(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20221018BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221018BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221018BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20221018BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20221018BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M50/417
H01M10/052
H01G11/64
H01G11/52
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2018541026
(86)(22)【出願日】2017-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2017033349
(87)【国際公開番号】W WO2018056188
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2016187365
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】土川 智也
(72)【発明者】
【氏名】八田 剛志
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-170858(JP,A)
【文献】特開2009-076486(JP,A)
【文献】特開2005-243490(JP,A)
【文献】特開2008-103330(JP,A)
【文献】特開2016-046125(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045989(WO,A1)
【文献】特開2010-232205(JP,A)
【文献】特開2009-135540(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0006009(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00
H01M 4/00
H01M 50/40
H01G 11/64
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、上記正極と負極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を備え、
上記セパレータの主成分がポリエチレンであり、
上記セパレータの密度が0.5g/cm
3以上であり、
上記非水電解質がハロゲン化トルエンを含有し、
上記ハロゲン化トルエンが有するハロゲン原子の数が1であり
、且つ上記ハロゲン原子はメチル基に対してメタ位に結合しており、
上記セパレータが多孔質フィルムであり、
上記セパレータの平均厚さが25μm以下である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記セパレータの平均厚さが20μm以下である請求項1の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記セパレータの密度が0.58g/cm
3以上である請求項1又は請求項2の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
上記非水電解質におけるハロゲン化トルエンの含有量が0.1質量%以上である請求項3の非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
上記ハロゲン化トルエンが
メタフルオロトルエンである請求項1から請求項4のいずれか1項の非水電解質蓄電素子。
【請求項6】
満充電状態の正極電位が4.2V(vs.Li/Li
+)以上である請求項1から請求項
5のいずれか1項の非水電解質蓄電素子。
【請求項7】
請求項1から請求項
6のいずれか1項の非水電解質蓄電素子に対して、4.2V(vs.Li/Li
+)以上の正極電位で充電を行う非水電解質蓄電素子の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極を有する電極体、及び電極間に介在する非水電解質を備え、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
このような蓄電素子に用いられるセパレータとしては、樹脂多孔性フィルム、織布、不織布などが広く使用されている。例えば、厚さが12~16μmであるポリオレフィン系樹脂膜を含むセパレータが用いられた二次電池が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、蓄電素子に求められる特性の一つとして寿命特性が挙げられる。例えば、フロート充電を行って暫く放置した後の電圧低下が小さいことなどが要求される。しかしながら、発明者らの知見によれば、主成分がポリエチレンであるセパレータは、薄膜化した場合には電圧低下が非常に大きくなる可能性があり、言い換えるならば寿命特性が不十分になり得る。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、主成分がポリエチレンであるセパレータを用いながら、同じセパレータが用いられたものと比較して寿命特性が改善された非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、正極、負極、上記正極と負極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を備え、上記セパレータの主成分がポリエチレンであり、上記セパレータの密度が0.5g/cm3以上であり、上記非水電解質がハロゲン化トルエンを含有する非水電解質蓄電素子である。
