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特許7159854熱電変換材料、熱電変換素子、及び、熱電変換モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子、及び、熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20221018BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20221018BHJP
   C04B 35/58 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01L35/14
C01B33/06
C04B35/58 085
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018242588
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020107650
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中田 嘉信
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146095(WO,A1)
【文献】特開2011-249742(JP,A)
【文献】特開2018-186136(JP,A)
【文献】特開2016-207825(JP,A)
【文献】特開2002-368291(JP,A)
【文献】特開2016-178319(JP,A)
【文献】特開2011-049538(JP,A)
【文献】特開2016-219666(JP,A)
【文献】特開2009-094497(JP,A)
【文献】特開2019-012828(JP,A)
【文献】特開2019-012717(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110794(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
C01B 33/06
C04B 35/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、
マグネシウムシリサイド相と、このマグネシウムシリサイド相の表層に形成されたマグネシウム酸化物層と、を有し、
前記マグネシウム酸化物層と前記マグネシウムシリサイド相との間に、前記マグネシウムシリサイド相内部よりもAl濃度の高いアルミニウム濃化層が形成されており、前記アルミニウム濃化層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相を有していることを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
前記アルミニウム濃化層の厚さが、10nm以上100nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記マグネシウムシリサイド相が、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記マグネシウムシリサイド相が、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシウムシリサイドで構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたことを特徴とする熱電変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備えたことを特徴とする熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料、熱電変換素子、及び、熱電変換モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱電変換材料からなる熱電変換素子は、ゼーベック効果、ペルティエ効果といった、熱と電気とを相互に変換可能な電子素子である。ゼーベック効果は、熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効果であり、熱電変換材料の両端に温度差を生じさせると起電力が発生する現象である。こうした起電力は熱電変換材料の特性によって決まる。近年ではこの効果を利用した熱電発電の開発が盛んである。
上述の熱電変換素子は、熱電変換材料の一端側及び他端側にそれぞれ電極が形成された構造とされている。
【0003】
このような熱電変換素子(熱電変換材料)の特性を表す指標として、例えば以下の(1)式で表されるパワーファクター(PF)や、以下の(2)式で表される無次元性能指数(ZT)が用いられている。なお、熱電変換材料においては、一面側と他面側とで温度差を維持する必要があるため、熱伝導性が低いことが好ましい。
PF=Sσ・・・(1)
但し、S:ゼーベック係数(V/K)、σ:電気伝導率(S/m)
ZT=SσT/κ・・・(2)
但し、T=絶対温度(K)、κ=熱伝導率(W/(m×K))
【0004】
上述の熱電変換材料として、例えば特許文献1に示すように、マグネシウムシリサイドに各種ドーパントを添加したものが提案されている。
ここで、上述のマグネシウムシリサイドからなる熱電変換材料は、酸化しやすい傾向にあり、酸化によって熱電特性が低下したり、素子が脆くなってしまったりするおそれがある。
このため、上述の特許文献2においては、熱電変換材料をガラスによって被覆することにより、熱電変換材料の酸化を防止する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-179322号公報
