(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】非破壊検査方法、非破壊検査システム及び非破壊検査プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
G01N27/83
(21)【出願番号】P 2020533532
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2019029636
(87)【国際公開番号】W WO2020027043
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018144671
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 一直
(72)【発明者】
【氏名】森田 博
(72)【発明者】
【氏名】橋本 好之
(72)【発明者】
【氏名】高 清
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-292572(JP,A)
【文献】特開2018-81070(JP,A)
【文献】特開2017-150904(JP,A)
【文献】特開2017-194404(JP,A)
【文献】特開2004-251644(JP,A)
【文献】特開2013-130452(JP,A)
【文献】中国実用新案第207488230(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/9093
G01R 33/00 - G01R 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査方法であって、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを備える非破壊検査方法。
【請求項2】
前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項1に記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記第2ステップの磁場分布の計測を、前記第1ステップの磁場分布の計測の後、前記第1ステップの磁場分布の計測に係る前記磁場印加ユニットを撤去して形成された磁場状態で実行する請求項1又は請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記第2ステップの磁場分布の計測を、前記第1ステップの磁場分布の計測の後、前記第1ステップの磁場分布の計測に係る前記磁場印加ユニットを撤去し、所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより前記第1ステップの磁場分布の計測時の印加磁場とは逆極性の磁場を前記第1ステップの磁場分布の計測における磁場印加位置と同位置に一時的に印加し、当該磁場印加ユニットをも撤去して形成された磁場状態で実行する請求項1又は請求項2に記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされたセンサーユニットを用いる請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法。
【請求項6】
前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされ、他の一つの前記磁場印加ユニットを他端に着脱可能にされたセンサーユニットを用いる請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法。
【請求項7】
非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査システムであって、少なくとも情報処理装置を備え、
前記情報処理装置は、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを実行可能にされた非破壊検査システム。
【請求項8】
前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項7に記載の非破壊検査システム。
【請求項9】
前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされたセンサーユニットと、
当該一つの磁場印加ユニットと、を備える請求項7又は請求項8に記載の非破壊検査システム。
【請求項10】
前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされ、他の一つの前記磁場印加ユニットを他端に着脱可能にされたセンサーユニットと、
当該二つの磁場印加ユニットと、を備える請求項7又は請求項8に記載の非破壊検査システム。
【請求項11】
非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査システムに含まれる情報処理装置に、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを実行させるための非破壊検査プログラム。
【請求項12】
前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項11に記載の非破壊検査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気を利用した非破壊検査に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気を利用した非破壊検査の応用範囲としては、コンクリートやゴム等の非磁性体材料に内包された鉄筋や鋼棒、ワイヤー等の磁性材料の腐食や劣化による破断の診断、特には、道路や鉄道の橋桁や橋脚、床版内のPC鋼材や鉄筋の破断診断が挙げられる。
従来の磁気を用いたコンクリート内部の鉄筋やPC鋼材の破断判定を非破壊で行う技術として、漏洩磁束法による検査装置が提案されている。
従来の磁気非破壊検査システムでは、計測対象物に磁気回路を形成した状態での磁気計測は、磁気回路生成用磁石が作り出す大きな磁場に計測対象物の破断部位に生じる小さな磁場変化が埋もれてしまうために判定が困難であるとして、「着磁」と「計測」を分離した2ステップ工程による計測対象物の残留磁束を利用する方法が採用されている。
