(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】プリプレグおよび繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/10 20060101AFI20221018BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20221018BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20221018BHJP
C08G 59/40 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C08J5/10 CFC
C08J5/24
C08G59/32
C08G59/40
(21)【出願番号】P 2018567969
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043481
(87)【国際公開番号】W WO2019111747
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017232356
(32)【優先日】2017-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】釜江 俊也
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-248479(JP,A)
【文献】特開2013-253194(JP,A)
【文献】特開2002-284852(JP,A)
【文献】特開平11-209580(JP,A)
【文献】特開平7-76616(JP,A)
【文献】特開2013-166917(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/098833(US,A1)
【文献】国際公開第2009/107697(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003691(WO,A1)
【文献】特開2016-148021(JP,A)
【文献】特開2013-116999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/10
C08J 5/24
C08G 59/32
C08G 59/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
[A]エポキシ樹脂および[B]硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグであって、エポキシ樹脂組成物が下記条件(a)~(e)を満たすプリプレグ:
(a):[A]エポキシ樹脂として[A1]一般式(I)で示されるエポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中50~100質量部含み、かつ、成分[A1]のうちn≧2であるエポキシ樹脂[A1’]を、全エポキシ樹脂100質量部中50~80質量部含む;
【化1】
一般式(I)中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す;
(b):全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が、165~265g/eqである;
(c):エポキシ樹脂組成物を85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率が、エポキシ樹脂組成物100質量%に対し3.0質量%以下である;
(d)[B]硬化剤として[B1]芳香族ウレアを含む;
(e)[B]硬化剤のうち[B2]ジシアンジアミドの含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し0.5質量部以下である。
【請求項2】
[B2]ジシアンジアミドの含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し0.2質量部以下である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
エポキシ樹脂組成物中に[B2]ジシアンジアミドを含まない、請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
[B]硬化剤として実質的に[B1]芳香族ウレアのみを含む、請求項3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
[B1]芳香族ウレアが、芳香族ウレア1分子中にジメチルウレイド基を2個有する化合物を含む、請求項1~4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
[B1]芳香族ウレアが、一般式(II)で示される化合物を含む、請求項5に記載のプリプレグ。
【化2】
【請求項7】
[B1]芳香族ウレアの含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し2.5~7.5質量部である、請求項1~6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
強化繊維が織物の形態である、請求項1~7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
強化繊維が炭素繊維である、請求項1~8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のプリプレグが硬化されてなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ用途および一般産業用途に適したプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂はその優れた機械的特性を生かし、塗料、接着剤、電気電子情報材料、先端複合材料など、各種産業分野に広く使用されている。特に炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料用途にはエポキシ樹脂が多用されている。
