(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】植物細胞における標的化DNA変更のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20221018BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20221018BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N5/04 ZNA
A01H1/00 A
(21)【出願番号】P 2018565404
(86)(22)【出願日】2017-06-20
(86)【国際出願番号】 NL2017050408
(87)【国際公開番号】W WO2017222370
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-17
(32)【優先日】2016-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】バンドック, ポール
(72)【発明者】
【氏名】ケトラース-ボネ, アニタ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/194190(WO,A1)
【文献】特表2011-507505(JP,A)
【文献】特表2016-500003(JP,A)
【文献】特表2015-527082(JP,A)
【文献】Nature Biotechnology,2013年,Vol.31, No.8,p.688-691, Supplementary Information,DOI:10.1038/nbt.2654
【文献】Nature Biotechnology,2015年,Vol.33, No.11,p.1162-1164
【文献】Nature Protocols,2007年,Vol.2, No.7,p.1565-1572
【文献】Journal of Plant Physiology,1990年,Vol.137,p.95-101
【文献】Plant Cell Reports,1987年,Vol.6,p.172-175
【文献】Biotechnology Advances,2015年,Vol.33,p.41-52
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12N 5/04
A01H 1/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供する方法であって、標的配列を有するDNA分子を含む植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、
前記水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、前記標的配列とハイブリダイズするCRISPR-CasシステムガイドRNA、及びポリエチレングリコール(PEG)を含み、
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地におけるグリセロールの終濃度が0.01%(v/v)未満である、方法。
【請求項2】
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地が10,000~2,000,000個/mlの植物細胞を含むように、植物細胞の前記集団が前記水性培地と接触させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物細胞がトマト細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
植物細胞の前記集団が植物プロトプラストの集団であり、好ましくは前記植物プロトプラストがトマトプロトプラストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地が、2~80ナノモル(nM)のCASタンパク質又はCAS様タンパク質を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記CASタンパク質又はCAS様タンパク質が、Cas9又はCpf1である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地が、30~600ナノモル(nM)のCRISPR-CasシステムガイドRNAを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性培地中の前記CASタンパク質又はCAS様タンパク質と、CRISPR-CasシステムガイドRNAとの間のモル比は1:300~8:3であり、好ましくはモル比は1:20である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地が無グリセロールである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地が、100~400mg/mlのPEGを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記植物細胞を含む前記水性培地が、
2~80ナノモル(nM)のCASタンパク質又はCAS様タンパク質、
30~600ナノモル(nM)のCRISPR-CasシステムガイドRNA、
100~400mg/mlのPEG、及び
10,000~2,000,000個/mlの植物細胞
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
PEGが、前記CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNAが前記培地に提供された後に前記水性培地に添加される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記植物細胞を、前記植物中のDNA分子に導入しようとしている所望の変更を含むDNAオリゴヌクレオチド又はDNAポリヌクレオチドと接触させることを更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
植物細胞の前記集団が、フィーダー植物細胞の存在下で、更に栽培され、前記フィーダー植物細胞は植物プロトプラストであることが好ましく、前記フィーダー植物細胞は植物細胞の前記集団と同じ植物種のものであることが好ましく、前記フィーダー植物細胞は好ましくは50,000~250,000個のフィーダー植物細胞を含有しているフィーダーディスクの形態で提供されることが好ましい、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
