(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】インダクタ部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20221018BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20221018BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01F27/29 G
H01F27/28 K
H01F17/04 F
(21)【出願番号】P 2019059026
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】塩川 登
(72)【発明者】
【氏名】泉澤 卓也
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142644(JP,A)
【文献】特開2017-085180(JP,A)
【文献】特開2016-139713(JP,A)
【文献】特開2004-146683(JP,A)
【文献】特開2001-006938(JP,A)
【文献】特開2005-347379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/29
H01F 27/28
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部と、前記巻芯部の軸方向における第1端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の前記軸方向における第2端に設けられた第2鍔部とを有するコアと、
前記第1鍔部に設けられた第1電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に電気的に接続され、前記巻芯部の軸方向に沿って並ぶ複数の巻回領域を構成するように前記巻芯部に巻回された1本のワイヤと
を備え、
隣り合う前記巻回領域の間隔は、前記各巻回領域内の前記ワイヤの巻回間隔よりも大きく、
前記複数の巻回領域は、前記第1鍔部側から前記第2鍔部側へ順に並ぶ第1巻回領域、第2巻回領域および第3巻回領域を含み、
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数
および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数
の双方と異なり、
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数
の双方よりも多い、インダクタ部品。
【請求項2】
巻芯部と、前記巻芯部の軸方向における第1端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の前記軸方向における第2端に設けられた第2鍔部とを有するコアと、
前記第1鍔部に設けられた第1電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に電気的に接続され、前記巻芯部の軸方向に沿って並ぶ複数の巻回領域を構成するように前記巻芯部に巻回された1本のワイヤと
を備え、
隣り合う前記巻回領域の間隔は、前記各巻回領域内の前記ワイヤの巻回間隔よりも大きく、
前記複数の巻回領域は、前記第1鍔部側から前記第2鍔部側へ順に並ぶ第1巻回領域、第2巻回領域および第3巻回領域を含み、
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数
および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数
の双方と異なり、
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数
の双方よりも少ない、インダクタ部品。
【請求項3】
前記コアは、誘電体であり、かつ、中実である、請求項1または2に記載のインダクタ部品。
【請求項4】
前記コアは、磁性材料からなる、請求項1から3の何れか一つに記載のインダクタ部品。
【請求項5】
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも4ターン以上多い、請求項1に記載のインダクタ部品。
【請求項6】
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、7ターンであり、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、3ターンである、請求項1または5に記載のインダクタ部品。
【請求項7】
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも3ターン以上少ない、請求項2に記載のインダクタ部品。
【請求項8】
