(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】三次元造形装置、および、三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/343 20170101AFI20221018BHJP
B22F 10/18 20210101ALI20221018BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20221018BHJP
B22F 12/50 20210101ALI20221018BHJP
B22F 12/57 20210101ALI20221018BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20221018BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20221018BHJP
B29C 64/236 20170101ALI20221018BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20221018BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20221018BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20221018BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20221018BHJP
【FI】
B29C64/343
B22F10/18
B22F10/85
B22F12/50
B22F12/57
B29C64/118
B29C64/209
B29C64/236
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2018221813
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯脇 康平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 郷志
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528340(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038751(WO,A1)
【文献】特開2005-344765(JP,A)
【文献】特開2015-148309(JP,A)
【文献】特開2017-035811(JP,A)
【文献】特表2017-523934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0311894(US,A1)
【文献】特開2017-213735(JP,A)
【文献】特開2017-105177(JP,A)
【文献】特表2016-518267(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103878979(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0046073(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B33Y 10/00-99/00
F16K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元造形物を造形する三次元造形装置であって、
材料を可塑化して造形材料を生成する可塑化部と、
前記造形材料をテーブルに向けて吐出する吐出口を有するノズルと、
前記ノズルと前記テーブルとの相対的な位置を変更する移動機構と、
前記造形材料が流れる流路に設けられ、前記ノズルからの前記造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構と、
前記可塑化部、前記移動機構および前記吐出制御機構を制御して前記三次元造形物を造形する制御部と、
を備え、
前記吐出制御機構は、前記造形材料が流れる方向に交差して設けられた駆動軸と、前記駆動軸の前記流路内に位置する部分に形成された弁部と、前記駆動軸を回転させるモーターとを備え、
前記弁部は、前記流路内で回転することにより前記流路の開度を変化させ、
前記制御部は、前記吐出制御機構を制御して、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が第1の速さの場合には、
前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を第1の吐出量とし、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が前記第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、
前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を前記第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする、
三次元造形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の三次元造形装置であって、
前記制御部は、前記吐出制御機構を用いて、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が変化する前後での、前記三次元造形物における単位体積当たりの前記造形材料の吐出量が一定となるように前記吐出量を制御する、三次元造形装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載の三次元造形装置であって、
前記
弁部と前記吐出口との間の
前記流路に接続され、前記流路中の前記造形材料を吸引して一時的に貯留する吸引部を備え、
前記制御部は
、前記ノズルから前記造形材料の吐出を停止させる場合、
前記流路を閉じるように前記吐出制御機構を制御した後に、前記流路中の前記造形材料を吸引するように前記吸引部
を制御する、三次元造形装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の三次元造形装置であって、
前記制御部は、前記ノズルから前記造形材料の吐出を開始させる場合、前記吸引部から前記吸引部に貯留された前記造形材料の一部を前記流路に送出して前記ノズルから吐出させた後に、前記ノズルの移動を開始させ、前記吐出制御機構を制御して前記可塑化部から前記ノズルに前記造形材料の供給を開始させるとともに前記吸引部から前記吸引部に貯留された残りの前記造形材料を前記流路に送出させる、三次元造形装置。
【請求項5】
請求項
3または請求項
4に記載の三次元造形装置であって、
前記制御部は、前記ノズルの前記テーブルに対する相対的な前記位置が、前記造形材料を吐出する経路の末端付近であると判断した場合に、前記ノズルから前記造形材料の吐出を停止させると判断する、三次元造形装置。
【請求項6】