【0003】
炭素繊維強化複合材料の製造には、炭素繊維の基材にあらかじめエポキシ樹脂を含浸させた、プリプレグが汎用される。プリプレグを、積層もしくはプリフォームした後、加熱してエポキシ樹脂を硬化させることで、成形品が得られる。プリプレグは、積層までの過程で硬化反応が進むと取扱性が低下する。そのため、プリプレグ用途のエポキシ樹脂には高い保管安定性が必要とされ、硬化剤として、潜在硬化性の優れたジシアンジアミドが広く使われている。
【0004】
炭素繊維複合材料はその軽量かつ高強度、高剛性の特長を生かし、スポーツ・レジャー用途から自動車・航空機等の産業用途まで、幅広い分野において用いられている。特に近年では、構造部材として用いられるだけでなく、炭素繊維織物を表面に配置してクロス目を意匠として用いる場合も増えている。そのため、マトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂には、その硬化物が優れた耐熱性および機械特性を示すことに加え、硬化物の低着色性や成形品の外観も重要視されるようになってきた。しかしながら、硬化剤としてジシアンジアミドを用いると、成形品の表面に白色析出物が生じて外観を損ねるという課題があった。
【0005】
ジシアンジアミド由来の白色析出物を抑える方法として、特許文献1には、粒径の小さいジシアンジアミドを用いたマスターバッチを使用することで、ジシアンジアミドとエポキシ樹脂を基材への含浸時に溶解または相溶させることにより、プリプレグの白色析出物を抑制する技術が開示されている。また、ジシアンジアミドを使用しない方法として、特許文献2には、硬化剤としてポリチオールとウレア化合物を用いる技術が開示されており、特許文献3には、硬化剤として酸無水物を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-209580号公報
【文献】特開2013-253194号公報
【文献】特開2013-133407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された方法では、プリプレグ作製時にジシアンジアミドを溶解または相溶させるため、繊維強化複合材料用のプリプレグとしては、保管安定性が不十分であった。また、プリプレグ作製時にジシアンジアミドを溶解させない場合は、成形品表面に白色析出物が生じる場合があった。
【0008】
特許文献2では、ジシアンジアミドを使用していないため成形品表面に白色析出物は生じないが、樹脂硬化物の耐熱性や機械特性が不足する場合があった。
【0009】
特許文献3において提案されている酸無水物硬化剤を用いた場合では、成形品表面に白色析出物は生じないが、硬化剤の酸無水物が空気中の水分により劣化し、樹脂硬化物の物性が低下する場合があり、一定の保管期間が想定される繊維強化複合材料用のプリプレグ用途には好ましくなかった。
【0010】
また、プリプレグは劣化を防ぐため、冷凍で保管されることが多く、使用する度に解凍することが一般的である。冷凍および解凍を繰り返した場合に、プリプレグに霜が付着し、水分が混入することがある。加えて、成形品の外観を重要視する用途では、複雑形状の型にプリプレグを賦形およびバッギングし、オートクレーブで硬化することがある。この際、型や副資材に含まれる水分が硬化過程で揮発し、プリプレグに混入することがある。プリプレグに水分が混入した状態で硬化させた場合、硬化物の耐熱性が低下することがあり、外観を重要視する用途において、しばしば問題となっていた。
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、高い耐熱性と低着色性を両立し、成形品表面に白色析出物を生じず、優れた外観を有する繊維強化複合材料が得られ、かつ、水分が混入しうる条件下で硬化した場合においても高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られるプリプレグを提供することにある。また本発明の目的は、高い耐熱性と優れた外観を有する繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記構成からなるプリプレグを見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明のプリプレグは、以下の構成からなる。
[A]エポキシ樹脂および[B]硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグであって、エポキシ樹脂組成物が下記条件(a)~(e)を満たすプリプレグ:
(a):[A]エポキシ樹脂として[A1]一般式(I)で示されるエポキシ樹脂を、全エポキシ樹脂100質量部中50~100質量部含み、かつ、成分[A1]のうちn≧2であるエポキシ樹脂[A1’]を、全エポキシ樹脂100質量部中50~80質量部含む;
【0013】
【0014】
一般式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す;
(b):全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が、165~265g/eqである;
(c):エポキシ樹脂組成物を85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率が、エポキシ樹脂組成物100質量%に対し3.0質量%以下である;
(d)[B]硬化剤として[B1]芳香族ウレアを含む;
(e)[B]硬化剤のうち[B2]ジシアンジアミドの含有量が全エポキシ樹脂100質量部に対し0.5質量部以下である。
