(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】電力伝送システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20221018BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221018BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H02J7/00 S
H02M7/48 L
H02J7/00 P
H02J1/00 309R
H02J7/00 302C
(21)【出願番号】P 2018065587
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599019269
【氏名又は名称】株式会社トヨタエナジーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 成晶
(72)【発明者】
【氏名】戸村 修二
(72)【発明者】
【氏名】種村 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】岡村 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】新見 嘉崇
(72)【発明者】
【氏名】伴 尊行
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康平
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0211663(US,A1)
【文献】特開2006-174663(JP,A)
【文献】特開2012-034515(JP,A)
【文献】特開2016-135010(JP,A)
【文献】特開2003-087987(JP,A)
【文献】特開2017-055589(JP,A)
【文献】特開2013-198306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02M 7/48
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、前記電池の電圧を出力する出力端子と、前記出力端子に接続されるとともに前記電池に並列接続された第1のスイッチング素子と、前記電池と前記第1のスイッチング素子との間において前記電池に直列接続され、前記第1のスイッチング素子のオン時にオフする第2のスイッチング素子とを備えた電池回路モジュールと、
複数の前記電池回路モジュールを、前記出力端子を介して直列接続した電池回路モジュール群と、
前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間毎にそれぞれ出力する制御回路と、
を有する電源装置と、
前記電源装置に直列に接続されたリレー及び平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサに接続された負荷と、
を備え、
前記制御回路は、矩形波の前記ゲート信号を出力するゲート回路と、前記ゲートから出力される前記ゲート信号を、直列接続した前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに順次遅延させて順次出力する遅延回路を有し、前記リレーと別個のプリチャージ回路を介すること無く前記電源装置と前記負荷との間で電力を伝送する電力伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力伝送システムにおいて、
前記負荷は、
車両の駆動力を発生する電動機と、
前記電動機を駆動する駆動装置と、
を備える電力伝送システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電力伝送システムにおいて、
前記負荷は、発電機を含む電力伝送システム。
【請求項4】
電池と、前記電池の電圧を出力する出力端子と、前記出力端子に接続されるとともに前記電池に並列接続された第1のスイッチング素子と、前記電池と前記第1のスイッチング素子との間において前記電池に直列接続され、前記第1のスイッチング素子のオン時にオフする第2のスイッチング素子とを備えた電池回路モジュールと、
複数の前記電池回路モジュールを、前記出力端子を介して直列接続した電池回路モジュール群と、
前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間毎にそれぞれ出力する制御回路
であって、矩形波の前記ゲート信号を出力するゲート回路と、前記ゲートから出力される前記ゲート信号を、直列接続した前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに順次遅延させて順次出力する遅延回路を有する制御回路と、
を有する電源装置と、
前記電源装置に直列に接続されたリレー及び平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサに接続された負荷と、
を備える電力伝送システムの制御方法であって、
前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して
