(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】函体構造物の推進方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20221018BHJP
E03F 3/04 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
E21D9/06 311C
E03F3/04 A
(21)【出願番号】P 2018197553
(22)【出願日】2018-10-19
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(73)【特許権者】
【識別番号】592069137
【氏名又は名称】植村技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】亀井 寛功
(72)【発明者】
【氏名】山崎 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】松浦 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】生田 光輝
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 英介
(72)【発明者】
【氏名】丸田 新市
(72)【発明者】
【氏名】中村 智哉
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144377(JP,A)
【文献】特開2003-064982(JP,A)
【文献】特開平08-121650(JP,A)
【文献】特開平03-228998(JP,A)
【文献】特開昭62-220615(JP,A)
【文献】特開2014-129664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
E03F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面を有する中空の函体構造物を推進することで前記函体構造物を路線下に横断して構築する函体推進工法における函体構造物の推進方法であって、
前記函体構造物の構築予定位置と外面とが一致して並ぶようにして、FCプレートの載った複数の箱形ルーフを発進立坑に設置する工程と、
前記発進立坑側の枠材に前記FCプレートが固定されて
平面視で矩形となった枠体、および前記枠体の内側において前記函体構造物の推進方向に沿って
着脱可能に配置され
て前記枠体の内側を仕切る少なくとも1本の桁材からなる固定部材を構築する工程と、
前記函体構造物の推進方向と直交する方向の幅が前記桁材で仕切られた前記枠体内側の仕切幅よりも小さい幅に設定されて前記函体構造物の推進方向に対して相互に並列に設置される複数のスペーサ片で構成されたスペーサを用意しておく工程と、
前記固定部材を通して前記発進立坑に前記函体構造物を設置
するときには前記桁材を取り外し、前記固定部材を通して前記発進立坑に前記スペーサ片を設置および撤去するときには前記桁材を取り外さずに、前記スペーサを用いて
前記函体構造物を推進させ
ながら当該函体構造物を路線下に横断して設置する工程と、
を有することを特徴とする函体構造物の推進方法。
【請求項2】
前記スペーサを用意しておく工程では、複数のスペーサを用意しておき、
前記函体構造物を路線下に横断して設置する工程では、前記発進立坑に複数の前記函体構造物を設置し、これら複数の前記函体構造物が所定長推進するごとに前記スペーサを1体ずつ設置する、
ことを特徴とする
請求項1記載の函体構造物の推進方法。
【請求項3】
前記桁材は、形鋼または棒鋼で構成されている、
ことを特徴とする
請求項1または2記載の函体構造物の推進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、函体構造物の推進方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行する列車や車などの流れを阻害せずに、矩形断面を有する中空の函体構造物(例えば、プレキャストボックスカルバートなど)を路線下に横断して構築するためには函体推進工法(例えばR&C工法やSFT工法など)が用いられる。
【0003】
この函体推進工法においては、函体構造物の構築予定位置と外面とが一致して並ぶようにして、断面中空矩形状となった複数の箱形ルーフを、路線を横断する方向に沿って圧入しておく。そして、推進ジャッキを用い、推進ジャッキと函体構造物との間に適宜スペーサを挟み込みながら当該函体構造物を推進させて箱形ルーフを発進立坑側から到達立坑側に押し出し、函体構造物を箱形ルーフと置換して路線下に構築する。
【0004】
