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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】海苔網処理船
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20221018BHJP
【FI】
A01G33/02 101J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021097209
(22)【出願日】2021-06-10
(62)【分割の表示】P 2016247038の分割
【原出願日】2016-12-20
(65)【公開番号】P2021126128
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599048786
【氏名又は名称】光洋通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】笠井 秀城
(72)【発明者】
【氏名】笠井 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】笠井 弘子
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-021651(JP,U)
【文献】特開平05-123383(JP,A)
【文献】特開平05-219847(JP,A)
【文献】特許第6898091(JP,B2)
【文献】特開平03-198728(JP,A)
【文献】実開平5-15755(JP,U)
【文献】特開平5-95740(JP,A)
【文献】特開平8-298885(JP,A)
【文献】特開平3-43028(JP,A)
【文献】特開2015-77106(JP,A)
【文献】特開2008-99648(JP,A)
【文献】特開平9-107828(JP,A)
【文献】特開2002-239486(JP,A)
【文献】特開2000-126699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸処理液を貯留する酸処理槽を備え、海苔が付着した海苔網を前記酸処理液に浸漬させて酸処理する海苔網処理船であって、
アルカリ処理液を貯留するアルカリ処理槽を備え、酸処理後の前記海苔網を前記アルカリ処理液に浸漬させて中和処理し、
前記酸処理槽には前記海苔網を巻き取る第1の巻取ローラが設けられ、前記アルカリ処理槽には前記海苔網を巻き取る第2の巻取ローラが設けられ、前記第1の巻取ローラから前記第2の巻取ローラに前記海苔網を巻き替え、
前記酸処理槽は、前記海苔網の侵入方向において前記アルカリ処理槽より上流側に設けられ
前記酸処理槽と前記アルカリ処理槽とを区画する前後区隔壁の頂部には前記海苔網の前記酸処理槽から前記アルカリ処理槽への移動を補助する補助ローラが設けられていることを特徴とする海苔網処理船。
【請求項2】
前記酸処理槽には、前記海苔網における前記酸処理液の付着量を減少させる付着量減少手段が設けられることを特徴とする請求項1に記載の海苔網処理船。
【請求項3】
前記付着量減少手段は、前記前後区隔壁において前記酸処理槽の側に設けられた水切ローラであることを特徴とする請求項2に記載の海苔網処理船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔網処理船に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、所謂モグリ船を用いた海苔網の連続処理方法(酸処理方法)が開示されている。この連続処理方法は、モグリ船を海苔網の下に潜らせ、所定の酸の水溶液である酸洗浄液を海苔網に吹き付け、海苔網に付着した珪藻類を除去するものである。また、この特許文献1には、海苔網の酸処理に使用された酸洗浄液を回収し、中和処理した後に下水に放流することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-38051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記背景技術では、使用後の酸洗浄液を中和処理することが記載されているが、海苔網に付着した酸洗浄液(酸処理液)は海苔網とともに海中に放散される。