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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】液状食品の塩味増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20221018BHJP
   A23L 27/40 20160101ALI20221018BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221018BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20221018BHJP
【FI】
A23L5/00 H
A23L27/40
A23L27/00 Z
A23L27/00 D
A23L23/10
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2019537624
(86)(22)【出願日】2018-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2018030709
(87)【国際公開番号】W WO2019039441
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2017158701
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】菅野 京子
(72)【発明者】
【氏名】北田 亮
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-046595(JP,A)
【文献】特開平06-343417(JP,A)
【文献】特開2015-015910(JP,A)
【文献】特開2017-135996(JP,A)
【文献】Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn.,2015年,vol.69, no.2,pp.105-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00-5/49
A23L 27/00-27/60
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品の塩味を増強する方法であって、
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み、
前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる、方法。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
1.35>Y /(X +Z ) ・・・(III)
【請求項2】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
が10~1000の範囲内である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
とYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
とZの比(Z/Z)が、1.1~10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、請求項1及び3~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用の塩味増強剤(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて含有するものを除く)であって、
前記液状食品は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足し、
塩味増強剤添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)及び(III)の関係を充足するように添加される、塩味増強剤。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
1.35>Y /(X +Z ) ・・・(III)
【請求項10】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項記載の剤。
【請求項11】
が10~1000の範囲内である、請求項又は10記載の剤。
【請求項12】
とYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、請求項11のいずれか一項に記載の剤。
【請求項13】
とZの比(Z/Z)が、1.1~10である、請求項12のいずれか一項に記載の剤。
【請求項14】
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、請求項及び1113のいずれか一項に記載の剤。
【請求項15】
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、請求項14のいずれか一項に記載の剤。
【請求項16】
塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含有する、請求項15のいずれか一項に記載の剤。
【請求項17】
ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)及び(III)の関係を充足する液状食品であって、
ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)が添加されてなる、液状食品(但し、メチオノールが前記化合物とあわせて添加されてなるものを除く)
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
1.35>Y /(X +Z ) ・・・(III)
【請求項18】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項17記載の液状食品。
【請求項19】
ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加すること(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて添加することを除く)を含み、
前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)及び(III)の関係を充足するように行われる、液状食品の製造方法。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
1.35>Y /(X +Z ) ・・・(III)
【請求項20】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項19記載の製造方法。
【請求項21】
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用組成物(但し、メチオノールを前記化合物とあわせて含有するものを除く)であって、
前記組成物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)及び(III)の関係を充足するように添加され、
前記液状食品が、つゆ及びスープからなる群より選択される、組成物。
/(X+Z)>1 ・・・(II)
1.35>Y /(X +Z ) ・・・(III)
【請求項22】
前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
液状食品用組成物が、液状食品の塩味増強用組成物である、請求項21又は22記載の組成物。
【請求項24】
液状食品が、減塩食品である、請求項2123のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状食品の塩味増強方法及び液状食品用の塩味増強剤に関する。また本発明は、塩味が増強された液状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウムを主成分とする食塩は、塩味の付与等の種々の用途で食品に利用されている。しかしながらナトリウムの過剰摂取は、高血圧や心疾患等を引き起こすリスクを高めると考えられている。そのため健康面から、ナトリウム摂取量を低減することが重要視されている。
【0003】
ナトリウム摂取量は、食品を製造する際に、食塩の使用量を減らすこと(減塩)等により低減できるが、そのような減塩された食品は、塩味の不足により満足感が低下するという問題がある。そのため、ナトリウム摂取量を増加させることなく、食品の塩味を増強する技術の開発が求められている。
【0004】