順次遅延させて順次出力し、
前記電源装置の出力電圧を0Vから順次昇圧して出力し、前記電源装置の出力電圧が0Vのタイミングにおいて前記リレーをオン制御して前記平滑コンデンサに前記出力電圧を印加することで前記リレーと別個のプリチャージ回路を介すること無く前記電源装置と前記負荷との間で電力を伝送する、
電力伝送システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力伝送システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々の電源装置が知られており、例えば、ハイブリッド車両や電動車両における走行モータの駆動に用いられる電源装置では、電池電圧を昇圧コンバータで昇圧してインバータに供給している。
【0003】
特許文献1には、車両の駆動力を発生する電動機と、電動機を駆動する駆動装置と、駆動装置へ給電するための電力線と、電力線に接続され、電力線の電圧を平滑化するためのコンデンサと、走行用の電力を蓄える再充電可能な蓄電装置と、蓄電装置と電力線との間に設けられ、電力線の電圧を蓄電装置の電圧以上に昇圧するように構成された昇圧回路と、蓄電装置と昇圧回路との間に設けられるリレーと、リレーに並列に接続され、蓄電装置からコンデンサへ突入電流が流れるのを防止するためのプリチャージ回路とを備える電動車両が記載されている。
【0004】
図8は、特許文献1に記載された構成ブロック図を示す。電動車両は、蓄電装置Bと、システムメインリレーSMRと、昇圧コンバータ110と、インバータ120と、モータジェネレータM1と、駆動輪135と、正極線PL1,PL2と、負極線NLと、平滑コンデンサCと、制御装置140と、電圧センサ152,154と、電流センサ156と、回転角センサ158を備える。
【0005】
システムメインリレーSMRは、リレーRY1~RY3と、制限抵抗Rpとを含む。リレーRY1は、蓄電装置Bの正極と正極線PL1との間に設けられる。リレーRY2は、蓄電装置Bの負極と負極線NLとの間に設けられる。リレーRY3および制限抵抗Rpは、直列に接続されてプリチャージ回路を構成し、リレーRY2に並列に接続される。
【0006】
昇圧コンバータ110は、リアクトルLと、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。ダイオードD1は、スイッチング素子Q1に逆並列に接続され、上アームを構成する。ダイオードD2は、スイッチング素子Q2に逆並列に接続され、下アームを構成する。そして、上下アームの接続点と正極線PL1との間にリアクトルLが接続される。
【0007】
インバータ120は、U相アーム122と、V相アーム124と、W相アーム126とを含む。U相アーム122、V相アーム124およびW相アーム126は、正極線PL2と負極線NLとの間に並列に接続される。U相アーム122は、直列に接続されたスイッチング素子Q11,Q12を含む。V相アーム124は、直列に接続されたスイッチング素子Q13,Q14を含む。W相アーム126は、直列に接続されたスイッチング素子Q15,Q16を含む。スイッチング素子Q11~Q16には、それぞれダイオードD11~D16が逆並列に接続される。各相アームの中間点は、モータジェネレータM1の各相コイルにそれぞれ接続される。
【0008】
蓄電装置Bは、再充電可能な直流電源であり、たとえばニッケル水素やリチウムイオン等の二次電池によって構成される。蓄電装置Bは、走行用の電力を蓄える。
【0009】
システムメインリレーSMRのリレーRY1~RY3は、制御装置140からの制御信号に従ってオン/オフされる。リレーRY1,RY2またはリレーRY1,RY3がオンすることによって、蓄電装置Bが昇圧コンバータ110に電気的に接続される。制限抵抗RpおよびリレーRY3によって構成されるプリチャージ回路は、蓄電装置Bを昇圧コンバータ110に電気的に接続するときに蓄電装置Bから昇圧コンバータ110を介して平滑コンデンサCへ突入電流が流れるのを防止する。すなわち、蓄電装置Bが昇圧コンバータ110に電気的に接続されるとき、まずリレーRY1,RY3がオンされることによって制限抵抗Rpにより電流を制限しながら平滑コンデンサCのプリチャージが実施され、プリチャージが終了すると、リレーRY2がオンされ、リレーRY3がオフされる。
【0010】
昇圧コンバータ110は、制御装置140からの信号CNVに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(システム電圧)を蓄電装置Bの出力電圧以上に昇圧する。システム電圧が目標電圧よりも低い場合、スイッチング素子Q2のオンデューティを大きくすることによって正極線PL1から正極線PL2へ電流を流すことができ、システム電圧を上昇させることができる。一方、システム電圧が目標電圧よりも高い場合、スイッチング素子Q1のオンデューティを大きくすることによって正極線PL2から正極線PL1へ電流を流すことができ、システム電圧を低下させることができる。
【0011】
インバータ120は、制御装置140からの信号INV1に基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータM1へ出力し、モータジェネレータM1を駆動する。また、インバータ120は、電動車両の制動時、モータジェネレータM1により発電される三相交流電力を直流に変換し、正極線PL2へ出力する。
