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特許7160306無電解めっきの前処理用組成物、無電解めっきの前処理方法、無電解めっき方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】無電解めっきの前処理用組成物、無電解めっきの前処理方法、無電解めっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/24 20060101AFI20221018BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C23C18/24
C23C18/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018098434
(22)【出願日】2018-05-23
(65)【公開番号】P2019203168
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 啓
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-081127(JP,A)
【文献】国際公開第2018/083884(WO,A1)
【文献】特開2006-070319(JP,A)
【文献】特開2004-238731(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10mg/L~200g/Lの過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有し、
pHが1以下である、ことを特徴とする、
無電解めっきの60℃を超える条件で使用する前処理用組成物。
【請求項2】
前記前処理用組成物に、樹脂基板の被処理面を接触させる際、被処理面のエッチングと触媒付与とを同時に行なう為の、請求項1に記載の前処理用組成物。
【請求項3】
樹脂材料の無電解めっきの前処理方法であって、
前処理用組成物に、60℃を超える条件で、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L~200g/Lの過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有し、pHが1以下である、
ことを特徴とする無電解めっきの前処理方法。
【請求項4】
樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)前処理用組成物に、60℃を超える条件で、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、及び
(2)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程2を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L~200g/Lの過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有し、pHが1以下である、
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項5】
前記無電解めっき液は、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有する、請求項4に記載の無電解めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっきの前処理用組成物、無電解めっきの前処理方法、無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、樹脂成形体として、例えばABS樹脂、PC/ABS樹脂、PPE樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケルなどのめっきが施されている。更に、樹脂基板に対して導電性を付与して導体回路を形成する方法としても、樹脂基板上に銅などのめっき皮膜を形成する方法が行われている。
【0003】
樹脂基板、樹脂成形体等の樹脂材料にめっき皮膜を形成する一般的な方法として、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料の表面を粗化した後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が行われている。
【0004】
しかしながら、上述の方法では、クロム酸を用いるため環境や人体に有害であるという問題がある。また、触媒を付与するために高価なパラジウムを使用するので、費用が高くなるという問題がある。また、エッチング処理工程を行った後、更に触媒付与工程を別途行う必要があり、工程が多くなるという問題がある。
【0005】
樹脂材料にめっき皮膜を形成する方法として、金属アクチベータ分子種を含む水性溶液をめっきしようとする部品と接触させてエッチングし、金属アクチベータ分子種を還元することが可能な還元剤の溶液と接触させ、部品を無電解メッキ溶液と接触させることにより金属めっきする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アクチベータ分子種の成分については検討の余地があり、めっき皮膜の形成が十分でないという問題がある。
【0007】
従って、有害なクロム酸及び高価なパラジウムを使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、且つ、工程を少なくすることが可能な無電解めっきの前処理用組成物、前処理方法、及び無電解めっき方法の開発が求められている。
【0008】
化学メッキを施すプリント回路板を製造する際に、被メッキ表面にジエン系ゴムを含む接着剤層を設けた後、この接着剤の表面を銀塩等と過硫酸塩等とを含有する酸化性エッチング液に接触させて、化学メッキ用下地の形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に記載の方法では、エッチング浴の温度は室温から60℃であり、即ち60℃を超える浴温では利用されない。
【0009】
樹脂成形体に対する無電解めっきの前処理方法において、マンガン酸塩を含むエッチング液を用いて樹脂成形体に対してエッチング処理を行った後、還元性化合物及び無機酸を含む水溶液に該樹脂成形体を接触させる工程を含む前処理方法が提案されている(特許文献3参照)。そのエッチング液は更に過硫酸塩を含んでも良い。そのエッチング液を用いる方法では、更に、アミン化合物を含有する水溶液に接触させて表面調整を行う工程、無電解めっき用触媒を付与する工程等を行い、無電解めっきを行う。
【0010】
プラスチック表面の処理方法として、プラスチックを、硫酸を電気分解した溶液で処理する方法が提案されている(特許文献4参照)。その溶液は過硫酸を含んでも良い。その硫酸溶液を用いる方法では、更に触媒付与工程及び活性化工程を経て無電解ニッケルめっきを施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第4198799号公報
【文献】特開昭54-81127号公報
【文献】国際公開番号WO2008/143190(特許第5585980号公報)
【文献】特開2017-197831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、有害なクロム酸及び高価なパラジウムを使用することなく、高いめっきの析出性を示すことができ、且つ、工程を少なくすることが可能な無電解めっきの前処理用組成物、前処理方法、及び無電解めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する無電解めっきの60℃を超える条件で使用する前処理用組成物、前処理方法、及び無電解めっき方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記の無電解めっきの前処理用組成物、前処理方法、及び無電解めっき方法に関する。
【0015】
項1.
