(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】クレーンおよびクレーンの経路生成システム
(51)【国際特許分類】
B66C 13/48 20060101AFI20221018BHJP
G01C 21/34 20060101ALN20221018BHJP
G08G 1/16 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
B66C13/48 G
G01C21/34
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2019024955
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】南 佳成
(72)【発明者】
【氏名】深町 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】水木 和磨
(72)【発明者】
【氏名】中岡 翔平
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095369(JP,A)
【文献】特開2009-025974(JP,A)
【文献】特開2017-146710(JP,A)
【文献】特開2018-172208(JP,A)
【文献】米国特許第08909467(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06;
23/00-23/94
G01C 21/34
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回台に起伏自在かつ伸縮自在のブームを設けたクレーンであって、
荷物の重量から作業可能範囲を設定する作業可能範囲設定部と、
前記作業可能範囲において前記荷物が通過可能な複数の節点を生成する節点生成部と、
前記作業可能範囲の特定領域において前記荷物が通過可能な複数の節点を追加する節点追加部と、
前記複数の節点において隣接する節点間を結ぶ複数の経路を生成する経路生成部と、
前記複数の節点と前記複数の経路から、前記クレーンの複数のアクチュエータを作動させる優先順位に基づいて、前記荷物の搬送経路を決定する搬送経路決定部と、を備え、
前記節点追加部は、前記節点生成部が基準の設定で節点を生成した後に前記特定領域に節点を追加する、ことを特徴としたクレーン。
【請求項2】
前記特定領域が、荷物の吊り上げ位置を含む所定範囲の領域または/および荷物の吊り下し位置を含む所定範囲の領域である、ことを特徴とした請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記特定領域が、障害物の周囲を含む所定範囲の領域である、ことを特徴とした請求項1に記載のクレーン。
【請求項4】
旋回台に起伏自在かつ伸縮自在のブームを設けたクレーンの経路生成システムであって、
荷物の重量から作業可能範囲を設定する作業可能範囲設定部と、
前記作業可能範囲において前記荷物が通過可能な複数の節点を生成する節点生成部と、
前記作業可能範囲の特定領域において前記荷物が通過可能な複数の節点を追加する節点追加部と、
前記複数の節点において隣接する節点間を結ぶ複数の経路を生成する経路生成部と、
前記複数の節点と前記複数の経路から、前記クレーンの複数のアクチュエータを作動させる優先順位に基づいて、前記荷物の搬送経路を決定する搬送経路決定部と、を備え、
前記節点追加部は、前記節点生成部が基準の設定で節点を生成した後に前記特定領域に節点を追加する、ことを特徴としたクレーンの経路生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンおよびクレーンの経路生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンによる荷物の搬送作業においては、ブームの旋回、起伏、伸縮およびワイヤロープの巻き上げ等の動きを単独または併用することによって荷物を三次元空間内で移動させる。荷物の搬送経路は、クレーンの姿勢、地物の位置や形状、荷物の形状、吊り上げ位置および吊り下し位置を考慮して決定される。
【0003】