一方、不活化酵母並びに塩化ナトリウム、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、及びこれらの混合物から選択される塩化合物を含む、塩代替品が、製パン製品中の塩化ナトリウムの量を低減し得ること(特許文献1)、生理学的に使用可能な化合物類の混合物で構成される食品添加用塩組成物において、塩化ナトリウムの組成割合を減らし、代わりにカリウム、マグネシウム、カルシウム等の主要ミネラルをバランスよく配合することにより、食生活における減塩とミネラルバランスの向上を図ることができること(特許文献2)、メチオノールに塩味増強作用があり、これを含有する塩味増強剤は、さらに塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化アンモニウム等を含有し得ること(特許文献3)、塩化カリウムや塩化ナトリウム等のアルカリ土類金属塩化物、塩化マグネシウムや塩化カルシウム等のアルカリ金属塩化物、並びに塩化アンモニウムを、共結晶化することにより、微生物の抑制特性に優れ、易流動性であり、かつ分離しない塩生成物が得られること(特許文献4)が、従来報告されている。しかしながら、特許文献1~4のいずれにも、液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度が特定の関係を充足することにより、当該液状食品の塩味が増強することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-6140号公報
【文献】特開2000-308468号公報
【文献】特開2017-46595号公報
【文献】特表2016-515829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を増強させ得る方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく種々検討した結果、塩化物イオン(Cl)が食品の塩味に寄与し得、また塩化物イオンが塩味に寄与する程度は、塩化物イオンの由来する化合物の種類によって差違があることを見出した。また本発明者らは、更に検討を進めた結果、液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度が特定の関係を充足するように、当該液状食品に、塩化物イオンを含む特定の化合物を添加することにより、当該液状食品の塩味を増強させ得ることを見出した。
本発明者らは、これらの知見に基づき、さらに研究を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品の塩味を増強する方法であって、
塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加することを含み、
前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)の関係を充足するように行われる、方法。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
[2]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]記載の方法。
[3]Yが10~1000の範囲内である、[1]又は[2]記載の方法。
[4]YとYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]ZとZの比(Z/Z)が、1.1~10である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の方法。
[6]X、Y及びZが、下式(III)の関係を更に充足する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
[7]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[1]及び[3]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の方法。
[10]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用の塩味増強剤であって、
前記液状食品は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足し、
塩味増強剤添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)の関係を充足するように添加される、塩味増強剤。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
[11]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[10]記載の剤。
[12]Yが10~1000の範囲内である、[10]又は[11]記載の剤。
[13]YとYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、[10]~[12]のいずれか一つに記載の剤。
[14]ZとZの比(Z/Z)が、1.1~10である、[10]~[13]のいずれか一つに記載の剤。
[15]X、Y及びZが下式(III)の関係を更に充足する、[10]~[14]のいずれか一つに記載の剤。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
[16]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、[10]及び[12]~[15]のいずれか一つに記載の剤。
[17]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、[10]~[16]のいずれか一つに記載の剤。
[18]塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含有する、[10]~[17]のいずれか一つに記載の剤。
[19]ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)の関係を充足する液状食品であって、
ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)が添加されてなる、液状食品。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
[20]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[19]記載の食品。
[21]Yが10~1000の範囲内である、[19]又は[20]記載の食品。
[22]YとYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、[19]~[21]のいずれか一つに記載の食品。
[23]ZとZの比(Z/Z)が、1.1~10である、[19]~[22]のいずれか一つに記載の食品。
[24]X、Y及びZが下式(III)の関係を更に充足する、[19]~[23]のいずれか一つに記載の食品。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
[25]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[19]及び[21]~[24]のいずれか一つに記載の食品。
[26]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[19]~[25]のいずれか一つに記載の食品。
[27]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む、[19]~[26]のいずれか一つに記載の食品。
[28]ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、Xが10~1000の範囲内であり、かつ、X、Y及びZが下式(I)の関係を充足する液状食品に、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を添加することを含み、
前記化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)の関係を充足するように行われる、液状食品の製造方法。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)>1 ・・・(II)
[29]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[28]記載の製造方法。
[30]Yが10~1000の範囲内である、[28]又は[29]記載の製造方法。
[31]YとYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、[28]~[30]のいずれか一つに記載の製造方法。
[32]ZとZの比(Z/Z)が、1.1~10である、[28]~[31]のいずれか一つに記載の製造方法。
[33]X、Y及びZが下式(III)の関係を更に充足する、[28]~[32]のいずれか一つに記載の製造方法。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
[34]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[28]及び[30]~[33]のいずれか一つに記載の製造方法。
[35]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含む、[28]~[34]のいずれか一つに記載の製造方法。
