(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】低糖類のニンジン搾汁液およびニンジン含有飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/02 20060101AFI20221018BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20221018BHJP
C08B 37/18 20060101ALN20221018BHJP
C07H 3/06 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
A23L2/02 E
A23L2/00 B
C08B37/18
C07H3/06
(21)【出願番号】P 2018542635
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017034922
(87)【国際公開番号】W WO2018062258
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2016193057
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】市川 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 かおり
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-209268(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092768(WO,A1)
【文献】NAZZARO F. et al.,Synbiotic potential of carrot juice supplemented with Lactobacillus spp. and inulin or fructooligosaccharides, J Sci Food Agric, 2008, vol.88, no.13, p.2271-2276
【文献】Morning Multivitamin & Multifruit Carrot Drink with Inulin,MINTEL GNPD ID# 2494163, 2004,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】High Fiber Fruit & Vegetable Juice Drink,MINTEL GNPD ID# 3529365, 2015,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】100% Orange Fruit Juice Smoothie & Boosts,MINTEL GNPD ID# 2951417, 2015,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】Vegetable Cocktail,MINTEL GNPD ID# 762210, 2007,[retrieved on 2017.12.01]
【文献】Fibre Pineapple Mango Juice,MINTEL GNPD ID# 4147815, July 2016,[retrieved on 2017.12.01]
【文献】Orange and Acerola Fruit Juice,MINTEL GNPD ID# 2484215, 2014,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】Multi Fruit Juice,MINTEL GNPD ID# 3631749, 2015,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】Gefilus Mehu Orange Juice,MINTEL GNPD ID# 153705, 2002,[retrieved on 2017.12.07]
【文献】Red Fruits Smoothie,MINTEL GNPD ID# 3617345, 2015,[retrieved on 2017.12.07]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/CAplus/MEDLINE/AGRICOLA/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖類濃度が2.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる、ニンジン搾汁液またはその濃縮液であって、フラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数1】
(上記式中、Fはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たす、ニンジン搾汁液またはその濃縮液。
【請求項2】
糖類濃度が2.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる、ニンジン含有野菜飲料であって、フラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数2】
(上記式中、Fはニンジン含有野菜飲料中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iはニンジン含有野菜飲料中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たす、ニンジン含有野菜飲料。
【請求項3】
糖類濃度が4.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる、ニンジン含有野菜果実飲料であって、フラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数3】
(上記式中、Fはニンジン含有野菜果実飲料中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iはニンジン含有野菜果実飲料中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たす、ニンジン含有野菜果実飲料。
【請求項4】
請求項1に記載のニンジン搾汁液またはその濃縮液を含有してなる、請求項2または3に記載のニンジン含有飲料。
【請求項5】
飲料中のニンジンの使用比率が10%以上である、請求項2~4のいずれか一項に記載のニンジン含有飲料。
【請求項6】