荷物の搬送経路は、クレーンの作業可能範囲内で任意に設定することができる。また、クレーンは、アクチュエータの動きの組み合わせによって荷物を移動させるため、同じ搬送経路であっても異なる組み合わせによって荷物を移動させることができる。このため、操縦者には、最適な搬送経路の決定とアクチュエータの動きの組み合わせの決定に多くの経験や高い熟練度が求められる。そこで、障害物を回避する移動経路を自動的に探索する経路探索システムが知られている。例えば特許文献1の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の経路探索システムは、障害物等が含まれる仮想空間上に複数のナビゲーションノードを生成する。さらに、経路探索システムは、ユーザーが所望する係数に基づいて開始点から目的地点までの経路を探索する。また、経路探索システムは、各ノード間の中間点に新しいナビゲーションノードを追加してノードの密度を高められる。このように構成することで、経路探索システムは、衝突を回避するための経路を緻密に計算することができる。しかし、クレーンにおいては、荷物をブームから吊り下げた状態で搬送するため、作業可能範囲の全体でノードの密度を高くすると、計算量が大幅に増加してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
荷物の搬送経路を生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路を生成することができるクレーンおよびクレーンの経路生成システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
第一の発明は、
旋回台に起伏自在かつ伸縮自在のブームを設けたクレーンであって、
荷物の重量から作業可能範囲を設定する作業可能範囲設定部と、
前記作業可能範囲において前記荷物が通過可能な複数の節点を生成する節点生成部と、
前記作業可能範囲の特定領域において前記荷物が通過可能な複数の節点を追加する節点追加部と、
前記複数の節点において隣接する節点間を結ぶ複数の経路を生成する経路生成部と、
前記複数の節点と前記複数の経路から、前記クレーンの複数のアクチュエータを作動させる優先順位に基づいて、前記荷物の搬送経路を決定する搬送経路決定部と、を備え、
前記節点追加部は、前記節点生成部が基準の設定で節点を生成した後に前記特定領域に節点を追加する、ものである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係るクレーンにおいて、
前記特定領域が、荷物の吊り上げ位置を含む所定範囲の領域または/および荷物の吊り下し位置を含む所定範囲の領域である、ものである。
【0010】
第3の発明は、第1の発明に係るクレーンにおいて、
前記特定領域が、障害物の周囲を含む所定範囲の領域である、ものである。
【0011】
第4の発明は、
旋回台に起伏自在かつ伸縮自在のブームを設けたクレーンの経路生成システムであって、
荷物の重量から作業可能範囲を設定する作業可能範囲設定部と、
前記作業可能範囲において前記荷物が通過可能な複数の節点を生成する節点生成部と、
前記作業可能範囲の特定領域において前記荷物が通過可能な複数の節点を追加する節点追加部と、
前記複数の節点において隣接する節点間を結ぶ複数の経路を生成する経路生成部と、
前記複数の節点と前記複数の経路から、前記クレーンの複数のアクチュエータを作動させる優先順位に基づいて、前記荷物の搬送経路を決定する搬送経路決定部と、を備え、
前記節点追加部は、前記節点生成部が基準の設定で節点を生成した後に前記特定領域に節点を追加する、ものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
第1の発明によれば、搬送経路の精度が求められる特定領域について節点密度を高めることができる。これにより、荷物の搬送経路を生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路を生成することができる。
【0014】
第2の発明によれば、搬送経路の精度が求められる荷物の吊り上げ位置または/および荷物の吊り下し位置を含む領域について節点密度を高めることができる。これにより、荷物の搬送経路を生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路を生成することができる。
【0015】
第3の発明によれば、搬送経路の精度が求められる障害物近傍の領域について節点密度を高めることができる。これにより、荷物の搬送経路を生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路を生成することができる。