このような海苔網の酸処理に使用される酸の海水への放散は、海の環境維持という観点から好ましくない。例えば酸として有機酸を用いた場合、この有機酸は海水のCOD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)やBOD(Biochemical oxygen demand:生物化学的酸素要求量)を上昇させることになるので、海の生態系に悪影響を与える可能性が高い。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、海苔網の酸処理に使用される酸の海水への放散を抑制あるいは解消することが可能な海苔網処理船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、海苔網処理船に係る第1の解決手段として、酸処理液を貯留する酸処理槽を備え、海苔が付着した海苔網を前記酸処理液に浸漬させて酸処理する海苔網処理船であって、アルカリ処理液を貯留するアルカリ処理槽を備え、酸処理後の前記海苔網を前記アルカリ処理液に浸漬させて中和処理し、前記酸処理槽には前記海苔網を巻き取る第1の巻取ローラが設けられ、前記アルカリ処理槽には前記海苔網を巻き取る第2の巻取ローラが設けられ、前記第1の巻取ローラから前記第2の巻取ローラに前記海苔網を巻き替え、前記酸処理槽は、前記海苔網の侵入方向において前記アルカリ処理槽より上流側に設けられる、という手段を採用する。
【0007】
本発明では、海苔網処理船に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記酸処理槽と前記アルカリ処理槽との間には、前記海苔網の前記酸処理槽から前記アルカリ処理槽への移動を補助する補助ローラが設けられている、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、海苔網処理船に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記酸処理槽には、前記海苔網における前記酸処理液の付着量を減少させる付着量減少手段が設けられる、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、海苔網処理船に係る第4の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記酸処理槽は、前記アルカリ処理槽を挟んで前後に2つ設けられており、2つの前記酸処理槽は、前記酸処理液の流通が可能なように相互接続されている、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、海苔網の酸処理に使用される酸の海水への放散を抑制あるいは解消することが可能な海苔網処理船を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る箱型船の正面図である。
図2】上記図1におけるX-X線矢視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る箱型船において、海苔網の移動を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る箱型船Aは、海苔の養殖海域(養殖現場)において海苔網に付着した海苔に酸処理を施す比較的小型の海苔網処理船である。周知のように、海苔の養殖現場には帯状の海苔網が複数条隣接配置されているが、この箱型船Aは、図1に示すように一対の長辺と一対の短辺とを有する箱型に形成されており、図示しない推進器により一対の長辺の対向方向(前後方向)に航行することにより各条の海苔網を順次巻き取りって連続的に酸処理を施す。
【0013】
このような箱型船Aは、図1及び図2に示すように、船本体1、4本の巻取ローラ2a~2d、2つの補助ローラ3a、3b、4つの水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2、3つの案内ローラ5a~5c、連通管6a、開閉バルブ6b、酸タンク7、第1酸ポンプ8、第2酸ポンプ9、アルカリタンク10、アルカリポンプ11、pH制御計12及び3つのpHセンサ13~15を備えている。
