(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】食品生地の丸め装置
(51)【国際特許分類】
A21C 7/00 20060101AFI20221018BHJP
A21C 7/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A21C7/00 A
A21C7/02
(21)【出願番号】P 2020020508
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】516245139
【氏名又は名称】株式会社工揮
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 信行
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-243939(JP,A)
【文献】実開昭60-106482(JP,U)
【文献】特開平02-231032(JP,A)
【文献】登録実用新案第3181727(JP,U)
【文献】特開2002-101809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C 1/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸が水平方向に対して傾斜して設けられ
る一対の搬送ロールと、
これら搬送ロールの間に張り渡されて回動すると共に生地玉の転動面を形成する搬送ベルトと、
前記転動面に対向配置されて当該転動面と協働して生地玉の走行溝を形成する複数の案内部材と、を備え、
前記複数の案内部材は
前記転動面の進行方向に連なって直列に配置されると共に、各案内部材は前記転動面の進行方向に対して傾斜配置され
て、各案内部材の走行溝の下流側端部は後段に位置する走行溝の上流側端部よりも高い位置に存在
し、
前記搬送ベルトの転動面の幅は各案内部材における生地玉の移動量にのみ対応し、
前記走行溝を多段に接続した生地玉の搬送通路が前記転動面に沿って構成され
て、
前記生地玉は前記搬送通路内を鋸刃状の軌跡を描きながら進行することを特徴とする食品生地の丸め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば混錬されたパン生地等の食品生地を所定サイズに分割した後に、分割された不整形の生地玉を丸める行程で使用する丸め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン工程では、ミキサーによってパン生地を練り上げた後、当該パン生地をパンの焼き上がりの大きさに応じた所定サイズに分割する必要がある。分割されたパン生地(以下、「生地玉」という)には切り口が残存しており、そのままの状態で発酵工程に進むと、当該発酵工程において発生した炭酸ガスが生地から抜けてしまい、焼成したパンの出来上がりが悪化してしまう。このため、製パン工場において大量にパンを生産する場合には、分割機から連続的に排出される生地玉を丸め装置に順次送り、分割後のふぞろいな形の生地玉を丸く整えて表皮を形成する必要がある。
【0003】
この種の丸め装置としては回転するドラムを用いるものなど、単位時間あたりに丸め整形を行う生地玉の数に応じて様々な形式のものが提案されている。そのうちの一つとして、特許文献1に開示されるように、無限循環する搬送ベルトによって生地玉を一定方向へ搬送しながら、当該生地玉の丸め整形を行うものが知られている。この丸め装置において、前記搬送ベルトは軸方向を水平方向に対して傾斜させた一対の駆動ロール及び従動ロールに架け回されており、更に前記搬送ベルトのベルト面に対向して一条の案内部材が配置されている。前記案内部材は凹溝を有する長尺な部材であり、前記凹溝を前記搬送ベルトのベルト面に対向させることで、当該案内部材と前記搬送ベルトの間に生地玉の搬送通路が形成されている。また、前記案内部材は前記搬送ベルトのベルト面を斜めに横切るように設けられている。
【0004】