【0016】
第4の発明によれば、搬送経路の精度が求められる特定領域について節点密度を高めることができる。これにより、荷物の搬送経路を生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】制御装置における経路生成の制御構成を示すブロック図。
【
図4】節点の分布を示す図。(A)はクレーンの上方からみた節点の分布を示し、(B)はクレーンの側方からみた節点の分布を示す図。
【
図5】節点と経路を示す図。(A)は起伏角度毎の節点と経路を示し、(B)は旋回角度毎の節点と経路を示し、(C)はブーム長さ毎の節点と経路を示す図。
【
図6】経路毎の搬送速度を基準とする重みを示す図。
【
図7】搬送経路の選択の態様を示す図。(A)は同じ旋回半径における経路の長さによる搬送経路の違いを示し、(B)は旋回半径の違いによる搬送経路の違いを示す図。
【
図8】吊り上げ位置から吊り下し位置までの搬送経路を示す図。(A)はクレーンの上方からみた搬送経路を示し、(B)は
図8(A)におけるX-X断面での搬送経路を示す図。
【
図9】吊り上げ位置で節点を追加したときの分布を示す図。(A)は節点を追加する前の節点の分布を示し、(B)は節点を追加した後の節点の分布を示す図。
【
図10】吊り上げ位置から吊り下し位置までの搬送経路を示す図。(A)はクレーンの上方からみた搬送経路を示し、(B)は
図10(A)におけるX-X断面での搬送経路を示す図。
【
図11】障害物周辺に節点を追加したときの分布を示す図。(A)はクレーンの上方からみた節点の分布を示し、(B)は
図11(A)におけるY-Y断面での節点の分布を示す図。
【
図12】サーバコンピュータにおける経路生成の制御構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、
図1と
図2を用いて、クレーン1について説明する。本願では、ラフテレーンクレーンについて説明を行うが、本願に開示する技術的思想は、オールテレーンクレーン、トラッククレーン、積載型トラッククレーン、高所作業車等にも適用できる。
【0019】
クレーン1は、車両2とクレーン装置6で構成されている。
【0020】
車両2は、左右一対の前輪3と後輪4を備えている。また、車両2は、荷物Wの搬送作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ5を備えている。なお、車両2は、その上部にクレーン装置6を支持している。
【0021】
クレーン装置6は、荷物Wをワイヤロープによって吊り上げる装置である。クレーン装置6は、旋回台8、ブーム9、メインフックブロック10、サブフックブロック11、メインウインチ13、メインワイヤロープ14、サブウインチ15、サブワイヤロープ16、キャビン17等を具備している。
【0022】
旋回台8は、クレーン装置6を旋回可能に構成する構造体である。旋回台8は、円環状の軸受を介して車両2のフレーム上に設けられる。旋回台8には、アクチュエータである旋回用油圧モータ81が設けられている。旋回台8は、旋回用油圧モータ81によって左右方向に旋回可能に構成されている。
【0023】
旋回用油圧モータ81は、電磁比例切換バルブである旋回用バルブ22によって回転操作される。旋回用バルブ22は、旋回用油圧モータ81に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、旋回台8は、旋回用バルブ22によって回転操作される旋回用油圧モータ81を介して任意の旋回速度に制御可能に構成されている。旋回台8には、旋回台8の旋回角度と旋回速度とを検出する旋回用センサ27が設けられている。
【0024】
ブーム9は、荷物Wを吊り上げ可能に構成する構造体である。ブーム9は、その基端が旋回台8の略中央に揺動可能に設けられている。ブーム9には、アクチュエータである伸縮用油圧シリンダ91と起伏用油圧シリンダ92が設けられている。ブーム9は、伸縮用油圧シリンダ91によって長手方向に伸縮可能に構成されている。また、ブーム9は、起伏用油圧シリンダ92によって上下方向に起伏可能に構成されている。さらに、ブーム9には、ブームカメラ93が設けられている。
【0025】