函体構造物を設置する技術については、例えば特公昭63-31623号公報に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
函体推進工法においては、組み立てられた複数の箱形ルーフの上面にFC(Friction Cut)プレートを設置して、函体構造物の推進施工時に周辺地山と縁を切り、推進時の摩擦抵抗による地山の乱れや共連れ(函体構造物の上部の盛土が函体構造物に乗った状態で到達立坑側に移動してしまう現象)を防いでいる。
【0007】
FCプレートは、発進立坑側において所定の固定方式によりFCプレートを固定し、函体構造物の推進時に生じる函体構造物とFCプレートとの摩擦によって生じる引張力(推進方向に函体構造物とともに向かおうとする力)に対抗している。
【0008】
ここで、FCプレートの固定方式の一つとして、タイロッド式が知られている。タイロッド方式では、一辺がFCプレートと固定され、それと対向する一辺が立坑背面の支圧壁などに固定された枠体の内側に、函体構造物の推進方向に沿ってPC鋼棒など鋼製の桁材が配置された固定部材でFCプレートの移動を規制している。
【0009】
しかしながら、タイロッド式の固定方式では、次のような問題点がある。すなわち、函体構造物の設置回数を少なくするために一度に複数体の函体構造物を発進立坑に設置しておき、これらの函体構造物を所定長推進させてはスペーサを設置しながら、函体構造物を推進させていく。このとき、スペーサの断面積は函体構造物の断面積とほぼ同一となるために、スペーサの設置時には、前述した桁材を一旦撤去し、スペーサを設置した後に再び取り付けることになる。つまり、スペーサを設置するたびに桁材の撤去と再設置とが必要になる。
【0010】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、函体構造物を推進に用いられるスペーサを、桁材を撤去することなく効率よく設置することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の函体構造物の推進方法は、矩形断面を有する中空の函体構造物を推進することで前記函体構造物を路線下に横断して構築する函体推進工法における函体構造物の推進方法であって、前記函体構造物の構築予定位置と外面とが一致して並ぶようにして、FCプレートの載った複数の箱形ルーフを発進立坑に設置する工程と、前記発進立坑側の枠材に前記FCプレートが固定されて平面視で矩形となった枠体、および前記枠体の内側において前記函体構造物の推進方向に沿って着脱可能に配置されて前記枠体の内側を仕切る少なくとも1本の桁材からなる固定部材を構築する工程と、前記函体構造物の推進方向と直交する方向の幅が前記桁材で仕切られた前記枠体内側の仕切幅よりも小さい幅に設定されて前記函体構造物の推進方向に対して相互に並列に設置される複数のスペーサ片で構成されたスペーサを用意しておく工程と、前記固定部材を通して前記発進立坑に前記函体構造物を設置するときには前記桁材を取り外し、前記固定部材を通して前記発進立坑に前記スペーサ片を設置および撤去するときには前記桁材を取り外さずに、前記スペーサを用いて前記函体構造物を推進させながら当該函体構造物を路線下に横断して設置する工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の本発明の函体構造物の推進方法は、上記請求項1に記載の発明において、前記スペーサを用意しておく工程では、複数のスペーサを用意しておき、前記函体構造物を路線下に横断して設置する工程では、前記発進立坑に複数の前記函体構造物を設置し、これら複数の前記函体構造物が所定長推進するごとに前記スペーサを1体ずつ設置する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の本発明の函体構造物の推進方法は、上記請求項1または2記載の発明において、前記桁材は、形鋼または棒鋼で構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スペーサが、桁材と干渉せずに枠体内を通過可能に分割され、前記函体構造物の推進方向に対して相互に並列に設置される複数のスペーサ片で構成されているので、函体構造物を所定長推進した後にスペーサを設置する作業を桁材を撤去せずに実行できる。これにより、スペーサの設置を効率よく行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る函体構造物の推進方法で用いられる函体構造物を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る函体構造物の推進方法で実行される推進工法の一つであるR&C工法における一部の工程を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る函体構造物の推進方法で実行される推進工法の一つであるR&C工法における