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の他の一態様は、当該非水電解質蓄電素子に対して、4.2V(vs.Li/Li+)以上の正極電位で充電を行う非水電解質蓄電素子の使用方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、主成分がポリエチレンであるセパレータを用いながら、同じセパレータが用いられたものと比較して寿命特性が改善された非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、正極、負極、上記正極と負極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を備え、上記セパレータの主成分がポリエチレンであり、上記セパレータの密度が0.5g/cm3以上であり、上記非水電解質がハロゲン化トルエンを含有する非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)である。なお、「主成分」とは、質量基準で含有量が最も多い成分をいう。
【0012】
当該蓄電素子は、主成分がポリエチレンであるセパレータを用いながら、同じセパレータが用いられたものと比較して良好な寿命特性を有する。この理由は定かでは無いが、以下の作用によるものと推察される。ポリエチレンを主成分とするセパレータは、正極の作用により酸化される。この酸化では以下の反応が生じる。
-CH2-CH2-→-CH=CH-+H2
このように、上記酸化反応により、ポリエチレン中に不飽和二重結合が生じる。複数箇所で不飽和二重結合が生じることで共役結合が形成されるため、酸化部は導電性が高くなる。また、この酸化は正極の作用によって生じるため、酸化部は、セパレータの正極側表面から負極側に向かって、すなわち厚さ方向に成長する。この酸化部がセパレータの負極側表面まで到達すると、正極と負極との間がこの酸化部により電気的に導通され、正負極間の電圧低下が生じる。これに対し、当該蓄電素子のように、非水電解質にハロゲン化トルエンを含有させた場合、ハロゲン化トルエンの酸化分解物が正極表面を被覆する。これにより、セパレータの酸化が抑制され、寿命特性が改善されるものと推察される。なお、ハロゲン化トルエンは、入出力特性の低下が生じ難い添加剤であることからも好ましい。なお、一般的にセパレータの密度が0.5g/cm3以上と比較的高密度の場合は、導電性の高い酸化部が密に形成されるため、電圧低下が生じやすくなる。しかし、当該蓄電素子においては、このようなセパレータを用いているにも拘わらず、良好な寿命特性を有する。また、セパレータの密度が0.5g/cm3以上と比較的高密度であることで、異常時の発熱の際に溶解する樹脂量が多くなり、抵抗値を高めることができる。従って、当該蓄電素子によれば、異常時のシャットダウンが生じやすく、安全性にも優れる。
【0013】
上記セパレータの平均厚さは20μm以下であってよい。薄いセパレータの場合、酸化部が負極側まで到達しやすくなるため、通常、寿命が短くなる。これに対し、当該蓄電素子によれば、このような平均厚さが20μm以下のセパレータであっても、十分な寿命特性を発揮することができる。また、平均厚さが20μm以下のセパレータを用いることで、蓄電素子の薄型化、軽量化などが可能となる。なお、「平均厚さ」とは、任意に選択した10カ所の厚さの平均値をいう。
【0014】
上記セパレータの密度は0.58g/cm3以上であってよい。上述のように、セパレータの密度が高い場合、電圧低下が生じやすくなる。しかし、当該蓄電素子においては、このようなセパレータを用いた場合も、密度が0.58g/cm3未満のものと同等程度の良好な寿命特性を有する。また、密度が0.58g/cm3以上のセパレータを用いることで、シャットダウン機能がより高まり、安全性を高めることができる。なお、セパレータの「密度」とは、平均厚さと単位面積あたりの質量とから計算される単位体積あたりの質量であり、JIS-P-8118(1998年)に準拠して測定される密度をいう。
【0015】
上記非水電解質におけるハロゲン化トルエンの含有量が0.1質量%以上であることが好ましい。ハロゲン化トルエンの含有量を0.1質量%以上とし、かつ、好ましくは密度
が0.58g/cm3以上のセパレータを用いることにより、寿命特性をより十分に発揮させることができる。
【0016】
上記ハロゲン化トルエンがフッ素化トルエンであることが好ましい。フッ素化トルエンを用いることで、寿命特性がより十分なものとなる。
【0017】
上記フッ素化トルエンは、オルトフルオロトルエン(o-フルオロトルエン)又はメタフルオロトルエン(m-フルオロトルエン)が好ましい。o-フルオロトルエン又はm-フルオロトルエンを用いることで、寿命特性がより十分なものとなる。そしてより好ましくは、メタフルオロトルエン(m-フルオロトルエン)である。
【0018】
当該蓄電素子は、満充電状態の正極電位が4.2V(vs.Li/Li+)以上であることが好ましい。このように、満充電状態の正極電位が高い場合、通常、セパレータが酸化されやすく、寿命が短くなりやすくなる。しかし、当該蓄電素子においては、このように高電位まで充電して用いられる場合も、良好な寿命特性を有する。また、このように満充電状態の正極電位が4.2V(vs.Li/Li+)以上であることにより、充放電の容量を大きくすることができる。