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の三次元造形装置であって、
前記可塑化部は、
溝部が形成された溝形成面を有するフラットスクリューと、
前記フラットスクリューの前記溝形成面に対向する対向面を有し、前記対向面に連通孔が形成され、ヒーターを有するバレルと、を備え、
前記可塑化部は、前記フラットスクリューの回転と前記ヒーターによる加熱とにより前記材料の少なくとも一部を溶融させて前記造形材料を生成し、前記連通孔から前記造形材料を流出させる、三次元造形装置。
【請求項7】
三次元造形物の製造方法であって、
可塑化部によって材料を可塑化して造形材料を生成する工程と、
ノズルとテーブルとの相対的な位置を変更しつつ前記ノズルから前記テーブルに向けて前記造形材料を吐出する工程と、
を備え、
前記造形材料が流れる流路には、前記ノズルからの前記造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構が設けられ、
前記吐出制御機構は、前記造形材料が流れる方向に交差して設けられた駆動軸と、前記駆動軸の前記流路内に位置する部分に形成された弁部と、前記駆動軸を回転させるモーターとを備え、
前記弁部は、前記流路内で回転することにより前記流路の開度を変化させ、
前記吐出制御機構を制御して、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が第1の速さの場合には、
前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を第1の吐出量にし、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が前記第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、
前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を前記第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする、
三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形装置、および、三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予熱器で加熱されて溶融した熱可塑性の材料を、予め設定された形状データに従って走査する押出ノズルから、基台上の特定領域に押し出し、その基台上で硬化した材料の上に更に溶融した材料を積層して三次元物体を造形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術のように、形状データに従って押出ノズルを移動させる場合、造形物の角部など、造形箇所によってはノズルの移動速度を低下させる場合がある。ノズルから吐出される材料の量が一定である場合、ノズルの移動速度を低下させると、材料の吐出量が過剰となり、造形精度が低下する可能性がある。そこで、本開示では、三次元造形物の造形精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の形態によれば、三次元造形物を造形する三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、材料を可塑化して造形材料を生成する可塑化部と、前記造形材料をテーブルに向けて吐出する吐出口を有するノズルと、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な位置を変更する移動機構と、前記造形材料が流れる流路に設けられ、前記ノズルからの前記造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構と、前記可塑化部、前記移動機構および前記吐出制御機構を制御して前記三次元造形物を造形する制御部と、を備え、前記吐出制御機構は、前記造形材料が流れる方向に交差して設けられた駆動軸と、前記駆動軸の前記流路内に位置する部分に形成された弁部と、前記駆動軸を回転させるモーターとを備え、前記弁部は、前記流路内で回転することにより前記流路の開度を変化させ、前記制御部は、前記吐出制御機構を制御して、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が第1の速さの場合には、前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を第1の吐出量とし、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が前記第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、前記弁部の回転角度を調節することで前記造形材料の吐出量を前記第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】三次元造形装置の概略構成を示す説明図である。
【
図2】吐出制御機構および吸引部の構成を模式的に示す図である。
【
図3】フラットスクリューの下面側の構成を示す概略斜視図である。
【
図4】スクリュー対面部の上面側を示す概略平面図である。
【
図5】三次元造形物が造形される様子を模式的に示す図である。
【
図6】三次元造形物の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】造形データが表す三次元造形物の一部分を模式的に示す図である。
【
図8】ノズルの移動速度と造形材料の吐出量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における三次元造形装置100の概略構成を示す説明図である。
図1には、互いに直交するX,Y,Z方向に沿った矢印が表されている。X方向およびY方向は、水平方向に沿った方向であり、Z方向は、鉛直上向きの方向である。他の図においても、X,Y,Z方向に沿った矢印が、適宜、表されている。
図1におけるX,Y,Z方向と、他の図におけるX,Y,Z方向とは、同じ方向を表している。
【0008】
三次元造形装置100は、制御部101と、造形材料を生成して吐出する造形部110と、三次元造形物の基台となる造形用のテーブル210と、造形材料の吐出位置を制御する移動機構230と、を備える。
【0009】
制御部101は、三次元造形装置100全体の動作を制御して、三次元造形物を造形する造形処理を実行する。制御部101は、1つ、または、複数のプロセッサーと、主記憶装置と、を備えるコンピューターによって構成される。制御部101は、主記憶装置に読み込んだプログラムをプロセッサーが実行することによって、種々の機能を発揮する。なお、制御部101の機能の一部を、ハードウェア回路により実現するようにしてもよい。制御部101が実行する造形処理では、三次元造形物の造形データに従って、造形部110と移動機構230とが制御される。
【0010】
