(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】蓄圧式消火器の組立方法
(51)【国際特許分類】
A62C 13/76 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
A62C13/76 B
A62C13/76 A
(21)【出願番号】P 2018020322
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】三上 賢
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-194691(JP,A)
【文献】特開2003-164539(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0072120(US,A1)
【文献】特開2017-013796(JP,A)
【文献】特開2003-020082(JP,A)
【文献】特開2015-104391(JP,A)
【文献】特開2011-224137(JP,A)
【文献】特表平08-508659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
F17C 13/06
B65D 83/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口部を有する金属製の容器と、
前記容器内に収納される高分子材料製の袋と、
前記袋内に充填される消火薬剤と、
前記袋内に封入される圧縮ガスと、
前記口部に装着されて、ユーザのレバー操作に応じて前記容器内の前記消火薬剤を外部に噴射させるバルブと、を備え、
前記袋は、
袋本体と、
前記袋本体よりも肉厚に形成され、前記容器の前記口部と前記バルブとの間に挟み込まれて前記口部を封止する縁部と、
を含
み、
前記袋の常圧下での容積は、前記容器の容積の1.0倍以上かつ1.5倍以下であり、
前記袋の前記縁部は1.0mm以上の厚みを有し、
前記袋本体は、15度以上かつ40度以下の硬度を有する、
蓄圧式消火器
の組立方法であって、
前記容器内に前記袋を収納した後、前記袋に前記消火薬剤を注入し、ついで前記バルブと前記容器の前記口部との間に前記袋の前記縁部を挟みこみ、その後、前記袋に前記圧縮ガスを封入すること、
を特徴とする蓄圧式消火器の組立方法。
【請求項2】
前記
圧縮ガスはヘリウムガスを含み、
前記縁部は、25℃において、ヘリウムに対して2.6×10
-8
~17.5×10
-8
[cc・cm/cm
2
・sec・atm]の気体透過性を示すこと、
を特徴とする請求項1に記載の蓄圧式消火器
の組立方法。
【請求項3】
前記
圧縮ガスは窒素ガスを更に含み、
前記縁部は、25℃において、窒素に対して0.17×10
-8
~5.9×10
-8
[cc・cm/cm
2
・sec・atm]の気体透過性を示すこと、
を特徴とする請求項1に記載の蓄圧式消火器
の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄圧式消火器に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄圧式消火器では、常に容器に0.7~0.98MPa程度の内圧が作用している。そのため、容器の口部を、主にゴム材料のパッキンでシールしている。
ところで、容器には腐食性の消火薬剤が充填されている。一般的に容器は鉄、鋼、アルミニウム等の金属材料で作製されていることから、腐食防止のために、容器の内面に例えば塗装等の防錆処理を行っている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容器内面に防錆処理を行う際には、下地処理として、鉄や鋼やアルミニウムの化成処理(例えばリン酸皮膜処理等)を行って、塗料の密着性等の表面性状を改善する必要がある。このように下地処理から防錆処理までには多くの工程がある。また、下地処理により容器内面に付着した塗膜にピンホールがあると、腐食が進むおそれがある。そのため、防錆処理には多大な時間及びコストを要する。
【0005】
そこで、本発明は、容器内面の防錆処理を簡略化するとともに容器の封止のためのパッキンを省略することができる蓄圧式消火器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決すべく、本発明は、口部を有する金属製の容器と、前記容器内に収納される高分子材料製の袋と、前記袋内に充填される消火薬剤と、前記袋内に封入される圧縮ガスと、前記口部に装着されて、ユーザのレバー操作に応じて前記容器内の前記消火薬剤を外部に噴射させるバルブと、を備え、前記袋は、袋本体と、前記袋本体よりも肉厚に形成され、前記容器の前記口部と前記バルブとの間に挟み込まれて前記口部を封止する縁部と、を含むことを特徴とする蓄圧式消火器を提供する。
