(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】合成開口レーダ信号処理装置及び合成開口レーダ信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/90 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
G01S13/90 152
G01S13/90 138
(21)【出願番号】P 2018140682
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】對馬 肩吾
(72)【発明者】
【氏名】ヨサファット テトォコ スリ スマンティヨ
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-298168(JP,A)
【文献】特開2010-175289(JP,A)
【文献】特開2006-064628(JP,A)
【文献】特表2016-509679(JP,A)
【文献】特開平10-232282(JP,A)
【文献】特開2007-114098(JP,A)
【文献】特開2010-060448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成開口レーダのレンジ圧縮用のチャープパルスを生成するチャープパルス生成部と、
前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向を照射ビームの周波数に応じてアジマス方向に変化させるアンテナ部と、
ターゲットから反射された反射信号を受信する反射信号受信部と、
を備える合成開口レーダ装置に使われる合成開口レーダ信号処理装置であって、
照射ビームの方向がアジマス方向に変化することにより、照射ビームの方向がアジマス方向に変化しないときと比べて、観測対象位置の観測可能なアジマス時間を長く設定し、
前記反射信号受信部が受信した
前記反射信号と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスの全体区間のうち、アジマス位置ごとに前記観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の相関処理を実行する
ことを特徴とする合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項2】
前記観測対象位置の観測可能なアジマス時間について、前記観測対象位置、前記合成開口レーダ装置の速度並びに照射ビームの方向変化幅及びビーム幅に基づいて設定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項3】
アジマス位置ごとに前記観測対象位置から反射されたと期待される一部区間について、チャープパルスの全時間幅、前記合成開口レーダ装置から見た前記観測対象位置の方向並びに照射ビームの方向変化幅及びビーム幅に基づいて設定する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項4】
前記反射信号と前記参照信号との間の前記相関処理を時間領域で実行する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項5】
アジマス位置ごとに中心周波数が制御されたうえで、チャープパルスが生成されることにより、照射ビームのアジマス方向がある観測領域を指向するようにされたうえで、スポットライトモードを用いて合成開口レーダ観測を行う
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項6】
アジマス位置によらない形状を有するチャープパルスが生成されることにより、ストリップモードを用いて合成開口レーダ観測を行う
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項7】
アジマス位置によらない形状を有するとともに、照射ビームのアジマス方向のスクイントが生じるような中心周波数を有するチャープパルスが生成されることにより、スクイントモードを用いて合成開口レーダ観測を行う
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の合成開口レーダ信号処理装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の合成開口レーダ信号処理装置が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるための合成開口レーダ信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高信号対雑音比及び高分解能化を両立させる合成開口レーダ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダ技術において、以下のトレードオフの解決が要求されている。第1のトレードオフとして、高信号対雑音比を実現するためには、アンテナの高利得化つまり開口長増大が必要となるが、合成開口によりアジマス分解能が低下してしまう。第2のトレードオフとして、高レンジ分解能化を実現するためには、チャープパルスの広帯域化が必要となるが、アンテナの指向特性の不完全性によって生じるビームチルトにより信号対雑音比が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6080783号明細書