造形部110は、制御部101の制御下において、溶融されたペースト状の造形材料をテーブル210上の目標位置に吐出する。造形部110は、造形材料に転化される前の材料MRの供給源である材料供給部20と、材料MRを造形材料へと転化させる可塑化部30と、造形材料をテーブルに向けて吐出する吐出口62を有するノズル61と、ノズル61からの造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構70と、造形材料を吸引して一時的に貯留する吸引部75と、を備える。
【0011】
材料供給部20は、可塑化部30に、造形材料を生成するための材料MRを供給する。材料供給部20は、例えば、材料MRを収容するホッパーによって構成される。材料供給部20は、連通路22を介して、可塑化部30に接続されている。材料MRは、例えば、ペレットや粉末等の形態で材料供給部20に投入される。材料MRの詳細については後述する。
【0012】
可塑化部30は、材料供給部20から供給された材料MRの少なくとも一部を可塑化して流動性を発現させたペースト状の造形材料を生成し、ノズル61へと導く。可塑化部30は、スクリューケース31と、駆動モーター32と、フラットスクリュー40と、スクリュー対面部50と、を有する。フラットスクリュー40は、「スクロール」とも呼ばれる。スクリュー対面部50は、「バレル」とも呼ばれる。可塑化部30は、材料MRの全部を可塑化してもよいし、例えば、材料MRが複数の成分を含む場合には、その一部の成分を可塑化してもよい。
【0013】
フラットスクリュー40は、その中心軸RXに沿った高さが直径よりも小さい略円柱状を有する。本実施形態において、フラットスクリュー40は、その中心軸RXがZ方向に平行になるように配置される。
【0014】
フラットスクリュー40は、スクリューケース31内に収納されている。フラットスクリュー40の上面47側は駆動モーター32に連結されており、フラットスクリュー40は、駆動モーター32が発生させる回転駆動力によって、スクリューケース31内において中心軸RXを中心に回転する。駆動モーター32は、制御部101の制御下において駆動する。
【0015】
フラットスクリュー40の下面48には、溝部42が形成されている。上述した材料供給部20の連通路22は、フラットスクリュー40の側面から溝部42に連通する。
【0016】
フラットスクリュー40の下面48は、スクリュー対面部50の上面52に面している。フラットスクリュー40の下面48の溝部42と、スクリュー対面部50の上面52との間には空間が形成される。この空間には、材料供給部20から材料MRが供給される。フラットスクリュー40および溝部42の具体的な構成については後述する。
【0017】
スクリュー対面部50には、材料MRを加熱するためのヒーター58が埋め込まれている。フラットスクリュー40の溝部42に供給された材料MRは、溝部42において溶融されながら、フラットスクリュー40の回転によって溝部42に沿って流動し、造形材料としてフラットスクリュー40の中央部46へと導かれる。中央部46に流入したペースト状の造形材料は、スクリュー対面部50の中心に設けられた連通孔56を介してノズル61に供給される。なお、造形材料において、造形材料を構成する全ての種類の物質が溶融していなくてもよい。造形材料は、造形材料を構成する物質のうちの少なくとも一部の種類の物質が溶融することによって、全体として流動性を有する状態に転化されていればよい。
【0018】
ノズル61は、可塑化部30とノズル61とをつなぐ流路65を通じて、スクリュー対面部50の連通孔56に接続されている。ノズル61は、可塑化部30において生成された造形材料を、先端の吐出口62からテーブル210に向かって吐出する。本実施形態では、流路65はZ方向に沿って延びており、流路65とノズル61とはZ方向に沿って配列されている。
【0019】
テーブル210は、ノズル61の吐出口62に対向する位置に配置されている。本実施形態では、ノズル61の吐出口62に対向するテーブル210の上面211は、水平に、つまり、X,Y方向に平行に、配置される。
【0020】
移動機構230は、テーブル210とノズル61との相対的な位置を変更可能に構成されている。本実施形態では、ノズル61の位置が固定されており、移動機構230は、テーブル210を移動させる。移動機構230は、3つのモーターの駆動力によって、テーブル210をX,Y,Z方向の3軸方向に移動させる3軸ポジショナーによって構成される。移動機構230は、制御部101の制御下において、ノズル61とテーブル210との相対的な位置関係を変更する。
【0021】
なお、他の実施形態では、移動機構230によってテーブル210を移動させる構成の代わりに、テーブル210の位置が固定された状態で、移動機構230がテーブル210に対してノズル61を移動させる構成が採用されてもよい。また、移動機構230によってテーブル210をZ方向に移動させ、ノズル61をX,Y方向に移動させる構成や、移動機構230によってテーブル210をX,Y方向に移動させ、ノズル61をZ方向に移動させる構成が採用されてもよい。これらの構成であっても、ノズル61とテーブル210との相対的な位置関係が変更可能である。
【0022】
以下においては、特に断らない限り、「ノズル61の移動」あるいは「ノズル61の走査」は、テーブル210に対するノズル61の相対的な位置の変化を意味する。また、「ノズル61の移動速度」というときは、テーブル210に対するノズル61の相対的な速度を意味する。
【0023】
図2は、吐出制御機構70および吸引部75の構成を模式的に示す図である。本実施形態では、吐出制御機構70は、流路65内で回転することにより流路65の開度を変化させるバタフライバルブ72を備える。バタフライバルブ72は、一方向に延びる軸状部材である駆動軸73と、駆動軸73の回転とともに回転する弁部73vと、を備える。駆動軸73は、流路65において、造形材料の流れ方向に交差するように取り付けられている。本実施形態では、駆動軸73は流路65に対して垂直に横切るように、Y方向に平行に配置されている。駆動軸73は、その中心軸73xを中心に回転可能である。
【0024】
弁部73vは、流路65内において回転する板状部である。第1実施形態では、弁部73vは、駆動軸73の流路65内に配置されている部位を板状に加工することによって形成されている。弁部73vを、その板面に垂直な方向に見たときの形状は、弁部73vが配置されている部位における流路65の開口形状とほぼ一致する。
【0025】
弁部73vの板面が、
図2において実線で示されているように、流路65における造形材料の流れ方向に沿っている状態が、流路65が開かれている状態である。この状態では、バタフライバルブ72よりノズル61側への造形材料の流入が許容される。
図2において破線で図示されているように、弁部73vの板面が、流路65における造形材料の流れ方向に対して垂直にされた状態が、流路65が閉じられた状態である。この状態では、バタフライバルブ72よりノズル61側への造形材料の流入が遮断され、ノズル61の吐出口62からの造形材料の吐出が停止される。制御部101は、バタフライバルブ72の回転角度を制御することによって、可塑化部30からノズル61に流れる造形材料の流量、つまり、ノズル61から吐出される造形材料の流量を調整することができる。
【0026】