例えば特許文献1には、「着磁」と「計測」の2ステップによる方法として、永久磁石よる着磁後、磁石を撤去し、長手方向に離間配置された一対のセンサーを鉄筋長手方向に走査し、2センサーの計測値の差分より微分値を求めて判定する技術が記載されている。
【0003】
この計測対象物の残留磁束を利用する方法では、計測対象物の破断面に生じる磁場変化が小さいため、計測対象物のかぶり(埋没深さ)が深い場合に破断部位に生じる磁場変化を捉え難いという課題があった。
それに対して計測対象物である鉄筋やPC鋼材等に磁気回路を形成した状態であれば、従来の残留磁束を利用する従来の方法に比べて、計測対象物の破断部位に大きな磁場変化を発生させることができる為、計測対象物のかぶり(埋没深さ)が深い場合でも、破断部位に生じる磁場変化を捉え易いという効果がある。
例えば特許文献2には、計測対象物に磁気回路を形成した状態での磁気計測方法として、極性の異なる1対の磁石を対向して配置し、対磁石の磁場が均衡によりゼロになる位置に磁気センサーを設ける技術が記載されている。同技術では、被検出物(鉄筋)に磁気回路を形成した状態で、鉄筋長手方向に移動させながら検査を行って鉄筋破断判定をする。破断がある側の磁力が小さくなり均衡が崩れることを判定原理とする。特許文献2に記載の技術では、磁石に対して磁気センサーを設ける位置が限定されてしまう。
特許文献3には、特許文献1と同様の「着磁」と「計測」の2ステップによる方法において、計測対象と交差して配置されている磁性体の成分を除去することが記載されている。それには、1回目の着磁走査後の計測に続いて、磁石の走査方向を逆にして着磁走査後の計測を行い、両計測データを加算することで、交差鉄筋が放つ磁束をキャンセルして計測対象の磁気成分を抽出するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3734822号公報
【文献】特開2004-279372号公報
【文献】特許第6305860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際のコンクリート構造物にも計測対象物である主鉄筋とは別にスターラップと呼ばれる交差鉄筋が存在する。この交差鉄筋は多くの場合、製造時や輸送時や過去の計測時に受けた磁気暴露によって、N極性またはS極性の磁力を帯びてしまうことが多くあり、磁力を帯びた交差鉄筋から発生する磁力がノイズとなって、計測対象物の計測データの評価判定が難しくなることがある。
計測対象物以外の交差鉄筋等による磁場成分を除去するために、特許文献3に記載される方法では1回目の着磁走査、1回目の計測、逆方向の2回目の着磁走査、2回目の計測の4ステップを実行する必要があって煩雑であるとともに、1回目の計測と2回目の計測の間に2回目の着磁走査があるから、計測装置を一旦撤去しなければならず、1回目の計測と2回目の計測とで計測位置の整合をとることが難しく、繰り返し精度の良い計測を安定して行うことが難しい。
特許文献2に記載されるような磁石から計測対象物に磁場を印加している時に磁気センサーにより磁場を計測する場合には、磁気センサーと磁石とは一体にされる。磁気センサーと磁石とは一体であると、特許文献3に記載の方法を適用することはできず、計測対象物以外の交差鉄筋等による磁場成分を除去することができない。
【0006】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、磁気を利用した非破壊検査において、計測対象物以外の交差鉄筋等による磁場成分を除去し、計測精度の向上及び安定を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査方法であって、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを備える非破壊検査方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項1に記載の非破壊検査方法である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記第2ステップの磁場分布の計測を、前記第1ステップの磁場分布の計測の後、前記第1ステップの磁場分布の計測に係る前記磁場印加ユニットを撤去して形成された磁場状態で実行する請求項1又は請求項2に記載の非破壊検査方法である。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記第2ステップの磁場分布の計測を、前記第1ステップの磁場分布の計測の後、前記第1ステップの磁場分布の計測に係る前記磁場印加ユニットを撤去し、所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより前記第1ステップの磁場分布の計測時の印加磁場とは逆極性の磁場を前記第1ステップの磁場分布の計測における磁場印加位置と同位置に一時的に印加し、当該磁場印加ユニットをも撤去して形成された磁場状態で実行する請求項1又は請求項2に記載の非破壊検査方法である。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされたセンサーユニットを用いる請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法である。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされ、他の一つの前記磁場印加ユニットを他端に着脱可能にされたセンサーユニットを用いる請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載の非破壊検査方法である。
【0013】
請求項7記載の発明は、非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査システムであって、少なくとも情報処理装置を備え、
前記情報処理装置は、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを実行可能にされた非破壊検査システムである。
【0014】
