IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村澤 哲の特許一覧

<>
  • 特許-品質管理用ファントム 図1
  • 特許-品質管理用ファントム 図2
  • 特許-品質管理用ファントム 図3
  • 特許-品質管理用ファントム 図4
  • 特許-品質管理用ファントム 図5
  • 特許-品質管理用ファントム 図6
  • 特許-品質管理用ファントム 図7
  • 特許-品質管理用ファントム 図8
  • 特許-品質管理用ファントム 図9
  • 特許-品質管理用ファントム 図10
  • 特許-品質管理用ファントム 図11
  • 特許-品質管理用ファントム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】品質管理用ファントム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221018BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A61N5/10 Z
A61B6/00 390A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019059977
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020156802
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2019-11-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成30年4月25日、村澤哲が、愛知県がんセンター中央病院(愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1)放射線治療部の担当者に第1構想図面を配布した。 2.平成30年4月28日、村澤哲が、名古屋大学医学部附属病院(愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65)医療技術部放射線部門の担当者に第1構想図面を提示した。 3.平成30年6月19日~現在、村澤哲が、愛知県がんセンター中央病院(愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1)放射線治療部の担当者に機能確認用試作品を貸与した。 4.平成30年7月13日、村澤哲が、愛知県がんセンター中央病院(愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1)放射線治療部の担当者に第2構想図面を配布した。 5.平成30年7月14日、村澤哲が、名古屋大学医学部附属病院(愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65)医療技術部放射線部門の担当者に第2構想図面を提示した。 6.平成30年11月1日~平成30年12月3日、村澤哲が、名古屋大学医学部附属病院(愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65)医療技術部放射線部門の担当者に評価用として第1製品試作品を貸与した。 7.平成30年12月12日~平成31年2月6日、村澤哲が、愛知県がんセンター中央病院(愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1)放射線治療部の担当者に評価用として第1製品試作品を貸与した。 8.平成30年12月14日、村澤哲が、社会医療法人 財団新和会八千代病院(愛知県安城市住吉町2-2-7)放射線治療センターの担当者に第3構想図面を提示した。 9.平成31年1月28日、村澤哲が、株式会社日立製作所 ヘルスケア中部・北陸支店(愛知県名古屋市中区栄3-10-22東朋ビル)担当者宛、及び、株式会社カナデン 中部支店(愛知県名古屋市中村区名駅南1-19-1) 電子システム部 メディカル課 担当者宛に入札用の簡易カタログを送付した。 10.平成31年3月11日、村澤哲が、愛知県がんセンター中央病院(愛知県名古屋市千種区鹿子殿1-1)放射線治療部の担当者に、第2製品試作品を提示した。 11.平成31年3月11日、村澤哲が、フジデノロ株式会社 本社・R&Dセンター(愛知県小牧市多気南町361-1)の担当者に、第2製品試作品を提示した。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519108637
【氏名又は名称】村澤 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100199819
【弁理士】
【氏名又は名称】大行 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】村澤 哲
(72)【発明者】
【氏名】西谷 数春
(72)【発明者】
【氏名】穴井 重男
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-042206(JP,A)
【文献】米国特許第05467193(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102008026607(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0202463(US,A1)
【文献】特開2016-221156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0296179(US,A1)
【文献】特開2017-060551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する第1~第3のラインレーザ投射線を投射するラインレーザ照準器を有する放射線治療システムの品質管理に使用される品質管理用ファントムであって、
前記第1~第3のラインレーザ投射線のそれぞれに対応させた近側判定部及び当該近側判定部に対し空間を隔てて離間する遠側判定部を複数組備え、
前記近側判定部は、それぞれ、対応する前記ラインレーザ照準器によって投射される前記ラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標としての近側基準指標を有し、
前記遠側判定部は、それぞれ、対応する前記ラインレーザ照準器によって投射される前記ラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標としての遠側基準指標を有し、
前記近側判定部側から前記遠側判定部側を見て、前記近側基準指標と前記遠側基準指標とが各組に対応した仮想の基準軸線に重なるとともに、前記近側判定部側から前記遠側判定部側を前記ラインレーザ照準器によって照射されるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの角度方向に見て、前記遠側基準指標の一部が前記近側判定部の遮光領域に重ならず、
前記放射線治療システムの品質管理での使用状態に設置した場合において、正しい照射位置から正しい照射方向に照射された前記第1~第3のラインレーザ投射線の交点となるべき仮想空間地点を仮想の原点とした際に、前記第1~第3のラインレーザ投射線のそれぞれに対応させた前記近側判定部が前記仮想の原点よりも対応する当該ラインレーザ投射線の照射元側に位置し、前記第1~第3のラインレーザ投射線のそれぞれに対応させた前記遠側判定部が前記仮想の原点よりも対応する前記ラインレーザ投射線の照射先側に位置するよう、当該近側判定部及び当該遠側判定部が構成されている、ことを特徴とする品質管理用ファントム。
【請求項2】
前記複数組のうちの少なくとも一組において、
前記近側判定部のうちの前記少なくとも一組を構成する近側判定部を含む近側プレートと、
前記遠側判定部のうちの前記少なくとも一組を構成する遠側判定部を含み前記近側プレートと離間する遠側プレートと、を備え、
前記近側プレートは、前記近側基準指標のうちの前記少なくとも一組を構成する近側基準指標の全部又は一部として貫通スリットを有することを特徴とする請求項1に記載用品質管理用ファントム。
【請求項3】
前記近側プレートの貫通スリットは、前記ラインレーザ投射線の幅よりも幅が狭い幅狭部分と、前記ラインレーザ投射線の幅よりも幅が広い幅広部分と、を有することを特徴とする請求項2に記載の品質管理用ファントム。
【請求項4】
前記近側プレートと前記遠側プレートとは、その間を空間にして平行に配置されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の品質管理用ファントム。
【請求項5】
前記近側プレート及び前記遠側プレートは、樹脂板材であることを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の品質管理用ファントム。
【請求項6】
前記近側プレート又は前記遠側プレートには、前記放射線治療システムの放射線照射野の大きさがわかるようなパターンを有する重金属の照射野指標が埋め込まれていることを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載の品質管理用ファントム。
【請求項7】
前記近側プレートと前記遠側プレートとの間に、周囲とは比重の異なる放射線撮像用オブジェクトをさらに備えることを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載の品質管理用ファントム。
【請求項8】
前記放射線撮像用オブジェクトは、前記近側判定部側から前記遠側判定部側を見て、重心位置が前記仮想の基準軸線に重なるように取り付けられていることを特徴とする請求項7に記載の品質管理用ファントム。
【請求項9】
前記放射線撮像用オブジェクトは、取り外し可能に取り付けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載の品質管理用ファントム。
【請求項10】