[36]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む、[28]~[35]のいずれか一つに記載の製造方法。
[37]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つの化合物(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)を含有する、液状食品用組成物であって、
前記組成物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、X、Y及びZが下式(II)の関係を充足するように添加され、
前記液状食品が、つゆ及びスープからなる群より選択される、組成物。
/(X+Z)>1 ・・・(II)
[38]前記化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される少なくとも一つである、[37]記載の組成物。
[39]液状食品用組成物が、液状食品の塩味増強用組成物である、[37]又は[38]記載の組成物。
[40]液状食品が、減塩食品である、[37]~[39]のいずれか一つに記載の組成物。
[41]Yが10~1000の範囲内である、[37]~[40]のいずれか一つに記載の組成物。
[42]YとYの比(Y/Y)が、1.01~5.0である、[37]~[41]のいずれか一つに記載の組成物。
[43]ZとZの比(Z/Z)が、1.1~10である、[37]~[42]のいずれか一つに記載の組成物。
[44]X、Y及びZが下式(III)の関係を更に充足する、[37]~[43]のいずれか一つに記載の組成物。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
[45]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、[37]及び[39]~[44]のいずれか一つに記載の組成物。
[46]塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される三つの化合物を含有する、[37]~[45]のいずれか一つに記載の組成物。
[47]塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含有する、[37]~[46]のいずれか一つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。したがって、本発明によれば、例えば、液状食品を減塩し、ナトリウム摂取量を低減した場合であっても、十分な塩味を有する液状食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試験例1の、実施例1に関する結果(実施例1の食品サンプル及びコントロールの主観的食塩濃度(%))を示すグラフである。
図2】試験例1の、比較例1に関する結果(比較例1の食品サンプル及びコントロールの主観的食塩濃度(%))を示すグラフである。
図3】試験例2の結果(実施例2の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)及びコントロールの実際の食塩濃度(%))を示すグラフである。
図4】試験例3の結果(実施例3の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)及びコントロールの実際の食塩濃度(%))を示すグラフである。
図5】試験例4の結果(実施例4の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)及びコントロールの実際の食塩濃度(%))を示すグラフである。
図6】試験例5の結果(実施例5の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)及びコントロールの実際の食塩濃度(%))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(塩味増強方法)
本発明は、塩化物イオンを含む特定の化合物を添加することを含む、液状食品の塩味を増強する方法(本明細書中、「本発明の塩味増強方法」と称する場合がある)を提供する。
【0012】
本発明の塩味増強方法は、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群、好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群、より好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群より選択される化合物(本明細書中、便宜上「Cl塩化合物」と称する場合がある)を添加することを含む。Cl塩化合物は、前記化合物のうち、いずれか一つのみからなるものであってよく(但し、当該化合物が塩化カリウムのみである場合を除く)、又はいずれか二つ以上(好ましくは、三つ以上)からなるものであってもよい。
【0013】
本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物は、一態様として、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群より選択されることが好ましい。
【0014】
本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物は、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群(好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群)より選択される三つの化合物を少なくとも含むものであり得る。その場合、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩からなる群(好ましくは、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩からなる群)より選択される三つの化合物の組み合わせとしては、例えば、
(a)塩化カリウム、塩化アンモニウム及び塩化カルシウム、
(b)塩化カリウム、塩化アンモニウム及び塩化マグネシウム、
(c)塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩、
(d)塩化カリウム、塩化カルシウム及びリジン塩酸塩、
(e)塩化カリウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩、
(f)塩化アンモニウム、塩化カルシウム及びリジン塩酸塩、並びに
(g)塩化アンモニウム、塩化マグネシウム及びリジン塩酸塩
等が挙げられ、各Cl塩化合物中の塩化物イオンの塩味への寄与度及び各Cl塩化合物の添加濃度と風味との関係の観点から、好ましくは、(c)塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩である。
【0015】
本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を含む場合、塩化カリウムの添加量と塩化アンモニウムの添加量の重量比(塩化カリウム:塩化アンモニウム)は、各Cl塩化合物中の塩化物イオンの塩味への寄与度及び各Cl塩化合物の添加濃度と風味との関係の観点から、好ましくは1:0.01~1であり、より好ましくは1:0.05~0.75であり、特に好ましくは1:0.1~0.5である。また、この場合、塩化カリウムの添加量とリジン塩酸塩の添加量の重量比(塩化カリウム:リジン塩酸塩)は、各Cl塩化合物中の塩化物イオンの塩味への寄与度及び各Cl塩化合物の添加濃度と風味との関係の観点から、好ましくは1:0.5~15であり、より好ましくは1:1~12であり、特に好ましくは1:1.5~10である。
【0016】
本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を少なくとも含む場合、当該Cl塩化合物は、一態様として、塩化マグネシウム及び/又はアルギニン塩酸塩を更に含み得る。
【0017】
本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物が、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩に加え、塩化マグネシウム及び/又はアルギニン塩酸塩を更に含む場合、塩化カリウムの添加量と塩化マグネシウムの添加量の重量比(塩化カリウム:塩化マグネシウム)は、各Cl塩化合物中の塩化物イオンの塩味への寄与度及び各Cl塩化合物の添加濃度と風味との関係の観点から、好ましくは1:0.01~3であり、より好ましくは1:0.05~2であり、特に好ましくは1:0.1~1.5である。また、この場合、塩化カリウムの添加量とアルギニン塩酸塩の添加量の重量比(塩化カリウム:アルギニン塩酸塩)は、各Cl塩化合物中の塩化物イオンの塩味への寄与度及び各Cl塩化合物の添加濃度と風味との関係の観点から、好ましくは1:0.05~10であり、より好ましくは1:0.1~5であり、特に好ましくは1:0.3~3である。
【0018】
