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特許7160150継手管、その製造方法、設計方法、継手管付き鋼管、その製造方法、設計方法、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】継手管、その製造方法、設計方法、継手管付き鋼管、その製造方法、設計方法、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20221018BHJP
   F16L 13/02 20060101ALN20221018BHJP
【FI】
E02D5/24 103
F16L13/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021104520
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】市川 和臣
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-024436(JP,A)
【文献】特開2009-299298(JP,A)
【文献】特開2006-152796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/24
F16L 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の端部に取り付けられ前記鋼管を接合するねじ式又は差込式の継手管であって、
前記鋼管に接合される基端部の外径が前記鋼管の外径より大きく、
前記基端部の内径が前記鋼管の内径より小さく、
かつ、前記鋼管と管軸を合わせた状態において、前記基端部の前記鋼管の外周面からの張り出し量が9mm以下である継手管。
【請求項2】
請求項1に記載の継手管の製造方法であって、
前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、
選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、
該選定したシームレス鋼管を前記継手管の素材として前記基端部を除く部分に継手嵌合部を形成する継手管の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の継手管の設計方法であって、
前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、
選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、
該選定したシームレス鋼管を前記継手管の素材とする継手管の設計方法。
【請求項4】
請求項1に記載の継手管を、前記鋼管の一方または両方の端部に備えた継手管付き鋼管。
【請求項5】
請求項1に記載の継手管を、前記鋼管の一方または両方の端部に取り付ける工程を備えた継手管付き鋼管の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の継手管付き鋼管の設計方法であって、
前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、
選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、
該選定したシームレス鋼管を素材とした前記継手管を前記鋼管の一方または両方の端部に設けるように設計する継手管付き鋼管の設計方法。
【請求項7】
請求項1に記載の継手管と、該継手管で接合された複数の鋼管とを備えた鋼管杭。
【請求項8】
請求項7に記載の鋼管杭を施工する方法であって、前記継手管が端部に取り付けられた鋼管を地中に立設した状態で、該鋼管の上に、前記継手管が端部に取り付けられた他の鋼管を配置して、前記継手管同士を接合する鋼管杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の接合に用いる継手管に関し、特に小径の鋼管杭に用いられるねじ式又は差込式の継手管、その製造方法、設計方法、継手管付き鋼管、その製造方法、設計方法、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭は、製造上あるいは輸送上の理由から長さに限度があり、複数の鋼管杭を施工現場において接合する必要がある。この鋼管の接合には、従来溶接が用いられてきたが、近年は施工時間の短縮や品質管理の向上の観点から、機械式継手が用いられることが増えている。