前記放射線撮像用オブジェクトを移動可能に直接的又は間接的に支持するとともに移動量を把握可能な移動機構をさらに備えることを特徴とする請求項7~9のいずれか一項に記載の品質管理用ファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインレーザ照準器を有する放射線治療システムの品質管理に用いられる品質管理用ファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療現場において放射線を照射して治療する放射線治療装置を含む放射線治療システムが用いられている。放射線治療装置の一例として、がんの治療においてX線や電子線といった放射線を腫瘍部分にピンポイントで照射する「LINAC」(直線加速器)やX線を照射することで人体の輪切り画像を取得可能な「CT装置」(コンピュータ断層撮影装置)が知られている。なお、本明細書において「治療装置」とは、LINACのように直接的に患部を治療するための装置だけでなく、CT装置のように撮像診断するための装置も含む。
【0003】
放射線を位置精度良く照射する必要がある放射線治療システムは、放射線が不可視であるため、可視マーカとしてラインレーザを照射するラインレーザ照準器を有するものがある。このような放射線治療システムにおいて、可視のラインレーザにより規定される空間座標系に対し、治療用に照射する不可視の放射線のアイソセンタ位置を整合させることが重要である。このため、放射線治療システムにおいて、ラインレーザ照準器が照射するラインレーザの照射位置及び照射向きを高精度で調整しておくことは、品質管理上において不可欠である。そこで、ラインレーザの投射ターゲットとなる品質管理用ファントムが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1で開示されているような従来の品質管理用ファントム(変位測定用ファントム)は、内部にオブジェクト(X線吸収体)を保持する立方体形状や直方体形状のブロック体(組み合わされた4本の保持棒部)を有している。このブロック体にはラインレーザ照準器側を向く一面に、ラインレーザ照準器によって投射されるラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標(位置決め用レーザ光吸収体)が形成されている。ラインレーザ照準器によって投射されるラインレーザ投射線をこの指標に重ね合わせるように調整することによって、ラインレーザ照準器が照射するラインレーザの照射位置及び照射向きを調整することができる。なお、特許文献1で開示されている品質管理用ファントムには、互いに直交する第1のラインレーザ投射線、第2のラインレーザ投射線、及び第3のラインレーザ投射線を投射する複数のラインレーザ照準器を調整できるようにするために、少なくとも互いに直交する3面において調整基準指標が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-046709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の品質管理用ファントムでは、ラインレーザの照射方向を軸とする回転方向への傾き(以下「ロール傾き」と記載する。)については把握できるものの、調整基準指標が形成されている面に対して直交する方向からラインレーザが照射されてきたのか否かについては把握することができなかった。換言すると、従来の品質管理用ファントムでは、一面に投射されたラインレーザ投射線を確認するため、ラインレーザの照射向きにおけるチルト方向(ラインレーザ投射線が延びる方向を軸とする回転方向)への傾き(以下「チルト傾き」と記載する。)を直接把握することができなかった。このため、従来の品質管理用ファントムを用いてのラインレーザ照準器の調整では、ラインレーザのチルト傾きを精度よく調整できないという問題があった。また、従来の品質管理用ファントムを用いてのラインレーザ照準器の調整では、ラインレーザのチルト傾きが誤ったまま調整している場合には、ラインレーザの照射位置も精度よく調整できていないという問題があった。具体的には、従来の品質管理用ファントムを用いての調整作業では、ラインレーザ照準器から見て、指標が形成されている面の位置が放射線のアイソセンタの位置(オブジェクトの重心位置)よりも手前にあることもあって、仮にラインレーザがチルト方向に傾いて照射されていた場合には、ラインレーザから規定される空間座標系における放射線のアイソセンタ位置と実際の放射線のアイソセンタ位置とのずれが大きくなってしまう場合あった。
【0007】
このような問題に鑑み、本発明は、ラインレーザ照準器によるラインレーザの照射位置及び照射向きをさらに高精度で調整するための品質管理用ファントムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明に係る品質管理用ファントムは、ラインレーザ照準器を有する放射線治療システムの品質管理に用いられる品質管理用ファントムであって、ラインレーザ照準器によって投射されるラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標としての近側基準指標を有する近側判定部と、当該近側判定部と離間するとともに、ラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標としての遠側基準指標を有する遠側判定部と、を備え、近側判定部側から遠側判定部側を見て、近側基準指標と遠側基準指標とが仮想の基準軸線に重なるとともに、近側判定部側から遠側判定部側をラインレーザ照準器によって照射されるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの角度方向に見て、遠側基準指標の一部が近側判定部の遮光領域に重ならないことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側判定部及び遠側判定部を備え、近側判定部と遠側判定部とは離間している。近側判定部及び遠側判定部は、それぞれ、ラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標としての近側基準指標及び遠側基準指標を有する。この品質管理用ファントムは、近側判定部側から遠側判定部側をラインレーザ照準器によって照射されるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの角度方向に見て、遠側基準指標の一部が近側判定部の遮光領域に重ならないため、ラインレーザの一部が近側判定部の遮光領域にけられず遠側基準指標の一部に投射されるよう構成されている。さらに、この品質管理用ファントムは、近側判定部側から遠側判定部側を見て、近側基準指標と遠側基準指標とが仮想の基準軸線に重なるため、チルト傾きがほとんどなく照射されたラインレーザのラインレーザ投射線のみ近側基準指標と遠側基準指標との両方に重なるように構成されている。つまり、本発明に係る品質管理用ファントムによれば、ラインレーザ照準器の品質管理に用いられた際、ラインレーザ照準器が照射するラインレーザの照射位置及び照射向きを所望の状態に調整できたときだけ、ラインレーザ投射線を近側基準指標と遠側基準指標との両方に重ね合わせることができる。
【0010】
その結果、本発明に係る品質管理用ファントムは、ラインレーザ照準器によるラインレーザの照射位置及び照射向きをさらに高精度で調整するための品質管理用ファントムとなる。
【0011】
[2]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側判定部を含む近側プレートと、遠側判定部を含み近側プレートと離間する遠側プレートと、を備え、近側プレートは、近側基準指標の全部又は一部として貫通スリットを有することが好ましい。
【0012】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、近側プレートは、近側基準指標の全部又は一部として貫通スリットを有するため、近側基準指標上を投射されるラインレーザの一部を遠側プレートまで導くことができる。
【0013】
[3]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側プレートの貫通スリットは、ラインレーザ投射線の幅よりも幅が狭い幅狭部分と、ラインレーザ投射線の幅よりも幅が広い幅広部分と、を有することが好ましい。
【0014】
このように構成された品質管理用ファントムにおいては、近側プレートの貫通スリットは、幅狭部分と幅広部分とを有するため、遠側判定部のラインレーザ投射線は、一部貫通スリットの幅狭部分両脇の遮光領域によってけられ、幅が狭い部分と広い部分とを有するようになる。このとき、ラインレーザが僅かでもチルト傾きをもっていると、遠側判定部では幅が広い部分の幅中心位置と狭い部分の幅中心位置とがずれるため、このように構成された品質管理用ファントムによれば、遠側判定部においてラインレーザのチルト傾きを精度よく把握することができる。
【0015】
[4]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側プレートと遠側プレートとは、その間を空間にして平行に配置されていることが好ましい。
【0016】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、近側判定部を通過したラインレーザが遠側判定部に到達するまでに屈折により曲がることがないため、精度よくラインレーザの照射位置及び照射向きを把握することができる。なお、放射線を用いてオブジェクトの外形を撮像する場合、そのオブジェクトと周囲との比重差があった方が明瞭な画像が得られる。このように構成された品質管理用ファントムにおいては、近側プレートと遠側プレートとの間が空間になっているため、両プレート間に放射線撮像用オブジェクトを配置しようとした際に、この放射線撮像用オブジェクトとその周囲との比重差を大きくしやすい。これにより、このように構成された品質管理用ファントムによれば、両壁間に配置可能な放射線撮像用オブジェクトの材質選択肢を広げることが可能である。