本発明の塩味増強方法において用いられる塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩の製造方法は、いずれも特に制限されず、自体公知の方法(例えば、化学合成法、酵素法、発酵法等)によって製造したものを用いてよい。これらの化合物は市販品を用いてもよく、簡便であることから好ましい。
【0019】
本発明の塩味増強方法は、Cl塩化合物を添加することに加え、本発明の目的を損なわない限り、Cl塩化合物以外の物質を添加することを任意で含んでよい。
【0020】
本発明の塩味増強方法によって、塩味を増強し得る「液状食品」とは、25℃において流動性を有する食品をいう。液状食品は、固形の成分、具材を含むものであってよい。液状食品の具体例としては、例えば、めんつゆ、うどんつゆ、そばつゆ、ソーメンつゆ、ラーメンスープ、ちゃんぽんスープ等のつゆ(例、麺類のつゆ等);丸鶏がらスープ、中華風スープ、コーンクリームスープ、ポタージュスープ、コンソメスープ、カレー風味スープ、お吸い物、味噌汁等のスープ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の塩味増強方法によって、塩味を増強し得る液状食品は、減塩食品であってよい。本発明において「減塩食品」とは、喫食時の食塩濃度が、その食品の一般的な食塩濃度に比べて低い食品をいう。本発明において、喫食時の食塩濃度が、その食品の一般的な食塩濃度に対して、A%である食品を、「A%減塩食品」といい、本発明の塩味増強方法によって、塩味を増強し得る液状食品は、好ましくは20~80%減塩食品(すなわち、喫食時の食塩濃度が、その食品の一般的な食塩濃度に対して、20~80%である食品)であり、より好ましくは30~70%減塩食品(すなわち、喫食時の食塩濃度が、その食品の一般的な食塩濃度に対して、30~70%である食品)である。
【0022】
本発明の塩味増強方法によって塩味が増強される前の液状食品(すなわち、Cl塩化合物添加前の液状食品)は、そのナトリウムイオン(Na)、塩化物イオン(Cl)及びカリウムイオン(K)の喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、特定の関係を充足することが好ましい。
具体的には、X、Y及びZは、下式(I)の関係を充足することが好ましく、本発明の塩味増強効果がより顕著に発揮され得ることから、下式(I’)の関係を充足することがより好ましく、下式(I’’)の関係を充足することが特に好ましい。
/(X+Z)≦1 ・・・(I)
/(X+Z)≦0.95 ・・・(I’)
/(X+Z)≦0.9 ・・・(I’’)
【0023】
本発明において、X及びZ(すなわち、Cl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオン及びカリウムイオンの喫食濃度)は、それぞれ原子吸光度法により測定されるナトリウムイオン及びカリウムイオンの重量と、喫食時の液状食品の重量とから算出される。また、Y(すなわち、Cl塩化合物添加前の液状食品における塩化物イオンの喫食濃度)は、電位差滴定法により測定される塩化物イオンの重量と、喫食時の液状食品の重量とから算出される。
本発明において「喫食濃度」とは、喫食に適した状態の液状食品における濃度をいう。例えば、液状食品が、喫食に適した状態になるために水等で希釈することを必要とする濃縮物である場合は、濃縮物における濃度を、当該濃縮物を喫食に適した状態とするための希釈倍率で換算することにより、喫食濃度を算出し得る。
尚、液状食品が、固形の成分、具材を含むものである場合、当該固形の成分、具材に含まれるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンは、X、Y及びZに算入されない。
【0024】
(Cl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオンの喫食濃度)は、通常10~1000(mol/m)の範囲内であり、ナトリウム摂取量の増加をなるべく抑える観点から、好ましくは10~600(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは10~400(mol/m)の範囲内である。
【0025】
(Cl塩化合物添加前の液状食品における塩化物イオンの喫食濃度)は、通常10~1000(mol/m)の範囲内であり、好ましくは10~600(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは10~400(mol/m)の範囲内である。
【0026】
(Cl塩化合物添加前の液状食品におけるカリウムイオンの喫食濃度)は、通常0~300(mol/m)の範囲内であり、好ましくは0~200(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは0~50(mol/m)の範囲内である。
【0027】
本発明の塩味増強方法は、Cl塩化合物の添加が、Cl塩化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、特定の関係を充足するように、行われることが好ましい。当該X、Y及びZが、特定の関係を充足することにより、液状食品の塩味が効果的に増強し得る。
具体的には、X、Y及びZは下式(II)の関係を充足することが好ましく、より好ましい塩味を提供し得ることから、下式(II’)の関係を充足することがより好ましく、下式(II’’)の関係を充足することが特に好ましい。
/(X+Z)>1 ・・・(II)
/(X+Z)>1.05 ・・・(II’)
/(X+Z)>1.1 ・・・(II’’)
【0028】
、Y及びZは、前述の特定の関係を充足することに加え、更に、下式(III)の関係を充足することが好ましく、下式(III’)の関係を充足することがより好ましく、下式(III’’)の関係を充足することが更に好ましく、下式(III’’’)の関係を充足することが特に好ましく、下式(III’’’’)の関係を充足することが最も好ましい。X、Y及びZが、当該関係を充足することにより、異風味の発生を抑え得る。異風味が強くなると、好ましい塩味が損なわれる場合があり、異風味の発生を抑えることによって、より好ましい塩味を増強し得る。
1.35>Y/(X+Z) ・・・(III)
1.33>Y/(X+Z) ・・・(III’)
1.3>Y/(X+Z) ・・・(III’’)
1.25>Y/(X+Z) ・・・(III’’’)
1.2>Y/(X+Z) ・・・(III’’’’)
【0029】
本発明において、X、Y及びZ(すなわち、Cl塩化合物添加後の液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度)は、それぞれ、上述の方法により測定したCl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度(X、Y及びZ)と、Cl塩化合物の添加量から算出される。
【0030】
(Cl塩化合物添加後の液状食品におけるナトリウムイオンの喫食濃度)は、X(Cl塩化合物添加前の液状食品におけるナトリウムイオンの喫食濃度)と同程度であることが好ましい。具体的には、Xは、通常10~1000(mol/m)の範囲内であり、ナトリウム摂取量の増加をなるべく抑える観点から、好ましくは10~600(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは10~400(mol/m)の範囲内である。
【0031】
(Cl塩化合物添加後の液状食品における塩化物イオンの喫食濃度)は、より好ましい塩味を提供し得ることから、好ましくは10~1000(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは10~800(mol/m)の範囲内であり、特に好ましくは10~600(mol/m)の範囲内である。
【0032】
(Cl塩化合物添加後の液状食品におけるカリウムイオンの喫食濃度)は、より好ましい塩味を提供し得ることから、好ましくは1~300(mol/m)の範囲内であり、より好ましくは5~200(mol/m)の範囲内であり、特に好ましくは10~100(mol/m)の範囲内である。
【0033】
とYの比(Y/Y)は、塩味をより増強し得ることから、好ましくは1.01~5.0であり、より好ましくは1.05~2.5であり、特に好ましくは1.1~2.0である。
【0034】
とZの比(Z/Z)は、塩味をより増強し得、好ましい風味を提供し得ることから、好ましくは1.1~10であり、より好ましくは1.1~7であり、特に好ましくは1.1~5である。
【0035】
本発明の塩味増強方法において、Cl塩化合物を液状食品に添加する時期は特に限定されず、いかなる時点で添加してもよいが、例えば、液状食品の製造中、液状食品の完成後(例、液状食品の喫食直前、液状食品の喫食中等)等が挙げられる。液状食品の製造に用いられる食品原料にCl塩化合物を予め添加してもよい。
【0036】
本発明の塩味増強方法によれば、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。液状食品の塩味の評価は、自体公知の方法で行えばよく、例えば、後述の実施例の方法等で行い得る。
また本発明の塩味増強方法によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。本発明において「異風味」とは、通常の液状食品には感じられない不快な味(例、苦味等)、風味をいう。異風味の有無や程度は、専門パネルによる官能評価によって評価できる。