【0007】
上記のような構成を有する本発明の蓄圧式消火器では、前記袋の常圧下での容積が、前記容器の容積の1.0倍以上かつ1.5倍以下であること、が好ましい。
【0008】
また、上記のような構成を有する本発明の蓄圧式消火器では、前記袋の前記縁部が1.0mm以上の厚みを有すること、が好ましい。
【0009】
また、上記のような構成を有する本発明の蓄圧式消火器では、前記袋本体が、15度以上かつ40度以下の硬度を有すること、が好ましい。
【0010】
また、上記のような構成を有する本発明の蓄圧式消火器では、前記圧縮ガスがヘリウムガスを含み、前記縁部が、25℃において、ヘリウムに対して2.6×10-8~17.5×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]の気体透過性を示すこと、が好ましい。
【0011】
また、上記のような構成を有する本発明の蓄圧式消火器では、前記圧縮ガスが窒素ガスを更に含み、前記縁部が、25℃において、窒素に対して0.17×10-8~5.9×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]の気体透過性を示すこと、が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、蓄圧式消火器の容器内面の防錆処理を簡略化するとともに容器の封止のためのパッキンを省略することができる。これにより、消火器の製造コストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の代表的な実施形態に係る消火器1の断面図である。
【
図2】
図1の消火器に含まれる容器11及び袋15の概略図である。
【
図3】容器11に袋15を挿入する様子の一例を示す図である。
【
図4】容器11に袋15が装着された状態の一例を示す図である。
【
図5】容器11にバルブ13を装着する様子の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施形態に係る消火器を、図面を参照しつつ詳細に説明する。ただし、本発明はこれら図面に限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために、必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合もある。
【0015】
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係る消火器の構成を説明する。
消火器1は、蓄圧式であり、容器11、バルブ13、袋15、消火薬剤19、レバー21及びホース25を含む。容器11内には圧縮ガスが封入され、所定の内圧が作用している。
【0016】
容器11は、金属製であり、例えば鉄、鋼、アルミニウム又はこれらの合金で作製されていてもよい。容器11は、例えば
図2(a)に示すように有底の円筒形状を呈しており、所定の内圧(例えば1MPa程度)に耐えるように設計されている。
【0017】
容器11の内面には、防錆処理が施されていてもよいし、省略されてもよい。また、容器11の内面が防錆処理される場合でも、追って述べるように消火薬剤19が容器11の内面に直接的には接触しないことから、防錆処理は簡略化されてよい。
【0018】
容器11は、筒状の口部12を有する。口部12を介して、袋15及び消火薬剤19が容器11内に挿入される。そして、図面上では省略されているが、口部12の外周面上のネジ山がバルブ13の内周面上のネジ溝と係合することで、バルブ13が口部12に装着されることになる。
【0019】
容器11には、高分子材料製の袋15が収納されている。この高分子材料は樹脂であってもゴムであってもよい。袋15は、口部12から容器11内に挿入可能な程度の柔軟性を有するとともに、消火薬剤19に対して腐食耐性を有する。
【0020】
袋15は、全体として風船のような外形を有しており、例えば
図2(b)に示すように容器11の内面に対応した形状でもよい。かかる袋15は、袋本体16及び袋本体16よりも肉厚に形成された縁部17を有している。袋15の詳細は追って述べる。
【0021】