フラクトオリゴ糖を含有し、フラクトオリゴ糖含有量が0.3g/100mL以上である、請求項1に記載のニンジン搾汁液もしくはその濃縮液または請求項2~5のいずれか一項に記載のニンジン含有飲料。
【請求項7】
イヌリンを含有し、イヌリン含有量が0.9g/100mL以上である、請求項1に記載のニンジン搾汁液もしくはその濃縮液または請求項2~5のいずれか一項に記載のニンジン含有飲料。
【請求項8】
フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を配合する工程を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液もしくはその濃縮液またはニンジン含有野菜飲料あるいは糖類濃度が4.5g/100mL以下のニンジン含有野菜果実飲料の風味改善方法
であって、前記ニンジン搾汁液もしくはその濃縮液、前記ニンジン含有野菜飲料または前記ニンジン含有野菜果実飲料中のフラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数4】
(上記式中、Fはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たす、風味改善方法。
【請求項9】
フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液もしくはその濃縮液またはニンジン含有野菜飲料あるいは糖類濃度が4.5g/100mL以下のニンジン含有野菜果実飲料の風味改善剤
であって、前記ニンジン搾汁液もしくはその濃縮液、前記ニンジン含有野菜飲料または前記ニンジン含有野菜果実飲料中のフラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数5】
(上記式中、Fはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iはニンジン搾汁液またはその濃縮液中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たすように添加して用いられる、風味改善剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2016-193057(出願日:2016年9月30日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、低糖類のニンジン搾汁液およびニンジン含有飲料に関し、より詳細には風味改善された低糖類のニンジン搾汁液およびニンジン含有飲料に関する。
【背景技術】
【0003】
近年の食生活やライフスタイルの変化に伴う野菜の摂取不足により栄養素の偏りが生じ、健康への影響がかねてより懸念されている。厚生労働省は平成24年に「健康日本21(第二次)」を策定し、生活習慣病の予防や健康維持のために野菜摂取量を1日当たり平均350gに増加させることを目標として掲げている。このように野菜摂取量を増加させる必要性は認知されているものの、所定量の野菜を毎日摂取し続けることは容易ではない。野菜の継続摂取の重要性が増す中で野菜飲料は手軽に野菜を摂取できることから、野菜不足解消や健康維持を目的として広く親しまれている。
【0004】
一方で、近年の健康志向の高まりにより糖質摂取量の低減が望まれ、糖質摂取量の削減は今後の社会課題ともいわれている。野菜飲料には野菜由来の糖質が含まれていることから野菜飲料も例外ではなく、野菜飲料においても出来る限り糖質含量を低減することが望ましいといえる。
【0005】
例えば、糖質含量の少ない野菜を原料として使用することによって低糖質野菜飲料を提供することができるが、このような野菜飲料は味わいが淡白になるという問題があった。このような問題を解決するために、低糖質野菜飲料の味わいを濃厚にする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、上記の低糖質野菜飲料は糖質含量の少ない野菜を原料とするため使用する野菜に制限があった。例えば、スクロースの含量が多いニンジンは特許文献1では使用原料としては挙げられていない。
【0008】
本発明者らは今般、ニンジン搾汁液、ニンジン含有野菜ミックスジュースおよびニンジン含有野菜果実ミックスジュースにおいて糖類含量を低減させるとニンジンらしい香味が失われること、また、糖類含量を低減させたこれら飲料にフラクトオリゴ糖を含有させることによってニンジンらしい香味を回復できることを見出した。本発明者らはまた、香味回復効果はイヌリンでも達成されることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、ニンジンらしい香味が実現された低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料と、これらの製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]糖類濃度が2.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる 、ニンジン搾汁液およびその濃縮液。
[2]糖類濃度が2.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる 、ニンジン含有野菜飲料。
[3]糖類濃度が4.5g/100mL以下であり、かつ、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有してなる、ニンジン含有野菜果実飲料。
[4]上記[1]に記載のニンジン搾汁液またはその濃縮液を含有してなる、上記[2]または[3]に記載のニンジン含有飲料。
[5]飲料中のニンジンの使用比率が10%以上である、上記[2]~[4]のいずれかに記載のニンジン含有飲料。
[6]フラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量が下記式(I):
【数1】
(上記式中、Fは搾汁液および濃縮液並びに飲料中のフラクトオリゴ糖含有量(g/100mL)であり、Iは搾汁液および濃縮液並びに飲料中のイヌリン含有量(g/100mL)である)
を満たす、上記[1]~[5]のいずれかに記載のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有飲料。
[7]フラクトオリゴ糖を含有し、フラクトオリゴ糖含有量が0.3g/100mL以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有飲料。
[8]イヌリンを含有し、イヌリン含有量が0.9g/100mL以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有飲料。