図1に示されている第1駆動部74は、例えば、ステッピングモーターによって構成される。第1駆動部74は、制御部101の制御下において、駆動軸73を回転させて弁部73vの回転角度を調整することにより、ノズル61からの造形材料の吐出量を制御する。本実施形態では、制御部101は、吐出制御機構70を制御して、ノズル61の移動速度が第1の速さの場合には、造形材料の吐出量を第1の吐出量とし、ノズル61の移動速度が第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、造形材料の吐出量を第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする。また、本実施形態では、制御部101は、ノズル61の移動速度に応じて吐出制御機構70を制御して、ノズル61の移動速度が変化する前後での、三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量が一定となるように吐出量を制御する。
【0027】
吸引部75は、流路65において吐出制御機構70と吐出口62との間に接続されている。吸引部75は、流路65中の造形材料を吸引して一時的に貯留する。本実施形態において、吸引部75は、流路65に接続されている副流路77と、副流路77内において移動する弁体78と、を備えるプランジャーとして構成されている。吸引部75は、副流路77内で弁体78を移動させることにより負圧を発生させ、造形材料を吸引する。副流路77は、流路65の側方に向かって直線状に延びている。弁体78は、副流路77に沿って延びる棒状の部材によって構成され、副流路77内を往復移動可能に配置されている。
【0028】
図1に図示されている吸引部75を駆動させる第2駆動部76は、制御部101の制御下において、副流路77内での弁体78の位置を変化させる。第2駆動部76は、例えば、ステッピングモーターと、ステッピングモーターの回転力を弁体78の並進運動に変換するラックアンドピニオン機構やボールねじ機構とによって構成される。
【0029】
本実施形態では、上記のように、吸引部75は、吐出制御機構70と吐出口62との間に接続されている。つまり、吐出制御機構70からノズル61の距離よりも、吸引部75からノズル61の距離の方が近い。従って、本実施形態では、造形材料の吐出あるいは停止に関する吸引部75の応答性は、吐出制御機構70の応答性よりも優れている。
【0030】
第2駆動部76は、ノズル61から造形材料が吐出されている際には、
図2に図示されているように、弁体78を、その端部が流路65に面する位置に位置させ、副流路77への造形材料の流入を遮断する。ノズル61からの造形材料の吐出を停止させる際には、第2駆動部76は、
図4において破線で図示されている位置へと、弁体78を流路65から離れる方向に移動させる。これによって、副流路77において流路65に連通している空間の容積が増大し、流路65から副流路77へと造形材料が引き込まれて、ノズル61から吐出されている造形材料が尾切りされる。
【0031】
本実施形態において、制御部101は、例えば、吐出制御機構70を制御して、ノズル61から造形材料の吐出を停止させる場合、吸引部75に造形材料の吸引を行わせる。また、本実施形態において、制御部101は、例えば、ノズル61から造形材料の吐出を開始あるいは再開させる場合、吸引部75から吸引部75に貯留された造形材料の一部を流路65に送出した後に、ノズル61の移動を開始させ、吐出制御機構70を制御して可塑化部30からノズル61に造形材料の供給を開始させるととともに吸引部75から吸引部75に貯留された残りの造形材料を流路65に送出させる。こうした制御部101の制御内容については後で詳しく説明する。
【0032】
図3は、フラットスクリュー40の下面48側の構成を示す概略斜視図である。
図3には、フラットスクリュー40の中心軸RXの位置が一点鎖線で示されている。
図1を参照して説明したように、スクリュー対面部50に対向するフラットスクリュー40の下面48には、溝部42が設けられている。以下、下面48を、「溝形成面48」とも呼ぶ。
【0033】
フラットスクリュー40の溝形成面48の中央部46は、溝部42の一端が接続されている凹部として構成されている。中央部46は、
図1に示されているスクリュー対面部50の連通孔56に対向する。第1実施形態では、中央部46は、中心軸RXと交差する。
【0034】
フラットスクリュー40の溝部42は、いわゆるスクロール溝を構成する。溝部42は、中央部46から、フラットスクリュー40の外周に向かって弧を描くように渦状に延びている。溝部42は、螺旋状に延びるように構成されてもよい。溝形成面48には、溝部42の側壁部を構成し、各溝部42に沿って延びている凸条部43が設けられている。
【0035】
溝部42は、フラットスクリュー40の側面に形成された材料流入口44まで連続している。この材料流入口44は、材料供給部20の連通路22を介して供給された材料MRを受け入れる部分である。
【0036】
図3には、3つの溝部42と、3つの凸条部43と、を有するフラットスクリュー40の例が示されている。フラットスクリュー40に設けられる溝部42や凸条部43の数は、3つには限定されない。フラットスクリュー40には、1つの溝部42のみが設けられていてもよいし、2以上の複数の溝部42が設けられていてもよい。また、溝部42の数に合わせて任意の数の凸条部43が設けられてもよい。
【0037】
図3には、材料流入口44が3箇所に形成されているフラットスクリュー40の例が図示されている。フラットスクリュー40に設けられる材料流入口44の数は、3箇所に限定されない。フラットスクリュー40には、材料流入口44が1箇所にのみ設けられていてもよいし、2箇所以上の複数の箇所に設けられていてもよい。
【0038】
図4は、スクリュー対面部50の上面52側を示す概略平面図である。スクリュー対面部50の上面52は、上述したように、フラットスクリュー40の溝形成面48に対向する。以下、この上面52を、「スクリュー対向面52」とも呼ぶ。スクリュー対向面52の中心には、造形材料をノズル61に供給するための上述した連通孔56が形成されている。
【0039】
スクリュー対向面52には、連通孔56に接続され、連通孔56から外周に向かって渦状に延びている複数の案内溝54が形成されている。複数の案内溝54は、フラットスクリュー40の中央部46に流入した造形材料を連通孔56に導く機能を有する。
図1を参照して説明したように、スクリュー対面部50には、ヒーター58が埋め込まれている。可塑化部30における材料MRの溶融は、ヒーター58による加熱と、フラットスクリュー40の回転と、によって実現される。
【0040】
図1および
図2を参照する。フラットスクリュー40が回転すると、材料流入口44から供給された材料MRが、溝部42に誘導されて、溝部42内において加熱されながら中央部46に向かって移動する。材料MRは、中央部46に近づくほど、溶融し、流動性が高まっていき、造形材料へと転化する。中央部46に集められた造形材料は、中央部46で生じる内圧により連通孔56から流出し、ノズル61の流路65へと導かれ、吐出口62から吐出される。
【0041】