【0015】
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、上記プリプレグが硬化されてなる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い耐熱性と低着色性を両立し、成形品表面に白色析出物を生じず、優れた外観を有する繊維強化複合材料が得られ、かつ、水分が混入しうる条件下で硬化した場合においても高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られるプリプレグを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<成分[A]>
本発明における成分[A]はエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、オキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
本発明では、成分[A]として[A1]一般式(I)で示されるエポキシ樹脂を含む必要があり、かつ、成分[A1]のうち、一般式(I)においてn≧2であるエポキシ樹脂[A1’]を含む必要がある。
【0019】
【0020】
一般式(I)中、R1、R2およびR3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。nの好ましい上限は15であり、より好ましくは12である。nをこの範囲とすることにより、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎず、強化繊維への含浸性に優れるため、ボイド等の内部欠陥が少ない繊維強化複合材料が得られる。
【0021】
成分[A1]を含むことにより、樹脂硬化物の弾性率が高くなり、耐熱性も向上するため、優れた機械特性と耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られる。
【0022】
エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部中、成分[A1]を50~100質量部含むことが必要である。下限については60質量部以上であることが、上限については90質量部以下であることが好ましい。成分[A1]をこの範囲で含むことにより、樹脂硬化物の着色が少なく、弾性率と耐熱性のバランスが良好となる。
【0023】
さらに、成分[A1]のうち、成分[A1’]をエポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部中50~80質量部含むことが必要である。成分[A1’]をこの範囲で含むことにより、水分が混入した状態で硬化させた場合においても、硬化物の耐熱性の低下が少なく、耐熱性に優れた成形品を得ることができる。
【0024】
成分[A1]の例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0025】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、EPPN-201(日本化薬(株)製)、“EPICRON(登録商標)”N-740、N-770、N-775(以上、DIC(株)製)、“DEN(登録商標)”431、438、439(以上、オーリン社製)、などが挙げられる。
【0026】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPICRON(登録商標)”N-660、N-665、N-670、N-673、N-680、N-690、N-695(以上、DIC(株)製)、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0027】
また、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と着色のバランスの観点から、エポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が、165~265g/eqである必要がある。平均エポキシ当量の下限については180g/eq以上であることが好ましく、上限については250g/eq以下であることが好ましい。全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が165g/eq未満であると、樹脂硬化物の耐熱性が低下すると共に、着色が強くなるため、繊維強化複合材料とした場合の外観が悪くなる。また、全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が265g/eqよりも大きいと、着色は少ないものの、樹脂硬化物の耐熱性が低下する。
【0028】
上記、エポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量は、以下の方法で算出される。
【0029】
(エポキシ樹脂組成物における全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の算出方法)
成分[A]としてn種類のエポキシ樹脂を併用した場合、全エポキシ樹脂の総質量部をGとし、全エポキシ樹脂のうち、エポキシ樹脂yのエポキシ当量をEy(g/eq)、含有量をWy質量部とすると、エポキシ樹脂組成物における全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量(g/eq)は、以下の数式(I)によって算出できる。ここで、y=1、2、3、・・・、nである。
【0030】
【0031】
<成分[B]>
本発明における成分[B]は硬化剤であり、[B1]芳香族ウレアを含む。本発明において[B]硬化剤としては、[A]エポキシ樹脂の自己重合を進める硬化剤として働く自己重合型硬化剤が好ましく、中でも[B1]芳香族ウレアが好ましい。[B1]芳香族ウレアを含む[B]硬化剤を用いることで、他の自己重合型硬化剤と比較して、着色が少なく耐熱性とのバランスが良いエポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0032】
