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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】インキ用カーボンブラック及びインキ
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20221018BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20221018BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20221018BHJP
【FI】
C09C1/48
C09D11/037
C09D11/324
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022522046
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046424
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2021024127
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】山田 頌悟
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-017808(JP,A)
【文献】特開2014-152195(JP,A)
【文献】特開2014-201607(JP,A)
【文献】特開2005-113091(JP,A)
【文献】特開昭60-038472(JP,A)
【文献】特開昭60-020971(JP,A)
【文献】特開昭54-163927(JP,A)
【文献】特開2017-008223(JP,A)
【文献】特開平06-136287(JP,A)
【文献】特開昭62-095351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C09D 11/037
C09D 11/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック100質量部あたり鉄元素を0.3~2.00質量部含み、表面積当たりのp-トルエンスルホン酸の吸着量が0.40μmol/m以上であるインキ用カーボンブラック。
【請求項2】
前記カーボンブラックが、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Fe(atomic%)と、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度C(atomic%)の比(Fe/C)が0.001~0.010である請求項1に記載のインキ用カーボンブラック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインキ用カーボンブラックを含有するインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラックおよび当該カーボンブラックを含むインキ、塗料、プラスチック用着色剤、着色成形品、文具・筆記具用着色剤、捺染剤、トナー、カラーフィルタ用分散液・レジスト、及び化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
昔からカーボンブラックは、主としてタイヤなどのゴム製品に補強材として添加される目的で使用されるが、それ以外にも黒色の着色剤としてインキ、塗料、トナー、化粧品、プラスチック着色などにも用いられている。その中でもインキ(特に印刷インキ、インクジェットインキ)などの印刷用途は、重要である。インキの用途において、カーボンブラックの黒色度と着色力が重要であり、粒子径の小さいカーボンブラックほど黒色度や着色力は高くなる。しかし、粒子径の小さなカーボンブラックは、カーボンブラック粒子の表面積が増大し粒子間引力が強くなるため、分散安定性が悪化し、インキの保存中に粘度が増大する。したがって、カーボンブラックの分散安定性改善が必須である。また、分散安定性が悪いとインキの保管中に粘度が増大し、設計時の膜厚の塗膜が得られないなど、印刷適正を悪化させる要因となる。場合によっては保管中にカーボンブラックの沈殿が生じ、インキとしての使用ができなくなる。
【0003】
例えば、特許文献1には、カーボンブラックにおいて、クロム,コバルト及びニッケル含有量の和Bと鉄元素の含有量Rの各含有量が0.1ppm~100ppmの範囲内にあり、その比(B/R)が一定以上であることが記載されている。また、特許文献2には、カーボンブラックの表面処理方法に関して、過酸化水素水中もしくはオゾン水中、または過酸化水素とオゾンとが溶解した水中にて、顔料に超音波を照射することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-136287号公報
【文献】特開2003-201419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2では、得られたカーボンブラックの分散安定性が不十分であり、インキ用等に、より分散安定性に優れたカーボンブラックが求められている。よって、本発明の課題は、分散安定性に優れるカーボンブラックおよびインキ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、カーボンブラックにおける分散安定性向上を目的として鋭意検討の結果、カーボンブラックに一定量の鉄元素を含有させるという従来にない着想を得た。上記特許文献1では、色相の制御を目的に鉄など金属成分を意図的に添加しており、カーボンブラックの分散安定性については考慮されていない。また、本発明でのカーボンブラックの鉄元素含有量は、特許文献1からは想定できない量である。上記特許文献2では、カーボンブラックの分散安定性について考慮されているものの一定の条件で顔料に超音波を照射するものであり、鉄元素を含有させることについては記載されていない。本発明における検討詳細は以下のとおりである。