伸縮用油圧シリンダ91は、電磁比例切換バルブである伸縮用バルブ23によって伸縮操作される。伸縮用バルブ23は、伸縮用油圧シリンダ91に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、ブーム9は、伸縮用バルブ23によって伸縮操作される伸縮用油圧シリンダ91を介して任意の伸縮速度に制御可能に構成されている。ブーム9には、ブーム9のブーム長さと伸縮速度とを検出する伸縮用センサ28が設けられている。
【0026】
起伏用油圧シリンダ92は、電磁比例切換バルブである起伏用バルブ24によって伸縮操作される。起伏用バルブ24は、起伏用油圧シリンダ92に供給される作動油の流量を任意の流量に制御することができる。つまり、ブーム9は、起伏用バルブ24によって伸縮操作される起伏用油圧シリンダ92を介して任意の起伏速度に制御可能に構成されている。ブーム9には、ブーム9の起伏角度と起伏速度とを検出する起伏用センサ29が設けられている。
【0027】
ブームカメラ93は、荷物Wおよび地物C(
図11参照)の画像を取得する。ブームカメラ93は、ブーム9の先端部に設けられている。また、ブームカメラ93は、360°回転可能に構成され、ブーム9の先端部を中心とする全方位を撮影することができる。なお、ブームカメラ93は、後述する制御装置32に接続されている。
【0028】
メインフックブロック10とサブフックブロック11は、荷物Wを吊り上げるための部材である。メインフックブロック10には、メインフック10aが設けられている。サブフックブロック11には、サブフック11aが設けられている。
【0029】
メインウインチ13とメインワイヤロープ14は、メインフック10aに引っ掛けられた荷物Wを吊り上げるための機構である。また、サブウインチ15とサブワイヤロープ16は、サブフック11aに引っ掛けられた荷物Wを吊り上げるための機構である。メインウインチ13とサブウインチ15には、それぞれの回転量を検出する巻回用センサ26が設けられている。メインウインチ13は、電磁比例切換バルブであるメイン用バルブ25mによってメイン用油圧モータを制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。同様に、サブウインチ15は、電磁比例切換バルブであるサブ用バルブ25sによってサブ用油圧モータを制御し、任意の繰り入れおよび繰り出し速度に操作可能に構成されている。
【0030】
キャビン17は、操縦席を覆う構造体である。キャビン17の内部には、車両2を操作するための操作具やクレーン装置6を操作するための操作具が設けられている。旋回操作具18は、旋回用油圧モータ81を操作することができる。起伏操作具19は、起伏用油圧シリンダ92を操作することができる。伸縮操作具20は、伸縮用油圧シリンダ91を操作することができる。メインドラム操作具21mは、メイン用油圧モータを操作することができる。サブドラム操作具21sは、サブ用油圧モータを操作することができる。
【0031】
GNSS受信機30は、衛星から測距電波を受信し、緯度、経度、標高を算出するものである。GNSS受信機30は、キャビン17に設けられている。従って、クレーン1は、キャビン17の位置座標を取得することができる。また、車両2を基準とする方位を取得することができる。なお、GNSS受信機30は、後述する制御装置32に接続されている。
【0032】
データ通信機31は、外部のサーバコンピュータと通信を行う装置である。データ通信機31は、キャビン17に設けられている。データ通信機31は、外部のサーバコンピュータから後述する作業領域Awの空間情報および搬送作業に関する情報等を取得するように構成されている。なお、データ通信機31は、後述する制御装置32に接続されている。
【0033】
制御装置32は、各種切換バルブ(旋回用バルブ22、伸縮用バルブ23、起伏用バルブ24、メイン用バルブ25mおよびサブ用バルブ25s)を制御するコンピュータである。制御装置32は、各種切換バルブ(22、23、24、25m、25s)を制御するために種々のプログラムやデータが格納されている。また、制御装置32は、各種センサ(巻回用センサ26、旋回用センサ27、伸縮用センサ28および起伏用センサ29)に接続されている。さらに、制御装置32は、各種操作具(旋回操作具18、起伏操作具19、伸縮操作具20、メインドラム操作具21mおよびサブドラム操作具21s)に接続されている。そのため、制御装置32は、各種操作具(18、19、20、21m、21s)の操作量に対応した制御信号を生成することができる。
【0034】