図2に続く工程を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る函体構造物の推進方法で実行される推進工法の一つであるR&C工法における
図3に続く工程を示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係る函体構造物の推進方法で実行される推進工法の一つであるR&C工法における
図4に続く工程を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑を示す平面図である。
【
図7】本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑に3体の函体構造物が設置された状態を示す平面図である。
【
図8】本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑に設置された函体構造物を推進ジャッキとスペーサで推進している状態を示す平面図である。
【
図9】
図6の発進立坑の発進坑口を示す正面図である。
【
図12】FCプレートの固定部材を構成する第1の枠材と第2の枠材を示す正面図である。
【
図13】桁材と第1の枠材および第2の枠材との締結構造を示す斜視図である。
【
図17】第1の枠材および第2の枠材に固定された締結板を示す断面図である。
【
図18】FCプレートの固定部材を構成する枠体の隅部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
本実施の形態において用いられる函体構造物は、例えば上下スラブにプレストレスを導入したPRC(Prestressed Reinforced Concrete)構造であり、
図1に示すように、矩形断面を有する中空構造となっている。そして、このような函体構造物を縦列配置して地下構造物を構築することにより、道路用暗渠、下水道、導水路、地下横断歩道などとして用いられる。
【0020】
図1において、函体構造物10は、上下方向で対向した上部スラブ10aおよび下部スラブ10bと、これら上部スラブ10aおよび下部スラブ10bの両端において横方向で対向した一対の側板10c,10dとからなる。また、前後が開口10eとして開放されている。そして、開口10eを相互に連通させながら推進して複数の函体構造物10を縦列配置することにより、地下構造物が構築される。
【0021】
図示するように、函体構造物10の四隅には、推進方向に沿って延び、隣接する函体構造物10同士をボルトとナットで定着させるための定着材挿通孔10fが貫通して形成されている。なお、図示する函体構造物10には形成されていないが、例えば3体に1体おきの割合で配置される函体構造物10には、設置後にグラウト材を注入するためのグラウトホールが形成されている。
【0022】
次に、このような函体構造物10を用いた地下構造物の構築について、
図2~
図5を用いて説明する。なお、ここでは、軌道下を横断する地下道の構築について説明する。また、本実施の形態では、推進工法の一つであるR&C工法が用いられている。
【0023】
この地下道は、軌道20の下において、当該軌道20に交差して設けられる。このような地下道を構築するには、
図2に示すように、まず、軌道20を挟んだ両側地盤に土留壁25を打ち込んで発進立坑21および到達立坑22を掘削した後、計画地下道の予定位置に発進立坑21より軌道20を横断する方向、すなわち地下道の延在方向に、断面中空矩形状の箱形ルーフ23を圧入する。なお、圧入は推進機24を用いて行われる。
【0024】
箱形ルーフ23の圧入は、函体構造物10の上部スラブ10aの配設予定位置と外面が一致して並ぶように行う。また、函体構造物10の側板10c,10dの配設予定位置にも、外面が一致して並ぶように行う。なお、多くの場合、函体構造物10は複数が縦列配置され、したがって箱形ルーフ23も函体構造物10に応じた数だけ縦列配置されることになるが、
図2~
図5においては、6体が縦列配置される場合が示されている。また、これらの図面において、図面表示の煩雑さを回避するために、函体構造物10の側板10c,10dの配設予定位置に圧入された箱形ルーフ23の図示は省略されている。
【0025】
この際、箱形ルーフ23の内部にオーガ等の掘削機(図示せず)を挿入して軌道20の地表下の地盤を掘削しながら箱形ルーフ23の後端を推進機24で押圧して到達立坑22に達するまで圧入する。このとき、掘削土砂はオーガスクリューによって箱形ルーフ23の内部を通って後方から搬出される。
【0026】
ここで、函体構造物10の上部スラブ10aの配設予定位置に圧入される箱形ルーフ23の上面にFCプレート26を載せ、当該FCプレート26の先端部のみを箱形ルーフ23の先端に溶接あるいは螺子止め等により固定する。そして、箱形ルーフ23を圧入した後は、箱形ルーフ23との固定を解除して、後述するFCプレート26の固定部材40に固定する。