【0007】
カーボンブラックは、球形の一次粒子が融着し凝集したアグリゲート(一次凝集体)、アグリゲートが分子間相互作用により凝集したアグロメレート(二次凝集体)からなる。アグリゲートを一次粒子まで解砕することは難しいため、カーボンブラックをインクとして使用するときは、アグリゲートの状態で溶剤に分散する。しかし、溶剤にカーボンブラックのみを分散すると、すぐにカーボンブラックのアグリゲートが凝集し、アグロメレートを再形成するため、分散安定性の良いインクを得るには、バインダー樹脂や分散剤など高分子を併用し、カーボンブラック-溶剤-高分子からなる分散ネットワークを形成させる必要がある。よって、カーボンブラックに対し高分子を分子間相互作用により吸着させる必要がある。分子間相互作用の一つにファンデルワールス力がある。電荷的に中性の分子間でも働く力ではあるが、その相互作用は弱く、安定した高分子の吸着は期待できない。そこで、より強い分子間相互作用であるイオン結合や水素結合に注目した。インクで用いられる高分子には、カーボンブラックへの吸着を期待して、イオン結合や水素結合する能力のある官能基が一般に存在するので、カーボンブラックの粒子表面にイオン結合や水素結合する何らかの官能基を持たせればよい。ここで、金属酸化物の利用を考えた。金属酸化物の外縁部には水酸基が存在しており、水素結合可能である。また、特に多価金属の酸化物の水酸基は両性的な性質を持っており、酸、塩基いずれも受容する能力があるため、あらゆるインク系で高分子とのイオン結合が期待できる。この多価金属酸化物の水酸基を利用するため、カーボンブラック粒子表面に鉄酸化物を処理することにした。数ある多価金属の中でも、鉄は安価で危険性もないため選択した。
【0008】
即ち本発明は、
『項1. カーボンブラック100質量部あたり鉄元素を0.01~2.00質量部含むカーボンブラック。
項2. X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Fe(atomic%)と、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度C(atomic%)の比(Fe/C)が0.001~0.010である項1に記載のカーボンブラック。
項3. 表面積当たりの酸吸着量が0.40μmol/m以上である項1又は2に記載のカーボンブラック。
項4. 項1~3のいずれか1項に記載のカーボンブラックを含有するインキ。
項5. 項1~3のいずれか1項に記載のカーボンブラックを含有する塗料、プラスチック用着色剤、着色成形品、文具・筆記具用着色剤、捺染剤、トナー、カラーフィルタ用分散液・レジスト、及び化粧料。』に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカーボンブラックは、分散安定性に優れ、低粘度である。そのため、本発明のカーボンブラックは、インキ(特に印刷インキ、インクジェットインキ)に好適である。また、本発明のカーボンブラックは、インキ用途以外にも塗料、プラスチック用着色剤、文具・筆記具用着色剤、捺染剤、トナー、カラーフィルタ用分散液・レジスト、及び化粧料など各種用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
[本発明のカーボンブラック]
本発明のカーボンブラックは、通常の炭素主体の微粒子であるカーボンブラックが特定量の鉄元素を含有するものである。本発明のカーボンブラックは、カーボンブラック100質量部あたり鉄元素を0.01~2.00質量部(1,000~20,000ppm)含む。鉄元素の含有量は好ましくは0.05~1.80質量部、より好ましくは0.3~1.50質量部である。鉄元素の含有量が上記範囲であるとインキとしたときの分散安定性に優れ、低粘度となる。鉄元素の含有量は、例えばエネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いて測定することができる。
【0012】
鉄元素は、鉄単体(Fe)に限らず、酸化鉄(FeO、Feなど)や水酸化鉄(Fe(OH)、Fe(OH)など)等の鉄化合物の形態であってもよい。上記の鉄元素の含有量は、このような鉄化合物であっても鉄元素の量として測定可能である。また、単にカーボンブラックと鉄単体や鉄化合物を混合するのみでは、アグリゲート(一次凝集体)内部に鉄化合物が取り込まれてしまい、分散安定性に寄与することができない。本発明において鉄元素(鉄)を含むとは、カーボンブラックのアグリゲート表面に鉄元素(鉄)が存在することである。よって、このような鉄元素(鉄)は、カーボンブラックのアグリゲート間で相互作用を生じ、カーボンブラックの物性に影響を与え、さらにこのカーボンブラックをインキとした際の物性にも影響を与える。
【0013】
X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Fe(atomic%)と、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度C(atomic%)の比(Fe/C)は、例えば0.001~0.010である。当該Fe/Cは、好ましくは0.002~0.008、より好ましくは0.003~0.006である。当該Fe/Cが上記範囲であると、インキとしたときの分散安定性に優れ、低粘度となる。当該Fe/Cは、例えばX線光電子分光装置にて測定できる。
【0014】
カーボンブラックの粒子径は、例えば5~200nm、好ましくは20~50nmである。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(BET)は、例えば20~500m/g、好ましくは30~150m/gである。カーボンブラックのDBP吸油量は、例えば20~150cm/100g、好ましくは30~120cm/100gである。カーボンブラックの揮発分は、例えば0.1~10.0%である。カーボンブラックのpH値は、例えば1~10、好ましくは2~9である。