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、1ターンであり、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、4ターンである、請求項2または7に記載のインダクタ部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタ部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インダクタ部品としては、特開2013-219088号公報(特許文献1)に記載されたものがある。このインダクタ部品は、巻芯部と第1鍔部および第2鍔部とを含むコアと、第1鍔部および第2鍔部のそれぞれに設けられた第1電極および第2電極と、第1電極および第2電極に電気的に接続され巻芯部に巻回されたワイヤとを備える。巻芯部に巻回されたワイヤは、巻芯部の軸方向に沿って並ぶ複数の巻回領域を構成する。巻回領域は、密に巻回された複数の密巻き部分と、粗く巻回された粗巻き部分とを含む。粗巻き部分は、複数の密巻き部分の間に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のインダクタ部品では、粗巻き部分の巻数を密巻き部分の巻数よりも多くする場合や少なくする場合において、自己共振周波数以下の周波数におけるL値の設定に着目するのみであり、自己共振周波数よりも高い周波数帯のS21の減衰特性における特性変動に関して制御してないため、自己共振周波数よりも高い周波数帯における減衰特性が劣化するおそれがあった。さらに、Qの高いコイルを直列に接続して減衰させる場合、それぞれのインダクタの共振周波数間において反共振(リップル)が発生するため、広帯域減衰特性が得られないことがあった。
【0005】
また、LB(600MHz~1GHz)帯、WiFi2.4~2.6GHz,5~6GHz帯のみであった現状から、将来、前記周波数帯に加えて1.5GHz~2.5GHz帯や、3~5GHz帯なども減衰する必要性が出てきており、このため音声などの低周波信号ラインにおいて、高周波信号を広帯域に減衰させる必要がでてきている。
【0006】
そこで、本開示は、自己共振周波数を超える周波数帯において減衰特性が不安定化することを抑制できるインダクタ部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本開示の一態様であるインダクタ部品は、
巻芯部と、前記巻芯部の軸方向における第1端に設けられた第1鍔部と、前記巻芯部の前記軸方向における第2端に設けられた第2鍔部とを有するコアと、
前記第1鍔部に設けられた第1電極と、
前記第2鍔部に設けられた第2電極と、
前記第1電極および前記第2電極に電気的に接続され、前記巻芯部の軸方向に沿って並ぶ複数の巻回領域を構成するように前記巻芯部に巻回されたワイヤと
を備え、
隣り合う前記巻回領域の間隔は、前記各巻回領域内の前記ワイヤの巻回間隔よりも大きい。
【0008】
前記態様によれば、隣り合う巻回領域の間隔は、各巻回領域内のワイヤの巻回間隔よりも大きいので、隣り合う巻回領域の間隔によって、各巻回領域(分布L性)間の線間容量(分布C性)を調整して反共振周波数を設定できる。このため、広帯域において高減衰特性を得ることができ、または、広帯域において低リップルとなる減衰特性を得ることができる。したがって、自己共振周波数を超える周波数帯において減衰特性が不安定化することを抑制できる。
【0009】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記コアは、誘電体であり、かつ、中実である。
【0010】
前記実施形態によれば、コアは、誘電体であり、かつ、中実であるので、コアによる磁心損失を増加して、Q値を低下できる。これにより、共振が鈍って、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができる。
【0011】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記コアは、磁性材料からなる。
【0012】
前記実施形態によれば、コアは、磁性材料からなるので、コアによる磁心損失を増加して、Q値を低下できる。これにより、共振が鈍って、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができる。
【0013】
また、インダクタ部品の一実施形態では、
前記複数の巻回領域は、前記第1鍔部側から前記第2鍔部側へ順に並ぶ第1巻回領域、第2巻回領域および第3巻回領域を含み、
前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数又は前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数と異なる。
【0014】
前記実施形態によれば、第2巻回領域のワイヤの巻回数は、第1巻回領域のワイヤの巻回数又は第3巻回領域のワイヤの巻回数と異なるので、線間容量(分布C性)だけでなく、巻回数によって(分布L性)も調整でき、反共振周波数の設定の自由度が向上し、より広帯域において高減衰特性または低リップルとなる減衰特性を得ることができる。
【0015】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも多い。
【0016】
