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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221018BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221018BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20221018BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 C
H01F1/147 183
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021507876
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033662
(87)【国際公開番号】W WO2021045212
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019163264
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】新垣 之啓
(72)【発明者】
【氏名】下山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】原田 晃史
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-228646(JP,A)
【文献】特表2018-505962(JP,A)
【文献】特開2015-004091(JP,A)
【文献】特開平04-293725(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073323(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.005%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含み、並びに質量ppmで、Nを20ppm以下、Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満、Sを30ppm未満および酸可溶性Alを40ppm未満含有し、さらにTiを30ppm未満含有すると共に、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上25ppm以下とし、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、さらに、TiとNを含有する粒径200nm以上の析出物を0.05個/mm以上で有する方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ni:1.50%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
P:0.50%以下、
Cr:1.50%以下、
B:0.0050%以下および
Nb:0.0100%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含有すると共に、質量ppmで、Tiを50ppm未満、Se、TeおよびOをそれぞれ50 ppm未満に抑制し、Sを50ppm未満、酸可溶性Alを20ppm以上100ppm未満に、さらにNを80ppm以下の範囲に制御し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する溶鋼から鋳造した鋼スラブに、熱間圧延を施して熱延板としたのち、焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍を行い、さらに二次再結晶焼鈍を施した後、絶縁被膜の形成を行う方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記溶鋼の段階において、前記溶鋼中のTiを50ppm未満としたうえで、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上30ppm以下とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含有すると共に、質量ppmで、Tiを50ppm未満、Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満に抑制し、Sを50ppm未満、酸可溶性Alを20ppm以上100ppm未満に、さらにNを80ppm以下の範囲に制御し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する溶鋼から鋳造した鋼スラブに、最初の圧下を行ったのち、1000℃以上の温度で40秒以上の時間保持する工程を有する、熱間圧延を施して熱延板とし、さらに焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍を行い、二次再結晶焼鈍後、絶縁被膜の形成を行う方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記溶鋼の成分調整は、Siを含有する合金鉄、Alを含有する合金鉄およびTiを含有する合金鉄の添加を、前記Siを含有する合金鉄を添加後、前記Alを含有する合金鉄の添加前に、前記Tiを含有する合金鉄の全体量のうち50%以上を添加する順で行って、少なくとも前記溶鋼中のTiを50ppm未満としたうえで、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上30ppm以下とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、