【0015】
本発明のカーボンブラックの重量当たりの酸吸着量は10.0μmol/g以上(例えば10.0~100μmol/g)であることが好ましい。また、酸吸着量は15.0~80μmol/gであることがより好ましく、20.0~60μmol/gであることが特に好ましい。重量当たりの酸吸着量が上記範囲であると、アクリル樹脂など酸価を持つバインダー樹脂をよく吸着するため、立体障害によりカーボンブラック粒子間の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。また、アルコールなどの溶剤やインキ中の水分からプロトンを受け取り、カーボンブラック粒子表面が正に帯電するため、静電反発作用によってもカーボンブラック粒子の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。重量当たりの酸吸着量は、酸吸着液にカーボンブラックを浸し、酸をカーボンブラックに吸着させた後、酸吸着液中に残留する酸の量を滴定することで、測定することができる。
【0016】
本発明のカーボンブラックの表面積当たりの酸吸着量は0.40μmol/m以上(例えば0.40~2.0μmol/m)であることが好ましい。また、酸吸着量は0.42~1.0μmol/mであることがより好ましく0.43~0.9μmol/mであることが特に好ましい。表面積当たりの酸吸着量が上記範囲であると、アクリル樹脂など酸価を持つバインダー樹脂をよく吸着するため、立体障害によりカーボンブラック粒子間の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。また、アルコールなどの溶剤やインキ中の水分からプロトンを受け取り、カーボンブラック粒子表面が正に帯電するため、静電反発作用によってもカーボンブラック粒子の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。表面積当たりの酸吸着量は、重量当たりの酸吸着量を、比表面積測定装置を用いて測定した窒素吸着比表面積で除することで算出することができる。
【0017】
本発明のカーボンブラックの重量当たりの塩基吸着量は10.0μmol/g以上(例えば10.0~200μmol/g)であることが好ましい。また、塩基吸着量は12.0~150μmol/gであることがより好ましく15.0~100μmol/gであることが特に好ましい。表面積当たりの塩基吸着量が上記範囲であると、ポリウレタン樹脂などアミン価を持つバインダー樹脂をよく吸着するため、立体障害によりカーボンブラック粒子間の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。重量当たりの塩基吸着量は、塩基吸着液にカーボンブラックを浸し、塩基をカーボンブラックに吸着させた後、塩基吸着液中に残留する塩基の量を滴定することで、測定することができる。
【0018】
本発明のカーボンブラックの表面積当たりの塩基吸着量は0.10μmol/m以上(例えば0.10~2.0μmol/m)であることが好ましい。また、塩基吸着量は0.20~1.0μmol/mであることがより好ましく0.30~0.9μmol/mであることが特に好ましい。表面積当たりの塩基吸着量が上記範囲であると、ポリウレタン樹脂などアミン価を持つバインダー樹脂をよく吸着するため、立体障害によりカーボンブラック粒子間の距離が保たれ、分散安定性が良好となる。表面積当たりの塩基吸着量は、重量当たりの塩基吸着量を、比表面積測定装置を用いて測定した窒素吸着比表面積で除することで算出することができる。
【0019】
[カーボンブラックの製造方法]
本発明のカーボンブラックは、例えば通常の市販のカーボンブラックに特有の処理をすることで得られる。まず、市販のカーボンブラックを準備する。使用する原料となるカーボンブラックは、特に限定なくコンタクト法、ファーネス法、サーマル法等によって製造された、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラックなどの市販されている各種のものでよい。
【0020】
上記の市販のカーボンブラックとしては、MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230、600」、「#650、#750、#40、#44B、#44、#45B、#47、#45、#33、#45L、#47、#50、#52、#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#32、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95、#260(以上三菱化学株式会社製)、「Special Black6、5、4A、4、101、550、350、250、100」、「Printex U、150T、V、140V、140U」、「PrinteX P、L6、L、G、ES23、ES22、A、95、90、85、80、75、60、55、45、40、35、300、30、3、25、200」、「Color Black S170、S160、FW2V、FW200、FW2、FW18、FW1」(以上オリオンエンジニアドカーボンズ社製)、「Black Pearls 1000M、800、880、4630」、「Monarch 1300、700、880、4630」、「Regal 330R、660R、660、400R、415R、415」、「MOGUL E、L」(以上キャボット社製)、「Raven 7000、3500、5250、5750、5000ULTRAII、1255、1250、1190、1000、1020、1035、1100ULTRA、1170、1200」(以上コロンビアン・ケミカルズ社製)、「SUNBLACK SB200、210、220、230、240、250、260、270、280、300、305、320、400、410、600、700、705、710、715、720、725、805、900、910、935、960」(以上旭カーボン株式会社製)、トーカブラック#8500、#8500F、#7550SB、#7550F」(以上東海カーボン株式会社製)などを挙げることができる。
