(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20221018BHJP
A23G 1/36 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A23D9/00 500
A23G1/36
(21)【出願番号】P 2022544049
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015314
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021059675
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】深見 洋次郎
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-507028(JP,A)
【文献】特表2008-516018(JP,A)
【文献】特表2013-507940(JP,A)
【文献】国際公開第2011/138918(WO,A1)
【文献】特開2010-148385(JP,A)
【文献】特開2021-040501(JP,A)
【文献】特開2009-284899(JP,A)
【文献】特開2019-10024(JP,A)
【文献】特開平7-264982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/
A23G 1/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の条件を全て満たす、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型チョコレート類用油脂。
・S2Uトリグリセリド含量が 50~85重量%
・S2Uトリグリセリドに占めるSSUトリグリセリドの割合が0.3~0.7
・BSUトリグリセリド含量が2~15重量%
・BSUトリグリセリドとB2Uトリグリセリドの比(BSU/B2U)が1以上
・B結合トリグリセリド全体に占めるBSU及びB2Uトリグリセリド合計の割合が0.5以上
但し、Sは炭素数16~20の飽和脂肪酸、Uは炭素数16~20の不飽和脂肪酸、Bはベヘン酸、
S2UはSが2つUが1つ結合したトリグリセリド、SSUは2位にS、1,3位にSとUが結合したトリグリセリド、BSUはBとSとUが1つずつ結合したトリグリセリド、B2UはBが2つUが1つ結合したトリグリセリド、B結合トリグリセリドは少なくとも1つのBが結合したトリグリセリドを意味する。
【請求項2】
BPUトリグリセリドとBStUトリグリセリドの比(BPU/BStU)が1.5以上である請求項1に記載のチョコレート類用油脂。但しPはパルミチン酸、Stはステアリン酸、
BPUはBとPとUが1つずつ結合したトリグリセリド、BStUはBとStとUが1つずつ結合したトリグリセリドを意味する。
【請求項3】
3飽和トリグリセリドを4~20重量%含有する請求項1
又は2に記載のチョコレート類用油脂。
【請求項4】
20℃における固体脂含量が60~80%、40℃における固体脂含量が10%以下である請求項
1~3のいずれか1項に記載のチョコレート類用油脂。
【請求項5】
被覆用途のチョコレート類用である請求項1~4のいずれか1項に記載のチョコレート類用油脂。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のチョコレート類用油脂を含有する、チョコレート類。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のチョコレート類用油脂を含有する、被覆用チョコレート類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ラウリン、非トランス、非テンパリングチョコレート類に使用する油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオバター代用脂として広く利用されているチョコレート用油脂は、固化・成型時に温調操作を実施するテンパリング型チョコレート用油脂と、温調操作を実施しない非テンパリング型チョコレート用油脂に大別される。テンパリング型チョコレート用油脂は、ココアバターと類似のトリグリセリドを主成分として含有するため、ココアバターとの相容性が高く、またココアバターと類似の食感が得られるが、テンパリング操作には厳密な温度制御が必要となるため、省略することが望まれている。
【0003】
一方、非テンパリング型チョコレート用油脂は、煩雑なテンパリング操作を必要としないことから、パンや洋菓子などとチョコレートを組み合わせた様々な組み合わせ食品に好適に使用することができ、トランス脂肪酸型チョコレート用油脂や、エステル交換・分別型チョコレート用油脂、さらにラウリン酸型チョコレート用油脂に大別することができる。
