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特許7160057傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/26 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
G01B11/26 H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020024452
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021128125
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勇介
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
(72)【発明者】
【氏名】原田 政広
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-121098(JP,A)
【文献】特開2015-045571(JP,A)
【文献】特開平09-212643(JP,A)
【文献】特開2001-321976(JP,A)
【文献】特開2009-134412(JP,A)
【文献】特開2012-026134(JP,A)
【文献】特開平09-234504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01N 21/84-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの物体間の傾きを計測する傾き計測方法であって、
前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する照射ステップと、
前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出する分断検出ステップと、
前記分断検出ステップで検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する傾き算出ステップと、
を含み、
前記傾き算出ステップは、
前記分断検出ステップで検出した複数の分断の一端側の座標および他端側の座標をそれぞれ算出し、
前記分断の一端側の座標と前記他端側の座標との幾何学的関係、または前記分断の一端側の座標を通る直線と前記分断の他端側の座標を通る直線とのなす角に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する、
傾き計測方法。
【請求項2】
前記照射ステップは、前記二つの物体に対して、前記二つの物体の寸法、前記二つの物体を接続する部材の寸法および前記ラインレーザ光の太さによって決定される方向から前記ラインレーザ光を照射する請求項1に記載の傾き計測方法。
【請求項3】
第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具の品質管理方法であって、
請求項1または請求項2に記載の傾き計測方法によって、前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する計測ステップと、
前記傾きが予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換ステップと、
を含む穿孔工具の品質管理方法。
【請求項4】
請求項に記載の品質管理方法によって穿孔工具の品質を管理し、品質が確保された前記穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造方法。
【請求項5】
二つの物体間の傾きを計測する傾き計測装置であって、
前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する光源装置と、
前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置で撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出し、検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する画像処理装置と、
を備え
前記画像処理装置は、
検出した複数の分断の一端側の座標および他端側の座標をそれぞれ算出し、
前記分断の一端側の座標と前記他端側の座標との幾何学的関係、または前記分断の一端側の座標を通る直線と前記分断の他端側の座標を通る直線とのなす角に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する、
傾き計測装置。
【請求項6】
第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造設備であって、
前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する請求項に記載の傾き計測装置と、
前記傾き計測装置によって計測された傾きが、予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換装置と、
を備える鋼管の製造設備。
【請求項7】
二つの物体間の傾きを計測する傾き計測方法であって、
前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する照射ステップと、
前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出する分断検出ステップと、
