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  • 特許-ヒト用炎症性疾患抑制機能性食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】ヒト用炎症性疾患抑制機能性食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20221018BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20221018BHJP
   A61K 35/616 20150101ALI20221018BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L17/00 H
A61K35/616
A61P19/02
A61P25/04
A61P29/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018248905
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020100612
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】506022577
【氏名又は名称】山下 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100209200
【弁理士】
【氏名又は名称】渋木 隆
(72)【発明者】
【氏名】山下 雅子
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Oleo Science,2013年,Vol.62, Issue 3,p.133-142
【文献】COLLIN, P. et al.,“Frondanol A5: A novel nutrapreventive and therapeutic agent derived from seacucumber showing promising antiproliferative, antiinflammatory and antiangiogenic activities.”,Cancer Epidemiol Biomarkers Prev,2006年,<URL:https://aacrjournals.org/cebp/article/15/12_Supplement/A80/230084/FrondanolR-A5-A-novel-nutrapreventive-and>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/10
A23L 17/00
A61K 35/616
A61P 19/02
A61P 25/04
A61P 29/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCOX-2に起因する疼痛を含む炎症性疾患の抑制または軽減を行うためのヒトの炎症性疾患抑制機能性食品であって、前記ヒトの炎症性疾患抑制機能性食品は、ヒトCOX-2活性阻害材料として、内臓を除去したキンコの乾燥粉末を含み、前記キンコの乾燥粉末は、前記機能性食品に対して、1mg~1000mgであることを特徴とするヒト用炎症性疾患抑制機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キンコから抽出された組成物がヒトCOX-2活性を阻害することにより、高齢者に多い腰痛及び関節痛を含む炎症性疾患を抑制または軽減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の愁訴の第一は疼痛であり、25~50%の高齢者が何らかの痛みで苦しんでいる。疼痛の原因の第一位は腰痛(罹患率17.1%)、第二が関節痛(14.5%)である。高齢者においては痛みが日常生活活動の低下に直結しやすい。高齢者は加齢に伴い感覚閾値が増加していくが、60歳を超えると急激に上昇する。そのため、慢性痛を予防するためには早期からの鎮痛が重要であることが明らかにされ、高齢者においても積極的に痛みをとることが奨められている(非特許文献1)
【0003】
疼痛の緩和に広く用いられているのは、非ステロイド系炎症剤である。非ステロイド系炎症剤は、遊離されたアラキドン酸からプロスタグランディンを合成する経路の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害することにより、鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮する。また、発熱時には種々のサイトカインの産生が促進され、視床下部にある体温調節中枢におけるPGE2の合成を増加させ、体温を上昇させるように働きかける。非ステロイド系炎症剤は、発熱時に産生されるプロスタグランディンの合成を阻害することで、解熱作用をもたらす。COX-2は脳や腎臓などで恒常的に発現するが、その他の組織では普段は発現が低く、炎症組織において発現が誘導されることから誘導型と称される。
【0004】
海産生物のナマコの組織画分がイヌの関節炎または炎症を改善することが報告されている(特許文献1)。また、ナマコを天日で液化し、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の濾過液にマウスでの侵害性疼痛抑制作用及びラットでの神経性疼痛抑制作用が報告されている(特許文献2)。