【文献】特許第6072262号明細書
【文献】特許第3332000号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】N.Gebert et al.,“ULTRA WIDE SWATH IMAGING WITH MULTI-CHANNEL SCANSAR”,IGARSS 2008-2008,IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
合成開口レーダ技術において、高信号対雑音比及び高分解能化を両立させる方法が、特許文献1~3及び非特許文献1に開示されている。特許文献1~3では、ランダムな方向にチャープパルスを照射し、スポットライトモードの観測範囲を広げる。非特許文献1では、レンジ方向及びアジマス方向にチャープパルスを走査し、Scan-SAR及びTOPS-SAR等を実現する。しかし、特許文献1~3及び非特許文献1では、照射ビームの方向を意図的に変化させるためには、照射ビームの方向を制御する機械的又は電気的な機構が必要であるため、回路が複雑化しシステムが高価格化する。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、合成開口レーダ技術において、高信号対雑音比及び高分解能化を両立させつつ、照射ビームの方向を制御する機械的又は電気的な機構を不要とし、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用する。つまり、チャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向を照射ビームの周波数に応じてアジマス方向に変化させる。そして、各アジマス位置において照射されるチャープパルスの全体区間のうち、観測対象位置に向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0008】
具体的には、本開示は、合成開口レーダのレンジ圧縮用のチャープパルスを生成するチャープパルス生成部と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向を照射ビームの周波数に応じてアジマス方向に変化させるアンテナ部と、ターゲットから反射された反射信号を受信する反射信号受信部と、を備えることを特徴とする合成開口レーダ装置である。
【0009】
この構成によれば、チャープパルスを照射するにあたり、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用するため、いずれの観測対象位置についても、観測可能なアジマス時間が長くなる。よって、高信号対雑音比を実現するために、アンテナの高利得化つまり開口長増大を実行しようとしても、合成開口によりアジマス分解能を低下させないことができる。また、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向を照射ビームの周波数に応じてアジマス方向に変化させるため、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0010】
また、本開示は、前記チャープパルス生成部が、アジマス位置ごとに中心周波数を制御してチャープパルスを生成することにより、前記アンテナ部が照射する照射ビームのアジマス方向がある観測領域を指向するようにし、スポットライトモードを用いて合成開口レーダ観測を行うことを特徴とする合成開口レーダ装置である。
【0011】
この構成によれば、観測範囲が限られたスポットライトモードを用いるにあたり、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0012】
また、本開示は、前記チャープパルス生成部が、アジマス位置によらない形状を有するチャープパルスを生成することにより、照射ビームの方向をアジマス方向に変化させ、照射ビームの方向をアジマス方向に変化させないときと比べて、観測可能なアジマス時間が長くなるストリップモードを用いて合成開口レーダ観測を行うことを特徴とする合成開口レーダ装置である。
【0013】
この構成によれば、観測範囲が広くなるストリップモードを用いるにあたり、高アジマス分解能化、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0014】
また、本開示は、前記チャープパルス生成部が、アジマス位置によらない形状を有するとともに、前記アンテナ部が照射する照射ビームのアジマス方向のスクイントが生じるような中心周波数を有するチャープパルスを生成することにより、照射ビームの方向をアジマス方向に変化させ、照射ビームの方向をアジマス方向に変化させないときと比べて、観測可能なアジマス時間が長くなるスクイントモードを用いて合成開口レーダ観測を行うことを特徴とする合成開口レーダ装置である。
【0015】
この構成によれば、斜め前方又は斜め後方でのスクイントモードを用いるにあたり、高アジマス分解能化、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0016】
また、本開示は、以上に記載の合成開口レーダ装置の前記反射信号受信部が受信した反射信号と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置ごとに観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の相関処理を実行することを特徴とする合成開口レーダ信号処理装置である。