【0012】
平滑コンデンサCは、正極線PL2と負極線NLとの間に接続される。平滑コンデンサCは、正極線PL2および負極線NL間の電圧変動の交流成分を平滑化する。平滑コンデンサCは、昇圧コンバータ110の上アームの導通時に昇圧コンバータ110のリアクトルLとともにLC回路を構成する。
【0013】
モータジェネレータM1は、交流電動発電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える三相交流電動発電機である。モータジェネレータM1は、駆動輪135に機械的に連結され、走行トルクを発生する。また、モータジェネレータM1は、電動車両の制動時、車両の運動エネルギを駆動輪135から受けて発電する。
【0014】
電圧センサ152は、平滑コンデンサCの端子間電圧、すなわち正極線PL2と負極線NLとの間の電圧Vm(システム電圧)を検出し、その検出値を制御装置140へ出力する。電圧センサ154は、蓄電装置Bの電圧VBを検出し、その検出値を制御装置140へ出力する。電流センサ156は、蓄電装置Bに入出力される電流IBを検出し、その検出値を制御装置140へ出力する。回転角センサ158は、モータジェネレータM1のロータの回転角θ1を検出し、その検出値を制御装置140へ出力する。
【0015】
制御装置140は、電圧Vm,VBおよび電流IBの各検出値に基づいて、昇圧コンバータ110を駆動するための信号CNVを生成して昇圧コンバータ110へ出力する。また、制御装置140は、モータ電流、回転角θ1および電圧Vmの各検出値、ならびに図示されない外部ECUから受けるモータジェネレータM1のトルク指令値およびモータ回転速度等に基づいて、モータジェネレータM1を駆動するための信号INV1を生成してインバータ120へ出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように、制限抵抗RpおよびリレーRY3によって構成されるプリチャージ回路は、蓄電装置Bを昇圧コンバータ110に電気的に接続するときに蓄電装置Bから昇圧コンバータ110を介して平滑コンデンサCへ突入電流が流れるのを防止することができるが、その分だけ構成部品が増大するので、電動車両の販売台数の増加に伴ってコストが上昇する一因となり得る。
【0018】
本発明の目的は、プリチャージ回路を設けることなく平滑コンデンサへ突入電流が流れるのを防止できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の電力伝送システムは、電池と、前記電池の電圧を出力する出力端子と、前記出力端子に接続されるとともに前記電池に並列接続された第1のスイッチング素子と、前記電池と前記第1のスイッチング素子との間において前記電池に直列接続され、前記第1のスイッチング素子のオン時にオフする第2のスイッチング素子とを備えた電池回路モジュールと、複数の前記電池回路モジュールを、前記出力端子を介して直列接続した電池回路モジュール群と、前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間毎にそれぞれ出力する制御回路とを有する電源装置と、前記電源装置に直列に接続されたリレー及び平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサに接続された負荷とを備え、前記制御回路は、矩形波の前記ゲート信号を出力するゲート回路と、前記ゲートから出力される前記ゲート信号を、直列接続した前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに順次遅延させて順次出力する遅延回路を有し、前記リレーと別個のプリチャージ回路を介すること無く前記電源装置と前記負荷との間で電力を伝送する。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、前記負荷は、車両の駆動力を発生する電動機と、 前記電動機を駆動する駆動装置とを備える。
【0021】
本発明の他の実施形態では、前記負荷は、太陽光パネル等の発電機を含む。
【0022】
また、本発明は、電池と、前記電池の電圧を出力する出力端子と、前記出力端子に接続されるとともに前記電池に並列接続された第1のスイッチング素子と、前記電池と前記第1のスイッチング素子との間において前記電池に直列接続され、前記第1のスイッチング素子のオン時にオフする第2のスイッチング素子とを備えた電池回路モジュールと、複数の前記電池回路モジュールを、前記出力端子を介して直列接続した電池回路モジュール群と、前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して一定時間毎にそれぞれ出力する制御回路であって、矩形波の前記ゲート信号を出力するゲート回路と、前記ゲートから出力される前記ゲート信号を、直列接続した前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに順次遅延させて順次出力する遅延回路を有する制御回路とを有する電源装置と、前記電源装置に直列に接続されたリレー及び平