(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】加飾成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221018BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221018BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20221018BHJP
B29C 51/08 20060101ALI20221018BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/36
B32B7/12
B29C51/08
B29C51/14
(21)【出願番号】P 2022529624
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045597
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2021005984
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3223851(JP,U)
【文献】特開2014-119744(JP,A)
【文献】特開平07-216756(JP,A)
【文献】特開2007-203686(JP,A)
【文献】特開2018-150657(JP,A)
【文献】特開2000-229369(JP,A)
【文献】特開2001-018314(JP,A)
【文献】特開2015-044326(JP,A)
【文献】特開2016-079553(JP,A)
【文献】特開2007-321999(JP,A)
【文献】特開2005-335279(JP,A)
【文献】国際公開第2020/122235(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/162956(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/36
B32B 7/12
B29C 51/08
B29C 51/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から、加飾層B、支持層Aの順に積層されてなる加飾成形体であって、
支持層Aは
、熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)
又は熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)
であり、
前記不織布(b)において、熱可塑性樹脂繊維の繊維径が10~25μmであり、前記不織布(b)及び前記樹脂組成物層(c)において、無機繊維の繊維径が5~25μmで、かつ無機繊維の繊維長が7~100mmであり、
加飾層Bは、熱成形が可能な熱可塑性樹脂を含み、表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d
)であり、
加飾層B及び支持層Aは熱接着性樹脂を介して複合一体化されてなる、
ことを特徴とする加飾成形体。
【請求項2】
前記加飾層Bは、表面側にさらに透明な保護層が積層され、前記保護層は、アルミナ白色顔料をビヒクルに分散した透明インキ、耐候性塗料、耐候性フィルムのいずれかである、請求項1に記載の加飾成形体。
【請求項3】
加飾層Bと支持層Aの間に熱接着性樹脂層を有し、熱接着性樹脂が共重合ポリエステルである、請求項1に記載の加飾成形体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の加飾成形体を、1対の加熱金型セットのみを用いて、圧力が1.5~10MPa、温度が120~180℃の範囲で熱プレス成形することを特徴とする加飾成形体の製造方法。
【請求項5】
金型内面にドット、連続模様、または図柄を予め彫刻し、その柄を成形後の成形体表面に浮かび上がらせることを特徴とする請求項
4に記載の加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い意匠性を有し、軽量で、かつ深い絞り成型時の追随性に優れる加飾成形体及び前記加飾成形体を比較的簡便な方法で成形する方法に関する。
軽量で、深い絞り成型時の追随性に優れる不織布は、工業資材用途、建材用途、自動車用途などに好適である。特に、自動車のアンダーカバーやダッシュサイレンサーなどに、軽量かつ成形後の剛性に優れる不織布を成形体の材料として使用する場合、吸音性能、クッション性能、凸凹状の突起などの成形型の形状に追随しやすい。また、成型体が軽量であるため、自動車の内外装材の軽量化による省エネや作業性を大幅に改善することが可能である。また、無機繊維と熱可塑性樹脂よりなる繊維が混繊された不織布は、成形により優れた高い剛性が期待でき、金属材料の一部を代替することも可能となる。
また、熱硬化樹脂を使用した炭素繊維強化樹脂より取り出されたリサイクル炭素繊維を支持層Aの材料として使用する場合には、環境負荷の低減に寄与できる。
【背景技術】
【0002】