【文献】特開2017-050325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2に示すように、熱電変換材料をガラスによって被覆した場合には、熱電変換材料とガラスの熱膨張係数の差により、ガラスが剥がれてしまい、熱電変換材料の酸化を抑制できなくなるおそれがあった。また、個々の熱電変換素子を構成する熱電変換材料の全面にガラスを被覆する必要があり、製造コストが増加してしまうといった問題があった。
【0007】
ここで、熱電変換材料の酸化を抑制するために、熱電変換材料を組み込んだモジュールを、真空又は不活性ガスを充填した容器内に収容することが考えられる。
しかしながら、この場合には、容器の強度を確保するために、製造コストが増加するおそれがあった。
さらに、容器をステンレス鋼で構成した場合には、ステンレス鋼の熱伝導率は銅やアルミニウムなどと比較すると熱伝導率が低く素子への熱の伝わり方が悪くなり、熱の損失が生じる。また、容器の強度を確保するために肉厚に形成した場合でも、熱伝導性が不十分となる。このため、熱電変換モジュールの熱電変換効率が低下するおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、耐酸化性に優れており、熱電変換効率に優れた熱電変換モジュールを構成することが可能な熱電変換材料、及び、この熱電変換材料を用いた熱電変換素子、及び、熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の熱電変換材料は、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなる熱電変換材料であって、マグネシウムシリサイド相と、このマグネシウムシリサイド相の表層に形成されたマグネシウム酸化物層と、を有し、前記マグネシウム酸化物層と前記マグネシウムシリサイド相との間に、前記マグネシウムシリサイド相内部よりもAl濃度の高いアルミニウム濃化層が形成されており、前記アルミニウム濃化層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相を有していることを特徴としている。
【0010】
この構成の熱電変換材料によれば、前記マグネシウム酸化物層と前記マグネシウムシリサイド相の間に、前記マグネシウムシリサイド相内部よりもAl濃度の高いアルミニウム濃化層が形成されており、前記アルミニウム濃化層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相を有しているので、このアルミニウム濃化層によって、前記マグネシウムシリサイド相内部への酸素の侵入を抑制でき、前記マグネシウムシリサイド相が酸化することを抑制できる。
よって、耐酸化性に優れ、特性の安定した熱電変換材料を提供することが可能となる。また、耐酸化性に優れているので、この熱電変換素子を組み込んだ熱電変換モジュールを容器内に収容する必要がなく、熱伝導性を確保することができ、熱電変換効率に優れた熱電変換モジュールを構成することができる。
なお、金属アルミニウム相は、アルミニウム、又は、アルミニウム合金(AlとMg,Siの一種または二種を含む)で構成されたものとされている。
【0011】
ここで、本発明の熱電変換材料においては、前記アルミニウム濃化層の厚さが、10nm以上100nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、前記アルミニウム濃化層の厚さが10nm以上とされているので、このアルミニウム濃化層によって、前記マグネシウムシリサイド相内部への酸素の侵入を確実に抑制できる。一方、前記アルミニウム濃化層の厚さが100nm以下とされているので、このアルミニウム濃化層が熱電素子全体の熱伝導を高くすることがなくなり、主たる構成元素の熱伝導性を維持することができる。このため、無次元性能指数ZTの低下を防ぐことができる。
【0012】
また、本発明の熱電変換材料においては、前記マグネシウムシリサイド相が、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成されていてもよい。
この場合、前記マグネシウムシリサイド相がドーパントを含まないノンドープのマグネシリサイドで構成されているが、MgSi相まで拡散した微量のAlによりMgSi相が安定して高いZTを持つn型となるので、取り扱いが煩雑となる各種ドーパント元素を用いる必要がなく、製造効率が向上することになる。
【0013】
あるいは、本発明の熱電変換材料においては、前記マグネシウムシリサイド相が、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。
この場合、熱電変換材料を特定の半導体型、すなわち、n型熱電変換材料やp型熱電変換材料とすることができる。
【0014】
本発明の熱電変換素子は、上述の熱電変換材料と、前記熱電変換材料の一方の面および他方の面にそれぞれ接合された電極と、を備えたことを特徴としている。
この構成の熱電変換素子によれば、耐酸化性に優れた上述の熱電変換材料を備えているので、各種特性が安定することになる。よって、熱電変換性能が安定し、信頼性に優れている。
【0015】
本発明の熱電変換モジュールは、上述の熱電変換素子と、前記熱電変換素子の前記電極にそれぞれ接合された端子と、を備えたことを特徴としている。
この構成の熱電変換モジュールによれば、上述の熱電変換素子を備えているので、熱電変換材料の耐酸化性に優れており、各種特性が安定することになる。よって、熱電変換性能が安定し、信頼性に優れている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、耐酸化性に優れており、熱電変換効率に優れた熱電変換モジュールを構成することが可能な熱電変換材料、及び、この熱電変換材料を用いた熱電変換素子、及び、熱電変換モジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、熱電変換モジュールの断面図である。