前記分断検出ステップで検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する傾き算出ステップと、
を含み、
前記照射ステップは、前記二つの物体に対して、前記二つの物体の寸法、前記二つの物体を接続する部材の寸法および前記ラインレーザ光の太さによって決定される方向から前記ラインレーザ光を照射する傾き計測方法。
【請求項8】
第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具の品質管理方法であって、
傾き計測方法によって、前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する計測ステップと、
前記傾きが予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換ステップと、
を含み、
前記傾き計測方法は、二つの物体間の傾きを計測する傾き計測方法であって、
前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する照射ステップと、
前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像ステップと、
前記撮像ステップで撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出する分断検出ステップと、
前記分断検出ステップで検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する傾き算出ステップと、
を含む穿孔工具の品質管理方法。
【請求項9】
前記照射ステップは、前記二つの物体に対して、前記二つの物体の寸法、前記二つの物体を接続する部材の寸法および前記ラインレーザ光の太さによって決定される方向から前記ラインレーザ光を照射する請求項8に記載の穿孔工具の品質管理方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の穿孔工具の品質管理方法によって穿孔工具の品質を管理し、品質が確保された前記穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造方法。
【請求項11】
第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造設備であって、
前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する傾き計測装置と、
前記傾き計測装置によって計測された傾きが、予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換装置と、
を備え、
前記傾き計測装置は、二つの物体間の傾きを計測する傾き計測装置であって、
前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する光源装置と、
前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像装置と、
前記撮像装置で撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出し、検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する画像処理装置と、
を備える鋼管の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
継目無鋼管(シームレス鋼管)の製造では、ピアサーミル等を用いてビレットを穿孔し、ホロー(中空素管)とするが、その際に穿孔工具としてバーとプラグを使用する。このうちのプラグは、最終製品の偏肉等の特性に大きく影響するため、頻繁に交換する必要がある。そのため、交換を容易にするために、一般的にバーとプラグとの間には、何らかの着脱機構が存在する。
【0003】
例えば特許文献1では、着脱機構として、バーに雄ねじ部をプラグに雌ねじ部を設け、ロボットハンドを用いて、プラグを効率的に交換する手法が開示されている。プラグの交換基準としては、雌ねじ部の摩耗によるプラグのガタツキが挙げられる。プラグにガタツキがあると、穿孔中にバーに対してプラグの軸心が振れるため、製品の偏肉特性が著しく悪化する。
【0004】
穿孔工具のねじ部の摩耗を正確に計測するには、バーからプラグを外して縦割りし、断面形状を計測する必要があるが、穿孔工程中にこのような破壊的な計測を行うことは不可能である。そのため、現状では、偏肉特性の悪化防止のために、穿孔工具のプラグが早期交換される傾向にあり、プラグの原単位が悪化するという課題がある。
【0005】
なお、穿孔工程中にプラグの内部摩耗を非破壊的に計測する手法も検討されている。例えばバーおよびプラグが静止した状態では、重力によってプラグがバーに対して傾きを持つため、この傾きを計測することで内部摩耗を間接的に推定することができる。この方法であれば、穿孔工程前に内部摩耗の大きなプラグを判定し、交換することができる。
【0006】
鋼管のような物体の傾き計測方法として、例えば特許文献2では、複数の検知器で計測された鋼管杭までの距離の差と、検知器間の距離とに基づいて、鋼管杭の傾きを計測する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-234504号公報
【文献】特開2012-26134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2で開示された方法を穿孔工具のプラグの傾き計測に適用する場合、以下のような問題が生じる。例えば特許文献2で開示された方法では、検知器の正面にプラグを配置しなければならないが、プラグのサイクルタイムおよび搬送の制約から、プラグを計測に適した位置に毎回運搬することは困難である。