【0017】
[5]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側プレート及び遠側プレートは、樹脂板材であってもよい。
【0018】
樹脂板材は、低エネルギーレベルのX線でも透過可能であることから、低エネルギーレベルのX線撮像装置にも用いることが可能なX品質管理用ファントムを構成することができる。
【0019】
[6]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側判定部又は遠側判定部には、放射線治療システムの放射線照射野に対応させて、重金属の照射野指標が埋め込まれていてもよい。
【0020】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、放射線の吸収能が高い重金属(例えば、タングステン)の照射野指標が埋め込まれているため、放射線を用いて照射野指標を撮像し、放射線治療システムの放射線照射野を確認することができる。
【0021】
[7]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、互いに直交する第1のラインレーザ投射線、第2のラインレーザ投射線、及び第3のラインレーザ投射線を投射する複数のラインレーザ照準器を有する放射線治療システムの品質管理に用いられる品質管理用ファントムであって、第1のラインレーザ投射線、第2のラインレーザ投射線、及び第3のラインレーザ投射線のそれぞれに対応させた近側判定部及び遠側判定部を複数組備え、各組における近側判定部及び遠側判定部は、それぞれ、上述した近側判定部及び遠側判定部であることが好ましい。
【0022】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、特に配置しなおすことなく、互いに直交する3方向からのラインレーザを照射するラインレーザ照準器を高精度で調整することができる。換言すると、このように構成された品質管理用ファントムによれば、再配置に伴う精度悪化がないため、空間座標系を規定する複数のラインレーザの照射位置及び照射向きを高精度で調整することができる。
【0023】
[8]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、近側プレートと遠側プレートとの間に、周囲とは比重の異なる放射線撮像用オブジェクトをさらに備えていてもよい。
【0024】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、放射線撮像用オブジェクトを空間中の指標として用いることができるため、ラインレーザから規定される座標系と放射線のアイソセンタ位置とを整合させる等、様々な調整方法に対応しやすくなる。
【0025】
[9]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、放射線撮像用オブジェクトは、近側判定部側から遠側判定部側を見て、重心位置が仮想の基準軸線に重なるように支持されていてもよい。
【0026】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、放射線撮像用オブジェクトの重心位置と仮想の基準軸線とが一致するため、ラインレーザから規定される座標系と放射線のアイソセンタ位置とを整合させることが容易になる。
【0027】
[10]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、放射線撮像用オブジェクトは、取り外し可能に支持されていてもよい。
【0028】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、照射される放射線の強度に対応させて最適な放射線撮像用オブジェクトに変更できるため、さまざまな強度の放射線を用いての撮像に対応できる。
【0029】
[11]本発明に係る品質管理用ファントムにおいては、放射線撮像用オブジェクトを移動可能に支持するとともに移動量を把握可能な移動機構をさらに備えていてもよい。
【0030】
このように構成された品質管理用ファントムによれば、異機器間の相関取りに利用することができる。例えば、この品質管理用ファントムを用いて、LINACとLINACとは別の治療室に設置されているCT撮像装置とそれぞれにおいて、ラインレーザから規定される座標系に対するアイソセンタ位置を、放射線撮像用オブジェクトの移動量から把握し、それらを比較することで、異機器間の相関取りを行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ラインレーザ照準器が照射するラインレーザの照射位置及び照射向きをさらに高精度で調整するための品質管理用ファントムを提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】放射線治療システム1の構成図である。
図2】実施形態1に係る品質管理用ファントム7の外観斜視図である。
図3】実施形態1に係る品質管理用ファントム7の三面図である。
図4】品質管理用ファントム7の近側判定部及び遠側判定部におけるラインレーザ投射線の位置を示す模式図である。
図5】品質管理用ファントム7のラインレーザの照射向きとラインレーザ投射線との関係を示す模式図である。
図6】品質管理用ファントム7を用いてのラインレーザ照準器5の調整方法を示すフローチャートである。
図7】実施形態2に係る品質管理用ファントム107の外観斜視図である。
図8】実施形態2に係るファントム本体108の表面を構成する各プレートの平面図である。
図9】放射線撮像用オブジェクト210の配置例を示す模式図である。
図10】実施形態2に係る品質管理用ファントム107のX線撮像画像を示す説明図である。
図11】実施形態2に係る品質管理用ファントム107の遠側プレートにおけるラインレーザ投射線を示す模式図である。
図12】実施形態2に係る品質管理用ファントム107を用いた異機器間相関取り方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に図面を参照して本発明の一実施形態である品質管理用ファントムについて説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。なお、各図面は必ずしも実際の寸法や細部までを厳密に反映したものではない。なお、説明の便宜上、品質管理において使用状態の配置を基準に、設置面に平行な平面を水平平面、水平平面と直交するする平面を垂直平面、水平平面に対し直交する方向をZ方向、Z方向に対し直交し患者の左右方向に対応する方向をX方向、Z方向及びX方向に対し直交する方向(患者の頭上と足先とを結ぶ方向)をY方向として説明する。また、一部の図面では、X、Y、及びZの符号を付した矢印にて、X方向、Y方向、及びZ方向を示す。
【0034】
図1は、実施形態に係る品質管理用ファントムを用いての品質管理対象となる放射線治療システム1の外観斜視図である。
【0035】
実施形態に係る品質管理用ファントムを用いての品質管理対象となる放射線治療システムについて説明する。放射線治療システムの一例として、図1に示す放射線治療システム1は、医療現場において患部にピンポイントで放射線を照射することでがんの治療を行う医療用LINACシステムである。放射線治療システム1は、LINAC(直線加速器)2と、X線撮像装置3と、ベッド部4と、ラインレーザ照準器5と、制御装置(不図示)と、を有する。なお、本発明に係る品質管理用ファントムは、ベッド部4上の破線で示す設置位置QPに設置される。
【0036】
LINAC2は、架台部2aと、回転アーム部2bと、ヘッド部2cと、検出部2dと、を有する。架台部2aは、ブロックプレート状の架台であり、治療室に接地される。回転アーム部2bは、架台部2aの正面に、Y方向に延びる回転軸L1(以下「LINAC回転軸L1」と記載する場合がある。)中心に360度回転可能なように支持されており、中央部が湾曲するアームである。ヘッド部2cは、回転アーム部2bの先端部に固定されており、内部で放射線を発生させて照射口から放射線を照射する照射ヘッドである。検出部2dは、ヘッド部2cと離間して配置され、ヘッド部2cの照射口から照射された放射線を検出するディテクタを内蔵する。LINAC2は、ヘッド部2cから患部に向けてX線や高エネルギーレベル(3MeV~20MeV)の電子線を照射することができる。また、LINAC2は、回転アーム部2bを回転させて、エネルギーレベルを調整して所望の向きL2へX線や電子線を照射することができる。
【0037】
X線撮像装置3は、OBI(On Board Imager)とも呼ばれ、LINAC2の回転アーム部2bから延びる支持アーム3aと、支持アーム3aの一端に支持されたX線照射部3bと、支持アーム3aの他端に支持されたX線検出部3cと、を有する。X線照射部3b及びX線検出部3cは、それぞれ支持アーム3aに、撮像位置(図1に示す位置)と退避位置との間で回転可能なように支持されており、撮像位置では互いに離間して対向する。X線照射部3b及びX線検出部3cは、撮像位置において、LINAC回転軸L1を基準としたLINAC2のヘッド部2c回転位置に対し、LINAC回転軸L1中心に90度回転させた回転位置に配置される。X線撮像装置3は、LINAC2の3の回転を利用し、撮像向きL3を変更することが可能である。
【0038】
ベッド部4は、LINAC回転軸L1方向(Y方向)に沿って、患者を寝かせることができる寝台4aを有するベッドである。ベッド部4は、寝台4aの下方に昇降・スライド機構4bを有し、寝台4aの高さ変更及びY方向位置の変更が可能である。
【0039】