10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有することを特徴とする無電解めっきの60℃を超える条件で使用する前処理用組成物。
【0016】
項2.
pHが1以下である、項1に記載の前処理用組成物。
【0017】
項3.
前記前処理用組成物に、樹脂基板の被処理面を接触させる際、被処理面のエッチングと触媒付与とを同時に行なう為の、項1又は2に記載の前処理用組成物。
【0018】
項4.
樹脂材料の無電解めっきの前処理方法であって、
前処理用組成物に、60℃を超える条件で、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する、
ことを特徴とする無電解めっきの前処理方法。
【0019】
項5.
樹脂材料の無電解めっき方法であって、
(1)前処理用組成物に、60℃を超える条件で、前記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、及び
(2)前記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程2を有し、
前記前処理用組成物は、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する、
ことを特徴とする無電解めっき方法。
【0020】
項6.
前記無電解めっき液は、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有する、項5に記載の無電解めっき方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の無電解めっきの前処理用組成物によれば、有害なクロム酸及び高価なパラジウムを使用することなく、後工程での無電解めっきにおいて高いめっきの析出性を示すことができる。また、本発明の無電解めっきの前処理用組成物によれば、エッチング工程と触媒付与工程とを別々に行う必要がなく、無電解めっきを行う際の工程を少なくすることができる。
【0022】
また、本発明の無電解めっきの前処理方法によれば、前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させることで、当該被処理面をエッチング処理すると共に、当該被処理面に銀触媒を付与することができるので、樹脂材料の被処理面を容易に処理することができ、且つ、前処理工程を少なくすることができる。
【0023】
更に、本発明の無電解めっき方法によれば、前処理工程において、前処理用組成物に、樹脂材料の被処理面を接触させることで、当該被処理面をエッチング処理すると共に、当該被処理面に銀触媒を付与することができ、触媒付与工程及びアクセレーター処理工程が不要となるので、樹脂材料の被処理面を容易に処理することができ、且つ、無電解めっきを行う際の工程を少なくすることができる。
【0024】
また、本発明の無電解めっきの前処理用組成物によれば、従来技術であるクロム酸エッチングや、マンガン塩を用いたエッチング液と比較して、酸化力の高い重金属イオンを用いないため、排水処理性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0026】
1.無電解めっきの前処理用組成物
本発明の無電解めっきの前処理用組成物(以下、単に「前処理用組成物」とも示す。)は、60℃を超える条件で使用する前処理用組成物であり、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する。本発明の前処理用組成物は、特定量の過硫酸イオン及び特定量の1価の銀イオンを含有するので、樹脂材料の被処理面に対するエッチング力の低下が抑制されており、触媒の付与が十分となる。
【0027】
例えば、クロム酸と銀イオンを含有する前処理用組成物では、組成物中で不溶性の沈殿物であるクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成して、銀イオンが系外に排出されてしまい、触媒の付与が十分でない。
【0028】
これに対し、本発明の前処理用組成物は、過硫酸イオンおよび1価の銀イオンを含有するので、60℃を超える条件で、樹脂材料の被処理面を接触させた後に、当該被処理面を無電解めっき液に接触させることにより、被処理面に密着性の良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0029】
また、本発明の前処理用組成物は、過硫酸イオンおよび1価の銀イオンを含有するので、樹脂基板の被処理面を接触させることで被処理面のエッチングと触媒付与とを同時に行なうことができるため、触媒付与工程が省略可能となる。すなわち、本発明の前処理用組成物は、前記前処理用組成物に、60℃を超える条件で、樹脂基板の被処理面を接触させる際、被処理面のエッチングと触媒付与とを同時に行なう為の、最適な前処理用組成物である。
【0030】
更に、本発明の前処理用組成物は、従来の触媒付与工程のようにパラジウム-錫コロイド溶液を使用する必要がなく、錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)工程も省略可能となる。
【0031】
すなわち、本発明の前処理用組成物によれば、有害なクロム酸及び高価なパラジウムを使用することなく、後工程での無電解めっきにおいて高いめっきの析出性を示すことができる。また、本発明の無電解めっきの前処理用組成物によれば、エッチング工程と触媒付与工程とを別々に行う必要がなく、アクセレーター処理工程を行う必要がないので、無電解めっきを行う際の工程が大幅に短縮される。
【0032】