[9]ニンジン搾汁液またはその濃縮液を糖転移酵素と接触させる工程を含んでなる、上記[1]および[6]~[8]のいずれかに記載のニンジン搾汁液およびその濃縮液の製造方法。
[10]上記[9]で製造されたニンジン搾汁液またはその濃縮液を野菜の搾汁液および果実の搾汁液のいずれかまたは両方と混合する工程を含んでなる、上記[2]~[8]のいずれかに記載のニンジン含有飲料の製造方法。
[10-1]上記[9]に記載の製造方法によりニンジン搾汁液またはその濃縮液を製造する工程と、前記工程により製造されたニンジン搾汁液またはその濃縮液を野菜の搾汁液および果実の搾汁液のいずれかまたは両方と混合する工程とを含んでなる、上記[2]~[8]のいずれかに記載のニンジン含有飲料の製造方法。
[11]フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を配合する、あるいは生成させる工程を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善方法。
[12]フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善剤。
[13]糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善剤としての、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方の使用。
【0011】
本発明によれば、低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料においてフラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有させることによって、ニンジンらしい香味を回復させることができる。フラクトオリゴ糖およびイヌリンは食品としての使用実績が長く、安全性が確認されており、また、ニンジンはβ-カロテンなどの栄養成分に優れていることから、本発明によれば安心・安全で、かつ、栄養価の高いニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料を低糖類でありながら香味を損なわずに提供できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0012】
<<本発明の搾汁液および濃縮液並びに飲料>>
本発明によれば低糖類、すなわち、糖類含量が低減されたニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料が提供される。本発明において「糖類」とは単糖および二糖の糖質を意味し、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトースが挙げられる。
【0013】
本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びに本発明のニンジン含有野菜飲料の糖類濃度は2.5g/100mL以下とすることができ、好ましくは2.0g/100mL以下である。また、本発明のニンジン含有野菜果実飲料の糖類濃度は4.5g/100mL以下とすることができ、好ましくは4.0g/100mL以下である。糖類濃度は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0014】
本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びに本発明のニンジン含有飲料は、糖類濃度が低減されているため低カロリー化された搾汁液および濃縮液並びに飲料である。本発明において「低カロリー化」とは、原料となるニンジン搾汁液(並びに場合によっては他の野菜汁および/または果汁)と比べてカロリーが低減されていることを意味する。低カロリー化飲料としては、例えば、30kcal/100mL以下、25kcal/100mL以下または20kcal/100mL以下の飲料が挙げられる。飲料のカロリーは、アトウォーター係数に基づいて算出することができる。なお、低カロリー化は、後述するように、原料ニンジン搾汁液等の加工処理、すなわち、酵素処理や加水処理により達成することができる。
【0015】
本発明の低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料はフラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明において「フラクトオリゴ糖」とは、スクロースにフルクトースが1~3分子結合したオリゴ糖であり、1-ケストース、ニストース、フラクトフラノシルニストースが含まれる。
【0017】
また、本発明において「イヌリン」とは、スクロースを受容体として1以上のフルクトースがβ-2,1結合により逐次、転移反応で結合してなる重合体のうち、スクロースにフルクトースが4分子以上結合した重合体を意味する。本発明においては、好ましくはスクロースにフルクトースが4~100分子結合してなる重合体をイヌリンとして用いることができる。
【0018】
本発明の低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料中におけるフラクトオリゴ糖およびイヌリンの含有量は前記式(I)を満たすように調整することができる。式(I)において下限値の0.3は好ましくは0.45とすることができ、より好ましくは0.6とすることができる。フラクトオリゴ糖およびイヌリンなどの糖質濃度は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)により測定することができる。
【0019】
前記式(I)は好ましくは下記式(II)とすることができる。
【数2】
(上記式中、FおよびIは式(I)で定義した内容と同義である)
【0020】
ここで、上記式(II)において下限値の0.3は、好ましくは0.45、より好ましくは0.6とすることができ、上限値の4は、好ましくは3とすることができる。
【0021】
本発明の低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料がフラクトオリゴ糖およびイヌリンのうちフラクトオリゴ糖のみを含有する場合には、フラクトオリゴ糖の含有量は0.3g/100mL以上(例えば、0.3~4g/100mL)とすることができ、好ましくは、0.45g/100mL以上(例えば、0.45~4g/100mL)、より好ましくは0.6g/100mL以上(例えば、0.6~4g/100mL)である。
【0022】
