(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】多孔複合フィルム、電池用セパレータ、及び多孔複合フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/489 20210101AFI20221018BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20221018BHJP
B32B 5/32 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20221018BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20221018BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20221018BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221018BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20221018BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/426
H01M50/417
B32B5/32
B32B27/30 D
B32B27/32 Z
B05D7/24 302L
B05D7/24 301B
B05D7/04
B05D7/00 B
B05D7/24 303B
B32B27/20 Z
B05D3/10 F
B05D3/10 Z
B32B7/025
H01M50/451
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/443 M
(21)【出願番号】P 2019523884
(86)(22)【出願日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2018035947
(87)【国際公開番号】W WO2019065845
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017191839
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 貴之
(72)【発明者】
【氏名】増田 昇三
(72)【発明者】
【氏名】清水 泰樹
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/021291(WO,A1)
【文献】特開2012-084278(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033993(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018483(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/126079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40 - 50/497
B32B 5/32
B32B 27/30
B32B 27/32
B05D 7/24
B05D 7/04
B05D 7/00
B32B 27/20
B05D 3/10
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材がポリオレフィンであって、多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を積層した次のa)~b)を特徴とする多孔複合フィルム。
a)多孔質層の断面空隙面積分布のD50の値が、0.060μm
2未満かつD90の値が
0.110μm
2
以上0.200μm
2未満である。
b)多孔質層を形成する樹脂がフッ素含有樹脂である。
【請求項2】
前記多孔質層がセラミックを含む、請求項1に記載の多孔複合フィルム。
【請求項3】
前記多孔質層が前記フッ素含有樹脂としてフッ化ビニリデン単位を含む重合体を含む、請求項1または2に記載の多孔複合フィルム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔複合フィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔複合フィルムを製造する方法であって、