(過硫酸イオン)
前処理用組成物に過硫酸イオンを付与するための化合物として、特に限定されず、過硫酸、もしくはその塩を用いることが好ましい。
【0033】
過硫酸イオンは、ペルオキソ一硫酸イオン、ペルオキソ二硫酸イオン、もしくはペルオキソ一硫酸イオンとペルオキソ二硫酸イオンとの混合物を用いてもよい。
【0034】
ペルオキソ一硫酸イオン、ペルオキソ二硫酸イオンを付与するための化合物として、カリウム塩、アンモニウム塩、セシウム塩、タリウム塩等を用いることが好ましい。過硫酸イオンを付与するための化合物として、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等を用いることが好ましい。
【0035】
また、硫酸の電気分解により発生する過硫酸を用いてもよい。硫酸の電気分解を行うと、硫酸が電解されてペルオキソ二硫酸等の過硫酸が生成する。
【0036】
過硫酸塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の前処理用組成物において、過硫酸イオンの含有量は10mg/L以上である。過硫酸イオンの含有量が10mg/L未満であると、樹脂材料を十分にエッチングできず、無電解めっきにより形成される皮膜の密着性が低下する。過硫酸イオンの含有量は、10mg/L~300g/Lが好ましく、100mg/L~200g/Lがより好ましく、0.5g/L~100g/Lが更に好ましく、1g/L~50g/Lが特に好ましい。過硫酸イオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物のエッチング力がより一層向上する。
【0038】
(銀イオン)
本発明の前処理用組成物が含有する銀イオンは、1価の銀イオンである。1価の銀イオンを付与するための銀塩としては、前処理用組成物中に溶解した際に浴中で安定した1価の銀イオンを付与することができ、銀塩を形成する対イオンが過硫酸イオンに悪影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。具体的には硫酸銀(I)、硝酸銀(I)、酸化銀(I)が挙げられる。これらの中でも、溶解度が高く工業的に使用し易い点で、硝酸銀(I)が好ましい。
【0039】
銀塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の前処理用組成物において、1価の銀イオンの含有量は10mg/L以上である。1価の銀イオンの含有量が10mg/L未満であると、無電解めっきが十分に析出できない。1価の銀イオンの含有量は、10mg/L~20g/Lが好ましく、50mg/L~15g/Lがより好ましく、100mg/L~10g/Lが更に好ましい。1価の銀イオンの含有量の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料の表面に十分な量の銀触媒が吸着して、無電解めっき皮膜がより一層十分に析出する。また、1価の銀イオンの含有量の上限が上記上限以上であっても悪影響を与えることはないが、上記上限とすることにより、銀塩の使用量を抑えることができ、コストを低減することができる。
【0041】
銀イオンとしては、また、金属銀を酸性過硫酸浴中に添加して、溶解させて得られる1価銀を用いてもよい。酸性過硫酸浴を形成するための酸としては特に限定されず、無機酸及び有機スルホン酸を使用することができる。
【0042】
無機酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、排水処理性により一層優れる点で、硫酸が好ましい。
【0043】
有機スルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ペンタンスルホン酸等の炭素数1~5の脂肪族スルホン酸;トルエンスルホン酸、ピリジンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸等が挙げられる。
【0044】
上記酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の前処理用組成物中の酸濃度は特に限定されず、例えば、合計の酸濃度として100~1800g/Lが好ましく、800~1700g/Lがより好ましい。
【0046】
(溶媒)
本発明の前処理用組成物は、上記過硫酸イオン、上記銀イオン、必要に応じて添加される他の成分が、溶媒に含有されることが好ましい。上記溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。
【0047】
上記溶媒は、安全性に優れる点で、水が好ましく、即ち、本発明の前処理用組成物は、水溶液であることが好ましい。
【0048】
アルコールとしては特に限定されず、エタノール等の従来公知のアルコールを用いることができる。
【0049】
水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、アルコールの濃度は低いことが好ましく、具体的にはアルコール濃度が1~30質量%程度であることが好ましい。
【0050】
本発明の前処理用組成物は、酸性であることが好ましい。前処理用組成物が酸性であることにより、樹脂材料のエッチング処理がより一層十分となる。本発明の前処理用組成物のpHは、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0051】
2.樹脂材料の無電解めっきの前処理方法