特に、小径(例えば406.4mm以下)の鋼管杭では、溶接のための設備を省略できることもあり、様々な機械式継手が開発され、用いられている。
【0003】
機械式継手の種類として、例えば特許文献1に開示されるようなねじ式のものや、特許文献2に開示されるようなせん断キーを差し込んで結合するものがある。
このような機械式継手は一対の継手管によって構成されている。継手管は、杭の本体となる鋼管とは別に、短尺の鋼管を切削して製造されることが多く、工場であらかじめ杭本体の鋼管に溶接されて取り付けられる。
特許文献1、2のように、継手管の外径は、杭本体と同径とするのが一般的である。これは、継手部が杭より外側に張り出すことにより、施工性が低下することや、鋼管杭として使用する時に発揮される周面摩擦力が低下することを懸念するためである。同様の理由で、例えば、道路橋基礎の分野では周面摩擦に影響を与えない範囲を9mm以下に制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-311028号公報
【文献】特開2009-138382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、機械式継手に用いられる継手管は杭本体の鋼管とは別に製造されてから溶接等の取り付け方法によって鋼管に取り付けられる。このとき、特に小径の鋼管杭のような薄肉構造の場合は、端部の真円度が悪化しやすく、継手管と鋼管を突き合せた際に目違いが生じる場合がある。ここで、目違いとは、継手管と鋼管を突き合せた状態において継手管端部の外面形状と鋼管端部の外面形状とに生じる半径方向のずれや、継手管端部の内面形状と鋼管端部の内面形状とに生じる半径方向のずれのことである。
目違いがあると、継手管と鋼管の接合端面の径方向への凹凸が周方向で不均一になる。つまり、周方向のある部分では継手管が外方に出っ張る段差となり、他の部分では鋼管が外方に出っ張る段差となるといった状態になる。接合端面にこのような不均一な段差が生ずると、継手管付き鋼管として使用する時の応力伝達が周方向で不均等になる恐れがある。そのため継手管と鋼管を溶接する前には端部を矯正(目違い補正)する必要があり、手間を要していた。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、鋼管に取り付ける際の端部の矯正を省略できる継手管、その製造方法、設計方法、継手管付き鋼管、その製造方法、設計方法、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る継手管は、鋼管の端部に取り付けられ前記鋼管を接合するねじ式又は差込式の継手管であって、前記鋼管に接合される基端部の外径が前記鋼管の外径より大きく、前記基端部の内径が前記鋼管の内径より小さく、かつ、前記鋼管と管軸を合わせた状態において、前記基端部の前記鋼管の外周面からの張り出し量が9mm以下であるものである。
【0008】
(2)また、本発明に係る継手管の製造方法は、上記(1)に記載の継手管を製造する製造方法であって、前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、該選定したシームレス鋼管を前記継手管の素材として前記基端部を除く部分に継手嵌合部を形成するものである。
【0009】
(3)また、本発明に係る継手管の設計方法は、上記(1)に記載の継手管を設計する設計方法であって、前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、該選定したシームレス鋼管を前記継手管の素材とするものである。
【0010】
(4)また、本発明に係る継手管付き鋼管は、上記(1)に記載の継手管を、前記鋼管の一方または両方の端部に備えたものである。
【0011】
(5)また、本発明に係る継手管付き鋼管の製造方法は、上記(1)に記載の継手管を、前記鋼管の一方または両方の端部に取り付ける工程を備えたものである。
【0012】
(6)また、本発明に係る継手管付き鋼管の設計方法は、上記(4)に記載の継手管付き鋼管を設計する設計方法であって、前記継手管が取り付けられる鋼管を選択し、選択された前記鋼管の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、該選定したシームレス鋼管を素材とした前記継手管を前記鋼管の一方または両方の端部に設けるように設計するものである。