従来知られている成形性繊維集合体は、主に繊維長が32~100mmの短繊維より形成された不織布が主流であり、熱接着性繊維を多く使用することで成形性を付与していた。
例えば、特許文献1や特許文献2には、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレングリコール、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などを原料とする特定の共重合ポリエステルからなる複合繊維の繊維ウェブを、ニードルパンチ処理して三次元交絡させた緻密な自動車装備材用半製品の製造法が提案されている。この方法によれば、加熱及び圧縮成型する際に加熱温度の範囲が広くなることが開示されているが、意匠性については記載がない。また、特殊な成分を用いることが必要となるため、汎用樹脂を用いた場合と比べ、コスト優位性が低下する。また、自動車用部材に広く用いられているポリプロピレンとの接着性が不十分という問題も予想される。
【0003】
特許文献3に、炭素繊維と熱成型性樹脂繊維を含むプリプレグシートが開示されている。しかしながら、単層で高い目付のシートを製造するのは難しいため、低い目付の不織布を積層する必要があった。そのため、剛直性の高い炭素繊維を含む不織布は、ハンドリングの際に繊維の脱落や繊維の折れが問題となりやすく、作業性が良くないという問題があった。また、特許文献3には、このプリプレグシートに意匠性を改善する手段は記載がない。成形性不織布の表面は、不織布中の繊維分布斑や繊維自身の形態からくる凹凸があり、光が乱反射して光沢が不足していたり、平滑性に劣ったりするため意匠性に課題があった。
【0004】
また、熱硬化性樹脂を用いた繊維強化複合材料も成形性材料として用いられている。UDとよばれる連続繊維からなるガラス繊維あるいは炭素繊維を予め並べておいたものに、エポキシ樹脂など含浸して熱硬化を行う方法が、通常用いられている。連続繊維を用いることにより、高い強度が期待できるが、深い絞り成型への追従性が劣るという問題があった。また、一般に熱硬化が完了するまでに、少なくとも5~15分の時間がかかるという課題があった。
【0005】
熱硬化性樹脂を用いる繊維強化複合材料は、意匠性を重視される自動車内外装部材として用いられることが多い。しかしながら、成形後の表面平滑性に問題がある場合が多いため、実際には何層もスプレー塗装などで塗装を塗り重ねることで平滑性を付与し、最後に意匠性を付与する塗装を施すケースが多かった。
【0006】
特許文献4には、このような塗装の重ねりを行うかわりに、チタン酸カリウムやワラストナイトなどの補強繊維や球状粒子を含む熱可塑性樹脂フィルムを用いることで、表面平滑性を付与している。しかしながら、本発明ではこのような特定の部材を用いなくても意匠性のある成形体を得ることが可能である。
【0007】
特許文献5には、離形性フィルムと転写フィルムからなる複合加飾フィルムが開示されている。しかし、本発明の求める意匠性の高い不織布複合成形材料を得ることが難しい。また、成形体との複合には射出成形を伴うインサート成形を利用するものであり、本発明の目的とする不織布を基材とする軽量な成形体と提供するものではない。
【0008】
特許文献6及び7には、メタリック調積層フィルムとその加飾成形体が開示されている。この成形加工技術は真空成型を想定しており、本フィルムは粘着加工層が必要なためインナーフィルムを剥離して複合加工を行う必要がある。また、真空成型加工を想定していることから、熱可塑性樹脂を成形する温度域では、真空を保持するためのフィルムの耐熱性が不足しており、実質的には120~130℃で成形可能な熱硬化性樹脂でしか適応することが難しい。また、通常の真空成型機では熱可塑性樹脂材料の深い絞り成型加工では成形圧が不足するという問題がある。
【0009】
特許文献8及び9には、無機繊維とスーパーエンプラ繊維を使った繊維強化プラスチック成形体に加飾フィルムを複合した加飾成形品が開示されている。特許文献8及び9に記載の発明では、特殊な風合いをもつ加飾フィルムの貼り合せ工程では、プレス成形ではなく、真空成型法を用いる必要があり、真空成型時にプラスチック成型体に高い圧力がかかっても変形や反りが発生しないように、強度をもたせることが求められている、と記載されている。そのために、無機繊維と熱可塑性スーパーエンプラ繊維が必要とされている。しかしながら、熱可塑性スーパーエンプラ繊維は非常に高価であるため、その適用範囲が限定されている。
【0010】
本発明では、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドのような汎用の熱可塑性樹脂からなる繊維を用いた不織布を支持層の主構成材料として使用しており、真空成型を用いなくても1種類の成形金型だけで、軽量で深い絞り成型時の追随性に優れる成形体を提供することができ、特許文献8及び9に記載の発明とは目的が異なる。
【0011】
上述の如く、意匠性と軽量性に優れ、かつ深い絞り成型時に優れた追随性を有する本発明の加飾成形体は、これまで提案されていなかったのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-95993号公報
【文献】特開2018-9256号公報
【文献】特開2017-95662号公報