フッ素含有樹脂を溶媒に溶解した塗工液を多孔質基材の少なくとも片面に塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜が形成された多孔質基材を水を含む凝固液に浸漬して前記フッ素含有樹脂を凝固させて多孔質層を形成し、前記多孔質基材上に該多孔質層が形成された多孔複合フィルムを得る工程と、
前記多孔複合フィルムを水洗する工程と、
水洗後の前記多孔複合フィルムを乾燥する工程を含み、
塗工液の粘度が600cP以上1000cP以下、塗膜の厚みが5μm以上25μm以下、前記凝固液の温度が30℃以下であり、かつ前記凝固液中の前記溶媒の濃度が22%以上であることを特徴とする、多孔複合フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔複合フィルム、電池用セパレータ、及び多孔複合フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、繰返しの充放電可能な高容量電池として、携帯電話やノートパソコン等の電子機器の高性能化や長時間作動を可能としてきた。最近では、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の環境対応車の駆動用バッテリーとして搭載され、さらなる高性能化が期待されている。
リチウムイオン二次電池を高性能化するため、電池の小型化、電池容量の高容量化等、種々の電池特性の改良のための検討が、電池を構成する各種材料について行われている。
その一つとして、正極と負極の間に配置されるセパレータについても、これまで種々の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂を含むポリオレフィン系多孔質基材と、この多孔質基材の少なくとも片面に設けられた、ポリフッ化ビニリデン樹脂からなる接着性樹脂を含む接着性多孔質層を備えた複合膜が開示されている。多孔質基材の曲路率、接着性多孔質層の平均孔径、多孔質基材及び複合膜のガーレ値を特定の範囲に設定することにより、電極との接着性、イオン透過性、及びシャットダウン特性に優れた非水電解質電池用セパレータを提供することができると記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電池用セパレータでは塗布量に対する多孔質層の厚みが厚くなる(つまり、多孔質層の密度が小さい)ため、そのセパレータを用いた電池は膨れやすくなり、スマートフォンなどの電子機器に搭載したときにその膨れによって電子部材を圧迫する恐れがある。また、多孔質層を同一の厚みで形成したとき、密度が小さいため、耐熱性をセパレータに付与する多孔質層中の樹脂またはセラミックが減少し、十分な耐熱性を発現できない恐れがある。
このような課題を鑑みて、塗布量に対する多孔質層の厚みが薄く、膨張しにくく、緻密構造による同一厚みでの耐熱性に優れた電池のセパレータに好適な多孔複合フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
ここで、塗布量に対する多孔質層の厚みが薄く、膨張しにくいとは、多孔質層の厚みを塗膜厚みで序した厚み比が0.13以下であり、その多孔複合フィルムをセパレータに用いたセルの0サイクル目の厚みを1000サイクル目のセルの厚みで序してパーセント換算した膨張率が8%以下であることをいう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは鋭意検討の結果、多孔質基材と多孔質層とを備える多孔複合フィルムにおいて、多孔質層の断面空隙面積分布が、塗布量に対する多孔質層の厚みが薄く、膨張しにくく、緻密構造による同一厚みで耐熱性に優れたセパレータとなる因子であることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、多孔質基材がポリオレフィンであって、多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を積層した次の要件a)、b)を特徴とする多孔複合フィルムである。
a)多孔質層の断面空隙面積分布のD50の値が、0.060μm2未満かつD90の値が0.200μm2未満である。
b)多孔質層を形成する樹脂がフッ素含有樹脂である。
また本発明は、本発明の多孔複合フィルムを用いた電池用セパレータである。
また本発明は、本発明の多孔複合フィルムを製造する方法であって、
フッ素含有樹脂を溶媒に溶解した塗工液を多孔質基材の少なくとも片面に塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜が形成された多孔質基材を水を含む凝固液に浸漬して前記フッ素含有樹脂を凝固(相分離)させて多孔質層を形成し、前記多孔質基材上に該多孔質層が形成された多孔複合フィルムを得る工程と、