図5は、三次元造形装置100によって三次元造形物が造形される様子を模式的に示す図である。三次元造形装置100では、上述したように、可塑化部30において造形材料MMが生成される。そして、移動機構230によって、テーブル210の上面211に沿った方向にノズル61を移動させながら、テーブル210の上面211に向かって、ノズル61から造形材料MMが吐出される。
【0042】
ここで、テーブル210の上面211に対してノズル61が同一の高さ位置にあるとき造形処理によって吐出された造形材料MMによって構成される層を「造形層ML」と呼ぶ。制御部101は、ノズル61の位置をZ方向に移動させ、これまでの造形処理で形成された造形層MLの上に、次の造形処理によって、さらに造形材料MMを積み重ねることによって、三次元造形物を造形していく。つまり、三次元造形装置100は、造形層MLを何層にも積層することによって三次元造形物を製造する。
【0043】
造形層MLを形成する際には、ノズル61の先端の吐出口62と、ノズル61の直下の位置近傍においてノズル61から吐出された造形材料MMが堆積される予定部位MLtとの間に、下記のギャップGが保持されていることが望ましい。造形材料MMが造形層MLの上に吐出される場合には、造形材料MMが吐出される予定部位MLtは、ノズル61の下に位置する造形層MLの上面である。
【0044】
ギャップGの大きさは、ノズル61の吐出口62における孔径Dn以上とすることが望ましく、孔径Dnの1.1倍以上とすることがより好ましい。こうすれば、ノズル61の吐出口62から吐出される造形材料MMが、予定部位MLtに押しつけられない自由な状態で積層される。この結果、ノズル61から吐出された造形材料MMの横断面形状が潰れてしまうことを抑制でき、三次元造形物の面粗さを低減することが可能である。また、ノズル61の周囲にヒーターが設けられた構成においては、ギャップGを形成することにより、当該ヒーターによる造形材料MMの過熱を防止でき、堆積後の造形材料MMの過熱による変色や劣化が抑制される。一方、ギャップGの大きさは、孔径Dnの1.5倍以下とすることが好ましく、1.3倍以下とすることが特に好ましい。これによって、予定部位MLtに対する造形材料MMの吐出位置の位置ずれや、造形層ML同士の密着性の低下が抑制される。
【0045】
図6は、三次元造形物の製造方法を示すフローチャートである。
図7は、三次元造形物OBの一部分を模式的に示す図である。
図8は、ノズル61の移動速度と造形材料の吐出量の関係を示す図である。
【0046】
図6に示す製造方法は、三次元造形装置100の制御部101が、主記憶装置に読み込んだ造形プログラムを実行することによって実現される。
図6に示すフローチャートは、ノズル61からの造形材料の吐出が開始されてからその吐出が停止されるまでに相当するフローチャートであり、実際には、
図6に示すフローチャートが繰り返し実行されることによって、三次元造形物の全体が造形される。なお、この製造方法が開始されるにあたり、吐出制御機構70のバタフライバルブ72は、予め閉状態であり、吸引部75には、流路65から造形材料が吸引されて貯留されている状態であるものとする。このような状態は、ノズル61を所定の場所に移動させて流路65内の造形材料を廃棄させながら吐出制御機構70を閉状態とし、吸引部75によって流路65内の造形材料を吸引させて尾引きさせることによって生じさせることができる。また、以下で説明する一連の工程が終了する際にも上記のような状態となる。
【0047】
制御部101は、造形材料の吐出を開始あるいは再開するにあたり、まず、ステップS10において、吸引部75を制御して、吸引部75に貯留されている一部の造形材料を押し出してノズル61から吐出させ、ステップS20において、予め定められた期間、待機する。
図7では、「START」と示された位置において造形材料の押し出しが行われる。ステップS20における待機期間は、吸引部75から押し出された造形材料がテーブル210、あるいは、造形済みの造形層MLに着弾するのに要する期間であり、予め定められた期間である。テーブル210および造形済みの造形層のことを、以下では、「テーブル210等」という。ステップS10において吸引部75から押し出す造形材料の量は、例えば、吸引部75に貯留されている造形材料の50質量%である。この量は、テーブル210等に積層される際の造形材料の太さと上述したギャップGに応じて予め定められている。なお、吐出された造形材料の太さのことを、「線幅」ともいう。制御部101は、第2駆動部76を制御して、弁体78の移動量を制御することにより、材料の押出量を調整することができる。
【0048】
ステップS20における待機が完了した後、ステップS30において、制御部101は、造形データに従って、ノズル61の移動を開始する。造形データには、例えば、ノズル61の移動経路とノズル61の移動速度を表す情報が含まれている。ノズル61の移動開始と同時、または、ノズル61の移動開始直後に、制御部101は、ステップS40において、吐出制御機構70を制御して流路65の開度を増加させることにより可塑化部30からノズル61への造形材料の供給を開始させるとともに、吸引部75から吸引部75に貯留された残りの造形材料を押し出して流路65に送出させる。これにより、ノズル61からの造形材料の吐出量が、ステップS10における吐出量よりも増加する。可塑化部30からノズル61への造形材料の供給を開始させる第1のタイミングと、吸引部75から造形材料を押し出す第2のタイミングとは、本実施形態では、同時である。ただし、これらのタイミングは、ずれていてもよい。つまり、第1のタイミングが第2のタイミングよりも速くてもよいし、第1のタイミングが第2のタイミングよりも遅くてもよい。ステップS30においてノズル61の移動が開始された直後には、ノズル61の移動速度は比較的遅い速度であり、ステップS40以降、ノズル61の移動速度は、三次元造形物OBの直線部分において比較的速い速度となる。ノズル61の移動速度は、三次元造形物OBの角部において遅くなる。
【0049】
上記ステップS40において、制御部101は、ノズル61の移動速度に応じてバタフライバルブ72の回転角度を調整することにより、造形材料の吐出量を制御する。本実施形態では、制御部101は、
図8に示すように、ノズル61の移動速度が速いほど、ノズル61からの造形材料の吐出量が多くなるように、バタフライバルブ72の回転角度を制御する。そのため、異なる移動速度における吐出量を比較すれば、ノズル61の移動速度が第1の速さの場合には、造形材料の吐出量は第1の吐出量となり、ノズル61の移動速度が第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、造形材料の吐出量は第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量となる。本実施形態において、単純に「造形材料の吐出量」という場合には、ノズル61から吐出される造形材料の流量であり、単位時間あたりにノズル61から吐出される造形材料の量である。ノズル61の移動速度は、造形データによって指定された値を造形データから取得することで特定できる。なお、他の実施形態では、移動機構230にロータリーエンコーダーや速度センサー、加速度センサーを設けることによってノズル61の移動速度を測定してもよい。
【0050】