本発明の低糖類のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料がフラクトオリゴ糖およびイヌリンのうちイヌリンのみを含有する場合には、イヌリンの含有量は0.9g/100mL以上(例えば、0.9~12g/100mL)とすることができ、好ましくは1.35g/100mL以上(例えば、1.35~12g/100mL)、より好ましくは1.8g/100mL以上(例えば、1.8~12g/100mL)である。
【0023】
本発明の搾汁液および濃縮液並びに飲料に含まれるとされるフラクトオリゴ糖およびイヌリンは、ニンジン搾汁液(並びに場合によっては他の野菜汁および/または果汁)において、酵素処理によりスクロースをフラクトオリゴ糖またはイヌリンへインサイチュ(in situ)変換した生成物であってもよい。すなわち、本発明の搾汁液および濃縮液並びに飲料中におけるフラクトオリゴ糖およびイヌリンの生成は、後述するように、原料ニンジン搾汁液(並びに場合によっては他の野菜汁および/または果汁)の加工処理、すなわち、酵素処理により達成することができる。従って、本発明の搾汁液および濃縮液並びに飲料は、フラクトオリゴ糖およびイヌリンが原料として添加されていないものとすることができる。
【0024】
本発明において「100%ニンジン搾汁液」は、加水や濃縮せずに搾汁したニンジン搾汁液(ストレートニンジン搾汁液)および該搾汁液の濃縮液を加水等により希釈し100%ニンジン搾汁液の糖度に戻したものを意味する。100%ニンジン搾汁液の糖度(Bx値)は、例えば、5~10であり、好ましくは5~7であり、より好ましくは約6である。
【0025】
本発明のニンジン搾汁液は、100%ニンジン搾汁液だけでなく、ニンジン搾汁液の希釈液(100%ニンジン搾汁液の糖度を下回るように調整されたもの)を含む意味で用いられる。調整のための希釈は加水等により行うことができる。また、ニンジン搾汁液の希釈液の糖度(Bx値)は、例えば、1~5である。
【0026】
本発明のニンジン搾汁液の濃縮液は、本発明の低糖類のニンジン搾汁液から水分を除去するなどして、100%ニンジン搾汁液の糖度を上回るように調整された液体を含む意味で用いられる。すなわち、本発明の濃縮液は除去された水に相当する水分を添加することにより、本発明の低糖類のニンジン搾汁液とすることができる。本発明の濃縮液の糖度(Bx値)は、例えば、8~60であり、好ましくは24~56である。
【0027】
本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の糖度(Bx値)は、例えば、4~11であり、好ましくは5~8である。本発明のニンジン含有野菜果実飲料の糖度(Bx値)は、例えば、6~12であり、好ましくは7~10である。
【0028】
本発明において「糖度」(Bx値)(本明細書中、単に「Bx」ということがある)とは、溶液中に含まれる可溶性固形分(例えば、糖、タンパク質、ペプチド等)の総濃度を表す指標であり、20℃で測定された当該溶液の屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表を使用して、純ショ糖溶液の質量/質量%に換算した値である。20℃における屈折率の測定は、アタゴ社製糖度計などの市販の糖用屈折計を使用して行うことができる。
【0029】
本発明のニンジン含有野菜飲料は原料としてニンジンを使用する野菜飲料を意味する。本発明のニンジン含有野菜飲料は野菜としてニンジンのみを含有していても、ニンジン以外の1種または2種以上の野菜をさらに含有していてもよい。ニンジン以外の野菜としては、トマト、セロリ、なばな、モロヘイヤ、たまねぎ、パセリ、アスパラガス、赤ピーマン、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、かぼちゃ、レッドキャベツ、ピーマン、クレソン、有色甘藷、チンゲンサイ、なす、しそ、よもぎ、ケール、しょうが、にがうり、ラディッシュ、ほうれんそう、みつば、きゅうり、はくさい、とうもろこし、グリーンピース、じゃがいも、ごぼう、にら、バジル、あしたば、こまつな、チコリー、きょうな、だいこん、のざわな、ビーツ、ねぎ、いんげん、レタス、りょくとうもやし、アルファルファもやし、芽キャベツが挙げられる。なお、本発明のニンジン含有野菜飲料は、ニンジンジュース、ニンジンミックスジュース、ニンジン含有野菜ジュースおよびニンジン含有野菜ミックスジュースを含む意味で用いられるものとする。
【0030】
本発明のニンジン含有野菜果実飲料は原料としてニンジンを使用する野菜果実飲料を意味する。本発明のニンジン含有野菜果実飲料は野菜としてニンジンのみを含有していても、ニンジン以外の1種または2種以上の野菜をさらに含有していてもよい。ニンジン以外の野菜としては前記と同様のものを用いることができる。また、本発明のニンジン含有野菜果実飲料は1種または2種以上の果実を含有しており、そのような果実としては、リンゴ、オレンジ、レモン、パイナップル、グレープフルーツ、ブドウ、みかん、マンゴー、パッションフルーツ、バナナ、イチゴ、ピーチ、梨、洋なし、ココナッツ、アプリコット、グァバ、柿、ライチ、チェリー、クランベリー、ブルーベリー、ライム、うめ、かぼす、ゆずが挙げられる。なお、本発明のニンジン含有野菜果実飲料は、ニンジンミックスジュース、ニンジン含有野菜果実ミックスジュースおよびニンジン含有果実野菜ミックスジュースを含む意味で用いられるものとする。
【0031】
本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料は、その好ましい態様において本発明の低糖類のニンジン搾汁液またはその濃縮液を含有してなるものである。
【0032】
また、本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料におけるニンジンの使用比率は10%以上、20%以上、あるいは30%以上とすることができる。ここで、「ニンジンの使用比率」とは、100%ニンジン搾汁液を100%とした場合の、飲料中に配合されたニンジン搾汁液の相対濃度を意味し、具体的には、100%ニンジン搾汁液の糖度を100%に換算して算出することができる。例えば、100%ニンジン搾汁液(糖度6)を最終製品において糖度3となるように本発明の飲料に配合する場合にはニンジンの使用比率は50%となる。また、ニンジンの2倍濃縮搾汁液(糖度12)を最終製品において糖度6になるように本発明の飲料に配合する場合にはニンジンの使用比率は100%となる。
【0033】
本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料は、糖類濃度が所定値以下に低減されているにもかかわらず、ニンジンらしい香味を十分に有しているという特徴を有する。ここで、「ニンジンらしい香味」とは、ニンジン搾汁液本来のボディー感、コク感および後味を含む意味で用いられる。本発明において「風味改善」という場合には、糖類含量低減などにより失われた「ニンジンらしい香味」を回復させることを意味するものとする。