ラインレーザ照準器5は、ラインレーザを照射する装置であり、LINAC2の周囲において、治療室に設置されている。放射線治療システム1には、ラインレーザ照準器5として、LINAC2のベッド部4側に1台、LINAC2の上方に1台、LINAC2の側方にそれぞれ1台の、第1~第4のラインレーザ照準器5A~5Dが設置されている。第1のラインレーザ照準器5Aは、理想的にはLINAC2のベッド部4斜め上方側から、X方向に直交する垂直平面に沿って広がるラインレーザ(以下「X軸直交ラインレーザ」と記載する。)を照射する。第2のラインレーザ照準器5Bは、理想的には、LINAC2の上方から、Y方向に直交する垂直平面に沿って広がるラインレーザ(以下「Y軸直交ラインレーザ」と記載する。)及びX軸直交ラインレーザを照射する。第3のラインレーザ照準器5Cは、理想的には、LINAC2の一方の側方から、Z方向に直交する水平平面に沿って広がるようなラインレーザ(以下「Z軸直交ラインレーザ」と記載する。)及びY軸直交ラインレーザを照射する。第4のラインレーザ照準器5Dは、理想的には、LINAC2の他方の側方から、第3のラインレーザ照準器5Cが照射するZ軸直交ラインレーザと同一平面に広がるZ軸直交ラインレーザ及びY軸直交ラインレーザを照射する。第1~第4のラインレーザ照準器5A,5B,5C,5Dが照射するラインレーザは、その広がり平面が交差するポイントを原点とした空間座標系を構成する。第1及び第2のラインレーザ照準器5A,5Bが照射するラインレーザによって投射されたラインレーザ投射線は、患者等の上面への十字マーカとしても機能する。また、第3のラインレーザ照準器5Cが照射するラインレーザによって投射されたラインレーザ投射線は、患者等の一方の側面への十字マーカとしても機能する。また、第4のラインレーザ照準器5Dが照射するラインレーザによって投射されたラインレーザ投射線は、患者等の他方の側面への十字マーカとしても機能する。なお、各ラインレーザ照準器5は、上記したような平面的に広がるラインレーザを照射できればよいため、上記配置位置を基準にそれぞれのラインレーザの広がり平面の直交軸を中心に回転させた位置に設置されていてもよい。また、各ラインレーザ照準器が照射するラインレーザの本数(1本、直交する2本、又はそれ以上の本数)は、マーカとして使いやすいよう適宜設定されていればよい。
【0040】
制御装置(不図示)は、モニタや入力機器を有しており、放射線治療システム1における各機器の動作制御を行う。また、制御装置は、撮像画像の表示し、解析等を行う際の表示・解析装置としても機能する。
【0041】
[実施形態1]
[1-1.実施形態1に係る品質管理用ファントム7の構成]
図2は、実施形態1に係る品質管理用ファントム7の外観斜視図である。
図3は、実施形態1に係る品質管理用ファントム7の三面図である。図3(a)は平面図を示し、図3(b)は正面図を示し、図3(c)は側面図を示す。
【0042】
図2及び図3に示すような品質管理用ファントム7は、ラインレーザ照準器5を有する放射線治療システム1のベッド部4上(図1参照)に設置され、その品質管理に用いられる。品質管理用ファントム7は、ラインレーザ照準器5からラインレーザが投射されることで、そのラインレーザ投射線から、ラインレーザ照準器5によるラインレーザの投射位置及び投射向きを把握可能に構成されている。品質管理用ファントム7は、図2及び図3に示すように、ファントム本体8と、ファントム本体8を載置するベース10と、を備えている。ファントム本体8は、第1の水平プレート20と、第1の水平プレート20の上方に配置される第2の水平プレート30と、第1の水平プレート20上でY方向に対峙する一対の第1の垂直プレート40(40A,40B)と、第1の水平プレート20上でX方向に対峙する一対の第2の垂直プレート50(50A,50B)と、により箱状に構成されている。品質管理用ファントム7は、放射線治療システム1の品質管理に用いられる際において、図1に示すX方向、Y方向、及びZ方向と図2とに示すX方向、Y方向、及びZ方向とを対応させて、図1に示すベッド部4上の破線で示す設置位置QPに設置されることを前提に、構成されている。
【0043】
ベース10は、略矩形形状のベースプレート11と、ベースプレート11の角部又は稜線部に取り付けられた少なくとも3つのレベルフット12と、複数の水平押さえ機構部13と、を有している。ベースプレート11は、樹脂板材により形成されており、Z方向に直交する方向へ平面的に広がっている。レベルフット12は、下面をベースプレート11よりも下方に位置させて、Z方向に移動可能にベースプレート11に取り付けられている。各レベルフット12は、適宜Z方向に移動可能であり、その下面位置が調整されることで、ベースプレート11の高さ位置及び傾きを調整する。複数の水平押さえ機構部13は、それぞれがベースプレート11の各稜線部上に固定されたブロックと、ブロックに対してX方向又はY方向に移動可能な複数の押さえネジと、で構成されている。押し付け機構部13は、押さえネジによって、ファントム本体8の側面をX方向又はY方向から押さえつける。なお、本実施形態において用いられる樹脂板材は、POM、ABS、PVC,PMMA等、さまざまな樹脂板材の中から適宜選択すればよい(後述の樹脂板材においても同様。)。
【0044】
第1の水平プレート20は、平面部21と、平面部21から突出する突出部22と、を有している。第1の水平プレート20は、樹脂板材により形成されている。平面部21は、略矩形形状にZ方向に直交する方向へ平面的に広がっている。突出部22は、平面部21の表面から延長して広がる表面を有し、平面部21のX方向に対向する1対の稜線部中央からX方向外側に向けて突出している。第1の水平プレート20は、ベース10のベースプレート11上に載置されており、ベース10の水平押さえ機構部13の押さえネジによって周囲側面位置が規制されている。これにより、第1の水平プレート20は、ベース10のレベルフット12及び水平押さえ機構部13の押さえネジを移動させることで、X方向、Y方向、及びZ方向の高さ及び傾きの微調が可能なように、ベース10に載置されている。第1の水平プレート20の上表面には、X方向中央位置において、Y方向に一直線に延びるX軸直交指標63が記されている。また、第1の水平プレート20の上表面には、Y方向中央位置において、X方向に一直線に延びるY軸直交指標73が記されている。X軸直交指標63及びY軸直交指標73については、後述においてさらに説明する。
【0045】
第2の水平プレート30は、平面部31と、平面部31の中央に固定されたセンター部32と、を有している。第2の水平プレート30は、樹脂板材により形成されている。平面部31は、全体的には所定幅の正方形対角線形状をしており、Z方向に直交する方向へ平面的に広がっている。平面部31は、全体的には所定幅の正方形対角線形状をしているが、台形形状の稜線を有し、X方向に隙間を開けて線対称に配置された第1分割部分31A及び第2分割部分31B、並びに第1分割部分31Aと第2分割部分31Bとの隙間を繋ぐ第3分割部分31Cに分割されている。センター部32は、樹脂板材により形成された第3分割部分31Cと同幅の略長方形状プレートである。センター部32は、第1分割部分31Aと第2分割部分31Bとを橋渡すようにして、第3分割部分31C上に固定されている。第2の水平プレート30は、ベース10と離間し、後述の一対の第1垂直プレート40及び一対の第2の垂直プレート50に固定されている。第2の水平プレート30は、ラインレーザ照準器(例えば、図1の5C又は5D)によって照射される理想的なZ軸直交ラインレーザに対して平面部31の上面の高さ位置を対応させ、ベース10の上方に配置されている。第2の水平プレート30の上表面には、X方向中央位置において、Y方向に一直線に延びるX軸直交指標62が記されている。また、第2の水平プレート30の上表面には、Y方向中央位置において、X方向に一直線に延びるY軸直交指標72が記されている。さらに、第2の水平プレート30の上表面には、平面的に広がったパターンを有する照射野指標34が記されている。照射野指標34は、放射線治療システム1におけるLINAC2やX線撮像装置3から照射される電子線やX線を吸収可能な重金属(例えば、タングステン)が平面部31の表面に埋め込まれたものである。照射野指標34は、放射線治療システム1におけるLINAC2又はX線撮像装置3の放射線照射野に対応させて、その照射野の大きさがわかるように所定ピッチのパターンを有する。具体的には、照射野指標34は、90度ずつ回転した4方向を向く基本パターンが、各方向を向く基本パターン毎に一定のピッチで複数並び、全体的には、稜線間の間隔が一定のサイズの異なる複数の正方形を有するパターンから各正方形の稜線四つ角を切り取ったような全体パターンとなっている。X軸直交指標62及びY軸直交指標72については、後述においてさらに説明する。
【0046】
一対の第1の垂直プレート40は、互いに線対称形状で離間して配置された垂直プレート40A及び垂直プレート40Bにより構成されている。各垂直プレート40A,40Bは、第1の水平プレート20の平面部21のY方向に対向する稜線部よりも内側に入り込んだ位置から立ち上がり、Y方向に直交する方向へ広がっている。また、垂直プレート40A及び垂直プレート40Bは、第2の水平プレート30の側面をY軸方向両側から挟み込むようにして固定している。各垂直プレート40A,40Bは、樹脂板材により形成されている。各垂直プレート40A,40Bは、平面部41と、平面部41から突出する突出部42と、を有している。平面部41は、略矩形形状にY方向に直交する方向へ平面的に広がっている。突出部42は、平面部41の表面から延長して広がる表面を有し、平面部41の上方の稜線部中央からZ方向外側に向けて突出している。各垂直プレート40A,40Bには、X方向中央位置において、Z方向に細長く延びる貫通スリット91が2箇所に形成されている。各垂直プレート40A,40Bの上側面には、X方向中央位置において、Y方向に一直線に延びるX軸直交指標61が記されている。また、各垂直プレート40A,40Bの外表面には、X方向中央位置において、貫通スリット91の外側の部分及び貫通スリット91間に、Z方向に一直線に延びるX軸直交指標64が記されている。また、各垂直プレート40A,40Bの内表面には、X方向中央位置において、貫通スリット91の外側の部分及び貫通スリット91間に、Z方向に一直線に延びるX軸直交指標65が記されている。X軸直交指標61,64,65については、後述においてさらに説明する。
【0047】