【0027】
このような作業は、箱形ルーフ23を推進して函体構造物10と置き換える際に、箱形ルーフ23と地盤との間に発生する摩擦抵抗による地山の乱れや共連れをFCプレート26で防止するためである。
【0028】
このようにして発進立坑21から到達立坑22まで貫通する箱形ルーフ23の圧入を終えたならば、
図3に示すように、発進立坑21内に推進台27を設置するとともに固定部材40を構築してFCプレート26を固定し、当該推進台27の上に、刃口28を箱形ルーフ23に向けて取り付けた函体構造物10を(本実施の形態では、一度に3体の函体構造物10を)設置する。また、到達立坑22内には、函体構造物10と置き換えられて除去された箱形ルーフ23を受ける受台29を設置する。
【0029】
また、刃口28は箱形ルーフ23が圧入されていない地盤を切削するもので、後方から押圧されることによって地盤内を圧入切削し、切削土砂が刃口28の内部に取り込まれるように、前方が内側に傾斜している。
【0030】
なお、このように、本実施の形態においては、FCプレート26の固定部材40を構築した後に函体構造物10が設置されるが、固定部材40の具体的内容については後述する。
【0031】
上述のように函体構造物10を推進台27の上に載置したならば、函体構造物10の後端面と発進立坑21の後端壁面との間に支圧壁31を設け、当該支圧壁31に反力をとるように複数本の推進ジャッキ30を設置する。
【0032】
そして、予めスペーサ32を用意しておき、
図4に示すように、推進ジャッキ30を作動させ、およそ1体の函体構造物10の長さ分推進するごとに1体のスペーサ32を設置しつつ刃口28により地山を掘削しながら函体構造物10を推進させると、箱形ルーフ23は到達立坑22側に押し出される。これとともに、刃口28によって函体構造物10の両側壁側の地盤が切削され、その土砂が函体構造物10内に取り込まれるので、この土砂を排除しながら推進ジャッキ30によってさらに函体構造物10を押圧する。
【0033】
され、このとき、FCプレート26は固定部材40に固定されているので、箱形ルーフ23が到達立坑22側に移動するにも拘わらず、表層部の土砂は移動しない。
【0034】
このようにして最初に設置した3体の函体構造物10をFCプレート26に沿って推進させ、内部土砂を切削しながら到達立坑22側に先頭の箱形ルーフ23を排出して函体構造物10と置換したならば、
図5に示すように、スペーサ32(本実施の形態では、3体の函体構造物10を推進したので、3体のスペーサ32)を撤去して、先行する3体の函体構造物10の後方に、次の3体の函体構造物10を設置する。
【0035】
そして、最初の3体の函体構造物10の場合と同様にして、およそ1体の函体構造物10の長さ分推進するたびに1体のスペーサ32を設置しながらこれらの函体構造物10を推進し、次の箱形ルーフ23を到達立坑22側に排出する。これを順次繰り返すことで函体構造物10を縦列配置すれば、地下道が構築される。
【0036】
本実施の形態では、函体構造物10の長さを1mとした場合、先ず、函体構造物10を0.7m推進したならば最初のスペーサ32を設置する。そして、1m推進したならば次のスペーサ32を設置し、さらに1m推進したならばその次のスペーサ32を設置する。そして、さらに0.3m推進したならば、3体のスペーサ32を撤去し、その次の函体構造物10を3体設置し、以下、これを繰り返し行う。
【0037】
但し、このような函体構造物10の推進パターンは一例であり、本発明がこれに限定されるものではない。例えば、1体の函体構造物10を1体のスペーサ32で推進したならばそのスペーサ32を撤去し、次の1体の函体構造物10を設置するという作業を繰り返すようにしてもよい。
【0038】
なお、上記説明においては、函体構造物10を後端側から押圧する場合について述べたが、到達立坑側から鋼線を埋設して函体構造物10を引っ張る等の方法を採用してもよく、要するに函体構造物10を推進させればよい。
【0039】
次に、本発明の実施の形態においてFCプレート26を固定している固定部材40の構造および函体構造物の推進について、
図6~
図12を用いて説明する。
【0040】
図6は本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑を示す平面図、
図7は本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑に3体の函体構造物が設置された状態を示す平面図、
図8は本発明の一実施の形態であるFCプレートの固定部材が構築された発進立坑に設置された函体構造物を推進ジャッキとスペーサで推進している状態を示す平面図、
図9は
図6の発進立坑の発進坑口を示す正面図、