【0009】
また、特許文献2で開示された方法では、検出器側から見て奥行方向の傾きしか検出することができない。前記したように、重力によるプラグの傾きを計測する場合、検出器はプラグの上下に配置しなければならないため、搬送設備等の他の設備との干渉が発生したり、あるいは検出器が粉塵や水滴等の悪環境下にさらされるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、二つの物体間の傾きを精度よく計測することができる傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る傾き計測方法は、二つの物体間の傾きを計測する傾き計測方法であって、前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する照射ステップと、前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像ステップと、前記撮像ステップで撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出する分断検出ステップと、前記分断検出ステップで検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する傾き算出ステップと、を含む。
【0012】
また、本発明に係る傾き計測方法は、上記発明において、前記傾き算出ステップが、前記分断検出ステップで検出した複数の分断の一端側の座標および他端側の座標をそれぞれ算出し、前記分断の一端側の座標と前記他端側の座標との幾何学的関係、または前記分断の一端側の座標を通る直線と前記分断の他端側の座標を通る直線とのなす角に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する。
【0013】
また、本発明に係る傾き計測方法は、上記発明において、前記照射ステップが、前記二つの物体に対して、前記二つの物体の寸法、前記二つの物体を接続する部材の寸法および前記ラインレーザ光の太さによって決定される方向から前記ラインレーザ光を照射する。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る品質管理方法は、第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具の品質管理方法であって、上記の傾き計測方法によって、前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する計測ステップと、前記傾きが予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換ステップと、を含む。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る鋼管の製造方法は、上記の品質管理方法によって穿孔工具の品質を管理し、品質が確保された前記穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する。
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る傾き計測装置は、二つの物体間の傾きを計測する傾き計測装置であって、前記二つの物体に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する光源装置と、前記二つの物体に照射された前記複数のラインレーザ光を撮像する撮像装置と、前記撮像装置で撮像した前記複数のラインレーザ光の画像から、前記複数のラインレーザ光の分断を検出し、検出した複数の分断の位置関係に基づいて、前記二つの物体間の傾きを算出する画像処理装置と、を備える。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る鋼管の製造設備は、第一の部材および第二の部材から構成される穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造設備であって、前記第一の部材に対する前記第二の部材の傾きを計測する上記の傾き計測装置と、前記傾き計測装置によって計測された傾きが、予め設定された許容値を超える場合、前記第二の部材を交換する交換装置と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、二つの物体に照射した複数のラインレーザ光の分断の位置関係に基づいて、二つの物体間の傾きを精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法を実現するための傾き計測装置の概略的な構成を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の分断検出ステップにおいて、ラインレーザ光の分断を検出する方法を説明するための図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の傾き算出ステップの第一の手法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の傾き算出ステップの第一の手法を説明するための図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の傾き算出ステップの第二の手法の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、本発明の実施形態に係る傾き計測方法の傾き算出ステップの第二の手法を説明するための図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置において、二つの物体、光源装置および撮像装置の配置関係を示す上面図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置において、光源装置の方位角βと二つの物体のサイズとの関係を示す図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置において、二つの物体、光源装置および撮像装置の配置関係を示す側面図である。