【0019】
本発明の他の一態様は、非水電解質蓄電素子に対して、4.2V(vs.Li/Li+)以上の正極電位で充電を行う非水電解質蓄電素子の使用方法である。充電時の正極電位が4.2V(vs.Li/Li+)以上であることにより、充放電の容量を大きくすることができる。また、このような高電位で充電して用いる場合も、充電後の電圧低下が抑制され、蓄電素子を長期間使用することができる。
【0020】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極、負極、上記正極と負極と間に介在するセパレータ、及び非水電解質を備える。以下、蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。上記正極、セパレータ及び負極は、通常、積層又は巻回により重畳された電極体を形成する。上記電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。当該二次電池において、上記非水電解質は、正極と負極との間に介在している。また、上記非水電解質は、ケースに充填され、セパレータに含浸している。上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知のSUSケース(ステンレスケース)、アルミニウムケース、樹脂ケース等を用いることができる。
【0021】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合材層を有する。上記正極は、上記積層構造のシート(フィルム)である。
【0022】
上記正極基材は、導電性を有する。基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0023】
中間層は、正極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで正極基材と正極合材層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダー及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有す
るとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。
【0024】
正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極合材層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0025】
上記正極活物質としては、例えばLixMOy(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO2型結晶構造を有するLixCoO2,LixNiO2,LixMnO3,LixNiαCo(1-α)O2,LixNiαMnβCo(1-α-β)O2等、スピネル型結晶構造を有するLixMn2O4,LixNiαMn(2-α)O4等)、LiwMex(XOy)z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極合材層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記導電剤としては、電池性能に悪影響を与えない導電性材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。
【0027】
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0028】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0029】
上記フィラーとしては、電池性能に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が挙げられる。
【0030】
(負極)
上記負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極合材層を有する。上記負極は、上記積層構造のシート(フィルム)である。上記中間層は正極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0031】
上記負極基材は、正極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0032】
負極合材層は、負極活物質を含むいわゆる負極合材から形成される。また、負極合材層を形成する負極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極合材層と同様のものを用いることができる。
【0033】
負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非晶質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0034】
さらに、負極合材(負極合材層)は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0035】
(セパレータ)
上記セパレータは、ポリエチレンを主成分とし、かつ0.5g/cm3以上の密度を有する。上記セパレータは、ポリエチレン製の多孔質樹脂フィルム、ポリエチレン製繊維の不織布、織布等であり、好ましくは、ポリエチレン製の多孔質フィルムである。
【0036】