【0017】
また、本開示は、以上に記載の合成開口レーダ装置の前記反射信号受信部が受信した反射信号と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置ごとに観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の相関処理、をコンピュータに実行させるための合成開口レーダ信号処理プログラムである。
【0018】
これらの構成によれば、各アジマス位置において照射されるチャープパルスの全体区間のうち、観測対象位置に向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の時間領域又は周波数領域の相関処理において考慮する。そして、ある観測対象位置から反射された反射信号について、本開示では従来技術より、受信可能なレンジ時間は短くなるものの、受信可能なアジマス時間は長くなるため、受信可能な総時間は減少しない。よって、高レンジ分解能化を実現するために、チャープパルスの広帯域化を実行しようとしても、ビームチルトにより信号対雑音比を低下させないことができる。
【0019】
また、本開示は、前記観測対象位置から反射された反射信号と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置ごとに前記観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の時間領域における相関処理を実行することを特徴とする合成開口レーダ信号処理装置である。
【0020】
また、本開示は、前記観測対象位置から反射された反射信号と、前記チャープパルス生成部が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置ごとに前記観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の時間領域における相関処理、をコンピュータに実行させるための合成開口レーダ信号処理プログラムである。
【0021】
これらの構成によれば、各アジマス位置において照射されるチャープパルスの全体区間のうち、観測対象位置に向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の時間領域の相関処理において考慮する。そして、ある観測対象位置から反射された反射信号について、本開示では従来技術より、受信可能なレンジ時間は短くなるものの、受信可能なアジマス時間は長くなるため、受信可能な総時間は減少しない。よって、高レンジ分解能化を実現するために、チャープパルスの広帯域化を実行しようとしても、ビームチルトにより信号対雑音比を低下させないことができる。また、計算時間は長いが画像精度は高くなる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本開示は、合成開口レーダ技術において、高信号対雑音比及び高分解能化を両立させつつ、照射ビームの方向を制御する機械的又は電気的な機構を不要とし、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示のチャープパルス波形及びアンテナ指向性を示す図である。
【
図2】従来技術のスポットライトモードの構成図を示す図である。
【
図5】本開示の合成開口レーダシステムの構成を示す図である。
【
図6】本開示の合成開口レーダシステムの処理を示す図である。
【
図7】本開示のアンテナ指向性の周波数特性を示す図である。
【
図8】本開示のアンテナ指向性の周波数特性を示す図である。
【
図9】本開示のチャープ周波数の時間変化を示す図である。
【
図10】本開示のアンテナ指向性の時間変化を示す図である。
【
図11】本開示のターゲットの方向及び距離の定義を示す図である。
【
図12】本開示の反射信号が存在するアジマス時間の説明図である。
【
図13】本開示のチャープパルスがターゲットに向けて照射されるレンジ時間の説明図である。
【
図14】本開示の反射信号及び参照信号を示す図である。
【
図15】本開示の点拡張関数対ターゲットからのレンジ方向距離を示す図である。
【
図16】本開示の点拡張関数対ターゲットからのアジマス方向距離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0025】
(本開示の合成開口レーダシステムの基本原理)
本開示のチャープパルス波形及びアンテナ指向性を
図1に示す。本開示では、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用する。つまり、チャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向を照射ビームの周波数に応じてアジマス方向に変化させる。
図1の上段では、チャープパルスは、レンジ時間0≦τ≦τ
0にわたり、最小周波数f
0-B
W/2から中心周波数f
0を経て最大周波数f
0+B
W/2へと周波数を掃引する。
【0026】
図1の中段及び
図1の下段では、アンテナ部Aとして、アレイアンテナ及びスロットアンテナを適用する。アンテナ部Aの各アンテナ素子は、アジマス方向xに配列される。
【0027】