このように構成されるクレーン1は、車両2を走行させることで任意の位置にクレーン装置6を移動させることができる。また、クレーン1は、ブーム9を起立させ、かつブーム9を伸長させることでクレーン装置6の揚程や作業半径を拡大することができる。そして、クレーン1は、ブーム9の旋回、起伏、伸縮およびワイヤロープ(メインワイヤロープ14、サブワイヤロープ16)の巻き上げ等の動きを単独または併用することによって荷物Wを移動させることができる。
【0035】
次に、
図3から
図8を用いて、荷物Wの搬送経路CRの自動生成について説明する。クレーン1は、建設現場等の作業領域Awに配置されているものとする。また、クレーン1は、生成された搬送経路CRに沿って自動で荷物Wを搬送するものとする。以下の説明で、位置情報とは、クレーン1の位置座標データである。機体情報とは、クレーン1の性能諸元データである。制御情報とは、クレーン1の作動状態、制御信号、各種センサの検出値等である。搬送作業に関する情報とは、吊り上げ位置Ps、吊り下し位置Pe、荷物Wの重量Wg等に関する情報である。搬送経路情報とは、荷物Wの搬送経路CR、搬送速度等である。作業領域Awの空間情報とは、作業領域Aw内の地物C等の三次元情報である。
【0036】
クレーン1は、制御装置32において荷物Wの搬送経路CRを自動生成する。制御装置32は、作業可能範囲設定部32a、節点生成部32b、衝突判定部32c、節点追加部32d、経路生成部32e、搬送経路決定部32f、搬送制御部32gを有している。なお、節点追加部32dについては後述する。
【0037】
作業可能範囲設定部32aは、荷物Wの重量Wgから作業可能範囲Arを仮想空間上に設定する。作業可能範囲設定部32aは、データ通信機31を介して外部のサーバコンピュータから搬送作業に関する情報として吊り上げ位置Ps、吊り下し位置Pe、荷物Wの重量Wgおよび作業領域Awの空間情報を取得する。そして、作業可能範囲設定部32aは、荷物Wの重量Wgからクレーン1が荷物Wを搬送することができる空間である作業可能範囲Arを算出する。
【0038】
節点生成部32bは、ブーム9の旋回中心および起伏中心を原点とする極座標系で、作業可能範囲Ar内に節点P(n)を生成する。節点生成部32bは、ブーム9のブーム長さLx(n)について所定のブーム長さ毎、ブーム9の旋回角度θy(n)について所定の角度毎、ブーム9の起伏角度θz(n)について所定の角度毎、に変化させた場合の節点P(n)を生成する。このようにして、節点生成部32bは、ブーム9が旋回、起伏、伸縮する作業領域Aw内に一様に分布する複数の節点P(n)を生成するのである。換言すると、半球状の空間である作業領域Aw内に一様に分布する複数の節点P(n)を生成するのである(nは任意の自然数)。
【0039】
衝突判定部32cは、作業領域Awの空間情報に照らし合わせて全ての節点P(n)について地物Cに重なるか否かを判定する。つまり、衝突判定部32cは、作業領域Aw内の地物Cの位置や形状を認識した上で、全ての節点P(n)について地物Cに重なるか否かを判定する。そして、地物Cに重なると判定された節点P(n)については、削除するようにプログラムされている。なお、衝突判定部32cは、地物Cに近接していると判定された節点P(n)についても、削除するようにプログラムされている。このようにしたのは、荷物Wがあまりにも地物Cに近づくのは安全性の観点から好ましくないためである。また、荷物Wの形状によっては、荷物Wが地物Cに衝突するおそれがあるからである。さらに、荷物Wの振れや回転によっても、荷物Wが地物Cに衝突するおそれがあるからである。
【0040】
経路生成部32eは、削除されることなく残った複数の節点P(n)において隣接する節点P(n)間を結ぶ複数の経路R(n)を生成する。経路生成部32eは、一の節点P(n)から隣り合う複数の他の節点P(n+1)、P(n+2)・・までの経路R(n)、R(n+1)・・を生成する。経路生成部32eは、全ての節点P(n)間に経路R(n)を生成することで、作業可能範囲Ar内で縦横無尽につながった経路網を生成する。
【0041】
具体的に説明すると、