本発明において、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性と着色のバランスの観点から、[B1]芳香族ウレアの含有量には好ましい範囲がある。[B1]芳香族ウレアの好ましい配合量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対して[B1]芳香族ウレアを2.5~7.5質量部含むことが好ましい。含有量の下限については3質量部以上であることが、上限については7質量部以下であることがより好ましい。[B1]芳香族ウレアの含有量が2.5質量部未満であると、樹脂硬化物の耐熱性が低下する。含有量が7.5質量部を超えると、樹脂硬化物の着色が強くなるため、繊維強化複合材料とした場合の外観が悪くなる。
【0033】
[B1]芳香族ウレアとしては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、フェニルジメチルウレア、4,4-メチレンビス(ジフェニルジメチルウレア)、トルエンビスジメチルウレアなどが挙げられる。また、芳香族ウレアの市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学工業(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、“Omicure(登録商標)”52、“Omicure(登録商標)”94(以上ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)などを使用することができる。
【0034】
[B1]芳香族ウレアは、芳香族ウレア1分子中にジメチルウレイド基を2個有する化合物であることが好ましく、下記一般式(II)に示す化合物であることがより好ましい。
【0035】
【0036】
かかる一般式(II)に示す化合物を用いることで、水分が混入した状態で硬化させた場合において、耐熱性の低下が抑制される傾向にあるため、外観が良好で高い耐熱性を有する繊維強化複合材料が得られやすい。
【0037】
また、[B]硬化剤として[B2]ジシアンジアミドを含有すると、成形品表面に白色析出物が生じて外観を損ねることがあるため、本発明のプリプレグにおいて、[B2]ジシアンジアミドの含有量は全エポキシ樹脂100質量部に対し0.5質量部以下である必要があり、0.2質量部以下であることがより好ましく、[B2]ジシアンジアミドを含まないことが最も好ましい。
【0038】
また、水分が混入した状態で硬化させた場合の耐熱性の観点からもジシアンジアミドの配合量は少ないほうが好ましい。ジシアンジアミドは極性が高く、吸水性が極めて高い化合物である。さらに、ジシアンジアミドはエポキシ樹脂と反応した場合に極性の高い水酸基を生じるため、樹脂組成物中にジシアンジアミドを含有すると、水分が混入した状態で硬化させた場合において、硬化物の耐熱性が大きく低下することがある。
【0039】
本発明のプリプレグにおいて、本発明の効果を損なわない限り、[B1]芳香族ウレアおよび[B2]ジシアンジアミド以外の硬化剤を配合してもよい。しかし、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる化合物は、極性が高く吸水性が高いものが多いため、水分が混入した状態で硬化させた場合の耐熱性の観点から、[B]硬化剤として実質的に[B1]芳香族ウレアのみを含むことが好ましい。ここでいう「実質的に」とは、硬化剤製造時に不可避的に生成する不純物等、意図せず含有する化合物を除くという意味であり、エポキシ樹脂組成物に硬化剤として意図して配合するものは[B1]芳香族ウレアのみであるという意味である。具体的には、[B]硬化剤のうち95質量%以上が[B1]芳香族ウレアである場合について、実質的に[B1]芳香族ウレアのみを含むと定義する。
【0040】
<エポキシ樹脂組成物の吸水率>
本発明のプリプレグに用いるエポキシ樹脂組成物は、硬化過程で発生する水分が混入しにくい特徴がある。まず、エポキシ樹脂組成物の吸水率に影響する因子について説明する。
【0041】
エポキシ樹脂組成物と水分の親和性の観点では、エポキシ樹脂組成物に使用する成分の極性が高い場合、吸水率は高くなる傾向がある。さらに、エポキシ基と硬化剤との反応によって生成する官能基や、エポキシ基自体の加水分解によって生成する官能基も考慮する必要がある。硬化剤として1級もしくは2級のアミノ基を有する化合物を用いた場合、エポキシ基との反応により水酸基が発生するため、硬化反応の進行に伴い樹脂組成物は吸水しやすくなる傾向がある。さらに、塩基性の高い硬化剤を用いた場合には、硬化剤がエポキシ基の加水分解を促進し、加水分解によって生じた水酸基の極性が高いため、エポキシ樹脂組成物が吸水しやすくなる傾向がある。
【0042】
加えて、エポキシ樹脂組成物の流動性も考慮に入れる必要がある。エポキシ樹脂組成物の流動性が高いほど、水分と接触した場合に相互拡散しやすく、エポキシ樹脂組成物中に水分が混入しやすい傾向がある。本発明に用いられるエポキシ樹脂組成物は硬化剤として芳香族ウレアを含む。芳香族ウレアの反応開始温度は85℃前後であることが多い。硬化反応が始まる前は、温度の上昇に伴い流動性が高くなるため、85℃よりも低い温度範囲では、温度が高くなるほど樹脂組成物中に水分が混入しやすくなる。一方、85℃よりも高い温度範囲においては、硬化反応が進むにつれ流動性が低下するため、吸水しにくくなり、吸水率は飽和する傾向となる。
【0043】
上記のように、硬化過程におけるエポキシ樹脂の吸水挙動は極めて複雑である。我々はこれらの因子について検討し、芳香族ウレアを硬化剤として用いる場合において、水分が混入した状態で硬化させた場合の耐熱性低下を抑制するためには、85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率を低くすることが好ましいことを見出し、本発明に至った。