このような特許文献1の丸め装置では、前記搬送通路の始端に生地玉を供給すると、当該生地玉が前記搬送ベルトの回動に伴って搬送通路内を転動しながら進行し、丸め整形がなされた後に前記搬送通路の終端から排出される。前記案内部材が前記搬送ベルトのベルト面を斜めに横切るようにして設けられていることから、前記生地玉は搬送通路内を転動する際に前記搬送ベルトに対して横方向のスリップを生じており、それによって生地玉の表皮が満遍なく整えられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示される丸め装置では、前記搬送ベルトの回動方向に対する前記案内部材の傾斜角度が小さくなると、当該搬送ベルトに対する生地玉のスリップ量が少なくなるので、生地玉に対する丸め整形が不十分なものになる懸念があった。また、生地玉の搬送通路の全長が短くなると、それによっても丸め整形が不十分なものになる懸念があった。
【0007】
その一方、前記搬送ベルトの回動方向に対する前記案内部材の傾斜角度を十分に大きく設定し、且つ、生地玉の搬送通路の全長を十分に長く設定すると、前記搬送ベルトの回動方向と直交する方向の大きさ、すなわち前記搬送ベルトの幅が大きなものとなってしまい、丸め装置そのものが大型化してしまうといった課題があった。
【0008】
また、丸め整形がなされた生地玉は中間発酵へ送られるが、生産するパン生地の種類によっては前記丸め装置のみでは丸め整形が不足する場合もある。そのような場合に工程間における生地玉の搬送を行いながら、併せて生地玉に対して追加の丸め整形を行うことができると便利である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、工程間における生地玉の搬送に併せて生地玉の丸め整形を行うことが可能であり、しかも装置全体の小型化を図っても良好な丸め整形を行うことが可能な食品生地の丸め装置を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明の丸め装置は、回転軸が水平方向に対して傾斜して設けられ一対の搬送ロールと、これら搬送ロールの間に張り渡されて回動すると共に生地玉の転動面を形成する搬送ベルトと、前記転動面に対向配置されて当該転動面と協働して生地玉の走行溝を形成する複数の案内部材と、を備えている。そして、前記複数の案内部材は前記搬送ベルトの進行方向に対して傾斜配置されると共に、前記搬送ベルトの転動面の進行方向に沿って一列に連なって配置され、前記走行溝を多段に接続した生地玉の搬送通路が前記転動面に沿って構成され、各案内部材の走行溝の下流側端部は後段に位置する走行溝の上流側端部よりも高い位置に存在している。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明によれば、前記搬送ベルトに沿って多段に接続された生地玉の走行溝のうち、当該生地玉の転動方向に沿って前後する走行溝の間には段差が存在しており、生地玉は前後する走行溝を乗り移る際に当該段差を落下することになるので、前記走行溝を多段に連ねて生地玉の搬送通路を構成しても、前記搬送ベルトの幅を小さく抑えることができ、搬送ベルトを利用した丸め装置のスリム化を図ることが可能となる。
【0012】
また、生地玉が搬送通路内で前後する走行溝を乗り移るたびにその姿勢は変化し、生地玉の丸め整形が促進されるので、前記搬送通路の全長を抑えつつも生地玉に対して十分な丸め整形を施すことが可能となり、丸め装置の小型化を図ることが可能になると共に、生地の種類にかかわらず生地玉に対して十分な丸め整形を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す正面図である。
【
図2】本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態の一例を示す平面図である。
【
図4】生地玉の搬送通路の一部を簡略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明を適用した食品生地の丸め装置の実施形態を説明する。
【0015】
図1乃至
図3は本発明をパン生地の丸め装置に適用した実施形態の一例を示すものであり、
図1は正面図、
図2は平面図、
図3は