請求項8記載の発明は、前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項7に記載の非破壊検査システムである。
【0015】
請求項9記載の発明は、前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされたセンサーユニットと、
当該一つの磁場印加ユニットと、を備える請求項7又は請求項8に記載の非破壊検査システムである。
【0016】
請求項10記載の発明は、前記磁場分布の各分布点の値を計測する磁気センサーを含み、一つの前記磁場印加ユニットを一端に着脱可能にされ、他の一つの前記磁場印加ユニットを他端に着脱可能にされたセンサーユニットと、
当該二つの磁場印加ユニットと、を備える請求項7又は請求項8に記載の非破壊検査システムである。
【0017】
請求項11記載の発明は、非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査システムに含まれる情報処理装置に、
所定の磁場を発生する磁場印加ユニットにより、非磁性体の外表面の計測対象物に近接した位置から当該計測対象物に磁場を印加した状態で、前記外表面上で前記磁場印加ユニットに隣接した領域の前記磁場印加ユニットからの距離に応じた当該計測対象物の延在方向に沿った磁場分布を取得する第1ステップと、
前記第1ステップに対し前記磁場印加ユニットによる計測対象物への印加磁場が除外された条件下で、前記第1ステップの磁場分布と同分布点の集合である磁場分布を取得する第2ステップと、
前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布とに基づき、磁場分布を再構成する第3ステップとを実行させるための非破壊検査プログラムである。
【0018】
請求項12記載の発明は、前記第3ステップにおける再構成は、前記第1ステップにより取得した磁場分布と前記第2ステップにより取得した磁場分布との、各分布点の値の差分又は比率をとることを含む請求項11に記載の非破壊検査プログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1ステップにより磁場印加ユニットを発生源とし計測対象物に由来した磁場を計測した計測対象物の延在方向に沿った磁場分布が得られ、第2ステップにより、第1ステップと同じ分布点の集合である磁場分布であって、同磁場印加ユニットを発生源とし計測対象物に由来した磁場成分が消滅又は減退した磁場分布が得られる。磁性を帯びた交差鉄筋等による磁場はこの両磁場分布に含まれる。したがって、この両磁場分布に基づき、同磁場印加ユニットを発生源とし計測対象物に由来した磁場成分以外の磁場成分を除去又は減退させる再構成が可能であり、計測対象物以外の交差鉄筋等による磁場成分を除去することができる。これにより計測精度が向上する。
また、非磁性体の外表面上の磁場印加ユニットによる磁場印加位置に隣接した領域で磁場を磁気センサーにより計測するには、第1ステップと第2ステップとの間で磁気センサーを移動させる必要は無く、第1ステップから第2ステップまで磁気センサーを同じ位置に配置しておくことは可能である。第1ステップから第2ステップまで磁気センサーを同じ位置に配置しておけば、計測作業が簡便であるとともに、計測位置精度も向上する。
以上により、計測精度の向上及び安定を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る非破壊検査システムの全体構成図である。
【
図2A】本発明の磁気ストリーム形態に係る非破壊検査装置の正面模式図である。
【
図2B】本発明の磁気ストリーム形態に係る非破壊検査装置の平面模式図である。
【
図3】本発明の磁気ループ形態に係る非破壊検査装置の平面模式図である。
【
図4】本発明の磁気ループ法による磁場印加時の計測状態図である。
【
図5】本発明の磁気ループ法による印加磁場除外時の計測状態図である。
【
図6】本発明の磁気ループ法による一時逆磁場印加後の印加磁場除外時の計測状態図である。
【
図7】本発明の磁気ストリーム法による磁場印加時の計測状態図である。
【
図8】本発明の磁気ストリーム法による印加磁場除外時の計測状態図である。
【
図9】本発明の磁気ストリーム法による一時逆磁場印加後の印加磁場除外時の計測状態図である。
【
図10A】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図10B】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図10C】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図11A】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図11B】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図11C】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図12A】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図12B】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図12C】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図13A】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図13B】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図13C】本発明の一実施形態に係り、磁場分布曲線を示す。
【
図14】2次元磁場分布データを生成する回路構成のブロックを含むシステムブロック図である。
【
図15】基本的な非破壊検査フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0022】
本発明の一実施形態に係る非破壊検査方法及び同方法を実施するための本発明の一実施形態に係る非破壊検査システムにつき説明する。本発明の一実施形態に係る非破壊検査システムの全体構成図を