前記実施形態によれば、反共振周波数を低い帯域に設定でき、広帯域において高減衰特性を得ることができる。
【0017】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも4ターン以上多い。
【0018】
前記実施形態によれば、4GHz前後(3GHz~5GHz帯)においても高減衰特性を維持できる。
【0019】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、7ターンであり、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、3ターンである。
【0020】
前記実施形態によれば、4GHz前後(3GHz~5GHz帯)においても高減衰特性を維持できる。
【0021】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも少ない。
【0022】
前記実施形態によれば、反共振周波数を高い帯域に設定でき、広帯域において低リップルとなる減衰特性を得ることができる。
【0023】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数よりも3ターン以上少ない。
【0024】
前記実施形態によれば、15GHz前後(14GHz~16GHz帯)においても低リップルとなる減衰特性を確保できる。
【0025】
また、インダクタ部品の一実施形態では、前記第2巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、1ターンであり、前記第1巻回領域における前記ワイヤの巻回数および前記第3巻回領域における前記ワイヤの巻回数は、4ターンである。
【0026】
前記実施形態によれば、15GHz前後(14GHz~16GHz帯)においても低リップルとなる減衰特性を確保できる。
【発明の効果】
【0027】
本開示の一態様であるインダクタ部品によれば、自己共振周波数を超える周波数帯において減衰特性が不安定化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】インダクタ部品の第1実施形態を示す下面側からみた斜視図である。
【
図2】第1実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図3】第2実施例と比較例における周波数とS21の関係を示すグラフである。
【
図4A】第3、第4実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図4B】第5、第6実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図5】インダクタ部品の第2実施形態を示す下面側からみた斜視図である。
【
図6】実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を示すグラフである。
【
図7】実施例と比較例における周波数とS21の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示の一態様であるインダクタ部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0030】
(第1実施形態)
図1は、インダクタ部品の第1実施形態を示す下面側からみた斜視図である。
図1に示すように、インダクタ部品1は、コア10と、コア10に設けられた第1電極31および第2電極32と、コア10に巻回され第1電極31および第2電極32に電気的に接続されたワイヤ21とを備える。
【0031】
コア10は、一定方向に延びる形状である巻芯部13と、巻芯部13の延びる方向の第1端に設けられ、当該方向と直交する方向に張り出す第1鍔部11と、巻芯部13の延びる方向の第2端に設けられ、当該方向と直交する方向に張り出す第2鍔部12とを有する。巻芯部13の形状、第1鍔部11の形状および第2鍔部12の形状は、例えば、直方体であるがこれに限らず、他の形状、例えば、五角柱や六角柱など、直方体以外の多角柱、円柱であっても構わない。また、一部が湾曲面であっても構わない。以下の説明において、巻芯部13の延びる方向を巻芯部13の軸方向と称する。巻芯部13の軸方向は、ワイヤ21の巻回軸方向と言い換えることもできる。
【0032】
コア10の材料としては、例えば、フェライトの焼結体や、磁性粉含有樹脂の成型体などの磁性材料が好ましく、アルミナや、非磁性粉含有樹脂又はフィラーを含有しない樹脂などの非磁性材料であってもよい。また、セラミックスの焼結体、ガラスなどの非晶質固体やSiを主原料とする結晶体、樹脂などの成形体などの誘電体であってもよい。コア10は、中実であるが、中空(空芯)であってもよい。なお、以下では、コア10の下面を、実装基板に実装される面とする。
【0033】