【0034】
<<本発明の製造方法>>
本発明のニンジン搾汁液は、常法によりニンジンを搾汁して、ニンジン搾汁液またはその濃縮液を調製し、加水などの手段により該ニンジン搾汁液の糖類濃度を低下させ、さらに、フラクトオリゴ糖および/またはイヌリンを添加することにより製造することができる。糖類濃度を低下させる手順と、フラクトオリゴ糖等を添加する手順はいずれが先であってもよく、両手順を同時に実施してもよい。また、原料としてニンジン搾汁液の濃縮液を用いた場合には、加水により100%ニンジン搾汁液と同等の糖度となるように糖度調整をしてもよい。原料となるニンジン搾汁液および濃縮液は市販のニンジン搾汁液やその濃縮液あるいはペーストを使用してもよく、その場合には搾汁工程を省略することができる。なお、ニンジン搾汁液の風味を損なわず、低糖類の範囲を逸脱しない限りにおいて上記手順の前後あるいは上記手順と同時にグルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、マルトース、ラクトースなどの糖類を添加してもよい。
【0035】
ニンジン搾汁液の糖類濃度の低減手段としては、上記以外に乳酸菌・酵母等の微生物による発酵も考えられる。しかし、発酵により糖類以外の成分も変化し、ニンジン本来の栄養や風味が期待できない可能性があるため、発酵以外の手段が好ましい。
【0036】
本発明のニンジン搾汁液および濃縮液はまた、常法によりニンジンを搾汁して、ニンジン搾汁液またはその濃縮液を調製し、該ニンジン搾汁液またはその濃縮液に糖転移酵素製剤を作用させることにより製造することができる。糖転移酵素製剤を使用することにより、ニンジン搾汁液またはその濃縮液において糖類濃度を低減できるとともにフラクトオリゴ糖を生成させることができる。使用できる糖転移酵素製剤としてはスクロースからフラクトオリゴ糖またはイヌリンを生成する1種または2種以上の酵素からなるものが挙げられ、より具体的にはフラクトシルトランスフェラーゼ、レバンスクラーゼなどが挙げられる。糖転移酵素製剤としてフラクトシルトランスフェラーゼを含んでなるもの使用した場合には、ニンジン搾汁液またはその濃縮液における糖類濃度が所定値以下になり、かつ、フラクトオリゴ糖が風味改善に十分な量生成するように反応条件を設定することができる。例えば、ニンジン搾汁液100g当たり100~150単位となるようにフラクトシルトランスフェラーゼをニンジン搾汁液またはその濃縮液に添加し、20~50℃、100~200分の条件下で酵素反応を行うことができる。当業者であれば上記範囲を参考にして、反応温度や反応時間などの反応条件を酵素使用量などに応じて適宜設定できることはいうまでもない。
【0037】
本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料は、本発明のニンジン搾汁液および/または濃縮液を配合すること以外は、公知の手順および条件に従って製造することができる。すなわち、本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料は、例えば、搾汁工程および調合工程により製造することができ、本発明のニンジン搾汁液の他の原料への配合は上記調合工程において実施することができる。上記調合工程において調合される搾汁液は、市販の濃縮液や野菜のペースト等を利用してもよく、その場合には搾汁工程は省略することができる。調合工程で得られた調合液は殺菌工程および充填工程を経て容器詰めすることができる。容器詰めされた本発明の飲料は必要に応じて密封工程と冷却工程に付することができる。
【0038】
本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料はまた、搾汁工程および調合工程により得られた野菜汁または野菜汁および果汁の混合液に糖転移酵素製剤を作用させることにより製造することもできる。使用できる糖転移酵素製剤や酵素反応条件は前記と同様である。また、酵素反応後の反応液は前記と同様に殺菌工程および充填工程を経て容器詰めすることができ、必要に応じて密封工程と冷却工程に付することができる。
【0039】
本発明のニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料には通常の飲料の処方設計に用いられている飲料用添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、甘味料(高甘味度甘味料を含む)、酸味料、調味料、香辛料、香料、着色料、増粘剤、安定剤、乳化剤、栄養強化剤、pH調整剤、酸化防止剤、保存料などが挙げられる。上記飲料用添加剤は調合工程において他の原材料と混合することができる。
【0040】
本発明の別の面によれば、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を配合する、あるいは生成させる工程を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善方法が提供される。本発明の風味改善方法は、本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液、ニンジン含有野菜飲料並びにニンジン含有野菜果実飲料と、それらの製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【0041】
本発明のさらに別の面によれば、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方を含んでなる、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善剤が提供される。本発明の風味改善剤は、本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液、ニンジン含有野菜飲料並びにニンジン含有野菜果実飲料と、それらの製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【0042】
本発明のさらに別の面によれば、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液およびその濃縮液並びにニンジン含有野菜飲料およびニンジン含有野菜果実飲料の風味改善剤としての、フラクトオリゴ糖およびイヌリンのいずれかまたは両方の使用が提供される。本発明の使用は、本発明のニンジン搾汁液およびその濃縮液、ニンジン含有野菜飲料並びにニンジン含有野菜果実飲料と、それらの製造方法に関する記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0043】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0044】