【文献】特許6759491号公報
【文献】特開平10-58895号公報
【文献】特開2004-299220号公報
【文献】特開2004-299223号公報
【文献】特開2015-44325号公報
【文献】特開2015-44326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の課題を背景になされたものであり、意匠性と軽量性に優れ、かつ深い絞り成型時の追随性に優れる加飾成形体、及び比較的簡便な方法で前記加飾成形体を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決することができる本発明の加飾成形体及びその製造方法は、下記の通りである。
1.表面側から、加飾層B、支持層Aの順に積層されてなる加飾成形体であって、
支持層Aは、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂繊維を含む不織布(a)、熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)、熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)、のいずれかであり、
加飾層Bは、熱成形が可能な熱可塑性樹脂を含み、表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d)、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含み、かつエンボス加工により表面に凹凸が形成された不織布(e)、有機繊維を基材とする合成皮革(f)のいずれかであり、
加飾層B及び支持層Aは熱接着性樹脂を介して複合一体化されてなる、
ことを特徴とする加飾成形体。
2.前記加飾層Bは、表面側にさらに透明な保護層が積層され、前記保護層は、アルミナ白色顔料をビヒクルに分散した透明インキ、耐候性塗料、耐候性フィルムのいずれかである、前記1に記載の加飾成形体。
3.前記加飾層Bが、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含み、かつエンボス加工により表面に凹凸が形成された不織布(e)であり、前記複合繊維は、鞘成分が芯成分より融点が20℃以上低い熱接着性樹脂であり、共重合ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリアミド系樹脂のいずれかである、前記1に記載の加飾成形体。
4.前記加飾層Bが、表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d)、または有機繊維を基材とする合成皮革(f)であり、加飾層Bと支持層Aの間に熱接着性樹脂層を有し、熱接着性樹脂が共重合ポリエステルである、前記1に記載の加飾成形体。
5.支持層Aが、熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)であり、熱可塑性樹脂繊維は繊維径が10~25μmであり、無機繊維は繊維径が5~25μmで、かつ繊維長が7~100mmである、前記1に記載の加飾成形体。
6.前記1~5のいずれかに記載の加飾成形体を、1対の加熱金型セットのみを用いて、圧力が1.5~10MPa、温度が120~180℃の範囲で熱プレス成形することを特徴とする加飾成形体の製造方法。
7.金型内面にドット、連続模様、または図柄を予め彫刻し、その柄を成形後の成形体表面に浮かび上がらせることを特徴とする前記6に記載の加飾成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の加飾成形体は、意匠性と軽量性に優れ、かつ深い絞り成型時の追随性に優れている。また、本発明の加飾成形体の製造方法は、製造プロセスが比較的簡素で、材料に汎用の熱可塑性樹脂を用いているため、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の加飾成形体のトリミング前の写真である。
【
図2】実施例2の加飾成形体の加飾層Bの表面写真である。
【
図3】比較例4の加飾成形体のトリミング前の写真であり、加飾層Bに浮きが発生した状態を示す写真である。
【
図4】比較例5の加飾成形体のトリミング後の写真であり、成形体のエッジ部で加飾層Bに亀裂が生じた状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)支持層A
本発明の加飾積層体を構成する支持層Aは、下記(a)~(c)の3つの構成材料のいずれかを用いる。
1)少なくとも2種類の熱可塑性樹脂繊維を含む不織布(a)
2)熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)
3)熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)
【0018】
1)少なくとも2種類の熱可塑性樹脂繊維を含む不織布(a)
本発明で用いられる支持層Aは、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂繊維を含む不織布が好ましい実施形態の一つである。