【0021】
次に、溶媒に原料であるカーボンブラックを加え、カーボンブラックを溶媒に濡らす。溶媒としては、水および/または有機溶剤を使用することができ、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどを用いることができる。特に、経済性の点から水が好ましい。また、水としては、純水であっても工業用水であっても良く、さらに酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液など緩衝液を使用しても良い。また、界面活性剤などの添加剤を併用し、濡れを促進させてもよい。溶媒100質量部に対し、原料となるカーボンブラックの添加量は1~30質量部が好ましく、添加量が少ないときは生産性が低く、添加量が多いときはスラリーが高粘度となり撹拌に過大なエネルギーを要するので、2~20質量部がより好ましく、3~12質量部が特に好ましい。
【0022】
続いて、鉄化合物と酸化剤を加えて撹拌し処理を行う。鉄化合物としては、硫酸鉄、塩化鉄、フッ化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、ホウ酸鉄、炭酸鉄、酢酸鉄などを用いることができる。経済性の点から、硫酸鉄、塩化鉄、硝酸鉄が好ましい。鉄としては二価もしくは三価の鉄を用いることができる。また、鉄化合物は無水物であっても、水和物であってもよい。鉄化合物は、原料のカーボンブラックに対し、例えば1~30質量部、好ましくは3~20質量部添加することが好ましい。
【0023】
また、上記酸化剤としては過酸化水素、過マンガン酸塩、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ペルオキソ二硫酸塩、クロム酸、二クロム酸、オゾンなどが使用できる。酸化剤としては、中でも20~50質量%の濃度に水で希釈した過酸化水素が好ましい。酸化剤の使用量は、酸化反応に適した量であればよく濃度により異なるが、カーボンブラック100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは20~80質量部である。カーボンブラックスラリー製造工程および表面処理工程の温度としては、例えば0℃~100℃が好ましく、20℃~80℃がより好ましい。鉄化合物と酸化剤は、カーボンブラックスラリーに同時に添加しても良いし、別々に添加しても良い。同時に添加する場合、予め鉄化合物と酸化剤を混合してから添加してもよい。別々に添加する場合、鉄化合物を先に添加しても良いし、酸化剤を先に添加しても良い。また、酸化剤を滴下して加えても良いし、一括で添加しても良い。
【0024】
本発明のカーボンブラックの製造は、上述のようにカーボンブラックと鉄化合物の共存下、酸化剤により鉄を酸化させ、カーボンブラックの粒子表面に鉄の酸化物を処理することが好ましい。鉄化合物も酸化剤も安価な化合物であるため、経済的に有利である。反応が複雑であるため、鉄がどのような化合物となっているのか特定することは難しいが、酸化鉄やオキシ水酸化鉄となっていると推定する。
【0025】
上記で得られたカーボンブラックについて、必要に応じて、更にpH調整、濾過、水洗、乾燥、粉砕など一般的な処理を行ってもよい。本発明のカーボンブラックは、分散性向上のため、分散剤や界面活性剤を加えてもよい。
【0026】
[インキ]
本発明のインキは、上記本発明のカーボンブラックを含む限り特に制限されない。本発明のインキは、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット方式での印刷等の各種用途に用いることができる。本発明のインキは、上記本発明のカーボンブラックを含むため、低粘度であり、顔料の分散性や透明性に優れる。よって、本発明のインキは、平版オフセット印刷用の平版オフセットインキ、グラビア印刷用やフレキソ印刷用に適用できるリキッドインキ、インクジェットインキとして好適に使用することができる。
【0027】
まず、オフセットインキは、平版印刷(湿し水を使用する平版印刷や湿し水を使用しない水無し平版印刷)、凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷や、これらの版に付けられたインキをブランケット等の中間転写体に転写した後被印刷体に印刷する転写(オフセット)方式を組み合わせた種々の印刷方式におけるインキをいう。
【0028】
平版オフセットインキは、本発明のカーボンブラックの他、例えば、樹脂ワニス、有機溶剤、動植物油などの油脂、助剤(乾燥抑制剤、ドライヤー、耐摩擦性改良剤等)の成分を含む。平版オフセットインキは、これらの成分を適宜混合し、ロールミル等で練肉分散して製造される。平版オフセット印刷方式に適用できるインキは、5~100Pa・sの比較的粘度の高いインキである。
【0029】
上記の樹脂ワニスに使用される樹脂としては、例えばロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、石油樹脂変性ロジン変性フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル、植物油変性ロジン変性フェノール樹脂、植物油変性ロジンエステル、ポリエステル、アクリル樹脂が挙げられる。有機溶剤としては、炭化水素、アルコール、エステル、ケトン系などのインキに使用される一般的な溶剤が挙げられる。
【0030】