請求項3または4に記載の鋼スラブにさらに質量%で、
Ni:0.005~1.50%、
Sn:0.01~0.50%、
Sb:0.005~0.50%、
Cu:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.50%、
P:0.0050~0.50%、
Cr:0.01~1.50%、
B:0.0001~0.0050%および
Nb:0.0005~0.0100%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項3または4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板であって、
質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含有すると共に、質量ppmで、Tiを50ppm未満、かつ該Tiのうち酸可溶性Tiが5ppm以上30ppm以下、Se、TeおよびOをそれぞれ50 ppm未満に抑制し、Sを50ppm未満、酸可溶性Alを20ppm以上100ppm未満に、さらにNを80ppm以下の範囲に制御し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、
TiとNを含有する粒径200nm以上の析出物を0.05個/mm 以上で有する方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板。
【請求項7】
前記成分組成が、さらに質量%で、
Ni:0.005~1.50%、
Sn:0.01~0.50%、
Sb:0.005~0.50%、
Cu:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.50%、
P:0.0050~0.50%、
Cr:0.01~1.50%、
B:0.0001~0.0050%および
Nb:0.0005~0.0100%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項6に記載の方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定した磁気特性を有し鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、トランスなどの鉄心に主に使用される材料である。近年、かかる鉄心の省エネルギー化に対する要求が高まっている。それに伴い、鉄心の素材である方向性電磁鋼板についても、より優れた磁気特性、すなわち低鉄損で、かつ高磁束密度であることが求められている。
【0003】
方向性電磁鋼板は、鉄の磁化容易軸である<001>方位が、鋼板の圧延方向に高度に揃った結晶組織を有するものである。このような集合組織は、方向性電磁鋼板の製造工程中、特に仕上焼鈍の際に、いわゆるゴス方位(Goss方位)と称される{110}<001>方位の結晶粒を優先的に巨大成長させる二次再結晶を通じて形成される。従って、二次再結晶粒の結晶方位が方向性電磁鋼板の磁気特性に大きな影響を及ぼす。
【0004】
従来、かような方向性電磁鋼板は、以下の工程で製造される。
すなわち、Siを4.5質量%程度以下含有し、さらにMnS、MnSe、AlNおよびBNなどのインヒビターを形成する元素を含有する鋼スラブを、1300℃以上に加熱後、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終板厚とし、ついで湿潤水素雰囲気で一次再結晶焼鈍することにより、一次再結晶および脱炭を行い、さらにマグネシアを主剤とする焼鈍分離剤を塗布してから、二次再結晶およびインヒビター形成元素の純化のために1200℃で5時間程度の仕上焼鈍を施すことにより製造されてきた(例えば、特許文献1、2、3など)。
【0005】
しかしながら、このような方向性電磁鋼板の製造工程では、インヒビター形成元素があるため、高温のスラブ加熱が不可欠であり、その製造コストは極めて高いものであった。
この問題に対し、インヒビター形成元素を含有させなくとも二次再結晶を発現させることができる方法、いわゆるインヒビターレス法が開発された(例えば、特許文献4)。
【0006】