図2】本発明の実施形態である熱電変換材料の説明図である。
図3】本発明の実施形態である熱電変換材料のXPS分析結果の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態である熱電変換材料の製造方法のフロー図である。
図5】本発明の実施形態である熱電変換材料の製造方法で用いられる焼結装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である熱電変換材料、熱電変換素子、及び、熱電変換モジュールについて、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1に、本発明の実施形態である熱電変換材料11、及び、この熱電変換材料11を用いた熱電変換素子10、及び、熱電変換モジュール1を示す。
この熱電変換素子10は、本実施形態である熱電変換材料11と、この熱電変換材料11の一方の面11aおよび他方の面11bに形成された電極18a,18bと、を備えている。
また、熱電変換モジュール1は、上述の熱電変換素子10の電極18a,18bにそれぞれ接合された端子19a,19bを備えている。
【0020】
電極18a,18bは、ニッケル、銀、コバルト、タングステン、モリブデン等が用いられる。この電極18a,18bは、通電焼結、めっき、電着等によって形成することができる。
端子19a,19bは、導電性に優れた金属材料、例えば、銅やアルミニウムなどの板材から形成されている。本実施形態では、アルミニウムの圧延板を用いている。また、熱電変換材料11(電極18a,18b)と端子19a,19bとは、AgろうやAgメッキ等によって接合することができる。
【0021】
そして、本実施形態である熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイドを主成分とした焼結体とされている。
ここで、熱電変換材料11は、ドーパントを含まないノンドープのマグネシリサイドで構成されていてもよいし、ドーパントとして、Li,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu、Yから選択される1種または2種以上を含むマグネシリサイドで構成されていてもよい。
【0022】
本実施形態では、熱電変換材料11は、マグネシウムシリサイド(MgSi)にドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したものとされている。例えば、本実施形態の熱電変換材料11は、MgSiにアンチモンを0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内で含む組成とされている。なお、本実施形態の熱電変換材料11においては、5価ドナーであるアンチモンを添加することによって、キャリア密度の高いn型熱電変換材料とされている。
【0023】
ここで、熱電変換材料11をn型熱電変換素子とするためのドナーとしては、アンチモン以外にも、ビスマス、リン、ヒ素などを用いることができる。
また、熱電変換材料11をp型熱電変換素子にしてもよく、この場合、アクセプタとしてリチウムや銀などのドーパントを添加することによって得ることができる。
【0024】
そして、本実施形態である熱電変換材料11においては、図2に示すように、上述のマグネシウムシリサイド(SbドープMgSi)からなるマグネシウムシリサイド相12と、このマグネシウムシリサイド相12の表層に形成されたマグネシウム酸化物層13と、マグネシウムシリサイド相12とマグネシウム酸化物層13との間に形成され、マグネシウムシリサイド相12内部よりもAl濃度の高いアルミニウム濃化層14と、を備えている。
【0025】
そして、アルミニウム濃化層14は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相15を有している。
なお、上述のアルミニウム濃化層14においては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相15以外に、アルミニウム酸化物相及びアルミニウム合金酸化物相を有していてもよい。
【0026】
図3に、本実施形態である熱電変換材料11のXPS分析結果を示す。図3の横軸がスパッタ深さであり、表層からの深さに相当する。縦軸は、原子濃度である。
スパッタ開始直後(すなわち、最表層部分)には、マグネシウムと酸素の濃度が高い領域(マグネシウム酸化物層13)が形成されている。
そして、その後スパッタ時間が進行すると、酸素濃度が減少するとともに、シリコン濃度が上昇していく領域が存在する。この領域においては、アルミニウム濃度が上昇しており、上述のアルミニウム濃化層14に相当する。
さらにスパッタ時間が進行すると、シリコン濃度とマグネシウム濃度が高くなるとともに、アルミニウム濃度が減少している。この領域が、マグネシウムシリサイド相12となる。
【0027】
また、本実施形態においては、アルミニウム濃化層14の厚さが、10nm以上100nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、アルミニウム濃化層14の厚さの下限は、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがより好ましい。一方、アルミニウム濃化層14の厚さの上限は、90nm以下であることがさらに好ましく、80nm以下であることがより好ましい。
【0028】
以下に、本実施形態である熱電変換材料11の製造方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0029】