支持層Aで用いる不織布の目付は、成型体に必要な機械強度特性を考慮し適宜設定することができる。好ましくは80~4000g/m2である。剛性や機械特性の点から、不織布の目付は80g/m2以上が好ましい。一方、成型体の軽量性及び設置スペースの点から、不織布の目付は4000g/m2以下が好ましい。
また、成形前の不織布は、高い空隙率を有する。そのため、成形に必要とされる熱が十分に伝わるのに時間がかかる。この観点からも、不織布の目付は4000g/m2以下が好ましい。
【0019】
前記支持層Aは、成型体に対し質量基準で40%以上が好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。一方、成型体に対する支持層Aの比率が質量基準で80%以上だと、剛性の改善効果が小さくなる場合がある。
【0020】
支持層Aが不織布の場合、不織布を構成する繊維は短繊維でも長繊維でもよい。短繊維不織布は熱成形性が良好であり、中でも、構成繊維の少なくとも一部が芯鞘型の複合繊維を用いた短繊維不織布が好ましい。また、捲縮の無い長繊維は、不織布中で折り曲り点が少ない状態で緩みや撓みなく配置されることが多い。そのため、繊維一本一本の強度が不織布強度に直接寄与するために高い剛性を期待することができる。なぜなら、長繊維不織布は繊維が厚み方向ではなく二次元面内方向に主に配列していることにより、曲げ剛性や初期モジュラスを高くすることが容易になると考えられる。
また、前記不織布は単層で用いても良いが、2層以上の不織布が複合化されていてもよい。また、単層では繊維の拘束点の数が多くなり成形性が低下する可能性があるため、ニードルパンチ法などで一体化しておくことも好ましい実施形態の一つである。
【0021】
不織布を積層して高い目付にする場合は、同一の不織布を単純に積層してもよいが、表裏で組成を変えて表面に近い部分に強度の高い繊維の割合を増やすことも成形体の強度を高めるための好ましい実施形態の一つである。
不織布が同一繊維のみで構成される場合は、形態安定性を高めるために、2種類以上の熱可塑性樹脂よりなる芯鞘型繊維からなる不織布を用いることが好ましい。あるいは異なる熱可塑性樹脂の繊維を混繊してもよい。長繊維不織布の混繊は、隣接する紡糸孔より異種の熱可塑性樹脂を吐出して製造することができる。
【0022】
不織布を構成する繊維に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリオレフィンやポリアミドが好ましく、汎用の熱可塑性樹脂で安価なポリエステルやポリオレフィンが特に好ましい。ポリエステルとしては、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリトリメチオレンテレフタレート(PTT)などのホモポリエステルおよびそれらの共重合ポリエステルなどが例示できる。また、ポリオレフィンではポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などが例示できる。ナイロン6(NY6)やナイロン66(NY66)などのポリアミド系繊維も使用可能である。
【0023】
また、通常使用される添加剤、例えば、塗料、顔料、艶消剤、制電剤、難燃剤、強化粒子を含んでも良い。また、本発明の目的を損なわない範囲での少量の他のポリマー、例えばナイロン、オレフィンなどを混合することも可能である。また、芯鞘型やサイドバイサイド型の複合繊維を用いることが好ましい。特に、PP/PET、共重合PET/PET、PBT/PET、PE/PPの組み合わせが好ましい。自動車用途では、PP/PET系およびNY6/PET系、共重合PET/PETなどの複合繊維の使用も特に好適である。
【0024】
前記不織布を構成する熱可塑性樹脂繊維の繊度は特に限定されないが、生産性及び繊維が変形して接着する場合に機械的強度を得やすいことから、平均繊維径で10~25μmが好ましく、12~20μmが特に好ましい。前記の熱可塑性樹脂繊維は成形性を高くするために、複屈折率が100×10-3以下であることも好ましい実施形態の一つである。
【0025】
2)熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)
本発明で用いられる支持層Aは、無機繊維と熱可塑性樹脂よりなる繊維が混繊されている不織布も好ましい実施形態の一つである。
繊維径が10~25μm、繊維長が28~100mmである熱可塑性繊維、及び繊維径が5~25μmで、かつ繊維長が7~100mmである無機繊維を主成分とすることが望ましい。前記不織布の製造法としては、カーディング法を用いて繊維長が長い無機繊維を用いることが好ましい。
無機繊維は不織布の補強効果を高める目的で使用する場合が多く、できるだけプレス加工により空隙を減らすことにより機械強度を高めることが好ましい。
【0026】
前記無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、バザルト繊維などが好適である。前記無機繊維の繊維長は、7~100mmが好ましく、さらに好ましくは10~80mm、特に好ましくは15~75mmである。無機繊維は主に剛性を改善するために使用され、繊維が長いほど高い機械特性が得られる傾向がある。しかしながら、無機繊維の繊維長が100mmを超えてもその改善効果は少ない。また、無機繊維は捲縮がない、まっすぐな繊維であるため、カード機を用いて混繊不織布を製造することが難しくなる。また、繊維長が長い無機繊維を用いても、製造工程(特に、混繊工程)で無機繊維が折れてしまうことが多い。また、繊維長が短くなるとカーディング工程での繊維の落下が問題になることが多い。また、乾式不織布では収率が悪くなることがある。