図1のIII-III線断面図である。この丸め装置1は、生地分割機(図示せず)と組み合わせて使用されるものであり、所定大きさに分割されて当該分割機からベルトコンベアで次々に排出される生地玉を受け入れ、これら生地玉を直線的に搬送しながら丸め工程を施し、次工程に向けて排出するように構成されている。
【0016】
前記丸め装置1は、前記分割機から受け入れた生地玉を下流側の工程へ送る搬送ベルト2を備え、当該搬送ベルト2の全長にわたって生地玉の搬送通路3が設けられている。
図1中の矢線Aが前記搬送通路3における生地玉の搬送方向である。生地玉は前記搬送通路3内を転動しながら進行し、その際に丸め整形が実施される。前記搬送通路3の終端には丸め整形が完了した生地玉を次の処理工程へ落とし込む排出シュート30が設けられており、搬送通路3を転動してきた生地玉がそのまま前記排出シュート30に転がり落ちるようになっている。
【0017】
前記排出シュート30の上部には打ち粉の収納ボックス31が設けられており、前記搬送ベルト2の回転中はこの収納ボックス31から前記排出シュート30の入口付近に打ち粉が定量ずつ落下するようになっている。これにより、前記搬送通路3から排出シュート30に転がり出た生地玉3は打ち粉がまぶされた状態で次工程に送られる。
【0018】
前記搬送ベルト2は無端状をなしており、一対の搬送ロール(図示せず)に架け回されて、前記生地玉の転動面20を形成している。前記一対の搬送ロールは装置フレーム10に対して回転自在に保持されると共に、調整機構(図示せず)によってこれら一対の搬送ロールの間隔は微調整が可能であり、それによって前記搬送ベルト2に作用するテンションを調節することができる。また、一方の搬送ロールにはモータ21の回転出力が伝達されており、それによって前記搬送ベルト2は前記一対の搬送ロールによって区画された所定の経路で回動する。前記モータ21を制御することにより、前記搬送ベルト2の回転速度は前記分割機における生地玉の排出速度に応じて適宜調整可能となっている。
【0019】
前記一対の搬送ロールは回転軸方向が水平方向に対して所定の角度(例えば45度)で傾斜しており、
図3に示すように、前記搬送ベルト2における生地玉の転動面20は斜めに傾斜している。また、前記転動面20には複数の案内部材4が対向配置され、前記搬送ベルト2と前記複数の案内部材4によって生地玉の搬送通路3が構成されている。前記複数の案内部材4は前記フレーム10によって支持され、前記搬送ベルト2の転動面20の進行方向に沿って直列に配置されている。
【0020】
各案内部材4は、前記装置フレーム1に固定されたボトムプレート40と、前記ボトムプレート40に支持されたガイドプレート41とを備えている。前記ボトムプレート40はその端面を前記搬送ベルト2の転動面20に対向させ、当該転動面20に対して直交した状態で装置フレーム10に保持されている。従って、前記ボトムプレート40の一面と前記搬送ベルト2の転動面20によって断面略V字状の走行溝42が形成され、各案内部材4が形成する走行溝42を前記搬送ベルト2の進行方向に沿って直列に接続することで前述した生地玉の搬送通路3が構成されている。
【0021】
前記走行溝42を形成する前記ボトムプレート40の一面は前記搬送ベルト2の転動面20の進行方向に対して傾斜しており、当該走行溝42は生地玉の転動方向下流側の端部が上流側の端部に比べて高い位置に設けられている。すなわち、生地玉は各案内部材4の走行溝42を転動しながら前記搬送ベルト2の幅方向へ移動していることになる。また、前記案内部材4は支持部材11を介して前記装置フレーム10に固定されているが、前記搬送ベルト2の進行方向に対する前記ボトムプレート40の傾斜角を任意に調整すると共に、前記搬送ベルトと前記ボトムプレートの摺接具合を調整するため、前記支持部材11は前記ボトムプレート40の固定位置の調整機構を有している。
【0022】
前記ガイドプレート41は前記搬送ベルト2に覆い被さった凹状面を有しており、当該凹状面と前記搬送ベルト2の転動面20との距離は生地玉のサイズに応じて任意に調整することが可能となっている。このため、前記走行溝42内に存在する生地玉は前記搬送ベルト2の転動面20と前記ガイドプレート41との間に挟まれており、当該搬送ベルト2の進行に伴って前記ガイドプレート41に接しながら転動し、それによって走行溝42内で生地玉に対して丸め整形が施されるようになっている。