チャープパルスが、中心周波数f0を掃引するときには、アンテナ部Aの各アンテナ素子は、同相で励振され、アンテナ部Aの照射ビームは、正面方向yを指向する。チャープパルスが、最小周波数f0-BW/2を掃引するときには、アンテナ部Aの各アンテナ素子は、同相で励振されず、アンテナ部Aの照射ビームは、正面方向yからずれた方向φmin<0を指向する。チャープパルスが、最大周波数f0+BW/2を掃引するときには、アンテナ部Aの各アンテナ素子は、同相で励振されず、アンテナ部Aの照射ビームは、正面方向yからずれた方向φmax>0を指向する。このように、チャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向φを照射ビームの周波数fに応じてアジマス方向xに変化させる。
【0028】
従来技術のスポットライトモードの構成図を
図2に示す。上段では、アジマス位置xによらない形状を有するチャープパルスを生成したうえで、アンテナ駆動部13(回転接手等で接続)によって機械的に指向制御することにより、アンテナ部Aが照射する照射ビームのアジマス方向xがある観測領域を指向するようにし、スポットライトモードを用いて合成開口レーダ観測を行う。下段では、アジマス位置xによらない形状を有するチャープパルスを生成したうえで、アンテナ部Aの移相器及び分配器によって電子的に指向制御することにより、アンテナ部Aが照射する照射ビームのアジマス方向xがある観測領域を指向するようにし、スポットライトモードを用いて合成開口レーダ観測を行う。
【0029】
本開示のスポットライトモードの構成図を
図5に示す。アジマス位置xごとに中心周波数を制御してチャープパルスを生成することにより、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、アンテナ部Aが照射する照射ビームのアジマス方向xがある観測領域を指向するようにし、スポットライトモードを用いて合成開口レーダ観測を行う。なお、
図5はストリップ及びスクイントの両モードにも適用可能である。
【0030】
このように、観測範囲が限られたスポットライトモードを用いるにあたり、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0031】
本開示のストリップモードを
図3に示す。アジマス位置xによらない形状を有するチャープパルスを生成することにより、照射ビームの方向をアジマス方向xに変化させ、照射ビームの方向をアジマス方向xに変化させないときと比べて、観測可能なアジマス時間が長くなるストリップモードを用いて合成開口レーダ観測を行う。
【0032】
図3の上段では、従来技術のビームチルトがないときのストリップモードを示す。まず、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x
st、iに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0-B
W/2~f
0+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉され始めている。次に、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x
st、fに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0-B
W/2~f
0+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉範囲され終わっている。ここで、アジマス方向範囲x
st、i~x
st、fは、後述の本開示の場合より短いため、観測可能なアジマス時間は、後述の本開示の場合より短く、アジマス分解能は、後述の本開示の場合より低い。
【0033】
図3の下段では、本開示のビームチルトがあるときのストリップモードを示す。まず、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x’
st、iに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0-B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉され始めている。次に、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x’
st、fに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉範囲され終わっている。ここで、アジマス方向位置x’
st、iは、アジマス方向位置x
st、iより後方にあり、アジマス方向位置x’
st、fは、アジマス方向位置x
st、fより前方にある。よって、アジマス方向範囲x’
st、i~x’
st、fは、従来技術より長いため、観測可能なアジマス時間は、従来技術より長く、アジマス分解能は、従来技術より高い。
【0034】
このように、観測範囲が広くなるストリップモードを用いるにあたり、高アジマス分解能化、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0035】
本開示のスクイントモードを
図4に示す。アジマス位置xによらない形状を有するとともに、アンテナ部Aが照射する照射ビームのアジマス方向xのスクイントが生じるような中心周波数を有するチャープパルスを生成することにより、照射ビームの方向をアジマス方向xに変化させ、照射ビームの方向をアジマス方向xに変化させないときと比べて、観測可能なアジマス時間が長くなるスクイントモードを用いて合成開口レーダ観測を行う。
【0036】
ここで、斜め前方でのスクイントモードを用いるときには、中心周波数を