【0037】
本発明の塩味増強方法は、本発明の目的を損なわない限り、自体公知の塩味増強方法と併用してよい。
【0038】
(塩味増強剤)
本発明は、塩化物イオンを含む特定の化合物を含有する、液状食品用の塩味増強剤(本明細書中、「本発明の塩味増強剤」と称する場合がある)を提供する。
【0039】
本発明の塩味増強剤は、本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物と同様の化合物を含有し得、その好ましい態様(例、化合物の数、組合せ等)も、本発明の塩味増強方法に関して説明したものと同様である。
【0040】
本発明の塩味増強剤の形態は特に制限されず、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0041】
本発明の塩味増強剤は、Cl塩化合物のみからなるものであってよいが、本発明の目的を損なわない限り、Cl塩化合物に加えて、Cl塩化合物以外の成分(例えば、食品添加物の分野において慣用の基剤等)を任意で含有してよい。本発明の塩味増強剤におけるCl塩化合物の含有量は、通常0.1~100重量%であり、より好ましくは1~99重量%である。ここで「本発明の塩味増強剤におけるCl塩化合物の含有量」とは、Cl塩化合物が一つの化合物のみからなる場合は、その化合物の含有量であり、Cl塩化合物が二つ以上の化合物からなる場合は、それらの化合物の合計の含有量である。
【0042】
本発明の塩味増強剤の形態が液体状の場合の基剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、各種動植物油類等が挙げられる。
本発明の塩味増強剤の形態が固体状の場合の基剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、スクロースやグルコースなどの各種糖類、蛋白質、ペプチド、固形脂、二酸化ケイ素、およびそれらの混合物、また酵母菌体や各種の粉末エキス類等が挙げられる。
【0043】
本発明の塩味増強剤は、本発明の目的を損なわない限り、Cl塩化合物に加えて、例えば、賦形剤、pH調整剤、酸化防止剤、増粘安定剤、甘味料(例、砂糖類等)、酸味料、香辛料、着色料等を更に含有してよい。
【0044】
本発明の塩味増強剤の製造は、食品添加物の分野において慣用の手法により行い得る。本発明の塩味増強剤は、例えば、濃縮処理、乾燥処理、脱色処理等を、単独で又は組み合わせて施されてもよい。
【0045】
本発明の塩味増強剤は、液状食品用であること、すなわち液状食品の塩味を増強するために用いられることが好ましい。本発明の塩味増強剤を使用し得る「液状食品」は、本発明の塩味増強方法によって塩味が増強され得る「液状食品」と同様であり、その具体例も同様である。
【0046】
本発明の塩味増強剤が添加される前の液状食品は、そのナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZは、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足することが好ましく、また当該X、Y及びZは、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の範囲内であることが好ましい。
【0047】
本発明の塩味増強剤は、塩味増強剤添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足するように添加されることが好ましく、また当該X、Y及びZは、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の範囲内であることが好ましい。
【0048】
とYの比、及びZとZの比は、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるYとYの比、及びZとZの比と同様の範囲内であることが好ましい。
【0049】
本発明の塩味増強剤を液状食品に添加する時期は特に限定されず、いかなる時点で添加してもよいが、例えば、液状食品の製造中、液状食品の完成後(例、液状食品の喫食直前、液状食品の喫食中等)等が挙げられる。液状食品の製造に用いられる食品原料に本発明の塩味増強剤を予め添加してもよい。
【0050】
本発明の塩味増強剤によれば、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。
また本発明の塩味増強剤によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。
【0051】
本発明の塩味増強剤は、本発明の目的を損なわない限り、自体公知の塩味増強剤、塩味増強用組成物等と併用してよい。
【0052】
本発明の塩味増強剤は、上述の通り、液状食品用であり得ることから、本発明の塩味増強剤は、液状食品用組成物(本明細書中、「本発明の組成物」と称する場合がある)としても提供され得る。本発明の組成物は、液状食品の塩味増強用組成物であることが好ましい。
【0053】
(液状食品)
本発明は、塩化物イオンを含む特定の化合物が添加されてなる液状食品(本明細書中、「本発明の液状食品」と称する場合がある)を提供する。
【0054】
本発明の「液状食品」とは、本発明の塩味増強方法における「液状食品」と同様のものをいい、その具体例も同様である。
【0055】
本発明の液状食品は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足することが好ましく、また当該X、Y及びZは、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の範囲内であることが好ましい。
【0056】
本発明の液状食品は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足する液状食品に、本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物と同様の化合物を添加されてなることが好ましい。当該X、Y及びZは、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の範囲内であることが好ましい。また液状食品に添加される化合物の好ましい態様(例、化合物の数、組合せ等)は、本発明の塩味増強方法に関して説明したCl塩化合物と同様である。
【0057】
とYの比、及びZとZの比は、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるYとYの比、及びZとZの比と同様の範囲内であることが好ましい。
【0058】
本発明の液状食品は、喫食に適した状態で提供(販売、流通)されるものであってよく、又は喫食に適した状態になるための所定の処理や調理を必要とする態様で提供されるものであってもよい。例えば、本発明の液状食品は、喫食に適した状態となるために水等で希釈することを必要とする濃縮物等として提供されてよい。
【0059】
(液状食品の製造方法)
本発明の液状食品の製造方法(本明細書中、「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、ナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足する液状食品に、本発明の塩味増強方法において用いられるCl塩化合物と同様の化合物を添加することを含む。また本発明の製造方法は、当該化合物の添加が、化合物添加後の液状食品のナトリウムイオン、塩化物イオン及びカリウムイオンの喫食濃度を、それぞれXmol/m、Ymol/m及びZmol/mとしたとき、当該X、Y及びZが、本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の特定の関係を充足するように行われることが好ましく、当該X、Y及びZは、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるX、Y及びZと同様の範囲内であることが好ましい。
【0060】
とYの比、及びZとZの比は、それぞれ本発明の塩味増強方法におけるYとYの比、及びZとZの比と同様の範囲内であることが好ましい。
【0061】
本発明の製造方法は、液状食品に特定の化合物を添加すること含むこと以外は特に制限されず、製造する液状食品の種類等に応じて、液状食品の製造に通常用いられる材料(食材、調味料等)を用い、液状食品の製造において慣用の処理工程、調理工程を適宜行ってよい。
【0062】
本発明の製造方法によれば、ナトリウム摂取量を低減した場合であっても、十分な塩味を有する液状食品を提供できる。
また本発明の製造方法によれば、ナトリウム摂取量を低減した場合であっても、十分な塩味を有し、かつ、異風味の生じない液状食品を提供できる。
【0063】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、以下の実施例において「%」と記載されている場合は、特に断りのない限り「重量%」を意味する。
【実施例
【0064】