この方法は、従来の方向性電磁鋼板の製造方法とは技術思想を全く異にする。すなわち、従来の方法では、MnS、MnSe、AlNなど析出物(インヒビター)を利用して、二次再結晶を発現させていたが、インヒビターレス法では、これらのインヒビターを用いず、むしろ高純度化して粒界移動への抵抗を低減することにより、粒界性格に依存する本来的な粒界移動速度差を顕在化させ、所望の二次再結晶を発現させることに成功している。
【0007】
このインヒビターレス法では、そもそもインヒビター元素をほとんど含有させないため、インヒビター成分の固溶に必要な高温スラブ加熱の工程が不要であり、低コストでの方向性電磁鋼板の製造が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第1965559号明細書
【文献】特公昭40-15644号公報
【文献】特公昭51-13469号公報
【文献】特開2000-129356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、インヒビターレス法により方向性電磁鋼板を製造する場合、極微量の不純物元素が鋼中で不均一に析出することで、二次再結晶が不均一なものとなり、最終的に製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が、1つのコイルの中でも大きく変動してしまうという現象が問題として浮上した。
【0010】
かかる問題に対し、特許文献5ではCaおよび/またはMgを含む酸化物のうち、直径が1~3μmの大きさのものを低減することにより安定した磁気特性が得られる技術が提案された。これにより、コイル全長にわたって安定した磁気特性を得ることができることとなった。
【0011】
【文献】特開2006-152387号公報
【0012】
しかしながら、上記技術であっても、酸可溶性Alを20ppm以上含有したインヒビターレス法に供するスラブを用いる場合、途中工程の焼鈍の熱履歴の影響を強く受けて、磁気特性が安定しない場合があった。
【0013】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、コイル全長にわたって安定して優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、ある頻度で発生するコイル内での磁気特性の「変動代」の大きかった素材の特徴を様々な手法で評価し、その特徴を明らかにすべく鋭意調査を進めた。
その結果、特性の「変動代」の大きい製品の特徴として、鋼中の含有Tiのなかでも酸可溶性Tiが5ppm未満、あるいは25ppmを超えていること、またTiとNを含有する粒径200nm以上となる析出物が0.05個/mm2未満であることを見出した。なお、鋼中の析出物の評価は、製品コイルの幅、長手方向の中央位置からサンプルを切り出し、圧延方向(L方向)断面を連続した視野で90mm2の範囲を観察し、粒子の反射電子像から円相当径で直径が200nm以上となる粒子の全てに対して、EDXによる組成分析を行い、TiとNの両方を併せて含有する粒子数をカウントし、観察視野の面積で除した値で行った。
【0015】
通常インヒビターレス法によって方向性電磁鋼板を製造する場合、酸可溶性TiはTiNとして析出した状態となっていることが多く、インヒビターとしても機能しうるため、極力添加しないよう製造する。しかし、Tiは様々な合金元素や、スクラップなどに含有される元素であるため、不純物として混入し、含有されてしまう元素である。
上記した今回の知見においても、最終製品コイルにおいて、酸可溶性Tiが25ppmを超える場合に磁性変動が大きかったのは、TiNがインヒビターとして機能し、不均一な組織を形成したことが原因と考えられる。一方で、磁気特性変動の大きくなるコイルの特徴として、酸可溶性Ti<5ppmという範囲が認められたことから、一定量の酸可溶性Tiは磁性安定化に寄与することを示しているものと考えられる。かかる知見は、酸可溶性Tiを適正に制御せず、不純物として混入されるに任せた製造を行った場合、特定の頻度で磁気特性の不安定化が生じる可能性があることを示唆している。
【0016】
また、Ti存在形態の特徴として、製品コイルにおいて鋼中に粒径200nm以上の粒子としてNとともに存在し、その存在頻度が0.05個/mm2未満のものに磁性変動が大きいという特徴が認められた。通常インヒビターとして利用される析出物は100nm未満の粒子径である。200nm以上の粒子径では必然的に密度も低くなり、インヒビターとしての機能は低くなる。また、Tiは酸化物(TiO2)や窒化物(TiN)を形成するが、酸化物は酸に溶解しないため、酸可溶性Tiは窒化物として存在しているものを評価していると考えられる。観察によって認められている粒子もTiとともにNが検出されており、TiNの形態で存在している。ここで、TiNは、MnS等の硫化物の析出サイトとして作用することが知られている。また窒化物であるため、AlN等の窒化物の析出サイトとしても機能する。実際に、観察される粒子は、図1Aおよび図1Bに示すように、硫化物、窒化物、またSiやAlの酸化物とともに観察され、複合析出の形態をとっていた。
こうした観察結果から、最終的な磁気特性のバラつきが抑制される原因としては、適量のTiが窒素を含有する析出物として適正なサイズで存在する場合に、複合析出のサイトとして機能し、インヒビターレス系で重要な高純度化を促進している可能性があることを知見した。