図1に戻って、袋15内には、粉末状又は液体状の消火薬剤19が充填されている。したがって、容器11と消火薬剤19との間には袋15が介在し、容器11と消火薬剤19とが直接的に接触しないように設計されている。なお、容器11内に挿入された袋15内には、消火薬剤19のほかに高圧の不活性ガス(圧縮ガス)が封入されることになる。本実施形態では、不活性ガスとして窒素ガス及びヘリウムガスが想定されているが、これに限られない。
【0022】
容器11の口部12には、バルブ13が装着されている。バルブ13は、容器11内を封止するとともに、ユーザのレバー操作に応じて容器11内の消火薬剤19をホース25を介して噴射させる。容器11内の封止は、バルブ13が袋15の縁部17を容器11の口部12との間に挟み込むことで実現される。
【0023】
バルブ13には、容器11(袋15)内の消火薬剤19をバルブ13に導くためのサイホン管23が接続されている。また、バルブ13には、先端にノズル27を有するホース25が連結されている。
【0024】
バルブ13の上端にはレバー21が取り付けられている。このレバー21を閉じると、バルブ13が開いてサイホン管23とホース25とが連通し、消火薬剤19がノズル27から噴射することになる。
【0025】
ここで、袋15を詳細に説明する。
袋15は、上記のように、樹脂又はゴム等の高分子材料で構成することができるが、柔らかい袋体であり、かつ、縁部17において容器11の口部12を封止できる程度の厚みを有した一体成形品である。つまり、袋15は、容器11の封止と容器11の内面の防錆との両方の機能を有する。これにより、容器11の内面の防錆処理をする必要性を無くし、そうでないとしても簡略化された防錆処理で足り、したがって消火器1の製造工程の削減を図ることが可能となる。このことは、消火器の製造のための時間及びコストの削減に寄与する。
【0026】
本実施形態では、袋15はゴム風船のように柔らかい袋体であるのが好ましく、例えばアクリロニトリル・ブタジエンゴム(例えばアクリロニトリル27%、39%)等のゴムで構成されているのが好ましいが、これに限られない。他の樹脂又はゴムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレンプロピレンゴム、スチレンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、などが考えられる。
【0027】
本実施形態で用いる袋15としては、以下の条件を満たすものが好適である。
(1) 袋15の容積:
容器11内の袋15には、常に所定の内圧が作用することになる。この状態で、袋15が常圧下での容積V2(すなわち、袋15が常圧下で収容することができる流体又は粉体の体積)を超えて膨張すると、袋15に破断が生じたり破断が進行したりするなど、袋15の耐久性に問題が起きる可能性がある。袋15の膨張を抑制するためには、袋15が膨らまない状態、即ち常圧下での袋15の容積V2が、容器11の容積V1以上であることが条件になる。
【0028】
逆に、袋15の常圧下での容積V2が容器11の容積V1に比して大きすぎると、袋15が容器11内で皺になる(つまり折り重なる)。この状態で消火薬剤19を放射しようとすると、袋15がサイホン管23に吸い込まれ、消火薬剤19の放射が阻害される恐れがある。また、消火器1の組立工程において、容器11内への袋15の挿入が困難になったり、袋15がサイホン管23の挿入時に傷付けられたりする恐れがある。
【0029】
これらを考慮し、袋15の常圧下での容積V2が容器11の容積V1の1.0倍以上かつ1.5倍以下の範囲に収まるように、容積V2を決定することが望ましい。つまり、容積V1,V2の間には、1.0×V1≦V2≦1.5×V1の関係があることが好ましい。
【0030】
(2) 縁部17の厚み:
本実施形態の袋15では、縁部17が袋本体16よりも分厚く(肉厚に)成型され、このような縁部17を容器11(口部12)のシール材として使用することとしている。蓄圧式消火器に求められる所定のシール性能を満たすため、縁部17の厚みT1は、常圧下で1.0mm以上であることが好ましく、更には2.0mm以上であることが好ましい。
【0031】
(3) 袋本体16の厚み:
袋本体16の厚みT2は、上述した消火器1の組立時の問題点を考慮すると、1mm未満であることが望ましい。また、組立時の破れにくさ等を考慮すると、袋本体16の厚みT2は、0.02mm以上であることが望ましい。
このことから、厚みT1,T2の間には、T1>T2の関係がある。更に、袋15の容器11への収納しやすさと上記のシール性能とを両立させるためには、T1>2×T2であることが好ましい。
【0032】
(4) 硬度(硬さ):