【0005】
食用に供されるマナマコは、分類学上、棘皮門―海鼠網―楯手目―マナマコ科に属する。学名はApostichopus armata(Selenka,1867)。温帯・熱帯域の潮間帯から深海まで分布範囲は広い。キンコは棘皮門―海鼠網―樹手目―キンコ科に属し、学名はCucumaria frondosa japonica(Mortensen,1932)。一名、フジコ。体長15~20cm。体は太った芋虫型で、体色は灰褐色ないし暗褐色、ときに黄白色。口部に同形同大の10本の触手をもつ。他のナマコ類と異なり、幼生はドリオラリア型をとり、アウリクラリア型をもたない。食用。東北地方から北海道、千島列島に分布する(非特許文献2)。ナマコとキンコは分類学上異なる。ナマコとキンコの一般成分を比較した試験では、キンコの粗蛋白質はナマコの数倍と報告されている(非特許文献3)。キンコの機能性については知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】日老医誌 1999年;36:769-775
【文献】ブリタニカ国際大百科事典 431ページ
【文献】釧路水試だより 第62号 平成元年9月発行
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2002-519384号公報
【文献】WO2007/026836号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまで、ナマコ由来成分の動物での抗炎症作用及び鎮痛作用が開示されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、これらは動物での試験であり、ヒトでの有効性を予測したものではない。ヒトでの日常活動における疼痛及び炎症疾患の病態は、強制的に行う動物試験での劇症の病態とは異なる。動物試験の結果がヒトを対象とする試験結果とほとんど一致しないことは周知である(Clin Eval 2010;38:385-92)。動物とヒトでは種差があるため、基質に対する親和性や薬理効果および病態に影響を及ぼことが考えられる。先願の動物試験での抗炎症作用及び鎮痛作用が、COX-2活性阻害によるものであるかは記載も示唆もされていない。
【0009】
従って、本発明者はヒトでの有効性の予測を高めるため、長期摂取しても安全な食経験のある素材について、ヒトCOX-2活性を直接阻害するかどうか探索することとした。本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、副作用が少なく、安全性が高く、長期にわたり摂取可能なヒトCOX-2により生じる疼痛を含む炎症性疾患の抑制または軽減のための機能性食品を提供することにある。
【発明が解決するための手段】
【0010】
本発明は安全な食素材を絶え間なく探索した結果、海産生物のキンコの内蔵除去物の粉末抽出液にヒトCOX-2活性を強く阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の発明を提供する。
1.キンコ若しくはその内蔵除去物の粉末から抽出された組成物を含む、ヒトCOX-2活性を阻害するための機能性食品。
2.キンコ若しくはその内蔵除去物の粉末から抽出された組成物を含む、ヒトCOX-2に起因する炎症疾患を抑制または軽減するための機能性食品。
3.ヒトCOX-2に起因する疾患が、高齢者に多い腰痛、関節痛、肩痛などの疼痛を抑制または軽減するための、キンコ若しくはその内蔵除去物の粉末から抽出された組成物を含む機能性食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、天然物由来の新規で安全性の高いヒトCOX-2活性を阻害する機能性食品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】キンコPBS抽出液、キンコエタノール抽出液およびCelecoxibのヒトCOX-2活性阻害率の結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の明細書の記載内容により、当業者であれば、容易に本発明は再現することができる。以下に記載された発明の実施の形態及び実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであり、本発明はそれらに限定されるものではない。
日本海沿岸の浅海に生息しているキンコは、いずれも使用することができる。内蔵を除去したキンコは熱湯でボイルし、冷却後に食品業界で良く使用される乾燥機で20℃から60℃の範囲内で、2~5日間乾燥する。乾燥キンコは、粗粉砕した後に微粉砕機で処理することで、粉末の「ククマリアフロンドーサ GM」として供給される。
【0014】
本発明の機能性食品の形態は、乾燥粉末の形態のほか、乾燥粉末を一般的に許容できるキャリアーまたは賦形剤と混合することによりカプセル、顆粒、錠剤、ゲル等の形態とすることができる。
【0015】