【0004】
非テンパリング型チョコレート用油脂のうち、大豆油や菜種油などの液状油を水素添加して得られるトランス酸型チョコレート用油脂は、良好な口溶けやココアバターとの高い相溶性から広く利用されてきた。しかし近年、トランス脂肪酸の健康に及ぼすリスクが明らかとなり、トランス脂肪酸を含まない非トランス脂肪酸型チョコレート用油脂が望まれている。
【0005】
ラウリン酸型チョコレート用油脂は、ラウリン酸が結合したトリグリセリドを豊富に含むラウリン系油脂を原料として古くから製造されている。これらはカカオバターと極めて類似した食感や物性が得られ、艶も良好であるなど様々な利点があるが、カカオ分やココアバターを多く配合された場合に、ブルームやグレーニングが激しく発現するという問題があった。またチョコレートの保存状態によっては望ましくないソーピーフレーバーが発生するというリスクもあり、ラウリン酸含量を低減したチョコレート用油脂が望まれている。
【0006】
前述のように非トランス酸型でしかも非ラウリン酸型のチョコレート用油脂が望まれる中で近年、エステル交換・分別型チョコレート用油脂の利用が進んでいる。(特許文献1~4)。このエステル交換・分別型チョコレート用油脂は、ラウリン酸やトランス脂肪酸含量が極めて低い原料油脂、例えば大豆油や菜種油の極度硬化油や、パーム油などの固形脂を原料として化学的に、もしくは酵素的にエステル交換を実施した後に、分別を実施することで良好な口溶けを有するものである。
【0007】
前記の様な非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート用油脂は、カカオ分やココアバターが多く配合された場合に、ラウリン酸型チョコレート用油脂よりは、ブルームやグレーニングが発現しにくいものの、その効果は不十分であり、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2005-507028号公報
【文献】特表2010-532802号公報
【文献】特開2007-319043号公報
【文献】国際公開WO2011/138918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、カカオ分やココアバターが多く配合されたチョコレートであっても、幅広い温度帯で長期間にわたってブルームが発現しにくい、非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来の非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂にベヘン酸、炭素数16~20の飽和脂肪酸及び炭素数16~20の不飽和脂肪酸がそれぞれ一つずつ結合したトリグリセリドを特定量含有させることで、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
(1)下記の条件を全て満たす、非ラウリン、非トランスかつ非テンパリング型チョコレート類用油脂。
・S2Uトリグリセリド含量が 50~85重量%
・S2Uトリグリセリドに占めるSSUトリグリセリドの割合が0.3~0.7
・BSUトリグリセリド含量が2~15重量%
・BSUトリグリセリドとB2Uトリグリセリドの比(BSU/B2U)が1以上
・B結合トリグリセリド全体に占めるBSU及びB2Uトリグリセリド合計の割合が0.5以上
但し、Sは炭素数16~20の飽和脂肪酸、Uは炭素数16~20の不飽和脂肪酸、Bはベヘン酸、
S2UはSが2つUが1つ結合したトリグリセリド、SSUは2位にS、1,3位にSとUが結合したトリグリセリド、BSUはBとSとUが1つずつ結合したトリグリセリド、B2UはBが2つUが1つ結合したトリグリセリド、B結合トリグリセリドは少なくとも1つのBが結合したトリグリセリドを意味する。
(2)BPUトリグリセリドとBStUトリグリセリドの比(BPU/BStU)が1.5以上である(1)のチョコレート類用油脂。但しPはパルミチン酸、Stはステアリン酸、
BPUはBとPとUが1つずつ結合したトリグリセリド、BStUはBとStとUが1つずつ結合したトリグリセリドを意味する。
(3)3飽和トリグリセリドを4~20重量%含有する(1)のチョコレート類用油脂。
(4)3飽和トリグリセリドを4~20重量%含有する(2)のチョコレート類用油脂。
(5)20℃における固体脂含量が60~80%、40℃における固体脂含量が10%以下である(1)~(4)のいずれか1項のチョコレート類用油脂。
(6)被覆用途のチョコレート類用である(1)~(4)のいずれか1項のチョコレート類用油脂。
(7)被覆用途のチョコレート類用である(5)のチョコレート類用油脂。