【0014】
船本体1は、箱型の樹脂製浮体であり、例えば前後方向(短辺)の寸法が約1.5m、幅方向(長辺)の寸法が約2mである。この船本体1は、側壁部1a、底壁部1b、2つの幅区画壁部1c、1d及び2つの前後区画壁部1e、1fを備えている。
【0015】
すなわち、この船本体1は、上記一対の長辺と一対の短辺とを有すると共に所定高さに立設する口型形状での側壁部1aの下端に平板状の底壁部1bが連接されることにより外形(舟形)を形成している。また、この船本体1は、このような舟形内において、一対の短辺の各々について所定距離を隔てて平行対峙するように幅区画壁部1c、1dをそれぞれ設け、また当該2つの幅区画壁部1c、1dの間に上記一対の長辺と所定距離を隔てて平行対峙するように2つの前後区画壁部1e、1fを離間配置したものである。
【0016】
このような船本体1は、舟形内が2つの幅区画壁部1c、1d及び2つの前後区画壁部1e、1fによって5つの領域に区画されている。すなわち、舟形内において、側壁部1a、底壁部1b、2つの幅区画壁部1c、1d及び一方の前後区画壁部1eによって囲まれた空間が第1酸処理槽S1である。また、側壁部1a、底壁部1b、2つの幅区画壁部1c、1d及び他方の前後区画壁部1fによって囲まれた空間が第2酸処理槽S2である。さらに、底壁部1b、2つの幅区画壁部1c、1d及び2つの前後区画壁部1e、1fによって囲まれた空間がアルカリ処理槽S3である。すなわち、この箱型船Aでは、アルカリ処理槽S3を挟んで前後に2つの酸処理槽(第1酸処理槽S1及び第2酸処理槽S2)が設けられている。
【0017】
上記第1酸処理槽S1には、酸原液G1が海水によって所望のpH値に希釈された第1酸処理液W1が貯留されており、また第2酸処理槽S2には、酸原液G1が海水によって所望のpH値に希釈された第2酸処理液W2が貯留されており、さらにアルカリ処理槽S3には、アルカリ原液G2が海水によって所望のpH値に希釈されたアルカリ処理液W3が貯留されている。第1酸処理液W1及び第2酸処理液W2のpH値は、例えばpH=0.1~3.0であり、アルカリ処理液W3のpH値は、例えば5.0~9.0である。
【0018】
また、同じく舟形内において、側壁部1a、底壁部1b及び一方の幅区画壁部1cによって囲まれた空間が第1機器収納部S4であり、側壁部1a、底壁部1b及び他方の幅区画壁部1dによって囲まれた空間が第2機器収納部S5である。上記第1機器収納部S4には、連通管6a及び開閉バルブ6bが収容されており、また第2機器収納部S5には、酸タンク7、第1酸ポンプ8、第2酸ポンプ9、アルカリタンク10、アルカリポンプ11及びpH制御計12が収容されている。
【0019】
4本の巻取ローラ2a~2dは、図示しない動力源によって回転駆動されることにより海苔網を巻き取る駆動ローラであり、上述した第1酸処理槽S1、第2酸処理槽S2及びアルカリ処理槽S3のいずれかに分散配置される。すなわち、巻取ローラ2aは、側壁部1a及び一方の前後区画壁部1eに平行対峙するように、また第1酸処理液W1に浸漬された状態で第1酸処理槽S1内に設けられた駆動ローラ(第1の巻取ローラ)である。
【0020】
巻取ローラ2bは、側壁部1a及び他方の前後区画壁部1fに平行対峙するように、また第2酸処理液W2に浸漬された状態で第2酸処理槽S2内に設けられた駆動ローラ(第1の巻取ローラ)である。2つの巻取ローラ2c、2dは、2つ前後区画壁部1e、1fに平行対峙するように、またアルカリ処理液W3に浸漬された状態でアルカリ処理槽S3内に設けられた駆動ローラ(第2の巻取ローラ)である。
【0021】
2つの補助ローラ3a、3bは、海苔網の第1酸処理槽S1あるいは第2酸処理槽S2からアルカリ処理槽S3への移動を補助する従動ローラである。これら2つの補助ローラ3a、3bは、第1酸処理槽S1とアルカリ処理槽S3との間及び第2酸処理槽S2とアルカリ処理槽S3との間に設けられている。すなわち、一方の補助ローラ3aは、一方の前後区画壁部1eの頂部に巻取ローラ2a、2cと平行対峙するように設けられ、他方の補助ローラ3bは、他方の前後区画壁部1fの頂部に巻取ローラ2b、2dと平行対峙するように設けられている。
【0022】