前記多孔複合フィルムを水洗する工程と、
水洗後の前記多孔複合フィルムを乾燥する工程を含み、
前記塗工液の粘度が600cP以上1000cP以下、前記塗膜の厚みが5μm以上25μm以下、前記凝固液の温度が30℃以下であり、かつ前記凝固液中の前記溶媒の濃度が22%以上であることを特徴とする、多孔複合フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗布量に対する多孔質層の厚みが薄く、膨張しにくく、緻密構造による同一厚みでの耐熱性に優れたセパレータに好適な多孔複合フィルム及びその多孔複合フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態による多孔複合フィルムの製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態による多孔複合フィルムは、ポリオレフィン多孔質基材と、この多孔質基材の少なくとも片面に設けられた多孔質層を有し、この多孔質層は、フッ素含有樹脂を含み、以下の要件を満たす。
a)前記多孔質層の断面空隙面積分布のD50の値が、0.060μm2未満かつD90の値が0.200μm2未満である。
b)多孔質層を形成する樹脂がフッ素含有樹脂である。
【0012】
この多孔複合フィルムは、電池のセパレータとして好適に用いることができ、例えばリチウムイオン電池のセパレータとして用いた場合、多孔質基材の両面に多孔質層が設けられていることが好ましい。
本実施形態による多孔複合フィルムの多孔質基材と多孔質層は共に、リチウムイオンの伝導に好適な空隙を有する。この空隙に電解液を保持することによりリチウムイオンを伝導することができる。
【0013】
(多孔質層の断面空隙面積分布のD50及びD90)
多孔質層の断面空隙面積分布は、多孔複合フィルムの空隙とフィブリルが適度に混在し、塗膜の厚みに対する多孔質層の厚みが薄く、セルの膨張率が低く、耐熱性が保たれる観点から、D50の値が0.060μm2未満かつD90の値が0.200μm2未満であり、D50の値は0.053μm2以下が好ましく、D90の値は0.161μm2以下が好ましい。
多孔質層の断面空隙面積分布のD50の値及びD90の値が、上記好ましい範囲内であると、多孔質層の空隙サイズが大きくなりすぎず、多孔質層の厚みの増加とセルの膨張を防ぐことができる。また、厚みが同一の多孔層の場合、耐熱性を発現する多孔層の樹脂または空隙が緻密に存在するため耐熱性が向上する。D50の値及びD90の値の下限値は特に規定しないが、多孔質層の空隙サイズが小さくなることによる電解液注液性の低下の観点から、D50の値が、好ましくは0.037μm2以上、より好ましくは0.040μm2以上であり、D90の値が、好ましくは0.053μm2以上、より好ましくは0.110μm2以上である。
【0014】
(多孔質層のフッ素含有樹脂)
多孔質層がフッ素含有樹脂を含むことで、電解液の注液性に優れた多孔複合フィルムを得ることができる。本実施形態による多孔複合フィルムをリチウムイオン電池のセパレータに用いた場合、電池の生産性を向上できる。
フッ素含有樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンからなる重合単位種の群から選択される少なくとも1つの重合単位を含む、単独重合体又は共重合体が好ましく、フッ化ビニリデン単位を含む重合体(ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン共重合体)がより好ましい。特に、電解液に対する膨潤性の観点から、フッ化ビニリデンと他の重合単位からなるフッ化ビニリデン共重合体が好ましく、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体が好ましい。
【0015】
(多孔質層のセラミック)
本実施形態による多孔複合フィルムは、その多孔質層にセラミックを含んでいてもよい。このセラミックとしては、例えば、二酸化チタン、シリカ、アルミナ、シリカ―アルミナ複合酸化物、ゼオライト、マイカ、ベーマイト、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛が挙げられる。
【0016】
(セラミックの平均粒子径)
セラミックの平均粒子径は、好ましくは0.5μm~2.0μmの範囲に設定でき、0.5μm~1.5μmの範囲がより好ましい。ただし、セラミックの平均粒子径が多孔質層の厚みを上限として、セラミックの平均粒子径を選択することが好ましい。なお、本発明において「~」は以上、以下を表す。
【0017】
(多孔質層のセラミックの重量比率)
