(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】新規ココア飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/56 20060101AFI20221018BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20221018BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20221018BHJP
【FI】
A23G1/56
A23L2/00 A
A23L2/38 C
(21)【出願番号】P 2018112606
(22)【出願日】2018-06-13
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2017128290
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳和
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 朱里
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕之
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-169079(JP,A)
【文献】特開2004-357616(JP,A)
【文献】特開2016-123970(JP,A)
【文献】クックパッド レシピID:984796, 2011.05.11 [検索日 2022.03.16], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/984796>
【文献】クックパッド レシピID:4439342, 2017.03.28 [検索日 2022.03.16], インターネット:<URL:https://cookpad.com/recipe/4439342>
【文献】Jミルク, 2006.07.10 [検索日 2022.03.16], インターネット:<URL:https://www.j-milk.jp/recipes/recipe/8d863s000006vyiz.html>
【文献】Ameba, 2013.04.05 [検索日 2022.03.16], インターネット:<URL:https://ameblo.jp/pyttipanna2011/entry-11505302703.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/56
A23L 2/00
A23L 2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
せん断速度1.02(1/s)におけるせん断応力(20℃)が2Pa以上であり、かつ、せん断応力0.1Paにおける貯蔵弾性率(G’)として、動的粘弾性が20Pa以上である、ココア飲料
であって、飲料中の90%以上のココア粒子の粒径が1000nm以下であり、かつ、容器詰め飲料である、ココア飲料。
【請求項2】
飲料中のタンパク濃度が2質量%以上である、請求項1に記載のココア飲料。
【請求項3】
配合成分として乳原料を含んでなる、請求項
1または2に記載のココア飲料。
【請求項4】
配合成分として泡安定剤を含んでなる、請求項1~
3のいずれか一項に記載のココア飲料。
【請求項5】
ココアパウダーを含んでなる調合液を微粒化処理する工程と、せん断撹拌処理する工程および/または泡安定剤を添加する工程とを含んでなる、請求項1~
4のいずれか一項に記載のココア飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規ココア飲料およびその製造方法に関し、詳細には新規食感を有するココア飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココア飲料は、カカオ豆から調製されるカカオマスからココアバターの一部を分離して得られたココアパウダーを、甘味料、乳原料、香料等とともに水に溶かして調製した飲料である。ココア飲料には原料であるカカオ豆に由来するポリフェノールが豊富に含まれている。ポリフェノールには強い抗酸化作用があり、体内で生成した活性酸素を除去する効果があることから、活性酸素に起因する疾患を予防できると考えられている。ココア飲料はまた、ポリフェノール以外に、現代人に不足しがちな鉄分等のミネラル類や食物繊維を豊富に含んでいる。このため、近年ではココア飲料の健康効果が注目を集めている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ココア飲料は、一般的には容器詰め飲料の形態あるいは粉末の形態で流通している。容器詰めココア飲料は、粉末等を水やお湯に溶かす手間がなく、容器開封後、直ちに飲用できるので、消費者に広く受け入れられている。