【0027】
熱可塑性樹脂繊維としては、ポリプロピレン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、PTFE繊維などが好適である。
【0028】
3)熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)
本発明で用いられる支持層Aは、熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層が好ましい実施形態の一つである。
前記不織布(b)において、熱プレス時に溶融する熱可塑性樹脂を使用することで、熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層が得られる。
熱プレス時に溶融する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0029】
(2)加飾層B
加飾層Bは、熱成形が可能な熱可塑性樹脂を含み、表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d)、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含み、かつエンボス加工により表面に凹凸が形成された不織布(e)、有機繊維を基材とする合成皮革(f)のいずれかである。加飾層Bの厚みは50~2000μmであることが好ましい。加飾層Bの厚みは、成形時に破れを抑制するために、50μm以上が好ましく、80μm以上が特に好ましい。
一方、加飾層Bの厚みは、熱成形時の熱伝導の点から、2000μm以下が好ましく、1200μm以下が特に好ましい。熱成形時の熱伝導が悪くなると、成形に要する時間が長くなる。
【0030】
1)表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d)
前記の易成形ポリエステルフィルムは、縦方向及び横方向の伸度が共に100%以上が好ましく、特に好ましくは200%以上である。伸度の高いフィルムを得るためには、両方向の延伸倍率を2.5以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.5である。延伸倍率が高いと、支持層Aと積層した状態で成形するときに変形に追従できなくなって、破断や皺を生じることがある。また、熱成形温度より少し高め(例えば、3~20℃程度)の温度で熱セットしておくと、成形時の熱でフィルムが収縮して皺が発生することを防止できるため好ましい。
【0031】
前記の易成形フィルムの表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物を積層することで、加飾層Bが得られる。前記の顔料又は染料は市販品から、目的とする意匠から選択すればよい。顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物をフィルムに積層する方法は、塗布、インクジェットプリンターやグラビア印刷、その他転写法などによる印刷が好ましい。
【0032】
2)融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含み、かつエンボス加工により表面に凹凸が形成された不織布(e)
前記不織布(e)は、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含む。さらに、前記不織布(e)は、前記の複合繊維及び熱可塑性樹脂繊維から構成されていることが好ましい。前記の複合繊維は、鞘成分が芯成分よりも融点が20℃以上低い芯鞘型の複合繊維が好ましい。さらに好ましくは、鞘成分が芯成分より融点が30℃以上低い熱接着性樹脂である。前記熱接着性樹脂としては、共重合ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリアミド系樹脂のいずれかが好ましい。特に好ましくは、芯成分がポリエチレンテレフタレート樹脂で、鞘成分が共重合ポリエステル樹脂である芯鞘型複合繊維である。また、前記複合繊維とともに使用する前記熱可塑性樹脂繊維はポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【0033】
また、不織布(e)の表面側にはエンボス加工によりドット、連続模様、または図柄を形成させる加飾がされている。エンボス加工は成型前に不織布(e)で行っても良いし、成型時又は成型後に行っても良い。
【0034】
3)有機繊維を基材とする合成皮革(f)
加飾層Bが合成皮革(人工皮革も含む)の場合、熱可塑性繊維にウレタンなどの樹脂を含侵して製造した不織布系材料あるいは編み物系材料が好ましい。合成皮革の表皮樹脂含浸層は、湿式法でも乾式法のいずれを使っても良い。合成皮革の厚みは600~1100μmの範囲が好ましい。