本発明の樹脂材料の無電解めっきの前処理方法は、前処理用組成物に、上記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1を有し、上記前処理用組成物は、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する無電解めっきの前処理方法である。
【0052】
(工程1)
工程1は、前処理用組成物に、60℃を超える条件で、上記樹脂材料の被処理面を接触させる工程である。
【0053】
前処理用組成物としては、上述の無電解めっきの前処理用組成物として説明したものを用いることができる。
【0054】
前処理用組成物に樹脂材料の被処理面を接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法、前処理用組成物を樹脂材料の被処理面に噴霧する方法等が挙げられる。これらの中でも、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料を前処理用組成物に浸漬する方法が好ましい。
【0055】
工程1における前処理用組成物の温度は60℃を超える条件で適宜設定する。工程1における前処理用組成物の温度は、60℃を超えて、100℃までの温度範囲が好ましく、60℃を超えて、90℃までの温度範囲がより好ましく、60℃を超えて、80℃までの温度範囲が更に好ましい。前処理用組成物の温度の下限を上記範囲とすることにより、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、前処理用組成物の温度の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0056】
その前処理用組成物の温度として、60℃を超える条件とは、例えば62℃以上の温度範囲が好ましく、65℃以上の温度範囲がより好ましい。
【0057】
工程1における、前処理用組成物と樹脂材料の被処理面との接触時間は、3~60分が好ましく、5~50分がより好ましく、10~40分が更に好ましい。前処理用組成物の接触時間の下限を上記範囲とすることにより、前処理用組成物に、60℃を超える条件で、上記樹脂材料の被処理面を接触させる時に、樹脂材料表面のエッチング及び触媒付与がより一層十分となる。また、接触時間の上限を上記範囲とすることにより、より一層装飾性に優れた皮膜外観を得ることができる。
【0058】
なお、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合、浴中に1価の銀イオンを添加すると直ちにクロム酸銀(AgCrO)の沈殿が生成するため銀が前処理用組成物中でイオンとして安定に存在できない。したがって、従来技術であるクロム酸-硫酸混合液を用いた場合は、本発明のように銀イオンを含有する前処理用組成物を用いることが困難である。
【0059】
被処理物となる樹脂材料を形成する樹脂については特に限定されず、従来からクロム酸-硫酸の混酸によってエッチング処理が行われている各種の樹脂材料を用いることができ、当該樹脂材料に対して良好な無電解めっき皮膜を形成することができる。樹脂材料を形成する樹脂としては、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン-プロピレンゴム成分等に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂が挙げられる。また、上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ化樹脂(例えば、PC樹脂の混合比率が30~70質量%程度のアロイ化樹脂)等も好適に使用できる。更に、耐熱性、物性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリブチレンテレフタラート(PBT)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアミド樹脂等も用いることができる。
【0060】
樹脂材料の形状、大きさ等は特に限定されず、本発明の前処理方法によれば、表面積の広い大型の樹脂材料に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成することができる。このような大型の樹脂材料としては、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドル等の自動車関連部品;電気・電子分野での外装品;水廻り等で使用されている水栓金具;パチンコ部品等の遊技機関係品等が挙げられる。
【0061】
以上説明した工程1により、樹脂材料の被処理面が前処理用組成物に接触し、当該被処理面が処理される。
【0062】
本発明の前処理方法は、樹脂材料の被処理面の汚れを除去するために、上記工程1の前に、脱脂処理を行ってもよい。脱脂処理としては特に限定されず、従来公知の方法により脱脂処理を行えばよい。
【0063】
本発明の前処理方法は、工程1の後に、樹脂材料の表面に付着した過硫酸を除去するために、無機酸を含有する後処理液を用いて後処理を行ってもよい。
【0064】
無機酸については特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ホウ酸等が挙げられる。これらの中でも、過硫酸の除去性に優れる点で、塩酸が好ましい。
【0065】
上記無機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
後処理液中の無機酸の含有量は特に限定されず、1~1000g/L程度とすればよい。
【0067】
後処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の後処理液中に、上記前処理方法により前処理された樹脂材料を1~10分程度浸漬すればよい。上記後処理により、形成されるめっき皮膜の析出性および外観をより一層向上させることができる。