次に、グラビアインキやフレキソインキとして使用されるリキッドインキは、有機溶剤を主溶媒とする有機溶剤型リキッドインキと、水を主溶媒とする水性リキッドインキとに大別される。本発明のカーボンブラックは、有機溶剤型リキッドインキ及び水性リキッドインキ共に適用することができる。
【0031】
リキッドインキは、本発明のカーボンブラックの他、例えば、バインダー樹脂、溶剤、分散剤を含む。溶剤の主成分が有機溶剤である場合、有機溶剤型リキッドインキとなり、溶剤の主成分が水混和性有機溶剤や水などの水性溶剤である場合、水性リキッドインキとなる。
【0032】
リキッドインキは、顔料とバインダー樹脂を添加した混合物を分散機で分散して顔料分散体を得て、得られた顔料分散体に樹脂、溶剤、必要に応じてレベリング剤等の添加剤を加え、撹拌混合することで得られる。リキッドインキのインキ粘度は、顔料の沈降を防ぎ、適度に分散させる観点から10mPa・s以上、インキ製造時や印刷時の作業性効率の観点から1000mPa・s以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
上記バインダー樹脂としては特に制限されず、一般のリキッドインキに使用される、例えばポリウレタン系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合樹脂、塩化ビニル-アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、セルロース、セルロース誘導体、ポリアミド樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、ダンマル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、フェノール変性テルペン樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、ポリアセタール樹脂、石油樹脂、及びこれらの変性樹脂を用いることができる。
【0034】
上記有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系有機溶剤;ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系が挙げられる。また、上記水混和性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系;エチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル系が挙げられる。
【0035】
本発明のインキは、本発明のカーボンブラックを使用するが、そのほかに、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲内で、着色剤として、一般のインキに使用されている有機顔料や無機顔料を併用してもよい。
【0036】
上記有機顔料としては、例えばアゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラキノン系、アンサンスロン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリミジン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、フラバンスロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系、インダンスロン系等の顔料が挙げられる。また、上記無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、リトボン、アンチモンホワイト、石膏などの白色顔料が挙げられる。
【0037】
上記白色顔料以外の無機顔料としては、例えば、アルミニウム粒子、マイカ(雲母)、ブロンズ粉、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、紺青、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒、ジルコンが挙げられる。
【0038】
本発明のインキでは更に必要に応じて、ワックス、キレート系架橋剤、体質顔料、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤等の各種添加剤を含むこともできる。
【0039】
また、本発明のインキがインクジェットインキである場合は、本発明のカーボンブラック以外に上記の有機顔料および無機顔料、染料(アニオン性アゾ、フタロシアニン、アゾ系金属錯塩等)、樹脂(アクリル系のブロック共重合体、アクリル、マレイン酸、ロジン、エポキシ、シリコーン、ブチラール等の熱可塑性樹脂等)、溶剤(水、ケトン、アルコール、酢酸エチル等)、浸透剤(アルコール、グリコールエーテルなど)、乾燥防止剤(グリセリン、グリコールなど)、pH調整剤(アルコールアミン、NaOH等)、界面活性剤(ノニオン、カチオン、アニオン性等)、導電付与剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防かび剤などを含んでもよい。インクジェットインキは、水性インキであっても油性インキであってもよい。また、インクジェットインキは、ピエゾ方式、サーマル方式いずれの方式であってもよい。
【0040】
[インキ以外の各種用途]
本発明のカーボンブラックは、透明性に優れ、分散性が良く、低粘度であるという優れた物性を有するため、インキ以外の各種用途にも好適に用いることができる。各種用途としては、塗料、プラスチック用着色剤、文具・筆記具用着色剤、着色成形品、捺染剤、トナー、カラーフィルタ用分散液・レジスト、及び化粧料が挙げられる。本発明の塗料、プラスチック用着色剤、文具・筆記具用着色剤、捺染剤、トナー、カラーフィルタ用分散液・レジスト、及び化粧料は、本発明のカーボンブラックを含む。
【0041】