図1に示す。
図1に示すように本実施形態の非破壊検査システム10は非破壊検査装置1とクラウドコンピューター9と可搬型コンピューター4とを備える。非破壊検査装置1は、センサーユニット2と、磁場印加ユニット3とを備える。以下に説明する磁気ストリーム法を実施する形態の装置にあっては、磁場印加ユニット3がセンサーユニット2の片側に配置され(
図2A,B参照)、磁気ループ法を実施する形態の装置にあっては、磁場印加ユニット3,3Sがセンサーユニット2の両側に配置される(
図3参照)。
センサーユニット2は磁気計測するためのブロックで、複数の磁気センサー21を搭載している。磁気センサー21は計測対象物方向からの1軸方向の磁場成分を検知する1軸センサーでもよいが、磁気センサー周囲の3次元磁場分布を得ることができる3軸センサーであることがより好ましい。磁気センサー21として3軸センサーを適用する場合、互いに直交する3軸方向の磁場成分を検知可能な3軸センサーが好ましいが、同3軸方向にセンサー軸がそれぞれ配置された3つの1軸センサーの複合により構成されていてもよい。
磁気センサー21には半導体センサーであるホール素子や磁気抵抗センサーであるMRセンサー、MIセンサー、TMRセンサー(トンネル型磁気抵抗センサー)などが知られているが、より高感度なTMRセンサー(トンネル型磁気抵抗センサー)を適用することが好ましい。TMRセンサー(トンネル型磁気抵抗センサー)は磁気によって抵抗値が変化する素子で、抵抗ブリッジ回路組むことで磁気を電圧に変換して出力することができる。
【0023】
磁気センサー21で生じた電圧をA/D部22でデジタル値に変換し、モバイル通信ユニット23を介して、計測データを外部に送信する。センサーユニット2には全体制御するCPU24の他、操作部25も備わっている。送信されたデータは、本システムの情報処理装置の一例であるクラウドコンピューター9で判定アルゴリズムにかけられ、計測対象物の状態判定がなされる。
【0024】
本実施形態において磁場印加ユニット3(3S)は、永久磁石を含むものである。
本実施形態における一つの方法にあっては、磁場印加ユニット3は計測対象物である磁性体、例えばコンクリート構造物等の非磁性体に内包される鋼材にN極性またはS極性のどちらかの磁場を計測対象物に印加して、計測対象物に磁気流路を形成する。センサーユニット2は磁気流路が形成されている状態で計測対象物から漏れだしてくる磁気を磁気センサー21で計測する。これを磁気ストリーム法と呼ぶ。
本実施形態における他の一つの方法にあっては、磁場印加ユニット3は計測対象物である磁性体、例えばコンクリート構造物等の非磁性体に内包される鋼材等の計測対象物にN極性またはS極性のどちらかの磁場を印加し、磁場印加ユニット3Sは計測対象物に磁場印加ユニット3とは逆極性の磁場を印加して、計測対象物に磁気回路を形成する。センサーユニット2は磁気回路が形成されている状態で計測対象物から漏れだしてくる磁気を磁気センサー21で計測する。これを磁気ループ法と呼ぶ。
クラウドコンピューター9は本実施形態の非破壊検査プログラムを実行する情報処理装置である。クラウドコンピューター9はWebサーバーであって、センサーユニット2からアップロードされた計測データを直ちに処理して、可搬型コンピューター4のブラウザアプリで表示することができる。
【0025】
図2A,Bに磁気ストリーム法を実施する形態(「磁気ストリーム形態」という。)の非破壊検査装置の機構図を、
図3に磁気ループ法を実施する形態(「磁気ループ形態」という。)の非破壊検査装置の機構図を示す。
図2A,Bに示すように筐体26の中には磁気センサー21を一つ又は複数搭載したセンサアレイが計測面26Mに近接して配置されている。本実施形態ではセンサアレイが構成されている場合を主に説明する。第一方向をX軸、第二方向をZ軸、第三方向をY軸として図中に直交3軸XYZを記載する。
図2A,Bに示すように磁場印加ユニット3と、磁気センサー21とが第一方向Xに配列する。また磁気ループ形態の場合、
図3に示すように磁場印加ユニット3と、磁気センサー21と、磁場印加ユニット3Sとが第一方向Xに配列する。
図2B及び
図3に示すようにY方向に複数の磁気センサー21が配列する。計測面26Mは、筐体26の外表面の一つであって磁気センサー21が近接配置された側である。筐体26内の反対側のスペースには、操作部25のほか上記A/D部22、モバイル通信ユニット23、CPU24等を搭載した回路基板等が配置される。磁場印加ユニット3のS極又はN極である端面が計測面26MとZ軸座標上の略同位置に配置され、磁気ループ形態の場合、磁場印加ユニット3Sの磁場印加ユニット3とは逆極性の端面が計測面26MとZ軸座標上の略同位置に配置されて、磁場印加ユニット3(3S)とセンサーユニット2とが一体に固定される。磁場印加ユニット3(3S)は、センサーユニット2に対して着脱可能とされている。
【0026】
磁気ストリーム形態と磁気ループ形態とで共通に適用できるセンサーユニット2は、磁気センサー21をモータ27Mで駆動されるセンサー走査機構27により、X方向に移動させつつ検知する走査検知が可能とされている。実際の計測時には、筐体26の計測面26Mを計測対象物が内包される計測対象構造物の被計測面(コンクリート表面など)に合せて固定して設置した状態で、磁気センサー21の走査検知が実行される。計測時に、センサーユニット2及び磁場印加ユニット3(3S)の設置位置を計測対象物に対して固定した位置から移動させなければ、センサー走査機構27は磁気センサー21を任意の位置に走査しながらの計測や任意の位置に停止させての計測が可能な構成になっており、何度でも同じ位置を繰り返し計測することが可能であり、また計測位置の磁場印加ユニット3(3S)に対する距離も再現性がある。
【0027】
磁気ループ形態では、磁場印加ユニット3、3Sが筐体26の左右に配置されて、計測対象物にN極磁石から計測対象物を通してS極磁石へと流れる磁気回路を形成した状態で、磁気センサー21により磁場を計測する。
磁気ストリーム形態では、磁場印加ユニット3が筐体26の片側のみに配置されて、計測対象物にN極性またはS極性の磁場を印加して、計測対象物に一方向からの磁気流を流し込んだ状態で磁場を計測する。
【0028】
図4-