容器11内に袋15を挿入しやすいように、袋15が所定の柔軟性を持つことが好ましい。袋15の好適な硬度(硬さ)の範囲は、15度以上かつ40度以下である。袋15が15度未満の硬度であると(つまり袋15が柔らかすぎると)、袋15の製造が難しくなり、製造コストが上がるため、消火器用としては現実的ではない。また、袋15の硬度が40度を超えると、袋15が硬すぎて組立てに適さない。
更に、汎用性、組立性及び製造コストを両立する観点からは、袋15の硬度は25度以上かつ35度以下であることが好ましい。
【0033】
(5) 縁部17の気体透過性:
圧縮ガスとしてヘリウム及び窒素を含む気体が採用される場合には、縁部17は、25℃において、ヘリウムに対しては2.6×10-8~17.5×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]の、窒素に対しては0.17×10-8~5.9×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]の気体透過性(気体透過量)をそれぞれ示すことが望ましい。ここでは、本技術分野の慣例に従い、気体透過性を、1気圧の下で当該気体が任意の厚み(cm)の試料を単位面積(cm2)あたりに単位時間(1sec)に通過する体積(cc)で表している。
【0034】
具体的に説明すると、袋15内には、消火薬剤19を押し出すための圧縮ガス(窒素及びヘリウムを含む)を封じ込める必要がある。容器11(口部12)のシール性を考慮し、袋15の縁部17の気体透過性は、25℃において、ヘリウムに対しては17.5×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]以下であり、かつ、窒素に対しては5.9×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]以下であることが望ましい。
【0035】
一方、縁部17の気体透過性は、ヘリウムに対して2.6×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]未満である必要はなく、また、窒素に対して0.17×10-8[cc・cm/cm2・sec・atm]未満である必要性はない。このような気体透過性は、蓄圧式消火器に求められる性能としては過度であると考えられる。
【0036】
上記の気体透過性を有する縁部17は、縁部17の単位面積当り、厚み当りのガス透過量において、従来の蓄圧式消火器に用いられるパッキンと同等であるため、縁部17でパッキンを代替することができる。
【0037】
次いで、
図3~
図5を参照して、本実施形態に係る消火器1の組立手順を説明する。
まず、容器11を準備する。容器11の内面には防錆処理を施しても施さなくてもよいが、袋15が消火薬剤19と容器11との間に介在するため、防錆処理は従来の蓄圧式消火器に比べて簡潔でよい。したがって、防錆処理に要する時間及びコストを削減することが可能となる。
【0038】
次いで、
図3に示すように、容器11の口部12から袋15を挿入する。袋15は十分な柔軟性を有するため、袋15の容器11内への挿入はスムーズに行われる。また、袋15の常圧下での容積V2は、容器11の容積V1に対して所定の倍率(1.0以上かつ1.5以下)であるため、袋15の容器11内への挿入に困難が生じたり、袋15が容器11内で過度に折り重なったりすることはない。このとき、袋15の縁部17は、
図4に示すように、容器11の口部12から露出するようにしておく。
【0039】
そして、袋15の縁部17から消火薬剤19を注入する。
この状態において、
図5に示すように、一体化されたバルブ13、レバー21及びサイホン管23を袋15内に挿入する。このとき、袋15は容器11内で過度に折り重なっていないので、例えばサイホン管23の先端で袋15を傷付けることを抑制することができる。
【0040】
そして、バルブ13を容器11の口部12にねじ込んで固定する。このとき、バルブ13と口部12の間に袋15の縁部17が挟みこまれ、容器11内が封止されることになる。したがって、パッキン等のシール材を省略することができる。
その後、容器11(袋15)の内部に圧縮ガスを封入し、ホース25を取り付けると、消火器1が完成する。
【0041】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それらも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・消火器、
11・・・容器、
12・・・口部、
13・・・バルブ、
15・・・袋、
16・・・袋本体、
17・・・縁部、
21・・・レバー、
25・・・ホース。