以下の実施例において、Cl塩化合物添加前のナトリウムイオン及びカリウムイオンの喫食濃度(X及びZ)は、原子吸光度法により一般財団法人日本食品分析センターにおいて測定した重量から算出した。また、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、電位差滴定法により一般財団法人日本食品分析センターにおいて測定した重量から算出した。尚、測定した重量から喫食濃度を計算する際、小数点以下第一位を四捨五入した。Cl塩化合物添加後のナトリウムイオン、塩化物イオンおよびカリウムイオンの喫食濃度(X、Y及びZ)は添加したCl塩化合物の質量から算出した。
【0065】
以下の試験例1、2、4及び5において用いた「50%減塩めんつゆ」、「50%減塩丸鶏がらスープ」及び「50%減塩コーンクリームスープ」は、それぞれ下記の方法で調製した。
【0066】
(50%減塩めんつゆの調製)
50%減塩めんつゆは、濃口醤油9.06g、みりん1.00g、グラニュー糖2.50g、果糖ブドウ糖液糖4.00g、グルタミン酸ナトリウム0.30g、「本造り一番だし」(商品名、味の素株式会社製)12g及び95%アルコール1.30gに、水を全量が100mlとなるように加えて調製したものを、更に水で2倍希釈して調製した。
調製した50%減塩めんつゆのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、139mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、130mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、10mol/mであった。したがって、当該50%減塩めんつゆのY/(X+Z)は、0.87である。
【0067】
(50%減塩丸鶏がらスープの調製)
50%減塩丸鶏がらスープは、「丸鶏がらスープ」(商品名、味の素株式会社製)から食塩及びグルタミン酸ナトリウムを除いたもの(原材料から食塩及びグルタミン酸ナトリウムを除いたこと以外は、通常の製品と同様に作製されたもの)2gに、お湯を全量が100mlとなるように加え、溶解して調製した。
調製した50%減塩丸鶏がらスープのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、69mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、66mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、13mol/mであった。したがって、当該50%減塩丸鶏がらスープのY/(X+Z)は、0.80である。
【0068】
(50%減塩コーンクリームスープの調製)
50%減塩コーンクリームスープは、「クノール(登録商標)コーンクリームスープ」(商品名、味の素株式会社製)から食塩を除いたもの(原材料から食塩を除いたこと以外は、通常の製品と同様に作製されたもの)18gに、水を全量が150mlとなるように加え、溶解して調製した。
調製した50%減塩コーンクリームスープのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、68mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、60mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、15mol/mであった。したがって、当該50%減塩コーンクリームスープのY/(X+Z)は、0.72である。
【0069】
<試験例1>
(食品サンプルの調製)
50%減塩めんつゆに、下表1に示される量(50%減塩めんつゆの全重量に対する、添加した各化合物の重量)で、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例1の食品サンプルを調製した。
50%減塩コーンクリームスープに、下表1に示される量(50%減塩コーンクリームスープの全重量に対する、添加した各化合物の重量)で、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、比較例1の食品サンプルを調製した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、139mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、162mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、20mol/mであった。したがって、実施例1の食品サンプルのY/(X+Z)は、1.02である。
【0072】
比較例1の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、68mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、92mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、25mol/mであった。したがって、比較例1の食品サンプルのY/(X+Z)は、0.99である。
【0073】
(塩味増強効果の評価)
実施例1及び比較例1の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)を測定した。また実施例1のコントロールとして、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加していない50%減塩めんつゆの主観的食塩濃度(%)を測定し、比較例1のコントロールとして、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加していない50%減塩コーンクリームスープの主観的食塩濃度(%)を測定した。
主観的食塩濃度(%)の測定は、専門パネル(5名)により、ノンブラインド条件で、0.75~1.00%塩化ナトリウム相当(0.05%刻み)に調整しためんつゆ又は0.35~0.60%塩化ナトリウム相当(0.05%刻み)に調整したコーンクリームスープを参照に用いた簡易的濃度決定法にて行った。ここで簡易的濃度決定法とは、試料の塩味の官能評価を行い、その結果を、参照用サンプルの食塩濃度と塩味の関係に照らして、試料の食塩濃度を推定する方法である。
結果を図1及び図2に示す。
【0074】
図1に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例1の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.872%)は、コントロールの主観的食塩濃度(0.758%)に比べて有意に高く(p<0.001)、実施例1の食品サンプルの塩味が効果的に増強したことが確認された。また実施例1の食品サンプルは、異風味を生じていなかった。
一方、図2に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えない比較例1の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.41%)は、コントロールの主観的食塩濃度(0.36%)と有意な差はなく(p>0.01)、実施例1と同一のCl塩化合物(塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウム)を同一の濃度で添加されているにもかかわらず、所望の塩味増強効果が得られなかった。
これらの結果から、Cl塩化合物を添加して液状食品の塩味を効果的に増強させるには、Y/(X+Z)が1を超えるように添加することが重要であることが示唆された。
【0075】
<試験例2>
(食品サンプルの調製)
50%減塩めんつゆに、下表2に示される量(50%減塩めんつゆの重量に対する、添加した各化合物の全重量)で、塩化アンモニウム、塩化カリウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例2の食品サンプルを調製した。
【0076】
【表2】
【0077】
実施例2の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、139mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、216mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、37mol/mであった。したがって、実施例1の食品サンプルのY/(X+Z)は、1.23である。
【0078】
(塩味増強効果の評価)
実施例2の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)を測定した。主観的食塩濃度(%)の測定は、専門パネル(5名)の2回繰り返し試験(n=10)により、ブラインド条件で、PSE(主観的等価点)法及びプロビット法にて行った。
結果を図3に示す。コントロールとして、塩化アンモニウム、塩化カリウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加していない50%減塩めんつゆの実際の食塩濃度(%)も図3に示す。
【0079】
図3に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例2の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.994%)は、コントロールの食塩濃度(0.75%、実際の食塩濃度)に比べて顕著に高く、実施例2の食品サンプルの塩味が効果的に増強したことが確認された。また実施例2の食品サンプルは、異風味を生じていなかった。