図6を参照して磁気ループ法のよる計測原理につき説明する。
計測対象物8は磁性材料である鉄筋鋼棒またはPC鋼材を想定し、中央部にギャップ1cm程度の破断が生じている状態を想定する(周りの非磁性体(コンクリート)を不図示とする。以下同じ)。
計測対象物8に対してほぼ直交して配置されている交差鉄筋7が2本存在する。実際のコンクリート構造物にも計測対象物である主鉄筋(8)とは別にスターラップと呼ばれる補助鉄筋(7)が存在する。本モデルの交差鉄筋7はこのスターラップを模したものである。この交差鉄筋7は多くの場合、製造時や輸送時や過去の計測時に受けた磁気暴露によって、N極性またはS極性の磁力を帯びてしまうことが多くあり、磁力を帯びた交差鉄筋7から発生する磁力がノイズとなって、計測対象物8の計測データの評価判定が難しくなることも多い。
【0029】
図4は磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sが設置されている状態での計測モデルを示す。
図4の左側の磁場印加ユニット(永久磁石)3からN極性の磁力が計測対象物8に印加され、また右側の磁場印加ユニット(永久磁石)3SからS極性の磁力が計測対象物8に印加され、その結果、磁性体である計測対象物8内に左から右に流れる磁気回路が生成される。
磁性体を流れる磁気は少しずつ外部に放出される。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第1ステップ)。
磁気ループ法において、磁場印加ユニット3,3Sから計測対象物8に印加する磁場は一方がN極性で、他方がS極性であって互いに逆極性であればどちらがどちらであってもよい。すなわち、磁気ループ形態の非破壊検査装置1は、磁場印加ユニット3と磁気センサー21と磁場印加ユニット3Sとの第一方向Xの配列に第二方向Zに隣接し第一方向Xに延在した計測対象物8に対し、磁場印加ユニット3,3Sから互いに逆極性の磁場を印加して、第一方向Xに沿って磁場印加ユニット3から離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰し、中間で第一極性とは異なる第二極性に転じて漸増する磁場分布を形成した状態の同計測対象物8からの磁場を磁気センサー21で検知する構成を有する。そして、第一方向Xに沿って磁場印加ユニット3,3Sからの距離が異なる複数の位置で磁気センサー21により磁場を計測し、磁場印加ユニット3,3Sからの距離に応じた第一方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされている。本実施形態では、第一方向Xの両端部に磁場印加ユニット3,3Sが固定される筐体26上において磁気センサー21を第一方向Xに走査するセンサー走査機構27が構成されていることで、磁場印加ユニット3,3Sからの距離に応じた第一方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされている。
ここで、
図4に示すように計測対象物8に破断があると破断部位で新たに磁気の極性反転部が発生する。この破断部に生じる磁場の乱れを検出することで破断の有無を判定することができる。
【0030】
図5は左右の磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sが撤去された状態での計測モデルを示す。
図4の状態で磁気が流された影響で計測対象物8のうち、磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sが配置されていた部分は、磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sの逆極の磁気を帯び、磁気回路の形成状態に比べれば僅かではあるが、
図4の状態と同じ向きに計測対象物8が着磁され、計測対象物8は磁気センサー21による走査ラインに磁場を生じさせる。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第2ステップ)。計測手順としては、第2ステップの磁場分布の計測を、第1ステップの磁場分布の計測の後、第1ステップの磁場分布の計測に係る磁場印加ユニット3,3Sを撤去して形成された磁場状態で実行する。この場合を印加撤去法と呼ぶ。
図6は、
図4の磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sと逆の極の磁場印加ユニット(永久磁石)3B,3BSが左右に一時的(1秒程度の一瞬で充分)に設置された後、磁場印加ユニット(永久磁石)3B,3BSが撤去された状態での計測モデルを示す。その結果、
図4の状態とは逆の向きに計測対象物8が着磁され、計測対象物8は磁気センサー21による走査ラインに磁場を生じさせる。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第2ステップ)。計測手順としては、第2ステップの磁場分布の計測を、第1ステップの磁場分布の計測の後、第1ステップの磁場分布の計測に係る磁場印加ユニット3,3Sを撤去し、所定の磁場を発生する磁場印加ユニット3B,3BSにより第1ステップの磁場分布の計測時の印加磁場とは逆極性の磁場を第1ステップの磁場分布の計測における磁場印加位置と同位置に一時的に印加し、当該磁場印加ユニット3B,3BSをも撤去して形成された磁場状態で実行する。この場合を一時逆印加撤去法と呼ぶ。
なお、
図6の磁場印加ユニット(永久磁石)3B,3BSは、
図4の磁場印加ユニット(永久磁石)3,3Sと同じものを用いてもよいし、別の物を用いてもよい。別の物を用いれば、一時的に印加する逆磁場の強さを設定しやすい。
【0031】
図7-
図9を参照して磁気ストリーム法のよる計測原理につき説明する。
計測対象物8は磁性材料である鉄筋鋼棒またはPC鋼材を想定し、中央部にギャップ1cm程度の破断が生じている状態を想定する(周りの非磁性体(コンクリート)を不図示とする。以下同じ)。
計測対象物8に対してほぼ直交して配置されている交差鉄筋7が2本存在する。実際のコンクリート構造物にも計測対象物である主鉄筋(8)とは別にスターラップと呼ばれる補助鉄筋(7)が存在する。本モデルの交差鉄筋7はこのスターラップを模したものである。この交差鉄筋7は多くの場合、製造時や輸送時や過去の計測時に受けた磁気暴露によって、N極性またはS極性の磁力を帯びてしまうことが多くあり、磁力を帯びた交差鉄筋7から発生する磁力がノイズとなって、計測対象物8の計測データの評価判定が難しくなることも多い。