上記塗料は、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、種類は問わず、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂などの合成樹脂塗料、油性塗料、水性塗料、粉体塗料、硝酸繊維素樹脂塗料(ラッカー)などに用いることができる。また、用途・目的も問わず、木材用、金属用、ゴム用、プラスチック用などに用いることができる。
【0042】
上記プラスチック用着色剤は、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、種類は問わず、マスターバッチ、着色ペレット・コンパウンド、ドライカラー、ペーストカラー、リキッドマスターバッチなどに用いることができる。また、上記着色成形品は、上記プラスチック用着色剤を含む樹脂を成形したものである。
【0043】
上記文具・筆記具用着色剤は、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、種類は問わず、ボールペン、マーカー、色鉛筆、絵の具、クレヨンなどに用いることができる。
【0044】
上記捺染剤は、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、種類やプリント方式は問わず、手捺染(ハンドプリント・ターンテーブル)、機械捺染(フラットスクリーン、ロータリースクリーン)、浸染等のプリント方式の捺染剤に用いることができる。また、上記以外にも、化学繊維の原料(原液、溶液、ポリマーなど)を直接着色する(いわゆる原液着色)に用いてもよい。
【0045】
上記トナーは、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、レーザープリンター及び複写機(特にカラー印刷のマゼンタ又は黄色)で使用される。
【0046】
カラーフィルタ用分散液・レジストは、液晶などのカラーフィルタに使用される顔料をベースとして溶剤に分散させた分散液、又はそれと感光剤などを含むインキのことであり、上記カラーフィルタ用分散液・レジストは、当該顔料として本発明のカーボンブラックを含む。
【0047】
上記化粧料は、着色剤として本発明のカーボンブラックを含めばよく、種類や用途・目的は問わない。化粧料としては、例えばファンデーション(フェイスカラー、コンシーラーなど)、化粧下地(メークアップベース、プレメークアップなど)、おしろい(フェイスパウダー)、口紅(リップスティック、リップルージュ、リップカラー、リップペンシル、練紅、リップグロス、リップライナーなど)、アイメークアップ(アイシャドウ、アイカラー 、アイライナー、眉墨、アイブローペンシル、アイブローブラッシュ、マスカラ、まつげ化粧料など)、頬化粧料(頬紅、チークカラー、チークルージュなど)、爪化粧料(ネイルエナメル、マニキュア、ネイルカラー、ネイルポリッシュ、ペディキュア、ネイルラッカー、トップコート、ベースコートなど)、毛髪着色料(染毛料、ヘアカラースプレー、ヘアカラースティック、カラーリンス、ヘアマニキュアなど)が挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において特に断りの無い限り、「%」は「質量%」を表すものとする。下記実施例1~6、比較例1~6の方法で各カーボンブラックを得て、下記の方法でカーボンブラックに含まれる鉄元素量と表面の元素濃度を測定した。
【0049】
本実施例において、カーボンブラックに含まれる鉄元素量の測定は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置PANalytical Epsilon5(スペクトリス株式会社製)を使用した。
【0050】
本実施例においてカーボンブラック粒子の表面の元素濃度の測定は、XPS法(X線光電子分光法)により測定した。測定はX線光電子分光分析装置Quantera SXM(アルバック・ファイ株式会社製)により行った。なお、元素濃度の値は有効数字2桁にて四捨五入した。
【0051】
[測定条件]
X線源:AlKα(モノクロメータ)
測定:ポイント測定(100μm),表面
測定回数:3回
帯電補正:C1s=284.8eV
【0052】
(実施例1)[CB-1の合成]
カーボンブラック-A(粒子径47nm、DBP吸油量47cm/100g、窒素吸着比表面積48m/g、pH3.1)150部を水500部に加え、1時間撹拌し、カーボンブラックを水に濡らす。次に、水2350部を加え、1時間撹拌した後、硫酸鉄(II)七水和物6.84部を加え、さらに30分間撹拌する。ここに、35%過酸化水素214.3部を添加し、1時間撹拌し、硫酸鉄(II)七水和物1.71部を加え、1時間撹拌した。続いて、カーボンブラックスラリーを濾過、水洗、98℃で一昼夜乾燥、粉砕して、カーボンブラック-1(CB-1)を得た。CB-1に含まれる鉄元素量は8590ppm(0.8590%)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.4atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは97.1atomic%、その比Fe/Cは0.0041だった。
【0053】
(実施例2)[CB-2の合成]
実施例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-B(粒子径47nm、DBP吸油量69cm/100g、窒素吸着比表面積55m/g、pH8.0)に変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-2(CB-2)を得た。CB-2に含まれる鉄元素量は10930ppm(1.0930%)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.4atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは94.4atomic%、その比Fe/Cは0.0042だった。
【0054】