意匠性の高い不織布を用いる場合には、ポリエステル系繊維あるいはポリアミド系繊維を主体とすることが好ましい。
【0035】
(3)熱接着性樹脂
本発明の加飾成形体は、加飾層B及び支持層Aが熱接着性樹脂を介して複合一体化されている。本発明でいう複合一体化は、支持層Aと加飾層Bが熱接着性樹脂を介して接合する接触面のほぼ全体が接着されているものであって、おおよそ3mm以上の幅の界面の浮きや大きな皺で接合されていない部分が無いものをいう。
前記熱接着性樹脂は、加飾層B又は支持層Aが熱接着性不織布の場合は、不織布を構成する低融点の熱可塑性樹脂繊維の構成材料であり、あるいは加飾層Bと支持層Aの間に積層される熱接着性シートや易成形フィルムに熱接着性樹脂を塗布した層の構成材料である。これらの熱接着性樹脂は熱プレス時に溶融し、熱接着性樹脂を介して加飾層B及び支持層Aを複合一体化することができる。
【0036】
熱接着性樹脂は、熱プレス時に溶融可能な熱可塑性樹脂であり、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂あるいは共重合ポリエステルが好ましい。
前記の熱接着性不織布は、鞘成分が芯成分よりも融点の低い芯鞘型の複合繊維を用いることが好ましく、特に好ましくは、芯成分がポリエチレンテレフタレート樹脂で、鞘成分が共重合ポリエステル樹脂又は変性ポリオレフィン樹脂である。
【0037】
また、熱接着性シートとしては、非晶性の共重合ポリエステル樹脂(東洋紡株式会社製、バイロンGK-680)、チタン酸カリウム繊維を含有する熱可塑性樹脂からなるフィルム(大塚化学株式会社製、ポチコンフィルム)などが市販品として入手可能である。
また、支持層A又は加飾層Bが前記の芯鞘型の複合繊維からなる熱接着性不織布の場合、成形後に金型を外す際に加飾層Bが浮き上がりを抑制することが必要な場合がある。不織布は表面に微小な凹凸がある事から、支持層A又は加飾層Bに熱接着性不織布を用いると強固な接着力が期待できる。熱接着性不織布の通気度が10cc/cm2秒以下であると、熱接着性不織布内の空気が抜けない場合がある。その際には、支持層Aと加飾層Bの間に浮き上がりを生じることがあるので、その場合には支持層Aと加飾層Bの間に熱接着シートを設けることが好ましい。
熱接着性フィルムや熱接着性不織布の厚みが10~60μmであると、適正な接着力を得ることが可能となる。
【0038】
また、加飾層Bに易成形ポリエステルフィルムを用いる場合、顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物を積層する面とは反対面に熱接着性樹脂層を積層しても良い。例えば、非晶性の共重合ポリエステル樹脂(東洋紡株式会社製、バイロンRV-200、EV-103)の塗布液を3~5μmの厚みで塗布しても同様の接着力向上効果が期待できる。
【0039】
(4)保護層
本発明の加飾成形体の加飾層Bは、加飾層の保護のために、加飾層Bの表面側(支持層Aとは反対面)に透明な保護層が積層されていることが好ましい。前記保護層は、アルミナ白色顔料をビヒクルに分散した透明インキ、耐候性塗料、耐候性フィルムのいずれかが好ましい。例えば、アルミナ白色顔料をビヒクルに分散した透明インキであるメジウム、着色顔料を含む塗料又は樹脂層、耐候性フッ素樹脂塗料、耐候性フィルム(塩化ビニル、アクリル、高密度ポリエチレン、ポリエステル系など)などが挙げられる。特に好ましくは、アルミナ白色顔料をビヒクルに分散した透明インキであるメジウム、耐候性フッ素樹脂塗料、塩化ビニルや高密度ポリエチレンなどの耐候性フィルムのいずれかである。
また、保護層には、必要に応じて紫外線吸収剤などの耐候剤を使用することも好ましい。シュリンクフィルム用のオーバーコートニスなども、加飾層Bに使用する熱可塑性樹脂との組み合わせを考慮して好適に使用できる。例えば、オーバーコートメジウム(大阪印刷インキ製造株式会社製、EXP14008)などが市販されている。
【0040】
(5)加飾成形体の成型方法
次に、本発明の加飾成形体の成形方法について説明する。
本発明の加飾成形体の成形方法は、通常の加熱プレス方法のいずれをも用いることができるが、コールドプレスより熱プレス工法が推奨される。例えば単板のプレス成型でもよいし、長尺反の製造が可能な加熱金属プレスロールの間を通したり、高温メタルベルトプレス機を用いたりすることも可能であるが、3次元成形を行うには特殊な加工が必要である。
【0041】
また、一度平板を予備プレスにより作成して後に、再度プレス機により三次元成型して3次元構造体とすることも好ましい。予備プレス処理として高温メタルベルトプレス機を用いる場合は熱可塑性樹脂素材に応じて条件を設定するが、温度140~330℃、圧力0.3~5MPaの条件でプレス処理することで充填密度をコントロールすることも好ましい。圧力を下げる事で、繊維間の空隙を維持することが可能となり吸音性能が期待される。
【0042】
本発明で用いられる支持層Aに、熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)を用いる場合、熱可塑性樹脂繊維及び無機繊維を含む不織布を熱成形した後に、空気がほぼ抜けてボイドがほとんどない状態になっていることも好ましい形態の一つである。