(マグネシウムシリサイド粉準備工程S01)
まず、熱電変換材料11である焼結体の母相となるマグネシウムシリサイド(MgSi)の粉を製造する。
本実施形態では、マグネシウムシリサイド粉準備工程S01は、塊状のマグネシウムシリサイドを得る塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11と、この塊状のマグネシリサイド(MgSi)を粉砕して粉とする粉砕工程S12と、を備えている。
【0030】
塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11においては、シリコン粉と、マグネシウム粉と、必要に応じて添加するドーパントとをそれぞれ計量して混合する。例えば、n型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、アンチモン、ビスマス、など5価の材料を、また、p型の熱電変換材料を形成する場合には、ドーパントとして、リチウムや銀などの材料を混合する。なお、ドーパントを添加せずにノンドープのマグネシウムシリサイドとしてもよい。
本実施形態では、n型の熱電変換材料を得るためにドーパントとしてアンチモンを用いており、その添加量は0.1原子%以上2.0原子%以下の範囲内とした。
【0031】
そして、この混合粉を、例えばアルミナるつぼに導入し、800℃以上1150℃以下の範囲内にまで加熱し、冷却して固化させる。これにより、塊状マグネシウムシリサイドを得る。
なお、加熱時に少量のマグネシウムが昇華することから、原料の計量時にMg:Si=2:1の化学量論組成に対して例えば3原子%から5原子%ほどマグネシウムを多く入れることが好ましい。
【0032】
粉砕工程S12においては、得られた塊状マグネシウムシリサイドを、粉砕機によって粉砕し、マグネシウムシリサイド粉を形成する。
ここで、マグネシウムシリサイド粉の平均粒径を、1μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、ドーパントを添加したマグネシウムシリサイド粉については、ドーパントがマグネシウムシリサイド粉中に均一に存在していることなる。
【0033】
なお、市販のマグネシウムシリサイド粉や、ドーパントが添加されたマグネシウムシリサイド粉を使用する場合には、塊状マグネシウムシリサイド形成工程S11および粉砕工程S12を省略することもできる。
【0034】
(焼結原料粉形成工程S02)
次に、得られたマグネシウムシリサイド粉に、金属アルミニウム粉を混合し、焼結原料粉を得る。
ここで、焼結原料粉中の金属アルミニウム粉の含有量は、0.01mass%以上1.00mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
また、金属アルミニウム粉としては、アルミニウムの純度が99.0mass%以上のものを用いることが好ましい。
さらに、金属アルミニウム粉の平均粒径は、0.5μm以上50μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
(焼結工程S03)
次に、上述のようにして得られた焼結原料粉を、加圧しながら加熱して焼結体を得る。この焼結工程S03においては、焼結原料粉がマグネシウムシリサイド粉と金属アルミニウム粉との混合粉とされていることから、マグネシウムシリサイド粉同士の間に金属アルミニウムが存在することになり、マグネシウムシリサイド相12の表層に金属アルミニウム相15を有するアルミニウム濃化層14が形成されることになる。なお、金属アルミニウム粉のAlとマグネシウムシリサイド粉のMg,Siとが反応することにより、AlとMg,Siの一種または二種を含むアルミニウム合金が形成されることがある。また、マグネシウム酸化物層13は、マグネシウムシリサイド粉の表面が酸化することで形成されるものである。
【0036】
ここで、本実施形態では、焼結工程S03において、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いている。
図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)は、例えば、耐圧筐体101と、この耐圧筐体101の内部を減圧する真空ポンプ102と、耐圧筐体101内に配された中空筒形のカーボンモールド103と、カーボンモールド103内に充填された焼結原料粉Qを加圧しつつ電流を印加する一対の電極部105a,105bと、この一対の電極部105a,105b間に電圧を印加する電源装置106とを備えている。また電極部105a,105bと焼結原料粉Qとの間には、カーボン板107、カーボンシート108がそれぞれ配される。これ以外にも、図示せぬ温度計、変位計などを有している。また、本実施形態においては、カーボンモールド103の外周側にヒーター109が配設されている。ヒーター109は、カーボンモールド103の外周側の全面を覆うように四つの側面に配置されている。ヒーター109としては、カーボンヒーターやニクロム線ヒーター、モリブデンヒーター、カンタル線ヒーター、高周波ヒーター等が利用できる。
【0037】
焼結工程S03においては、まず、図5に示す通電焼結装置100のカーボンモールド103内に、焼結原料粉Qを充填する。カーボンモールド103は、例えば、内部がグラファイトシートやカーボンシートで覆われている。そして、電源装置106を用いて、一対の電極部105a,105b間に直流電流を流して、焼結原料粉Qに電流を流すことによって自己発熱により昇温する。また、一対の電極部105a,105bのうち、可動側の電極部105aを焼結原料粉Qに向けて移動させ、固定側の電極部105bとの間で焼結原料粉Qを所定の圧力で加圧する。また、ヒーター109を加熱させる。