【0068】
以上説明した樹脂材料の無電解めっきの前処理方法により、樹脂材料の被処理面をエッチング処理すると共に、当該被処理面に銀触媒を付与することができ、後工程での無電解めっきにおいて高いめっきの析出性を示すことができる。
【0069】
3.樹脂材料の無電解めっき方法
本発明の樹脂材料の無電解めっき方法は、(1)前処理用組成物に、60℃を超える条件で、上記樹脂材料の被処理面を接触させる工程1、及び(2)上記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程2を有し、上記前処理用組成物は、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する無電解めっき方法である。
【0070】
(工程1)
本発明の樹脂材料の無電解めっき方法における工程1は、上述の樹脂材料の無電解めっきの前処理方法における工程1として説明した工程と同一である。
【0071】
(工程2)
工程2は、上記樹脂材料の被処理面を、無電解めっき液に接触させる工程である。
【0072】
上記樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法により接触させればよい。当該方法としては、より一層接触効率に優れる点で、樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に浸漬する方法が好ましい。
【0073】
無電解めっき液としては特に限定されず、従来公知の自己触媒型無電解めっき液を用いることができる。当該無電解めっき液としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解ニッケル-コバルト合金めっき液、無電解金めっき液等が挙げられる。
【0074】
無電解めっき液は、還元剤として、銀に対して触媒活性を示す還元剤を含有することが好ましい。当該還元剤としては、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン等が挙げられる。
【0075】
樹脂材料の被処理面を無電解めっき液に接触させる条件としては特に限定されず、例えば、樹脂材料を無電解めっき液に浸漬する場合には、無電解めっき液の液温を20~70℃程度とし、浸漬時間を3~30分程度とすればよい。
【0076】
無電解めっき液中の還元剤の含有量は特に限定的されず、0.01~100g/L程度が好ましく、0.1~10g/L程度がより好ましい。還元剤の含有量の下限を上記範囲とすることで、めっきの析出性がより一層向上し、還元剤の含有量の上限を上記範囲とすることで、無電解めっき浴の安定性がより一層向上する。
【0077】
本発明の無電解めっき方法では、必要に応じて、工程2を2回以上繰り返して行ってもよい。工程2を2回以上繰り返すことで、無電解めっき皮膜が二層以上形成される。
【0078】
本発明の無電解めっき方法は、無電解めっきの析出性を向上させるために、工程2の前に、還元剤及び/又は有機酸を含有する活性化処理液による活性化処理を行ってもよい。
【0079】
活性化処理に用いる還元剤としては特に限定されず、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジン、次亜リン酸塩、エリソルビン酸、アスコルビン酸、硫酸ヒドロキシルアミン、過酸化水素、グルコース等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ジメチルアミンボラン、ホルマリン、グリオキシル酸、テトラヒドロホウ酸、ヒドラジンが好ましい。
【0080】
上記還元剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
活性化処理液中の還元剤の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lが好ましく、1~50g/L程度がより好ましく、2~25g/Lが更に好ましい。
【0082】
活性化処理に用いる有機酸としては特に限定されず、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でも、めっき析出性がより一層良好である点で、ギ酸、シュウ酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸が好ましい。
【0083】
上記有機酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
活性化処理液中の有機酸の濃度としては特に限定されず、0.1~500g/Lが好ましく、1~50g/L程度がより好ましく、2~25g/Lが更に好ましい。
【0085】
活性化処理方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の活性化処理液中に、上記工程1により前処理された樹脂材料を数秒~10分程度浸漬すればよい。
【0086】
本発明の樹脂材料の無電解めっき方法では、工程2の後に、更に電気めっき工程を有していてもよい。
【0087】
電気めっき工程は、上記工程2の後、必要に応じて、酸、アルカリ等の水溶液によって活性化処理を行い、電気めっき液に浸漬して、電気めっきを行えばよい。
【0088】
電気めっき液は特に限定されず、従来公知の電気めっき液から目的に応じて適宜選択すればよい。
【0089】