ステップS50において、制御部101は、現在のノズル61の位置が、造形データによって表されるノズル61の移動経路の末端付近であるか否かを判断する。「移動経路の末端付近」については後述する。ノズル61の位置が、ノズル61の移動経路の末端付近ではないと判断された場合、制御部101は、ステップS60において、ノズル61の移動速度を特定し、ステップS70において、特定された移動速度に応じて、バタフライバルブ72の回転角度を調整して、造形材料の吐出量を制御する。
【0051】
上記ステップS40およびステップS70において、制御部101は、ノズル61の移動速度が変化する前後での、三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量が一定となるように吐出量を制御する。つまり、本実施形態では、例えば、
図8において、ノズル61の移動速度が異なる「Slow」と示した部分と「Fast」と示した部分の一定距離において、テーブル210等に吐出された造形材料の線幅が変動しないように、制御部101は、吐出制御機構70を制御して吐出量の制御を行う。「三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量が一定」とは、三次元造形物の同一体積あたりに吐出された造形材料の量が同じであることをいう。なお、ノズル61の移動速度が変化する前後での、三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量は、完全に一定でなくてもよく、例えば、±10%の範囲、好ましくは、±5%の範囲で変化してもよい。
【0052】
上記ステップS50において、ノズル61の位置が、ノズル61の移動経路の末端付近であると判断された場合、制御部101は、ステップS80において、吐出制御機構70を制御してバタフライバルブ72を閉状態として造形材料の吐出を停止させる。そして、バタフライバルブ72を閉状態とした後、制御部101は、ステップS90において、ノズル61の移動を停止させるとともに、吸引部75を制御して、流路65内の造形材料を吸引部75内に吸引する。「移動経路の末端付近」とは、移動経路の末端から、その経路に沿って、予め定められた距離だけ遡った位置である。遡る距離は、上記ステップS80においてバタフライバルブ72が閉状態となってから上記ステップS90において吸引部75によって造形材料が吸引されるまでにノズル61から吐出される造形材料の量を予め実験あるいは計算によって求めておき、その量によって造形することのできる距離である。
【0053】
制御部101は、上述した三次元造形物の製造方法を、造形データに記録された全ての移動経路について実行することによって、三次元造形物全体を製造する。
【0054】
以上で説明した本実施形態の三次元造形装置100では、ノズル61の移動速度に応じて吐出制御機構70を制御して、ノズル61の移動速度が第1の速さの場合には、造形材料の吐出量を第1の吐出量とし、ノズル61の移動速度が第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、造形材料の吐出量を第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする。そのため、例えば、三次元造形物の端部や角部など、ノズル61の移動速度が変化する部分において、テーブル210等に積層される造形材料の線幅が変動することを抑制できる。そのため、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、ノズル61の移動速度が変化する前後での、三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量が一定となるように造形材料の吐出量を制御する。そのため、三次元造形物の造形精度をより良好に向上させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、バタフライバルブ72を制御して造形材料の吐出量を制御する。そのため、簡易な構成によって、造形材料の吐出量を調整できる。
【0057】
また、本実施形態では、造形材料の吐出を停止させる場合に、吸引部75によって造形材料を吸引するので、造形材料がノズル61から尾を引くことを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、ノズル61から造形材料の吐出を開始あるいは再開させる場合、吸引部75が吸引部75に貯留された造形材料の一部を流路65に送出してノズル61から吐出させた後に、ノズル61の移動を開始させ、吐出制御機構70を制御して可塑化部30からノズル61に造形材料の供給を開始させるとともに吸引部75から吸引部75に貯留された残りの造形材料を流路65に送出させる。そのため、吐出制御機構70の応答性を補償するように、応答性に優れた吸引部75を用いて造形材料を吐出させることができる。従って、三次元造形物の造形速度を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、ノズル61の位置が、造形材料を吐出する経路の末端付近であると判断した場合に、ノズル61から造形材料の吐出を停止させると判断する。そのため、吐出制御機構70の応答性が低い本実施形態においても、タイミングよく造形材料の吐出を停止させることができる。そのため、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態では、可塑化部30にフラットスクリュー40を採用しているので、三次元造形装置100を小型化することが可能になる。
【0061】
ここで、上述した三次元造形装置100において用いられる三次元造形物の材料について説明する。三次元造形装置100では、例えば、熱可塑性を有する材料や、金属材料、セラミック材料等の種々の材料を主材料として三次元造形物を造形することができる。ここで、「主材料」とは、三次元造形物の形状を形作っている中心となる材料を意味し、三次元造形物において50重量%以上の含有率を占める材料を意味する。上述した造形材料には、それらの主材料を単体で溶融したものや、主材料とともに含有される一部の成分が溶融してペースト状にされたものが含まれる。
【0062】
主材料として熱可塑性を有する材料を用いる場合には、可塑化部30において、当該材料が可塑化することによって造形材料が生成される。「可塑化」とは、熱可塑性を有する材料に熱が加わり溶融することを意味する。
【0063】
熱可塑性を有する材料としては、例えば、下記の熱可塑性樹脂材料を用いることができる。
<熱可塑性樹脂材料の例>
ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリアミド樹脂(PA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチック、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリングプラスチック
【0064】