【0017】
発明者らは、かかる知見をさらに検討し本発明を完成させた。本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.005%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含み、並びに質量ppmで、Nを20ppm以下、Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満、Sを30ppm未満および酸可溶性Alを40ppm未満含有し、さらにTiを30ppm未満含有すると共に、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上25ppm以下とし、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有し、さらに、TiとNを含有する粒径200nm以上の析出物を0.05個/mm2以上で有する方向性電磁鋼板。
【0018】
2.前記成分組成が、さらに質量%で、Ni:1.50%以下、Sn:0.50%以下、Sb:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、P:0.50%以下、Cr:1.50%以下、B:0.0050%以下およびNb:0.0100%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有する前記1に記載の方向性電磁鋼板。
【0019】
3.前記1に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含有すると共に、質量ppmで、Tiを50ppm未満、Se、TeおよびOをそれぞれ50 ppm未満に抑制し、Sを50ppm未満、酸可溶性Alを20ppm以上100ppm未満に、さらにNを80ppm以下の範囲に制御し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する溶鋼から鋳造した鋼スラブに、熱間圧延を施して熱延板としたのち、焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍を行い、さらに二次再結晶焼鈍を施した後、絶縁被膜の形成を行う方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記溶鋼の段階において、前記溶鋼中のTiを50ppm未満としたうえで、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上30ppm以下とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
4.前記1に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、質量%で、C:0.08%以下、Si:2.0~4.5%およびMn:0.01~0.5%を含有すると共に、質量ppmで、Tiを50ppm未満、Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満に抑制し、Sを50ppm未満、酸可溶性Alを20ppm以上100ppm未満に、さらにNを80ppm以下の範囲に制御し、残部はFeおよび不可避的不純物の成分組成を有する溶鋼から鋳造した鋼スラブに、最初の圧下を行ったのち、1000℃以上の温度で40秒以上の時間保持する工程を有する、熱間圧延を施して熱延板とし、さらに焼鈍および圧延によって最終板厚の冷間圧延板とし、ついで一次再結晶焼鈍を行い、二次再結晶焼鈍後、絶縁被膜の形成を行う方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記溶鋼の成分調整は、Siを含有する合金鉄、Alを含有する合金鉄およびTiを含有する合金鉄の添加を、前記Siを含有する合金鉄を添加後、前記Alを含有する合金鉄の添加前に、前記Tiを含有する合金鉄の全体量のうち50%以上を添加する順で行って、少なくとも前記溶鋼中のTiを50ppm未満としたうえで、該Tiのうち酸可溶性Tiを5ppm以上30ppm以下とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】
5.前記2に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法であって、前記3または4に記載の鋼スラブに、さらに質量%で、Ni:0.005~1.50%、Sn:0.01~0.50%、Sb:0.005~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Mo:0.01~0.50%、P:0.0050~0.50%、Cr:0.01~1.50%、B:0.0001~0.0050%、およびNb:0.0005~0.0100%、のうちから選んだ1種または2種以上を含有する前記3または4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0022】