【0013】
(7)また、本発明に係る鋼管杭は、上記(1)に記載の継手管と、該継手管で接合された複数の鋼管とを備えたものである。
【0014】
(8)また、本発明に係る鋼管杭の施工方法は、上記(7)に記載の鋼管杭を施工する方法であって、前記継手管が端部に取り付けられた鋼管を地中に立設した状態で、該鋼管の上に、前記継手管が端部に取り付けられた他の鋼管を配置して、前記継手管同士を接合するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、鋼管に接合される基端部の外径が鋼管の外径より大きいと共に、基端部の内径が鋼管の内径より小さくなっていることにより、鋼管と基端部の接合端面の全周において基端部が鋼管の内外に張り出すように接合可能であり、周方向での不均一な段差が生ずることがない。このため、継手管付き鋼管として使用する時に周方向で不均一な応力伝達となることがなく、鋼管に取り付ける際の端部の矯正を省略することができる。
また、鋼管と管軸を合わせた状態において、基端部の鋼管の外周面からの張り出し量が9mm以下であるので、杭の周面摩擦に影響を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態にかかる継手管を説明する説明図であり、継手管(内側継手管)を鋼管に取り付けた状態の断面図である。
図2】本発明の一実施の形態にかかる継手管(内側継手管と外側継手管)の嵌合した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態に係る継手管について、ねじ式の機械式継手に用いられる内側継手管を例にあげ、図1を用いて説明する。図1は継手管1(内側継手管)と鋼管3とを管軸を合わせて取り付けた状態(継手管付き鋼管4)の断面図である。
本実施の形態の継手管1は、図1に示すように、鋼管杭の杭本体を構成する鋼管3の端部に取り付けられて鋼管3を接合するものであって、鋼管3に接合される基端部1aの外径が、鋼管3の外径より大きいと共に基端部1aの内径が鋼管3の内径より小さいことを特徴とするものである。
なお、図中7は裏当て金、9は溶接ビードである。
【0018】
継手管1の基端部1aの外径を鋼管3の外径よりも大きく、かつ、内径を鋼管3の内径よりも小さくしたことで、継手管1と鋼管3を突き合せた際に基端部1aが周方向全体で鋼管3の内外に張り出す。これにより、継手管1と鋼管3の突き合せ部分に周方向で不均一な段差が生じるということがなく、継手管付き鋼管4(継手管1付きの鋼管3)の使用時において周方向で略均等に応力伝達がなされる。したがって、継手管1及び鋼管3の端部を矯正することなく継手管1を鋼管3に取り付けることができ、手間を省くことができる。
【0019】
また、前述したように、継手の張り出し量が9mmを超えると、周面摩擦力が低下する可能性がある。この点、本実施の形態の継手管1は、図1に示すように、鋼管3と管軸(図中一点鎖線参照)を合わせた状態において、基端部1aにおける鋼管3の外周面から外方への張り出し量a(図中破線円で囲った部分の拡大図参照)を9mm以下としている。
【0020】
なお、上記は継手管1としてねじ式の機械式継手に用いられる内側継手管を例に説明したが、外側継手管の場合も同様である。図2に、内側継手管である継手管1と外側継手管である継手管5を互いに嵌合させた状態の断面図を示す。
図2に示すように、継手管5においても、基端部5aの外径を鋼管3の外径よりも大きく、かつ、内径を鋼管3の内径よりも小さくすることで、継手管5と鋼管3の管軸を合わせて取り付けた状態(継手管付き鋼管11)において基端部5aが周方向全体で鋼管3の内外に張り出す。これにより、継手管1(内側継手管)と同様に、継手管5と鋼管3の突き合せ部分に周方向で不均一な段差が生じるということがなく、継手管付き鋼管11(継手管5付きの鋼管3)の使用時において周方向で略均等に応力伝達がなされる。また、継手管5の基端部5aの鋼管3の外周面からの張り出し量も継手管1と同様に9mm以下とすれば、継手管付き鋼管11の使用時の支持力を低下させることがない。
【0021】
なお、図1図2は、継手管付き鋼管4及び継手管付き鋼管11の一端部のみを図示したものであったが、本発明の継手管付き鋼管は一方の端部にのみ継手管が取り付けられたものに限られず、両方の端部に継手管が取り付けられたものも含む。