【0044】
本発明に用いられるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物を85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率が、エポキシ樹脂組成物100質量%に対し3.0質量%以下である必要があり、2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましい。エポキシ樹脂組成物を85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率が3.0質量%よりも大きいと、水分が混入した状態で硬化させた場合の樹脂硬化物の耐熱性が低下する。エポキシ樹脂組成物の吸水率は、[A]エポキシ樹脂のうち、[A1’]の配合量を増やすことにより、抑制することができる。また、 [B]硬化剤中における、[B2]ジシアンジアミドの配合量を少なくすることにより、抑制することができる。
【0045】
ここで、エポキシ樹脂組成物を85℃・95%RH雰囲気下で2時間保管した場合の吸水率とは、直径4cmの円形の底面を持つ容器に、エポキシ樹脂組成物を5g取り分け、温度85℃・95%RHの環境に保った恒温恒湿槽内で2時間保管し、保管前後のエポキシ樹脂組成物の質量変化から、以下の数式(II)によって算出したものである。
【0046】
【0047】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練しても良いし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。好ましい調製方法としては、以下の方法があげられる。すなわち、容器に成分[A]を投入し、攪拌しながら温度を130℃~180℃の任意の温度まで上昇させ、エポキシ樹脂を均一に溶解させる。その後、攪拌しながら、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは60℃以下の温度まで下げ、成分[B]を投入し、混練する。このとき、成分[B]を均一に混合するために、あらかじめ成分[A]の一部と成分[B]を混合した硬化剤マスターを作製しておくことがより好ましい。
【0048】
<プリプレグ>
次に、プリプレグについて説明する。繊維強化複合材料を得るにあたり、あらかじめエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことは、保管が容易となる上、取り扱い性に優れるため好ましいものである。プリプレグは、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。
【0049】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法である。具体的には、離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておく。次いで強化繊維を引き揃えたシート、もしくは強化繊維の織物(クロス)の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる。
【0050】
プリプレグに用いる強化繊維の形態は特に限定されないが、成形品とした場合に織目が美しく、高い意匠性を有することから、織物であることが好ましい。硬化剤としてジシアンジアミドを用いた場合、織物を用いたプリプレグを成形すると、繊維の交点(目)近傍に白色析出物が発生することが多い。プリプレグの強化繊維として織物を用いた場合、本発明の効果が特に大きく発揮される。
【0051】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが用いられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られ、かつ繊維が黒い光沢を持ち高い意匠性を有する成形品が得られる点から、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0052】
本発明における課題である、成形品表面に発生する白色析出物は、エポキシ樹脂組成物を含浸する際にジシアンジアミドが繊維で漉しとられるか、もしくは成形中の樹脂の流動に伴い繊維近傍にジシアンジアミドが偏析することにより発生すると考えられる。硬化剤としてジシアンジアミドを用いた場合、単繊維径が小さい繊維において白色析出物が発生しやすいことから、繊維強化複合材料に用いられる強化繊維の単繊維径が小さい場合において、本発明の効果は大きく発揮される。この観点から、強化繊維の単繊維径は3~20μmが好ましく、3~10μmがさらに好ましい。単繊維径をこの範囲とすることにより、本発明の効果が大きく発揮される。
【0053】
プリプレグ中におけるエポキシ樹脂組成物と強化繊維の質量比率は、好ましくは10:90~70:30であり、より好ましくは20:80~60:40であり、さらに好ましくは30:70~50:50の範囲である。エポキシ樹脂組成物と強化繊維の質量比率をこの範囲とすることにより、含浸性が高いプリプレグを得ることが容易となり、ボイド等の内部欠陥が少ない繊維強化複合材料が得られる。
【0054】
<プリプレグの成形法>
プリプレグ積層成形方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などを適宜使用することができる。中でも、水分を含む型や副資材を使用することがあるオートクレーブ成形法およびバッギング成形法において、本発明の効果が特に大きく発揮される。
【0055】
<繊維強化複合材料>
本発明のプリプレグを硬化させることにより、優れた耐熱性と低着色性を両立し、優れた外観を有する繊維強化複合材料を得ることができる。
【0056】