熱可塑性を有する材料には、顔料や、金属、セラミック、その他に、ワックス、難燃剤、酸化防止剤、熱安定剤などの添加剤等が混入されていてもよい。熱可塑性を有する材料は、可塑化部30において、フラットスクリュー40の回転とヒーター58の加熱によって可塑化されて溶融した状態に転化される。熱可塑性を有する材料の溶融によって生成された造形材料は、ノズル61から吐出された後、温度の低下によって硬化する。
【0065】
熱可塑性を有する材料は、そのガラス転移点以上に加熱されて完全に溶融した状態でノズル61から射出されることが望ましい。例えば、ABS樹脂は、ガラス転移点が約120℃であり、ノズル61からの吐出時には約200℃であることが望ましい。このように高温の状態で造形材料を吐出するために、ノズル61の周囲にはヒーターが設けられてもよい。
【0066】
三次元造形装置100では、上述した熱可塑性を有する材料の代わりに、例えば、以下の金属材料が主材料として用いられてもよい。この場合には、下記の金属材料を粉末状にした粉末材料に、造形材料の生成の際に溶融する成分が混合されて、材料MRとして可塑化部30に投入されることが望ましい。
<金属材料の例>
マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)やクロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)の単一の金属、もしくはこれらの金属を1つ以上含む合金
<前記合金の例>
マルエージング鋼、ステンレス、コバルトクロムモリブデン、チタニウム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、コバルト合金、コバルトクロム合金
【0067】
三次元造形装置100においては、上記の金属材料の代わりに、セラミック材料を主材料として用いることが可能である。セラミック材料としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物セラミックスや、窒化アルミニウムなどの非酸化物セラミックスなどが使用可能である。主材料として、上述したような金属材料やセラミック材料を用いる場合には、テーブル210に配置された造形材料は焼結によって硬化されてもよい。
【0068】
材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料は、単一の金属の粉末や合金の粉末、セラミック材料の粉末を、複数種類、混合した混合材料であってもよい。また、金属材料やセラミック材料の粉末材料は、例えば、上で例示したような熱可塑性樹脂、あるいは、それ以外の熱可塑性樹脂によってコーティングされていてもよい。この場合には、可塑化部30において、その熱可塑性樹脂が溶融して流動性が発現されるものとしてもよい。
【0069】
材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のような溶剤を添加することもできる。溶剤は、下記の中から選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<溶剤の例>
水;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸iso-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸iso-ブチル等の酢酸エステル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;テトラアルキルアンモニウムアセテート類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤;ピリジン、γ-ピコリン、2,6-ルチジン等のピリジン系溶剤;テトラアルキルアンモニウムアセテート(例えば、テトラブチルアンモニウムアセテート等);ブチルカルビトールアセテート等のイオン液体等
【0070】
その他に、材料供給部20に材料MRとして投入される金属材料やセラミック材料の粉末材料には、例えば、以下のようなバインダーを添加することもできる。
<バインダーの例>
アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース系樹脂或いはその他の合成樹脂又はPLA(ポリ乳酸)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)或いはその他の熱可塑性樹脂。
【0071】
B.他の実施形態:
(B-1)三次元造形装置100は、フラットスクリュー40によって材料を可塑化するものに限られない。例えば、三次元造形装置100は、フラットスクリュー40ではなく、インラインスクリューを回転させることによって材料を可塑化するものであってもよい。
【0072】
(B-2)上記実施形態の吐出制御機構70は、バタフライバルブ72以外の弁によって構成されてもよい。例えば、バタフライバルブ72に代えて、ボールバルブやダイアフラムバルブなどの弁を採用してもよい。
【0073】
(B-3)上記実施形態の三次元造形装置100は、吸引部75を備えていなくてもよい。このような構成であっても、吐出制御機構70を用いることにより、ノズル61の移動速度が変化する前後において、造形材料の吐出量が一定となるように吐出量を制御することが可能である。
【0074】
(B-4)上記実施形態において、制御部101は、吐出制御機構70を制御してノズル61から造形材料の吐出を停止させる場合、バタフライバルブ72が閉状態となった後に、吸引部75によって造形材料を吸引している。これに対して、制御部101は、バタフライバルブ72が開状態から閉状態となる間、あるいは、バタフライバルブ72が閉状態となるのと同時に、吸引部75によって造形材料の吸引を行ってもよい。つまり、制御部101は、ノズル61からの造形材料の吐出量が低下したタイミングやノズル61からの造形材料の吐出が停止されたタイミングで、吸引部75によって造形材料を吸引してもよい。
【0075】
(B-5)上記実施形態において、ノズル61の先端と、造形材料MMが堆積される予定部位MLtとの間のギャップGは、ノズル61の吐出口62における孔径Dn未満でもよい。この場合、ノズル61の吐出口62から吐出される造形材料MMが、予定部位MLtに押しつけられ、隣接する位置にすでに配置されている造形材料の壁面や、下層にすでに配置されている造形材料の壁面に追従させながら材料を積層できる。この結果、積層される予定部位MLtの近傍の空隙を埋めるようにして造形材料を積層されるので、空隙率の小さい三次元造形物が得られ、三次元造形物の強度を向上できる。
【0076】
C.他の形態:
本開示は、上述の各実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態によって実現することができる。例えば、本開示は以下の形態として実現可能である。以下に記載する各形態中の技術的特徴に対応する上記の各実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中において必須であると説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0077】