【0032】
図7は磁場印加ユニット(永久磁石)3が設置されている状態での計測モデルを示す。
図7の左側の磁場印加ユニット(永久磁石)3からN極性の磁力が計測対象物8に印加されに印加され、その結果、磁性体である計測対象物8内に左から右に流れる磁気流(磁気ストリーム)が生成される。
磁性体を流れる磁気は少しずつ外部に放出されながら減衰する。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第1ステップ)。
磁気ストリーム法においては、磁場印加ユニット3から計測対象物8に印加する磁場はN極性、S極性のいずれでも構わない。すなわち、磁気ストリーム形態の非破壊検査装置1は、磁場印加ユニット3と磁気センサー21との第一方向Xの配列に第二方向Zに隣接し第一方向Xに延在した計測対象物8に対し、磁場印加ユニット3からN極性又はS極性である第一極性の磁場を印加して、第一方向Xに沿って磁場印加ユニット3から離れるに従い磁場が第一極性の範囲で減衰する磁場分布を形成した状態の同計測対象物8からの磁場を磁気センサー21で検知する構成を有する。そして、第一方向Xに沿って磁場印加ユニット3からの距離が異なる複数の位置で磁気センサー21により磁場を計測し、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第一方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされている。本実施形態では、第一方向Xの一端部に磁場印加ユニット3が固定される筐体26上において磁気センサー21を第一方向Xに走査するセンサー走査機構27が構成されていることで、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第一方向Xに沿った磁場分布が得られるようにされている。
ここで、計測対象物8に破断がなければ、磁石から離れるに従って徐々に漏洩磁力が弱まってゆくが、
図7に示すように計測対象物8に破断があると破断部位で磁気の流れが断ち切られるため、破断部手前で多くの磁気が放出され、破断部以降の計測対象物に流れる磁気が減る。この破断の有無による計測対象物の漏洩磁束の分布の違いを磁気センサー21による走査検知により捉えることができる。
【0033】
図8は左の磁場印加ユニット(永久磁石)3が撤去された状態での計測モデルを示す。
図7の状態で磁気が流された影響で計測対象物8のうち、磁場印加ユニット(永久磁石)3が配置されていた部分は、磁場印加ユニット(永久磁石)3の逆極の磁気を帯び、磁気流が形成されていた状態に比べれば僅かではあるが、
図7の状態と同じ向きに計測対象物8が着磁され、計測対象物8は磁気センサー21による走査ラインに磁場を生じさせる。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第2ステップ)。計測手順としては、第2ステップの磁場分布の計測を、第1ステップの磁場分布の計測の後、第1ステップの磁場分布の計測に係る磁場印加ユニット3を撤去して形成された磁場状態で実行する。この場合を印加撤去法と呼ぶ。
図9は、
図7の磁場印加ユニット(永久磁石)3と逆の極の磁場印加ユニット(永久磁石)3Bが左側に一時的(1秒程度の一瞬で充分)に設置された後、磁場印加ユニット(永久磁石)3Bが撤去された状態での計測モデルを示す。その結果、
図7の状態とは逆の向きに計測対象物8が着磁され、計測対象物8は磁気センサー21による走査ラインに磁場を生じさせる。磁気センサー21は計測対象物8の上方域を走査して、X方向のライン状に磁場分布を計測する。この計測による磁場分布をクラウドコンピューター9は取得する(第2ステップ)。計測手順としては、第2ステップの磁場分布の計測を、第1ステップの磁場分布の計測の後、第1ステップの磁場分布の計測に係る磁場印加ユニット3を撤去し、所定の磁場を発生する磁場印加ユニット3Bにより第1ステップの磁場分布の計測時の印加磁場とは逆極性の磁場を第1ステップの磁場分布の計測における磁場印加位置と同位置に一時的に印加し、当該磁場印加ユニット3Bをも撤去して形成された磁場状態で実行する。この場合を一時逆印加撤去法と呼ぶ。
なお、
図9の磁場印加ユニット(永久磁石)3Bは、
図7の磁場印加ユニット(永久磁石)3と同じものを用いてもよいし、別の物を用いてもよい。別の物を用いれば、一時的に印加する逆磁場の強さを設定しやすい。
【0034】
図10A,B,Cに本発明の本実施形態のひとつである磁気ループ法、かつ、印加撤去法を適用した場合の各ステップの磁場分布曲線を示す。
図10Aは
図4の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図10Bは
図5の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図10Cは
図10Aの磁場分布と
図10Bの磁場分布とに基づき再構成した磁場分布である。
ここで2本の交差鉄筋7のうち左側の交差鉄筋7はN極に帯磁し、右側の交差鉄筋7はS極に帯磁していて、それぞれが帯磁している極成分のノイズを発生している。
図4の計測モデルで得られる磁場分布は、左側は設置されている磁場印加ユニット3のN極性磁場の影響で大きなN値を示し、右側は設置されている磁場印加ユニット3SのS極性磁場の影響で大きなS値を示す。中間部には計測対象物8に破断があるため、破断部位を中心に急な変化が生じする。しかしながら、計測した磁場分布には交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、この破断部の変化の有無を見極める妨げとなる。
【0035】
図10Bに示す磁場分布では、左右の磁場印加ユニット3,3Sが撤去される前の磁場印加の影響で、計測対象物8はわずかに磁気を帯びている。しかしその値は
図10Aの磁場印加状態と比べて小さい。
図10Bに示す磁場分布においても、