図1、3でのf
0から
図4でのf
0’(ただし、
図4の場合では、f
0’<f
0)へとシフトさせる。一方で、斜め後方でのスクイントモードを用いるときには、中心周波数を
図1、3でのf
0から
図4でのf
0’(ただし、
図4の場合では、f
0’>f
0)へとシフトさせる。
【0037】
図4の上段では、従来技術のビームチルトがないときのスクイントモードを示す。まず、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x
sq、iに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0’-B
W/2~f
0’+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉され始めている。次に、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x
sq、fに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0’-B
W/2~f
0’+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉範囲され終わっている。ここで、アジマス方向範囲x
sq、i~x
sq、fは、後述の本開示の場合より短いため、観測可能なアジマス時間は、後述の本開示の場合より短く、アジマス分解能は、後述の本開示の場合より低い。
【0038】
図4の下段では、本開示のビームチルトがあるときのスクイントモードを示す。まず、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x’
sq、iに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0’-B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉され始めている。次に、合成開口レーダシステムSが、アジマス方向位置x’
sq、fに位置するとともに、チャープパルスが、周波数f
0’+B
W/2を掃引するときには、ターゲットTは、捕捉範囲され終わっている。ここで、アジマス方向位置x’
sq、iは、アジマス方向位置x
sq、iより後方にあり、アジマス方向位置x’
sq、fは、アジマス方向位置x
sq、fより前方にある。よって、アジマス方向範囲x’
sq、i~x’
sq、fは、従来技術より長いため、観測可能なアジマス時間は、従来技術より長く、アジマス分解能は、従来技術より高い。
【0039】
このように、斜め前方又は斜め後方でのスクイントモードを用いるにあたり、高アジマス分解能化、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0040】
(本開示の合成開口レーダシステムの構成及び処理)
本開示の合成開口レーダシステムの構成を
図5に示す。本開示の合成開口レーダシステムの処理を
図6に示す。合成開口レーダシステムSは、合成開口レーダ装置1及び合成開口レーダ信号処理装置2から構成される。合成開口レーダ装置1は、チャープパルス生成部11、アンテナ部A及び反射信号受信部12から構成され、人工衛星又は航空機等に搭載される。合成開口レーダ信号処理装置2は、相関処理実行部21から構成され、人工衛星、航空機又は地上設備等に搭載され、
図6の下欄に示した合成開口レーダ信号処理プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現される。
【0041】
まず、合成開口レーダ装置1は、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用する。つまり、合成開口レーダ装置1は、チャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向φを照射ビームの周波数fに応じてアジマス方向xに変化させる。
【0042】
チャープパルス生成部11は、合成開口レーダのレンジ圧縮用のチャープパルスを生成する(ステップS1)。アンテナ部Aは、合成開口レーダのレンジ圧縮用のチャープパルスを照射するにあたり、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向φを照射ビームの周波数fに応じてアジマス方向xに変化させる(ステップS2)。反射信号受信部12は、ターゲットTから反射された反射信号をアンテナ部Aにより受信する(ステップS3)。
図7~10を用いて、合成開口レーダ装置1について説明する。
図7~10は、ストリップモードについて適用されるが、中心周波数を変更すれば、スポットライト及びスクイントの両モードについて適用可能である。
【0043】
本開示のアンテナ指向性の周波数特性を
図7、8に示す。照射ビームの方向φは、照射ビームの周波数fに対して、数式1のように表される。ただし、a>0である。なお、a<0であってもよく、アンテナ指向性の周波数特性は、必ずしも原点(f-f
0=0、φ=0)を通らなくてもよく、必ずしも直線的な周波数特性でなくてもよい。
【数1】
【0044】
チャープパルスが、周波数f0-BW/2~f0を掃引するときには、アンテナ部Aの照射ビームは、正面方向yからずれた方向φ<0を指向する。チャープパルスが、周波数f0~f0+BW/2を掃引するときには、アンテナ部Aの照射ビームは、正面方向yからずれた方向φ>0を指向する。アンテナ部Aの照射ビーム半幅は、ηであるとし、アンテナ部Aの照射ビーム強度は、アンテナ部Aの照射ビーム幅内で一様であるとする。なお、アンテナ部Aの照射ビーム強度は、簡単のために、アンテナ部Aの照射ビーム幅内で一様であるとしているが、実際のように、アンテナ部Aの照射ビーム幅内で一様でないとしてもよい。