上記ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のいずれであってもよい。上記ポリエチレンは、エチレンの単独重合体に限定されず、主たるモノマーとしてのエチレンと他のモノマー(例えば5モル%以下の他のモノマー)との共重合体であってもよい。
【0037】
上記セパレータにおけるポリエチレンの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。この含有量の上限は100質量%であってよい。
【0038】
上記セパレータにおいて、ポリエチレン以外に含有されていてもよい他の成分としては、ポリエチレン以外の樹脂、フィラー等を挙げることができる。
【0039】
上記セパレータの平均厚さの上限としては、例えば30μmであってよいが、25μmが好ましく、20μmがより好ましい。セパレータの平均厚さを上記上限以下とすることによって、蓄電素子の薄型化、軽量化などが可能となる。また、当該蓄電素子によれば、通常セパレータを薄膜化することにより顕著に生じやすくなる短寿命化を抑制することができる。一方、この平均厚さの下限としては、正負極間の短絡防止などの観点から、例えば10μmとすることができ、15μmであってもよい。
【0040】
上記セパレータの密度の下限としては、0.5g/cm3であり、0.53g/cm3が好ましく、0.55g/cm3がより好ましく、0.58g/cm3がさらに好ましい。セパレータの密度を上記下限以上とすることで、シャットダウン機能が高まり、安全性を高めることなどができる。また、当該蓄電素子によれば、セパレータを高密度化することにより生じやすくなる蓄電素子の短寿命化を抑制することができる。一方、この密度の上限としては、イオン(非水電解質)の十分な伝導性を確保することなどの点から、0.7g/cm3が好ましく、0.65g/cm3であってもよく、0.6g/cm3であってもよい。
【0041】
上記セパレータは、公知の方法で製造することができ、密度や厚さの調整も公知の方法により行うことができる。また、上記セパレータは、販売されているものを用いることが
できる。
【0042】
(非水電解質)
上記非水電解質は、非水溶媒に電解質塩が溶解したものである。上記非水電解質は、ハロゲン化トルエンを含有する。
【0043】
(ハロゲン化トルエン)
上記ハロゲン化トルエンとは、トルエンの有する水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された化合物をいう。ハロゲン化トルエンは、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができるが、フッ素原子が好ましい。上記ハロゲン原子がフッ素原子である場合、すなわち上記ハロゲン化トルエンとしてフッ素化トルエンを用いる場合、酸化分解物の正極への被覆がより効果的に生じることなどにより、寿命特性をより高めることができる。
【0045】
上記ハロゲン化トルエンにおけるハロゲン原子の数としては特に限定されず、例えば1以上4以下であり、1及び2が好ましく、1がより好ましい。1つのハロゲン化トルエンが複数のハロゲン原子を有する場合、複数種のハロゲン原子は同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
上記ハロゲン化トルエンとしては、ベンゼン環(芳香環)上の水素原子が、ハロゲン原子に置換されたハロゲン化トルエンが好ましい。このようなハロゲン化トルエンの場合、ハロゲン原子の結合位置としては、メチル基に対して、オルト位及びメタ位が好ましく、メタ位であることがより好ましい。
【0047】
上記ハロゲン化トルエンの具体例としては、フルオロトルエン(o-フルオロトルエン、m-フルオロトルエン、p-フルオロトルエン、α-フルオロトルエン)、クロロトルエン、ブロモトルエン、ジフルオロトルエン、ジクロロトルエン、ジブロモトルエン、トリフルオロトルエン、トリクロロトルエン、トリブロモトルエン、クロロフルオロトルエン、ブロモフルオロトルエン等を挙げることができる。
【0048】
これらの中でもフルオロトルエンが好ましく、o-フルオロトルエン(2-フルオロトルエン)、m-フルオロトルエン(3-フルオロトルエン)及びp-フルオロトルエン(4-フルオロトルエン)がより好ましく、o-フルオロトルエン及びm-フルオロトルエンがさらに好ましく、m-フルオロトルエンが特に好ましい。このようなフッ素化トルエンは、フロート試験における電圧低下が小さい。すなわち、このようなフッ素化トルエンを用いることで、当該蓄電素子の寿命特性をより高めることができる。
【0049】
上記非水電解質におけるハロゲン化トルエンの含有量は特に限定されず、下限としては、例えば0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、1質量%がさらに好ましく、3質量%がさらに好ましい。ハロゲン化トルエンの含有量を上記下限以上とすることにより、寿命特性を十分に発揮させることができる。特に、セパレータの密度が0.58g/cm3以上であるとき、ハロゲン化トルエンの含有量を上記下限以上とすることにより、寿命特性をより十分に発揮させることができる。なお、非水電解質におけるハロゲン化トルエンの含有量とは、非水電解質全体の質量に対するハロゲン化トルエンの質量をいう。
【0050】
一方、このハロゲン化トルエンの含有量の上限としては、例えば10質量%とすることができ、8質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。ハロゲン化トルエンの含有量を
上記上限以下とすることで、一定のイオン伝導度を確保できる。
【0051】
(非水溶媒)