繊維強化複合材料の耐熱性は、プリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物を硬化したエポキシ樹脂硬化物のTgを測定することにより評価することができる。エポキシ樹脂硬化物のTgが高いことが、得られる繊維強化複合材料の耐熱性が高いことを示す。具体的には、Tgは115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましい。
【0057】
繊維強化複合材料の低着色性は、プリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物を硬化したエポキシ樹脂硬化物の黄色度を測定することにより評価することができる。エポキシ樹脂硬化物の黄色度が低いことが、得られる繊維強化複合材料が低着色性に優れることを示す。具体的には、黄色度は90以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましく、70以下であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケーなどのスティック、およびスキーポールなどに好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、二輪車、自転車、船舶および鉄道車両などの移動体の構造材や内装材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、および補修補強材料などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0060】
特に断りのない限り、各種物性の測定は温度23℃・50%RHの環境下で行った。
【0061】
各エポキシ樹脂組成物を調製するために用いた材料は以下に示す通りである。
【0062】
<使用した材料>
成分[A]:エポキシ樹脂
・[A1]一般式(I)で示されるエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂
“jER(商標登録)”154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:178、一般式(I)において、R1、R2およびR3が水素である化合物、一般式(I)においてn=0であるエポキシ樹脂の含有率17質量%、n=1であるエポキシ樹脂の含有率15質量%、n≧2であるエポキシ樹脂の含有率68質量%(すなわち、[A1]の含有率83質量%、[A1’]の含有率68質量%である。)、三菱化学(株)製)
“EPICLON(商標登録)”N-770(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:188、一般式(I)において、R1、R2およびR3が水素である化合物、一般式(I)においてn=0であるエポキシ樹脂の含有率9質量%、n=1であるエポキシ樹脂の含有率7質量%、n≧2であるエポキシ樹脂の含有率84質量%(すなわち、[A1]の含有率91質量%、[A1’]の含有率84質量%である。)、三菱化学(株)製)。
【0063】
・その他のエポキシ樹脂
“jER(商標登録)”828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189、三菱化学(株)製)
“エポトート(登録商標)”YDF-2001(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:475、東都化成(株)製)
“jER(商標登録)”1007(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:1975、三菱化学(株)製)
“DER(商標登録)”858(オキサゾリドン環を有するエポキシ樹脂エポキシ樹脂、エポキシ当量:400、オーリン社製)
“TEPIC(登録商標)”-S(エポキシ当量:100、日産化学工業(株)製)。
【0064】
成分[B]:硬化剤
・[B1]芳香族ウレア
DCMU99(3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)
“Omicure(登録商標)”24(4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア、一般式(II)で示される化合物、ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)。
【0065】
・[B2]ジシアンジアミド
“jERキュア(登録商標)”DICY7(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)。
【0066】
・その他の硬化剤
“キュアダクト(登録商標)”P-0505(イミダゾールアダクト、四国化成工業(株)製)。
【0067】
<エポキシ樹脂組成物の全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量の算出方法>
成分[A]としてn種類のエポキシ樹脂を併用した場合、全エポキシ樹脂の総質量部をGとし、全エポキシ樹脂のうち、エポキシ樹脂yのエポキシ当量をEy(g/eq)、含有量をWy質量部とすると、エポキシ樹脂組成物における全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量(g/eq)は、以下の数式(I)によって算出できる。ここで、y=1、2、3、・・・、nである。
【0068】
【0069】
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
(1)硬化剤マスターの調製
ニーダー中に、表1および2に記載の[A]エポキシ樹脂を投入した。混練しながら、150℃まで昇温した後、同温度で1時間保持することで、透明な粘調液を得た。混練を続けながら60℃まで降温した後、表1および2に記載の[B]硬化剤を投入し、同温度で30分間混練することで、エポキシ樹脂組成物を得た。表1および2に各実施例および比較例のエポキシ樹脂組成物の組成を示した。