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサに接続された負荷とを備える電力伝送システムの制御方法であって、前記電池回路モジュールの前記第1のスイッチング素子及び前記第2のスイッチング素子をオンオフ駆動するゲート信号を、前記電池回路モジュール群の各電池回路モジュールに対して順次遅延させて順次出力し、前記電源装置の出力電圧を0Vから順次昇圧して出力し、前記電源装置の出力電圧が0Vのタイミングにおいて前記リレーをオン制御して前記平滑コンデンサに前記出力電圧を印加することで前記リレーと別個のプリチャージ回路を介すること無く前記電源装置と前記負荷との間で電力を伝送する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、プリチャージ回路を設けることなく平滑コンデンサへ突入電流が流れるのを防止することができるので、プリチャージ回路の構成部品を不要化できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態の電源装置の概略ブロック図である。
【
図3】電池回路モジュールの動作を説明するタイミングチャートである。
【
図4】電池回路モジュールの動作説明図であり、(a)は第1のスイッチング素子がON、第2のスイッチング素子がOFFした状態を示し、(b)は第1のスイッチング素子がOFF、第2のスイッチング素子がONした状態を示す。
【
図5】電源装置全体の動作を説明するタイミングチャートである。
【
図6】実施形態における電動車両の構成ブロック図である。
【
図7】他の実施形態における構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。まず、実施形態において前提となる複数の電池回路モジュールを備えた電源装置について説明する。
【0026】
図1は、電源装置1の構成ブロック図を示す。電源装置1は、複数の電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・と、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・に指令信号としてのゲート信号を出力して電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・をON/OFF駆動する制御回路11とを備える。
【0027】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・は互いに直列接続されており、電池回路モジュール群100を構成する。電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の構成は同様であるので、電池回路モジュール10aの構成及び駆動について説明する。なお、制御回路11の詳細及び制御回路11による電源装置1の制御については後述する。
【0028】
電池回路モジュール10aは、複数の電池セルが互いに直列接続された電池Bと、電池Bの電圧を出力する出力端子OTと、出力端子OTに接続されるとともに電池Bに並列接続された第1のスイッチング素子S1と、電池Bと第1のスイッチング素子S1との間において電池Bに直列接続された第2のスイッチング素子S2と、電池Bと第2のスイッチング素子S2との間に直列接続されたチョークコイルLと、電池Bに並列接続されたコンデンサCとを備える。
【0029】
第1のスイッチング素子S1及び第2のスイッチング素子S2は、例えば電界効果トランジスタとしてのMOS-FET等である。第1のスイッチング素子S1及び第2のスイッチング素子S2は、制御回路11からのゲート信号によってスイッチング動作される。スイッチング動作可能な素子であれば、MOS-FET以外のスイッチング素子を使用し得る。
【0030】
電池Bは充電可能な二次電池であり、内部抵抗損失の増加による電池Bの劣化を抑制するため、電池B、チョークコイルL及びコンデンサCによってRLCフィルタを形成して電流の平準化が図られる。
【0031】
次に、電池回路モジュール10aの動作について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、電池回路モジュール10aの概略動作図を、
図3は電池回路モジュール10aの動作に関するタイムチャートをそれぞれ示す。また、
図3において、符号D1は、電池回路モジュール10aを駆動するゲート信号の矩形波を、符号D2は、第1のスイッチング素子S1のON/OFF状態を示す矩形波を、符号D3は、第2のスイッチング素子S2のON/OFF状態を示す矩形波を、符号D4は、電池回路モジュール10aにより出力される電圧V
modの特性をそれぞれ示す。
【0032】
電池回路モジュール10aの初期状態、すなわち、ゲート信号が出力されていない状態では、第1のスイッチング素子S1はON状態、第2のスイッチング素子S2はOFF状態となっている。そして、制御回路11からゲート信号が電池回路モジュール10aに供給されると、電池回路モジュール10aはPWM制御によりスイッチング動作する。このスイッチング動作は、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが交互にON/OFFすることにより実行される。
【0033】