【0045】
本開示のチャープ周波数の時間変化を
図9に示す。チャープパルスの周波数fは、レンジ時間τに対して、数式2のように表される。なお、チャープ周波数の時間変化は、右肩上がりでもよく右肩下がりでもよく、必ずしも直線的な時間変化でなくてもよい。
【数2】
【0046】
本開示のアンテナ指向性の時間変化を
図10に示す。照射ビームの方向φは、レンジ時間τに対して、数式3のように表される。なお、アンテナ指向性の時間変化は、右肩上がりでもよく右肩下がりでもよく、必ずしも直線的な時間変化でなくてもよい。
【数3】
【0047】
次に、合成開口レーダ信号処理装置2は、各アジマス時間tにおいて照射されるチャープパルスの全体区間のうち、観測対象位置に向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0048】
相関処理実行部21は、反射信号と参照信号との間の相関処理を実行する(ステップS11)。
図11~14を用いて、合成開口レーダ信号処理装置2について説明する。
図11~14は、ストリップモードについて適用されるが、中心周波数を変更すれば、スポットライト及びスクイントの両モードについて適用可能である。
【0049】
具体的には、相関処理実行部21は、反射信号受信部12が受信した反射信号と、チャープパルス生成部11が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置xごとに観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の相関処理を実行する。
【0050】
本実施形態では、相関処理実行部21は、観測対象位置から反射された反射信号と、チャープパルス生成部11が生成したチャープパルスのうち、アジマス位置xごとに観測対象位置から反射されたと期待される一部区間のみを選択した参照信号と、の間の時間領域における相関処理を実行する。つまり、本実施形態では、相関処理実行部21が、反射信号と参照信号との間の時間領域の相関処理を実行することにより、計算時間は長いが画像精度は高くなる。ここで、変形例として、相関処理実行部21が、反射信号と参照信号との間の周波数領域の相関処理を実行することにより、計算時間を大幅に短縮してもよい。
【0051】
本開示のターゲットの方向及び距離の定義を
図11に示す。合成開口レーダシステムSの位置を(x(t)、0)とし、ターゲットTの位置を(X、Y)とする。合成開口レーダシステムSのアジマス方向位置x(t)、合成開口レーダシステムSから見たターゲットTの方向θ(t)及び合成開口レーダシステムSからターゲットTまでの距離R(t)は、数式4のように表される。ただし、vは、合成開口レーダシステムSの速度である。
【数4】
【0052】
本開示の反射信号が存在するアジマス時間の説明図を
図12に示す。各アジマス時間tで観測可能なターゲットTの存在範囲は、数式5のように表される。
【数5】
つまり、合成開口レーダシステムSから見たターゲットTの方向θ(t)が、以下の条件を満たせばよい:(1)アンテナ部Aの照射ビームが方向φ
min=-aB
W/2を指向するときの、アンテナ部Aの照射ビームの外縁の方向φ=φ
min-η=-aB
W/2-ηと比べて、方向θ(t)がレンジ方向y寄りであること、(2)アンテナ部Aの照射ビームが方向φ
max=+aB
W/2を指向するときの、アンテナ部Aの照射ビームの外縁の方向φ=φ
max+η=+aB
W/2+ηと比べて、方向θ(t)がレンジ方向y寄りであること。
【0053】
数式5に数式4の第2式を代入すると、ターゲットTからの反射信号が存在するアジマス時間tは、数式6のように表される。ここで、数式6の左辺は、
図14のアジマス時間t
iに対応し、数式6の右辺は、
図14のアジマス時間t
fに対応する。
【数6】
【0054】
このように、チャープパルスを照射するにあたり、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用するため、いずれの観測対象位置についても、観測可能なアジマス時間tが長くなる。よって、高信号対雑音比を実現するために、アンテナの高利得化つまり開口長増大を実行しようとしても、合成開口によりアジマス分解能を低下させないことができる。また、機械的及び電子的な指向制御を行なわず元来備わっている指向特性に従って、照射ビームの方向φを照射ビームの周波数fに応じてアジマス方向xに変化させるため、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【0055】
本開示のチャープパルスがターゲットTに向けて照射されるレンジ時間の説明図を
図13に示す。各アジマス時間tでターゲットTを観測可能なレンジ時間τは、数式7のように表される。
【数7】
つまり、合成開口レーダシステムSから見たターゲットTの方向θ(t)が、以下の条件を満たせばよい:(1)アンテナ部Aの照射ビームが周波数fのチャープの過程でターゲットTに向き始めるときの、アンテナ部Aの照射ビームの外縁の方向φ(τ
i(t))+ηと比べて、方向θ(t)が同じである、又は、方向θ(t)がφ(0)-ηとφ(0)+ηとの間にあること、(2)アンテナ部Aの照射ビームが周波数fのチャープの過程でターゲットTに向き終わるときの、アンテナ部Aの照射ビームの外縁の方向φ(τ