図10Aと同様、計測した磁場分布には交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、そのノイズ成分の大きさは磁場印加ユニット3,3Sによる磁場印加の有り無しの影響を受けず一定である。
図10Cに示す磁場分布は、
図10Aの磁場分布と
図10Bの磁場分布とに基づいて再構成したものである。例えば、
図10Aの磁場分布から
図10Bの磁場分布を減算する。差分に代え比率をとる処理としてもよい。再構成された
図10Cに示す磁場分布では、交差鉄筋7の波形がキャンセルされ、破断部に生じる変化の判定が容易になる。
【0036】
図11A,B,Cに本発明の本実施形態のひとつである磁気ループ法、かつ、一時逆印加撤去法を適用した場合の各ステップの磁場分布曲線を示す。
図11Aは
図4の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図11Bは
図6の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図11Cは
図11Aの磁場分布と
図11Bの磁場分布とに基づき再構成した磁場分布である。
ここでも2本の交差鉄筋7のうち左側の交差鉄筋7はN極に帯磁し、右側の交差鉄筋はS極に帯磁していて、それぞれが帯磁している極成分のノイズを発生している。
図6の計測モデルで得られる
図11Bに示す磁場分布は、左右の位置に磁場印加ユニット3B,3BSが一時的に配置された後撤去された影響で、計測対象物8にわずかであるが逆向き方向に磁気を帯びている。
図11Bに示す磁場分布でもこれまでと同様、交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、そのノイズ成分の大きさは磁場印加ユニット3,3S(3B,3BS)による磁場印加の影響を受けず一定である。
図11Cに示す磁場分布は、
図11Aの磁場分布と
図11Bの磁場分布とに基づいて再構成したものである。例えば、
図11Aの磁場分布から
図11Bの磁場分布を減算する。差分に代え比率をとる処理としてもよい。再構成された
図11Cに示す磁場分布では、交差鉄筋7の波形がキャンセルされ、かつ、破断部に生じる急変化も強調され、破断有無の判定が容易になる。
【0037】
図12A,B,Cに本発明の本実施形態のひとつである磁気ストリーム法、かつ、印加撤去法を適用した場合の各ステップの磁場分布曲線を示す。
図12Aは
図7の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図12Bは
図8の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図12Cは
図12Aの磁場分布と
図12Bの磁場分布とに基づき再構成した磁場分布である。
ここで2本の交差鉄筋7のうち左側の交差鉄筋7はN極に帯磁し、右側の交差鉄筋7はS極に帯磁していて、それぞれが帯磁している極成分のノイズを発生している。
図7の計測モデルで得られる磁場分布は、左側は設置されている磁場印加ユニット3のN極性磁場の影響で大きなN値を示し磁場印加ユニット3から遠くなるに従ってゼロに収束してゆく。
中間部には計測対象物8に破断があるため、破断部位を中心に急な変化が生じする。しかしながら、計測した磁場分布には交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、この破断部の変化の有無を見極める妨げとなる。
【0038】
図12Bに示す磁場分布でも2本の交差鉄筋7のうち左側の交差鉄筋7はN極に帯磁
し、右側の交差鉄筋7はS極に帯磁していて、それぞれが帯磁している極成分のノイズを発生している。
図12Bに示す磁場分布では、左の磁場印加ユニット3が撤去される前の磁気印加の影響で、計測対象物8はわずかに磁気を帯びている。しかしその値は
図12Aの磁場印加状態と比べて少ない。
図12Bに示す磁場分布においても、
図12Aと同様、計測した磁場分布には交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、そのノイズ成分の大きさは磁場印加ユニット3による磁場印加の有り無しの影響を受けず一定である。
図12Cに示す磁場分布は、
図12Aの磁場分布と
図12Bの磁場分布とに基づいて再構成したものである。例えば、
図12Aの磁場分布から
図12Bの磁場分布を減算する。差分に代え比率をとる処理としてもよい。再構成された
図12Cに示す磁場分布では、交差鉄筋の波形がキャンセルされ、破断部に生じる変化の判定が容易になる。
【0039】
図13A,B,Cに本発明の本実施形態のひとつである磁気ストリーム法、かつ、一時逆印加撤去法を適用した場合の各ステップの磁場分布曲線を示す。
図13Aは
図7の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図13Bは
図9の計測モデルで計測された磁場分布の一例である。
図13Cは
図13Aの磁場分布と
図13Bの磁場分布とに基づき再構成した磁場分布である。
ここでも2本の交差鉄筋7のうち左側の交差鉄筋7はN極に帯磁し、右側の交差鉄筋7はS極に帯磁していて、それぞれが帯磁している極成分のノイズを発生している。
図9の計測モデルで得られる
図13Bに示す磁場分布は、左の位置に磁場印加ユニット3Bが一時的に配置された後撤去された影響で、計測対象物8にわずかであるが逆向き方向に磁気を帯びている。
図13Bに示す磁場分布でもこれまでと同様、計測した波形には交差鉄筋7によるノイズ成分が中央部を挟んだ左右に発生しており、そのノイズ成分の大きさは磁場印加ユニット3(3B)による磁場印加の影響を受けず一定である。
図13Cに示す磁場分布は、
図13Aの磁場分布から
図13Bの磁場分布とに基づいて再構成したものである。例えば、
図13Aの磁場分布から
図13Bの磁場分布を減算する。差分に代え比率をとる処理としてもよい。再構成された
図13Cに示す磁場分布では、交差鉄筋7の波形がキャンセルされ、かつ、破断部に生じる急変化も強調され、破断有無の判定が容易になる。
【0040】
図14を参照して本実施形態の2次元分布磁気データの作成につき説明する。
非破壊検査装置1のセンサーユニット2には
図2A,B、
図3で示したように、複数の磁気センサー21が備わっている。