4つの水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2は、第1酸処理槽S1あるいは第2酸処理槽S2に浸漬された海苔網における第1酸処理液W1あるいは第2酸処理液W2の付着量を減少させる付着量減少手段である。すなわち、これら4つの水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2は、2つの補助ローラ3a、3bの前後に、海苔網に対して前進後退自在に設けられた従動ローラであり、海苔網に接触することにより当該海苔網に付着した第1酸処理液W1あるいは第2酸処理液W2を海苔網から脱離させる。
【0023】
これら4つの水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2のうち、水切ローラ4a1は、一方の補助ローラ3aと巻取ローラ2aとの間に前進後退自在に設けられ、水切ローラ4a2は、一方の補助ローラ3aと巻取ローラ2cとの間に前進後退自在に設けられ、水切ローラ4b1は、他方の補助ローラ3bと巻取ローラ2bとの間に設けられ、水切ローラ4b2は、他方の補助ローラ3bと巻取ローラ2dとの間に設けられている。
【0024】
3つの案内ローラ5a~5cは、第1酸処理槽S1、第2酸処理槽S2及び前記アルカリ処理槽の上側に設けられ、海苔網を案内する網案内手段である。これら3つの案内ローラ5a~5cのうち、案内ローラ5aは、図示するように一方の補助ローラ3aの上方に設けられ、案内ローラ5bは、他方の補助ローラ3bの上方かつ案内ローラ5aと同一高さに設けられ、また案内ローラ5cは、2つの案内ローラ5a、5bとの中間位置かつ同一高さに設けられている。
【0025】
連通管6aは、第1酸処理液W1と第2酸処理液W2との流通が可能なように第1酸処理槽S1と第2酸処理槽S2とを相互接続する連通手段である。開閉バルブ6bは、このような連通管6aの途中部に設けられ、第1酸処理液W1と第2酸処理液W2との流通を可能あるいは遮断する手動開閉弁である。この開閉バルブ6bが開状態に設定されると、第1酸処理液W1と第2酸処理液W2との流通が可能となり、第1酸処理液W1のpH値と第2酸処理液W2のpH値とが均一化される。
【0026】
酸タンク7は、酸原液G1を貯蔵する所定容量の容器である。この酸タンク7は、所定の配管によって第1酸ポンプ8及び第2酸ポンプ9と接続されており、当該第1酸ポンプ8及び第2酸ポンプ9に酸原液G1を供給する。なお、上記酸原液は、所定pH値を有する酸の水溶液であり、第1酸処理液W1と第2酸処理液W2よりも低いpH値つまり高い酸性度を有する。また、上記酸は、例えばリンゴ酸や乳酸、クエン酸等の有機酸あるいは塩酸である。
【0027】
第1酸ポンプ8は、pH制御計12から入力される操作信号に基づいて動作する容量ポンプであり、所定の配管によって第1酸処理槽S1と接続されている。この第1酸ポンプ8は、上記操作信号に応じた流量の酸原液G1を酸タンク7から汲み出して第1酸処理槽S1に供給する。なお、第1酸処理槽S1における酸原液G1の供給位置は、酸原液G1の比重が第1酸処理液W1の比重よりも重いので、第1酸処理液W1に対する混合性を高めるために第1酸処理槽S1の上部に設定される。
【0028】
第2酸ポンプ9は、pH制御計12から入力される操作信号に基づいて動作する容量ポンプであり、所定の配管によって第2酸処理槽S2と接続されている。この第2酸ポンプ9は、上記操作信号に応じた流量の酸原液G1を酸タンク7から汲み出して第2酸処理槽S2に供給する。なお、第2酸処理槽S2における酸原液G1の供給位置は、上述した第1酸処理槽S1と同様に第2酸処理槽S2の上部に設定される。
【0029】
アルカリタンク10は、アルカリ原液G2を貯蔵する所定容量の容器である。このアルカリタンク10は、所定の配管によってアルカリポンプ11と接続されており、当該アルカリポンプ11にアルカリ原液G2を供給する。なお、このアルカリ原液G2は、所定pH値を有するアルカリの水溶液であり、アルカリ処理液W3よりも高いpH値つまり高いアルカリ性度を有する。また、上記アルカリは、例えば水酸化ナトリウムである。
【0030】