セラミックの含有量は、フッ素含有樹脂とセラミックの総重量に対して50重量%~90重量%が好ましく、より好ましくは60重量%~80重量%である。
【0018】
(多孔質層の断面空隙の平均面積A1)
本実施形態による多孔複合フィルムは、その多孔質層の空隙径の平均値に関係する、断面空隙の平均面積A1の上限値は、電池の膨張率を抑える点から、0.040μm2以下であることが好ましい。下限は特に規定はしないが、電解液の注液性の観点から、多孔質層の断面空隙の平均面積A1が、0.026μm2以上が好ましく、0.031μm2以上がより好ましい。
【0019】
(多孔質層の厚み)
本実施形態による多孔複合フィルムの多孔質層の膜厚は、好ましくは1~5μmの範囲に設定でき、1~4μmの範囲がより好ましく、1~3μmの範囲が更に好ましい。多孔質層の厚みをこのような範囲に設定することで、必要最小限の厚みで、十分な多孔質層の形成効果と電池膨張率が低く耐熱性に優れた電池を得ることができる。
【0020】
(多孔複合フィルムの厚み)
本実施形態による多孔複合フィルムの全体の厚みは、好ましくは4μm~30μmの範囲に設定でき、4μm~24μmの範囲がより好ましい。このような範囲に厚みを設定することで、できるだけ薄膜にしながらも、機械強度と絶縁性を確保することができる。
【0021】
(多孔質基材)
本実施形態による多孔複合フィルムの多孔質基材は、ポリオレフィン多孔質膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレンが好ましい。また、単一物または2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンの混合物であってもよい。また、ポリオレフィンは単独重合体であっても共重合体であってもよく、例えばポリエチレンはエチレンの単独重合体でもよいし、他のαオレフィンの単位を含む共重合体であってもよく、ポリプロピレンはプロピレンの単独重合体であってもよく、他のαオレフィンの単位を含む共重合体であってもよい。多孔質基材は単層膜であっても二層以上の複数の層からなる積層膜であってもよい。
ポリオレフィン多孔質膜とは、ポリオレフィン多孔質膜中におけるポリオレフィン樹脂の含有量が55~100質量%である多孔質膜を意味する。ポリオレフィン樹脂の含有量が55質量%未満であると、十分なシャットダウン機能が得られないことがある。
多孔質基材の厚みは、3μm~25μmの範囲にあることが好ましく、3~20μmの範囲がより好ましい。このような厚みを有することにより、十分な機械的強度と絶縁性が得られ、また十分なイオン伝導性を得ることができる。
【0022】
(多孔複合フィルムの製造方法)
本実施形態による多孔複合フィルムの製造方法は、次の特徴を有する。
フッ素含有樹脂を溶媒に溶解した塗工液を多孔質基材の少なくとも片面に塗工して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜が形成された多孔質基材を水を含む凝固液に浸漬して前記フッ素含有樹脂を凝固させて多孔質層を形成し、前記多孔質基材上に該多孔質層が形成された多孔複合フィルムを得る工程と、
前記多孔複合フィルムを水洗する工程と、
水洗後の前記多孔複合フィルムを乾燥する工程を含み、
塗工液の粘度が600cP以上1000cP以下、塗膜の厚みが5μm以上25μm以下、前記凝固液の温度が30℃以下であり、かつ前記凝固液中の前記溶媒の濃度が22質量%以上である、多孔複合フィルムの製造方法。
【0023】
本実施形態による多孔複合フィルムの製造方法の一例を
図1を用いて以下に説明する。この製造方法では、多孔質基材が通過できるギャップを有するヘッドを用いて、多孔質基材の両面に塗工液(ワニス)を塗布(ディップコート)し、続いて凝固、洗浄、乾燥を経て、多孔質基材の両面に多孔質層が形成された多孔複合フィルムを得る。
まず、巻出ロール1より巻き出された多孔質基材は、ディップヘッド2へ、その上方から供給され、ディップヘッド2の下部にあるギャップを通過して下方へ引き出され、続いて凝固/水洗槽3へ供給される。このディップヘッド2は、通過する多孔質基材の両面にディップコートできるように塗工液を収容できる。引き出された多孔質基材の両面には塗膜が形成され、この塗膜の厚みは、ディップヘッド2のギャップのサイズと搬送速度等で制御できる。
【0024】
塗工液の溶媒としては、フッ素含有樹脂を溶解でき、かつ水等の凝固液(相分離液)と混和(任意の濃度で相溶)可能な良溶媒を用いることができる。このような良溶媒とこの良溶媒に溶解したフッ素含有樹脂を含む塗工液が塗布された多孔質基材が、凝固/水洗槽中の凝固液中に入ると、塗膜中の樹脂と良溶媒が相分離し、樹脂が凝固して多孔質層が形成される。
良溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられ、樹脂の溶解性に合わせて自由に選択できる。良溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が好ましい。
【0025】
塗工液の粘度は、600mPa・s~1000mPa・sの範囲で任意に設定することができる。塗工液の粘度はB型粘度計で測定した粘度である。
塗工液の粘度を600mPa・s~1000mPa・sの範囲にすることで、相分離時の非溶媒の拡散速度を制御することができるため、所望の多孔質層を形成することができる。
塗工液のフッ素含有樹脂の濃度は、2重量%~7重量%の範囲にあることが好ましく、3重量%~6重量%の範囲がより好ましい。
また、塗膜の厚みは5μm以上25μm以下(片面)に設定することができる。塗膜の厚みの幅方向(フィルムの進行方向に垂直な方向)のばらつきが±10%以下が好ましい。
【0026】
図1には、ディップヘッド2を用いたディップコート方式を示しているが、多孔質基材の片面に粘度600mPa・s以上1000mPa・s以下の塗工液を塗膜の厚み5μm以上25μm以下で塗布でき、その幅方向の厚みバラツキが±10%となるように塗布できるのであれば、種々の塗工方式を採用できる。例えば、一般的なディップコート、キャスト、スピンコート、バーコート、スプレー、ブレードコート、スリットダイコート、グラビアコート、リバースコート、リップタイレクト、コンマコート、スクリーン印刷、鋳型塗布、印刷転写、インクジェットなどのウエットコート法等を挙げることができる。特に、連続的かつ例えば塗工速度30m/分以上で塗工する場合は、高粘度、薄膜、高速塗工に適した、かき取り方式であるリップダイレクト方式やコンマコート方式、ディップコート方式が好ましい。さらに、両面同時に多孔質層を形成できるという点から、ディップコート方式がより好ましい。ディップコート方式を採用することで、80m/分以上の速度で塗工することが可能になる。
連続的にコーティングを行う場合、搬送速度は例えば5m/分~100m/分の範囲に設定でき、生産性と塗膜の厚みの均一性等の点から、塗工方式に応じて適宜設定することができる。
【0027】
凝固液としては、水又は水を主成分として含む水系溶液が好ましく、良溶媒の凝固液中の濃度の下限は22質量%以上(すなわち水の含有量が78質量%以下)とする必要があり、24質量%以上(すなわち水の含有量が76質量%以下)が好ましい。良溶媒の凝固液中の濃度の上限は特に規定はしないが電解液注液性の観点から60質量%以下(すなわち水の含有量が40質量%以上)が好ましく、40質量%以下(すなわち水の含有量が60質量%以上)がより好ましい。
ディップヘッドで塗膜が形成された多孔質基材は、凝固/水洗槽内の凝固液中に浸漬される。
【0028】
凝固液の温度は、30℃以下に設定する必要があり、好ましくは28℃以下であり、より好ましくは25℃以下である。このような温度範囲に設定すると、凝固液中で塗膜が適度な相分離速度で相分離して所望の多孔質層を形成でき、また温度制御がしやすくなる。一方、凝固液の温度の下限は、凝固液が液状を保てる範囲(凝固点より高い温度)であればよいが、温度制御や相分離の速度の点から、10℃以上が好ましい。
凝固/水洗槽内の凝固液中での浸漬時間は、3秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましい。浸漬時間の上限は特に制限されないが、10秒間浸漬していれば十分な凝固が達成できる。
【0029】
凝固/水洗槽3内の凝固液中から巻き出された段階で、多孔質基材上に多孔質層が形成された多孔複合フィルムが得られる。この多孔複合フィルムは、続いて、1次水洗槽4の水中へ供給され、順次、2次水洗槽5の水中、3次水洗槽6の水中に導入され、連続的に洗浄される。
図1では、水洗槽は3つであるが、水洗槽での洗浄効果に応じて、水洗槽の数を増やしても良いし、減らしてもよい。各槽の洗浄水は連続的に供給してもよいし、回収した洗浄水を精製してリサイクルしてもよい。
次に、最後の3次水洗槽6から巻き出された多孔複合フィルムは、乾燥炉7へ導入され、付着した洗浄液が除去され、乾燥した多孔複合フィルムが巻取ロール8に巻き取られる。
【0030】
(測定方法)
(1)多孔質層の断面空隙面積分布のD50、D90
多孔質層の断面空隙面積分布のD50、D90は次のようにして求めた。