図11図11は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置において、二つの物体、光源装置および撮像装置の配置関係を示す正面図である。
図12図12は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置において、光源装置の俯角γと二つの物体のサイズとの関係を示す図である。
図13図13は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置の実施例の構成を示す図である。
図14図14は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置の実施例において、軸心間傾きの設定値と計測値との関係を示すグラフである。
図15図15は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置の実施例において、光源装置の方位角β=15°、俯角γ=0°である場合の、ラインレーザ光と二つの物体との位置関係を示す図である。
図16図16は、本発明の実施形態に係る傾き計測装置の実施例において、光源装置の方位角β=30°、俯角γ=20°である場合の、ラインレーザ光と二つの物体との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
(傾き計測装置)
本発明の実施形態に係る傾き計測装置の構成について、図1を参照しながら説明する。傾き計測装置1は、複数の物体間の傾きを計測するためのものである。本実施形態における傾き計測装置1は、例えば図1に示すように、第一の物体Ob1の軸心Ax1に対する、第二の物体Ob2の軸心Ax2の傾き(軸心間傾き)αを計測する。
【0022】
第一の物体Ob1は、例えば穿孔工具における、円柱形状のバーを想定している。また、第二の物体Ob2は、穿孔工具における、ドーム形状のプラグを想定している。第一の物体Ob1と第二の物体Ob2との間には、所定の隙間Spが形成されている。また、第一の物体Ob1と第二の物体Ob2との間には、両者を接続する接続部材Elが設けられている。
【0023】
接続部材Elは、例えば第一の物体Ob1に設けられたねじ部(雄ねじ部)を想定している。第二の物体Ob2の内部には、例えばこの接続部材Elに対応するねじ部(雌ねじ部)が設けられている。なお、説明の便宜上、図1では軸心Ax1に対する軸心Ax2の傾きαや隙間Spを、実際よりも誇張して大きく図示している。
【0024】
傾き計測装置1は、光源装置11と、撮像装置12と、画像処理装置13と、表示装置14と、を備えている。光源装置11は、第一の物体Ob1および第二の物体Ob2に対して、互いに平行な複数のラインレーザ光を照射する。図1では、光源装置11が照射する複数のラインレーザ光の一例として、互いに平行な二本のラインレーザ光La1,La2を図示している。なお、以降の説明では、第一の物体Ob1および第二の物体Ob2を総称する場合は「二つの物体Ob1,Ob2」と表記し、ラインレーザ光La1,La2を総称する場合は「ラインレーザ光La」と表記する。
【0025】
図1に示すように、二つの物体Ob1,Ob2がともに回転対称体(円柱形状、ドーム形状)である場合、第一の物体Ob1の軸心Ax1または第二の物体Ob2の軸心Ax2に対して、ラインレーザ光La1,La2が平行に照射されるように光源装置11を配置することが好ましい。これにより、後記する画像処理装置13による傾き算出が容易となる。なお、光源装置11の具体的な配置については後記する(図8図11参照)。
【0026】
撮像装置12は、例えばCCD(Charge Coupled Device)またはCIS(CMOS Image Sensor)等の撮像素子を内蔵する装置である。撮像装置12は、二つの物体Ob1,Ob2に照射されたラインレーザ光La1,La2を撮像する。そして、撮像装置12は、撮像した画像を画像処理装置13に出力する。
【0027】
ここで、撮像装置12では、予めラインレーザ光Laが照射された部分の輝度値とそれ以外の部分の輝度値とに差が出るように、露光時間、カメラレンズ絞り、照明条件を調整し、画像の二値化によってラインレーザ光Laのみを検出できるように調整しておくことが好ましい。これにより、後記する画像処理装置13によるラインレーザ光Laの分断の検出が容易となる。なお、上記のような撮像条件を容易に実現する別の手法として、例えば光源装置11としてレーザ光源を使用し、波長フィルタ等でレーザ光以外の波長帯の光をカットする手法を用いてもよい。
【0028】
画像処理装置13は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータで実現され、処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPU等を用いて、撮像装置12によって撮像された画像の処理を行う。画像処理装置13は、具体的には、撮像装置12で撮像されたラインレーザ光Laの画像から、当該ラインレーザ光Laの分断を検出する。続いて、画像処理装置13は、検出した複数の分断の位置関係に基づいて、第一の物体Ob1に対する第二の物体Ob2の傾きαを算出する。そして、画像処理装置13は、算出した傾きαの算出結果を表示装置14に対して出力する。