図10は
図6のA-A線に沿った断面図、
図11は
図6のB-B線に沿った断面図、
図12はFCプレートの固定部材を構成する第1の枠材と第2の枠材を示す正面図である。
【0041】
図6~
図11において、また前述のように、発進立坑21から到達立坑22にわたって、函体構造物10の配設予定位置と外面が一致して並ぶように複数の箱形ルーフ23が圧入されている。
【0042】
図7に示すように、発進立坑21には、一度に3体の函体構造物10が推進台27上に設置される。但し、一度に設置される函体構造物10の数は3体に限定されるものではなく、函体構造物10のサイズ、現場の状況、推進ジャッキ30の能力などといった様々な条件によって最適な設置数が決定される。そして、前述のように、推進ジャッキ30を作動させて函体構造物10の推進とスペーサ32の設置とを繰り返し、函体構造物10を縦列配置して地下道を構築する。
【0043】
図6~
図8に示すように、箱形ルーフ23の上面には、当該箱形ルーフ23の幅および全長に略等しい帯状鋼板よりなるFCプレート26が載せられている。
図9に示すように、函体構造物10の上部スラブ10aに対応する箱形ルーフ23は複数であることから、FCプレート26もこれらの箱形ルーフ23に対応して複数枚(本実施の形態では6枚)設置される。
【0044】
さて、これらの図面に示すように、FCプレート26を固定するための固定部材40は、例えばH形鋼などの鋼材で構成されており、矩形の枠体を形成する第1の枠材41、第2の枠材42、第3の枠材43および第4の枠材44と、枠体の内側において函体構造物10の推進方向に沿って配置された桁材45とで構成されている。なお、本願において「矩形」とは、長方形のみならず正方形をも含む概念である。
【0045】
第1の枠材41はFCプレート26に固定され、第1の枠材41の対向位置の第2の枠材42は支圧壁31に取り付けられ、第3の枠材43および第4の枠材44は、それぞれの両端部が第1の枠材41の端部と第2の枠材42の端部とに固定されている。また、桁材45は、その両端が第1の枠材41と第2の枠材42とに着脱可能に締結されている。
【0046】
ここで、第1の枠材41は、FCプレート26の端部の配列方向に沿って配置されており、全てのFCプレート26と溶接で固定されている。具体的には、第1の枠材41の両側の壁面とFCプレート26の表面とで形成される角部に略三角形の複数の固定板50が溶接され、これにより第1の枠材41とFCプレート26とが固定されている。なお、固定板50に加えて、あるいは固定板50に換えて、第1の枠材41とFCプレート26とを直接溶接してもよい。
【0047】
また、
図12に示すように、第1の枠材41には、H形鋼のウエブWを挟むように形成された一対のフランジFの間に掛け渡されるようにして、長手方向に延びる板状の補強材51が溶接されている。
【0048】
そして、このような構造により、函体構造物10の推進によって箱形ルーフ23とともに到達立坑22側に移動しようとするFCプレート26を規制している。
【0049】
第2の枠材42は、前述のように、第1の枠材41と対向する位置に配置されて支圧壁31に取り付けられている。ここで、支圧壁31は、縦方向に並んで配置された鋼材であるH形鋼で構成されている。そして、第2の枠材42は、支圧壁31における函体構造物10の推進方向とは反対側に配置されており、函体構造物10の推進時に支圧壁31である鋼材を押圧するように取り付けられている。
【0050】
図12に示すように、第2の枠材42にも、第1の枠材41と同様の板状の補強材51が溶接されている。また、
図10および
図11に示すように、支圧壁31には、当該支圧壁31のH形断面に嵌め込まれるようにして、補強材31aが上下に所定間隔で溶接されている。そして、このような補強構造により、函体構造物10の推進によりFCプレート26を介して伝達される推進方向への力に対抗している。
【0051】
本実施の形態において、第2の枠材42と支圧壁31との間には図示しないスペーサが着脱可能に嵌め込まれており、両者の間隔が例えば10cm程度確保されている。これは、函体構造物10の推進に伴って固定部材40自体に過大な変位が生じた場合を想定したものである。すなわち、過大な変位が発生した場合には、スペーサを撤去して生じた空隙にフラットジャッキの支圧板を挿入して当該空隙を広げるようにすれば、第2の枠材42が押し戻されて変位量を事後的に緩和することが可能になる。
【0052】
なお、第2の枠材42は、溶接やボルトなどで支圧壁31に固定してもよい。但し、本実施の形態のように、函体構造物10の推進時に支圧壁31を押圧するように、支圧壁31の函体構造物10の推進方向と反対側に配置しておけば、第2の枠材42を支圧壁31に固定するための作業が不要になるので、第2の枠材42の設置や撤去が容易になる。
【0053】