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0052】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0053】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0054】
(電解質塩)
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0055】
上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0056】
上記非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0057】
上記非水電解質は、本発明の効果を阻害しない限り、上記ハロゲン化トルエン、非水溶媒、及び電解質塩以外の他の成分を含有していてもよい。上記他の成分としては、一般的な蓄電素子用非水電解質に含有される、例えば2-フルオロ-6-ニトロトルエン等の各種添加剤を挙げることもできる。但し、これらの他の成分の含有量としては、5質量%以下が好ましいこともあり、1質量%以下がより好ましいこともある。
【0058】
上記非水電解質は、上記非水溶媒に上記電解質塩及びハロゲン化トルエンを添加し、溶解させることにより得ることができる。
【0059】
(正極電位)
当該蓄電素子は、満充電状態の正極電位が4.2V(vs.Li/Li+)以上である(貴である)ことが好ましく、4.3V(vs.Li/Li+)以上であることがより好ましい。当該蓄電素子においては、このような高電位まで充電して使用する場合も、良好な寿命特性を有する。また、このように満充電状態の正極電位が高いことにより、充放電の容量を大きくすることができる。なお、この満充電状態の正極電位の上限としては、例えば5V(vs.Li/Li+)である。
【0060】
同様の観点から、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が、4.2V(vs.Li/Li+)以上となる(高くなる)ことが好ましく、4.3V(vs.Li/Li+)又はこれより貴となる(高くなる)ことがより好ましい。この通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限としては、例えば5V(vs.Li/Li+)である。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合であり、当該蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0061】
(蓄電素子の製造方法)
当該蓄電素子は、公知の蓄電素子の製造方法に準じた方法により得ることができる。例えば、当該蓄電素子の製造方法は、正極、負極及びセパレータを有する電極体をケースに収容する工程、及び上記ケースに上記非水電解質を注入する工程を備える。上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより蓄電素子を得ることができる。当該製造方法によって得られる蓄電素子(二次電池)を構成する各要素についての詳細は上述したとおりである。
【0062】
<非水電解質蓄電素子の使用方法>
当該蓄電素子の使用方法は特に限定されず、公知の蓄電素子と同様の方法により使用することができる。なお、当該蓄電素子に対して、4.2V(vs.Li/Li+)以上の正極電位で充電を行うことが好ましく、4.3V(vs.Li/Li+)以上の正極電位で充電を行うことがより好ましい。充電時の正極電位をこのように高くすることにより、充放電の容量を大きくすることができる。また、このような高電位で充電して使用する場合も、電圧低下が抑制され、蓄電素子を長期間使用することができる。一方、この満充電状態の正極電位の上限としては、例えば5V(vs.Li/Li+)である。
【0063】
同様に、充電終止電圧における正極電位が、4.2V(vs.Li/Li+)以上となるように当該蓄電素子を充電することが好ましく、4.3V(vs.Li/Li+)又はこれより貴となるように充電することがより好ましい。この充電終止電圧における正極電位の上限としては、例えば5V(vs.Li/Li+)である。
【0064】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、上記実施の形態においては、蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の蓄電素子であってもよい。その他の蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0065】
図1に、本発明に係る蓄電素子の一実施形態である矩形状の二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0066】
本発明に係る蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
(1)正極板の製造
正極活物質として65:35の質量比でLiMn2O4とLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2とを混合した混合物、導電助剤としてアセチレンブラック、及び結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質、導電助剤、及び結着剤の比率をそれぞれ90質量%、5質量%及び5質量%とした混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて粘度を調整し、ペースト状の正極合材を作製した。この正極合材を厚み15μmのアルミニウム箔(正極基材)の両面に塗布して乾燥することにより、正極基材上に正極合材層が形成された正極板を作製した。正極板には正極合材層を形成しないで、正極基材が露出した部分を設け、正極基材が露出した部分と正極リードとを接合した。