【0029】
ここで、光源装置11によって照射されたラインレーザ光Laは、第一の物体Ob1上および第二の物体Ob2上で反射または拡散するが、隙間Spでは反射または拡散する対象がない。そのため、ラインレーザ光Laは、隙間Spにおいて、見かけ上分断される。画像処理装置13は、画像処理技術を利用して、このラインレーザ光Laの分断位置を検出する。なお、画像処理装置13による分断位置の具体的な検出方法については後記する(図3参照)。
【0030】
表示装置14は、例えばLCDディスプレイ、CRTディスプレイ等によって実現され、画像処理装置13による処理結果(傾きの計測結果)を表示する。
【0031】
(傾き計測方法)
本実施形態に係る傾き計測方法について、図2を参照しながら説明する。傾き計測方法は、照射ステップと、撮像ステップと、分断検出ステップと、傾き算出ステップと、をこの順番で行う。
【0032】
照射ステップでは、光源装置11によって、計測対象となる二つの物体Ob1,Ob2に対して、複数のラインレーザ光Laを平行に照射する(ステップS1)。ここで、照射ステップでは、二つの物体Ob1,Ob2に対して、二つの物体Ob1,Ob2の寸法、二つの物体Ob1,Ob2を接続する部材(接続部材EL)の寸法、および、第一の物体Ob1と第二の物体Ob2との間の所定の隙間Spによって決定される第一の方向から、ラインレーザ光Laを照射することが好ましい。なお、「第一の方向」とは、例えば傾きの基準となる第一の物体Ob1の軸心Ax1に対して方位角方向に傾いた方向のことを示している。
【0033】
また、照射ステップでは、二つの物体Ob1,Ob2に対して、二つの物体Ob1,Ob2の寸法、二つの物体Ob1,Ob2を接続する部材(接続部材EL)の寸法およびラインレーザ光Laの太さによって決定される第二の方向から、ラインレーザ光Laを照射することが好ましい。なお、「第二の方向」とは、例えば傾きの基準となる第一の物体Ob1の軸心Ax1に対して俯角方向に傾いた方向のことを示している。
【0034】
ラインレーザ光Laの照射方向を、上記の二つの方向に調整する必要がある場合、まず方位角を調整することが好ましい。そして、方位角を調整した後に、例えば接続部材ELにラインレーザ光Laが映り込み、かつ撮像装置12によって撮像された画像上でこの映り込みを分離することができない場合に、俯角を調整することがより好ましい。なお、ラインレーザ光Laの照射方向、すなわち光源装置11の配置方向の詳細については、後記する(図8図12参照)。
【0035】
続いて、撮像ステップでは、撮像装置12によって、二つの物体Ob1,Ob2に照射された複数のラインレーザ光Laを撮像する(ステップS2)。続いて、分断検出ステップでは、画像処理装置13によって、ステップS2で撮像した画像から複数のラインレーザ光Laを検出し、かつ複数のラインレーザ光Laの分断、すなわち複数のラインレーザ光Laが二つの物体Ob1,Ob2間に入り込んで分断された分断位置を検出する(ステップS3)。
【0036】
続いて、傾き算出ステップでは、分断検出ステップで検出した複数の分断の位置関係に基づいて、二つの物体Ob1,Ob2間の傾きαを算出する(ステップS4)。傾き算出ステップでは、後記するように、分断検出ステップで検出した複数の分断の一端側の座標および他端側の座標をそれぞれ算出し、分断の一端側の座標と他端側の座標との幾何学的関係、または分断の一端側の座標を通る直線と分断の他端側の座標を通る直線とのなす角に基づいて、二つの物体Ob1,Ob2間の傾きαを算出する。
【0037】
<分断検出ステップ>
図2における分断検出ステップ(ステップS3)のアルゴリズムの詳細について、図3を参照しながら説明する。図3は、撮像ステップで撮像した画像の一例を示している。ここでは、第一の物体Ob1の軸心Ax1に対して、ラインレーザ光La1,La2が平行に照射されていると仮定して説明を行う。このとき、以下の手順によりラインレーザ光La1,La2の分断を検出する。
(1)画像の左端から、所定の位置(図3の一点鎖線L1上)において、輝度値の高い領域、すなわちラインレーザ光La1,La2の照射位置(同図のP)を列挙する。
(2)ラインレーザ光La1,La2の幅方向に沿った画素の輝度値を調べ、輝度値の高低を判定する。
(3)輝度値が高い場合は隣接する未調査の画素に移動し、(2)に戻る。輝度値が低い場合は分断が見つかったとしてその地点(例えば同図のP)の座標を保存する。
(4)ラインレーザ光La1,La2を直線近似し、(3)で検出した分断よりも先で初めて交差したラインレーザ光La1,La2との交点(例えば同図のP)の座標を保存する。
【0038】
なお、上記の(2)、(3)では、例えば図3の点Pを起点にラインレーザ光La1の図3中のPとPの方向(これを「幅方向」とする)を求め、その延長線上の領域のみ残るようにマスクをかける。この結果、ラインレーザ光La1の軌跡の領域のみを抽出することができる。続いてマスク内の領域で点Pの位置から右方向へと探索し、初めてラインレーザ光La1が途切れた画素をPとする。また、上記の(4)では、点Pの検出後に探索を再開し、次に初めてラインレーザ光La1が出現する画素をPとする。
【0039】
続いて、処理対象となるラインレーザ光La1,La2を選別する。ここで、上記のアルゴリズムを使用した場合においても、ノイズによって以下のような検出失敗例が出ることが予想される。
(1)ラインレーザ光La1が隙間Spに交差せず、輝度値が常に高いため、点Pが検出されない。