具体的には、鋼管の一方または両方の端部に内側継手管である継手管を備えたもの、鋼管の一方または両方の端部に外側継手管である継手管を備えたもの、鋼管の一方の端部に内側継手管である継手管、他方の端部に外側継手管である継手管を備えたもの、これらいずれの態様も本発明に含まれる。
【0022】
次に、継手管1の製造方法について説明する。
本実施の形態の継手管1の製造方法は、継手管1が取り付けられる鋼管を選択し、選択された鋼管3の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、該選定したシームレス鋼管を継手管1の素材として基端部1aを除く部分に、例えば切削加工によって、ねじ部を形成して継手嵌合部1bを形成することを特徴とするものである。以下、具体的に説明する。
【0023】
前述したように、ねじ式継手管の場合、継手管1は、杭本体の鋼管3とは別の短尺の鋼管を切削加工して製造するのが一般的である。したがって、継手管1を取り付ける鋼管3を選択し、選択された鋼管3の規格寸法(外径及び内径)よりも、外径が大きくかつ内径が小さい短尺の鋼管を継手管1の素材とすればよい。
【0024】
ここで、短尺の鋼管と杭本体を構成する鋼管3の外径差が18mm以下であれば、継手管1と鋼管3に取り付けたときの張り出し量a(図1参照)が9mm以下となるので、基端部1aを除く部分に切削加工によって継手嵌合部1b(ねじ部)を形成するだけで継手管1を製造することができる。
短尺の鋼管と鋼管3の外径差が18mmを超える場合には、18mm以下になるまで外周面を切削する必要があるので、素材となる短尺の鋼管は、杭本体の鋼管よりわずかに外径が大きいものが好ましい。この点、本実施の形態では短尺の鋼管としてシームレス鋼管を用いることで、効率的に継手管1を製造できるようにしている。シームレス鋼管を用いることで効率的に継手管1を製造できる理由については、後述する設計方法にて具体的に説明する。
【0025】
また、継手管1を鋼管3の一方または両方の端部に取り付けることにより継手管付き鋼管4を製造することができる。
継手管1を鋼管3に取り付ける方法としては、鋼管3を横にしてターニングローラーに載せ、その端部に継手管1を溶接して取り付けるのが一般的である。鋼管杭の施工上、鋼管3と継手管1は管軸が一致していることが重要であるので、これに留意して継手管1と鋼管3を溶接する。
継手管1と鋼管3は外径が異なるので、継手管1を鋼管3に仮付けた状態でターニングローラーを回転させて、継手管1と鋼管3の管軸が一致しているかを確認するとよい。
【0026】
上記のようにして継手管1と鋼管3の管軸を一致させたら、鋼管3の内面側に裏当て金7を取り付けて、鋼管3の外面側から全周溶け込み溶接により本溶接する。前述したように、本実施の形態の継手管1は、鋼管3と管軸を合わせた状態において周方向全体で鋼管3より外方に張り出した形状となっているので、端部の矯正をする必要がなく、溶接が容易である。
なお、継手管1の必要強度によっては、溶け込み溶接ではなく、隅肉溶接としてもよい。
【0027】
次に、継手管1の設計方法について説明する。
本実施の形態の継手管1の設計方法は、継手管1が取り付けられる鋼管3を選択し、選択された鋼管3の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、該選定したシームレス鋼管を継手管1の素材とすることを特徴とするものである。これについて、以下具体的に説明する。
【0028】
鋼管杭の本体を構成する鋼管3は、電縫鋼管、シームレス鋼管、板巻鋼管などが用いられている。以下、鋼管杭としては一般的には電縫管が用いられることから、電縫鋼管を鋼管3に用いる場合を例に説明する。
電縫鋼管は工業製品として外径と板厚が規格化されているので、まず、施工場所の地盤や荷重条件に基づいて、一般的に鋼管杭として用いられている電縫鋼管の規格寸法の中から鋼管3を構成する電縫鋼管を選択する。
【0029】
次に、上記選択した電縫鋼管の規格寸法(外径)に基づいて、継手管1の素材となる短尺の鋼管を選定する。この時、鋼管3よりも外径が大きいものを選定する必要があるが、鋼管3と同じ電縫鋼管の規格内で1サイズ大きいものを選定すると外径が大幅に大きくなる。本実施の形態の継手管1は、前述した張り出し量a(図1参照)を9mm以下とする必要があるので、鋼管3よりも大幅に外径が大きい鋼管を継手管1の素材とすると、切削量が増大してコストがかかる。
【0030】