植物細胞の前記集団からの個々のプロトプラストが、植物カルス、植物細胞壁を含む植物細胞、及び/又は植物へと更に栽培される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
標的化DNA分子が、除草剤耐性、乾燥耐性、雄性不稔、昆虫耐性、非生物的なストレス耐性、改変された脂肪酸代謝、改変された炭水化物代謝、改変された種子収量、改変された油パーセント、改変されたタンパク質パーセント、及び細菌疾患、真菌疾患若しくはウイルス疾患に対する耐性の形質のうちの1つ又は複数を付与する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記水性培地が、プラスミド又はベクター材料を含まない、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供することにおける、2~80ナノモル(nM)CASタンパク質又はCAS様タンパク質、30~600ナノモル(nM)のCRISPR-CasシステムガイドRNA、0.01%(v/v)未満のグリセロール、及び100~400mg/mlのPEGを含む水性培地の使用。
【請求項19】
CASタンパク質又はCAS様タンパク質、好ましくは、2~80ナノモル(nM)のCASタンパク質又はCAS様タンパク質;
CRISPR-CasシステムガイドRNA、好ましくは30~600ナノモル(nM)のCRISPR-CasシステムガイドRNA;
0.01%(v/v)未満のグリセロール、好ましくはグリセロールなし;及び
100~400mg/mlのPEGを
含む組成物、好ましくは水性組成物。
【請求項20】
前記組成物は、10,000~2,000,000個/mlの植物細胞を更に含む、請求項
19に記載の組成物。
【請求項21】
植物細胞中のDNA分子の標的改変の方法であって、標的配列を有する標的化されるDNA分子を含む植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、
前記水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、前記標的配列とハイブリダイズするCRISPR-CASシステムガイドRNA、及びポリエチレングリコール(PEG)を含み、
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地におけるグリセロールの終濃度が0.01%(v/v)未満である、方法。
【請求項22】
CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを導入する方法であって、植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、
前記水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、CRISPR-CasシステムガイドRNA、及びポリエチレングリコール(PEG)を含み、
植物細胞の前記集団を含む前記水性培地におけるグリセロールの終濃度が0.01%(v/v)未満である、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
生細胞の遺伝物質における変化を故意に作り出すプロセスは、その細胞の、又は細胞が一部を形成する若しくは細胞が再生することができる生物の、遺伝的にコードされる生物学的特性のうちの1つ又は複数を改変することをゴールとする。これらの変化は、遺伝物質の一部の欠失、外因性遺伝物質の付加又は遺伝物質の既存のヌクレオチド配列における変化の形態をとることができる。
【0002】
真核生物の遺伝物質を変更する方法は、20年にわたって知られており、農業、ヒトの健康、食品品質及び環境保全の分野における改善のため、植物、ヒト及び動物細胞並びに微生物における広範な適用が見出されてきている。
【0003】
最も共通する方法は、外因性DNA断片を細胞のゲノムに加えることからなり、これは次に、新しい特性を、その細胞又はその生物に既に既存の遺伝子によってコードされる特性に加えて付与する(既存の遺伝子の発現が、それによって、抑制される適用が含まれる)。多くのそのような例が、所望の特性を得ることに有効であるにもかかわらず、これらの方法は、全くもって正確ではなく、その理由は、外因性DNA断片が挿入されるゲノム位置に対する制御が存在しない(それ故、発現の究極的なレベルを超える)からである及び所望の効果が、元の、バランスが良くとれたゲノムによってコードされている天然の特性を超えて顕在化しなければならないことになるからである。
【0004】
これに反して、予め規定したゲノム座位においてヌクレオチドの付加、欠失又は転換をもたらすゲノム編集方法は、既存の遺伝子の正確な改変を可能にする。
【0005】
最近、標的化ゲノム編集の新規方法が報告されている。CRISPR(規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列)は、複数の短い直列反復を含有している座位であり、40%の配列決定された細菌及び90%の配列決定された古細菌において見出されている。
【0006】
CRISPR反復は、バクテリオファージ及びプラスミドなどの遺伝的な病原体に対して獲得された細菌性免疫のシステムを形成している。ある細菌が病原体に攻撃されると、病原体ゲノムの小さな断片が、CRISPR関連タンパク質(Cas)によってプロセスされ、CRISPR反復の間の細菌ゲノムに組み込まれる。CRISPR座位は、次に転写され、プロセスされ、いわゆるcrRNAが形成される、これには、病原体ゲノムと同一のおよそ30bpの配列が含まれる。これらのRNA分子は、引き続く感染に際して病原体の認識にとっての基礎を形成し、病原体ゲノムのRNAi様プロセス又は直接的な消化のどちらかによる病原体遺伝エレメントのサイレンシングを導く。
【0007】
Cas9タンパク質(又は類似機能を有するタンパク質)は、II型CRISPR/Casシステムの重要な成分であり、crRNA及びトランス活性化cRNA(tracrRNA)と称される第2のRNAと組合わさると、エンドヌクレアーゼを形成し、これが、crRNAによって規定されるゲノムにおける位置でのDNA二本鎖切断(DSB)の導入による分解のため侵入する病原体DNAを標的とする。
【0008】
最近、Jinekら(2012、Science 337:816-820)は、crRNA及びtracrRNAの必須な部分を融合することによって産生される単鎖キメラRNAが、機能的なエンドヌクレアーゼを、Cas9との組合せで形成できることを実証した。CRISPRシステムは、広範囲の異なる細胞型におけるゲノム編集のため使用することができる。
【0009】