(2)ラインレーザ光La1が接続部材Elに乗ってしまい、二つの物体Ob1,Ob2が連続していると誤検知されたため、点Pが検出されない。
(3)ラインレーザ光La1が第二の物体Ob2のみに照射された、または撮像された画像上で第二の物体Ob2上のラインレーザ光La1が第一の物体Ob1の延長上から外れているため、点Pが検出されない。
(4)ノイズを誤って第二の物体Ob2との交点であると判定してしまい、点Pを誤検出する。
【0040】
上記の(1)~(3)は、エラーとして検出段階で処理不可能との判定が可能であるが、上記の(4)については、別途以下のような処理を行うことが好ましい。
(1)点Pの誤検出を起こさない前処理を起こった上で、分断の検出を行う。例えば、各種フィルタ(メディアンフィルタ、ガウシアンフィルタ、モルフォロジー処理等)を予めかけた上で処理を行う。
(2)点Pとして検出されたものから外れ値を検出する。例えば、得られた各データに対し、スミルノフ・グラブス検定やトンプソン検定を実施する。
【0041】
<傾き算出ステップ>
図2における傾き算出ステップ(ステップS4)のアルゴリズムの詳細について、図4図7を参照しながら説明する。傾き算出ステップは、ラインレーザ光Laの分断を何組用いるかによって大きく二通りの手法に分類される。そのうち、第一の手法は設備・処理が簡素であるという利点があり、第二の手法はロバスト性に長けるという利点がある。
【0042】
≪第一の手法≫
第一の手法は、ラインレーザ光Laの分断を二組用いる手法であり、二組の分断の長さの差と、各分断を通る直線間の距離とを用いて幾何学的に傾きαを算出する。第一の手法では、図4に示すように、まず分断検出ステップで検出された分断のうち二組を選定する(ステップS11)。ステップS11では、図5に示すように、分断検出ステップで検出された二組の分断のうち、一つ目の分断の左端および右端をそれぞれ点P11,P21とし、二つ目の分断の左端および右端をそれぞれ点P12,P22とする。
【0043】
続いて、二組の分断の長さの差d-dを算出する(ステップS12)。ステップS12では、各点P12,P22の座標を算出した上で、下記式(1)により、点P11,P21の距離(一つ目の分断の長さ)dと、点P12,P22の距離(二つ目の分断の長さ)dとを算出する。なお、下記式(1)において、pはラインレーザ光Laの照射位置における分解能、すなわち撮像装置12の画素一つ分に対応する実際の長さである。
【0044】
【数1】
【0045】
続いて、二組の分断の距離d12を算出する(ステップS13)。二組の分断の距離d12とは、言い換えると複数のラインレーザ間の幅のことである。ステップS13では、例えばラインレーザ間の幅を、画像を利用して算出してもよく、予めラインレーザ光Laの照射位置における光線間距離を測定してもよい。
【0046】
続いて、分断の長さの差d-dおよび分断の距離d12に基づいて傾きαを算出する(ステップS14)。ステップS14では、図5に示すように、三角形ABCが底辺d-d、高さd12の直角三角形である、∠ABCが傾きαと等しい、という関係を利用して、下記式(2)により、傾きαを算出する。
【0047】
【数2】
【0048】
≪第二の手法≫
第二の手法は、ラインレーザ光Laの分断を三組以上用いる手法であり、各分断の左端および右端のそれぞれを通る近似直線を計算し、直線間のなす角に基づいて傾きαを算出する。第二の手法では、図6に示すように、まず分断検出ステップで検出された分断のうち三組以上を選定する(ステップS21)。ステップS21では、図7に示すように、三組以上の分断の、左端(点P11,P12,…,P1n)の座標と、それらに対応する右端(点P21,P22,…,P2n)の座標とを算出する。P1n,P2n(k=1,2,・・・n)は、照射されたラインレーザ光La1,La2,La3のうち、同一のラインレーザ光上の点を示している。
【0049】
続いて、最小二乗法等を利用して、選定した分断の左端(点P11,P12,…,P1n)から、これらの点を通る近似直線「y=ax+b」の傾きaを算出する(ステップS22)。続いて、最小二乗法等を利用して、選定した分断の右端(点P21,P22,…,P2n)から、これらの点を通る近似直線「y=ax+b」の傾きaを算出する(ステップS23)。
【0050】
続いて、ステップS22,S23で算出した二つの近似直線のなす角に基づいて、傾きαを算出する(ステップS24)。ステップS24では、下記式(3)により、傾きαを算出する。
【0051】
【数3】
【0052】
<ラインレーザ光の照射方向>
二つの物体Ob1,Ob2間の傾きαを計測する際のラインレーザ光Laの好ましい照射方向について、図8図12を参照しながら説明する。これらの図では、第一の物体Ob1に対して撮像装置12のレンズが向いている方向をX軸方向、第一の物体Ob1の軸心Ax1に沿った方向をZ軸方向、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸方向とする。
【0053】
二つの物体Ob1,Ob2に投影されたラインレーザ光Laが接続部材Elに投影されると、隙間Spによるラインレーザ光Laの分断が起こらず、隙間Spの検出が困難または不可能となる。従って、図8に示すように、隙間Spに対してX軸方向にずらした位置に光源装置11を配置し、その位置からラインレーザ光Laを照射することが好ましい。
【0054】