そこで、本実施の形態においては、継手管1の素材としてシームレス鋼管を用いる。シームレス鋼管も工業製品として規格化されたものであるが、シームレス鋼管の規格は様々なサイズに対応しており、本実施の形態の継手管1として適したサイズ、即ち、上述した電縫鋼管の規格寸法よりもわずかに外径が大きいものも規格に含まれている。
表1に、鋼管3に用いる電縫鋼管の外径の規格を示すと共に、これに取り付ける継手管1として適当なシームレス鋼管を規格内から選定し、示す。
【0031】
【表1】
【0032】
例えば、鋼管3を外径165.2mmの電縫鋼管とする場合、これに取り付ける継手管1も電縫鋼管とすると、1サイズ上の外径190.7mmの電縫鋼管を用いることになる。外径165.2mmの鋼管3に外径190.7mmの継手管1を取り付けると、張り出し量aが9mmを超えるので、当該電縫鋼管の外径を小さくする切削加工が必要となり加工コストがかかる。
【0033】
一方、継手管1をシームレス鋼管とすれば、外径168.3mmのシームレス鋼管を用いることができる。外径168.3mmのシームレス鋼管であれば、外径を小さくする切削加工が不要となり、継手嵌合部1bの切削加工のみで張り出し量aが9mm以下の継手管1を製造することができる。
【0034】
また、鋼管3を外径406.4mmの電縫鋼管とした場合は、外径426.0mmのシームレス鋼管を用いることになるので、張り出し量aを9mm以下にするため、当該シームレス鋼管の外径を小さくする切削加工が必要となるが、その切削量は1mm程度であるので、加工が容易である。
【0035】
もっとも、表1に示したものは規格上の基準径であり、実際に製造される鋼管の端部は、外径、内径および肉厚が周方向で変化したり、楕円化したりするので、基準径より大きくなる部分や、基準径より小さくなる部分が生じる。上述したシームレス鋼管と電縫鋼管の径差がわずかなものであることから、電縫鋼管及びシームレス鋼管の径が基準径からずれた場合についても検討した。
【0036】
鋼管杭の規格においては、下記式(1)で定義される真円度を1.0%以下とすることが規定されている。
真円度=(最大径-最小径)/規準径×100・・・(1)
なお、式(1)における最大径及び最小径とは、鋼管の溶接部におけるものとする。
【0037】
例えば、鋼管3(電縫鋼管)と継手管1(シームレス鋼管)の真円度がそれぞれ1%だったとき、鋼管3における最大径部分と継手管1の最小径部分が突き合わされると、当該部分において鋼管3が継手管1よりも外方に出っ張ることが考えられるが、これは溶接前の位置合わせにおいてそれぞれの最大径の方向を合わせることで防ぐことができる。
したがって、鋼管3における基準径の+0.5%となっている部分と継手管1における基準径の-0.5%となっている部分が突き合わされた場合を考慮すれば十分であると考えて検討したので、その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示すように、表1に示した電縫鋼管の基準径を1.005倍(+0.5%)した値とシームレス鋼管の基準径を0.995倍(-0.5%)した値を比較すると、いずれの場合もシームレス鋼管の外径が電縫鋼管の外径より大きい。
上記のように、継手管1の素材としてシームレス鋼管を用いた場合に、電縫鋼管(鋼管3)やシームレス鋼管(継手管1)にゆがみが生じていたとしても、規格上許容される程度のものであれば、継手管1と鋼管3を溶接接合するのに支障がないと考えてよい。
【0040】
また、シームレス鋼管は板厚を自由に設定できるので、鋼管3(電縫鋼管)の内径より小さい内径とするのも容易である。この点について表3を用いて説明する。
【0041】
【表3】
【0042】
表3は、鋼管杭(鋼管3)に表1に示した各外径の電縫鋼管を用いる場合の一般的な板厚と、表1に示した各外径のシームレス鋼管の製造板厚範囲を示したものである。例えば、表2の外径165.2mm、板厚5.6mmの電縫鋼管の内径は154mmであり、外径165.2mm、板厚7.1mmの電縫鋼管の内径は151mmである。
これに対し、外径168.3mmのシームレス鋼管の製造板厚範囲は4.0mm~40mmであるので、この範囲内で板厚を設定し、内径が154mmまたは151mmより小さくなるようにすればよい。
【0043】
また、上記継手管1を鋼管3の一方または両方の端部に設けるように設計することで継手管付き鋼管4を設計することができる。
具体的には、継手管1が取り付けられる鋼管3を選択し、選択された鋼管3の規格寸法よりも外径が大きくかつ内径が小さいシームレス鋼管を規格内から選定し、選定したシームレス鋼管を素材とした継手管1を鋼管3の一方または両方の端部に設けるように設計することで、本実施の形態の継手管付き鋼管4を設計することができる。