このような容器詰めココア飲料は、ココアパウダーと他の成分を水に溶かして調製した飲料であることから、ココア飲料独特の風味・食感はあるものの、それ以外の食感が付与されたココア飲料はこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、新規食感を有するココア飲料のニーズが潜在的に存在すると考え、鋭意検討を行った。その結果、ココアパウダーを含有する調合液を微粒化処理および高せん断撹拌処理し、飲料のせん断応力および動的粘弾性を所定の範囲内に調整することにより、これまでにない新規食感を有するココア飲料を調製できることを見出した。本発明者らはまた、高せん断撹拌処理に代えて泡安定剤添加処理を実施することにより飲料のせん断応力および動的粘弾性を所定の範囲内に調整することができ、新規食感を有するココア飲料を調製できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明は、新規食感を有するココア飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]せん断速度1.02(1/s)におけるせん断応力(20℃)が2Pa以上であり、かつ、せん断応力0.1Paにおける貯蔵弾性率(G’)として、動的粘弾性が20Pa以上である、ココア飲料。
[2]飲料中のタンパク濃度が2質量%以上である、上記[1]に記載のココア飲料。
[3]飲料中の90%以上のココア粒子の粒径が1000nm以下である、上記[1]または[2]に記載のココア飲料。
[4]配合成分として乳原料を含んでなる、上記[1]~[3]のいずれかに記載のココア飲料。
[5]配合成分として泡安定剤を含んでなる、上記[1]~[4]のいずれかに記載のココア飲料。
[6]容器詰め飲料である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のココア飲料。
[7]ココアパウダーを含んでなる調合液を微粒化処理する工程と、せん断撹拌処理する工程および/または泡安定剤を添加する工程とを含んでなる、上記[1]~[6]のいずれかに記載のココア飲料の製造方法。
【0008】
本発明のココア飲料は、これまでにない新規な食感を有することから、健康効果を有するココア飲料に関して、消費者の嗜好の多様化に応え、新しい飲料カテゴリーの開拓に寄与するものである。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明において「ココア飲料」とは、ココアパウダー、ココアケーキ、カカオマス、カカオニブおよびココアバターからなる群から選択される少なくとも1種以上のカカオ豆由来成分を原料として配合してなる飲料を意味する。本発明のココア飲料は、原料として少なくともココアパウダーを含むものとすることができる。ここで、「ココアパウダー」とは、カカオマスからココアバターの一部を除いて調製されたココアケーキを粉砕してなるものである。
【0010】
本発明のココア飲料には、副原料として、甘味料、乳原料、植物油脂、乳化剤、安定剤、pH調整剤、水溶性食物繊維、香料等が含まれていてもよい。本発明のココア飲料に配合することができる甘味料としては、例えば、ショ糖、ぶどう糖、果糖等の単糖および二糖並びにオリゴ糖や、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の高甘味度甘味料が挙げられる。また、本発明のココア飲料に配合することができる乳原料としては、例えば、牛乳や、全粉乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、クリーム、ホエー等の生乳を加工して得られた加工乳が挙げられる。
【0011】
本発明のココア飲料に含まれるカカオ豆由来成分の含有割合は、特に限定されるものではないが、該成分(固形分換算)を、ココア飲料に対して、1~10質量%(好ましくは2~6質量%、より好ましくは4~5質量%)となるように配合することができる。
【0012】
本発明のココア飲料に含まれる乳原料の含有割合は、特に限定されるものではないが、乳原料(無脂乳固形分換算)を、ココア飲料に対して、1~10質量%(好ましくは3~9質量%、より好ましくは3.5~7質量%)となるように配合することができる。
【0013】
本発明のココア飲料にはまた、泡安定剤が配合されていてもよい。本発明のココア飲料に含まれる泡安定剤の含有割合は、特に限定されるものではないが、泡安定剤(固形分換算)を、ココア飲料の全質量に対して、0.02~0.25質量%(好ましくは0.02~0.2質量%、より好ましくは0.05~0.15質量%)となるように配合することができる。
【0014】
本発明において使用できる泡安定剤としては、泡安定効果を有する食品素材が挙げられ、このような食品素材から1種または2種以上を選択して本発明のココア飲料に配合することができる。本発明において使用できる泡安定剤としては、例えば、泡安定効果と起泡効果を併せ持つ食品素材(例えば、キラヤサポニン等のサポニン類、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類)や、泡安定効果を有する食品素材(例えば、発酵セルロース、結晶セルロース、セルロース誘導体)が挙げられる。キラヤサポニンは市販品を用いることができ、例えば、キラヤニンC-100(丸善製薬社製)を使用することができる。また、発酵セルロースも市販品を用いることができ、例えば、サンアーティストPG(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を使用することができる。