図3の符号D1で示すように、制御回路11からゲート信号が出力されると、このゲート信号に応じて、電池回路モジュール10aの第1のスイッチング素子S1及び第2のスイッチング素子S2が駆動される。第1のスイッチング素子S1は、ゲート信号の立ち上がりに応じて、ON状態からOFF状態に切り替わる。また、第1のスイッチング素子S1は、ゲート信号の立ち下がりから僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて、OFF状態からON状態に切り替わる(符号D2参照)。
【0034】
一方、第2のスイッチング素子S2は、ゲート信号の立ち上がりから僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて、OFF状態からON状態に切り替わる。また、第2のスイッチング素子S2は、ゲート信号の立ち下がりと同時に、ON状態からOFF状態に切り替わる(符号D3参照)。このように、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とは交互にON/OFF動作する。
【0035】
なお、第1のスイッチング素子S1がゲート信号の立ち下がり時に僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて動作することと、第2のスイッチング素子S2がゲート信号の立ち上がり時に僅かな時間(デッドタイムdt)遅れて動作することは、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが同時に動作することを防止するためである。すなわち、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とが同時にONして短絡することを防止している。この動作を遅らせているデッドタイムdtは、例えば、100nsであるが、適宜設定し得る。デッドタイムdt中はダイオードを還流し、その還流したダイオードと並列にあるスイッチング素子がONしたときと同じ状態になる。
【0036】
そして、この動作によって、電池回路モジュール10aは、
図3の符号D4で示すように、ゲート信号がOFF時(すなわち、第1のスイッチング素子S1がON、第2のスイッチング素子S2がOFF)では、コンデンサCが電池回路モジュール10aの出力端子OTから切り離されて出力端子OTには電圧が出力されない。この状態を、
図4(a)に示す。
図4(a)に示すように、電池回路モジュール10aの電池B(コンデンサC)をバイパス(スルー状態)している。
【0037】
また、ゲート信号がON時(すなわち、第1のスイッチング素子S1がOFF、第2のスイッチング素子S2がON)では、コンデンサCが電池回路モジュール10aの出力端子OTに接続されて出力端子OTに電圧が出力される。この状態を、
図4(b)に示す。
図4(b)に示すように、電池回路モジュール10aにおけるコンデンサCを介して電圧V
modが出力端子OTに出力される。
【0038】
図1に戻り、制御回路11による電源装置1の制御について説明する。制御回路11は、電池回路モジュール群100の全体を制御する。すなわち、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の動作をそれぞれ制御して電源装置1としての出力電圧を制御する。
【0039】
制御回路11は、矩形波のゲート信号を出力するゲート回路12と、ゲート回路12から出力されるゲート信号を、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・に遅延させて順次出力する遅延回路13a,13b,13c,・・・とを備える。制御回路11は、これ以外にもゲート回路12、遅延回路13a,13b,13c,・・・の動作を制御する1個又は複数個のプロセッサ及びメモリを備えるが、電子制御装置(ECU)等で構成される制御回路11は公知であるため図示は省略している。
【0040】
ゲート回路12は、電池回路モジュール群100において直列接続されている電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・のうちの最上流側の電池回路モジュール10aに接続される。
【0041】
遅延回路13a,13b,13c,・・・は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・に対応してそれぞれ設けられる。遅延回路13aは、ゲート回路12からのゲート信号を、一定時間遅延させて隣接する電池回路モジュール10bに出力するとともに、遅延回路13bに出力する。この結果、ゲート回路12から出力されたゲート信号は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・に順次遅延されて伝達される。
【0042】
遅延回路13a,13b,13c,・・・は、電気的な回路構成としては制御回路11に含まれるものであるが、ハード構成としては電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・と一体化して構成してもよい。
図1において、例えば、破線Mで示すように、遅延回路13bと電池回路モジュール10bとを一体化(モジュール化)して構成する。