図5(A)に示すように、経路生成部32eは、ブーム9が任意の起伏角度θz(n)である場合で、ブーム9のブーム長さを短くしたときの順となる節点P(n)、節点P(n+1)と、ブーム9が任意の起伏角度θz(n+1)である場合で、ブーム9のブーム長さを短くしたときの順となる節点P(n+2)、節点P(n+3)をそれぞれ繋いだ経路を生成する。節点P(n)と節点P(n+1)を繋ぐ経路R(n+1)は、ブーム9の伸縮によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n)と節点P(n+2)を繋ぐ経路R(n+2)は、ブーム9の起伏によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n)と節点P(n+3)を繋ぐ経路R(n+3)は、ブーム9の伸縮かつ起伏によって荷物Wが通過する経路である。
【0042】
また、
図5(B)に示すように、経路生成部32eは、ブーム9が任意の旋回角度θy(n)である場合で、ブーム9の起伏角度を大きくしたときの順となる節点P(n+4)、節点P(n+5)と、ブーム9が任意の旋回角度θy(n+1)である場合で、ブーム9の起伏角度を大きくしたときの順となる節点P(n+6)、節点P(n+7)をそれぞれ繋いだ経路を生成する。節点P(n+4)と節点P(n+5)を繋ぐ経路R(n+5)は、ブーム9の起伏によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n+4)と節点P(n+6)を繋ぐ経路R(n+6)は、ブーム9の旋回によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n+4)と節点P(n+7)を繋ぐ経路R(n+7)は、ブーム9の旋回かつ起伏によって荷物Wが通過する経路である。
【0043】
また、
図5(C)に示すように、経路生成部32eは、ブーム9が任意のブーム長さLx(n)である場合で、ブーム9の旋回角度を大きくしたときの順となる節点P(n+8)、節点P(n+9)と、ブーム9が任意のブーム長さLx(n+1)である場合で、ブーム9の旋回角度を大きくしたときの順となる節点P(n+10)、節点P(n+11)をそれぞれ繋いだ経路を生成する。節点P(n+8)と節点P(n+9)を繋ぐ経路R(n+9)は、ブーム9の旋回によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n+8)と節点P(n+10)を繋ぐ経路R(n+10)は、ブーム9の伸縮によって荷物Wが通過する経路である。節点P(n+8)と節点P(n+11)を繋ぐ経路R(n+11)は、ブーム9の旋回かつ伸縮によって荷物Wが通過する経路である。
【0044】
搬送経路決定部32fは、アクチュエータを作動させる優先順位および所定の条件を満たす荷物Wの搬送経路CRを決定する。アクチュエータを作動させる優先順位は、ブーム9を旋回させる旋回用油圧モータ81、ブーム9を起伏させる起伏用油圧シリンダ92、ブーム9を伸縮させる伸縮用油圧シリンダ91とする。また、所定の条件である第一の条件は、アクチュエータの単独作動による荷物Wの搬送時間を最小にする経路を選択することとする。さらに、所定の条件である第二の条件は、旋回半径を小さくする経路R(n)を選択することとする。なお、本実施形態において、搬送経路CRの決定は、荷物Wの高さ方向が一定である平面上の経路において実施するものとする。
【0045】
図6に示すように、経路生成部32eで生成された経路は、任意の旋回半径RAの円周上に等しい間隔で生成されている節点P(A1)、節点P(A2)、・・節点P(A6)と、任意の旋回半径RBの円周上に等しい間隔で生成されている節点P(B1)、節点P(B2)、・・節点P(B6)を互いに繋いで生成されている。節点P(A1)から節点P(A6)を繋ぐ経路を経路R(n+1)、経路R(n+2)、・・経路R(n+6)とする。節点P(B1)から節点P(B6)を繋ぐ経路を経路R(n+7)、経路R(n+8)、・・経路R(n+12)とする。また、節点P(A1)と節点P(B1)とを繋ぐ経路をR(n+13)とする。節点P(A3)と節点P(B3)とを繋ぐ経路をR(n+14)とする。経路R(n+1)から経路R(n+12)は、ブーム9の旋回によって荷物Wが搬送される経路である。経路R(n+13)と経路R(n+14)は、ブーム9の起伏または伸縮によって荷物Wが搬送される経路である。
【0046】
搬送経路決定部32fは、第一の条件を満たす経路R(n)を選択するために搬送時間に関する重みを各経路R(n)に設定する。搬送経路決定部32fは、搬送速度が最も速いブーム9の旋回によって荷物Wが搬送される経路R(n+1)から経路R(n+12)に重み1を設定する(
図6における囲み数字)。同様に、搬送経路決定部32fは、搬送速度が旋回の次に速いブーム9の起伏または搬送速度が最も遅いブーム9の伸縮によって荷物Wが搬送される経路R(n+13)と経路R(n+14)に、起伏による搬送時の重み2と伸縮による搬送時の重み3を設定する(