6.方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板であって、Tiを50ppm未満含有し、かつ該Tiのうち酸可溶性Tiが5ppm以上30ppm以下である方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板。
【0023】
7.前記6に記載の方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板であって、さらに、TiとNを含有する粒径200nm以上の析出物を0.05個/mm2以上で有する方向性電磁鋼板製造用熱延鋼板。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、インヒビターレス法を用いて、コイル全長にわたって安定して優れた磁気特性を有する、方向性電磁鋼板を得ることができる。また、かかる方向性電磁鋼板を有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】鋼板表面の析出物のSEM画像およびEDX分析結果を示した図である。
図1B】他の鋼板表面の析出物のSEM画像およびEDX分析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその製造方法に基づいて具体的に説明する。
まず、方向性電磁鋼板を製造する際の出発材となる、鋼スラブの成分組成の限定理由について述べる。なお、以下、成分に関する「%」および「ppm」表示は特に断らない限り質量%および質量ppmを意味するものとする。
C:0.08%以下
Cは、熱間圧延時の結晶粒粗大化を抑制し、冷延前組織を改善する機能を有し、また冷間圧延においては、転位との相互作用により一次再結晶後の集合組織を改善する。しかし、最終製品板に残留すると磁気時効の原因となり、磁性劣化を生じさせる。スラブ段階で0.08%を超えて含有させた場合、途中脱炭工程において負荷が高くなり、十分に低減できないため、0.08%以下に限定する。また上述の組織改善効果を得るためには、下限は0.01%であることが望ましい。
【0027】
Si:2.0~4.5%
Siは、電気抵抗を高めることによって鉄損を改善する有用な元素である。含有量が 2.0%に満たないと十分な鉄損低減効果が望めず、一方4.5%を超えると冷間圧延が著しく困難になるため、Si量は2.0%以上4.5%以下の範囲に限定した。好ましくは、2.0%以上であり、4.0%以下である。
【0028】
Mn:0.01~0.5%
Mnは、熱間加工性を向上させる有用な元素であるが、0.5%を超えて含有した場合、一次再結晶集合組織が劣化し、Goss方位に高度に集積した二次再結晶粒が得難くなるので0.5%以下の範囲に限定した。また、熱間加工性を改善するためには、0.01%以上含有させる必要がある。好ましくは、0.03%以上であり、0.15%以下である。
【0029】
Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満
SeおよびTeが過剰に存在するとSe化物、Te化物を形成し二次再結晶が困難となる。この理由は、スラブ加熱によって粗大化した析出物が一次再結晶組織を不均一にするためである。従って、インヒビターとして作用しないよう、Se、Teはそれぞれ50ppm未満に抑制する。好ましい含有量は30ppm以下である。また、Oは酸化物を作り、介在物として最終製品まで残留し、磁気特性を劣化させるため、50ppm未満に抑制する必要がある。なお、これらの元素の含有量は0%でもよい。
【0030】
酸可溶性Al:20ppm以上100ppm未満、S:50ppm未満、N:80ppm以下
インヒビターレス法を適用する場合、これらの析出物形成元素は、二次再結晶のことだけを考えると必ずしも必要ではない。しかし、Alは、適量含有させることで二次再結晶焼鈍時、表面に緻密なAl2O3膜を形成し、焼鈍雰囲気から窒化等の影響を低減することができるため、20ppm以上100ppm未満の範囲で含有させる。
また、S、Nをそれぞれ50ppm以上、80ppm超含有した場合、SeやTe同様、スラブ加熱時に形成された析出物が粗大化し、一次再結晶組織を劣化させる。そのため、上限を上記した数値に限定する。
SやNの添加量の下限は好ましくは0%であるが、これらは完全に除去することは困難な元素であり、実際にSを10ppm未満、Nを20ppm未満とすることは、製造コストを大幅に高める。インヒビターレス法は低コストで良質な方向性電磁鋼板を製造しようとするものであり、こうした製造時の負担軽減の観点から上記の値を下限として規定した。
本発明は、こうしたSやNが形成する硫化物、窒化物を適正な量のTiによって固定し、疑似的に高純度化させることを以って、鋼板コイルの磁気特性を安定化させることができる。
【0031】
次にTiについてであるが、連続鋳造に供する溶鋼の段階においては、Ti量を50ppm未満としたうえで、その後のTiの存在状態のうち酸可溶性Tiを5ppm以上30ppm以下とする必要がある。