【0015】
本発明においては、泡安定効果と起泡効果を併せ持つ食品素材および泡安定効果を有する食品素材のいずれかまたは両方を泡安定剤として使用することができるが、好ましくは泡安定効果と起泡効果を併せ持つ食品素材(食品素材a)と、泡安定効果を有する食品素材(食品素材b)を組み合わせて泡安定剤として使用することができる。食品素材aと食品素材bとを組み合わせて使用する場合、本発明のココア飲料中のこれら成分の含有比率(食品素材a:食品素材b)は1:2~1:14(固形分質量比)とすることができ、好ましくは1:7~1:10である。
【0016】
本発明のココア飲料は、せん断応力が所定の範囲内に調整されてなるものである。すなわち、本発明のココア飲料は粘性が所定の範囲内に調整されてなるものである。本発明のココア飲料のせん断応力は、せん断速度1.02(1/s)および温度20℃の測定条件において2Pa以上(好ましくは2~10Pa、より好ましくは2~7.5Pa、さらにより好ましくは2~5Pa)とすることができる。せん断応力は、市販のB型粘度計(ブルックフィールド粘度計)を用いて測定するものとし、測定条件は例1(2)の記載に従って定めることができる。後述するように本発明のココア飲料は、(A)ココア粒子の微粒化処理工程と、(B)飲料調合液のせん断撹拌処理工程および/または泡安定剤を添加する工程を経て製造することができるが、(A)および(B)の工程をいずれも実施することによりココア飲料のせん断応力の値を所定の範囲内に調整することができる。
【0017】
本発明のココア飲料はまた、動的粘弾性が所定の範囲内に調整されてなるものである。すなわち、本発明のココア飲料は弾性が所定の範囲内に調整されてなるものである。本発明のココア飲料の動的粘弾性は、せん断応力(τinPa)が0.1Paである測定条件における貯蔵弾性率(G’)として、20Pa以上(好ましくは20~70Pa、より好ましくは20~60Pa、さらにより好ましくは20~50Pa)とすることができる。動的粘弾性は、例えば、市販の動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。後述するように本発明のココア飲料は、(A)ココア粒子の微粒化処理工程と、(B)飲料調合液のせん断撹拌処理工程および/または泡安定剤を添加する工程を経て製造することができるが、(A)および(B)の工程をいずれも実施することによりココア飲料の動的粘弾性の値を所定の範囲内に調整することができる。
【0018】
本発明のココア飲料中のタンパク濃度(好ましくは乳タンパク濃度)は、2質量%以上(好ましくは2~6質量%、より好ましくは2~4質量%、さらにより好ましくは2~3質量%)とすることができる。タンパク濃度の測定は公知の方法に従って行うことができるが、例えば、ケルダール法に従って測定を行うことができる。
【0019】
本発明のココア飲料は、原料として少なくともココアパウダーを含むものとすることができる。この場合、ココアパウダーは、後述するように微粒化処理に付されて微粒化されており、例えば、飲料中の90%以上のココア粒子の粒径を1000nm以下(好ましくは750nm以下、より好ましくは500nm以下、さらにより好ましくは200nm以下)に設定することができる。ココア粒子の粒度分布は動的光散乱法で分析することができ、市販の測定装置(例えば、ゼータ電位・粒径・分子量測定システムELSZシリーズ、大塚電子社製)を用いて測定することができる。
【0020】
本発明のココア飲料は、容器詰め飲料の形態で提供することができる。容器としては、スチール缶、アルミ缶等の缶、ガラス瓶、紙パック、ペットボトル等のいずれの態様であってもよい。本発明においては、容器詰めされたココア飲料をレトルト殺菌またはUHT殺菌してもよく、あるいは、殺菌処理したココア飲料を前記容器に無菌充填してもよい。容器詰めや殺菌処理は常法に従って実施することができる。本発明のココア飲料はまた、流通・販売される場合に常温帯およびチルド帯のいずれの態様であってもよいが、流通・販売がチルド帯である態様が好ましい。
【0021】
本発明のココア飲料は、これまでにない新規食感を製造後から長期間に渡って維持することができる。すなわち、本発明のココア飲料は、容器詰め飲料の形態で提供してもその新規食感が維持されるので、提供形態がその場での提供に限定されない点で有利である。本発明のココア飲料においては、製造日から1週間経過後のせん断応力および動的粘弾性が所定の範囲内に維持されていれば、本発明の新規食感効果が発揮されていると判断することができる。
【0022】