【0070】
<エポキシ樹脂組成物の吸水率の評価方法>
エポキシ樹脂組成物の85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率は、以下の方法で評価した。直径4cmの円形の底面を持つ容器に、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を5g取り分け、温度85℃・95%RHの環境に保った恒温恒湿槽内で2時間保管した。保管後のエポキシ樹脂組成物の質量を測定し、吸水率を以下の数式(II)によって算出した。サンプル数n=3で測定した値の平均値を吸水率とした。
【0071】
【0072】
<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状のエポキシ樹脂硬化物を得た。
【0073】
<織物炭素繊維複合材料(以下、織物CFRP)の作製方法>
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布し、目付66g/m2の樹脂フィルムを作製した。炭素繊維“トレカ(登録商標)”T300(東レ(株)製)を用いた二方向クロス(2/2綾織、目付198g/m2)を用意し、この両面に2枚の前記樹脂フィルムを貼り合わせた後、プリプレグ化装置で両面から加熱加圧し、エポキシ樹脂組成物を炭素繊維クロス中に含浸させて織物プリプレグを得た。プリプレグの樹脂含有率は40質量%であった。
【0074】
この織物プリプレグの繊維方向を揃えて10プライ積層した後、ナイロンフィルムで隙間の無いように覆い、これをオートクレーブ中で130℃、内圧0.3MPaで2時間かけて加熱加圧成形して硬化し、織物CFRPを作製した。
【0075】
<物性評価方法>
(1)エポキシ樹脂硬化物のTg
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物を細かく砕き、3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、30℃から230℃まで10℃/分の等速昇温条件で測定した。得られた熱量-温度曲線における変曲点の中点をガラス転移温度(以下、Tgと記す)とした。
【0076】
(2)水を配合して硬化させた場合のエポキシ樹脂硬化物のTg
上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従い調製したエポキシ樹脂組成物に水を5質量%加え、プラネタリーミキサーで混練したものを脱泡せずにそのまま用いた以外は、上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>と同様にして、厚み2mmになるように設定したモールド中で、130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状のエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物はボイドを含有していた。エポキシ樹脂硬化物を細かく砕き、3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q-2000:TAインスツルメント社製)を用い、30℃から230℃まで10℃/分の等速昇温条件で測定した。得られた熱量-温度曲線における変曲点の中点をTgとした。
【0077】
(3)エポキシ樹脂硬化物の弾性率
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率を測定した。試験片数n=6で測定した値の平均値を弾性率とした。
【0078】
(4)エポキシ樹脂硬化物の黄色度
上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂硬化物から3cm角、厚さ2mmの試験片を切り出した。この試験片について、分光測色計MSC-P(スガ試験機(株)製)を用い、JIS Z8722(2009)に従って透過物体色を測定し、三刺激値を求めた。イルミナントはD65、幾何条件e、測定方法は分光測色方法、有効波長幅は5nm、波長間隔は5nmとし、表色系はXYZ表色系とした。得られた三刺激値を基に、JIS K7373(2006)に従って黄色度を計算した。
【0079】
(5)織物CFRPの外観
上記<織物CFRPの作製方法>に従い作製した織物CFRPを40℃の水に7日間浸漬した。浸漬後の織物CFRPについて、織目部分の外観を目視で確認した。結果は、白色析出物が認められない場合をgood、認められる場合をpoorと表記した。
【0080】
(実施例1)
成分[A]のエポキシ樹脂として“jER(商標登録)”154 80質量部、“エポトート(商標登録)”YDF2001 20質量部、[B1]芳香族ウレアとして“Omicure(登録商標)”24 4質量部を用い、上記<エポキシ樹脂組成物の調製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0081】
このエポキシ樹脂組成物の全エポキシ100質量部中、[A1]成分は66質量部、[A1’]成分は54質量部であった。85℃・95%RHで2時間保管した場合のエポキシ樹脂組成物の吸水率は1.7%であった。
【0082】
得られたエポキシ樹脂組成物から、上記<エポキシ樹脂硬化物の作製方法>に従って、エポキシ樹脂硬化物を作製した。このエポキシ樹脂硬化物についてTg、水を5質量%配合して硬化させた場合のTg、曲げ弾性率および黄色度を測定した。Tgは129℃、水を配合して硬化させた場合のTgは126℃、曲げ弾性率は3.5GPa、黄色度は64であり、樹脂硬化物の物性は良好であった。また、得られたエポキシ樹脂組成物から織物CFRPを作製して外観を評価したところ、白色析出物は認められなかった。
【0083】
(実施例2~10)