これにより、焼結原料粉Qの自己発熱及びヒーター109からの熱と、加圧により、焼結原料粉Qを焼結させる。
【0038】
本実施形態においては、焼結工程S03における焼結条件は、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃以上1020℃以下の範囲内、この焼結温度での保持時間が5分以下とされている。また、加圧荷重が20MPa以上50MPa以下の範囲内とされている。
また、耐圧筐体101内の雰囲気はアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気や真空雰囲気とするとよい。真空雰囲気とする場合は、圧力5Pa以下とするとよい。
【0039】
ここで、焼結原料粉Qの焼結温度が800℃未満の場合には、焼結原料粉Qの各粉の表面に形成された酸化膜を十分に除去することができず、結晶粒界に原料粉自体の表面酸化膜が残存してしまうとともに、原料紛同士の結合が不十分で焼結体の密度が低くなる。これらのため、得られた熱電変換材料の電気抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結原料粉Qの焼結温度が1020℃を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が短時間で進行してしまい、組成ずれが生じ、電気抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度を800℃以上1020
℃以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度の下限は、800℃以上とすることが好ましく、900℃以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における焼結温度の上限は、1020℃以下とすることが好ましく、1000℃以下であることがさらに好ましい。
【0040】
また、焼結温度での保持時間が5分を超える場合には、マグネシウムシリサイドの分解が進行してしまい、組成ずれが生じ、電気抵抗が上昇するとともにゼーベック係数が低下してしまうおそれがある。さらに、粒子の粗大化が生じ、熱伝導率が高くなるおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における焼結温度での保持時間を5分以下に設定している。
なお、焼結工程S03における焼結温度での保持時間の上限は、3分以下とすることが好ましく、2分以下であることがさらに好ましい。
【0041】
さらに、焼結工程S03における加圧荷重が20MPa未満の場合には、密度が高くならず、熱電変換材料の電気抵抗が高くなってしまうおそれがある。
一方、焼結工程S03における加圧荷重が50MPaを超える場合には、カーボン治具にかかる力が大きく治具が割れてしまうおそれがある。
このため、本実施形態では、焼結工程S03における加圧荷重を20MPa以上50MPa以下の範囲内に設定している。
なお、焼結工程S03における加圧荷重の下限は、23MPa以上とすることが好ましく、25MPa以上であることがさらに好ましい。一方、焼結工程S03における加圧荷重の上限は、50MPa以下とすることが好ましく、45MPa以下であることがさらに好ましい。
【0042】
(熱処理工程S04)
次に、焼結工程S03の後に、熱処理を行い、アルミニウム濃化層14を形成する。
ここで、熱処理工程S04の条件は、雰囲気を大気又は水蒸気雰囲気とし、熱処理温度を500℃以上600℃以下の範囲内、熱処理温度での保持時間を5分以上15以下の範囲内、とすることが好ましい。
【0043】
以上の各工程により、本実施形態である熱電変換材料11が製造される。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態である熱電変換材料11によれば、マグネシウムシリサイドからなるマグネシリサイド相12とマグネシウム酸化物層13との間に、マグネシウムシリサイド相12内部よりもAl濃度の高いアルミニウム濃化層14が形成されており、アルミニウム濃化層14は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属アルミニウム相15を有しているので、このアルミニウム濃化層14によって、マグネシウムシリサイド相12内部への酸素の侵入を抑制でき、マグネシウムシリサイド相12が酸化することを抑制できる。よって、耐酸化性に優れ、特性の安定した熱電変換材料11を提供することが可能となる。
【0045】
さらに、本実施形態において、アルミニウム濃化層14の厚さが10nm以上とされている場合には、このアルミニウム濃化層14によって、マグネシウムシリサイド相12内部への酸素の侵入を確実に抑制できる。
一方、アルミニウム濃化層14の厚さが100nm以下とされている場合には、このアルミニウム濃化層14が素子全体の熱伝導を高めることがなくなり、主成分の持つ熱伝導よりも高くならないように維持することができる。よって、熱電変換モジュール1の熱交換効率を向上させることができる。
【0046】
さらに、本実施形態である熱電変換素子10及び熱電変換モジュール1においては、耐酸化性に優れた上述の熱電変換材料11を備えているので、各種特性が安定することになる。よって、熱電変換性能が安定しており、信頼性に優れている。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示すような構造の熱電変換モジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、本発明の熱電変換材料を用いていれば、電極や端子の構造及び配置等に特に制限はない。
【0048】