第1電極31は、第1鍔部11の下面に設けられ、第2電極32は、第2鍔部12の下面に設けられる。第1電極31および第2電極32は、例えば、銀(Ag)を導電成分とする導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって形成したり、ニッケル(Ni)-クロム(Cr)、ニッケル(Ni)-銅(Cu)をスパッタリングすることによって形成したりする。また、必要に応じてめっき膜がさらに形成されてもよい。めっき膜の材料としては、例えば錫(Sn)、Cu、Ni等の金属や、Ni-Sn等の合金を用いることができる。なお、めっき膜を多層構造としてもよく、2種類以上のめっきを用いてもよい。
【0034】
ワイヤ21は、巻芯部13に巻回されてコイルを構成する。ワイヤ21は、例えば銅などの金属からなる導線がポリウレタンやポリアミドイミドなどの樹脂からなる被膜で覆われた絶縁被膜付導線である。ワイヤ21の一端は、第1電極31と電気的に接続され、ワイヤ21の他端は、第2電極32と電気的に接続されている。ワイヤ21と第1、第2電極31,32とは、例えば熱圧着、ろう付け、溶接などによって接続される。
【0035】
インダクタ部品1は、実装基板に実装される際、第1鍔部11の下面および第2鍔部12の下面が実装基板に対向する。このとき、巻芯部13の軸方向は、実装基板の主面と平行となる。すなわち、インダクタ部品1は、ワイヤ21の巻回軸が実装基板と平行となる横巻型である。
【0036】
インダクタ部品1は、二点鎖線に示すカバー部材60をさらに有していてもよい。カバー部材60は、巻芯部13に巻回されたワイヤ21を覆うように、巻芯部13の上面および側面に設けられている。カバー部材60の材料としては、例えば、エポキシ系の樹脂を用いることができる。カバー部材60は、例えば、インダクタ部品1を実装基板に実装する際に、吸引ノズルによる吸着が確実に行えるようにする。また、カバー部材60は、吸引ノズルによる吸着時にワイヤ21に傷がつくのを防止する。なお、カバー部材60に磁性材料を用いることで、インダクタ部品1のインダクタンス値(L値)を向上することができる。なお、カバー部材60が設けられるのは、巻芯部13の上面および側面に限られるわけではなく、たとえば巻芯部13の上面に設けられ、巻芯部13の側面を覆っていなくてもよい。
【0037】
巻芯部13に巻回されたワイヤ21は、巻芯部13の軸方向に沿って並ぶ複数の巻回領域Z1,Z2,Z3を構成する。全ての巻回領域Z1,Z2,Z3において、隣り合う巻回領域Z1とZ2の間隔、および、隣り合う巻回領域Z2とZ3の間隔は、各巻回領域Z1,Z2,Z3内のワイヤ21の巻回間隔よりも大きい。ここで、巻回領域とは、ワイヤ21の巻回方向が巻芯部13の軸に対して一定角度となるように、ワイヤ21が巻芯部13に巻回されている領域をいう。隣り合う巻回領域を接続するワイヤの巻回方向の角度は、巻回領域におけるワイヤの巻回方向の角度よりも拡大されている。
【0038】
具体的に述べると、複数の巻回領域Z1,Z2,Z3は、第1鍔部11側から第2鍔部12側へ順に並ぶ第1巻回領域Z1、第2巻回領域Z2および第3巻回領域Z3を含む。第1巻回領域Z1と第2巻回領域Z2の間隔および第2巻回領域Z2と第3巻回領域Z3の間隔は、各巻回領域Z1,Z2,Z3内のワイヤ21のターンピッチよりも大きい。
第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数又は第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数と異なる。第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数よりも多い。なお、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数と、第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数とは同じとしてもよい。
【0039】
前記インダクタ部品1によれば、隣り合う巻回領域Z1,Z2,Z3の間隔は、各巻回領域Z1,Z2,Z3内の巻回間隔よりも大きいので、隣り合う巻回領域Z1,Z2,Z3の間隔によって、各巻回領域(分布L性)間の線間容量(分布C性)を調整して反共振周波数を設定できる。そして、本実施形態では、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数よりも多いので、反共振周波数を低い帯域に設定でき、広帯域において高減衰特性を得ることができる。したがって、自己共振周波数を超える周波数帯において減衰特性が不安定化することを抑制できる。
また、LB(600MHz~1GHz)帯、WiFi2.4~2.6GHz,5~6GHz帯のみであった現状から、将来、前記周波数帯に加えて1.5GHz~2.5GHz帯や、3~5GHz帯なども減衰する必要性が出てきており、前記インダクタ部品1を用いることで、音声などの低周波信号ラインにおいて、高周波信号を広帯域に減衰させることができる。
【0040】
さらに詳しく述べると、インダクタの自己共振周波数(SRF)以下の周波数帯におけるインダクタの電磁界分布としては、コイル全体のインダクタンス成分(L性)とキャパシタンス成分(C性)が寄与する構成となっており、その結果として自己共振点が発現している。そして、高周波、特にインダクタのSRFよりも高い周波数帯において、インダクタの振る舞いは分布定数的振る舞いをしており、インダクタのワイヤの巻回領域は、L性とC性が部分的に機能している状態となる。また、SRF以降、複数の反共振周波数が存在するが、SRFに近い順に第1反共振周波数と定義する際に、SRFと第1反共振周波数間の電磁界分布はL性+C性+L性といった構成で振舞っている。