【0044】
なお、上述した継手管の製造方法と設計方法、及び継手管付き鋼管の製造方法と設計方法は、内側継手管である継手管1及び継手管1を備えた継手管付き鋼管4を例に説明したものであったが、外側継手管である継手管5及び継手管5を備えた継手管付き鋼管11の場合も同様である。
【0045】
上記のように、本実施の形態の継手管1は、継手管1の基端部1aの外径が、鋼管3の外径より大きいと共に基端部1aの内径が鋼管3の内径より小さいので、鋼管3に取り付ける際に継手管1及び鋼管3の端部を矯正する手間を省略できる。
また、鋼管3と管軸を合わせた状態において、鋼管3の外周面からの張り出し量が9mm以下であるので、鋼管杭に適用した場合にも所定の支持力を発揮することができる。
特に、継手管付き鋼管4の継手管1と継手管付き鋼管11の継手管5とを接合して鋼管杭とした場合は、張り出し量が共に9mm以下であるので、確実に所定の支持力を発揮することができ、より好適である。
特に、一般的に「小径」と呼ばれる外径406.4mm以下の鋼管杭として本発明を適用した場合には、作製の手間が大きく省けるため、製造コストを下げることが可能となる。さらに、外径406.4mm以下の鋼管杭は、回転貫入杭である場合が非常に多いため、杭の周面摩擦に影響が少ない本発明は、より好適である。
さらに、継手管1の素材にシームレス鋼管を用いることで、素材を切削加工する際の切削量を最低限に抑えることができるので、製造コストを削減できる。
【0046】
上述した実施の形態では、継手嵌合部に形成されたねじによって継手管同士が嵌合するねじ式の継手管を例にあげて説明したが、本発明の継手管、製造方法および設計方法はこれに限定されるものではない。例えば、内側継手管を外側継手管に差し込むことで、内側継手管の外周面に形成された凸部と外側継手管の内周面に形成された凹部が係合して継手管同士が嵌合するような差込式のものであってもよい。
【0047】
また、上述した実施の形態では、継手管1、5の継手嵌合部1b、5bは切削加工にて形成されたものであったが、本発明はこれに限定されない。他の公知または未知の技術を用いて継手嵌合部1b、5bを形成してもよく、その場合も本発明の効果を得ることができる。
もっとも、本発明の継手管は、上記のように素材となる鋼管に継手嵌合部を後から加工したものに限られず、例えば、鋳造や3Dプリンタを用いて継手嵌合部を同時に製造したものであってもよい。
【0048】
また、上述した継手管付き鋼管の製造方法において、継手管1、5を鋼管3の端部に溶接によって取り付ける例を説明したが、本発明はこれに限定されない。継手管1、5を鋼管3と管軸を合わせた状態で確実に鋼管3に接合でき、施工時や使用時等にかかる各種荷重に耐えることができ、かつ鋼管杭としての支持力を発揮できるものであれば、他の取り付け方法でもよい。
【0049】
また、上記の実施の形態では、継手管及び継手管が取り付けられた継手管付き鋼管を説明したが、施工現場等において、複数の継手管付き鋼管の継手管同士を連結することで、鋼管杭を形成することができる。つまり、該鋼管杭は、上記実施の形態で説明した継手管と、該継手管で接合された複数の鋼管とを備えている。
【0050】
また、上記鋼管杭を施工する際には、継手管が端部に取り付けられた鋼管(継手管付き鋼管)を地中に立設した状態で、該鋼管の上に、継手管が端部に取り付けられた他の鋼管(他の継手管付き鋼管)を配置して、継手管同士を接合するとよい。
【符号の説明】
【0051】
1 継手管(内側継手管)
1a 基端部
1b 継手嵌合部
3 鋼管
4 継手管付き鋼管
5 継手管(外側継手管)
5a 基端部
5b 継手嵌合部
7 裏当て金
9 溶接ビード
11 継手管付き鋼管
【要約】
【課題】鋼管に取り付ける際に端部を矯正する手間を省略でき、小径の鋼管杭にも適用が可能な継手管、その製造方法、設計方法、継手管付き鋼管、その製造方法、設計方法、鋼管杭及び鋼管杭の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る継手管1は、鋼管3の端部に取り付けられ鋼管3を接合するねじ式又は差込式の継手管であって、鋼管3に接合される基端部1aの外径が、鋼管3の外径より大きく、基端部1aの内径が鋼管3の内径より小さく、かつ、鋼管3と管軸を合わせた状態において、基端部1aの鋼管3の外周面からの張り出し量が9mm以下であるものである。
【選択図】 図1
図1
図2