基材面と垂直方向にイオンミリングによって断面だしを施した基材断面を、加速電圧2.0kV、倍率5000倍にて基材断面と垂直方向にランダムに走査型電子顕微鏡(SEM)観察し得られた画像50枚について、それぞれ基材の厚み方向を1:1に内分する点で基材の面方向と平行に画像をカットし、その画像についてグレイ値を取得、その平均値が大きいほうの画像について画像解析ソフトHALCON(Ver.13.0,MVtec社製)にて、まず画像データの読み込みを行い、次に、輪郭強調(微分フィルタ(emphasize)、エッジ強調フィルタ(shock_filter)の順で処理)を行った後、2値化するという手順で実施した。なお、輪郭強調に用いる微分フィルタの「emphasize」、エッジ強調フィルタの「shock_filter」はHALCONに含まれる画像処理フィルタである。2値化について、グレイ値に対する閾値の下限を64、上限を255に設定し、64以上の部分はPVdF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素含有樹脂(セラミック等のフィラーがある場合はそれを含む)が存在する部分とし、さらにそれら樹脂成分及びフィラーが存在している領域のグレイ値を255、その他の領域(断面空隙部)のグレイ値を0に置き換え、グレイ値0を持つ連続したピクセル同士を連結し、一つの画像から100個以上の断面空隙部の面積を抽出した。抽出した断面空隙部の面積を断面空隙面積とし、断面空隙面積のうち、式(1)を満たす断面空隙面積について、その面積値の分布におけるD50及びD90を算出した。ここで、D50とは各断面空隙面積を昇順に並び替え、全ての面積を足し合わせた総面積に対する、累積面積が50%となる面積であり、D90は累積面積が90%となる面積を指す。
【0031】
X<Xmax×0.9 式(1)
式中、Xは各断面空隙面積、Xmaxは各断面空隙面積の最大値を示す。
【0032】
(2)多孔質層の断面空隙の平均面積A1
多孔質層の断面空隙の平均面積A1を次のようにして測定した。
基材面と垂直方向にイオンミリングによって断面だしを施した断面を加速電圧2.0kV、倍率5000倍にてランダムにSEM観察した断面SEM画像50枚を、それぞれ基材の厚み方向を1:1に内分する点で基材の面方向と平行に画像をカットし、その画像についてグレイ値を取得、その平均値が大きい方の画像について、画像解析ソフトHALCON(Ver.13.0,MVtec社製)にて、まず画像データの読み込みを行い、次に、輪郭強調(微分フィルタ(emphasize)、エッジ強調フィルタ(shock_filter)の順で処理を行った後、2値化するという手順で実施した。2値化について、グレイ値に対する閾値の下限を64、上限を255に設定し64未満の部分を空隙、64以上の部分はPVdF(フィラーがある場合はそれを含む)が存在する部分とし、さらにそれら樹脂成分及びフィラーが存在している領域のグレイ値を255、その他の領域(空隙部)のグレイ値を0に置き換え、グレイ値0を持つ連続したピクセル同士を連結し、一つの画像から100個以上の断面空隙部の面積を抽出した。抽出した断面空隙部の面積を断面空隙面積とし、断面空隙面積のうち、式(1)を満たす断面空隙面積について、式(2)で断面空隙の平均面積A1を算出した。
【0033】
【0034】
(リチウムイオン二次電池)
本実施形態による多孔複合フィルムは、電池用セパレータとして用いることができ、リチウムイオン二次電池のセパレータとして好適に用いることができる。本実施形態による多孔複合フィルムをセパレータに用いることにより、電解液の注液性に優れ、膨張しにくいリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本実施形態による多孔複合フィルムが適用されるリチウムイオン二次電池の例としては、負極と正極がセパレータを介して対向して配置された電池要素に電解質を含む電解液が含浸され、これらが外装材に封入された構造を有するものが挙げられる。
【0035】
負極の例としては、負極活物質、導電助剤及びバインダーからなる負極合剤が、集電体上に成形されたものが挙げられる。負極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が用いられる。具体的には、黒鉛やカーボンなどの炭素材料、シリコン酸化物、シリコン合金、スズ合金、リチウム金属、リチウム合金などなどが挙げられる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素材料が用いられる。バインダーとしてはスチレン・ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドなどが用いられる。集電体としては銅箔、ステンレス箔、ニッケル箔などが用いられる。
【0036】