アルカリポンプ11は、pH制御計12から入力される操作信号に基づいて動作する容量ポンプであり、所定の配管によってアルカリ処理槽S3と接続されている。このアルカリポンプ11は、上記操作信号に応じた流量のアルカリ原液G3をアルカリタンク10から汲み出してアルカリ処理槽S3に供給する。なお、アルカリ処理槽S3におけるアルカリ原液G3の供給位置は、アルカリ原液G3の比重がアルカリ処理液W3の比重よりも重いので、アルカリ処理液W3に対する混合性を高めるためにアルカリ処理槽S3の上部に設定される。
【0031】
pH制御計12は、3つのpHセンサ13~15から入力される検出値と予め記憶している制御しきい値とに基づいて、第1酸ポンプ8、第2酸ポンプ9及びアルカリポンプ11をフィードバック制御する制御装置である。すなわち、このpH制御計12は、第1酸処理液W1、第2酸処理液W2、アルカリ処理液W3のpH値が制御しきい値を維持するように第1酸ポンプ8、第2酸ポンプ9及びアルカリポンプ11を自動制御する。
【0032】
3つのpHセンサ13~15は、第1酸処理液W1、第2酸処理液W2あるいはアルカリ処理液W3のpH値を検出する検出器である。これら3つのpHセンサ13~15は、pH制御計12に電気的に接続されており、pH検出値をpH制御計12に出力する。
【0033】
これらpHセンサ13~15のうち、pHセンサ13は、第1酸処理液W1に浸漬された状態で第1酸処理槽S1内に設けられており、第1酸処理液W1のpH値を検出する。このpHセンサ13は、図1に示すように第1酸処理槽S1の角部に設けられており、また第1酸処理液W1の深さ方向の位置として船本体1の底壁部1bから若干高い位置に設けられている。
【0034】
pHセンサ14は、第2酸処理液W2に浸漬された状態で第2酸処理槽S2内に設けられており、第2酸処理液W2のpH値を検出する。このpHセンサ14は、図1に示すように第2酸処理槽S2の角部に設けられており、また第2酸処理液W2の深さ方向の位置として船本体1の底壁部1bから若干高い位置に設けられている。
【0035】
また、pHセンサ15は、アルカリ処理液W3に浸漬された状態でアルカリ処理槽S3内に設けられており、アルカリ処理液W3のpH値を検出する。このpHセンサ15は、図1に示すようにアルカリ処理槽S3において2つの巻取ローラ2c、2dの中間位置に設けられており、またアルカリ処理槽S3の深さ方向の位置として船本体1の底壁部1bから若干高い位置に設けられている。
【0036】
次に、このように構成された箱型船Aの動作について、図3を参照して詳しく説明する。
【0037】
この箱型船Aは、前進航行と後進航行とを交互に繰り返すことにより、海苔の養殖現場に複数条に亘って隣接配置された海苔網を順次巻き取ることにより海苔網に酸処理を施すと共に、巻き取ることによって酸処理が完了した海苔網を順次巻き出すことにより複数条の海苔網を複数条に亘って隣接配置された状態に戻す。
【0038】
すなわち、図3(a)に示すように、箱型船Aが前進航行する場合、つまり図3(a)に矢印で示すように箱型船Aが第1酸処理槽S1を先行させて航行する場合、前方から侵入してくる海苔網N1を巻取ローラ2aで順次巻き取ると共に、巻取ローラ2cに先に巻き取られていた海苔網N2を後方に順次巻き出す。そして、巻取ローラ2aに巻き取られた海苔網N1は、第1酸処理槽S1の第1酸処理液W1に浸漬されることにより、酸処理が施される。
【0039】
ここで、巻取ローラ2cの海苔網N2は、図3(b)に示すように、前回の前進航行時に巻取ローラ2aに巻き取られ第1酸処理槽S1の第1酸処理液W1で酸処理が施されたものであり、直前の後進航行時において巻取ローラ2aから巻取ローラ2cに巻き替えられたものである。すなわち、図3(a)に示すように、箱型船Aが前進航行するとき、前回の後進航行時に巻取ローラ2bに巻き取られ、第2酸処理槽S2の第2酸処理液W2で酸処理が施された海苔網N1は、巻取ローラ2bから巻取ローラ2dに巻き替えられることにより、アルカリ処理槽S3のアルカリ処理液W3に浸漬されて中和処理される。
【0040】
このように、箱型船Aの前進航行では、海苔網N1の巻き取りと中和処理された海苔網N2の巻き出し、また海苔網N3の巻き替えが同時並行的に行われる。そして、同時並行的な3つの動作の間において、巻取ローラ2aに巻き取られた海苔網N1は、第1酸処理槽S1の第1酸処理液W1で酸処理され、また巻取ローラ2bに先行して巻き取られた海苔網N3は、第2酸処理槽S2の第2酸処理液W2に浸漬されて酸処理が施された後にアルカリ処理槽S3のアルカリ処理液W3に浸漬されて中和処理される。