当該結果から、本発明によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得ることが確認された。
【0080】
<試験例3>
(食品サンプルの調製)
0.5%塩化ナトリウム水溶液に、下表3に示される量(0.5%塩化ナトリウム水溶液の全重量に対する、添加した各化合物の重量)で、塩化アンモニウム、塩化カリウム及びリジン塩酸塩を添加し、実施例3の食品サンプルを調製した。
【0081】
【表3】
【0082】
0.5%塩化ナトリウム水溶液の、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、86mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、86mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、0mol/mであった。したがって、当該0.5%塩化ナトリウム水溶液のY/(X+Z)は、1である。
また実施例3の食品サンプルのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、86mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、131mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、13mol/mであった。したがって、実施例3の食品サンプルのY/(X+Z)は、1.31である。
【0083】
(塩味増強効果の評価)
実施例3の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)を測定した。主観的食塩濃度(%)の測定は、専門パネル(4名)により、ブラインド条件で、0.50~0.90%塩化ナトリウム水溶液を参照に用いた簡易的濃度決定法にて行った。
結果を図4に示す。コントロールとして、塩化アンモニウム、塩化カリウム及びリジン塩酸塩を添加していない0.5%塩化ナトリウム水溶液の実際の食塩濃度(%)も図4に示す。
【0084】
図4に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例3の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.64%)は、コントロールの食塩濃度(0.5%、実際の食塩濃度)に比べて顕著に高く、実施例3の食品サンプルの塩味が効果的に増強したことが確認された。また実施例3の食品サンプルは、異風味を生じていなかった。
当該結果から、本発明によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得ることが確認された。
【0085】
<試験例4>
(食品サンプルの調製)
50%減塩丸鶏がらスープに、下表4に示される量(50%減塩丸鶏がらスープの全重量に対する、添加した各化合物の重量)で、塩化アンモニウム、塩化カリウム及びリジン塩酸塩を添加し、実施例4の食品サンプルを調製した。
【0086】
【表4】
【0087】
実施例4の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、69mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、120mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、40mol/mであった。したがって、実施例4の食品サンプルのY/(X+Z)は、1.10である。
【0088】
(塩味増強効果の評価)
実施例4の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)を測定した。主観的食塩濃度(%)の測定は、専門パネル(4名)の2回繰り返し試験(n=8)により、ブラインド条件で、PSE(主観的等価点)法及びプロビット法にて行った。
結果を図5に示す。コントロールとして、塩化アンモニウム、塩化カリウム及びリジン塩酸塩を添加していない50%減塩丸鶏がらスープの実際の食塩濃度(%)も図5に示す。
【0089】
図5に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例4の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.598%)は、コントロールの食塩濃度(0.39%、実際の食塩濃度)に比べて顕著に高く、実施例4の食品サンプルの塩味が効果的に増強したことが確認された。また実施例4の食品サンプルは、異風味を生じていなかった。
当該結果から、本発明によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得ることが確認された。
【0090】
<試験例5>
(食品サンプルの調製)
50%減塩コーンクリームスープに、下表5に示される量(50%減塩コーンクリームスープの全重量に対する、添加した各化合物の重量)で、塩化アンモニウム、塩化カリウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例5の食品サンプルを調製した。
【0091】
【表5】
【0092】
実施例5の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、68mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、109mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、21mol/mであった。したがって、実施例5の食品サンプルのY/(X+Z)は、1.22である。
【0093】
(塩味増強効果の評価)
実施例5の食品サンプルの主観的食塩濃度(%)を測定した。主観的食塩濃度(%)の測定は、専門パネル(8名)により、ブラインド条件で、PSE(主観的等価点)法及びプロビット法にて行った。
結果を図6に示す。コントロールとして、塩化アンモニウム、塩化カリウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加していない50%減塩コーンクリームスープの実際の食塩濃度(%)も図6に示す。
【0094】
図6に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例5の食品サンプルの主観的食塩濃度(0.472%)は、コントロールの食塩濃度(0.35%、実際の食塩濃度)に比べて顕著に高く、実施例5の食品サンプルの塩味が効果的に増強したことが確認された。また実施例5の食品サンプルは、異風味を生じていなかった。
当該結果から、本発明によれば、異風味を生じることなく、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得ることが確認された。
【0095】
<試験例6>
(50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースの調製)
濃口醤油9.06g、みりん1.00g、グラニュー糖2.50g、果糖ブドウ糖液糖4.00g、グルタミン酸ナトリウム0.30g、「本造り一番だし」(商品名、味の素株式会社製)12g及び95%アルコール1.30gに、水を全量が100mlとなるように加えて、50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースを調製した。
【0096】
(食品サンプルの調製)
50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースに、下表6に示される量(単位:g)で、水を添加し、コントロール1の食品サンプルを調製した。
コントロール1の食品サンプルのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、139mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、130mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、10mol/mであった。したがって、当該コントロール1の食品サンプルのY/(X+Z)は、0.87である。
50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースに、下表6に示される量(単位:g)で、水及び塩化ナトリウムを添加し、コントロール2及び3の食品サンプルを調製した。
50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースに、下表6に示される量(単位:g)で、水、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例6~10及び比較例2の食品サンプルを調製した。