(実施例3)[CB-3の合成]
実施例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-C(粒子径38nm、DBP吸油量65cm/100g、窒素吸着比表面積46m/g、pH中性)に変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-3(CB-3)を得た。CB-3に含まれる鉄元素量は12230ppm(1.2230%)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.3atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは94.3atomic%、その比Fe/Cは0.0032だった。
【0055】
(実施例4)[CB-4の合成]
実施例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-D(粒子径75nm、DBP吸油量72cm/100g、窒素吸着比表面積25m/g、pH中性)に変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-4(CB-4)を得た。CB-4に含まれる鉄元素量は10630ppm(1.0630%)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.4atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは93.1atomic%、その比Fe/Cは0.0043だった。
【0056】
(実施例5)[CB-5の合成]
実施例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-E(粒子径31nm、DBP吸油量44cm/100g、窒素吸着比表面積62m/g、pH3.6)に変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-5(CB-5)を得た。CB-5に含まれる鉄元素量は12410ppm(1.2410ppm)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.4atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは95.5atomic%、その比Fe/Cは0.0042だった。
【0057】
(実施例6)[CB-6の合成]
実施例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-F(粒子径25nm、DBP吸油量115cm/100g、窒素吸着比表面積180m/g、pH3.0)に変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-6(CB-6)を得た。CB-6に含まれる鉄元素量は10150ppm(1.0150%)、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.4atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは95.2atomic%、その比Fe/Cは0.0042だった。
【0058】
(比較例1)[CB-1’の合成]
カーボンブラック-A 150部を水500部に加え、1時間撹拌し、カーボンブラックを水に濡らす。次に、水2350部を加え、3時間撹拌した。続いて、カーボンブラックスラリーを濾過、水洗、98℃で一昼夜乾燥、粉砕して、カーボンブラック-1’(CB-1’)を得た。CB-1’に含まれる鉄元素量は4ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは98.4atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0059】
(比較例2)[CB-2’の合成]
比較例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-Bに変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-2’ (CB-2’)を得た。CB-2’に含まれる鉄元素量は6ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは98.4atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0060】
(比較例3)[CB-3’の合成]
比較例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-Cに変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-3’(CB-3)’を得た。CB-3’に含まれる鉄元素量は9ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは98.3atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0061】
(比較例4)[CB-4’の合成]
比較例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-Dに変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-4’(CB-4’)を得た。CB-4’に含まれる鉄元素量は26ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは98.0atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0062】
(比較例5)[CB-5’の合成]