(8)(1)~(4)のいずれか1項のチョコレート類用油脂を含有する、チョコレート類。
(9)(5)のチョコレート類用油脂を含有する、チョコレート類。
(10)(1)~(4)のいずれか1項のチョコレート類用油脂を含有する、被覆用チョコレート類。
(11)(5)のチョコレート類用油脂を含有する、被覆用チョコレート類。
に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カカオ分やココアバターが多く配合されたチョコレートであっても、ブルームが発現しにくい効果に加え、被覆用途のチョコレートに求められる固化速度の速さにも優れる非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
本発明における非ラウリンとは、やし油やパーム核油などのラウリン系油脂を実質的に原料に用いないという趣旨であり、具体的には、チョコレート類用油脂を構成する脂肪酸組成において炭素数6~12の脂肪酸含量が5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満、最も好ましくは1重量%未満となる。
また、本発明における非トランスとは、硬化油(極度硬化油を除く)などのトランス酸を含む油脂を実質的に原料に用いないという趣旨であり、具体的には、トランス脂肪酸含量が5重量%未満、より好ましくは3重量%未満となる。
また、本発明における非テンパリング型とは、かかるチョコレート類用油脂を用いてチョコレート類を製造する場合において、温度調整やシード剤添加などによるテンパリング処理を省略し、単純に冷却固化させる方法によってもチョコレートを作成することができるタイプであることを意味する。
【0015】
本発明のチョコレート類用油脂は、S2U主体の従来の非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂に対して、耐ブルーム性や固化速度を向上させるために、B結合トリグリセリドを有効成分として含有させる点に特徴がある。
ここでB結合トリグリセリドとは、B3,B2S,B2U、BS2,BSU及びBU2トリグリセリドの総称である。(Sは炭素数16~20の飽和脂肪酸、Uは炭素数16~20の不飽和脂肪酸、Bはベヘン酸をそれぞれ表す。)
【0016】
本発明のチョコレート類用油脂は、上記B結合トリグリセリドの中でも、BSUトリグリセリドを2~15重量%含有する必要がある。そして好ましくは2.5~12重量%、より好ましくは3~10重量%、更に好ましくは4~8重量%である。BSUトリグリセリドが2~15重量%であると、チョコレートにした時のブルームが発現しにくく、またコーティング用途に使用した場合などの固化速度の速さにも優れるため好ましい。
またBSUトリグリセリドに属するBPUトリグリセリドとBStUトリグリセリドの比(BPU/BStU)が1.5以上であることが好ましい。そしてより好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.3以上である。但しPはパルミチン酸、Stはステアリン酸を意味する。
【0017】
本発明のチョコレート類用油脂に含有される、BSUトリグリセリドとB2Uトリグリセリドの比(BSUトリグリセリド/B2Uトリグリセリド)は1以上である必要がある。
そして好ましくは1.5~4、より好ましくは2~4である。当該比が1以上であると、チョコレートにした時のブルームが発現しにくく、またコーティング用途に使用した場合などの固化速度の速さにも優れるため好ましい。
【0018】
本発明のチョコレート類用油脂に含有される、B結合トリグリセリド全体に対するBSU及びB2Uトリグリセリド合計の比は0.5以上である必要がある。そして好ましくは0.6以上である。0.5未満であると得られるチョコレート類の口溶けが悪化してしまうことがある。
【0019】
本発明のチョコレート類用油脂に含有される、3飽和トリグリセリド(B3,B2S,BS2,S3トリグリセリド)は4~20重量%であることが好ましく、より好ましくは7~17重量%、さらに好ましくは10~14重量%である。3飽和トリグリセリドの含有量が4重量%未満であると、チョコレート類に適度な硬さが得られないことがある。また、コーティング用途に使用した場合などの固化速度が低下してしまう。また、20重量%超であると、得られるチョコレート類の口溶けが悪化してしまうことがある。
【0020】
本発明のチョコレート類用油脂に含有される、S2Uトリグリセリドは、1,3位がSで2位がUのSUSトリグリセリド及び1,2位がSで3位がUのSSUトリグリセリドの両方を意味する。チョコレート類は、室温付近で硬く、体温付近で急速に溶解する性質が好ましいのであるが、このような性質を持つためには、S2Uの含量は50~85重量%重量%であることが必要であり、好ましくは55~80重量%、さらに好ましくは65~75重量%である。S2Uが50重量%未満であると、得られるチョコレート類が室温で軟らかくなりすぎ、85重量%超では室温で硬くなりすぎ、食感の悪化を招く。