ここでは磁気センサー21としてTMRセンサーを適用する。TMRセンサーは印加磁場の強さに応じて抵抗が変化する特徴を持つ。
図14に示すように磁気センサー21の抵抗変化を、抵抗/電圧変換してアナログ電圧に変え、アナログ電圧をA/D変換してデジタルデータを生成する。
センサー走査機構27によりY方向に配列する複数の磁気センサーからなるセンサアレイをX方向に走査しながら、複数の計測位置での磁場を計測する。このようにして、XY平面上に2次元に配列した各計測位置に計測値をそれぞれ持っている2次元磁場分布データを得る。
上述した磁場印加あり(第1ステップ)の2次元磁場分布データと磁場印加なし(第2ステップ)の2次元磁場分布データは、非破壊検査装置1からクラウドコンピューター9に送信される。クラウドコンピューター9は、比率や差分を補正演算して計測対象物8に由来する磁場データを抽出した演算再構築データを算出する。クラウドコンピューター9は演算再構築データに基づき表示用画像の一形態としての磁場マップを生成し出力する。磁場マップは可搬型コンピューター4等で表示され、ユーザーによる結果判断に使われる。また、クラウドコンピューター9は、取得した演算再構築データにもとづきX方向の磁場分布の異変部を計測対象物8の異常部として判定し、判定結果を可搬型コンピューター4やその他のPCのブラウザーに提供する。ユーザーは、可搬型コンピューター4やその他のPCのブラウザーで、磁場分布曲線や判定結果を参照することができる。
【0041】
図15を参照して本実施形態の磁気ストリーム法又は磁気ループ法による基本的な非破壊検査フローにつき説明する。
図1から
図3に示した構成の非破壊検査装置1を用いる場合である。
(ステップS1)非破壊検査装置1を磁気センサー21が計測対象物8を内包する例えばコンクリート表面に計測面26Mを対向して近接するように設置して、磁場印加ユニット3(3S)から磁場を印加して計測対象物8に磁気流又は磁気回路を形成する。
(ステップS2)ステップS1による磁気流又は磁気回路形成状態で計測対象物8からの磁束を磁気センサー21で検知する。
(ステップS3)非破壊検査装置1の位置は変えずにセンサー走査機構27により磁気センサー21をX方向に1ステップ分だけシフト走査する。
(ステップS4)全シフト位置での走査計測が完了しているか否かを判断し、完了していなければステップS2に戻る。完了していればステップS5に進む。
(ステップS5)非破壊検査装置1は、全シフト位置で計測したデータにより走査面全体の磁場分布データを作成する。このときのデータは、磁気センサー21が1軸センサーであれば1軸方向の磁場成分が分布する面データとなり、磁気センサー21が3軸センサーであれば3軸方向の磁場成分が分布する面データとなる。
(ステップS6)クラウドコンピューター9は、取得した磁場分布データに基づき上述した演算再構築データを算出し、さらに演算再構築データに基づき磁場マップを作成し、当該磁場マップが可搬型コンピューター4等で表示される。
磁気センサー21による走査面全体より大面積の対象を検査する場合には、非破壊検査装置1を未計測の面に移動して以上のステップS1-S6を繰り返し実行する。
【0042】
以上説明したように、第1ステップにより磁場印加ユニット3(3S)を発生源とし計測対象物8に由来した磁場を計測した計測対象物8の延在方向に沿った磁場分布(
図10A、
図11A、
図12A、
図13A)が得られ、第2ステップにより、第1ステップと同じ分布点の集合である磁場分布であって、同磁場印加ユニット3(3S)を発生源とし計測対象物8に由来した磁場成分が消滅又は減退した磁場分布(
図10B、
図11B、
図12B、
図13B)が得られる。磁性を帯びた交差鉄筋7等による磁場はこの両磁場分布に含まれる。したがって、この両磁場分布に基づき、同磁場印加ユニット3(3S)を発生源とし計測対象物8に由来した磁場成分以外の磁場成分を除去又は減退させる再構成が可能であり、計測対象物8以外の交差鉄筋7等による磁場成分を除去することができる。これにより計測精度が向上する。
また、非磁性体の外表面上の磁場印加ユニット3(3S)による磁場印加位置に隣接した領域で磁場をセンサーユニット2により計測するには、第1ステップと第2ステップとの間でセンサーユニット2を移動させる必要は無く、第1ステップから第2ステップまでセンサーユニット2を同じ位置に配置しておくことは可能である。第1ステップから第2ステップまでセンサーユニット2を同じ位置に配置しておけば、計測作業が簡便であるとともに、センサーユニット2が第1ステップと第2ステップとでずれないから計測位置精度も向上する。
以上により、計測精度の向上及び安定を図ることができる。
【0043】
以上の実施形態に拘わらず、磁場分布データに基づき計測対象物の異常を判定する情報処理装置は、クラウドコンピューター9に限らず、非破壊検査装置1に対して一対一に接続されるコンピューターであったり、非破壊検査装置に一体に搭載されるコンピューターであったりなどハードウエア構成は問わない。クラウドコンピューター9の一局で処理する場合は、情報の集積、均一な処理、利用等の点で有利である。
以上の実施形態にあっては、磁気センサー21をX方向については走査式とし、Y方向についてセンサアレイ式としたが、X方向についてもセンサアレイ式、すなわち、筐体26上において磁気センサー21が第一方向Xに配列した複数により構成されていることで、磁場印加ユニット3からの距離に応じた第一方向Xに沿った磁場分布が得られるようにセンサーユニット2を構成してもよい。
また、X方向及びY方向について走査式にセンサーユニット2を構成してもよい。
また以上の実施形態にあっては、X方向及びY方向に複数列ある2次元分布データを取得する構成としたが、X方向に1列の1次元分布データを取得する構成として実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、非磁性体に内包される磁性材料を計測対象物とした非破壊検査に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 非破壊検査装置
2 センサーユニット
3,3S 磁場印加ユニット
3B,3BS 磁場印加ユニット
8 計測対象物
9 クラウドコンピューター
10 非破壊検査システム
21 磁気センサー
25 操作部
26 筐体
27 センサー走査機構