図6における囲み数字)。つまり、複数の経路R(n)の組み合わせから構成される搬送経路CRは、重みの合計が小さいほど搬送時間が短くなる。
【0047】
図7(A)に示すように、節点P(A1)を吊り上げ位置Psとし、節点P(A3)を吊り下し位置Peとした場合、搬送経路決定部32fは、ダイクストラ法等を用いて、節点P(A1)と節点P(A3)とを繋ぐ経路の重みが最小である経路を決定する。節点P(A1)から節点P(A3)までの経路は、優先順位の高いブーム9の旋回によって荷物Wが搬送される経路R(n+1)および経路R(n+2)を繋いだ搬送経路CR1(白塗矢印)と、経路R(n+6)、経路R(n+5)、経路R(n+4)および経路R(n+3)を繋いだ搬送経路CR2(黒塗矢印)がある。搬送経路CR1の旋回半径と搬送経路CR2の旋回半径とは、同一であるのでどちらの搬送経路CRでも第二の条件を満たす。搬送経路決定部32fは、重みの合計2の搬送経路CR1と重みの合計4の搬送経路CR2とのうち、経路の重みの合計が小さい搬送経路CR1を第一の条件を満たす搬送経路として選択する。
【0048】
図7(B)に示すように、節点P(A1)を吊り上げ位置Psとし、節点P(B3)を吊り下し位置Peとした場合、節点P(A1)から節点P(B3)までの経路は、ブーム9の旋回とブーム9の起伏によって荷物Wが搬送される経路R(n+1)、経路R(n+2)および経路R(n+14)を繋いだ旋回半径RAの搬送経路CR3(黒塗矢印)と、経路R(n+13)、経路R(n+7)および経路R(n+8)を繋ぐ旋回半径RBの搬送経路CR4(白塗矢印)がある。搬送経路決定部32fは、経路R(n+13)と経路R(n+14)に起伏による重み2を設定する。搬送経路CR3の重みの合計と搬送経路CR4の重みの合計とは、共に4であるのでどちらの搬送経路でも第一の条件を満たす。搬送経路決定部32fは、小さい旋回半径RBの搬送経路CR4を第二の条件を満たす搬送経路として選択する。
【0049】
搬送制御部32gは、アクチュエータの優先順位に基づいて決定された搬送経路CRに沿って荷物Wを搬送するようにクレーン装置6の各種切換バルブに制御信号Mdを送信する。荷物Wを搬送経路CR4で搬送する場合、搬送制御部32gは、吊り上げ位置Psである節点P(A1)からブーム9を起伏させて節点P(B1)に荷物Wを搬送させる。続けて、搬送制御部32gは、荷物Wが節点P(B1)に到達すると、ブーム9を旋回させて節点P(B2)を介して吊り下し位置Peである節点P(B3)に荷物Wを搬送させる。
【0050】
このように、クレーン1は、荷物Wの重量Wgによって定まる作業可能範囲Ar内に節点P(n)とそれらを繋ぐ経路R(n)を生成し、経路生成のためのコストを削減することができる。また、クレーン1は、荷物Wが最短時間で吊り上げ位置Psから吊り下し位置Peまで搬送される搬送経路CRと、荷物Wを搬送する際に用いるアクチュエータの組み合わせを決定できる。つまり、クレーン1は、その特性や作業可能範囲Arの状態等から定めたアクチュエータの優先順位に基づいて、第一の条件および第二の条件を満たすアクチュエータの組み合わせを選択する。これにより、アクチュエータの作動条件を考慮した最適な搬送経路CRで荷物Wを搬送することができる。
【0051】
次に、
図9および
図10を用いて、特定領域As内に節点P(n)を追加する点について説明する。作業可能範囲Ar内には、既に節点密度D0で節点P(n)が生成されているものとする。本実施形態において、特定領域Asは、荷物Wの吊り上げ位置Psを中心とする半球状の空間と吊り下し位置Peを中心とする半球状の空間とする。
【0052】
本クレーン1は、節点密度D0であるときに、衝突判定を行うものとしている(前述した衝突判定部32cが節点密度D0で分布している全ての節点P(n)について地物Cに重なるか否かを判定している)。従って、制御装置32は、荷物Wが搬送されている間、新たな節点Pa(n)を追加するために必要な計算能力を保持している。
【0053】
図9(A)に示すように、節点追加部32dは、荷物Wの搬送が開始されると、吊り上げ位置Psと吊り下し位置Peをそれぞれ中心とした所定の半径RCからなる半球状の特定領域Asを仮想空間内に設定する(薄墨部分)。そして、