本発明のココア飲料は、従来の飲料では実現されたことがない新規な食感、すなわち、口に含んだときに、弾性およびとろみ(ボディ感)を同時に感じる食感を有する。後記実施例に示される通り、この新規食感は容器詰め処理とレトルトまたはUHT殺菌処理を行った容器詰めココア飲料で維持されていることから、本発明は、新規食感を有するココア飲料を消費者に広く受け入れられた容器詰め飲料で提供することができる点で有利である。
【0023】
本発明のココア飲料は、飲料のせん断応力および動的粘弾性を所定の範囲内に調整すること以外は、通常のココア飲料の製造手順に従って製造することができる。本発明においては、例えば、ココア粒子の微粒化処理と、カカオ豆由来成分以外の副原料を配合した飲料調合液のせん断撹拌処理とを組合せて実施することで、せん断応力と動的粘弾性が所定の範囲内に調整された本発明のココア飲料を製造することができる。ココア粒子の微粒化処理と飲料調合液のせん断撹拌処理の順序は特に限定されないが、カカオ豆由来成分を含有する調合液に対して微粒化処理を実施してココア粒子を微粒化し、次いで、副原料を配合し、得られた飲料調合液のせん断撹拌処理を行うことが好ましい。
【0024】
飲料調合液のせん断撹拌処理は、泡安定剤の添加により代替されてもよく、また、泡安定剤の添加と組み合わせて実施してもよい。泡安定剤は副原料の配合時に添加することができる。
【0025】
ココア粒子の微粒化処理は、ココアパウダー等のカカオ豆由来成分を含有する調合液を、市販の超微粒化装置で処理することにより実施することができる。このような超微粒化装置としては、例えば、スギノマシン社製のスターバーストシリーズ、湿式ビーズミル(アシザワファインテック社製スターミル等)、Microfluidics社製マイクロフルイダイザーが挙げられる。また、飲料調合液のせん断撹拌処理は市販の高せん断撹拌装置で処理することにより実施することができる。このような高せん断撹拌装置としては、例えば、Bamix(チェリーテラス社)、ロボミックス(プライミクス社)、クレアミックス(エムテクニック社)、ナノクイック(ナノクス社)、ローター/ステータータイプ撹拌機(IKA社製またはシルバーソン社製)が挙げられ、中でもローター/ステータータイプ撹拌機が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
例1:新規食感を有するココア飲料の製造
(1)サンプル飲料の調製
水にココアパウダー(バンホーテンココアパウダー、バンホーテン社製)を分散させて、20質量%濃度のココア分散液を調製した。ココア分散液を湿式粉砕装置(スターバースト(Star Burst)HJP-25005、スギノマシン社製)に供し、200MPa、10passの条件で微粒化処理を行った。また、対照サンプル(サンプル番号1)には、ココア分散液に対して微粒化処理を実施しなかった。微粒化処理後のココア分散液に含まれるココア粒子の粒度分布をゼータ電位・粒径・分子量測定システムELSZシリーズ(大塚電子社製)を用いて分析したところ、該分散液中の90%以上のココア粒子の粒径が200nm以下であった。
【0028】
微粒化処理後のココア分散液と対照サンプル(サンプル番号1)に、牛乳と脱脂粉乳を最終的に表1に記載のタンパク濃度となるように添加して溶解させた後、所定のココア濃度となるまで脱イオン水を添加した。これをT.K.ホモミクサーMARKIIにより5,000rpmで10分間撹拌し、ホモジナイズした。タンパク濃度は、ケルダール法に従って測定した。
【0029】
次いで、クレアミックスCLM-0.8S(エムテクニック社製)を用いて、撹拌部としてローターR2およびスクリーンS1.0-24を使用し、各サンプルを10,000rpmで2分間処理した。対照サンプル(サンプル番号2)には、高せん断攪拌処理を実施しなかった。得られた各サンプルを缶に充填し、レトルト殺菌(126℃、25分)して、サンプル飲料(サンプル番号1~5)を調製した。
【0030】
(2)せん断応力と動的粘弾性の測定
上記(1)で調製した各サンプルのせん断応力は、ブルックフィールド粘度計Dv2+(ブルックフィールド社製)を用いて測定した。測定はスピンドルS31および少量アダプタを使用して行い、アダプタ内径とローター外径の差は7mmであった。また測定条件は、回転数:3rpm(せん断速度1.02(1/s))、液温:20℃、液量:10mlであった。
【0031】
上記(1)で調製した各サンプルの動的粘弾性は、サーモフィッシャーMARS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)(測定条件:動的粘弾性測定 応力依存測定、温度:20℃、応力:0.01Pa⇒100Pa Log モード、周波数:1Hz)を用いて測定した。
【0032】
(3)官能評価
上記(1)で調製したサンプル飲料をレトルト殺菌し、容器に充填・密閉してから1週間後に官能評価に供した。具体的には、新規食感を感じられるかについて、以下の評価基準に従って評価した。ここで、「新規食感」とは、口に含んだときに、弾性およびとろみ(ボディ感)を同時に感じることをいう。
1点:新規食感を感じない
2点:新規食感を多少感じる
3点:新規食感を感じる
4点:新規食感を強く感じる
5点:新規食感を非常に強く感じる
【0033】