一対の第2の垂直プレート50は、互いに線対称形状で離間して配置された垂直プレート50A及び垂直プレート50Bにより構成されている。各垂直プレート50A,50Bは、第1の水平プレート20の平面部21のX方向に対向する稜線部から立ち上がり、X方向に直交する方向へ広がっている。また、垂直プレート50A及び垂直プレート50Bは、第2の水平プレート30の側面及び一対の第1の垂直プレート40の側面をX軸方向両側から挟み込むようにして固定している。各垂直プレート50A,50Bは、樹脂板材により形成されている。各垂直プレート50A,50Bは、平面部51と、平面部51から突出する突出部52と、を有している。平面部51は、略矩形形状にX方向に直交する方向へ平面的に広がっている。突出部52は、平面部51の表面から延長して広がる表面を有し、平面部51の上方の稜線部中央からZ方向外側に向けて突出している。各垂直プレート50A,50Bには、Y方向中央位置において、Z方向に細長く延びる貫通スリット92が2箇所に形成されている。また、各垂直プレート50A,50Bには、第2の水平プレート30の平面部31の上面高さ位置において、Y方向に細長く延びる貫通スリット93が2箇所に形成されている。各垂直プレート50A,50Bの上側面には、Y方向中央位置において、X方向に一直線に延びるY軸直交指標71が記されている。また、各垂直プレート50A,50Bの外表面には、Y方向中央位置において、貫通スリット92の外側の部分及び貫通スリット92間に、Z方向に一直線に延びるY軸直交指標74が記されている。また、各垂直プレート50A,50Bの内表面には、X方向中央位置において、貫通スリット91及び貫通スリット91間に、Z方向に一直線に延びるY軸直交指標75が記されている。また、各垂直プレート50A,50Bの外表面には、第2の水平プレート30の平面部31の上面高さ位置において、貫通スリット93の外側の部分及び貫通スリット93間に、Y方向に一直線に延びるZ軸直交指標81が記されている。また、各垂直プレート50A,50Bの内表面には、第2の水平プレート30の平面部31の上面高さ位置において、貫通スリット93の外側の部分に、Y方向に一直線に延びるZ軸直交指標82が記されている。Y軸直交指標71,74,75及びZ軸直交指標81,82については、後述においてさらに説明する。
【0048】
[1-2.品質管理用ファントム7の判定部について]
品質管理用ファントム7は、ラインレーザ照準器5を有する放射線治療システム1に設置されて、ラインレーザが投射されることで、そのラインレーザ投射線からラインレーザの照射位置や照射向きが正しいかを判定するための判定部を備える。品質管理用ファントム7は、X軸直交ラインレーザ、Y軸直交ラインレーザ、及びZ軸直交ラインレーザのそれぞれに対応させて、各ラインレーザ照準器5からの距離を異ならせて離間させた近側判定部及び遠側判定部をそれぞれの判定部として備える。各判定部は、調整された位置から調整された向きで照射されたラインレーザのラインレーザ投射線が重なる調整基準指標を有する。換言すると、各近側判定部,各遠側判定部は、各ラインレーザ照準器5によって投射されるラインレーザ投射線が重なるべき調整基準指標として、それぞれ、近側基準指標,遠側基準指標を有する。
【0049】
具体的には、品質管理用ファントム7は、上方から照射されたX軸直交ラインレーザ(図1では、ラインレーザ照準器5Bから照射されるX軸直交ラインレーザ)に対応する基準指標として、一対の第1の垂直プレート40の上側面に記されたX軸直交指標61、第2の水平プレート30の上表面に記されたX軸直交指標62、及び第1の水平プレート20の上表面に記されたX軸直交指標63を有している。各X軸直交指標61~63は、それぞれZ方向の位置が異なるため、少なくともそのうちの2つの関係は、一方が近側基準指標、他方が遠側基準指標となる。
【0050】
また、品質管理用ファントム7は、ベッド部4斜め上方側から照射されたX軸直交ラインレーザ(図1のラインレーザ照準器5Aから照射されるX軸直交ラインレーザ)に対応する基準指標として、一対の第1の垂直プレート40の外表面に記されたX軸直交指標64、及び、一対の第1の垂直プレート40の内表面に記されたX軸直交指標65を有している。各X軸直交指標64,65は、それぞれY方向の位置が異なるため、一方が近側基準指標、他方が遠側基準指標となる。
【0051】
また、品質管理用ファントム7は、上方から照射されたY軸直交ラインレーザ(図1では、ラインレーザ照準器5Bから照射されるY軸直交ラインレーザ)に対応する基準指標として、一対の第2の垂直プレート50の上側面に記されたY軸直交指標71、第2の水平プレート30の上表面に記されたY軸直交指標72、及び第1の水平プレート20の上表面に記されたY軸直交指標73を有している。各Y軸直交指標71~73は、それぞれZ方向の位置が異なるため、少なくともそのうちの2つの関係は、一方が近側基準指標、他方が遠側基準指標となる。
【0052】
また、品質管理用ファントム7は、側方から照射されたY軸直交ラインレーザ(図1では、ラインレーザ照準器5C,5Dから照射されるY軸直交ラインレーザ)に対応する基準指標として、一対の第2の垂直プレート50の外表面に記されたY軸直交指標74、及び一対の第2の垂直プレート50の内表面に記されたY軸直交指標75を有している。各Y軸直交指標74,75は、それぞれX方向の位置が異なるため、一方が近側基準指標、他方が遠側基準指標となる。
【0053】
また、品質管理用ファントム7は、側方から照射されたZ軸直交ラインレーザ(図1では、ラインレーザ照準器5C,5Dから照射されるZ軸直交ラインレーザ)に対応する基準指標として、一対の第2の垂直プレート50の外表面に記されたZ軸直交指標81、及び一対の第2の垂直プレート50の内表面に記されたZ軸直交指標82を有している。各Z軸直交指標81,82は、それぞれX方向の位置が異なるため、一方が近側基準指標、他方が遠側基準指標となる。
【0054】
品質管理用ファントム7では、近側基準指標又は遠側基準指標となる各軸直交座標(61~65,71~75,81~82)が記されている、第1の水平プレート20、第2の水平プレート30、一対の第1の垂直プレート40(40A,40B)、又は一対の第2の垂直プレート50(50A,50B)の表面又は上側面は、近側判定部又は遠側判定部となる。また、品質管理用ファントム7では、離間して互いに平行に配置された近側プレートと遠側プレートとの間は、空間になっている。
【0055】
[1-3.品質管理用ファントム7に投射されたラインレーザ投射線Tについて]
図4は、品質管理用ファントム7の近側判定部及び遠側判定部におけるラインレーザ投射線の位置を示す模式図である。図4(a)は、上方から垂直平面に沿って投射されたラインレーザに対して直交する方向から見た模式図を示し、図4(b)は、側方から垂直平面に沿って投射されたラインレーザに対して直交する方向から見た模式図を示し、図4(c)は、側方から水平平面に沿って投射されたラインレーザに対して直交する方向から見た模式図を示す。なお、図4では、一例として垂直プレートとして第2の垂直プレート50を示しているが、図4(a)及び図4(b)については、第2の垂直プレート50を第1の垂直プレート40に置き換えても同様となる。
図5は、品質管理用ファントム7のラインレーザの照射向きとラインレーザ投射線との関係を示す模式図である。図5(a)は、ロール傾き及びチルト傾きなく照射されたラインレーザとラインレーザ投射線との関係を示す。図5(b)は、ロール傾きを有し照射されたラインレーザとラインレーザ投射線との関係を示す。図5(c)は、チルト傾きを有し照射されたラインレーザとラインレーザ投射線との関係を示す。なお、図5では、一例として、近側判定部が第2の垂直プレート50の一方の垂直プレート50Aの外表面で、遠側判定部が第2の垂直プレート50の他方の垂直プレート50Bの内表面である場合を示す。
【0056】
品質管理用ファントム7では、正しい照射位置から正しい照射方向に照射された基準となる、X軸直交ラインレーザ、Y軸直交ラインレーザ、及びZ軸直交ラインレーザの交点を原点とし、その原点を通り、X方向、Y方向、及びZ方向に延びる直線が、仮想の基準軸線となる。品質管理用ファントム7では、基準となるラインレーザの照射側から見て(近側判定部側から遠側判定部側を見て)、対応する近側基準指標及び遠側基準指標は、同方向に延びる基準軸線に重なるように記されている。また、品質管理用ファントム7では、基準となるラインレーザの照射側から基準となるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの方向に見て、遠側基準指標の一部は、近側判定部の遮光領域に重ならない。また、品質管理用ファントム7では、近側基準指標の全部又は一部として少なくとも一部の近側プレートは、貫通スリットを有する。近側プレートにおける貫通スリットの領域は、非遮光領域となる。
【0057】
このように構成されている品質管理用ファントム7においては、図4に示すように、ラインレーザの一部は、近側判定部にけられないで遠側判定部にラインレーザ投射線として投射される。
【0058】
具体的には、上方から投射された垂直平面に沿って広がるラインレーザは、図4(a)に示すように、内側の広がり角度範囲θ1では、第2の水平プレート30の上表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ1の外側の広がり角度範囲θ2では、第2の水平プレート30の遮光部領域にけられないで第1の水平プレート20の上表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ2の外側の広がり角度範囲θ3では、一対の第2の垂直プレート50に形成された貫通スリット92を通過して(一対の第2の垂直プレート50の遮光部領域にけられないで)第1の水平プレート20の上表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ3の外側の広がり角度範囲θ4では、一対の第2の垂直プレート50の上側面にラインレーザ投射線Tとして投射される。
【0059】