f(t))-ηと比べて、方向θ(t)が同じである、又は、方向θ(t)がφ(τ
0)-ηとφ(τ
0)+ηとの間にあること。
【0056】
数式7に数式3を代入すると、ターゲットTからの反射信号が存在するレンジ時間τは、数式8のように表される。ここで、数式8の左辺は、
図13、14のレンジ時間τ
i(t)に対応し、数式8の右辺は、
図13、14のレンジ時間τ
f(t)に対応する。
【数8】
【0057】
本開示の反射信号及び参照信号を
図14に示す。ターゲットTから反射された反射信号F(t、τ)は、数式9のように表される。そして、反射信号F(t、τ)との相関処理を実行される参照信号は、反射信号F(t、τ)の下記理論式に基づいて定められる。
【数9】
【0058】
ただし、反射信号F(t、τ)のアジマス時間tの値域は、数式6に基づいて、数式10のように表される。そして、反射信号F(t、τ)のレンジ時間τの値域は、数式8及び電磁波伝搬の遅延時間に基づいて、数式11のように表される。
【数10】
【数11】
ここで、ビームチルトがない場合とビームチルトがある場合とを比較する。
【0059】
まず、ビームチルトがない場合では、各アジマス時間tにおいて照射されるチャープパルスの全体区間のうち、ターゲットTに向けて照射されるチャープパルスの全体区間にわたり、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0060】
具体的には、アンテナ部Aの照射ビームがターゲットTに向き始める/終わるアジマス時間ti/tfでは、レンジ時間範囲τif≦τ≦τif+τ0(ただし、τifは、電磁波伝搬の遅延時間である。)のうち、全てのレンジ時間範囲τif≦τ≦τif+τ0にわたり、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。そして、合成開口レーダシステムSがターゲットTに最も近づくアジマス時間tcでは、レンジ時間範囲τc≦τ≦τc+τ0(ただし、τcは、電磁波伝搬の遅延時間である。)のうち、全てのレンジ時間範囲τc≦τ≦τc+τ0にわたり、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0061】
なお、
図14において、ビームチルトがない場合に反射信号が存在するアジマス時間幅と、ビームチルトがある場合に反射信号が存在するアジマス時間幅と、は同じ長さであるように表示しているが、実際には、ビームチルトがない場合に反射信号が存在するアジマス時間幅は、ビームチルトがある場合に反射信号が存在するアジマス時間幅よりも短く、
図14のように表したときの反射信号の面積は、ビームチルトがない場合と、ビームチルトがある場合と、で比較して、ビームチルトがない場合の方が大きいということはない。
【0062】
一方、ビームチルトがある場合では、各アジマス時間tにおいて照射されるチャープパルスの全体区間のうち、ターゲットTに向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0063】
具体的には、アンテナ部Aの照射ビームがターゲットTに向き始めるアジマス時間t
iでは、レンジ時間範囲τ
if≦τ≦τ
if+τ
0のうち、一部のレンジ時間範囲max{τ
i(t
i)、τ
if}≦τ≦min{τ
f(t
i)、τ
if+τ
0}(
図13及び数式8、11を参照。)のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。そして、合成開口レーダシステムSがターゲットTに最も近づくアジマス時間t
cでは、レンジ時間範囲τ
c≦τ≦τ
c+τ
0のうち、一部のレンジ時間範囲max{τ
i(t
c)、τ
c}≦τ≦min{τ
f(t
c)、τ
c+τ
0}(
図13及び数式8、11を参照。)のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。さらに、アンテナ部Aの照射ビームがターゲットTに向き終わるアジマス時間t
fでは、レンジ時間範囲τ
if≦τ≦τ
if+τ
0のうち、一部のレンジ時間範囲max{τ
i(t
f)、τ
if}≦τ≦min{τ
f(t
f)、τ
if+τ
0}(
図13及び数式8、11を参照。)のみを、反射信号と参照信号との間の相関処理において考慮する。
【0064】
このように、各アジマス時間tにおいて照射されるチャープパルスの全体区間のうち、ターゲットTに向けて照射されるチャープパルスの一部区間のみを、反射信号と参照信号との間の時間領域又は周波数領域の相関処理において考慮する。そして、ターゲットTから反射された反射信号について、本開示では従来技術より、受信可能なレンジ時間τは短くなるものの、受信可能なアジマス時間tは長くなるため、受信可能な総時間は減少しない。よって、高レンジ分解能化を実現するために、チャープパルスの広帯域化を実行しようとしても、ビームチルトにより信号対雑音比を低下させないことができる。
【0065】
(本開示の合成開口レーダシステムの分解能評価)
まず、反射信号と参照信号との間の相関処理について説明する。あるターゲットP:(X、Y)から反射された反射信号をF
(X、Y)(t、τ)とし、他のターゲットP’:(X’、Y’)から反射された反射信号をF
(X’、Y’)(t、τ)とする。反射信号F
(X、Y)(t、τ)と反射信号F
(X’、Y’)(t、τ)との間の相関Sは、数式12のように表される。