鋼中のTiはTiO2、TiNといった粒子を形成する。こうして形成された介在物、析出物は過剰に存在すると、磁気特性、特に履歴損の劣化につながる。そのため、Ti量は50ppm未満に制御しておく必要がある。そのうえで、後工程でのTiN析出につながる酸可溶性Tiを、5ppm以上30ppm以下の範囲で制御する。不純物としてTiを含有しない純度の高い合金鉄を素材原料に利用する場合は、別途Ti源となる合金元素を添加する必要がある。そこで、製造コストを低減するために、本発明では、純度の低い合金鉄を積極的に利用することでTi量を高める手段をとることができる。
【0032】
本発明では、溶鋼の成分調整を、Tiを含有する合金鉄、Siを含有する合金鉄およびAlを含有する合金鉄を添加して行うに当たり、Tiを含有する合金鉄の添加は、Siを含有する合金鉄を添加後、Alを含有する合金鉄の添加前に総添加量の50%以上を添加する手順で行うことが好ましい。Tiは強い脱酸元素であるため、溶鋼中の酸素が高い段階で添加すると、酸素と結びついてTiO2の形態となり、酸可溶性Tiの状態となりにくい。よって、Ti源の添加前にSiを添加する手順を採用することが好ましい。
かかる手順を採用することにより、溶鋼中の酸素はSiO2の形である程度スラグ中に浮上し、鋼中から除去される。これによりTiの歩留りは上昇し、適度な範囲で酸可溶性Tiを高めることができる。
【0033】
一方、Alは、Tiよりも強い脱酸元素として知られている。したがって、Al添加後溶鋼中の酸素は、AlによってAl2O3の形で除去されており、添加されたTiの多くは、全て酸可溶性Tiの形となることが予想され、溶鋼中の酸可溶性Tiが30ppmを超えてしまうおそれが生じる。
よって、比較的純度が低く、不純物としてTiを含有する安価な合金鉄を利用して成分調整を行う場合において、Siを含有する合金鉄を添加後、適度な溶存酸素に対してTi含有合金鉄を総添加量の50%以上で添加し、その添加後の酸可溶性Tiの分析を行ったうえで、Alを含有する合金鉄を添加する。その後、よりTi歩留りが高い状態でTi含有合金鉄の残りを添加し、適正範囲に制御する手法をとることができる。かかる手法をとれば、特に純度の高い合金鉄を利用することなく、適正範囲にTiを制御することが可能となる。もちろん、純度の高い合金鉄による成分調整を行うのであれば、このような手法は必ずしも必要ではない。
【0034】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、この発明では、その他にも以下に述べる元素から1種または2種以上を選んで適宜含有させることができる。
Ni:0.005~1.50%
Niは、熱延板組織の均一性を高めることにより、磁気特性を改善する働きがある。しかしながら、含有量が0.005%に満たないとその添加効果に乏しく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定となり、磁気特性が劣化するので、Niは0.005~1.50%の範囲で含有させることが望ましい。
【0035】
Sn:0.01~0.50%、Sb:0.005~0.50%、Cu:0.01~0.50%
これらの元素は粒界偏析を介して補助インヒビターと見なされることもある元素であるが、析出物によるインヒビターを積極的に利用しないインヒビターレス法においては、有用に働く場合がある。それぞれ下限未満では添加効果に乏しく、一方上限を超えると二次再結晶不良の可能性が高まる。
【0036】
P:0.0050~0.50%、Cr:0.01~1.50%
これらの元素はフォルステライト被膜形成時、その反応を良好にする効果を有する。それぞれ下限未満では添加効果に乏しく、一方上限を超えると逆にフォルステライト被膜の形成が促進されすぎる結果、被膜が剥離してしまうなどの問題が生じる。
【0037】
Mo:0.01~0.50%、B:0.0001~0.0050%、Nb:0.0005~0.0100%
これらの元素はいずれも、粒成長の抑制に寄与し、集合組織改善効果と二次再結晶安定化の効果を有する。かかる効果を効率的に得るためには、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。過剰に添加すると、鋼中に析出して強いインヒビターとして機能するため、インヒビターレス法においては、上記の上限を超える含有は好ましくない。
【0038】
残部については鉄および、上記に述べた以外の不純物、とくに不可避的不純物である。
【0039】
上記の好適成分組成範囲に調整した鋼スラブを、再加熱することなくあるいは再加熱したのち、熱間圧延に供する。なお、スラブを再加熱する場合には、再加熱温度は1100℃以上1300℃以下程度とすることが望ましい。特に、1300℃を超えるスラブ加熱は、スラブの段階で鋼中にインヒビターをほとんど含まない本発明では無意味で、コストアップとなるため不要である。
【0040】
この後、熱間圧延を行うことになるが、最初の圧下(初パス)が行われたのち、1000℃以上の温度で40秒以上の時間保持することが好ましい。なぜなら、酸可溶性TiをTiNとして、その粒径を200nm以上の析出物とするために、さらに有効な工程だからである。すなわち、初パス後において上記の保持処理を行うことにより、既に析出状態にあるTiNの周囲に転位が導入されてTiN周辺のN等の拡散速度を高めてTi、Nを含む析出物を適正な粒径に制御しやすくすることができるのではないか、と考えられる。なお、保持時間の上限は特に設けないが、製造上の観点からは600秒以下とすることが望ましい。また、熱間圧延の初パス後に1000℃を確保する観点から、スラブ加熱温度の下限は、1100℃以上とすることが望ましい。