また、側方から投射された垂直平面に沿って広がるラインレーザは、図4(b)に示すように、内側の広がり角度範囲θ5では、一対の第2の垂直プレート50の垂直プレート50Aに形成された貫通スリット92を通過して(垂直プレート50Aの遮光部領域にけられないで)遠側判定部を含む垂直プレート50Bの内表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ5の外側の広がり角度範囲θ6では、近側判定部を含む垂直プレート50Aの外表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。
【0060】
また、側方から投射された水平平面に沿って広がるラインレーザは、図4(c)に示すように、内側の広がり角度範囲θ7では、近側判定部を含む垂直プレート50Aの外表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ7の外側の広がり角度範囲θ8では、近側判定部を含む垂直プレート50Aに形成された貫通スリット93を通過して(垂直プレート50Aの遮光部領域にけられないで)遠側判定部を含む垂直プレート50Bの内表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。また、広がり角度範囲θ8の外側の広がり角度範囲θ9では、近側判定部を含む垂直プレート50Aの外表面にラインレーザ投射線Tとして投射される。
【0061】
このように構成されている品質管理用ファントム7においては、図5に示すようにラインレーザ投射線Tは、ラインレーザの照射向きに従って、近側基準指標又は遠側基準指標との位置関係が変わる。具体的には、ラインレーザがロール傾き及びチルト傾きなく照射された場合には、図5(a)に示すように、近側判定部(50Aの外表面)及び遠側判定部(50Bの内表面)において、ラインレーザ投射線Tと、近側基準指標としてのY軸直交指標74及び遠側基準指標としてのY軸直交指標75とが、直線として又は複数箇所で重なる。また、ラインレーザがロール傾き有し、照射された場合には、図5(b)に示すように、近側判定部(50Aの外表面)において、ラインレーザ投射線Tと、近側基準指標としてのY軸直交指標74又はその延長線と点で交差する。また、ラインレーザがチルト傾き有し、照射された場合には、図5(c)に示すように、たとえ近側判定部(50Aの外表面)において、ラインレーザ投射線Tと、近側基準指標としてのY軸直交指標74とが重なっても、遠側判定部(50Bの内表面)においては、ラインレーザ投射線Tと、遠側基準指標としてのY軸直交指標75とがずれる。
【0062】
[1-4.品質管理用ファントム7を用いてのラインレーザ照準器5の調整方法]
図6は、品質管理用ファントム7を用いてのラインレーザ照準器5の調整方法を示すフローチャートである。品質管理用ファントム7を用いてのラインレーザ照準器5の調整方法は、図6に示すように、配置工程ST1と、投射工程ST2と、判定工程ST3と、調整工程ST4と、含む。
【0063】
品質管理用ファントム7を用いてのラインレーザ照準器5の調整方法は、まず、配置工程ST1において、品質管理用ファントム7を放射線治療システム1の設置位置QPに設置する(図1参照)。このとき、LINAC2の検出部2dの出力画像における照射野指標34の位置及び大きさを確認しながら、LINAC2の照射野に対応させてファントム本体8の位置、向き、及び傾きを調整する。このとき、品質管理用ファントム7のベース10におけるレベルフット12や水平押さえ機構部13を使用することで精度よく調整することが可能である。
【0064】
次に、投射工程ST2において、ラインレーザ照準器5からファントム本体8に対してラインレーザを投射する。
【0065】
次に、判定工程ST3において、ラインレーザ投射線Tが、近側基準指標(例えば、一対の第2の垂直プレート50の一方の垂直プレート50AのY軸直交指標74)及び遠側基準指標(例えば、一対の第2の垂直プレート50の他方の垂直プレート50BのY軸直交指標75)の両方と重なっていれば(図5(a)のような状態になれば)、OKと判定し、そのラインレーザ照準器5の調整を終了する。そうでなければ、NGと判定し、次の調整工程ST4を実施する。全てのラインレーザ照準器5の調整が終了となれば、品質管理用ファントム7を放射線治療システム1の設置位置QPから撤収させ、ラインレーザ照準器5の調整作業が完了となる。
【0066】
判定工程ST3でNGと判定された場合には、調整工程ST4において、品質管理用ファントム7に投射されたラインレーザ投射線Tを参照し、ラインレーザ照準器5によるラインレーザの照射位置及び照射向きを調整する。調整したら、投射工程ST2に戻る。
【0067】
[1-5.実施形態1に係る効果]
実施形態1に係る品質管理用ファントム7においては、近側判定部及び遠側判定部を備え、近側判定部と遠側判定部とは離間している。近側判定部及び遠側判定部は、それぞれ、ラインレーザ投射線Tが重なるべき調整基準指標としての近側基準指標(81等)及び遠側基準指標(82等)を有する。この品質管理用ファントム7は、近側判定部側から遠側判定部側をラインレーザ照準器5によって照射されるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの角度方向に見て、遠側基準指標(82等)の一部が近側判定部の遮光領域に重ならないため、ラインレーザの一部が近側判定部の遮光領域にけられず遠側基準指標(82等)の一部に投射されるよう構成されている。さらに、この品質管理用ファントム7は、近側判定部側から遠側判定部側を見て、近側基準指標(81等)と遠側基準指標(82等)とが仮想の基準軸線に重なるため、チルト傾きがほとんどなく照射されたラインレーザのラインレーザ投射線のみ近側基準指標(81等)と遠側基準指標(82等)との両方に重なるように構成されている。つまり、品質管理用ファントム7によれば、ラインレーザ照準器5の品質管理に用いられた際、ラインレーザ照準器5が照射するラインレーザの照射位置及び照射向きを所望の状態に調整できたときだけ、ラインレーザ投射線Tを近側基準指標(81等)と遠側基準指標(82等)との両方に重ね合わせることができる。
【0068】
その結果、品質管理用ファントム7は、ラインレーザ照準器5によるラインレーザの照射位置及び照射向きをさらに高精度で調整するための品質管理用ファントムとなる。
【0069】
また、品質管理用ファントム7によれば、近側プレート(50A等)と遠側プレート(50B等)とを備え、近側プレート(50A等)は、近側基準指標(81等)の全部又は一部として貫通スリット(92等)を有するため、近側基準指標(81等)上を投射されるラインレーザの一部を遠側プレート(50B等)まで導くことができる。
【0070】
また、品質管理用ファントム7によれば、近側プレート(50A等)と遠側プレート(50B等)とは、その間を空間にして平行に配置されてため、近側判定部を通過したラインレーザが遠側判定部に到達するまでに屈折により曲がることがないことから精度よくラインレーザの照射位置及び照射向きを把握することができる。
【0071】
また、品質管理用ファントム7においては、ベース10及び各プレート20,30,40,50は、主要部が樹脂板材で形成されている。樹脂板材は、低エネルギーレベルのX線でも透過可能であることから、低エネルギーレベルのX線撮像装置にも用いることが可能なX品質管理用ファントムを構成することができる。
【0072】
品質管理用ファントム7によれば、近側判定部又は遠側判定部となる第2の水平プレート30には、放射線治療システム1の放射線照射野に対応させて、放射線の吸収能が高い重金属(タングステン)の照射野指標34が埋め込まれているため、放射線を用いて照射野指標34を撮像し、放射線治療システム1の放射線照射野を確認することができる。
【0073】
品質管理用ファントム7においては、互いに直交するX軸直交ラインレーザ、Y軸直交ラインレーザ、及びZ軸直交ラインレーザの投射線それぞれに対応させた近側判定部及び遠側判定部を複数組備え、各組における近側判定部及び遠側判定部は、それぞれが上述した効果を有する近側判定部及び遠側判定部である。このため、品質管理用ファントム7によれば、特に配置しなおすことなく、互いに直交する3方向からのラインレーザを照射するラインレーザ照準器5A、5B、5C、5Dを高精度で調整することができる。換言すると、品質管理用ファントム7によれば、再配置に伴う精度悪化がないため、空間座標系を規定する複数のラインレーザの照射位置及び照射向きを高精度で調整することができる。
【0074】
[実施形態2]
[2-1.実施形態2に係る品質管理用ファントム107の構成]
図7は、実施形態2に係る品質管理用ファントム107の外観斜視図である。図7(a)は、Y方向の一方側を手前に向けて示し、図7(b)は、Y方向の他方側を手前に向けて示す。
図8は、実施形態2に係るファントム本体108の表面を構成する各プレートの平面図である。
図9は、放射線撮像用オブジェクト210の配置例を示す模式図である。
【0075】
品質管理用ファントム107は、実施形態に係る品質管理用ファントム7と同様、ラインレーザ照準器5を有する放射線治療システム1のベッド部4上(図1参照)に設置され、その品質管理に用いられる。品質管理用ファントム107は、図7に示すように、ファントム本体108と、ファントム本体108を載置するベース110と、を備えている。ファントム本体8は、各壁に図8に示すようなプレートPを用いて、全体的には立方体箱状に構成されている。ファントム本体8は、プレートPを5面に用いて構成されており、Y方向における一方が開口している。また、品質管理用ファントム107は、ファントム本体8の開口側に放射線撮像用オブジェクト装置200を載置している。品質管理用ファントム107は、放射線治療システム1の品質管理に用いられる際において、図7に示すX方向、Y方向、及びZ方向と図2とに示すX方向、Y方向、及びZ方向とを対応させて、図1に示すベッド部4上の破線で示す設置位置QPに設置されることを前提に、構成されている。
【0076】