【0043】
図1において、ゲート回路12から最上流側の電池回路モジュール10aにゲート信号を出力すると、電池回路モジュール10aが駆動されて、
図4(a)、(b)に示すように、電池回路モジュール10aにおける電圧が出力端子OTに出力される。また、ゲート回路12からのゲート信号は、遅延回路13aに供給されて、一定時間遅延された後、隣接する電池回路モジュール10bに供給される。このゲート信号により電池回路モジュール10bが駆動する。
【0044】
一方、遅延回路13aからのゲート信号は、遅延回路13bにも供給されて、遅延回路13aと同様に、一定時間遅延されて、次に隣接する電池回路モジュール10cに供給される。以下、同様に、ゲート信号は遅延されて下流側の電池回路モジュールにそれぞれ供給される。そして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・は、順次駆動されて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の電圧が各出力端子OTに順次出力される。
【0045】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・が順次駆動される状態を
図5に示す。
図5に示すように、ゲート信号に応じて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・が、一定の遅延時間を持って上流側から下流側に次々と駆動される。
図5において、符号E1は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の第1のスイッチング素子S1がOFF、第2のスイッチング素子S2がONして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・が出力端子OTから電圧を出力している状態(接続状態)を示している。また、符号E2は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の第1のスイッチング素子S1がON、第2のスイッチング素子S2がOFFして、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・が出力端子OTから電圧を出力していない状態(スルー状態)を示す。このように、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・は、一定の遅延時間を持って順次駆動される。
【0046】
図5を参照して、ゲート信号やゲート信号の遅延時間の設定について説明する。指令信号としてのゲート信号の指令周期Fは、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の遅延時間を合計することによって設定される。このため、遅延時間を長く設定すると、ゲート信号の周波数は低周波になる。逆に、遅延時間を短く設定すると、ゲート信号の周波数は高周波になる。また、ゲート信号を遅延する遅延時間は、電源装置1に求められる仕様に応じて適宜設定し得る。
【0047】
ゲート信号の指令周期FにおけるON時比率G1、すなわち、指令周期FのうちのON時間の比率は、電源装置1の出力電圧/電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の合計電圧(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)により算出することができる。すなわち、ON時比率G1=電源装置出力電圧/(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)となる。なお、厳密には、デッドタイムdtだけON時比率がずれてしまうので、チョッパ回路で一般的に行われているようにフィードバックまたはフィードフォワードでON時比率の補正を行う。
【0048】
電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の合計電圧は、上述したように、電池回路モジュール電池電圧×接続状態の電池回路モジュール数によって表すことができる。電源装置1の出力電圧が、一つの電池回路モジュール10aの電池電圧で割り切れる値であれば、電池回路モジュール10aが通過(スルー状態)から接続に切り替わる瞬間に、他の電池回路モジュールが接続から通過(スルー状態)に切り替わるので、電池回路モジュール群100の全体の出力電圧に変動はない。
【0049】
しかし、電源装置1の出力電圧が、電池回路モジュール10aの電池電圧で割り切れない値であれば、電源装置1の出力電圧と、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の合計電圧とは整合しない。換言すると、電源装置1の出力電圧(電池回路モジュール群100の全体の出力電圧)が変動してしまう。ただし、このときの変動振幅は1つの電池回路モジュール分の電圧であり、また、この変動周期は、ゲート信号の指令周期F/電池回路モジュール数となる。ここでは、数十個の電池回路モジュールを直列接続しているので、電池回路モジュール全体の寄生インダクタンスは大きな値となっており、この電圧変動はフィルタされて結果的には電源装置1の出力電圧を得ることができる。