図9は、隙間Spに対する光源装置11の角度(以下、「方位角」)βと、二つの物体Ob1,Ob2のサイズとの関係を示している。例えば第一の物体Ob1(または第二の物体Ob2)の半径をR、接続部材Elの半径をr、隙間Spの代表値をGとするとき、同図に示すように光源装置11を配置することにより、接続部材Elにラインレーザ光Laが照射されなくなる。方位角βは、具体的には下記式(4)で求められる値β以上の値に設定することが好ましい。なお、方位角βとは、撮像装置12の中心軸および光源装置11の照射方向をXZ平面に正投影した2直線のなす角である。方位角βは、撮像装置12の中心軸方向を0°とする。また、方位角βの正の向きは、計測対象に応じて適宜決定する。
【0055】
【数4】
【0056】
また、仮に接続部材Elにラインレーザ光Laが照射されるような場合であっても、例えば図10に示すように、第一の物体Ob1の軸心Ax1に対してY軸方向にずらした位置に光源装置11を配置し、その位置からラインレーザ光Laを照射することにより、隙間Spの検出が可能となる。この場合、図11に示すように、光源装置11に俯角γを設けることにより、第一の物体Ob1または第二の物体Ob2に投影されたラインレーザ光LaのY軸方向の位置yと、接続部材Elに投影されたラインレーザ光LaのY軸方向の位置yとがずれるため、画像処理による隙間Spの検出が可能となる。
【0057】
図12は、俯角γと、二つの物体Ob1,Ob2のサイズとの関係を示している。二つの物体Ob1,Ob2に照射されたラインレーザ光Laの太さMよりも、照射位置のずれ量Δが大きければ、二つの物体Ob1,Ob2に照射されたラインレーザ光Laと、接続部材Elに照射されたラインレーザ光Laとを撮像装置12によって観察した際に、見かけ上、重ならずに異なる線として区別することができる。従って、俯角γは、下記式(5)を満たす値γ以上の値に設定することが好ましい。なお、俯角γとは、撮像装置12の中心軸および光源装置11の照射方向をXY平面に正投影した2直線のなす角である。俯角γは、撮像装置12の中心軸方向を0°とする。また、Y軸の正の向きに回転するときを俯角γの正の向きとする。
【0058】
【数5】
【0059】
なお、撮像された画像が隙間Spの内部を写していないとラインレーザ光Laの分断の様子をとらえることができない。そのため、撮像装置12は、図8図12に示すように、隙間Spの正面または隙間Sp全体の様子を撮像できる位置に配置することが好ましい。
【0060】
以上説明したような本実施形態に係る傾き計測装置1および傾き計測方法によれば、二つの物体Ob1,Ob2に照射した複数のラインレーザ光Laの分断の位置関係に基づいて、二つの物体Ob1,Ob2間の傾きを精度よく算出することができる。そして、算出した傾きに基づいて、例えば交換対象である第二の物体Ob2の適切な交換時期を把握することができる。すなわち、従来は人の目で見て判断していた第二の物体Ob2の交換時期を定量化することができるため、効率のよい操業を行うことができる。
【0061】
また、傾き計測装置1および傾き計測方法によれば、サイズが巨大であるがゆえに、作業に危険が伴う穿孔工具のプラグの交換時期の把握を、人が現場に立ち入ることなく、自動化することができるため、操業の安全性を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係る傾き計測装置1および傾き計測方法では、二つの物体Ob1,Ob2に対して、複数のラインレーザ光Laを平行に照射した様子を撮像できれば、傾きを計測することができるため、既存技術(特許文献2)のように、検知器の正面にプラグを運搬するというような追加の工程が不要となる。また、本実施形態に係る傾き計測装置1および傾き計測方法では、重力によるプラグの傾きをプラグの側面側から計測することができるため、上下方向から計測を行う既存技術(特許文献2)のように、搬送設備等の他の設備との干渉が発生したり、検出器が粉塵や水滴等の悪環境下にさらされるおそれがなくなる。
【0063】
また、本実施形態に係る傾き計測方法は、第一の部材(例えばバー)および第二の部材(例えばプラグ)から構成される穿孔工具の品質管理方法に適用することも可能である。この場合、品質管理方法では、例えば前記した傾き計測方法によって、第一の部材に対する第二の部材の傾きを計測する計測ステップと、計測ステップで計測した傾きが予め設定された許容値を超える場合、第二の部材を新たなものに交換する交換ステップと、を行う。これにより、第二の部材の傾きに基づいて、当該第二の部材の摩耗を非破壊的に計測することができるため、適切な交換時期に第二の部材を交換することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る品質管理方法は、鋼管の製造方法にも適用可能である。この場合、鋼管の製造方法では、例えば前記した品質管理方法によって、第一の部材(例えばバー)および第二の部材(例えばプラグ)から構成される穿孔工具の品質を管理し、品質が確保された穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する。これにより、品質が適切に管理された穿孔工具を常に用いることができるため、品質の高い(偏肉特性に優れた)継目無鋼管を製造することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る傾き計測装置1は、第一の部材(例えばバー)および第二の部材(例えばプラグ)から構成される穿孔工具を用いて継目無鋼管を製造する鋼管の製造設備に適用することも可能である。この場合、鋼管の製造設備では、例えば第一の部材に対する第二の部材の傾きを計測する傾き計測装置1と、傾き計測装置1によって計測された傾きが、予め設定された許容値を超える場合、第二の部材を交換する交換装置と、を備えて構成することができる。
【0066】
なお、交換装置としては、ロボットハンド等の機械的手段を用いることができる。これにより、第二の部材の傾きに基づいて、当該第二の部材の交換の要否を非破壊的に計測し、適切な交換時期に第二の部材を交換することができる。そして、品質が適切に管理された穿孔工具を用いて、品質の高い(偏肉特性に優れた)継目無鋼管を製造することができる。