図6に示すように、第3の枠材43および第4の枠材44は、これらの両端部が第1の枠材41の端部と第2の枠材42の端部とに溶接やボルトなどで固定され、第1の枠材41と第2の枠材42とで矩形の枠体を形成している。
【0054】
また、同じ
図6に示すように、矩形の枠体と同様にH形鋼などの鋼材で構成された桁材45は、その両端部が第1の枠材41の中央部と第2の枠材42の中央部に着脱可能に締結されている。なお、桁材45には、H形鋼、I形鋼などの形鋼、PC鋼棒などの棒鋼、鋼板など、様々な鋼材を適用することができる。
【0055】
図8に示すように、スペーサ32は、桁材45と干渉せずに枠体内を通過可能な2つのスペーサ片32a,32bに分割されており、函体構造物10の推進方向に対して相互に並列に設置されるようになっている。
【0056】
そして、本実施の形態では、このように、スペーサ32がスペーサ片32a,32bに分割されているので、函体構造物10を所定長推進した後にスペーサ32を設置する作業を桁材45を撤去せずに実行できるため、スペーサ32の設置を効率よく行うことが可能になる。
【0057】
また、スペーサ32がスペーサ片32a,32bに分割されて軽量化されるので、スペーサ32を設置する際の作業者の労力の軽減を図ることができる。
【0058】
なお、スペーサ32は、桁材45と干渉せずに枠体内を通過可能になっていれば足り、本実施の形態のように2分割ではなくても、3分割以上であってもよい。
【0059】
ここで、桁材45と第1の枠材41および第2の枠材42との締結構造について、
図13~
図17を用いて説明する。
【0060】
図13は桁材と第1の枠材および第2の枠材との締結構造を示す斜視図、
図14図13の平面図、
図15は
図14のC-C線に沿った断面図、
図16は桁材の端部を示す断面図、
図17は第1の枠材および第2の枠材に固定された締結板を示す断面図である。
【0061】
図13~
図15に示すように、桁材45の端部には、ウエブWを除去した切り欠きが形成されており、当該部分に1枚の締結板45aが備えられている。この締結板45aは、鋼材からなり、ウエブWを挟むようにして縦方向に固定されている。また、第1の枠材41および第2の枠材42の中央部には、これらの桁材41,42の長手方向と直交する方向に延びた鋼材からなる3枚の締結板55が、所定の間隔を空けて縦方向に固定されている。
【0062】
ここで、
図16に示すように、桁材45の締結板45aは、相互に平行となった2枚のフランジFの略中央に固定されている。また、
図17に示すように、第1の枠材41および第2の枠材42に固定された3枚の締結板55の内、外側の2枚の締結板55は桁材45を両側から挟むことができる間隔で、内側の締結板55は外側の2枚の締結板55の中央から僅かに横にずれた位置に、それぞれ固定されている。
【0063】
これにより、
図13~
図15に示すように、桁材45の端部は、第1の枠材41および第2の枠材42に固定された締結板55に嵌め込まれた状態で面接触する。
【0064】
これらの図面に示すように、第1の枠材41および第2の枠材42に固定された締結板55と桁材45には、相互に直線上に位置する貫通孔Hがそれぞれ形成されている。そして、これらの貫通孔Hには、当該貫通孔Hを貫くようにしてクサビ材(締結部材)56が着脱可能に挿入されている。
【0065】
図13に示すように、クサビ材56は、相互に逆方向となって重ね合わされた一対で構成されている。すなわち、片方のクサビ材56を一方側から貫通孔Hに挿入した後、もう片方のクサビ材56を反対側から挿入することで、クサビ材56が隙間なく貫通孔Hに挿入されるようになっている。
【0066】
そして、このような締結構造により、第1の枠材41と桁材45とが締結され、第2の枠材42と桁材45とが締結される。
【0067】
なお、クサビ材56とクサビ材56との接触面には、フッ素樹脂加工されたシートが貼着されている。これにより、クサビ材56を貫通孔Hに挿入したり撤去するときのクサビ材56同士の摩擦抵抗が低減され、クサビ材56の挿抜作業をスムーズに行うことができる。
【0068】
なお、クサビ材56は、一対ではなく複数対であってもよい。また、貫通孔Hに挿入される締結部材はクサビ材56に限定されるものではなく、例えばピンやボルトなどでもよい。但し、ピンを用いた場合には、ピンの外径より貫通孔Hの径を若干大きくする必要があり、その遊び代分だけ固定部材40の変位を許してしまう。また、ボルトを用いた場合には、作用する軸力に対してボルトの本数が多くなってしまう。一方、クサビ材56であればこれらの問題は発生しないので望ましい。
【0069】
図6に示すように、第1~第4の枠材41~44で形成される各コーナ、および第1の枠材41および第2の枠材42に固定された外側の締結板55には、固定強度を上げるための補強材52が溶接されている。