正極の例としては、正極活物質、バインダー及び必要に応じて導電助剤からなる正極合剤が、集電体上に成形されたものが挙げられる。正極活物質としては、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。具体的には、例えば、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの炭素材料が用いられる。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンなどが用いられる。集電体としてはアルミ箔、ステンレス箔などが用いられる。
【0037】
電解液としては、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解させたものを用いることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF3)2などが挙げられる。非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトンなどが挙げられ、通常はビニレンカーボネートなどの各種添加剤とともに、これらのうちの2種以上を混合したものが用いられる。また、イミダゾリウム陽イオン系などのイオン液体(常温溶融塩)も用いることができる。
外装材としては、金属缶またはアルミラミネートパックなどが挙げられる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角型、ラミネート型などが挙げられる。
【実施例】
【0038】
(測定方法)
各実施例及び各比較例の多孔複合フィルムについて、多孔質層の断面空隙面積分布のD50、D90については上記(1)に従い、多孔質層の断面空隙の平均面積A1については上記(2)に従って測定を行った。また、多孔質層の目付、膜厚、膜厚/塗膜の厚みと電解液の注液性、1000サイクル後のセルの膨張率については、下記に従って測定した。
【0039】
(多孔質層の目付)
多孔質層の目付WAは以下の式を用いて次のようにして測定した。
WA=塗工済みフィルムの目付(WA1)-基材の目付(WA2)
塗工済みフィルムの目付WA1及び基材の目付WA2の測定は、5cm角のサンプルを用意し、以下の式を用いて算出した。
WA1=「塗工済みフィルム5cm角サンプルの重さ」/0.0025
WA2=「基材5cm角サンプルの重さ」/0.0025
【0040】
(多孔質層の厚み)
多孔質層の厚みtは以下の式を用いて次のようにして測定した。
t=多孔複合フィルムの厚み(t1)-多孔質基材の厚み(t2)
接触式膜厚計((株)ミツトヨ製「ライトマチック」(登録商標)series318)を使用して厚み(t1、t2)を測定した。測定は、超硬球面測定子φ9.5mmを用いて、加重0.01Nの条件で20点を測定し、得られた測定値の平均値を膜厚とした。
【0041】
(多孔質層の厚み/塗膜の厚み)
多孔質層の厚み/塗膜の厚みは多孔質層の厚みtを塗膜の厚みtwで序して求めた。
多孔質層の厚み/塗膜の厚み=t/tw
【0042】
(電解液の注液性)
セパレータ表面に溶媒であるポリプロピレンカーボネート(PC)を0.5μl滴下し、8分後の滴下液の拡がり面積を評価した。このとき、滴下液の拡がり面積が100mm2以上を○、90mm2以上を△、90mm2未満を×として判定した。
【0043】
(1000サイクル後の電池膨張率)
電解液の作製
電解液として、エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(MEC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:5:2(体積比)で混合した溶媒に、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)1.15mol/Lとビニレンカーボネート(VC)0.5wt%を添加した電解液を調製した。
【0044】
正極の作製
コバルト酸リチウム(LiCoO2)にアセチレンブラック黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを加え、N-メチル-2-ピロリドン中に分散させてスラリーにした。このスラリーを、厚さ20μmの正極集電体用アルミニウム箔の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して、集電体を除いた正極層の密度が3.6g/cm3の帯状の正極を作製した。
【0045】
負極の作製