糖類濃度、糖組成および糖度(Bx値)の測定
以下の例においてサンプル飲料中の糖類濃度および糖組成の分析は高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)に従って行った。具体的には以下のように測定した。
【0045】
サンプル液を水で希釈し、糖が2%程度含まれる溶液とした。遠心上清をフィルター濾過することで夾雑物を除去し、濾液をアセトニトリルと混合し、50%アセトニトリル溶液とした。これを下記条件に従ってHPLC(日本分光社製)で分析することにより糖類濃度を算出した。糖類濃度は、HPLCで測定したグルコース、フルクトース、スクロースの合計値を算出することにより求めた。
【0046】
<HPLC分析条件>
カラム:YMC-Pack Polyamine II(YMC社製)
移動相:67%(v/v)アセトニトリル溶液
カラム温度:30℃
流速:1.0mL/分
検出:示差屈折率検出器
【0047】
糖度(Bx値)は、糖度計(Rx-5000α、アタゴ社製)を用いて測定した。
【0048】
例1:糖類濃度がニンジン含有飲料の香味に与える影響の分析
所定の糖類濃度のニンジン含有飲料を調製し、糖類濃度が香味に与える影響を分析した。
【0049】
(1)サンプル飲料の調製
ニンジン搾汁液の濃縮液(以下「ニンジン濃縮液」とする)(Bx55)をニンジン搾汁液本来の糖度(Bx値)である100%ニンジン搾汁液の糖度(Bx6)となるように水で希釈したもの(以下、「ニンジン搾汁液(Bx6)」という)、ニンジン含有野菜ミックスジュース(市販品)、およびニンジン含有野菜果実ミックスジュース(市販品)の3種類の飲料を用意した。これら飲料の糖類濃度を測定したところ、それぞれ4.0g/100mL、5.0g/100mL、6.2g/100mLであった。これらの飲料をそれぞれ基準サンプル飲料(サンプル番号3、14、25)とし、基準サンプル飲料を表1に示す糖類濃度となるように水で希釈し、サンプル飲料(サンプル番号1~2、11~13、21~24)を調製した。
【0050】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を官能評価に供した。具体的には、基準サンプル飲料が有する飲料本来のニンジンらしい香味をサンプル飲料で感じられるかについて、以下の評価基準に従って評価した。基準サンプル飲料は下記評価基準のうち2点とした。
2点:飲料本来のニンジンらしい香味があり、同一の飲料と認識できる
1点:飲料本来のニンジンらしい香味が失われつつある
0点:飲料本来のニンジンらしい香味が失われている
【0051】
官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施した。パネラー4名の評価スコアの平均値を算出し、平均値が1以上を○、0.2以上1未満を△、0.2未満を×とした。
【0052】
(3)評価結果
官能評価の結果を表1に示す
【表1】
【0053】
表1の結果から、ニンジン搾汁液およびニンジン含有野菜ミックスジュースは糖類濃度が2.5g/100mL以下で、ニンジン含有野菜果実ミックスジュースは4.5g/100mL以下で、飲料本来のニンジンらしい香味が失われることが確認された。
【0054】
例2:フラクトオリゴ糖がニンジン搾汁液の香味に与える影響の分析
所定の糖類濃度およびフラクトオリゴ糖濃度の飲料を調製し、フラクトオリゴ糖が糖類含量の少ないニンジン搾汁液のニンジンらしい香味に与える影響を分析した。
【0055】
(1)フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料の調製
ニンジン搾汁液(Bx6)を糖類濃度が1.0、1.5、2.5、3.0g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベース(対照サンプル飲料)に、フラクトオリゴ糖(純度95%以上、明治フードマテリア社製、以下同じ)を表2に示すオリゴ糖濃度となるように添加し、各種糖類濃度および各種フラクトオリゴ糖濃度のサンプル飲料(サンプル番号31~35、41~45、51~55、61~65)を調製した。
【0056】
(2)フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料の官能評価
上記(1)で調製したフラクトオリゴ糖添加サンプル飲料を官能評価に供した。具体的には、所定のオリゴ糖濃度となるようにフラクトオリゴ糖を添加したサンプル飲料について、対照サンプル飲料と比較して、ニンジンらしい香味について違いが感じられるか(香味が回復したと感じられるか)について、以下の評価基準に従って評価した。
2点:ニンジンらしい香味について違いをはっきり感じる
1点:ニンジンらしい香味について違いをわずかに感じる
0点:ニンジンらしい香味について違いを感じない
【0057】
官能評価は5名の訓練されたパネラーにより実施した。パネラー5名の評価スコアの平均値を算出し、平均値が0.75以上を○、0.2以上0.75未満を△、0.2未満を×とした。
【0058】
(3)評価結果
官能評価の結果を表2に示す。
【表2】
【0059】
表2の結果から、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液であっても、フラクトオリゴ糖濃度を0.3g/100mL以上に調整することによって、ニンジンらしい香味を回復させることができることが確認された。
【0060】
(4)スクロース添加サンプル飲料等の調製と官能評価
フラクトオリゴ糖添加によりニンジンらしい香味の回復が認められたサンプル飲料について、変化した香味の評価を行った。評価はフラクトオリゴ糖に代えてスクロースを添加した場合に改善される香味にどのような違いがあるかを分析することにより行った。具体的には、ニンジン搾汁液(Bx6)を糖類濃度が1.0、1.5、2.5、3.0g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベースに、表2で香味の違い(回復)が認識された各フラクトオリゴ糖濃度と同じ甘味度となるようにスクロースを添加し、各種糖類濃度および各種スクロース濃度のスクロース添加サンプル飲料を調製した。なお、フラクトオリゴ糖の甘味度は0.3、スクロースの甘味度は1.0として計算した。
【0061】
官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と同じ甘味度に調製したスクロース添加サンプル飲料について改善した香味(特にニンジンらしい味わいの変化)を比較した。その結果、スクロース添加サンプル飲料に比べ、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料では、ニンジンらしい味わいが感じられ、単に甘味が増すだけではなくニンジン搾汁液本来のボディー感やコク感が増すこと、さらには後味が改善されることが確認された。