図18において、第1の枠材41と第3の枠材43とで形成されるコーナに設けられた補強材52を示す。図示する場合には、補強材52は略三角形の形状を呈しているが、前述の固定板50を含め、形状は自由に設定することができる。
【0070】
以上説明した本実施の形態の固定部材40は、矩形の枠体を形成する鋼材である第1~第4の枠材41~44と、枠体の内側に位置する鋼材である桁材45とにより構成されているので、極めて高い剛性を備えている。
【0071】
したがって、函体構造物10の推進によって箱形ルーフ23とともに到達立坑22側に移動しようとするFCプレート26により発生した力に対して、FCプレート26の固定された第1の枠材41と、第1の枠材41によって長手方向に引っ張られる第3、第4の枠材43,44および桁材45と、これらによって3箇所から分散して短手方向に引っ張られる第2の枠材42とにより、確実に対抗することが可能になる。
【0072】
そして、固定部材40が、矩形の枠体を形成する鋼材である第1~第4の枠材41~44と、枠体の内側に位置する鋼材である桁材45とで構成されているので、固定部材40の設置が周辺地山の状態に制約されることがなくなる。また、固定部材40の構築に際して矩形の枠体以上のスペースは不要なことから、狭隘な発進立坑21においても剛性の高い固定部材40を構築できるようになり、スペース効率に優れる。
【0073】
ここで、本実施の形態の固定部材40では、桁材45が第1の枠材41と第2の枠材42とに着脱可能に締結されている。したがって、箱形ルーフ23を圧入した後の工程は次のようになる。
【0074】
すなわち、箱形ルーフ23の圧入後、桁材45を除いた部分の固定部材40を構築しておき、FCプレート26の箱形ルーフ23との固定を解除して第1の枠材41に固定する。そして、プレキャスト化された函体構造物10を発進立坑21に設置(本実施の形態では、3体設置)してから、クサビ材56を用いて桁材45を第1の枠材41と第2の枠材42とに締結する。その後、推進ジャッキ30を作動させ、およそ1体の函体構造物10の長さ分推進するたびに1体のスペーサ32を設置しつつ函体構造物10を推進させる。なお、函体構造物10を推進しているときには、固定部材40の中央に位置する桁材45が設置されているが、前述のように、スペーサ32は2つのスペーサ片32a,32bに分割されているので、桁材45と干渉せずに設置が可能になっている。
【0075】
3体の函体構造物10の推進が終わったならば、スペーサ32を撤去するとともに、クサビ材56を抜いて桁材45を撤去し、先行する3体の函体構造物10の後方に、次の3体の函体構造物10を設置する。そして、最初の3体の函体構造物10の場合と同様にして、スペーサ32を適宜設置しながらこれらの函体構造物10を推進して行き、これを順次繰り返す。
【0076】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0077】
たとえば、桁材45は、本実施の形態では1本となっているが、第1~第4の枠材41~44で形成される枠体の大きさなどに応じた本数を設定することができ、2本以上つまり複数本設置してもよい。
【0078】
また、第1の枠材41および第2の枠材42と桁材45との締結構造において、第1の枠材41および第2の枠材42に固定された締結板55は3枚である必要はなく、少なくとも1枚であれば足りる。また、桁材45に備えられた締結板45aは省略してもよい。
【0079】
さらに、桁材45の両端部は枠体を構成する第1の枠材41および第2の枠材42に着脱可能に締結されているが、着脱不能になっていてもよい。なお、この場合、プレキャスト化された函体構造物10を設置することはできないので、発進立坑21内において現場打ちで設置された函体構造物10や、分割されたプレキャスト部材を組み立てて設置された函体構造物10となる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上の説明では、本発明による函体構造物の推進方法を、推進工法の一つであるR&C工法に用いた場合が示されているが、R&C工法以外にも、例えばSFT工法やFJ工法など、様々な推進工法に用いることができる。
【符号の説明】
【0081】
10 函体構造物
10a 上部スラブ
10b 下部スラブ
10c,10d 側板
10e 開口
10f 定着材挿通孔
20 軌道
21 発進立坑
22 到達立坑
23 箱形ルーフ
24 推進機
25 土留壁
26 FCプレート
27 推進台
28 刃口
29 受台
30 推進ジャッキ
31 支圧壁
31a 補強板
32 スペーサ
32a,32b スペーサ片
40 固定部材
41 第1の枠材
42 第2の枠材
43 第3の枠材
43 第4の枠材
45 桁材
45a 締結板
50 固定板
51 補強板
52 補強板
55 締結板
56 クサビ材
F フランジ
H 貫通孔
W ウエブ