【0050】
図5において、例えば、電源装置1としての所望の出力電圧が400V、電池回路モジュール10aの電池電圧が15V、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・数が40個、遅延時間が200nsであるとする。なお、この場合は、電源装置1の出力電圧(400V)が、電池回路モジュール10aの電池電圧(15V)で割り切れない場合に相当する。
【0051】
これらの数値に基づくと、ゲート信号の指令周期Fは、遅延時間×電池回路モジュール数により算出されるので、200ns×40個=8μsとなり、ゲート信号は125kHz相当の矩形波になる。また、ゲート信号のON時比率G1は、電源装置出力電圧/(電池回路モジュール電池電圧×電池回路モジュール数)により算出されるので、ON時比率G1は、400V/(15V×40個)≒0.67となる。
【0052】
これらの数値に基づいて、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・を順次駆動すると、電源装置1として、
図5中、符号H1で示す矩形波状の出力特性が得られる。この出力特性は、390Vと405Vとの間で変動する電圧出力特性となる。すなわち、ゲート信号の周期F/電池回路モジュール数により算出される周期で変動する出力特性となり、8μs/40個=200ns(5MHz相当)で変動する出力特性となる。この変動は、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の配線による寄生インダクタンスでフィルタリングされるので、符号H2で示すように、電源装置1としては、400Vの電圧が出力される。
【0053】
そして、最上流側の電池回路モジュール10aのコンデンサCには、接続状態の場合に電流が流れるため、
図5中符号J1で示すように、コンデンサ電流波形は矩形波になる。
電池BとコンデンサCはRLCフィルタを形成しているので、電源装置1にはフィルタリングされて平準化された電流が出力される(
図5中、符号J2参照)。
【0054】
このように、全ての電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・において電流波形は同様であり、また、全ての電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・から均等に電流を出力することができる。
【0055】
電池回路モジュール群100を駆動する場合、最上流側の電池回路モジュール10aに出力したゲート信号を、下流側の電池回路モジュール10bに一定時間遅延して出力して、さらに、このゲート信号を一定時間遅延して下流側の電池回路モジュールに順次伝達するので、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・は、一定時間遅延しながら順次電圧をそれぞれ出力する。そして、これらの電圧が合計されることによって、電源装置1としての電圧が出力されることになり、所望の電圧が得られる。このため、昇圧回路が必要なくなり、電源装置1の構成を簡素化し得、小型化、低コスト化し得る。また、構成が簡素化されるので、損失が発生する部分が減少して電力変換効率が向上する。さらに、複数の電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・から略均等に電圧を出力しているので、特定の電池回路モジュールに駆動が集中することもなく、電源装置1の内部抵抗損失を低減し得る。また、ON時比率G1を調整することによって、所望の電圧に容易に対応することができ、電源装置1としての汎用性を向上し得る。
【0056】
このように、電源装置1は、ON時比率G1を調整することにより出力電圧を制御できるので、0Vからの出力も可能である。従って、かかる電源装置1を
図8に示すような電動車両の電源装置Bとして用いることで、昇圧コンバータ110が不要化されるだけでなく、突入電流防止用の制限抵抗Rp及びリレーRY3からなるプリチャージ回路も不要化される。
【0057】
図6は、本実施形態における電力伝送システムの適用例としての電動車両の構成ブロック図である。電動車両は、電源装置1と、システムメインリレー102と、平滑コンデンサC1と、インバータ104と、モータジェネレータ(図では簡易的に「モータ」と示す)106を備える。なお、これ以外にも、
図8に示すように駆動輪135、制御装置140、電圧センサ152,154、電流センサ156、及び回転角センサ158を備える。
【0058】
電源装置1は、
図8における蓄電装置Bとして機能し、システムメインリレー102のオンにより電力をインバータ104に供給する。電源装置1は、
図1に示す構成を備え、ON時比率G1を調整することにより0Vから所望の電圧に至るまで出力電圧が制御され得る。システムメインリレー102、及び電源装置1のオンオフ動作は、制御装置140により制御される。制御装置140は、
図1における制御回路11に対して制御指令を出力することで制御回路11を制御してもよいが、制御回路11が制御装置140内に一体化されていてもよい。
【0059】
システムメインリレー102は、電源装置1とインバータ104との間の正極線PLに設けられる。
【0060】