【0062】
上記と同様の官能評価を高甘味度甘味料(ステビア、アセスルファムK、アスパルテーム)についても行った。すなわち、高甘味度甘味料添加サンプル飲料をスクロース添加サンプル飲料と同様に調製し、同様の手順で官能評価に供した。(高甘味度甘味料の甘味度はいずれも200として計算した。)その結果、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料に比べ、各高甘味度甘味料添加サンプル飲料では人工的な甘さが増強されたが、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料で確認された特徴(単に甘味が増すだけではなくニンジン搾汁液本来のボディー感やコク感が増すこと、後味が改善されること)は認められないことが確認された。
【0063】
以上の通り、糖類含量の少ないニンジン搾汁液にフラクトオリゴ糖を添加することで、ニンジン搾汁液のボディー感やコク感が増し後味が改善されることから、フラクトオリゴ糖は低糖類のニンジン搾汁液の香味の改善に大きく寄与することが確認された。
【0064】
例3:フラクトオリゴ糖がニンジン含有野菜ミックスジュースの香味に与える影響の分析
所定の糖類濃度およびフラクトオリゴ糖濃度の飲料を調製し、フラクトオリゴ糖濃度が糖類含量の少ないニンジン含有野菜ミックスジュースのニンジンらしい香味に与える影響を分析した。
【0065】
(1)フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料の調製
ニンジン含有野菜ミックスジュース(市販品)を糖類濃度が1.0、1.5、2.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベース(対照サンプル飲料)に、フラクトオリゴ糖を表3に示すオリゴ糖濃度となるように添加し、各種糖類濃度および各種フラクトオリゴ糖濃度のサンプル飲料(サンプル番号71~74、81~84、91~94)を調製した。
【0066】
(2)フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料の官能評価
上記(1)で調製したフラクトオリゴ糖添加サンプル飲料を例2に記載された手順に従ってパネラー4名による官能評価を行った。
【0067】
(3)評価結果
官能評価の結果を表3に示す。
【表3】
【0068】
表3の結果から、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン含有野菜ミックスジュースであっても、フラクトオリゴ糖濃度を0.3g/100mL以上に調整することによって、ニンジン含有野菜ミックスジュースのニンジンらしい香味を回復させることができることが確認された。
【0069】
(4)スクロース添加サンプル飲料の調製と官能評価
フラクトオリゴ糖添加によりニンジンらしい香味の回復が認められたサンプル飲料(ニンジン含有野菜ミックスジュース)について、変化した香味の評価を行った。評価はフラクトオリゴ糖に代えてスクロースを添加した場合に改善される香味にどのような違いがあるかを分析することにより行った。具体的には、ニンジン含有野菜ミックスジュース(市販品)を糖類濃度が1.0、1.5、2.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベースに、表3でニンジンらしい香味の回復が感じられた各フラクトオリゴ糖濃度と同じ甘味度となるようにスクロースを添加し、各種糖類濃度および各種スクロース濃度のスクロース添加サンプル飲料を調製した。
【0070】
官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と同じ甘味度に調製したスクロース添加サンプル飲料について改善した香味(特にニンジンらしい味わいの変化)を比較した。その結果、スクロース添加サンプル飲料に比べ、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料では、ボディー感が増強されること、マイルドな後味になることが確認された。ニンジン含有野菜ミックスジュースにおけるこれらの特徴は、例2においてニンジン搾汁液へのフラクトオリゴ糖添加で確認された特徴が寄与したものと推察された。
【0071】
例4:フラクトオリゴ糖がニンジン含有野菜果実ミックスジュースの香味に与える影響の分析
所定の糖類濃度およびフラクトオリゴ糖濃度の飲料を調製し、フラクトオリゴ糖濃度が糖類含量の少ないニンジン含有野菜果実ミックスジュースのニンジンらしい香味に与える影響を分析した。
【0072】
(1)オリゴ糖添加サンプル飲料の調製
ニンジン含有野菜果実ミックスジュース(市販品)を糖類濃度が2.5、3.5、4.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベース(対照サンプル飲料)に、フラクトオリゴ糖を表4に示すオリゴ糖濃度となるように添加し、各種糖類濃度および各種フラクトオリゴ糖濃度のサンプル飲料(サンプル番号101~104、111~114、121~124)を調製した。
【0073】
(2)フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料の官能評価
上記(1)で調製したフラクトオリゴ糖添加サンプル飲料を例2に記載された手順に従ってパネラー4名による官能評価を行った。
【0074】
(3)評価結果
官能評価の結果を表4に示す。
【表4】
【0075】
表4の結果から、糖類濃度が4.5g/100mL以下のニンジン含有野菜果実ミックスジュースであっても、フラクトオリゴ糖濃度を0.3g/100mL以上に調整することによって、ニンジン含有野菜果実ミックスジュースのニンジンらしい香味を回復させることができることが確認された。
【0076】
(4)スクロース添加サンプル飲料の調製と官能評価
フラクトオリゴ糖添加によりニンジンらしい香味の回復が認められたサンプル飲料(ニンジン含有野菜果実ミックスジュース)について、変化した香味の評価を行った。評価はフラクトオリゴ糖に代えてスクロースを添加した場合に改善される香味にどのような違いがあるかを分析することにより行った。具体的には、ニンジン含有野菜果実ミックスジュース(市販品)を糖類濃度が2.5、3.5、4.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベースに、表4でニンジンらしい香味の回復が感じられた各フラクトオリゴ糖濃度と同じ甘味度となるようにスクロースを添加し、各種糖類濃度および各種スクロース濃度のスクロース添加サンプル飲料を調製した。