【0043】
本発明の加飾成形体を、1対の加熱金型セットのみを用いて、圧力が1.5~10MPa、温度が120~180℃の範囲で熱プレス成形することが好ましい。
真空成型、TOM成形などのように、粘着層を用いたり、被成形体に応力がかかることが多い加工を行なったりしないことで、プロセスの簡素化や金型の製造コストを抑えることができる。真空成形を行わないことで、成形加工時に受ける応力に対抗するための必要な剛性を小さくすることが可能となる。また、比較的剛性が低い不織布(支持層A)に意匠性のある樹脂層(加飾層B)を貼り合わせて一体プレスすることが可能となる。また、射出成形やインサート成形では、成形性のある加飾層Bが熱の影響で変性する場合や、深い絞り成型をする際に皺を生じやすくなる場合がある。
【0044】
熱プレス成形の圧力が10MPaより高い場合は、加飾成形体の意匠面が変形したり、変形率が高い成形部周囲で加飾層の一部にクラックが入ったりすることがある。一方、圧力が1.5MPaより低い場合は、成形により期待される意匠性のある小さい凹凸を再現することが困難となる。
熱成形において、支持層Aに不織布を用いる場合、不織布Aの目付が300g/m2より高い場合には、予め不織布のみを成形しておいて、その上に加飾層Bを重ねて、同じ金型で2度目のプレスを行うことも好ましい形態の一つである。予め成形しておくことで表面が平滑になり加飾層Bの表面がよりきれいに仕上げることができる。
【0045】
さらに、金型内面にドット、連続模様、または図柄を予めNC加工機などで彫刻し、その柄を成形後の成形体表面に浮かび上がらせることも好ましい形態のひとつである。成形圧が高くなると、予め付与したエンボス柄などの凹凸が熱プレスにより不明確になる場合があり、そのような際には上記方法により改善することができる。
また、必要に応じて、金型にトリミング用の刃をとりつけておけば、工程の省力化を図ることができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0047】
<目付>
不織布を20cm角に切り出して、その重量(g)を測定した値を1m2あたりに換算して目付とした。単位はg/m2である。
【0048】
<厚みおよび見かけの密度>
厚みは、20g/cm2の荷重下で測定した。見掛け密度は不織布の目付を厚みで割った値を求めた。JIS L1913(2010)に準拠して測定を行う。
充填密度=A/B(g/cm3)
A:目付(g/m2)
B:厚み(cm)
【0049】
<加飾成形体の外観>
加飾成形体の外観を目視により3段階で評価した。1を特に良好とし、3は表面平滑性が悪かったり、成形面のエッジ部のシャープな成形ができなかったりして意匠性に問題がある場合とした。2はその中間である。
【0050】
(実施例1)
芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がマレイン酸変性したポリプロピレンからなり(質量比(芯/鞘):50/50)、繊度が3.3dtexである短繊維からなるカード不織布(目付:500g/m2)を得た。このカード不織布に、オルガンFPD220(40SM)を用いてペネ数50、針深10mmでニードルパンチ加工をして支持層Aを作成した。換算後の支持層Aの見かけ密度は0.18g/cm3であった。
次に、加飾層Bとして、厚みが100μmの易成形性ポリエステルフィルム(熱セット温度150℃で処理した低延伸倍率フィルム)の片面に、ポリウレタン系樹脂に青色顔料を分散させた塗布液を塗布、乾燥させたて塗布層を形成させた。
【0051】
次いで、保護層としてオーバーコートメジウム(大阪印刷インキ製造株式会社製、EXP14008)を、前記塗布層の上に乾燥後の厚みが15μmとなるように塗布した。プレス成型時には保護層を最外層となるように配置した。
さらに、厚みが30μmの熱接着性シート(東洋紡株式会社製、バイロンGK-680)を支持層Aと加飾層Bの中間に重ね、金型温度160℃(金型の上下とも)、圧力3MPaで熱プレス成形を行った。プレス成型時の条件を表1に示す。得られた加飾成形体の見かけ密度は0.98g/cm3であった。
【0052】
図1の写真に示すように、実施例1で得られた加飾成形体は複合一体化されており、トリミング前の加飾成形体は外観に優れ、細かい成形部もシャープで良好であり、深い絞り成型後の追随性に優れていた。また、加飾部は曇りや浮きもなく良好であった。得られた加飾成形体の構成と評価結果を表2に示す。
【0053】
(実施例2)
芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分が低融点の共重合ポリエステル(融点135℃)からなり(質量比(芯/鞘):50/50)、繊度が5.5dtexである芯鞘型の複合繊維を用い、目付が250g/m2の長繊維不織布を作成した。この長繊維不織布を3層積層して、オルガンFPD220(40SM)を用いペネ数80、針深13mmでニードルパンチ加工を行い、支持層Aを作成した。得られた長繊維ウエッブの、換算後の見かけ密度は0.20g/cm3であった。
【0054】