【0041】
かかる工程を経て形成された適正な粒径のTiとNを併せて含む粒子は、後工程ではほとんど変化することがなく、後工程での硫化物や窒化物の析出サイトとなることで疑似的な高純度化の効果を発揮する。この効果は、例えば、Tiを添加することで鋼中のCをトラップしIF鋼とする技術に利用している効果に近いと考えている。
【0042】
次いで、熱延板に、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回の冷間圧延あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して、最終冷延板とする。この冷間圧延は、常温で行ってもよいし、常温より高い温度たとえば 250℃程度に鋼板温度を上げて圧延する温間圧延としてもよい。
【0043】
最終冷延板に一次再結晶焼鈍を施す。この一次再結晶焼鈍の目的は、圧延組織を有する冷延板を一次再結晶させて、二次再結晶に最適な一次再結晶粒径に調整することである。また、焼鈍雰囲気を湿水素窒素あるいは湿水素アルゴンの雰囲気とすることで、鋼中に含有している炭素を脱炭し、同時に上記焼鈍雰囲気によって表面に酸化被膜を形成する。そのために、一次再結晶焼鈍の焼鈍温度(保定温度)は、800℃以上950℃未満程度の温度域とすることが望ましい。また集合組織をさらに良好なものとするために、一次再結晶焼鈍の加熱過程の昇温速度を高めることが有効である。具体的には、500℃から700℃間の昇温速度を80℃/s以上とすることで改善を見込むことができる。
【0044】
上記の一次再結晶焼鈍後、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。次いで行われる二次再結晶焼鈍の後の鋼板表面にフォルステライト被膜を形成するために、焼鈍分離剤の主剤としてマグネシア(MgO)を利用する。このとき、Ti酸化物やSr化合物等を分離剤中に適量添加することで、さらにフォルステライト被膜の形成を有利にすることができる。特にフォルステライト被膜形成を均一に進める助剤の添加は剥離特性改善のためにも有利に働く。引き続いて、二次再結晶およびフォルステライト被膜形成のため仕上焼鈍を行なう。かかる仕上焼鈍の焼鈍雰囲気はN2、Ar、H2あるいはこれらの混合ガスのいずれもが適合する。最終製品で微量成分が析出してしまうと磁気特性の劣化につながるため、焼鈍の最高温度は成分純化のために1100℃以上とするのが好適である。
本発明の鋼板はコイル内の磁気特性変動が少ないので、経済性を考慮して5トン以上、より好ましくは10トン以上の質量のコイルで仕上焼鈍することが望ましい。
【0045】
上記の仕上焼鈍後、鋼板表面に、さらに絶縁被膜を塗布、焼き付けることもできる。かかる絶縁被膜の種類については、特に限定されず、従来公知のあらゆる絶縁被膜が適合する。たとえば、特開昭50-79442号公報や特開昭48-39338号公報に記載されているリン酸塩-クロム酸塩-コロイダルシリカを含有する塗布液を鋼板に塗布し、800℃程度で焼き付ける方法が好適である。
【0046】
得られた最終製品の成分は、仕上焼鈍時による純化の結果、絶縁被膜および下地被膜を除去した鋼板地鉄中に、C:0.005%以下、Si:2.0~4.5%、Mn:0.01~0.5%を含有し、Nを20ppm以下、Se、TeおよびOをそれぞれ50ppm未満、Sを30ppm未満、酸可溶性Alを40ppm未満含有し、Tiを30ppm未満かつ、Tiの存在状態のうち酸可溶性Tiを5ppm以上25ppm以下、TiとNを併せて含有する粒径200nm以上となる析出物を0.05個/mm2以上有した状態となる。ちなみに、N、SおよびAlは製造コストを考慮する場合に、Nは3ppm以上、そしてSおよびAlは5ppm以上の含有は許容される。また、本発明の方向性電磁鋼板は、磁気特性等の改善のため、さらに質量%で、Ni:1.50%以下、Sn:0.50%以下、Sb:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Mo:0.50%以下、P:0.50%以下、Cr:1.50%以下、B:0.0050%以下、およびNb:0.0100%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有することができる。
なお、上記添加元素のうち下限の定めのないものは特に制限がないものであり、0を含む分析下限値以下まで許容する。また、それ以外の元素は、仕上げ焼鈍条件によって、フォルステライト被膜中に取り込まれたり、気相に放出されたりして、鋼中の含有量は低下する場合があるため、スラブ含有時の濃度以下となるものがあり、それぞれ上記の範囲となる。
【実施例
【0047】
(実施例1)