50%減塩めんつゆ2倍濃縮ベースに、下表6に示される量(単位:g)で、水、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩、塩化マグネシウム及びアルギニン塩酸塩を添加し、実施例11の食品サンプルを調製した。
実施例6~11及び比較例2の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)(単位:mol/m)、塩化物イオンの喫食濃度(Y)(単位:mol/m)、カリウムイオンの喫食濃度(Z)(単位:mol/m)を下表7に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
(塩味の評価)
実施例6~11及び比較例2の食品サンプルの塩味の強さを、2名の専門パネルにて、ノンブラインド条件で、下記の基準に基づき合議法により評価した(n=2)。
[塩味の評価基準]
×:コントロール1の食品サンプル未満
△:コントロール1の食品サンプル以上、コントロール2の食品サンプル未満
○:コントロール2の食品サンプル以上、コントロール3の食品サンプル未満
◎:コントロール3の食品サンプル以上
【0100】
結果を下表8に示す。
【0101】
【表8】
【0102】
表8に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例6~11の食品サンプルは、いずれも十分な塩味を有するものであった。実施例10の食品サンプルには、異風味が生じていた。一方、比較例2の食品サンプルでは、十分な塩味増強効果は得られなかった。
当該結果から、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(めんつゆ)の塩味を効果的に増強させ得、特にY/(X+Z)が1を超え、かつ1.35未満となるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(めんつゆ)の塩味を、異風味の発生を抑えて好ましく増強させ得ることが確認された。
【0103】
<試験例7>
(食品サンプルの調製)
減塩丸鶏がらスープの素(「丸鶏がらスープ」(商品名、味の素株式会社製)から食塩及びグルタミン酸ナトリウムを除いたもの(原材料から食塩及びグルタミン酸ナトリウムを除いたこと以外は、通常の製品と同様に作製されたもの))に、下表9に示される量(単位:g)で、お湯を添加し、コントロール4の食品サンプルを調製した。
コントロール4の食品サンプルのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、69mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、66mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、13mol/mであった。したがって、当該コントロール4の食品サンプルのY/(X+Z)は、0.80である。
減塩丸鶏がらスープの素に、下表9に示される量(単位:g)で、お湯及び塩化ナトリウムを添加し、コントロール5及び6の食品サンプルを調製した。
減塩丸鶏がらスープの素に、下表9に示される量(単位:g)で、お湯、塩化カリウム、塩化アンモニウム及びリジン塩酸塩を添加し、実施例12~17及び比較例3の食品サンプルを調製した。
減塩丸鶏がらスープの素に、下表10に示される量(単位:g)で、お湯、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例18~22の食品サンプルを調製した。
減塩丸鶏がらスープの素に、下表10に示される量(単位:g)で、お湯、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及びアルギニン塩酸塩を添加し、実施例23の食品サンプルを調製した。
実施例12~23及び比較例3の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)(単位:mol/m)、塩化物イオンの喫食濃度(Y)(単位:mol/m)、カリウムイオンの喫食濃度(Z)(単位:mol/m)を下表11、12に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
【表10】
【0106】
【表11】
【0107】
【表12】
【0108】
(塩味の評価)
実施例12~23及び比較例3の食品サンプルの塩味の強さを、2名の専門パネルにて、ノンブラインド条件で、下記の基準に基づき合議法により評価した(n=2)。
[塩味の評価基準]
×:コントロール4の食品サンプル未満
△:コントロール4の食品サンプル以上、コントロール5の食品サンプル未満
○:コントロール5の食品サンプル以上、コントロール6の食品サンプル未満
◎:コントロール6の食品サンプル以上
【0109】
結果を下表13及び14に示す。
【0110】
【表13】
【0111】
【表14】
【0112】
表13及び14に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例12~23の食品サンプルは、いずれも十分な塩味を有するものであった。実施例17及び22の食品サンプルには、異風味が生じていた。一方、比較例3の食品サンプルでは、十分な塩味増強効果は得られなかった。
当該結果から、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(丸鶏がらスープ)の塩味を効果的に増強させ得、特にY/(X+Z)が1を超え、かつ1.35未満となるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(丸鶏がらスープ)の塩味を、異風味の発生を抑えて好ましく増強させ得ることが確認された。
【0113】
<試験例8>
(食品サンプルの調製)
減塩コーンクリームスープの素(「クノール(登録商標)コーンクリームスープ」(商品名、味の素株式会社製)から食塩を除いたもの(原材料から食塩を除いたこと以外は、通常の製品と同様に作製されたもの))に、下表15に示される量(単位:g)で、お湯を添加し、コントロール7の食品サンプルを調製した。
コントロール7の食品サンプルのナトリウムイオンの喫食濃度(X)は、68mol/mであり、塩化物イオンの喫食濃度(Y)は、60mol/mであり、カリウムイオンの喫食濃度(Z)は、15mol/mであった。したがって、当該コントロール7の食品サンプルのY/(X+Z)は、0.72である。
減塩コーンクリームスープの素に、下表15に示される量(単位:g)で、お湯及び塩化ナトリウムを添加し、コントロール8及び9の食品サンプルを調製した。
減塩コーンクリームスープの素に、下表15に示される量(単位:g)で、お湯、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩及び塩化マグネシウムを添加し、実施例24~28及び比較例4の食品サンプルを調製した。
減塩丸鶏がらスープの素に、下表15に示される量(単位:g)で、お湯、塩化カリウム、塩化アンモニウム、リジン塩酸塩、塩化マグネシウム及びアルギニン塩酸塩を添加し、実施例29の食品サンプルを調製した。
実施例24~29及び比較例4の食品サンプルの、ナトリウムイオンの喫食濃度(X)(単位:mol/m)、塩化物イオンの喫食濃度(Y)(単位:mol/m)、カリウムイオンの喫食濃度(Z)(単位:mol/m)を下表16に示す。
【0114】
【表15】
【0115】
【表16】
【0116】
(塩味の評価)
実施例24~29及び比較例4の食品サンプルの塩味の強さを、2名の専門パネルにて、ノンブラインド条件で、下記の基準に基づき合議法により評価した(n=2)。
[塩味の評価基準]
×:コントロール7の食品サンプル未満
△:コントロール7の食品サンプル以上、コントロール8の食品サンプル未満
○:コントロール8の食品サンプル以上、コントロール9の食品サンプル未満
◎:コントロール9の食品サンプル以上
【0117】
結果を下表17に示す。
【0118】
【表17】
【0119】
表17に示される結果から明らかなように、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物が添加された実施例24~29の食品サンプルは、いずれも十分な塩味を有するものであった。実施例28の食品サンプルには、異風味が生じていた。一方、比較例4の食品サンプルでは、十分な塩味増強効果は得られなかった。
当該結果から、Y/(X+Z)が1を超えるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(コーンクリームスープ)の塩味を効果的に増強させ得、特にY/(X+Z)が1を超え、かつ1.35未満となるようにCl塩化合物を添加することにより、液状食品(コーンクリームスープ)の塩味を、異風味の発生を抑えて好ましく増強させ得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、ナトリウム摂取量の増加を抑えて、液状食品の塩味を効果的に増強させ得る。したがって、本発明によれば、例えば、液状食品を減塩し、ナトリウム摂取量を低減した場合であっても、十分な塩味を有する液状食品を提供できる。
【0121】
本出願は、日本で出願された特願2017-158701(出願日:2017年8月21日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6