CRISPRシステムは、基本的に2つの成分:「ガイド」RNA(gRNA)及び非特異的なCRISPR関連エンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)を含む。gRNAは、Cas9結合に必要な足場配列から構成される短い合成RNA、及び利用者が定義するヌクレオチド「ターゲティング」配列(これは、改変されるゲノム標的を定義する)である。したがって、gRNAに存在するターゲティング配列を単純に変化させることによってエンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)のゲノム標的を変化させることができる。CRISPRは、様々な細胞型及び生物における標的遺伝子をノックアウトするため当初採用されたが、酵素に対する改変は、標的遺伝子の選択的な活性化又は抑制、DNAの特定の領域の精製、及び更に蛍光顕微鏡を使用する生細胞中のDNAの視覚化にCRISPRの適用を拡大させた。更には、gRNAを生成する容易性は、CRISPRを最もスケーラブルなゲノム編集技術の1つとし、全ゲノムスクリーニング(genome-wide screens)に最近利用されている。
【0010】
したがって、キメラRNAを、真核生物ゲノム中の特定の配列を標的化するために設計することができ、DSBを、細胞中の、例えば、Cas9タンパク質及びキメラRNAの発現に際して、この配列で誘導することができる。DNA DSBが生じたら、細胞DNA修復機構(特に、非相同的な末端結合経路に属するタンパク質)が、DNA末端の再ライゲーションに関与する。このプロセスは、切断部での少数のヌクレオチドの欠損又は獲得を導くことができ、ゲノムDNA中のINDEL変異を作り出す。DSBがコード配列中に誘導される場合、この位置で任意のINDELは、タンパク質リーディングフレームにおける変更を導くことができ、ヌル変異として機能し得る。或いは、複数の3ヌクレオチド(例えば、+3、+9、-6)の欠失又は挿入を導く任意のINDELが、インフレーム変異を作り出し、これはタンパク質機能を排除するというよりはむしろタンパク質機能に影響することができる。
【0011】
DSB修復は不完全であることがあり、遺伝子のオープンリーディングフレームの破壊がもたらされることがあるが、相同組換え修復(HDR)を使用して、標的DNA中の特定のヌクレオチド変化を生成することができる。遺伝子変更に関してHDRを利用するために、所望の配列を含有するDNA「修復鋳型」を、gRNA(複数可)及び例えばCas9とともに所望の細胞型に送達しなければならない。修復鋳型は、所望の変更並びに標的のすぐ上流及び下流に追加の相同配列(左及び右相同性アーム)を含有しなければならない。
【0012】
CRISPRシステムより以前は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)又は転写アクチベータ様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などのゲノムエンジニアリングアプローチは、どのゲノム標的に対しても毎回、新しいヌクレアーゼ対を科学者が設計及び生成させる必要があるカスタマイズ可能なDNA結合タンパク質ヌクレアーゼの使用に依存していた。CRISPRは、大部分はその単純性及び適応性に起因して、ゲノムエンジニアリングにとってますます最も好評なものになってきている。
【0013】
CRISPR-Cas9システムが、ヒト細胞、マウス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、虫(worm)、酵母、細菌、及び植物におけるゲノム編集ツールとして採用され得ることを最近の研究は実証している。そのシステムは、多用途であり、ゲノム中のいくつかの部位を編集するため使用されるエンドヌクレアーゼ(例えば、Cas9)をプログラムすることによって、同時に単純に複数のガイドRNAを使用することによって、マルチプレックスゲノムエンジニアリングさえ可能にする。ニッカーゼへのCas9の容易な転換が、低下した変異原性活性を有する哺乳動物ゲノム中の相同組換え修復を促進することが示された。
【発明の概要】
【0014】
標的化DNA変更の機構の理解におけるこれらの最近の進歩にもかかわらず、植物材料における標的改変(targeted alteration)は、まだ必ずしも成功するわけでも効率的なわけでもない。実際に利用可能な方法(動物、特にヒト、細胞材料に対して最適化されることが多い)は、特に植物細胞に適用する場合、必ずしも成功するわけでも効率的なわけでもない。したがって、CRISPRに基づくシステム及びそのような植物細胞のため特に設計されたプロトコールで標的改変が導入されている植物細胞を提供する新しい方法に対する必要性が存在する。そのような方法は、様々な植物細胞において、当技術分野において知られている方法と比較して適切な効率で、好ましく、首尾よく適用され得る。
【0015】
この観点から、標的改変が導入されている、植物細胞を提供するための、又は植物細胞のDNAに標的改変を導入するための、新しい組成物、方法及び使用が、非常に望ましいであろう。特に、植物細胞中のDNA分子の効率的な標的改変を可能にする、信頼がおけ、効率的であり、再現性があり、特に標的化された組成物、方法及び使用に対する明らかな必要性が当技術分野において存在する。したがって、本発明の根底にある技術的な問題は、任意の前述の必要性に適合するための、そのような組成物、方法及び使用の供給において認められる。技術的な問題は、特許請求の範囲及び本明細書の以下に特徴付けられる実施形態により解決される。
【0016】
最近、Cas9タンパク質を実際に使用して、DNA構築物を使用することなく所望の植物遺伝子において変異を生成させることができるとのいくつかの報告が存在している(例えば、Wooら、2015. Nat Biotech 33、1162-1164を参照)。これらの方法は、Cas9タンパク質及びインビトロ転写されたsgRNAを植物プロトプラストに導入することに基づいている。本発明者らは、これらの方法に記載される条件が、最適以下であり、いくつかの種に対しては致死的でさえあることを同定した。Cas9タンパク質及びインビトロ転写されたガイドRNAを使用して、良好なプロトプラスト生存及び生育を保証する、植物DNAにおける標的改変に関する、改善され、いくつかの例においては必須な、パラメータを本発明は明らかにした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の実施形態は、以下の添付の図面を参照して、更に記載される:
【
図1】S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9 ORF(受託番号NC_002737;配列番号2)を示す図である。トランスポータン(transportan)配列には下線がひかれている、タンパク質には単純な精製のための6xHIS配列タグ(太字)及びタンパク質の核への輸送を保証するための核局在化シグナル(イタリック)も含まれる。