主成分、C:0.06%、Si:3.35%およびMn:0.03%に加え、それ以外の成分として表1に示す種々の組成のスラブを溶製した。なお、Se、TeおよびOは、いずれも30ppmであった。Tiの調整はTi塊を用いて行い、他の成分調整はTi等の不純物をほとんど含有しない高純度合金鉄あるいは、塊状、粒状純金属を用いた。熱間圧延を1250℃のスラブ加熱後、熱間圧延初パス後、1000℃以上で60秒保持する条件で行い、板厚2.5mmの熱延板とした。
【0048】
これら熱延板に900℃の熱延板焼鈍を行い、1.3mmまで冷間圧延した後、中間焼鈍を施した。中間焼鈍は、コイルの先端部から尾端部にかけて徐々に温度を変更し、コイル先端部が950℃、コイル尾端部が1050℃となるように焼鈍した。焼鈍後コイルは冷間圧延により最終板厚0.23mmとし、脱炭、一次再結晶のための焼鈍に供した。その後、MgOを主成分とした焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶過程と純化過程を含む最終焼鈍を、最高温度1150℃、均熱時間は10時間で行った。かくして得られたコイルにコロイダルシリカとリン酸マグネシウムからなる絶縁コートを塗布し850℃にて焼付けて製品板とした。
【0049】
かくして得られた各製品板について、鉄損特性を評価した。鉄損(W17/50)は、各製品板コイルの全長にわたり連続的に測定し、最良値である最も低い値(最低値)と、最悪値である最も高い値(最高値)とを評価した。それぞれのコイルは長手方向中央部、幅方向中央部から、試料を採取しTi濃度の分析を行った。同時に、L断面観察用の試験片を採取し、連続した視野で90mm2を観察し、粒子の像から円相当径で直径が200nm以上となる粒子の全てに対して、EDXによる組成分析を行い、TiとNの両元素を含有する粒子数をカウントし、観察視野面積で除した値を求めて鋼中粒子密度とした。結果を表1に併記する。なお、製品板のC、SiおよびMnは、いずれも、C:0.001%、Si:3.35%およびMn:0.03%であった。また、Se、TeおよびOは、いずれも30ppmであった。
同表によれば、本発明に従うことによって、磁気特性のバラつきが低減し、かつ良好な特性を保っていることが分かる。
【0050】
【表1】
【0051】
(実施例2)
目標成分を、C:0.05%、Si:3.2%、Mn:0.05%、Cr:0.03%、P:0.01%、酸可溶性Al:30ppm、S:20ppm、N:30ppm、Se:50ppm、Te:30ppmおよびO:20ppmとする鋼を溶製する際、Tiを不純物として含有するFeMn、FeCr、FePといった合金鉄をFeSi添加後に添加し、Mn、Cr、P、Tiを分析した上で、塊状Alを添加したのちに、少量不足していた分を追加添加しスラブAを製造した。また、比較として、FeSi添加前に合金鉄を添加し、塊状Al添加後、少量不足していた分を追加添加したスラブB、塊状Al添加後、全ての成分調整を行ったスラブCをそれぞれ2本ずつ作製した。さらに、スラブAの製造手順で表2に記載の組成のスラブD~Fをそれぞれ2本ずつ作製した。
その後、それぞれ1200℃にスラブ加熱を行い、熱間圧延初パス後、1000℃以上で60秒保持した熱間圧延条件1と、初パス後30秒の間に980℃まで温度が低下した熱間圧延条件2で、板厚2mmの熱延板をそれぞれ作製した。
【0052】
これら熱延板に熱延板焼鈍を行う際、コイルの先端部から尾端部にかけて徐々に温度を変更し、コイル先端部が1000℃、コイル長手方向中央部が1025℃、コイル尾端部が1050℃となるように焼鈍した。焼鈍後コイルは冷間圧延により最終板厚0.27mmとし、脱炭、一次再結晶のための焼鈍に供した。その後、MgOを主成分とした焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶過程と純化過程を含む最終焼鈍時は最高温度1200℃、均熱時間は10時間で行った。得られたコイルは60%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布、800℃にて焼付けた。
【0053】
各種材料は、コイルの先端、中央、尾端の位置からエプスタイン試験片を切り出し、鉄損(W17/50)を測定し、その平均値を算出した。鉄損の測定結果の平均値は、それぞれ熱延板焼鈍時の温度と対応させて表2に示す。なお、製品板のC、SiおよびMnは、いずれも、C:0.001%、Si:3.2%およびMn:0.05%であった。また、製品板のSe、TeおよびOは、いずれも、Se:10ppm、Te:5ppmおよびO:20ppmであった。
また、鉄損測定を行ったエプスタイン試験片から被膜を除去したうえで成分分析を行い、L断面観察用の試験片を採取し、連続した視野で90mm2を観察した。かかる観察において、粒子の像から円相当径で直径が200nm以上となる粒子の全てに対して、EDXによる組成分析を行い、TiとNの両元素を含有する粒子数をカウントし、観察視野面積で除した値で鋼中粒子密度を算出した。
【0054】
表2から、本発明に従うことで、途中工程の焼鈍温度に変動があっても、磁気特性のバラつきが低減し、かつ良好な特性を保っていることが分かる。
【0055】
【表2】
図1A
図1B