【0041】
一方、図3(b)に示すように、箱型船Aが後進航行する場合、つまり図3(b)に矢印で示すように箱型船Aが第2酸処理槽S2を先行させて航行する場合、前方から侵入してくる海苔網N4を巻取ローラ2bで順次巻き取ると共に、巻取ローラ2dに先に巻き取られていた海苔網N5を後方に順次巻き出す。そして、巻取ローラ2bに巻き取られた海苔網N4は、第2酸処理槽S2の第2酸処理液W2に浸漬されることにより、酸処理が施される。
【0042】
ここで、巻取ローラ2dの海苔網N2は、図3(a)に示すように、前回の後進航行時に巻取ローラ2bに巻き取られ第2酸処理槽S2の第2酸処理液W2で酸処理が施されたものであり、直前の前進航行時において巻取ローラ2bから巻取ローラ2dに巻き替えられたものである。すなわち、図3(b)に示すように、箱型船Aが後進航行するとき、前回の前進航行時に巻取ローラ2aに巻き取られ、第1酸処理槽S1の第1酸処理液W1で酸処理が施された海苔網N6は、巻取ローラ2aから巻取ローラ2cに巻き替えられることにより、アルカリ処理槽S3のアルカリ処理液W3に浸漬されて中和処理される。
【0043】
このように、箱型船Aの後進航行では、海苔網N4の巻き取りと中和処理された海苔網N5の巻き出し、また海苔網N6の巻き替えが同時並行的に行われる。このような同時並行的な3つの動作は、アルカリ処理槽S3内に2つの巻取ローラ2c、2dを設けることによって実現される。
【0044】
また、このような同時並行的な3つの動作の間において、巻取ローラ2bに巻き取られた海苔網N4は、第2酸処理槽S2の第2酸処理液W2で酸処理され、また巻取ローラ2aに先行して巻き取られた海苔網N6は、第1酸処理槽S1の第1酸処理液W1に浸漬されて酸処理が施された後にアルカリ処理槽S3のアルカリ処理液W3に浸漬されて中和処理される。
【0045】
すなわち、箱型船Aでは、第1酸処理槽S1の巻取ローラ2aと対を成すようにアルカリ処理槽S3内に一方の巻取ローラ2cを設け、また第2酸処理槽S2の巻取ローラ2bと対を成すようにアルカリ処理槽S3内に他方の巻取ローラ2dを設けるので、上記3つの動作を同時並行的なに行うことができる。この結果として、この箱型船Aによれば、海苔網N1~N6の酸処理及び中和処理を極めて効率的に行うことが可能である。
【0046】
このような箱型船Aの基本動作において、pH制御計12がpHセンサ13~15のpH検出値に基づいて第1酸ポンプ8、第2酸ポンプ9及びアルカリポンプ11を自動制御するので、第1酸処理液W1、第2酸処理液W2、アルカリ処理液W3のpH値は所定の制御しきい値に維持される。したがって、各海苔網N1、N3、N4、N6は、確実に酸処理されると共に確実に中和処理される。
【0047】
また、第1酸処理槽S1と第2酸処理槽S2との間には連通管6aが設けられているので、第1酸処理液W1と第2酸処理液W2との間のpH値の均一化が図られ、よって第1酸処理槽S1で行われる酸処理と第2酸処理槽S2で酸処理との均一化を実現することができる。すなわち、箱型船Aの航行方向によって酸処理の品質に差異が生じず、常に安定した酸処理を実現することが可能である。
【0048】
また、巻取ローラ2aから巻取ローラ2cへの海苔網N6の巻き替え、つまり第1酸処理槽S1からアルカリ処理槽S3への海苔網N6の移動は一方の補助ローラ3aを経由して行われ、また巻取ローラ2bから巻取ローラ2dへの海苔網N3の巻き替え、つまり第2酸処理槽S2からアルカリ処理槽S3への海苔網N3の移動は他方の補助ローラ3b(従動ローラ)を経由して行われる。したがって、海苔網N3,N6の巻き替え時に当該海苔網N3,N6に作用する機械的なストレスを緩和することが可能であり、この結果として海苔網N3,N6から海苔が脱離することを抑制あるいは防止することが可能である。
【0049】
また、第1酸処理槽S1からアルカリ処理槽S3への海苔網N6の移動時には一方の補助ローラ3aの手前で水切ローラ4a1が海苔網N6に接触し、第2酸処理槽S2からアルカリ処理槽S3への海苔網N3の移動時には他方の補助ローラ3bの手前で水切ローラ4b1が海苔網N3に接触する。このような水切ローラ4a1、4b1は、海苔網N3、N6から第1酸処理液W1あるいは第2酸処理液W2をある程度離脱させる、つまり海苔網N3、N6に対して第1酸処理液W1あるいは第2酸処理液W2の水切り作用を呈するので、第1酸処理槽S1における第1酸処理液W1の減少及び第2酸処理槽S2における第2酸処理液W2の減少を抑制することが可能である。