次に、カーディング法により、繊度が2.2dtex、繊維長が51mmであるポリエチレンテレフタレート繊維と、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分が低融点ポリエステル(融点150℃)からなり(質量比(芯/鞘):50/50)、繊度が3.3dtex、繊維長が51mmの熱接着性繊維を、質量比で50/50%となるように混繊して、目付が300g/m
2の不織布を作成した。その後、ペネ数30、針深10mmでニードルパンチ加工をした後、
図2の写真(倍率:2倍)の柄になるように、170℃で低圧エンボス加工を行って意匠性を付与したものを加飾層Bとした。
支持層Aの上に加飾層Bを載せ、実施例1と同じ金型で金型温度160℃、圧力3MPaで熱プレス成形を行った。プレス成型時の条件を表1に示す。得られた加飾成形体の見かけ密度は0.85g/cm
3であった。
【0055】
実施例2で得られた加飾成形体は複合一体化されており、外観に優れ、細かい成形部もシャープで良好であり、深い絞り成型後の追随性に優れていた。また、加飾部は汚れや斑もなく良好であった。得られた加飾成形体の構成と評価結果を表2に示す。実施例2の加飾成形体の加飾層Bの表面写真(倍率:2倍)を
図2に示す。
【0056】
(実施例3)
実施例1で用いた支持層Aに、合成皮革(東洋クロス株式会社製、パーミアBOOCOC(目付125g/m2、厚み650μm))を加飾層Bとして、支持層Aと加飾層Bの中間に実施例1で用いた熱接着性シートを積層して、金型温度(金型の上下とも)が160℃、圧力が3MPaで熱プレス成形を行った。プレス成型時の条件を表1に示す。得られた加飾成形体の見かけ密度は0.86g/cm3であった。
【0057】
実施例3で得られた加飾成形体は複合一体化されており、外観に優れ、細かい成形部もシャープで良好であり、深い絞り成型後の追随性に優れていた。また、加飾部は汚れや斑もなく良好であった。得られた加飾成形体の構成と評価結果を表2に示す。
【0058】
(実施例4)
カーディング法により、平均繊維長が5cmで、直径が5μmの炭素繊維、及び繊維長が51mmで、繊度が3.3dtexであるナイロン6繊維を、体積比が40%/60%の割合で混繊して、目付250g/m2の不織布を5枚作成した。
その後、メタルベルトプレス機(KBKスチールプロダクツ株式会社製)を用いて、温度190℃、圧力0.1MPaでプレス加工を行った。見かけ密度は0.83g/cm3であった。
【0059】
さらに、金型温度160℃、圧力7MPaで熱プレス成形を行った。見かけ密度は0.78g/cm3であった。続いて、金型温度260℃、圧力7MPaで熱プレス成形を行った。見かけ密度は1.27g/cm3であった。得られた積層不織布を支持層Aとした。
前記の支持層Aに、実施例1で使用した熱接着性シートと加飾層Bをこの順に重ね、金型温度160℃、圧力3.5MPaで熱プレス成形を行った。プレス成型時の条件を表1に示す。見かけ密度は1.3g/cm3であった。
【0060】
実施例4で得られた加飾成形体は複合一体化されており、外観に優れ、細かい成形部もシャープで良好であり、深い絞り成型後の追随性に優れていた。また、加飾部は曇りや浮きもなく良好であった。得られた加飾成形体の構成と評価結果を表2に示す。
【0061】
(比較例1)
熱接着性シートを使用しないこと以外は、実施例4と同様にして成形を行った。プレス成型時の条件を表1に示す。成形形状には問題が無かったものの、成形金型を外す際に、加飾層Bが上部の金型にひっついて浮き上がり、複合一体化された加飾成形体を得ることができなかった。
【0062】
(比較例2~5)
実施例1と同じ材料を使用し、成形条件を変えて試験を実施した。プレス成型時の条件を表1に示す。
比較例2~5で得られた加飾成形体は、複合一体化された加飾成形体を得ることができなかった。そのため、外観に劣っており、深絞り成型後の成型状態、加飾部の状態の少なくともいずれかが不良であった。得られた成形体の構造と評価結果を表3に示す。また、比較例4の加飾成形体は、
図3の写真に示す通り、加飾層Bに浮きが発生した。さらに、比較例5の加飾成形体は、
図4の写真に示す通り、成形体のエッジ部で加飾層Bに亀裂が生じた状態を示す写真である。
【0063】
【0064】
【0065】
【要約】
【解決課題】
意匠性と軽量性に優れ、かつ深い絞り成型時の追随性に優れる加飾成形体、及び比較的簡便な方法で前記加飾成形体を製造する方法を提供する。
【解決手段】
表面側から、加飾層B、支持層Aの順に積層されてなる加飾成形体であって、支持層Aは、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂繊維を含む不織布(a)、熱可塑性樹脂繊維と無機繊維を含む不織布(b)、熱可塑性樹脂中に無機繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物層(c)、のいずれかであり、加飾層Bは、熱成形が可能な熱可塑性樹脂を含み、表面側に顔料又は染料を含む熱可塑性樹脂組成物が積層された易成形ポリエステルフィルム(d)、融点の異なる少なくとも2種類の熱可塑性樹脂からなる複合繊維を含み、かつエンボス加工により表面に凹凸が形成された不織布(e)、有機繊維を基材とする合成皮革(f)のいずれかであり、加飾層B及び支持層Aは熱接着性樹脂を介して複合一体化されてなる。
【選択図】
図1