図9(B)に示すように、節点追加部32dは、特定領域As内に節点密度D0よりも高い節点密度D1となるように節点Pa(n)(白塗小円参照)を追加する。この際、節点追加部32dは、節点P(n)(黒塗小円参照)に重複しない位置に節点Pa(n)を追加する。なお、節点追加部32dは、節点P(n)を生成してから所定時間を経過したこと、吊り上げ位置Psまたは吊り下し位置Peの再取得等の所定の操作が行われたこと、操縦者から節点を追加する旨の指示があったこと、またはこれらの組み合わせを条件として節点Pa(n)を追加する構成でもよい。
【0054】
その後、経路生成部32eは、特定領域Asに追加された節点Pa(n)を含む全ての節点P(n)・Pa(n)において隣接する節点P(n)・Pa(n)間を結ぶ複数の経路R(n)を生成する。特定領域Asには、周辺の領域よりも高い節点密度D1で節点P(n)・Pa(n)が配置されているので、精緻な経路網が生成される。そして、搬送経路決定部32fは、アクチュエータを作動させる優先順位および所定の条件を満たす荷物Wの搬送経路CRを新たに決定する。このため、特定領域As内においては、高精度な搬送経路CRを生成することができるのである。
【0055】
具体的に説明すると、
図10に示すように、吊り上げ位置Psの周囲に高精度な搬送経路CRを生成することができる。さらに、吊り下し位置Peの周囲に高精度な搬送経路CRを生成することができる。なお、クレーン1は、外部のサーバコンピュータから取得した吊り上げ位置Ps、吊り下し位置Peに基づいて特定領域Asを設定しているが、操縦者が入力した位置に特定領域Asが設定されるとしてもよい。また、図示しない遠隔操作端末等を介して入力した位置に特定領域Asが設定されるとしてもよい。
【0056】
このように、クレーン1は、搬送経路CRの精度が求められる荷物Wの吊り上げ位置Psまたは荷物Wの吊り下し位置Peを含む領域(特定領域As)について節点密度を高めることができる。これにより、荷物Wの搬送経路CRを生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路CRを生成することができる。
【0057】
加えて、クレーン1は、地物Cの位置や形状に基づいて特定領域Asを仮想空間内に設定することもできる。
【0058】
具体的に説明すると、
図11に示すように、地物Cの周囲に高精度な搬送経路CRを生成することができる。なお、クレーン1は、外部のサーバコンピュータから取得した地物Cの位置や形状に基づいて特定領域Asを設定しているが、操縦者が入力した位置や形状に基づいて特定領域Asが設定されるとしてもよい。また、図示しない遠隔操作端末等を介して入力した位置や形状に基づいて特定領域Asが設定されるとしてもよい。
【0059】
このように、クレーン1は、搬送経路CRの精度が求められる障害物(地物C)近傍の領域(特定領域As)について節点密度を高めることができる。これにより、荷物Wの搬送経路CRを生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路CRを生成することができる。
【0060】
最後に、クレーン1は、外部のサーバコンピュータ35に構成されている経路生成システム33によって荷物Wの搬送経路CRを決定してもよい(
図12参照)。この場合、経路生成システム33は、サーバコンピュータ側通信機34とクレーン1のデータ通信機31を介して制御装置32に接続される。経路生成システム33は、作業可能範囲設定部32a、節点生成部32b、衝突判定部32c、節点追加部32d、経路生成部32e、搬送経路決定部32fを有している。これらは、既に説明した機能を発揮する。
【0061】
このようにしても、クレーン1は、搬送経路CRの精度が求められる特定領域Asについて節点密度を高めることができる。これにより、荷物Wの搬送経路CRを生成する際の計算量を抑制しつつ、高精度な搬送経路CRを生成することができる。
【0062】
上述の実施形態は、代表的な形態を示したに過ぎず、一実施形態の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 クレーン
8 旋回台
9 ブーム
32a 作業可能範囲設定部
32b 経路生成部
32c 衝突判定部
32d 節点追加部
32e 経路生成部
32f 搬送経路決定部
32g 搬送制御部
Ar 作業可能範囲
As 特定領域
C 地物(障害物)
P(n) 節点
Pa(n) 節点
Ps 吊り上げ位置
Pe 吊り下し位置
R(n) 経路
CR 搬送経路
W 荷物
Wg 荷物の重量