樹脂組成をそれぞれ表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。それぞれの実施例の全エポキシ100質量部中の[A1]成分の質量部、[A1’]成分の質量部および85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率を表1に示した。
【0084】
各実施例について、エポキシ樹脂硬化物のTg、水を配合して硬化させた場合のTg、弾性率、黄色度および織物CFRPの外観は表1に記載の通りであり、いずれも良好であった。
【0085】
(比較例1)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率および織物CFRPの外観は良好であった。しかし、85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率が3.1質量%であり、本発明における条件(c)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0086】
(比較例2)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率および織物CFRPの外観は良好であった。しかし、85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率が3.7質量%であり、本発明における条件(c)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0087】
(比較例3)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTgおよび弾性率は良好であったが、ジシアンジアミドを6質量部含んでおり、本発明における条件(e)を満たさないため、織物CFRPに白色析出物が認められた。また、85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率が3.8質量%であり、本発明における条件(c)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0088】
(比較例4)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTgおよび弾性率は良好であったが、ジシアンジアミドを0.6質量部含んでおり、本発明における条件(e)を満たさないため、織物CFRPに白色析出物が認められた。
【0089】
(比較例5)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTgおよび弾性率は良好であったが、全エポキシ樹脂100質量部中[A1’]の含有量が50質量部に満たず、本発明における条件(a)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0090】
(比較例6)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物の弾性率、黄色度および織物CFRPの外観は良好であった。しかし、全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が265g/eqを超え、本発明における条件(b)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。
【0091】
(比較例7)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。エポキシ樹脂硬化物のTg、弾性率および織物CFRPの外観は良好であった。しかし、85℃・95%RHで2時間保管した場合の吸水率が4.1質量%であり、本発明における条件(c)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0092】
(比較例8)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。全エポキシ樹脂の平均エポキシ当量が265g/eqを超え、条件(b)を満たさないため、エポキシ樹脂硬化物のTgが低かった。また、全エポキシ樹脂100質量部中[A1’]の含有量が50質量部に満たず、本発明における条件(a)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0093】
(比較例9)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に示した。全エポキシ樹脂100質量部中[A1’]の含有量が50質量部に満たず、本発明における条件(a)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0094】
(比較例10)
表2に示した樹脂組成について、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物および織物CFRPを作製した。物性評価結果は表2に併せて示した。全エポキシ樹脂100質量部中[A1’]の含有量が50質量部に満たず、本発明における条件(a)を満たさないため、水を配合して硬化させた場合のTgが低かった。
【0095】
【0096】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のプリプレグを用いた繊維強化複合材料は、優れた耐熱性と低着色性を有する。また、繊維強化複合材料の成形品表面に白色析出物を生じないため、低着色性と併せて優れた意匠性を有する。さらに、水分が混入した状態で硬化させた場合においても耐熱性の低下が少ないため、プリプレグの冷凍および解凍を繰り返した場合の水分の混入や、硬化過程において型や副資材から発生する水分の混入の影響を気にせず使用できる。本発明のプリプレグ、繊維強化複合材料は、スポーツ用途および一般産業用途に好ましく用いられる。