インバータ104は、
図8に示すインバータ120と同様の構成であり、制御装置140からの信号INV1に基づいて、正極線PL2から供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータ106へ出力し、モータジェネレータ106を駆動する。また、インバータ104は、電動車両の制動時、モータジェネレータ106により発電される三相交流電力を直流に変換し、正極線PL2へ出力する。
【0061】
平滑コンデンサC1は、
図8に示す平滑コンデンサと同様に、正極線PLと負極線NLとの間に接続される。平滑コンデンサC1は、正極線PLおよび負極線NL間の電圧変動の交流成分を平滑化する。
【0062】
モータジェネレータ106は、
図8に示すモータジェネレータM1と同様に、交流電動発電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える三相交流電動発電機である。モータジェネレータ106は、駆動輪135に機械的に連結され、走行トルクを発生する。また、モータジェネレータ106は、電動車両の制動時、車両の運動エネルギを駆動輪135から受けて発電する。
【0063】
図6の構成ブロック図において
図8の構成ブロック図と相違する点は、
図8における昇圧コンバータ110が存在しないこと、及び
図8における制限抵抗とリレーRY3からなるプリチャージ回路が存在しないことである。これは、電源装置1が蓄電装置Bと異なり、0Vから所望の電圧に至るまで出力電圧が制御可能であることによる。電源装置1の出力電圧を0Vから順次昇圧することで、プリチャージ回路によらずに平滑コンデンサC1へ突入電流が流れるのを防止し得る。すなわち、電源装置1の出力電圧をVs、平滑コンデンサC1の端子電圧をVcとすると、Vs=0V、Vc=0Vのときに制御装置140がシステムメインリレー102をオンとする。電源装置1の出力電圧Vsの上昇に伴って平滑コンデンサC1の端子電圧Vcも同時に上昇していくので、VsとVcの電圧差異による突入電流は生じない。
【0064】
図6では、電源装置1を電動車両の蓄電装置として用いる場合について示したが、これに限らず、太陽光パネルや風力発電機等の発電機の電力変動を抑制するための電力バッファシステム等にも適用することができる。
【0065】
図7は、電力バッファシステムに適用した場合の構成ブロック図を示す。電源装置1と太陽光パネル108とがシステムメインリレー102及び平滑コンデンサC1を介して接続される。
【0066】
太陽光パネル108は、太陽光の光エネルギを電気エネルギに変換して出力する。電源装置1は、システムメインリレー102のオンにより平滑コンデンサC1に接続され、電源装置1内の電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・をオンオフ制御することで電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の各電池を充電する。制御装置140は、太陽光パネル108、システムメインリレー102、及び電源装置1の動作を制御する。この場合にも、ON時比率G1を調整することにより太陽光パネルの出力変動に応じた充電電圧に制御できるので、プリチャージ回路が不要化される。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形が可能である。以下、変形例について説明する。
【0068】
<変形例1>
図6では、正極線PLにシステムメインリレー102を設けているが、負極線NLにシステムメインリレー102を設けてもよい。
【0069】
<変形例2>
電池回路モジュール10aの構成として、電池回路モジュール10aのチョークコイルLと電池Bとの配置位置(接続位置)を入れ替えてもよい。また、第2のスイッチング素子S2を、第1のスイッチング素子S1に対して出力端子OTの反対側に配置してもよい。すなわち、第1のスイッチング素子S1と第2のスイッチング素子S2とのスイッチング動作により電池B(コンデンサC)の電圧を出力端子OTに出力できるのであれば、電池回路モジュール10aにおける各素子、電気部品の配置を適宜変更し得る。他の電池回路モジュール10b,10c,・・・についても同様である。
【0070】
<変形例3>
電池Bの電圧出力特性が優れている場合、すなわち、電源電流がコンデンサ電流と一致して、出力波形が矩形波となっても電源回路において問題がないときには、RLCフィルタを省略してもよい。また、電池回路モジュール10a,10b,10c,・・・の配線による寄生インダクタンスを利用していたが、配線による寄生インダクタンスを利用する代わりに、必要なインダクタンス値を担保するためにインダクタンス部品を実装してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 電源装置、10a,10b,10c,電池回路モジュール、11 制御回路、12 ゲート回路、13a,13b,13c 遅延回路、100 電池回路モジュール群、B 電池、C コンデンサ、L チョークコイル、OT 出力端子、S1 第1のスイッチング素子、S2 第2のスイッチング素子、102 システムメインリレー、104 インバータ、106 モータジェネレータ、108 太陽光パネル、140 制御装置。