また、本実施形態では、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)を用いて焼結を行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、焼結原料を間接的に加熱しながら加圧して焼結する方法、例えばホットプレス、HIPなどを用いてもよい。
【0049】
さらに、本実施形態においては、ドーパントとしてアンチモン(Sb)を添加したマグネシウムシリサイドの粉を焼結原料として用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばLi,Na,K,B,Ga,In,N,P,As,Sb,Bi,Ag,Cu,Yから選択される1種または2種以上をドーパントとして含んだものであってもよいし、Sbに加えてこれらの元素を含んでいてもよい。
また、ドーパントを含まないノンドープのマグネシウムシリサイドの焼結体であってもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明の効果を確認すべく実施した実験結果について説明する。
【0051】
純度99.9mass%のMg(粒径180μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.99mass%のSi(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)、純度99.9mass%のSb(粒径300μm:株式会社高純度化学研究所製)を準備し、これらを秤量して、乳鉢中で良く混ぜ、アルミナるつぼに入れて、850℃で2時間、Ar-3vol%H中で加熱した。Mgの昇華によるMg:Si=2:1の化学量論組成からのずれを考慮して、Mgを5原子%多く混合した。これにより、表1に示す組成の塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を得た。
次に、この塊状マグネシウムシリサイド(MgSi)を乳鉢中で細かく砕いて、これを分級して平均粒径が30μmのマグネシウムシリサイド粉(MgSi粉)を得た。
【0052】
また、金属アルミニウム物粉(純度99.9mass%、粒径10μm)を準備し、マグネシウムシリサイド粉と金属アルミニウム粉とを所定量秤量して混合し、焼結原料粉を得た。
得られた焼結原料粉をカーボンシートで内側を覆ったカーボンモールドに充填した。そして、図5に示す焼結装置(通電焼結装置100)によって表1に示す条件で通電焼結した。
【0053】
そして、得られた熱電変換材料から測定試料を採取し、蛍光X線分析法(リガク社製走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII)によって、熱電変換材料におけるアルミニウムの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
また、得られた熱電変換材料を以下のようにして観察し、アルミニウム濃化層における金属アルミニウム相の有無、マグネシウムシリサイド相とのAl濃度比、アルミニウム濃化層の厚さ、酸化膜厚について評価した。評価結果を表2に示す。
【0055】
光電子分光装置(ULVAC-PHI PHI5000 VersaProbe2)に入れ、Mg2p、Si2p、Al2p、O1sの結合エネルギーを分析した。分析条件は、X線源に50WのMonochromated AlKアルファ線を使用した。測定エリアは200μm×200μmである。その後、Arイオンで1分間エッチングし、再びMg、Si、Al、Oの結合エネルギーを分析し、これを繰り返し実施することで、深さ方向の各元素の濃度変化と結合エネルギーの変化から、原子の結合状態を評価した。Arイオンエッチング条件は、イオンの加速電圧が2.0kV、ラスター幅は2.4mm×2.4mmとした。エッチングによる深さは、以下のように求めた。Siウエハ上に膜厚を規定したシリコン酸化膜を形成し、まず、シリコン酸化膜のスパッタリングレートを求めた。MgOのエッチング速度はシリコン酸化膜の二分の一として、エッチング深さを求めた。
【0056】
アルミニウム濃化層における金属アルミニウム相の有無については、深さ500nmにおけるAl濃度の1.5倍以上のAl濃度が検出された場合を「有」とした。
アルミニウム濃化層の厚さについては、深さ500nmにおけるAl濃度の1.5倍以上のAl濃度である範囲をアルミニウム濃化層とした。
マグネシウムシリサイド相とのAl濃度比は、(アルミニウム濃化層のAl濃度のピーク濃度)/(深さ500nmにおけるAl濃度)とした。
酸化膜厚は、酸素濃度が最表面の濃度の90at%以下となった深さまでとした。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
アルミニウムを含有せず、Sbドープマグネシウムシリサイドで構成された比較例1においては、アルミニウム濃化層が形成されず、酸化膜厚が209nmと厚くなった。
アルミニウムを含有せず、ノンドープのマグネシウムシリサイドで構成された比較例
2においても、アルミニウム濃化層が形成されず、酸化膜厚が215nmと厚くなった。
【0060】
これに対して、アルミニウムを含有し、アルミニウム濃化層が形成されるとともに、アルミニウム濃化層において金属アルミニウム相が確認された本発明例1-6においては、酸化膜厚が55nm以下に抑えられていた。
【0061】
以上のことから、本発明例によれば、マグネシウムシリサイドを主成分とする焼結体からなり、耐酸化性に優れた熱電変換材料を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 熱電変換モジュール
10 熱電変換素子
11 熱電変換材料
12 マグネシウムシリサイド相
13 マグネシウム酸化物層
14 アルミニウム濃化層
15 金属アルミニウム相
18a,18b 電極
19a,19b 端子
図1
図2
図3
図4
図5