【数12】
相関Sは、P:(X、Y)とP’:(X’、Y’)とが近ければ、大きな値をとると期待され、P:(X、Y)とP’:(X’、Y’)とが遠ければ、小さな値をとると期待される。
【0066】
以上の原理を利用して、反射信号と参照信号との間の相関処理が実行される。複数のターゲットP
1:(X
1、Y
1)、P
2:(X
2、Y
2)、・・・、P
n:(X
n、Y
n)から反射された反射信号を数式13のように個々の反射信号の和として表し、観測対象位置P:(X、Y)から反射されたと期待される参照信号をF
(X、Y)(t、τ)とする。反射信号R(t、τ)と参照信号F
(X、Y)(t、τ)との間の相関Sは、数式14のように表される。
【数13】
【数14】
相関Sは、P
1、P
2、・・・、P
nの中にPにごく近い点があれば、大きな値をとると期待され、P
1、P
2、・・・、P
nの中にPにごく近い点がなければ、小さな値をとると期待される。そこで、観測対象位置P:(X、Y)におけるターゲットの有無を画像化するために、観測対象位置P:(X、Y)が関わる相関Sの大きさを画像の階調数に対応付ける。
【0067】
次に、合成開口レーダシステムの分解能評価について説明する。以上の相関処理では、P:(X、Y)とP’:(X’、Y’)とが関わる相関Sが、P:(X、Y)とP’:(X’、Y’)とが離れるに従って、急速に小さくなることを前提としている。そこで、相関Sが急速に小さくなる程度、つまり、合成開口レーダシステムSの分解能を評価する。
【0068】
ターゲット(0、Y)から反射された反射信号を数式15のように表し、観測対象位置(ΔX、Y+ΔY)から反射されたと期待される参照信号を数式16のように表す。
【数15】
【数16】
なお、ターゲットのアジマス方向位置を0としたが、一般性は失われない。ターゲットのアジマス方向位置をXとすれば、アジマス時間tをX/vだけシフトすればよい。
【0069】
反射信号F(t、τ)と参照信号G(t、τ)との間の相関Sは、数式17のように表される。ここで、ΔR(t)、R(t)及びR’(t)は、数式18のように表される。なお、数式17に示した相関Sは、
図15、16に示す点拡張関数に対応する。
【数17】
【数18】
【0070】
反射信号F(t、τ)と参照信号G(t、τ)との間の相関Sは、数式19のように計算される。ただし、A(t)及びB(t)は、数式20、21のように表される。そして、数式19のアジマス時間tの積分範囲は、B(t)>A(t)を満たすアジマス時間tにわたる。さらに、θ(t)及びθ’(t)は、数式22のように表される。
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【0071】
本開示の点拡張関数対ターゲットからのレンジ方向距離を
図15に示す。本開示の点拡張関数対ターゲットからのアジマス方向距離を
図16に示す。点拡張関数を計算するにあたり、中心周波数f
0を9.25GHzとし、チャープパルス周波数幅B
Wを800MHzとし、チャープパルス時間幅τ
0を1.0μsとし、ビーム幅2ηを1.5degとし、ビームチルトの変化速度を1.0deg/100MHzとし、合成開口レーダシステムSの速度vを100m/sとし、ターゲットTのレンジ方向距離を15.0kmとする。
【0072】
図15を参照すると、従来技術のビームチルトがない場合と比べて、本開示のビームチルトがある場合では、同程度のレンジ分解能が得られていることが分かる。つまり、従来技術のビームチルトがない場合と比べて、本開示のビームチルトがある場合では、ターゲットTからの反射信号が存在するレンジ時間τが減少するため、ターゲットTからの反射信号の周波数帯域が減少するものの、ターゲットTからの反射信号が存在するアジマス時間tが増加するため、ターゲットTからの反射信号が存在する総時間が減少することなく、同程度のレンジ分解能が得られる。そして、反射信号と参照信号との間の相関処理において、各アジマス時間tにおいて照射されるチャープパルスのうち、チャープパルス時間幅τ
0の全部を考慮する場合と比べて、ターゲットTに向けて照射される一部を考慮する場合では、高信号対雑音比を実現することができる。
【0073】
図16を参照すると、従来技術のビームチルトがない場合と比べて、本開示のビームチルトがある場合では、より高いアジマス分解能が得られていることが分かる。つまり、従来技術のビームチルトがない場合と比べて、本開示のビームチルトがある場合では、チャープパルスを照射するにあたり、アンテナの指向特性によって生じるビームチルトを積極的に利用するため、いずれの観測対象位置についても、観測可能なアジマス時間tが長くなる。よって、高信号対雑音比を実現するために、アンテナの高利得化つまり開口長増大を実行しようとしても、合成開口によりアジマス分解能を低下させないことができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本開示の合成開口レーダ装置、合成開口レーダ信号処理装置及び合成開口レーダ信号処理プログラムは、合成開口レーダ技術において、高信号対雑音比及び高分解能化を両立させつつ、照射ビームの方向を制御する機械的又は電気的な機構を不要とし、回路の簡素化及びシステムの低価格化を実現することができる。
【符号の説明】
【0075】
S:合成開口レーダシステム
A:アンテナ部
T:ターゲット
1:合成開口レーダ装置
2:合成開口レーダ信号処理装置
11:チャープパルス生成部
12:反射信号受信部
13:アンテナ駆動部
21:相関処理実行部