【実施例
【0067】
(実施例1)
本実施形態に係る傾き計測方法の実施例1について、図13および図14を参照しながら説明する。本実施例では、図13に示すような座標軸を設定し、第一の物体Ob1をZ軸方向に平行に、かつYZから距離1000mm離れた位置に配置した。第一の物体Ob1の右端は、Z=0に位置に合わせて配置した。また、第二の物体Ob2は、第一の物体Ob1の軸心Ax1を通り、かつXZ平面と平行な平面内で回転させて配置した。その際の回転角θは、第一の物体Ob1の軸心Ax1に対する第二の物体Ob2の軸心Ax2の傾き(軸心間傾き)である。
【0068】
二つの物体Ob1,Ob2としては、φ112mmの不透明パイプを用いた。撮像装置12は座標軸の原点に配置し、レンズの方向がX軸と平行になるようにした。光源装置11は、四本の平行なラインレーザ光を照射する光源を用いた。ラインレーザ光の光線間隔は、対象までの距離に依らず35mmとなるように調整した。光源装置11の中心Lcは、座標(x,y,z)=(0mm,200mm,600mm)に配置した。以上の構成のもとで、回転角θを変化させながら画像を取得し、本発明に係る傾き計測方法の分断検出ステップおよび傾き算出ステップを実施することにより、傾きを計測した。
【0069】
図14は、傾きの設定値と計測値との関係を示すグラフである。同図に示すように、実験条件として設定した傾きの設定値θ’に対して、計測値θが比例することがわかった。計測点から最小二乗近似直線を導出したところ、比例係数は1.02、R2値は0.97を得た。前記した最小二乗近似直線を用いることにより、計測値θから設定値θ’を計測することが可能である。
【0070】
(実施例2)
本実施形態に係る傾き計測方法の実施例2について、図15および図16を参照しながら説明する。本実施例では、本発明に係る傾き計測方法を用いた穿孔工具のバーおよびプラグ間の傾きの計測試験を行い、光源装置の好ましい配置を検討した。
【0071】
本実施例では、第一の物体Ob1、第二の物体Ob2、光源装置および撮像装置を、前記した図8図12と同様に配置し、光源装置の方位角βおよび俯角γを変化させながら、ラインレーザ光の分断と実際の隙間Spとが一致するのかを調べた。
【0072】
第一の物体Ob1としては、φ100mm(ねじ部Scはφ50mm)のバーのサンプル片を、第二の物体Ob2としては、プラグのサンプル片をそれぞれ用いた。光源装置としては、四本の平行なラインレーザ光を照射する光源を用いた。ラインレーザ光の光線間隔は、対象までの距離に依らず35mmとなるように調整した。また、第一の物体Ob1と第二の物体Ob2との間の隙間Spは、15mm程度となるように設定した。なお、本実施例で用いたラインレーザ光の太さは、2mm程度であるため、上記の式(4)、式(5)を用いると、光源装置の最適な配置条件は、「方位角β>βm=31°」、「俯角γ>γm=4.6°」となる。
【0073】
図15および図16は、ラインレーザ光と二つの物体Ob1,Ob2との位置関係を示している。同図において、×で示した位置は、ラインレーザ光の分断位置として検出された点を示している。なお、同図では、二つの物体Ob1,Ob2を固定した状態でラインレーザ光の高さを変えながら複数回実験を行った結果を重ね合わせて示している。
【0074】
図15に示すように、光源装置の方位角β=15°で俯角γ=0°である場合、すなわち方位角βおよび俯角γが上記の式(4)、式(5)を満たさない場合、ラインレーザ光がねじ部Scに当たり、二つの物体Ob1,Ob2の隙間Spとラインレーザ光の分断位置とが一致しないことがわかる。特に、第一の物体Ob1側におけるずれが顕著である。
【0075】
一方、図16に示すように、光源装置の方位角β=30°で俯角γ=20°である場合、すなわち方位角βおよび俯角γが上記の式(4)、式(5)を満たす場合、ラインレーザ光がねじ部Scに当たらない、または、第一の物体Ob1上とねじ部Sc上とで、ラインレーザ光が撮像装置12から見て上下にずれることから、二つの物体Ob1,Ob2の隙間Spとラインレーザ光の分断位置とが一致することがわかる。以上の結果により、上記の式(4)、式(5)に基づいて光源装置の方位角βおよび俯角γを決定することにより、傾きを適切に計測できることがわかる。
【0076】
以上、本発明に係る傾き計測方法、品質管理方法、鋼管の製造方法、傾き計測装置および鋼管の製造設備について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0077】
例えば、実施形態に係る傾き計測方法では、ラインレーザ光Laが接続部材Elに投影される場合は、隙間Spに対して光源装置11をX軸方向にずらして方位角βを持たせるか、第一の物体Ob1の軸心Ax1に対して光源装置11をY軸方向にずらして俯角γを持たせることが好ましいとしたが、必ずしも方位角βや俯角γを持たせる必要はない。例えば、接続部材E1の反射率が低い場合(反射率の低い素材である場合、表面が荒れている場合等)は、光源装置11の方位角βや俯角γが0°であっても、隙間Spによるラインレーザ光Laの分断を検出可能な場合もある。
【符号の説明】
【0078】
1 傾き計測装置
11 光源装置
12 撮像装置
13 画像処理装置
14 表示装置
Ax1,Ax2 軸心
El 接続部材
La,La1,La2,La3 ラインレーザ光
Ob1 第一の物体
Ob2 第二の物体
Sc ねじ部
Sp 隙間
α 傾き
β 方位角
γ 俯角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16