【0021】
本発明のチョコレート類用油脂に含有される、S2Uトリグリセリド中のSSUトリグリセリド比(SSU/S2U)は、0.3~0.7であることが必要であり、好ましくは、0.5~0.6である。0.3未満であるとカカオ脂と混合した時に、ブルームやグレーニングが発生しやすくなってしまう。また0.7を超えると、油脂のエステル交換と分別による濃縮が必要となるため、製造コストが高くなりすぎる問題があり好ましくない。
【0022】
本発明のチョコレート類用油脂は、20℃における固体脂含量が60~80%であることが好ましく、より好ましくは55~75%である。また40℃における固体脂含量が10%以下であることが好ましく、より好ましくは6%以下である。また25℃における固体脂含量が40~60%重量であることが好ましく、30℃における固体脂含量が20~40%であることが好ましい。固体脂含量が上記の好ましい範囲であると、チョコレート類としたときの口どけが良好な点で好ましい。
【0023】
本発明のチョコレート類用油脂は、例えば、原料油脂混合物をランダムエステル交換した後に、分別操作を行い、低融点部又は中融点部の油脂として得ることができる。また複数の当該低融点部又は中融点部の油脂を作成し、これらを混合することによっても得ることができる。
ここで原料油脂は、具体的には、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、シア脂、サル脂を挙げる事ができ、これらから選ばれる1以上の油脂を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものも使用することができる。
そして特にパーム油、パーム分別油、ハイオレイックヒマワリ油、及びハイエルシン菜種極硬油を好適に使用することができる。
【0024】
上記ランダムエステル交換の方法としては、化学的触媒を用いる方法でも良いし、酵素触媒による方法でも良い。化学的触媒としては、例えばナトリウムメチラート等のアルカリ金属触媒が使用でき、酵素触媒としては、例えばアルカリゲネス属(Alcaligenes)、ペニシリウム属(Penicillium)サーモマイセス属(Thermomyces)等のリパーゼが挙げられる。これらリパーゼは、既知の方法によりイオン交換樹脂や珪藻土などに固定化して用いても良いし、粉末状で用いても良い。
【0025】
上記分別操作の方法としては、溶剤分別、非溶剤分別などの方法が使用でき、これにより低融点部又は中融点部の油脂を得ることができる。
【0026】
本発明のチョコレート類用油脂には、通常のチョコレート類用途に用いられる着色料、乳化剤、酸化防止剤、香料等の任意成分を適宜添加することができる。これらは本発明のチョコレート類用油脂に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下とする。
また上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、等が挙げられる。
【0027】
本発明のチョコレート類用油脂の使用量はチョコレート類全体に対して、10~65質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは15~45質量%である。
【0028】
以上のようにして得られた本発明のチョコレート類用油脂は、単独又はカカオ脂を配合してチョコレート類用の油脂として使用することができ、テンパリング処理を省略してチョコレート類を製造することができる。なお、ここでいうチョコレート類とは、規約(「チョコレート類の表示に関する公正規約」)乃至法規上の規定により限定されるものではなく、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート或いはストロベリーのようなカラーチョコレート等、各種チョコレート類を包含する。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、例中、部及び%はいずれも重量基準を意味する。
【0030】
(脂肪酸組成の測定方法)
油脂の構成脂肪酸組成は、基準油脂分析試験法2.4.2.1-2013により決定した。
(トリグリセリド組成の測定方法)
トリグリセリド組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定した。
(固体脂含量の測定方法)