本発明の機能性食品の形態は、必要に応じて、経口用として許容される本発明の食品組成物以外の成分を有効成分と一緒に添加しても、製造することができる。有効成分と一緒に含むことができる安定化剤または希釈剤は、例えばデキストロース、ショ糖、乳糖、セルロース、バレイショデンプンまたはトウモロコシデンプンであり、潤滑剤は、例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、カルシウムであり、結合剤は、例えばデンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボシキメチルセルロースであり、崩壊剤は、例えばデンプン、アルギン酸、アルギナートまたはグリコール酸デンプンナトリウムである。これらとともに、色素、甘味剤等を用いて、既知の方法で混合、造粒、打錠、糖コーティング等により調製することができる。
【0016】
本発明の効果をより有効に発揮させるためには、それらの実施形態において、効果的な量を含むことが好ましい。上記効果的な量とは、約1mg~約5000mg、好ましくは約1mg~約3000mg、最も好ましくは約1mg~約1000mgの、乾燥粉末に相当する。
【0017】
本発明の機能性食品は、毎日一度またはそれ以上摂取してもよい。上記機能性食品は、適切な単位(例:カプセルまたは錠剤を5錠)で一日当たりに推奨される効果的な量の成分を提供することができる。
【0018】
ヒトCOX-2活性は、市販のヒトCOX-2測定キット等(例:Cayman Chemical社製の「COX-2(human)Inhibitor Screening Assay Kit」)を用いて測定することができる。
【実施例
【0019】
以下、本明細書において実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
(キンコ粉末の製造)
根室近海で採取されたキンコは、水洗い後に内蔵を除去し、さらに水で十分洗浄した。その後、食塩を加えて熱湯で30分間ボイルし、冷水で冷却した。水切したキンコを、棚式乾燥機により50℃で10時間乾燥後、さらに28℃で38時間乾燥した。キンコをさらに28℃で48時間乾燥した。得られた乾燥キンコは、粗粉砕(約10mm)後に微粉砕機により処理して、キンコ粉末を得た。
【実施例2】
【0021】
(キンコ粉末からの抽出液の製造)
リン酸緩衝液(PBS)を用いて、キンコ粉末の10%(100mg/mL)濃度を作成した。この濃度で85℃で8時間抽出し、4,000rmpで10分間遠心し、上清を回収し抽出液とした。アルコール抽出においては、エタノール(日本アルコール販売、99度、合成、無変性)を用いてキンコ粉末の10%(100mg/mL)濃度を作成した。抽出温度は室温とし、その他の抽出条件は、PBSでの抽出と同様に行った。
【実施例3】
【0022】
(キンコ粉末抽出液のヒトCOX-2活性阻害)
キンコ粉末から実施例2に示す2通りの方法(PBS抽出/エタノール抽出)で抽出液を得た。当該抽出液について、ヒトCOX-2活性に対する阻害作用を測定した。測定は、Cayman Chemical社製の「COX-2(Human)Inhibitor Screening Assay Kit(Item No.701080)」を使用し、COX-2選択的阻害活性を示す既存薬「Celecoxib(東京化成工業社(製品コード:C2816)」を陽性コントロールに設定し、同時に測定した。
【0023】
すなわち、反応液160μl、Hem10μl、COX-2(Human)10μl、被験物質10μlの計190μlを37℃で10分間インキュベーションし、アラキドン酸溶液10μlを添加し、さらに37℃で2分間インキュベーションした。塩化スズ30μlを添加して反応を停止し、生じたPGF2αを競合ELISAにより定量した。吸光度の測定には、マイクロプレートリーダー(TECAN,infinite M200)を用いた。その結果を図1に示した。試験結果をもとに、統計解析ソフトGraphPad Prism 5.0(GraphPad Software社)を用いて、IC50(50%ヒトCOX-2活性阻害濃度)を算定した(表)。
【0024】
【表
【0025】
キンコPBS抽出液のIC50は4.82mg/mlであり、キンコエタノール抽出液は阻害活性はみられたものの、測定のバラつきから解析困難であった。陽性対照としたCelecoxibのIC50は0.652μMと算出され、測定系の作動性が確認された。以上の結果として、ヒトCOX-2活性に対して、キンコ抽出液の顕著な阻害作用が確認された。
【実施例4】
【0026】
(錠剤の製造)
キンコ粉末25重量%、乳糖30重量%、結晶セルローズ30重量%、コーンスターチ10重量%、ステアリン酸カルシウム5重量%を混合して造粒した。造粒後、乾燥させて顆粒とし、これを打錠機にて1錠あたりの重量150~200mgに打錠し錠剤とした。
【0027】
上記錠剤は4錠を一日に1回又は2回に分けて水と共に服用する。
【実施例5】
【0028】
(カプセル剤の製造)
キンコ粉末200mg、結晶性セルロース12mg、ラクトース60mg、ステアリン酸マグネシウム1.2mgを混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0029】
上記カプセルは2個を一日に1回又は2回に分けて水と共に服用する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明におけるキンコ粉末から得られた抽出液は、ヒトCOX-2活性を阻害することから、副作用が少なく、安全性の高い機能性食品として、長期間にわたり摂取することができる。また、ヒトCOX-2に起因する疼痛を含む炎症性疾患の抑制または軽減に適用することができる
図1