ベース110は、略矩形形状のベースプレート111と、ベースプレート111の角部に取り付けられたレベルフット112と、を有している。ベースプレート111は、樹脂板材により形成されており、Z方向に直交する方向へ平面的に広がっている。レベルフット112は、下面をベースプレート111よりも下方に位置させて、Z方向に移動可能にベースプレート111に取り付けられている。各レベルフット112は、適宜Z方向に移動可能であり、その下面位置が調整されることで、ベースプレート111の高さ位置及び傾きを調整する。
【0077】
ファントム本体8の壁を構成する各プレートPは、図8に示すように、外形が正方形形状の壁プレート191と、壁プレート191の表面に貼り付けられた表示シート192とを有する。
【0078】
壁プレート191は、樹脂板材により形成されており、内側に、貫通スリット幅狭部分193、貫通スリット幅広部分194、及び覗き穴195、といった板厚方向への貫通部分を有している。貫通スリット幅狭部分193は、壁プレート191の外形稜線に対して平行で、互いに直交する中心線上で延びる細長い貫通スリットである。貫通スリット幅狭部分193は、ラインレーザ照準器5によって投射されるラインレーザ投射線の幅よりも狭い幅で形成されている貫通溝である。貫通スリット幅広部分194は、貫通スリット幅狭部分193上又は延長線上において、ラインレーザ照準器5によって投射されるラインレーザ投射線の幅よりも広い幅で形成されている貫通孔である。貫通スリット幅広部分194の形成位置及び形状は、適宜設定されていればよい。例えば、貫通スリット幅広部分194は、ラインレーザ投射線の幅よりも直径寸法が大きい円形貫通孔である。覗き穴195は、貫通スリット幅狭部分193及び貫通スリット幅広部分194以外の部分で、裏側が覗きやすいよう大きくくりぬかれた穴である。図8に示す覗き穴195は、貫通スリット幅狭部分193に仕切られた各領域内で大きく開口する円形穴となっている。壁プレート191の平面形状は、外形稜線に対して平行で、互いに直交する中心線それぞれに対し、線対称になっている。ファントム本体8として組み込まれた際の壁プレート191の貫通スリット幅狭部分193は、全て、互いに直交する所定の3面上に位置する(図9参照)。
【0079】
表示シート192は、ラインレーザが乱反射しにくいシートであり、貫通スリット幅狭部分193の延長線上外側に、貼り付けられている。表示シート192上には、貫通スリット幅狭部分193の延長線上において一直線で延びる基準指標196が記されている。
【0080】
品質管理用ファントム107は、実施形態1の品質管理用ファントム7と同様、ラインレーザ照準器5を有する放射線治療システム1に設置されて、ラインレーザが投射されることで、そのラインレーザ投射線からラインレーザの照射位置や照射向きが正しいかを判定するための判定部を備える。具体的には、壁プレート191は、X方向及びZ方向において、2枚対面して備えられているが、一方が近側判定部を含む近側プレートとなり、他方が遠側判定部を含む遠側プレートとなる。各壁プレート191の貫通スリット幅狭部分193、貫通スリット幅広部分194、又は基準指標196は、各ラインレーザに対応する基準指標となり、そのうちの近側プレートの基準指標が近側基準指標となり、遠側プレートの基準指標が遠側基準指標となる。
【0081】
放射線撮像用オブジェクト装置200は、図7(b)に示すように、放射線撮像用オブジェクト210と、放射線撮像用オブジェクト210を取り付ける取り付けアーム220と、取り付けアーム220を支持する移動機構230とを備えている。
【0082】
放射線撮像用オブジェクト210は、ファントム本体8の内側空間(対面して備えられている壁プレート191間)に配置されている。放射線撮像用オブジェクト210は、取り付けアーム220の先端に取り外し可能に取付けられている。放射線撮像用オブジェクト210は、撮像に用いられる放射線に対応させて、周囲とは比重の異なる材質によって形成されている。例えば、放射線撮像用オブジェクト210は、X線に対応しやすいようアクリルといった樹脂により形成されている。また、例えば、放射線撮像用オブジェクト210は、LINACから照射される強力なX線や高エネルギーレベルの電子線に対応しやすいようタングステンといった重金属により形成されている。補足すると、LINAC(例えば図1のLINAC2)から照射される強力なX線は、透過力が強い。このため、タングステンの放射線撮像用オブジェクトは、コントラスト良くLINACで撮像するのに適している。一方、OBI(例えば図1のX線撮像装置3)やCT(ComputedTomography)撮像装置から照射される比較的弱いX線は、金属を通り難く、金属表面で乱反射してしまう。このため、比較的弱いX線でも通りやすいアクリルの放射線撮像用オブジェクトは、比較的弱いX線撮像装置で撮像するのに適している。
【0083】
放射線撮像用オブジェクト210の形状は、撮像目的に応じて、適宜定められている。放射線撮像用オブジェクト210は、さまざまな放射線や目的に対応できるよう、放射線撮像用オブジェクトとして複数種類準備されている中の一つであってもよい。なお、図7(b)に示す放射線撮像用オブジェクト210は、重心位置Gが把握しやすいよう、球体形状を有しており、図9に示すよう、その重心位置Gが全ての貫通スリット幅狭部分193が位置している互いに直交する所定の3面の交点に合わさるように配置されている。
【0084】
取り付けアーム220は、放射線撮像用オブジェクト210をファントム本体8の内側空間所望位置へ配置するために、放射線撮像用オブジェクト210と移動機構230とを繋ぐ部材である。
【0085】
移動機構230は、取り付けアーム220を介して、放射線撮像用オブジェクト210をX方向、Y方向、及びZ方向に移動可能に支持する3軸移動ステージである。移動機構230は、各方向への移動量を把握可能に、ゲージ目盛又は移動デジタル表示部を有している。移動機構230は、基準となる一部がベース110上、ファントム本体8のY方向開口部側に固定されている。なお、放射線撮像用オブジェクト装置200は、移動機構230が放射線撮像用オブジェクト210を直接支持するよう構成されていてもよい。
【0086】
[2-2.実施形態2に係る品質管理用ファントム107の使用方法]
図10は、実施形態2に係る品質管理用ファントム107のX線撮像画像を示す説明図である。
図11は、実施形態2に係る品質管理用ファントム107の遠側プレートにおけるラインレーザ投射線を示す模式図である。図11(a)は、チルト傾きのないラインレーザ投射線を示し、図11(b)は、チルト傾きのあるラインレーザ投射線を示す。
図12は、実施形態2に係る品質管理用ファントム107を用いた異機器間相関取り方法のフローチャートである。
【0087】
品質管理用ファントム107は、基準指標を有する近側プレート及び基準指標を有する遠側プレートとなる壁プレート191を有するため、実施形態1に係る品質管理用ファントム7と同様ラインレーザ照準器5の調整作業に用いることができる。品質管理用ファントム107を用いてのラインレーザ照準器の調整方法については基本的には実施形態1と同様(図6参照)であるため、説明を省略する。なお、実施形態1では、配置工程ST1において、照射野指標34の位置及び大きさを確認しながら、ファントム本体8の位置、向き、及び傾きを調整すると説明した。これに対し、品質管理用ファントム107を用いてのラインレーザ照準器の調整方法では、図10に示すよう、X線撮像画像191Rを用い、品質管理用ファントム107の近側プレート及び遠側プレートの基準指標等から把握された近側プレートの軸と遠側プレートの軸とが合うよう、ファントム本体108の位置、向き、及び傾きを調整する。なお、図10においては、近側プレートに対応するX線画像を実線、遠側プレートに対応するX線画像を2点鎖線、その他のプレートに対応するX線画像を破線で示している。また、図10においては、合わせた近側プレート及び遠側プレートの軸を細い中心線で示している。
【0088】
また、品質管理用ファントム107は、壁プレート191に貫通スリットとして、ラインレーザ投射線の幅よりも幅が狭い貫通スリット幅狭部分193と、ラインレーザ投射線の幅よりも幅が広い貫通スリット幅広部分194と、を有しているため、実施形態1では説明しなかった方法でもラインレーザのチルト傾きを把握することが可能である。すなわち、ラインレーザは、図11(a)及び図11(b)に示すように、近側プレートの貫通スリット幅狭部分193を通過した部分が一部けられた幅が狭い部分193Tと、近側プレートの貫通スリット幅広部分194を通過した部分の幅が広い部分194Tと、を有するラインレーザ投射線Tとして遠側プレートに投射される。そして、チルト傾きの無いラインレーザは、図11(a)に示すように、幅が狭い部分193Tの幅中心位置と幅が広い部分194Tの幅中心位置とがずれていないラインレーザ投射線T1として投射される。一方で、チルト傾きのあるラインレーザは、図11(b)に示すように、幅が狭い部分193Tの幅中心位置と幅が広い部分194Tの幅中心位置とがずれているラインレーザ投射線T2として投射される。
【0089】
また、品質管理用ファントム107は、移動機構230に支持された放射線撮像用オブジェクト装置200を備えるため、別々設置された機器間の相関取りに利用することが可能である。一例として、LINACと、LINACとは別の治療室に設置されたCT撮像装置との相関取り方法を説明する。
【0090】
LINACと、LINACとは別の治療室に設置されたCT撮像装置との相関取り方法は、図12に示すように、CT設置工程ST101と、CT撮像工程ST102と、LINAC設置工程ST103と、LINAC撮像工程ST104と、相関取り工程ST105と、を含む。
【0091】
この相関取り方法は、まずCT設置工程ST101において、放射線撮像用オブジェクト210を基準位置にした状態の品質管理用ファントム107を、CT撮像装置の空間座標系を定めているラインレーザ照準器に合わせてCT撮像装置に設置する。
【0092】
次に、CT撮像工程ST102において、品質管理用ファントム107をCT撮像装置によってX線撮像し、放射線撮像用オブジェクト210の重心位置がCT撮像装置のアイソセンタ位置になるよう、移動機構230を用いて放射線撮像用オブジェクト210を移動させる。この時の移動量を移動機構230から読み取る。