【
図2】S.ピオゲネス Cas9 ORF(受託番号NC_002737;配列番号3)のトマト(Solanaceae esculentum)における最適な発現のため変更されたコドン使用頻度を有するバリアントのORFを示す図である。
【
図3】シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)U6 polIIIプロモーター配列に融合したトマトの3g095310座のエキソン5(TTACTGCATTCCATACTCGA;配列番号1)における推定変異部位を含むsgRNA(配列番号4)を示す図である。シロイヌナズナ(A.thaliana)U6プロモーターには下線がひかれており、3g095310標的部位配列は太字であり、sgRNAの残りはイタリックで示される。
【
図4】Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAが、予測されるサイズの断片を産生するPCR産物を消化できることを示す図である。したがって、これらの試薬は、良好な活性を示し、変異誘発実験に使用することができる。Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAでの推定標的部位を保有する3g095310 PCR産物の消化;レーン1、3g095310 PCR産物 レーン2、3g095310 PCR産物+Cas9タンパク質+3g095310 sgRNA。
【
図5】クローン化したPCR産物の4%におけるindel変異の検出を示す図であり、Cas9タンパク質及びsgRNAがトマトプロトプラストに入ることができ、そこで、それらが正確なゲノム部位に標的化されるアクティブヌクレアーゼ複合体を形成することを示唆している。indel変異は、Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAをトマトプロトプラストにトランスフェクションした後、3g095310標的部位に由来するクローン中に見出された。下線がひかれた配列(WT)は、個々の変異体クローン中に見出されたindelと整列させた未変更の標的部位を表す。破線は、各クローンにおいて欠失したヌクレオチドの数及び位置を表す。数字は、いくつのヌクレオチドが欠失したかを示す。
【
図6】3.9%(658個のうちの26個)が、3g095310標的部位でindel変異を含有したことを示す図である。プロトプラストへのプラスミドトランスフェクションに由来するカルスの遺伝子型決定は、2.8%(1128個のうちの32個)が、3g095310標的部位で変異を含有することを示した。indel変異は、Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAをトマトプロトプラストにトランスフェクションした後、3g095310標的部位でカルス中に見出された。下線がひかれた配列(WT)は、個々の変異体カルス中に見出されたindelと整列させた未変更の標的部位を表す。破線は、各カルスにおいて欠失したヌクレオチドの数及び位置を表す。数字は、いくつのヌクレオチドが欠失又は付加したかを示す(太字)。カルスの大多数は、indel変異に関してヘテロ接合性である。しかしながら、いくつかのカルスは二対立遺伝子変異(BI)を含有し、同じindel変異が遺伝子の両方のコピーに存在し、カルス2C10(A&B)は二対立遺伝子性であるが、各遺伝子において異なるindel変異を含有する。
【
図7】プロトプラスト生存における様々なグリセロール濃度の効果を示す図である。グリセロール(v/v)の終濃度はx軸に示され、生存しているプロトプラストのパーセンテージはy軸に示される。対照(グリセロールの添加なし)は、自由裁量で100%にセットされ、他のサンプル中の生存している細胞の数は、これを参照として使用して示される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[定義]
本開示の一部には、著作権保護の対象である対象物が含まれる(例えば、著作権保護が、任意の管轄区域において有効である又は有効であることがある、本願の図、デバイス写真、又は任意の他の態様に限定されない)。特許庁の特許ファイル又はレコード中に掲載されるが、全ての著作権はどんなものであれ留保されるので、著作権者は特許文書又は特許開示のいずれかによる複製に対して不服はない。
【0019】
本発明の方法、組成物、使用及び他の態様に関する様々な用語は、明細書及び特許請求の範囲の全体にわたって使用される。そのような用語は、他に示さない限り、本発明の属する技術分野における、それらの通常の意味を与えられる。他の特に定義された用語は、本明細書に提供される定義と一致した様式において解釈される。本明細書に記載されるものと類似した又は同等な任意の方法及び材料を本発明の試験のための実施において使用することができるが、好ましい材料及び方法が本明細書に記載される。
【0020】
「a」、「an」及び「the」:これらの単数形の用語には、内容が明らかに他を指示しない限り、複数の指示対象が含まれる。よって、例えば、「細胞」に対する参照には、2つ又はそれ以上などの細胞の組合せが含まれる。
【0021】
「約」及び「およそ」:これらの用語は、例えば、量、時間的な持続時間などの測定可能な値を指す場合、変形形態が開示される方法を実施するため適切であるものとして、指定の値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、なおより好ましくは±1%、及び更により好ましくは±0.1%の変形形態を包含することを意味する。
【0022】
「及び/又は」:用語「及び/又は」は、記載されたケースのうちの1つ又は複数が、単独で又は少なくとも1つの記載されたケース(全ての記載されたケースまで)の組合せで起こり得る状況を指す。
【0023】
「含む」:この用語は、包括的であり、オープンエンドであり、排他的ではないと解釈される。特に、その用語及びその変形は、特定の特徴、ステップ又は成分が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は成分の存在を排除すると解釈されない。
【0024】
用語「デアミナーゼ」は、脱アミノ反応を触媒する酵素を指す。いくつかの実施形態において、デアミナーゼは、それぞれ、シチジン又はデオキシシチジンからウラシル又はデオキシウラシルへの加水分解脱アミノを触媒する、シチジンデアミナーゼである。
【0025】
「例示的」:この用語は、「実施例、実例、又は例示として供すること」を意味し、本明細書に開示される他の構成が排除すると解釈されるべきではない。
【0026】