【0050】
さらに、海苔網N2は、他方の補助ローラ3bよりも高い位置に設けられた案内ローラ5b、5cによって案内されて海上に送り出される。また、海苔網N5は、一方の補助ローラ3aよりも高い位置に設けられた案内ローラ5a、5cによって案内されて海上に送り出される。したがって、この箱型船Aによれば、海苔網N3、N6の巻き替えに干渉することなく、海苔網N2、N5を確実に海上に送り出すことが可能である。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、4本の巻取ローラ2a~2dを備え、海苔網を船本体1内に巻き取る箱型船Aについて説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、アルカリ処理液W3を貯留するアルカリ処理槽S3を備え、酸処理後の海苔網をアルカリ処理液W3に浸漬させて中和処理することを本旨とするものであり、この中和処理以外の機能構成要素は適宜削除しても良い。
【0052】
(2)上記実施形態では、2つの巻取ローラ2c、2d(第2の巻取ローラ)をアルカリ処理槽S3内に設けたが、本発明はこれに限定されない。アルカリ処理槽S3内に設ける第2の巻取ローラを必要に応じて1本としても良い。
【0053】
(3)上記実施形態では、一方の補助ローラ3aを一方の前後区画壁部1eの頂部に設け、また他方の補助ローラ3bを他方の前後区画壁部1fの頂部に設けたが、本発明はこれに限定されない。例えば船本体1の一部である前後区画壁部1e、1fを補助ローラ3a、3bの支持構造物として利用するのではなく、船本体1に別途設けた支持構造物に補助ローラ3a、3bを支持させても良い。
【0054】
(4)上記実施形態では、第1酸処理槽S1にpHセンサ13を設け、第2酸処理槽S2にpHセンサ14を設けたが、本発明はこれに限定されない。第1酸処理槽S1と第2酸処理槽S2とは連通管6aによって連通しているので、pHセンサ13あるいはpHセンサ14のいずれか一方を設けても良い。
【0055】
(5)上記実施形態では、2つの前後区画壁部1e、1fの各頂部に補助ローラ3a、3bを設けたが、本発明はこれに限定されない。このような2つの補助ローラ3a、3bに加えて、側壁部1aにおいて2つの前後区画壁部1e、1fに平行対峙する一対の部位(長辺部位)に補助ローラをそれぞれ設けても良い。このような補助ローラを設けることにより、海苔網を巻取ローラ2a、2bに巻き取る際に海苔網に作用するストレスを軽減することが可能である。
【0056】
(6)上記実施形態では、第1酸処理槽S1及び第2酸処理槽S2に対応するように第1酸ポンプ8及び第2酸ポンプ9を設けたが、本発明はこれに限定されない。第1酸処理槽S1と第2酸処理槽S2とは連通管6aによって連通しているので、第1酸処理槽S1あるいは第2酸処理槽S2のいずれか一方のみに酸原液G1を供給しても良い。
【0057】
(7)上記実施形態では、2つの補助ローラ3a、3bの前後に水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2を設けたが、本発明はこれに限定されない。必要に応じて、4つの水切ローラ4a1、4a2、4b1、4b2のうち、2つの水切ローラ4a2、4b2を削除しても良い。
【符号の説明】
【0058】
A 箱型船(海苔網処理船)
N1~N6 海苔網
G1 酸原液
G2 アルカリ原液
S1 第1酸処理槽
S2 第2酸処理槽
S3 アルカリ処理槽
S4 第1機器収納部
S5 第2機器収納部
W1 第1酸処理液
W2 第2酸処理液
W3 アルカリ処理液
1 船本体
1a 側壁部
1b 底壁部
1c、1d 幅区画壁部
1e、1f 前後区画壁部
2a~2d 巻取ローラ
3a、3b 補助ローラ
4a1、4a2、4b1、4b2 水切ローラ
5a~5c 案内ローラ
6a 連通管
6b 開閉バルブ
7 酸タンク
8 第1酸ポンプ
9 第2酸ポンプ
10 アルカリタンク
11 アルカリポンプ
12 pH制御計
13~15 pHセンサ
図1
図2
図3