【0077】
官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施した。具体的には、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料と同じ甘味度に調製したスクロース添加サンプル飲料について改善した香味(特にニンジンらしい味わいの変化)を比較した。その結果、スクロース添加サンプル飲料に比べ、フラクトオリゴ糖添加サンプル飲料では、ボディー感が増強されること、マイルドな後味になることが確認された。ニンジン含有野菜果実ミックスジュースにおけるこれらの特徴は、例2においてニンジン搾汁液へのフラクトオリゴ糖添加で確認された特徴が寄与したものと推察された。
【0078】
例5:フラクトオリゴ糖の含有量が香味に与える影響の分析
糖類含量の少ないニンジン搾汁液、ニンジン含有野菜ミックスジュースおよびニンジン含有野菜果実ミックスジュースにおいて、フラクトオリゴ糖の含有量がこれらの飲料の香味に与える影響を分析した。
【0079】
(1)サンプル飲料の調製
ニンジン搾汁液(Bx6)(対照サンプル飲料)およびニンジン含有野菜ミックスジュース(市販品、対照サンプル飲料)を糖類濃度が1.0、2.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベースと、ニンジン含有野菜果実ミックスジュース(市販品、対照サンプル飲料)を糖類濃度が2.5、4.5g/100mLとなるように水で希釈した各種糖類濃度の飲料ベースを調製し、それぞれの飲料ベースに、フラクトオリゴ糖を2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、7.0g/100mLの濃度となるように添加し、各種糖類濃度および各種フラクトオリゴ糖濃度のサンプル飲料を調製した。
【0080】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を官能評価に供した。具体的には、対照サンプル飲料と比べ、サンプル飲料の香味が異なる(バランスがおかしくなる、作った甘さに感じる)と認識される最も低いフラクトオリゴ糖濃度の飲料を選択した。官能評価は4名の訓練されたパネラーにより実施し、パネラー4名が選択した飲料のフラクトオリゴ糖濃度の平均値を算出した。
【0081】
(3)評価結果
官能評価の結果を表5に示す。
【表5】
【0082】
表5の結果から、糖類濃度が1.0g/100mL以下のニンジン搾汁液ではフラクトオリゴ糖濃度を4.3g/100mL未満に調整することで、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液ではフラクトオリゴ糖濃度を3.0g/100mL未満に調整することで、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン含有野菜ミックスジュースではフラクトオリゴ糖濃度を3.3g/100mL未満に調整することで、糖類濃度が4.5g/100mL以下のニンジン含有野菜果実ミックスジュースではフラクトオリゴ糖濃度を3.3g/100mL未満に調整することで、それぞれより自然な味わいの香味を有する飲料を提供できることが確認された。
【0083】
例6:酵素処理により糖類含量を低減したニンジン搾汁液の香味の分析
ニンジン搾汁液を糖転移酵素処理することにより、糖類含量を低減しつつフラクトオリゴ糖濃度を増加させた飲料を調製し、フラクトオリゴ糖濃度がニンジンらしい香味に与える影響を分析した。
【0084】
(1)サンプル飲料の調製
ニンジン濃縮液(Bx55)をBx18となるように水で希釈したニンジン搾汁液にフラクトシルトランスフェラーゼ(アスペルギルス(Aspergillus)属由来)を100g当たり150単位となるように添加し、40℃、3時間の条件で糖転移反応を行った。反応後のニンジン搾汁液を糖度(Bx)6となるように希釈し、80℃で10分保持することで酵素を失活させた。このニンジン搾汁液(酵素処理ニンジン搾汁液)の糖組成をHPLC法により測定したところ、糖類濃度が1.8g/100mL、フラクトオリゴ糖濃度が1.8g/100mLであった。該酵素処理ニンジン搾汁液を、ニンジン搾汁液(Bx6)およびスクロース溶液と混合して、表6に示す糖類濃度およびフラクトオリゴ糖濃度のサンプル飲料(サンプル番号131~134)を調製した。ニンジン搾汁液(Bx6)を糖類濃度が2.5g/100mLとなるように希釈した飲料を対照サンプル飲料(フラクトオリゴ糖濃度0g/100mL)とした。
【0085】
(2)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料を例2に記載された手順に従ってパネラー4名による官能評価を行った。
【0086】
(3)評価結果
官能評価の結果を表6に示す。
【表6】
【0087】
表6の結果から、糖転移酵素処理により糖類を低減しフラクトオリゴ糖を生成させたサンプル飲料であっても、糖類濃度が2.5g/100mL以下であり、フラクトオリゴ糖濃度が0.3g/100mL以上であれば、ニンジン搾汁液のニンジンらしい香味が回復されることが確認された。糖転移酵素処理により糖類を低減しフラクトオリゴ糖を生成させたサンプル飲料では、ニンジン搾汁液本来のボディー感やコク感が増していることから、フラクトシルトランスフェラーゼにより生成されたオリゴ糖がニンジン搾汁液本来のボディー感やコク感を増強することが確認された。
【0088】
例7:イヌリンがニンジン搾汁液の香味に与える影響の分析
所定の糖類濃度およびイヌリン濃度の飲料を調製し、イヌリン濃度が糖類含量の少ないニンジン搾汁液のニンジンらしい香味に与える影響を分析した。
【0089】
(1)イヌリン添加サンプル飲料の調製
ニンジン搾汁液(Bx6)を糖類濃度が2.5g/100mLとなるように水で希釈した飲料ベース(対照サンプル飲料)に、イヌリン(純度90%以上、平均重合度16)を表7に示すイヌリン濃度となるように添加し、各種イヌリン濃度のサンプル飲料(サンプル番号141~143)を調製した。
【0090】
(2)官能評価
上記(1)で調製したイヌリン添加サンプル飲料を例2に記載された手順に従ってパネラー4名による官能評価を行った。
【0091】
(3)評価結果
官能評価の結果を表7に示す。
【表7】
【0092】
表7の結果から、糖類濃度が2.5g/100mL以下のニンジン搾汁液であっても、イヌリン濃度を0.9g/100mL以上に調整することによって、ニンジン搾汁液のニンジンらしい香味を回復させることができることが確認された。また、香味の回復が認められた飲料では、ニンジン搾汁液の濃厚感が増したことから、イヌリンは糖類含量の少ないニンジン搾汁液の香味を改善することが確認された。