「植物」:これには、植物細胞、植物プロトプラスト、植物を再生させることができる植物細胞組織培養、植物カルス、植物細胞凝集塊(plant clump)、及び植物中の無傷(intact)である植物細胞又は胚、花粉、胚珠、種子、葉、花、枝、果実、仁、穂、穂軸、殻、柄、根、根端、葯、穀粒などのような植物の部分が含まれる。
【0027】
[詳細な説明]
本明細書に記載の任意の方法、使用又は組成物は、本明細書に記載の任意の他の方法、使用又は組成物に関して達成できることが意図されている。本発明の方法、使用及び/又は組成物の文脈において議論される実施形態は、本明細書に記載の任意の他の方法、使用又は組成物に関して採用され得る。したがって、1つの方法、使用又は組成物に属する実施形態は、本発明の他の方法、使用及び組成物にも適用され得る。
【0028】
本明細書に具体化され、広く記載されるように、本発明は、培地のインキュベーション混合物中のグリセロールの存在と、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供する効率との間に予想外の関係性が存在するとの発明者らによる所見を対象としており、その方法は、植物細胞を、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CASシステムガイドRNA(以後、sgRNA、gRNA又はガイドRNAとも称される)を含む培地と、ポリエチレングリコール(PEG)存在下で接触させるステップを含む。ガイドRNAは、tracrRNAに対してハイブリダイズしたcrRNA、又は例えば、Jinekら、(2012、Science 337:816-820)に記載されているような単鎖ガイドRNA、又は例えば、Cpf-1での使用のための単一RNAガイドとして理解される。
【0029】
言い換えると、植物細胞が、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びsgRNA及びPEGを含む水性培地と、前記CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びsgRNAを植物細胞に導入する目的で、前記植物細胞においてDNA分子を(標的化)変更させる目的で、接触させられる場合、そのような培地が、実質的に無グリセロールであるべきであることは本発明者らにとって驚きであった。この所見に反して、当業者は、当技術分野において、いわゆるグリセロールショック(例えば相当量のグリセロール、例えば、5、10又は更に20%(v/v)以上のグリセロールを使用)が、トランスフェクション効率の改善を促進することを認識している(例えば、Grosjeanら、Biotechnology Letters (2006)、28(22):1827-1833又はJordanら、Nucl. Acids Res. (1996) 24 (4): 596-601.doi: 10.1093/nar/24.4.596を参照)。
【0030】
植物細胞と接触する水性培地が実質的に無グリセロールであるべきであるとの所見に加えて、本発明者らは、最適な結果(例えば、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供する)が、以下に詳細に記載されるように、いくつかの他のステップ及び因子を含ませることによって達成されることも見出した。
【0031】
したがって、第1の態様によれば、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供する方法であって、DNA分子(DNA分子は標的配列を有する)を含む植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及び標的配列とハイブリダイズするCRISPR-CASシステムガイドRNAを含み、水性培地が、ポリエチレングリコール(PEG)を含み、実質的に無グリセロールである方法が提供される。
【0032】
方法において、植物細胞の集団は、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CASシステムガイドRNAを含む水性培地と接触される。
【0033】
限定されないが、植物細胞は、少なくとも5分間の期間、例えば、5分間~24時間の間、又は5分間~6時間の間、又は5分間~60分間の間、又は5分間~30分間の間、又は5分間~25分間の間の期間で接触されることが好ましい。接触させることは、任意の適切な温度であってもよく、例えば、摂氏4℃~摂氏40℃の間の温度であり、摂氏10℃~摂氏30℃の間、例えば、室温が好ましい。
【0034】
本明細書の発明の背景の部分に説明されているように、当業者は、CRISPR又はCRISPR-CASシステム及び細胞中に存在するDNAを変更させることにおけるその使用をよく認識している。CASタンパク質又はCAS様タンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性を、植物細胞中のDNA分子に存在する配列を特異的に標的とするよう設計され、植物細胞中に導入されたらDNA分子における前記標的配列とハイブリダイズするシステムガイドRNA(sgRNA)との組合せで、提供する。CASタンパク質(例えば、CAS9)-sgRNA複合体とDNAのハイブリダイゼーション後、CASタンパク質のエンドヌクレアーゼ活性が、DNA分子における標的部位で二本鎖切断を導入し得る。
【0035】
当業者は、どのようにして異なる成分のCRISPR-CASシステムを調製するかを知っている。先行技術において、多数の報告が、その設計及び使用において利用可能である。例えば、sgRNAの設計及びCASタンパク質CAS9(当初はS.ピオゲネスから得られた)とのその組合せ使用におけるHaeusslerら(J Genet Genomics. (2016)43(5):239-50. doi: 10.1016/j.jgg.2016.04.008.)による最近の総説を参照。
【0036】
更に、当業者は、培地に関して本明細書に定義される特定の要求に次いで、培地は任意の適切な培地であってもよいことを理解する。例えば、培地は、5~8の間、好ましくは6~7.5の間のpH値を有することが好ましい。
【0037】
CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びsgRNAの水性培地中の存在に次いで、培地は、ポリエチレングリコールを含む。ポリエチレングリコール(PEG)は、工業的な製造から医療まで多くの適用を有する、ポリエーテル化合物である。PEGは、ポリエチレンオキシド(PEO)又はポリオキシエチレン(POE)としても知られている。PEGの構造は、一般にH-(O-CH2-CH2)n-OHとして表現される。使用されるPEGは、20,000g/mol未満の分子量を有する、オリゴマー及び/又はポリマー、又はその混合物であることが好ましい。
