子を通さないことは光量を高くする意味で有利である。
【0050】
図6は、本開示の第2実施形態に係るプロジェクションシステムを、リアプロジェクションとフロントプロジェクション200-(RF)の両用として同時に使用する様態を示す概略図である。本例では、投影ユニットに偏光切替え板(図4では62-(TM))を使用しない(あるいは投影機からの出射光が図1(b)のO部を通るように偏光切替え板を回転させてもよい)。従って、偏光分離素子30を透過したTM偏光は拡散透過光73となり、また偏光分離素子30によって反射したTE偏光は拡散反射光74となる。これにより、リアプロジェクションとフロントプロジェクションとの両用として同時に使用することが可能となる。
【0051】
以上の説明において、調光フィルムと偏光分離素子は、いずれも透明性の接着剤等で積層したものとしてきたが、必ずしも積層した形態である必要はなく、上記の組み合わせであれば、分離して配置したものであってもよい。
【0052】
本開示のプロジェクションシステムは、投影ユニットの偏光切替え板の偏光方向を切替えることや、1枚または2枚の調光フィルムの電圧を制御するだけで、第1実施形態ではリアプロジェクションまたはフロントプロジェクションとして、また第2実施形態ではリアプロジェクションまたはフロントプロジェクションまたは両用同時のプロジェクションとして、以下のように様々な用途に利用することができる。
【0053】
会議室の窓に、本開示の第2実施形態のプロジェクションシステムで用いるスクリーンを配設し、図5のフロントプロジェクションの形態で利用することにより秘匿性の会議とし、図6の両用プロジェクションの形態で利用することにより公開性の会議とする。
【0054】
店舗用の窓に、本開示のプロジェクションシステムで用いるスクリーンを配設し、営業時間外は第1実施形態の図2または第2実施形態の図4のリアプロジェクションとして、店舗外へ向けた公告投影を行う。また営業時間内は第1実施形態の図3または第2実施形態の図5のフロントプロジェクションとして、店舗内の顧客へのプレゼンテーションツールとして利用する。
【0055】
室内を仕切るパーテーションに、本開示のプロジェクションシステムで用いるスクリーンを配設し、第1実施形態の図2または第2実施形態の図4のリアプロジェクションとして、パーテーション内の内景とともに、パーテーション外へ向けた公告投影を行う。
【0056】
車内と車外を仕切る窓に、本開示のプロジェクションシステムで用いるスクリーンを配設し、第1実施形態の図2または第2実施形態の図4のリアプロジェクションとして、営業車では車外へ向けた公告投影を行うことや、病気などの緊急時には車外に注意喚起するような投影を行う。また、第1実施形態の図3または第2実施形態の図5のフロントプロジェクションとして、車内にバーチャルリアリティ空間をつくり、運転者の利便性や同乗者の娯楽性を高める。
【符号の説明】
【0057】
100・・・・第1実施形態のプロジェクションシステム
100-(R)・・・・第1実施形態のシステムによるリアプロジェクション
100-(F)・・・・第1実施形態のシステムによるフロントプロジェクション
200-(R)・・・・・第2実施形態のシステムによるリアプロジェクション
200-(F)・・・・・第2実施形態のシステムによるフロントプロジェクション
200-(RF)・・・・第2実施形態のシステムによるリア・フロント両用プロジェクション
10・・・・・調光フィルムまたは第一調光フィルム
10a・・・・調光フィルム(透明時)
10b・・・・調光フィルム(半透明時)
10c・・・・調光フィルム(遮光時)
11a・・・・第一透明性フィルム基材
11b・・・・第二透明性フィルム基材
12a、12b・・・・透明電極
13・・・・・調光層(PNLC型)
14・・・・・高分子ネットワーク
15・・・・・液晶分子
16、16a、16b・・・・交流電源
17、17a、17b・・・・スイッチ
20・・・・・第二調光フィルム
30・・・・・偏光分離素子
40・・・・・第1実施形態のプロジェクションシステムに係るスクリーン
50・・・・・第2実施形態のプロジェクションシステムに係るスクリーン
60・・・・・投影ユニット
61・・・・・投影機
62・・・・・偏光切替え板(直線偏光切替え可能な偏光子)
62-(TM)・・・・TM偏光時の切替え板
62-(TE)・・・・TE偏光時の切替え板
63、73・・・・・拡散透過光
64、74・・・・・拡散反射光
80・・・・・入射光
81・・・・・透過光
82・・・・・反射散乱光
83・・・・・透過散乱光
90・・・・・ワイヤグリッド偏光子
91・・・・・透明性基材
92・・・・・金属膜のグリッドパターン
93・・・・・入射光
94・・・・・TM偏光
95・・・・・TE偏光
P・・・・・・視認者
図1
図2
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図9