分析装置はBruker社製“minispecmq20”を使用した。表6の固体脂含量は、IUPAC2.150a (Solid Content Determination in Fats by NMR)に準じて行なった。
【0031】
(油脂Aの作成)
パーム油(ヨウ素価52.5)45重量%とBOB脂35重量%、ハイエルシン菜種極度硬化油15重量%、パーム油分別高融点部(ヨウ素価31.0)5重量%からなる配合油を、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い、エステル交換油脂を得た。このエステル交換油脂をヘキサン分別により、高融点部と低融点部を除去し、油脂Aを得た。当該エステル交換油及び油脂Aの脂肪酸組成を表2に示す。
上記BOB脂は、ハイオレイックひまわり油とベヘン酸を、1,3特異性リパーゼでエステル交換して得た油脂を、ヘキサンにより分別濃縮した、BOBトリグリセリドを66%含有する油脂である。(Bはベヘン酸、Oはオレイン酸)
【0032】
(チョコレート類用油脂の調製)
油脂A、BOB脂、ハイエルシン菜種極度硬化油と既存の非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂である不二製油株式会社製「メラノNT-R」を表1に示す割合で配合し、実施例1~3と比較例1~6の油脂を得た。各油脂と実施例1~3と比較例1~6の脂肪酸組成を表2に、トリグリセリド組成を表3に示す。
【0033】
上記メラノNT-Rはパーム系油脂を主成分とする非ラウリン系油脂のみを原料とするランダムエステル交換油脂の分別中融点部からなる非テンパリング型チョコレート類用油脂である。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
(チョコレートの製造)
実施例1~3と比較例1~6の油脂32部、ココアバター4部、粉糖44部、ココアパウダー16部、カカオマス4部、レシチン0.4部を配合してチョコレート生地(油脂含量40.0重量%)を常法により製造したのち、品温45℃にてアルミカップに充填し、15℃、30分間冷却し。その後20℃にて1週間エージングし、ブルーム耐性テストに供した。
【0038】
(ブルーム耐性テスト)
1日で17℃と28℃を反復するサイクル条件(17℃8時間、4時間昇温、28℃8時間、降温4時間)のサイクル条件及び17℃一定条件にて経時的なチョコレート表面のブルーム発生状況を確認した。結果を表4に示す。
【0039】
(ブルーム評価基準)
0点 ブルーム発生なし
1点 観察角度によっては若干ツヤなし
2点 観察角度によってはツヤなし
3点 観察角度によらずツヤなし
4点 観察角度によらずツヤなし、若干変色
5点 観察角度によらずツヤなし、変色
【0040】
(ブルーム耐性テスト結果)
NT-CBRの比較例1が88日でブルームが発生したのに対し、実施例1~3の油脂使用チョコレートは少なくとも122日間ブルームは発生せず、ブルーム耐性が優れていた。一方、比較例2,3,6は、88~102日後にブルームが発生しており劣っていた。
さらに比較例4,5はわずか18日でブルームが発生しており問題があった。
【0041】
【0042】
(油脂の固化速度)
ブルーム耐性試験において一定以上のブルーム耐性が確認された実施例1~3と比較例2,3,6に関して、油脂の固化速度比較を行った。
チョコレートの油分中の比率に合せて、実施例、比較例の油脂、ココアバターを80/20の比率で混合した油脂について、15℃30分冷却後の固体脂含量を以下の方法で算定し、固化速度の指標とした。結果を表5に示す。
・油脂を80℃で10分保持した後、60℃に30分保持することで油脂を完全に溶解
・15℃に30分保持したときの固体脂含量を15℃30分冷却後の固体脂含量とした。
【0043】
【0044】
(油脂の固化速度測定結果)
実施例1~3の15℃30分冷却後の固体脂含量は比較例2,3,6よりも高いことから、実施例1~3は比較例2,3,6よりも固化速度の点で優れている。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ブルーム耐性や固化速度に優れた非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレートの提供が可能となる。
【要約】
カカオ分やココアバターが多く配合されたチョコレートであっても、長期間にわたってブルームが発現しにくい、非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂の提供を課題とする。
従来の非ラウリン、非トランス、非テンパリング型チョコレート類用油脂にベヘン酸、炭素数16~20の飽和脂肪酸及び炭素数16~20の不飽和脂肪酸がそれぞれ一つずつ結合したトリグリセリドを特定量含有させることで上記課題が解決される。