【0038】
PEG媒介性遺伝子形質転換は、1985年から知られている。植物プロトプラスト形質転換についての最初の方法は、PEGを利用した(Krensら、(1982) Nature 296: 72-74;Potyrykusら、(1985) Plant MoI. Biol. Rep. 3:117-128;Negrutiuら、(1987) Plant Mol.Biol. 8: 363-373)。この技術は、多くの異なる植物からのプロトプラストに適用可能である(Rasmussenら、(1993) Plant Sci. 89: 199-207)。PEGは、二価のカチオンの存在下で、植物プロトプラストの表面にDNAを沈殿させ、次にそこからインターナライズされて、形質転換を刺激すると考えられている(Maas & Werr (1989) Plant Cell Rep. 8: 148-151)。上記先行技術は、植物細胞中にDNAを標的改変させることを目的として、植物細胞にsgRNA及びCASタンパク質及び/又はCAS様タンパク質を導入するためのPEG形質転換の使用を意図していない、特に、そのような使用において、水性培地は、実質的に無グリセロールであるべきである。
【0039】
本明細書に説明されたように、発明者らには驚きであったことには、水性培地は、実質的に無グリセロールであるべきである。グリセロールは、単純なポリオール化合物である。グリセロールは、無色で、無臭の粘稠性の液体であり、甘い味があり、一般的に無毒であると考えられる。グリセロールは、生命科学において使用される、緩衝液、培地などにおいて一般に使用されている。グリセロールは、タンパク質を安定化するため、溶液中に及び/又は抗凍結剤として使用して、タンパク質及び酵素を低温で維持することができる。例えば、CAS9タンパク質は、高レベルのグリセロールを含む貯蔵溶液の形態で一般に販売されている(例えば、50%まで;例えば、www.neb.com/products/m0386-cas9-nuclease-s-pyogenes#pd-descriptionを参照)。したがって、グリセロールは溶液中のタンパク質を安定化するため使用されるが、本発明の文脈において、CASタンパク質又はCAS様タンパク質を含む水性培地中のそのようなグリセロールの存在が、(例えば、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供することにおいて)方法の全体的な有効性を低減させることが見出された。実際、グリセロール濃度が水性培地中で高すぎる場合、DNA分子において標的改変を有する植物細胞が全く得られないことがあることを結果は示した。
【0040】
当業者は、グリセロールの許容濃度が、実験設定にある程度依存することがあり、本開示に基づいて、当業者は、そのような最大の許容濃度を決定することに問題はなく、それを超えて本発明の方法の有効性が低減されることを理解する。
【0041】
本発明の文脈内では、植物中のDNA分子における標的改変が、いわゆるINDEL変異(すなわち、ヌクレオチドの挿入又はヌクレオチドの欠失又は両方をもたらし、ヌクレオチドの総数において正味の変化をもたらし得る変異)を含む、DNA分子における標的位置として、1つ又は複数のヌクレオチド(複数可)の欠失、1つ又は複数のヌクレオチド(複数可)の挿入及び/又は1つ又は複数のヌクレオチド(複数可)置換などの任意の型の変更であってもよいことを当業者は理解する。
【0042】
本発明において使用される培地が実質的に無グリセロールである必要があるとの所見に加えて、それとの組合せで、望ましい結果が、CASタンパク質及び/又はCAS様タンパク質、sgRNA及びPEGを含む水性培地と接触される細胞の量が、水性培地の1ミリリットル当たり約10,000~2,000,000個の植物細胞に達する場合、得られることが見出された。したがって、細胞の量は変動してもよく且つ所与の範囲を外れてもよいが、好ましい実施形態において、水性培地の1ミリリットル当たりの細胞の量は、10,000~2,000,000個の植物細胞の間である。当業者は、どのようにして、そのような数の細胞を提供するかを知っている。
【0043】
細胞は、互いに分離した細胞として、すなわち単一細胞として提供されるのが好ましいが、集団中の一部の細胞は、互いに連結されていてもよく、細胞の小塊を形成してもよい。また、当業者は、どのようにして、少なくとも、大多数、単一細胞形態で、すなわち、大多数の細胞が互いに連結されていない形態で、細胞の集団を提供するかを知っている。
【0044】
本明細書の他で説明されている通り、当業者は、本発明の方法が、異なる植物細胞、例えば、異なる植物種の植物細胞に対して適用可能であり得ることを理解している。実際、本明細書に開示されている発明は、広範囲の植物、単子葉植物及び双子葉植物の両方の植物細胞に対して適用可能であり得ることが意図されている。非限定的な例には、ウリ科、ナス科及びイネ科、トウモロコシ/トウモロコシ(Zea種)、コムギ(Triticum種)、オオムギ(例えば、Hordeum vulgare)、カラスムギ(例えば、Avena sativa)、ソルガム(Sorghum bicolor)、ライ麦(Secale cereale)、ダイズ(Glycine spp、例えば、G.max)、綿(Gossypium種、例えば、G.hirsutum、G.barbadense)、アブラナ属種(例えば、B.napus、B.juncea、B.oleracea、B.rapa、など)、ヒマワリ(Helianthus annus)、ベニバナ、ヤム、キャッサバ、アルファルファ(Medicago sativa)、コメ(Oryza種、例えば、O.sativa indica栽培品種群又はjaponica栽培品種群)、飼料草、パールミレット(Pennisetum spp.例えば、P.glaucum)、樹木種(Pinus、ポプラ、モミ、オオバコ、など)、茶、コーヒー、アブラヤシ、ココナツ、野菜種、例えば、エンドウ、ズッキーニ、マメ(例えば、Phaseolus種)、キュウリ、アーティチョーク、アスパラガス、ブロッコリー、ニンニク、リーキ、レタス、タマネギ、ダイコン、レタス、カブ、芽キャベツ、ニンジン、カリフラワー、チコリー、セロリ、ホウレンソウ、エンダイブ、茴香、ビート、多肉果を実らせる植物(ブドウ、モモ、プラム、イチゴ、マンゴ、リンゴ、プラム、サクランボ、アンズ、バナナ、ブラックベリー、ブルーベリー、柑橘類(citrus)、キーウィ、イチジク、レモン、ライム、ネクタリン、キイチゴ、スイカ、オレンジ、グレープフルーツ、など)、観賞用種(例えば、バラ、ペチュニア、キク、ユリ、ガーベラ種)、ハーブ(ミント、パセリ、バジル、タイム、など)、木質性樹木(woody tree)(例えば、Populusの種、Salix、Quercus、Eucalyptus)、線維種、例えば、アマ(Linum usitatissimum)及びアサ(Cannabis sativa)、又はモデル生物、例えば、シロイヌナズナからの植物細胞が含まれる。