【0093】
次に、LINAC設置工程ST103において、品質管理用ファントム107をCT撮像装置から取り外す。続いて、その取り外した品質管理用ファントム107をLINACの空間座標系を定めているラインレーザ照準器に合わせてLINACに設置する。
【0094】
次に、LINAC撮像工程ST104において、品質管理用ファントム107をLINACによってX線撮像し、放射線撮像用オブジェクト210の重心位置がLINACのアイソセンタ位置になるよう、移動機構230を用いて放射線撮像用オブジェクト210を移動させる。この時の移動量を移動機構230から読み取る。
【0095】
次に、相関取り工程ST105において、CT撮像工程ST102で読み取った放射線撮像用オブジェクト210の移動量とLINAC撮像工程ST104で読み取った放射線撮像用オブジェクト210との関係性を算出し、LINACとCT撮像装置とのアイソセンタ位置のずれ量を把握する。
【0096】
[2-3.実施形態2に係る効果]
実施形態2に係る品質管理用ファントム107は、実施形態1に係る品質管理用ファントム7と同様、ラインレーザ照準器5を有する放射線治療システム1の品質管理に用いられる品質管理用ファントムであって、調整基準指標としての近側基準指標を有する近側判定部と、調整基準指標としての遠側基準指標を有する遠側判定部と、を備えている、また、品質管理用ファントム107は、ファントム本体108の各壁が同一形状の壁プレート191で構成されているため、実施形態1に係る品質管理用ファントム7と同様、近側判定部側から遠側判定部側を見て、近側基準指標と遠側基準指標とが仮想の基準軸線に重なる。また、品質管理用ファントム107は、実施形態1に係る品質管理用ファントム7と同様、近側判定部側から遠側判定部側をラインレーザ照準器によって照射されるラインレーザの最大広がり角度方向範囲内のいずれかの角度方向に見て、遠側基準指標の一部が近側判定部の遮光領域に重ならない。このため、品質管理用ファントム107は、実施形態1に係る品質管理用ファントム7と同様、ラインレーザ照準器5によるラインレーザの照射位置及び照射向きをさらに高精度で調整するための品質管理用ファントムとなる。
【0097】
また、品質管理用ファントム107においては、近側プレートの貫通スリットは、幅狭部分193と幅広部分194とを有するため、遠側判定部のラインレーザ投射線Tは、一部貫通スリットの幅狭部分両脇の遮光領域によってけられ、幅が狭い部分193Tと広い部分194Tとを有するようになる。このとき、ラインレーザが僅かでもチルト傾きをもっていると、遠側判定部では幅が狭い部分193Tの幅中心位置と幅が広い部分194Tの幅中心位置とがずれるため、このように構成された品質管理用ファントムによれば、遠側判定部においてラインレーザのチルト傾きを精度よく把握することができる。
【0098】
また、品質管理用ファントム107によれば、近側プレートと遠側プレートとの間に、周囲とは比重の異なる放射線撮像用オブジェクト210を備えるため、放射線撮像用オブジェクト210を空間中の指標として用いることができることから、ラインレーザから規定される座標系と放射線のアイソセンタ位置とを整合させる等、様々な調整方法に対応しやすくなる。なお、品質管理用ファントム107においては、近側プレートと遠側プレートとの間が空間になっているため、両プレート間に配置される放射線撮像用オブジェクト210とその周囲との比重差を大きくしやすい。これにより、このように構成された品質管理用ファントム107によれば、両壁間に配置可能な放射線撮像用オブジェクト210の材質選択肢を広げることが可能である。
【0099】
また、品質管理用ファントム107においては、放射線撮像用オブジェクト210は、近側判定部側から遠側判定部側を見て、重心位置Gを仮想の基準軸線に重ならせることが可能に構成されている。このため、品質管理用ファントム107によれば、放射線撮像用オブジェクト210の重心位置Gを仮想の基準軸線に重ならせた位置を基準にできることから、ラインレーザから規定される座標系と放射線のアイソセンタ位置とを整合させることが容易になる。
【0100】
また、品質管理用ファントム107においては、放射線撮像用オブジェクト210は、取り外し可能に支持されている。このため、品質管理用ファントム107によれば、照射される放射線の強度に対応させて最適な放射線撮像用オブジェクトに変更できることから、さまざまな強度の放射線を用いての撮像に対応できる。
【0101】
また、品質管理用ファントム107においては、放射線撮像用オブジェクト210を移動可能に支持するとともに移動量を把握可能な移動機構230を備えている。このため、品質管理用ファントム107によれば、上述した一例のように、異機器間の相関取りに利用することもできる。
【0102】
以上、本発明を上記の実施形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0103】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、形状、位置、向き、配置形態、大きさ、材質、移動のため機構等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0104】
(2)上記した実施形態においては、ラインレーザ照準器5は、放射線治療システム1が設置される治療室に設置されていると説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ラインレーザ照準器は、LINAC2、X線撮像装置3、又はベッド部4に設置されていてもよい。
【0105】
(3)上記した実施形態1においては、各軸指標(各X軸指標、各Y軸指標、又は各Z軸指標)について、対向する一辺から他辺にかけて一直線に延びるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各軸指標は、途中で途切れていてもよい。また、各軸指標は、一直線上に位置する複数のドットでもよい。また、各軸指標は、一直線上に位置するように配置された光検出器であってもよい。
【0106】
(4)上記した実施形態1においては、一対の第1の垂直プレート40及び一対の第2の垂直プレート50について、それぞれを構成する対面する各垂直プレート同士が面対称形状であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、一対の垂直プレートは、対面する各垂直プレート同士が外形形状を異ならせたものであってもよい。また、例えば、一対の垂直プレートは、対面する各垂直プレート同士が貫通スリット長を異ならせたものであってもよい。また、例えば、一対の垂直プレートは、ラインレーザ照準器に近側の垂直プレートが貫通スリットを有し、遠側の垂直プレートが貫通スリットを有さないものであってもよい。
【0107】
(5)上記した実施形態2のLINACとCT撮像装置との相関取り方法においては、CT設置工程ST101及びCT撮像工程ST102を先に行い、LINAC設置工程ST103及びLINAC撮像工程ST104を後に行うと説明したが、本発明の品質管理用ファントムを用いた相関取り方法はこれに限定されるものではない。例えば、この順番が逆であってもよい。また、LINACとCT撮像装置との相関取りに限定されるものではなく、2又3以上の治療室に設置されている放射線治療装置の相関取りの際には適宜それぞれ放射線治療装置に対して設置工程および撮像工程を行えばよい。なお、前述したように「放射線治療装置」とは、LINACのように直接的に患部を治療するための装置だけでなく、CT装置のように撮像診断するための装置も含む。
【0108】
(6)上記した実施形態においては、近側プレート及び遠側プレートとしてのプレートが樹脂板材であるものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。使用する放射線のエネルギーレベルに対応するのであれば、アルミ板材といった金属板材で構成してもよい。
【0109】
(7)上記した実施形態においては、近側プレート及び遠側プレートとしてのプレートの色や指標の色について、特に説明していないが、投射されるラインレーザの反射、散乱特性、視認性等を考慮して適宜設定されていればよい。
【符号の説明】
【0110】
1…放射線治療システム、5,5A,5B,5C,5D…ラインレーザ照準器、7,107…品質管理用ファントム、10,110…ベース、20…第1の水平プレート(遠側判定部を含む遠側プレート)、30…第2の水平プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、34…照射野指標、40…一対の第1の垂直プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、40A,40B…垂直プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、50…一対の第1の垂直プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、50A,50B…垂直プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、61,62,63,64,65…X軸直交指標(近側基準指標又は遠側基準指標)、71,72,73,74,75…Y軸直交指標(近側基準指標又は遠側基準指標)、81,82…Z軸直交指標(近側基準指標又は遠側基準指標)、91,92,93…貫通スリット(近側基準指標又は遠側基準指標)、191…壁プレート(近側判定部を含む近側プレート又は遠側判定部を含む遠側プレート)、193…貫通スリット幅狭部分(近側基準指標)、194…貫通スリット幅広部分(近側基準指標)、196…基準指標(近側基準指標又は遠側基準指標)、200…放射線撮像用オブジェクト装置、210…放射線撮像用オブジェクト、230…移動機構、G…重心位置、
T,T1,T2…ラインレーザ投射線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12