【0041】
そして、インダクタ部品1において、C性はコイルを形成しているワイヤの線間容量であり、反共振周波数はC性の寄与が支配的であるため、中央の第2巻回領域Z2の巻回数により所望の反共振周波数が得られる。したがって、反共振周波数を従来構造よりも低い周波数に設計することにより、高インピーダンスの周波数帯域を広げ、優れた減衰特性を得ることができる。
【0042】
前記インダクタ部品1によれば、第2巻回領域Z2のワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1のワイヤ21の巻回数又は第3巻回領域Z3のワイヤ21の巻回数と異なるので、線間容量(分布C性)だけでなく、巻回数によって(分布L性)も調整でき、反共振周波数の設定の自由度が向上する。
【0043】
好ましくは、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数よりも4ターン以上多い。さらに好ましくは、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、7ターンであり、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数は、3ターンである。これによれば、4GHz前後(3GHz~5GHz帯)においても高減衰特性を維持できる。
ここで、各巻回領域におけるワイヤの巻回数(ターン)は、ワイヤ21が巻芯部13に1周巻回されていることをもって1ターンという。ただし、各巻回領域における巻き始め側または巻き終わり側に巻回されているワイヤ21においては巻芯部13の半分以上に巻回されている場合、1ターンとみなす。この実施形態では、各巻回領域における巻き始め側または巻き終わり側に巻回されているワイヤ21が巻芯部13の下面を除く面(3面)において巻回されていれば半分以上巻回されているといえるため、1ターンとみなすことができる。つまり、巻芯部13の下面で3ターンであっても、巻き始め側または巻き終わり側において巻芯部13の下面を除く面(3面)で4ターン巻回されていれば、このときのワイヤの巻回数は、4ターンである。なお、巻芯部13が円柱である場合には、円周の半分以上にワイヤ21が巻回されているときは1ターンとみなすことができる。巻芯部13が多角柱である場合には、巻芯部13の軸方向と直交する断面における外周の半分以上にワイヤ21が巻回されているときは1ターンとみなすことができる。
【0044】
好ましくは、コア10は、誘電体であり、かつ、中実である。これによれば、コアによる磁心損失を増加して、Q値を低下できる。これにより、共振が鈍って(共振点におけるインピーダンスのピークがなだらかになって)、インピーダンスの低下量が緩やかになり、共振間のインピーダンスの低下が判別し難くなる。このため、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができる。
【0045】
好ましくは、コア10は、フェライトなどの磁性材料からなる。これによれば、コアによる磁心損失を増加して、Q値を低下できる。これにより、共振が鈍って、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができる。
【0046】
なお、誘電体の中実のコアや磁性材料のコアを用いる以外に、磁心損失が大きくなるような構成であれば如何なる構成であってもよい。例えば、カバー部材60に磁性粉を用いることで、磁心損失を大きくしてQ値を低下するようにしてもよい。
【0047】
以下、前記第1実施形態の実施例を説明する。
【0048】
第1実施例として、コアにアルミナを用い、コアを中空とした。このコアにおいて、比誘電率Erは100で、比透磁率μrは1で、損失係数tanδは0であった。第2巻回領域Z2の巻回数は、5ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、4ターンであった。比較例として、コアにワイヤを等間隔に13ターン巻回し、複数の巻回領域を設けなかった。
【0049】
第1実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を
図2に示す。
図2では、第1実施例をL1で示し、比較例をL0で示す。
図2に示すように、L1では、L0に比べて、反共振周波数を低い周波数にずらすことができ、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができた。
【0050】
第2実施例として、コアに非磁性フェライトを用い、コアを中実とした。このコアにおいて、比誘電率Erは100で、比透磁率μrは1で、損失係数tanδは2であった。第2巻回領域Z2の巻回数は、5ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、4ターンであった。比較例として、コアにワイヤを等間隔に13ターン巻回し、複数の巻回領域を設けなかった。
【0051】