【0069】
(2)負極板の製造
負極活物質としてグラファイト(黒鉛)、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)用いた。負極活物質、結着剤及び増粘剤をそれぞれ95質量%、3質量%及び2質量%とした混合物に水を適量加えて粘度を調整し、ペースト状の負極合材を作製した。この負極合材を厚み10μmの銅箔(負極基材)の両面に塗布して乾燥させることにより負極板を作製した。負極板には負極合材を形成しないで、負極基材が露出した部分を設け、負極基材が露出した部分と負極板リードとを接合した。
【0070】
(3)未注液電池の作製
上記のように作製した正極板と負極板との間に、基材層のみからなるセパレータを介在させて、正極板と負極板とを巻回することにより電極体(発電要素)を作製した。基材層のみからなるセパレータとしては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン(PE)からなり、平均厚さ20μm、密度0.58g/cm3の微多孔膜を採用した。電極体を電池ケースの開口部から電池ケースの内部に収納した。次いで、正極板リードを電池蓋に接合し、負極板リードを負極端子に接合した。その後、電池蓋を電池ケースの開口部に勘合させてレーザー溶接で電池ケースと電池蓋とを接合することにより、非水電解質が注液されていない未注液状態の電池を作製した。
【0071】
(4)非水電解質の調製及び注液
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:70の体積比で混合して非水溶媒を調整した。この非水溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させ、オルトフルオロトルエン(OFT)を非水電解質の質量に対して5質量%添加することにより、非水電解質を調整した。この非水電解質を電池ケースの側面に設けた注液口から電池ケース内部に注液し、注液口を栓で封口することにより、公称容量が600mAhである実施例1の非水電解質蓄電素子(以下、単に「電池」ということがある)を作製した。
【0072】
[実施例2~12、比較例1~4]
非水溶媒に添加した添加剤の種類及び量、並びに用いたセパレータの平均厚さ及び密度を表1及び表2に示すとおりにしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~12、及び比較例1~4の各電池を作製した。なお、表中、「OFT」はo-フルオロトルエンを、「MFT」はm-フルオロトルエンを、「PFT」はp-フルオロトルエンをそれぞれ示す。また、「-」は、添加剤を添加していないこと、又は評価を行っていないことを示す。
【0073】
[評価]
評価試験(フロート試験後における電圧低下の確認)
以下の方法により、表1に示す実施例1~9及び比較例1~4の各電池のフロート試験後の電圧低下の確認試験を行った。各電池を、25℃において600mA定電流で所定の電圧(4.1V又は4.2V)まで充電し、さらに所定の定電圧で合計3時間充電した。その後、所定の温度(60℃又は70℃)の恒温槽に入れ、所定の定電圧で6日間充電及び1日休止を繰り返した。1日休止後の電圧の値から、電圧低下量(mV)を確認した。結果を表1に示す。なお、今回の評価に用いた電池においては、電圧が4.1Vの場合、正極電位は4.2V(vs.Li/Li+)であり、4.2Vの場合、正極電位は4.3V(vs.Li/Li+)であった。
【0074】
以下の方法により、表2に示す実施例10~12及び比較例1の各電池のフロート試験後の電圧低下の確認試験を行った。各電池を、25℃において600mA定電流で所定の電圧(4.2V)まで充電し、さらに所定の定電圧で合計3時間充電した。その後、所定の温度(70℃)の恒温槽に入れ、所定の定電圧で2日間充電及び1日休止を繰り返した。1日休止後の電圧の値から、電圧低下量(mV)を確認した。結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
表1に示されるように、実施例1~9の電池は、比較例1~4のうちの同じ平均厚さ及び密度を有するものと比べて、フロート試験後の電圧低下が小さいことがわかる。特に、密度が0.58g/cm3と高密度な比較例2は、電圧低下が大きい。これに対し、実施例1等のようにOFTを添加することで、他のセパレータと変わらない程度に電圧低下が抑制できることがわかる。
【0078】
また、表2に示されるように、ハロゲン原子の置換位置に拘わらず、ハロゲン化トルエンを添加することで電圧低下抑制効果があることがわかる。中でも、o-フルオロトルエン(実施例10)及びm-フルオロトルエン(実施例11)は、電圧低下抑制効果が大きく、m-フルオロトルエン(実施例11)は、特に電圧低下抑制効果が大きいことがわかる。また、p-フルオロトルエンを用いた実施例12は、初期から電圧低下がやや大きいものの、それ以降の電圧低下は抑制され、寿命特性が改善されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電界二次電池をはじめとした非水電解質蓄電素子に適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 二次電池
2 電極体
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置