(1)本開示の第1の形態によれば、三次元造形物を造形する三次元造形装置が提供される。この三次元造形装置は、材料を可塑化して造形材料を生成する可塑化部と、前記造形材料をテーブルに向けて吐出する吐出口を有するノズルと、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な位置を変更する移動機構と、前記可塑化部および前記ノズルをつなぐ流路に設けられ、前記ノズルからの前記造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構と、前記可塑化部、前記移動機構および前記吐出制御機構を制御して前記三次元造形物を造形する制御部と、を備え、前記制御部は、前記吐出制御機構を制御して、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が第1の速さの場合には、前記造形材料の吐出量を第1の吐出量とし、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が前記第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、前記造形材料の吐出量を前記第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする。
このような形態の三次元造形装置によれば、ノズルとテーブルとの相対的な移動速度が速い場合には造形材料の吐出量が多くなり、遅い場合には造形材料の吐出量が少なくなるので、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0078】
(2)上記形態の三次元造形装置において、前記制御部は、前記吐出制御機構を用いて、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が変化する前後での、前記三次元造形物における単位体積当たりの前記造形材料の吐出量が一定となるように前記吐出量を制御してもよい。このような形態の三次元造形装置によれば、ノズルとテーブルとの相対的な移動速度が変化する前後において、三次元造形物における単位体積当たりの造形材料の吐出量が一定となるので、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0079】
(3)上記形態の三次元造形装置において、前記吐出制御機構は、前記流路内で回転することにより前記流路の開度を変化させるバタフライバルブを備え、前記制御部は、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度に応じて前記バタフライバルブの回転角度を調整することにより、前記吐出量を制御してもよい。このような形態の三次元造形装置によれば、簡易な構成によって造形材料の吐出量を調整できる。
【0080】
(4)上記形態の三次元造形装置において、前記流路において前記吐出制御機構と前記吐出口との間に接続され、前記流路中の前記造形材料を吸引して一時的に貯留する吸引部を備え、前記制御部は、前記吐出制御機構を制御して前記ノズルから前記造形材料の吐出を停止させる場合、前記吸引部に前記造形材料の吸引を行わせてもよい。このような形態の三次元造形物によれば、ノズルから造形材料の吐出を停止させる際に、造形材料がノズルから尾を引くことを抑制できる。
【0081】
(5)上記形態の三次元造形装置において、前記制御部は、前記ノズルから前記造形材料の吐出を開始させる場合、前記吸引部から前記吸引部に貯留された前記造形材料の一部を前記流路に送出して前記ノズルから吐出させた後に、前記ノズルの移動を開始させ、前記吐出制御機構を制御して前記可塑化部から前記ノズルに前記造形材料の供給を開始させるととともに前記吸引部から前記吸引部に貯留された残りの前記造形材料を前記流路に送出させてもよい。このような形態の三次元造形物によれば、吐出制御機構の応答性を補うように、吸引部を用いて造形材料を吐出させることができるので、三次元造形物の造形速度を向上させることができる。
【0082】
(6)上記形態の三次元造形装置において、前記制御部は、前記ノズルの前記テーブルに対する相対的な前記位置が、前記造形材料を吐出する経路の末端付近であると判断した場合に、前記ノズルから前記造形材料の吐出を停止させると判断してもよい。このような形態の三次元造形物によれば、吐出制御機構の応答性が低い場合であっても、タイミングよく造形材料の吐出を停止させることができる。
【0083】
(7)上記形態の三次元造形装置において、前記可塑化部は、溝部が形成された溝形成面を有するフラットスクリューと、前記フラットスクリューの前記溝形成面に対向する対向面を有し、前記対向面に連通孔が形成され、ヒーターを有するバレルと、を備え、前記可塑化部は、前記フラットスクリューの回転と前記ヒーターによる加熱とにより前記材料の少なくとも一部を溶融させて前記造形材料を生成し、前記連通孔から前記造形材料を流出させてもよい。このような形態であれば、三次元造形装置を小型化することができる。
【0084】
(8)本開示の第2の形態によれば、三次元造形物の製造方法が提供される。この製造方法は、可塑化部によって材料を可塑化して造形材料を生成する工程と、ノズルとテーブルとの相対的な位置を変更しつつ前記ノズルから前記テーブルに向けて前記造形材料を吐出する工程と、を備え、前記可塑化部および前記ノズルをつなぐ流路に設けられ、前記ノズルからの前記造形材料の吐出量を制御する吐出制御機構を制御して、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が第1の速さの場合には、前記造形材料の吐出量を第1の吐出量にし、前記ノズルと前記テーブルとの相対的な移動速度が前記第1の速さよりも遅い第2の速さの場合には、前記造形材料の吐出量を前記第1の吐出量よりも少ない第2の吐出量とする。
このような形態の三次元造形物の製造方法によれば、ノズルとテーブルとの相対的な移動速度が速い場合には造形材料の吐出量が多くなり、遅い場合には造形材料の吐出量が少なくなるので、三次元造形物の造形精度を向上させることができる。
【0085】
本開示は、上述した三次元造形装置や三次元造形物の製造方法に限らず、種々の形態で実現可能である。例えば、三次元造形装置の制御方法や、三次元造形方法、三次元造形物を造形するためのコンピュータープログラム、コンピュータープログラムを記録した一時的でない有形な記録媒体等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0086】
20…材料供給部、22…連通路、30…可塑化部、31…スクリューケース、32…駆動モーター、40…フラットスクリュー、42…溝部、43…凸条部、44…材料流入口、46…中央部、47…上面、48…下面,溝形成面、50…スクリュー対面部、52…上面,スクリュー対向面 、54…案内溝、56…連通孔、58…ヒーター、61…ノズル、62…吐出口、65…流路、70…吐出制御機構、72…バタフライバルブ、73…駆動軸、73v…弁部、73x…中心軸、74…第1駆動部、75…吸引部、76…第2駆動部、77…副流路、78…弁体、100…三次元造形装置、101…制御部、110…造形部、210…テーブル、211…上面、230…移動機構、Dn…孔径、G…ギャップ、ML…造形層、MLt…予定部位、MM…造形材料、MR…材料、OB…三次元造形物、RX…中心軸