【0045】
しかしながら、好ましい実施形態において、植物細胞は、トマトから得られる植物細胞である。
【0046】
別の好ましい実施形態によれば、植物細胞の集団は、植物プロトプラスト、好ましくはトマト植物プロトプラストの集団である。当業者は、様々な植物についての植物プロトプラストの調製に関して利用可能な方法を使用することによって植物プロトプラストを提供することができる。例えば、植物プロトプラストは、植物全体(whole plant)、植物全体の一部若しくは植物細胞をセルロース若しくはペクチナーゼなどの酵素で処理すること又は適切な機械的な手段によって、調製して、細胞壁を除去することができる。結果として生じる植物プロトプラストは、次に、それらを安定な形態に維持するための浸透圧制御剤を含有する水溶液に配置される(例えばReusinkら、Science (1966) 154 (3746): 280-281 DOI: 10.1126/science.154.3746.280又はMuhlbachら、Planta (1980)148 (1): 89-96.を参照)。
【0047】
同様に、本発明の方法において使用される水性培地が実質的に無グリセロールであるべきことに次いで、上記開示された量の植物細胞又は植物プロトプラストを有することが好ましく、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びsgRNAの濃度及び比が、ある特定の範囲内であることが好ましいことが見出された。
【0048】
特に、望ましい結果が、植物細胞の集団を含む水性培地が、2~80ナノモル(nM)CASタンパク質又はCAS様タンパク質を含む場合に得られる。したがって、濃度は、例えば1~200nMの間であり変動してもよく、好ましい実施形態において、濃度は2~80nMの間、例えば、5~70nMの間、10~50nMの間又は20~40nMの間である。
【0049】
用語CASタンパク質又はCAS様タンパク質は、CRISPR関連タンパク質を指し、CAS9、CSY4、dCAS9(例えば、CAS9_D10A/H820A)、ニッカーゼ(例えば、CAS9_D10A、CAS9_H820A又はCAS9_H839A)及びdCAS9-エフェクタードメイン(アクチベータ及び/又は阻害ドメイン)融合タンパク質(例えば、更なる機能ドメイン、例えば、デアミナーゼドメインに融合されたCAS9又はCAS様分子)、及び他の例、例えば、Cpf1又はCpf1_R1226A及び例えば、WO2015/006747に記載されるものを含むが、限定されない。Cas9の変異体及び誘導体並びに他のCasタンパク質は、本明細書に開示される方法において使用することができる。そのような他のCasタンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性を有し、標的配列の認識に関して操作されたsgRNAの存在下、植物細胞にある場合、標的核酸配列を認識できることが好ましい。CASタンパク質又はCAS様タンパク質は、Cpf1のCAS9タンパク質であることが好ましい。
【0050】
Cas9タンパク質は、広く市販されており、並びに、その改変されたバージョンである(これは、本発明の文脈内のCASタンパク質としても意図されている)。Cas9タンパク質は、(エンド)ヌクレアーゼ活性を有し、次に分解される病原体ゲノム中の標的配列で特異的なDNA二本鎖切断(DSB)を生じることができる。実際、ゲノム配列を標的化するCas9タンパク質(ヌクレアーゼ)、tracrRNA及びcrRNA(CRISPRシステムの成分)又はsgRNA(tracrRNA及びcrRNAのキメラ融合)は、ゲノム標的配列で標的化DSBを作り出し、これは細胞DNA機構によって誤修復されることが多く、小さな挿入又は欠失をもたらす(INDEL)ことが示される(Fengら、(2013) Cell Res. 1: 4;Liら、(2013) Nat. Biotech. 31: 689-691;Nekrasovら、(2013) Nat. Biotech. 31: 691-693;Shanら、(2013) Nat. Biotech. 31: 686-688)。
【0051】
Cpf1は、クラス2 CRISPR-Casシステムの単一RNAガイドエンドヌクレアーゼである(例えば、Cell(2015)163(3):759-771を参照)。Cpf1は、tracrRNAを欠く単一RNAガイドエンドヌクレアーゼであり、Tリッチプロトスペーサー隣接性モチーフを利用する。Cpf1は、ねじれ型DNA二本鎖切断を介してDNAを切断する。Cpf1は、ヒト細胞中で効率的なゲノム編集活性を有することが示されている。したがって、Cpf1は、代替CASタンパク質として使用され得る。
【0052】
CAS又はCAS様タンパク質は、ストレプトコッカスピオゲネス(Streptococcus pyogenes)からのCas9(例えば、UniProtKB-Q99ZW2)、フランシセラツラレンシス(Francisella tularensis)からのCas9(例えば、UniProtKB-A0Q5Y3)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)からのCas9(例えば、UniProtKB-J7RUA5)、ネスルンド放線菌(Actinomyces naeslundii)からのCas9(UniProtKB-J3F2B0)、ストレプトコッカスサーモフィルス(Streptococcus thermophilus)からのCas9(例えば、UniProtKB-G3ECR1;UniprotKB-Q03JI6;Q03LF7)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)からのCas9(例えば、UniProtKB-C9X1G5;UniProtKB-A1IQ68);リステリアイノキュア(Listeria innocua)(例えば、UniProtKB-Q927P4);ストレプトコッカスミュータンス(Streptococcus mutans)からのCas9(例えば、UniProtKB-Q8DTE3);パスツレラムルトシダ(Pasteurella multocida)からのCas9(例えば、UniProtKB-Q9CLT2);ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)からのCas9(例えば、UniProtKB-Q6NKI3);カンピロバクタージェジュニ(Campylobacter jejuni)からのCas9(例えば、UniProtKB-Q0P897)、フランシセラツラレンシスからのCpf1(例えば、UniProtKB-A0Q7Q2)、アシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp.)からのCpf1(例えば、UniProtKB-U2UMQ6)、その任意のオルソログ又はそれから由来する任意のCRISPR関連エンドヌクレアーゼからなる群から選択され得るが、限定されない。