電気めっき方法としては特に限定されず、例えば、液温15~50℃程度の活性化処理液中に、上記工程2により無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を電流密度0.1~10A/dm程度の条件で数秒~10分程度浸漬すればよい。
【実施例
【0090】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0091】
(無電解めっき皮膜の作製)
被めっき物である樹脂材料として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:UMG ABS3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm2)を用意し、以下の方法で無電解めっき皮膜を形成した。
【0092】
まず、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に樹脂材料を40℃で5分間浸漬し、水洗した。
【0093】
次いで、溶媒としての水に、表1及び2に示す配合で添加剤を添加して、実施例及び比較例の前処理用組成物を調製した。水洗後の樹脂材料を、調製した前処理用組成物に、浸漬温度68℃、浸漬時間30分の条件で浸漬した。
【0094】
最後に、溶媒としての水に、表1及び2に示す配合で添加剤を添加して調製した無電解めっき液に、樹脂材料を40℃で10分間浸漬して、無電解めっき皮膜を形成した。また、前処理用組成物について、浸漬温度を62℃とした時(実施例2)、及び58℃とした時(比較例1)についても、同様に、これから調製した無電解めっきを用いて無電解めっき皮膜を形成した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
以上の方法で形成されためっき皮膜の被覆率及び密着性を下記の方法によって評価した。
【0098】
(1)被覆率
樹脂材料表面の無電解めっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率として評価した。樹脂材料表面の全面が被覆された場合を被覆率100%とした。
【0099】
(2)ピール強度測定
無電解めっき皮膜が形成された樹脂材料を硫酸銅めっき浴に浸漬し、電流密度3A/dm2、温度25℃の条件で電気めっき処理を120分間行い、銅めっき皮膜を形成し、試料を作製した。当該試料を、80℃で120分間乾燥させ、室温になるまで放置した。次いで、めっき皮膜に10mm幅の切り目を入れ、引っ張り試験器((株)島津製作所製、オートグラフAGS-J 1kN)を用いて、樹脂材料の表面に対して垂直方向にめっき皮膜を引っ張り、ピール強度を測定した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
表3の結果から、10mg/L以上の過硫酸イオン及び10mg/L以上の1価の銀イオンを含有する実施例1~5の前処理用組成物に浸漬した後に、無電解めっき液に浸漬することにより形成されるめっき皮膜は、被覆率が高く密着性も優れることが分かった。
【0102】
また、実施例1~6の前処理用組成物に浸漬した後に、無電解めっき液に浸漬することにより形成されためっき皮膜は、被覆率が100%であり十分に被覆されているため、別途触媒付与工程により触媒を付与し、被覆率を高める必要がないことが分かった。このため、本発明の無電解めっきの前処理用組成物を用いることにより、無電解めっき皮膜の形成の際に用いられる治具の表面への触媒の付着が抑制されて、治具の表面でのめっき皮膜の析出が抑制されることが分かった。これにより、治具を繰り返し用いて無電解めっき皮膜を形成する際に、治具の表面に析出しためっき皮膜が粒状の形状で剥離して、各工程で樹脂材料表面の無電解めっき皮膜に取り込まれて生じる樹脂材料表面の無電解めっき皮膜の凹凸の発生が抑制される。
【0103】
実施例1~6と比較例1との比較により、浸漬温度を、60℃を超える温度とすることで(実施例1~6)、被覆率が100%となり、ピール強度が10N/cmを超える良好な結果となった。一方、比較例1は、浸漬温度が58℃のときであり、被覆率が不十分であった。
【0104】
一般に、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料に前処理を施し、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物等を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与する場合、クロム酸が触媒毒となり、治具の表面への触媒の付着が抑制されて、治具の表面へのめっき皮膜の析出が抑制される。しかし、環境等を考慮してクロム酸を用いない場合、治具にめっき皮膜が析出することに起因して上述の樹脂材料表面に形成される無電解めっき皮膜の凹凸が発生してしまうという問題がある。
【0105】
これに対し、本発明の前処理用組成物に浸漬した後に、無電解めっき液に浸漬することにより形成されるめっき皮膜は、被覆率が100%であり十分に被覆されているため、別途触媒付与工程により触媒を付与し、被覆率を高める必要がない。このため、無電解めっき皮膜の形成の際に用いられる治具の表面への触媒の付着が抑制されて、治具の表面でのめっき皮膜の析出が抑制され、上述の樹脂材料表面に形成される無電解めっき皮膜の凹凸の発生が抑制される。
【0106】
過硫酸イオンを含有しない比較例2、過硫酸イオン濃度が10mg/L未満である比較例3の前処理用組成物を用いた場合には、めっき皮膜の密着性が低いことが分かった。
【0107】
また、1価の銀イオン濃度が10mg/Lを下回る比較例4及び5の前処理用組成物を用いた場合には、形成されるめっき皮膜は被覆率が劣ることが分かった。