第2実施例と比較例における周波数とS21の関係を
図3に示す。
図3では、第2実施例をL2で示し、比較例をL0で示す。
図3に示すように、L2では、L0に比べて、Q値の低下により共振が鈍って、広帯域において連続的に高減衰特性を得ることができた。
【0052】
第3から第6実施例として、コアにアルミナを用い、コアを中空とした。このコアにおいて、比誘電率Erは100で、比透磁率μrは1で、損失係数tanδは0であった。第3実施例では、第2巻回領域Z2の巻回数は、1ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、11ターンであった。第4実施例では、第2巻回領域Z2の巻回数は、9ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、2ターンであった。第5実施例では、第2巻回領域Z2の巻回数は、7ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、3ターンであった。第6実施例では、第2巻回領域Z2の巻回数は、5ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、4ターンであった。比較例として、コアにワイヤを等間隔に13ターン巻回し、複数の巻回領域を設けなかった。
【0053】
第3から第6実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を
図4Aと
図4Bに示す。
図4Aと
図4Bでは、第3実施例をL3で示し、第4実施例をL4で示し、第5実施例をL5で示し、第6実施例をL6示し、比較例をL0で示す。
図4Aと
図4Bに示すように、L3~L6では、L0に比べて、反共振周波数を低い周波数にずらすことができ、高インピーダンスの周波数帯域を広げることができた。また、第3から第6実施例L3~L6において、L6が最も高い効果を有し、続いてL5が高い効果を有し、続いてL4が高い効果を有し、続いてL3が高い効果を有した。
【0054】
(第2実施形態)
図5は、インダクタ部品の第2実施形態を示す下面側からみた斜視図である。第2実施形態は、第1実施形態とは、巻回領域の巻回数が相違する。この相違する構成を以下に説明する。その他の構成は、第1実施形態と同じ構成であり、第1実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0055】
図5に示すように、第2実施形態のインダクタ部品1Aでは、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数よりも少ない。これによれば、反共振周波数を高い帯域に設定でき、広帯域において低リップルとなる減衰特性を得ることができる。したがって、自己共振周波数を超える周波数帯において減衰特性が不安定化することを抑制できる。
【0056】
好ましくは、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数よりも3ターン以上少ない。さらに好ましくは、第2巻回領域Z2におけるワイヤ21の巻回数は、1ターンであり、第1巻回領域Z1におけるワイヤ21の巻回数および第3巻回領域Z3におけるワイヤ21の巻回数は、4ターンである。これによれば、15GHz前後(14GHz~16GHz帯)においても低リップルとなる減衰特性を確保できる。
【0057】
以下、前記第2実施形態の実施例を説明する。
【0058】
実施例として、コアにアルミナを用い、コアを中空とした。このコアにおいて、比誘電率Erは10で、比透磁率μrは1で、損失係数tanδは0であった。第2巻回領域Z2の巻回数は、1ターンであり、第1巻回領域Z1の巻回数および第3巻回領域Z3の巻回数は、4ターンであった。比較例として、コアにワイヤを等間隔に9ターン巻回し、複数の巻回領域を設けなかった。
【0059】
実施例と比較例における周波数とインピーダンスの関係を
図6に示し、実施例と比較例における周波数とS21の関係を
図7に示す。
図6と
図7では、実施例をL11で示し、比較例をL10で示す。
図6に示すように、L11では、L10に比べて、反共振周波数を高い周波数にずらすことができ、この結果、
図7に示すように、L11では、L10に比べて、広帯域において低リップルとなる減衰特性を得ることができた。
【0060】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。例えば、第1と第2実施形態のそれぞれの特徴点を様々に組み合わせてもよい。
【0061】
前記実施形態では、ワイヤは、1本であるが、2本以上を並列接続してもよい。前記実施形態では、電極は、2つであるが、中間タップを設けて3つ以上としてもよい。前記実施形態では、巻回領域の数量は、3つであるが、4つ以上であってもよく、隣り合う巻回領域の間隔は、各巻回領域内のワイヤの巻回間隔よりも大きければよい。
【符号の説明】
【0062】
1、1A インダクタ部品
10 コア
11 第1鍔部
12 第2鍔部
13 巻芯部
21 ワイヤ
31 第1電極
32 第2電極
60 カバー部材
Z1 第1巻回領域
Z2 第2巻回領域
Z3 第3巻回領域