【0023】
前記搬送通路3の入口には分割機から送られてくる生地玉を受け取る入口部材5が設けられている。前記入口部材5は前記案内部材4と同様なボトムプレート50及びガイドプレート51を有しているが、上方から落とし込まれる生地玉を搬送通路3に受け入れるため、前記ガイドプレート51は前記搬送ベルト2の転動面20に覆い被さることなく起立し、後段に位置する案内部材4の走行溝42に対して生地玉を誘導している。
【0024】
図4は前記搬送ベルト2に沿って構築される生地玉の搬送通路3の一部を簡略的に示した図である。前述の如く各案内部材4は前記搬送ベルト2の転動面20と協働して生地玉6の走行溝42を形成しており、複数の案内部材4が当該搬送ベルト2の進行方向に連なって直列に配置されることで、前記走行溝42が多段に接続された生地玉6の搬送通路3が構成されている。図中の矢線A方向が前記搬送ベルト2の進行方向である。前記搬送ベルト2が矢線A方向へ進行することで、前記生地玉6が走行溝42の内部で転動しながら前記搬送通路3内を矢線A方向へ移動する。
【0025】
図4に示すように、前記案内部材4Bの走行溝42の上流側端部は、前段に位置する案内部材4Aの走行溝42の下流側端部よりも低い位置に存在しており、また、案内部材4Bの走行溝42の下流側端部は、後段に位置する案内部材4Cの走行溝42の上流側端部よりも高い位置に存在している。すなわち、前記生地玉6の搬送通路3には各走行溝42の接続部に段差が存在しており、生地玉6は前段の走行溝42から後段の走行溝42に乗り移る度に、図中に一点鎖線で示すように段差を落下し、前記搬送通路3の内部を鋸刃状に移動していくことになる。
【0026】
このように構成された本実施形態の丸め装置1では、各案内部材4の走行溝42に存在する生地玉6は前記搬送ベルト2の回動によって当該走行溝42内を転動するが、各案内部材4のボトムプレート40は前記搬送ベルト2の進行方向に対して斜めに設けられており、生地玉はスリップを生じながら前記搬送ベルト2上を斜めに移動していることになる。これにより、前記走行溝42を転動する生地玉に丸め整形が施される。
【0027】
また、前述したように、生地玉6の搬送通路3は複数の走行溝42を多段に接続して構成されているが、これら走行溝42の接続部には前段側が後段側よりも高い逆段差が設けられているので、複数の走行溝42を多段に接続して前記搬送通路3を構成しても、前記搬送ベルト2の幅W(
図4参照)は各案内部材4における生地玉の移動量にのみ対応していればよいことになる。このため、生地玉に対する十分な丸め整形を考慮し、前記走行溝42の段数を増やして前記搬送通路3の全長を増加させたとしても、前記搬送ベルト2の幅は小さく抑えることができ、丸め装置1のスリム化を図ることが可能となる。
【0028】
加えて、搬送通路3を走行する生地玉6は前段側の走行溝42から後段側の走行溝42に乗り移る度に当該逆段差を落下し、この落下の際に生地玉6は前記ガイドプレート41による拘束から解放されて姿勢を変化させることになる。すなわち、生地玉6は走行溝42を乗り移るたびに自転方向を変化させることになり、生地玉6が複数段の走行溝42を通過することにより当該生地玉6の丸め整形が促進され、結果として前記搬送通路3の全長を抑えて装置全体の小型化を図りつつも生地玉に対して十分な丸め整形を行うことが可能となる。
【0029】
従って、本発明を適用した丸め装置1では生地玉の丸め整形を促進しつつも、当該丸め装置のスリム化、小型化を図ることが可能である。また、本発明を適用した丸め装置1は生地玉を直線的に搬送すると共に、当該搬送に併せて効率の良い丸め整形を行うことが可能であり、工程間における生地玉6の搬送装置と丸め装置を兼用することが可能となる。
【0030】
尚、前述の実施形態では食品生地として混錬されたパン生地を例に挙げて説明したが、本発明の丸め装置の適用対象はこれ以外の他の食品生地であっても差し支えない。
【符号の説明】
【0031】
1…丸め装置、2…搬送ベルト、3…搬送通路、4…案内部材、6…生地玉、20…転動面、40…ボトムプレート、41…ガイドプレート、42…走行溝