比較例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-Eに変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-5’ (CB-5’)を得た。CB-5’に含まれる鉄元素量は8ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは98.2atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0063】
(比較例6)[CB-6’の合成]
比較例1のカーボンブラック-Aを、カーボンブラック-Fに変更した以外は同様の操作を行い、カーボンブラック-6’ (CB-6’)を得た。CB-6’に含まれる鉄元素量は9ppm、X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Feは0.0atomic%、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度Cは95.2atomic%、その比Fe/Cは0.00だった。
【0064】
[ポリウレタンインキの作製]
上記実施例1~6、比較例1~6で得られたカーボンブラックそれぞれについて、カーボンブラック15g、ポリウレタン樹脂サンプレンIB-501(三洋化成工業株式会社製)30g、酢酸エチル19.5g、イソプロピルアルコール10.5g、1/8インチスチールビーズ(持木鋼球軸受株式会社製)180gを250mLポリエチレン製広口瓶に入れ、ペイントシェーカー(株式会社東洋精機製作所製)で30分間分散し、ポリウレタンインキをそれぞれ得た。
【0065】
(ポリウレタンインキの初期粘度測定)
得られたポリウレタンインキを20℃恒温槽で1時間以上静置し、R85形粘度計RB85L(東機産業株式会社製)で回転速度6rpmでの粘度を測定した。
【0066】
(ポリウレタンインキの経時粘度測定)
得られたポリウレタンインキを多重安全式乾燥器MSO-45TPH(株式会社二葉化学製)中に50℃で7日間静置し、その後20℃恒温槽で1時間以上静置してR85形粘度計RB85L(東機産業株式会社製)で回転速度60rpmでの経時粘度を測定した。
【0067】
(分散安定性の判定)
前記ポリウレタンインキの初期粘度測定・経時粘度測定で得られた値を下記式に当てはめ、粘度変化率を計算した。粘度変化率の絶対値が小さいほど、分散安定性に優れる。
(経時粘度値-初期粘度値)/初期粘度値×100=粘度変化率(%)
さらに、表1中では下記のように分散安定性をA/B/Cの3段階で評価した。
A:-100%<粘度変化率<+100%
B:-200%<粘度変化率≦-100%、もしくは+100%≦粘度変化率<+200%
C:粘度変化率≦-200%、もしくは粘度変化率≧+200%以上
【0068】
(窒素吸着比表面積(BET)の測定)
窒素吸着比表面積(BET)の測定は、カーボンブラック約200mgを用い、1点法による気体吸着量の測定により、全自動比表面積測定装置Macsorb HM model-1208(株式会社マウンテック製)で行った。
【0069】
(酸・塩基吸着量の測定)
重量および表面積当たりの酸吸着量は、以下の方法で測定した。カーボンブラック約100mgを吸着用酸溶液15mLと共に50mLポリエチレン製広口瓶に秤量し、ペイントシェーカー(株式会社東洋精機製作所製)で混合撹拌した(750cpm、15分)。続いて、冷却高速遠心機H-2000B(株式会社コクサン製)で遠心分離(3500G、20分)してカーボンブラックを沈降させた後、上澄み液10mLを分取した。これを酢酸n-プロピル(関東化学株式会社製)15mLで希釈し、自動滴定装置COM-A19(株式会社HIRANUMA製)により吸着用塩基溶液により電位差滴定を行うことで、上澄み溶液中に存在する未吸着の酸量を測定した。求めた未吸着の酸量を、加えた酸量から差し引くことで、カーボンブラックの重量当たりの酸吸着量を算出した。また、カーボンブラックの表面積当たりの酸吸着量は、重量当たりの酸吸着量を窒素吸着比表面積で除することで算出した。
重量および表面積当たりの塩基吸着量は、前述の酸吸着量測定の吸着用酸溶液と吸着用塩基溶液を入れ替えて、同様の操作を行うことで測定した。
なお、吸着用塩基溶液としては、ファクター値の分かっている0.1mol/L水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム溶液(N/10)(ベンゼン・メタノール溶液)(関東化学株式会社製)を、酢酸n-プロピル(関東化学株式会社製)で正確に100分の1に希釈することで作製した。また、吸着用酸溶液としては、p-トルエンスルホン酸一水和物(関東化学株式会社製)約95mgを500mLの酢酸n-プロピル(関東化学株式会社製)に溶解させ、前述の吸着用塩基溶液で濃度を滴定後に使用した。
【0070】
得られた各ポリウレタンインキの初期粘度、経時粘度、粘度変化率、分散安定性評価を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
上記表1のとおり実施例1-6の本発明のカーボンブラックを含むインキは、従来から知られているカーボンブラックに比べて、経時粘度が低く分散安定性に優れることが分かる。よって、本発明のカーボンブラックは、インキとして好適である。
【0073】
得られた各ポリウレタンインキの中の本発明のカーボンブラックの窒素吸着比表面積(BET)、重量および表面積当たりの酸・塩基吸着量を表2に示す。
【0074】
【表2】
【要約】
本発明が解決しようとする課題は、分散安定性に優れるカーボンブラックおよびインキ等を提供することにある。
本発明のカーボンブラックは、カーボンブラック100質量部あたり鉄元素を0.01~2.00質量部含む。X線光電子分光法によるカーボンブラック粒子表面鉄元素濃度Fe(atomic%)と、カーボンブラック粒子表面炭素元素濃度C(atomic%)の比(Fe/C)が0.001~0.010であることが好ましい。