カルボキシメチルセルロースを1.0質量部含む水溶液を人造黒鉛96.5質量部に加えて混合し、さらに固形分として1.0質量部のスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーを形成した。この負極合剤含有スラリーを、厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して、集電体を除いた負極層の密度が1.5g/cm3の帯状の負極を作製した。
【0046】
電池の作製
上記の正極、上記の実施例又は比較例の多孔複合フィルム、及び上記の負極を積層した後、扁平状の巻回電極体(高さ2.2mm×幅32mm×奥行32mm)を作製した。この扁平状の巻回電極体の各電極へ、シーラント付タブを溶接し、正極リード、負極リードとした。
次に、扁平状の巻回電極体部分をアルミラミネートフィルムで挟み、一部開口部を残してシールし、これを真空オーブンにて80℃で6時間乾燥した。乾燥後、速やかに電解液を0.75ml注液し、真空シーラーでシールし、90℃、0.7MPaで2分プレス成型した。
続いて、得られた電池の充放電を実施した。充放電条件は300mAの電流値で、電池電圧4.35Vまで定電流充電した後、電池電圧4.35Vで15mAになるまで定電圧充電を行った。10分の休止後、300mAの電流値で電池電圧3.0Vまで定電流放電を行い、10分休止した。以上の充放電を3サイクル実施し、電池容量300mAhの試験用二次電池(扁平捲回型電池セル)を作製した。
【0047】
上記で作製した扁平捲回型電池セルについて、充放電測定装置を使用し、35℃の雰囲気下、充電を300mAで4.35Vまで、放電を300mAで3.0Vまでする充放電を1000サイクル繰り返し、セルの初期厚みを1000サイクル目の厚みで序してパーセント換算し電池膨張率を求めた。このときの充放電条件は、以下の通りとした。
充電条件:1C、CC-CV充電、4.35V、0.05 C Cut off
休止:10分
放電条件:1C、CC放電、3V Cut off
休止:10分。
【0048】
(実施例1)
前述の
図1に示す製造プロセスに従って多孔複合フィルムを作製した。
具体的には、まず、巻出ロールから巻き出したポリオレフィン多孔質膜(膜厚7μm)を搬送速度7m/分で、ディップヘッドの上方から下方へディップヘッドのギャップに通過させ、ポリオレフィン多孔質膜の両面に塗工液を塗布し、続いて、凝固液中に浸漬させることでポリオレフィン多孔質膜上に塗膜が形成される。なお、ディップヘッドのギャップのサイズ(厚み方向の長さ)は45μmとした。塗工液の樹脂としてはPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、この樹脂を溶解する良溶媒としてはNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用い、PVdFとNMPの質量比はPVdF:NMP=1:22とした。塗工液のセラミックとしてはアルミナを用い、PVdFとアルミナの質量比はPVdF:アルミナ=1:1.1とした。
凝固/水洗槽内の凝固液は、相分離液として水を用い、この凝固液中のNMP濃度を24.9質量%に保持し、凝固液の温度は20℃に設定した。
凝固液中から引き出された段階で、ポリオレフィン多孔質膜上に多孔質層が形成された多孔複合フィルムが得られ、この多孔複合フィルムを、順に、1次水洗槽、2次水洗槽、3次水洗槽の水中に導入して、連続的に洗浄した。
続いて、最後の3次水洗槽から巻き出された多孔複合フィルムを、乾燥炉へ導入し、付着した洗浄液を除去して、乾燥した多孔複合フィルムを巻きとった。
得られた多孔複合フィルムについて、製造条件と測定結果について表1に示す。
【0049】
(実施例2~6、比較例1~3)
多孔質層のPVdFの目付が同等になるようにディップヘッドのギャップのサイズ(塗工Gap)、塗工液のPVdFとアルミナの質量比、凝固液中のNMP濃度を表1に示す通りに調製した以外は、実施例1と同様にして多孔複合フィルムを作製した。測定結果を表1に示す。
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の実施形態によれば、塗布量に対する多孔質層の厚みが薄く、膨張しにくく、緻密構造による同一厚みでの耐熱性に優れたセパレータに好適な多孔複合フィルム及びその多孔複合フィルムの製造方法を提供する。
【0052】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年9月29日出願の日本特許出願(特願2017-191839)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0053】
1:巻出ロール
2:ディップヘッド
3:凝固/水洗槽
4:1次水洗槽
5:2次水洗槽
6:3次水洗槽
7:乾燥炉
8:巻取ロール