官能評価は3名の訓練されたパネラーにより実施し、パネラー3名の評価スコアの平均値を算出して官能評価結果とした。
【0034】
(4)結果
各サンプルの物性値および官能評価の結果を表1に示す。
【表1】
【0035】
表1の結果から、せん断応力および動的粘弾性が所定の範囲内に調整されたココア飲料において、新規食感が感じられることが確認された。
【0036】
例2:タンパク質が新規食感へ与える影響
(1)サンプル飲料の調製
サンプル飲料(サンプル番号6~8)の調製は、せん断応力および動的粘弾性が表2に記載の数値となるように高せん断撹拌処理を行い、牛乳、脱脂粉乳および乳タンパク濃縮物を表2に記載のタンパク濃度となるように添加した以外は、例1(1)に記載の手順に従って行った。なお、例1(1)と同様の手順で微粒化処理後のココア分散液に含まれるココア粒子の粒度分布を分析したところ、該分散液中の90%以上のココア粒子の粒径は200nm以下であった。
【0037】
(2)せん断応力と動的粘弾性の測定
せん断応力と動的粘弾性の測定は、例1(2)に記載の手順に従って行った。
【0038】
(3)官能評価
官能評価は、例1(3)に記載の基準および手順に従って行った。
【0039】
(4)結果
各サンプルの物性値および官能評価の結果を表2に示す。
【表2】
【0040】
表2の結果から、タンパク濃度、せん断応力および動的粘弾性が所定の範囲内に調整されたココア飲料において、新規食感が感じられることが確認された。
【0041】
例3:高せん断攪拌処理の方式が新規食感へ与える影響
(1)サンプル飲料の調製
サンプル飲料(サンプル番号9および10)の調製は、せん断撹拌装置としてBamix(チェリーテラス社製)、T.K.ホモミクサーMARKII(プライミクス社製)を用い、せん断応力および動的粘弾性が表3に記載の数値となるように高せん断撹拌処理を行った以外は、例1(1)に記載の手順に従って行った。各サンプルに対する高せん断撹拌処理は、Bamixの場合は11,000rpmで1分間処理し、ホモミクサーの場合はφ40mmのディスパー羽根を用い、8,000rpmで2分間処理した。なお、例1(1)と同様の手順で微粒化処理後のココア分散液に含まれるココア粒子の粒度分布を分析したところ、該分散液中の90%以上のココア粒子の粒径は200nm以下であった。
【0042】
(2)せん断応力と動的粘弾性の測定
せん断応力と動的粘弾性の測定は、例1(2)に記載の手順に従って行った。
【0043】
(3)官能評価
官能評価は、例1(3)に記載の基準および手順に従って行った。
【0044】
(4)結果
各サンプルの物性値および官能評価の結果を表3に示す。
【表3】
【0045】
表3の結果から、高せん断攪拌装置の種類にかかわらず、せん断応力および動的粘弾性が所定の範囲内に調整されたココア飲料において、新規食感が感じられることが確認された。
【0046】
例4:泡安定剤の使用が新規食感へ与える影響
(1)サンプル飲料の調製
水にココアパウダー(ココアパウダーF11GF-N、森永商事社製)を分散させて、20質量%濃度のココア分散液を調製した。ココア分散液を湿式粉砕装置(スターバースト(Star Burst)HJP-25005、スギノマシン社製)に供し、200MPa、3passの条件で微粒化処理を行った(サンプル番号11)。また、対照サンプル(サンプル番号12)には、ココア分散液に対して微粒化処理を実施しなかった。微粒化処理後のココア分散液に含まれるココア粒子の粒度分布をゼータ電位・粒径・分子量測定システムELSZシリーズ(大塚電子社製)を用いて分析したところ、該分散液中の90%以上のココア粒子の粒径が300nm以下であった。
【0047】
微粒化処理後のココア分散液(サンプル番号11)と対照サンプル(サンプル番号12)に、脱脂粉乳と生クリームを最終的に表4に記載のタンパク濃度となるように添加して溶解させ、さらにキラヤニンC-100(丸善製薬社製)およびサンアーティストPG(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を泡安定剤として添加し、所定のココア濃度となるまで脱イオン水を添加した。これをLAB2000により20MPaで処理し、ホモジナイズした。タンパク濃度は、ケルダール法に従って測定した。
【0048】
次いで、サンプル番号11の調合液をUHT殺菌(133℃、0.5分)後、ペットボトルに無菌充填してサンプル飲料とした。また、サンプル番号12の調合液を缶に充填後、レトルト殺菌(126℃、25分)してサンプル飲料とした。
【0049】
(2)せん断応力と動的粘弾性の測定
せん断応力と動的粘弾性の測定は、例1(2)に記載の手順に従って行った。
【0050】
(3)官能評価
官能評価は、例1(3)に記載の基準および手順に従って行った。
【0051】
(4)結果
各サンプルの物性値および官能評価の結果を表4に示す。
【表4】
【0052】
表4の結果から、高せん断撹拌処理を実施しない場合でも、泡安定剤の使用によってせん断応力および動的粘弾性が所定の範囲内に調整されたココア飲料において、新規食感が感じられることが確認された。