【0053】
本明細書に言及されるように、CRISP-CASシステムガイドRNA(又はsgRNA)の濃度も、本明細書に開示される発明の文脈内で、ある特定の範囲内であることが好ましい。更に、特に、水性培地中で30~600ナノモルのCRISPR-CasシステムガイドRNAの濃度を使用することにより、(例えば、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供することにおいて)得られる結果が改善されることが見出された。したがって、例えば、10~1000nM sgRNAの濃度(一を超える異なるsgRNAが、本発明において同時に使用されるケースでは、総濃度)が、使用され得るが、濃度は、30~600nMの間、例えば、50~400nMの間、例えば、100~300nMの間、例えば、150~250nMの間であることが好ましい。
【0054】
別の選択によれば、水性培地中のCASタンパク質と、CAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNAとの間のモル比は1:300~8:3であり、好ましくはモル比は1:20である。例えば、モル比は、1:1~1:50、又は1:5~1:30、又は1:1~8:3、及びこれらの好ましい比内の任意の他の比であってもよい。
【0055】
CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びsgRNAの濃度及び比は、所与の濃度範囲内及び所与のモル比内の両方であることが好ましい。
【0056】
本明細書の詳細のように、細胞と接触させる水性培地は、実質的に無グリセロールであるべきである。
【0057】
好ましい実施形態において、植物細胞の集団を含む水性培地は、0.1%(v/v)未満のグリセロールを含み、好ましくは水性培地は(検出可能な)グリセロールなしである。言い換えると、植物細胞の集団を含む水性培地中の終濃度グリセロールは、好ましくは、0.1%(v/v)未満、例えば、0.09%、0.08%、0.07%、0.06%、0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.09、0.08、0.07、0.06、0.005%、0.004%、0.003%、0.002%、0.001%、0.0009%、0.0008%、0.0007%、0.0006%、0.0005%、0.0004%、0.0003%、0.0002%又は0.0001%(v/v)未満のグリセロールである。任意選択で、植物細胞の集団を含む水性培地は、完全に無グリセロールである。
【0058】
本明細書の詳細のように、実質的に無グリセロールである水性培地は、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及び少なくとも1つのsgRNA(原則として、一を超える型のsgRNAが、同じ実験、例えば、2つ又はそれ以上の異なる標的配列向け、又は更に同じ標的配列向けで使用されてもよい)に次いで、ポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0059】
本発明の文脈内で、PEGの濃度が、ある特定の範囲内であることが好ましいことが見出された。特に、植物細胞の集団を含む水性培地は、100~400mg/ml PEGを含む。したがって、PEGの終濃度は、100~400mg/ml、例えば、150~300mg/mlの間、例えば、180~250mg/mlの間である。好ましいPEGは、PEG 4000 Sigma-Aldrich no.81240である。(すなわち、平均Mn4000を有する(Mn、数平均分子量は、サンプル中の全てのポリマー分子の総重量を、サンプル中のポリマー分子の総数で割ったものである)。PEGは、約1000~10,000、例えば、2000~6000の間のMnとして使用されることが好ましい)。
【0060】
本明細書の既述の詳細のように、非常に好ましい実施形態において、本発明の方法が提供され、ここで、植物細胞を含む水性培地は、
2~80ナノモル(nM)CASタンパク質又はCAS様タンパク質;
30~600ナノモル(nM)CRISPR-CasシステムガイドRNA;
0.1%(v/v)未満のグリセロール;
100~400mg/ml PEG、及び
10,000~2,000,000個/mlの植物細胞
を含む。
【0061】
パラメータのこの組合せは、驚くべきことに、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供することに有効であることが見出された。実際、上記パラメータの偏りが、効率及び/又は有効性を低減させることがあることが見出された。
【0062】
上記に加えて、本発明の方法の効率及び/又は有効性は、PEGが、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNAが水性培地に提供された後に培地に添加される場合に、改善されることが見出された。したがって、PEGは、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNAが培地に提供される前に水性培地に添加され得るが、水性培地は、CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを最初に提供され、その後、PEGが培地に提供されることが好ましいことが見出された。CASタンパク質又はCAS様タンパク質及びCRISPR-CasシステムガイドRNA並びにPEGを添加する間の時間は、5秒間~10分間の間であることが好ましいが、そのように所望する場合、より短く又はより長くてもよい。
【0063】
更なる選択によれば、植物細胞を、植物中のDNA分子に導入しようとしている所望の変更を含むDNAオリゴヌクレオチド又はDNAポリヌクレオチドと接触させることを更に含む、本発明の方法が提供される。
【0064】
NHEJ媒介性DSB修復は不完全であることがあるが、遺伝子のオープンリーディングフレームの破壊をもたらすことが多く、相同組換え修復は、単一ヌクレオチド変化から大きい挿入の範囲の特異的なヌクレオチド変化を生成させるため使用することができる。この使用に関しては、所望の配列を含有するDNA「修復鋳型」が作られ、これが、gRNA(複数可)及びCASタンパク質又はCAS様タンパク質とともに所望の細胞型に送達しなければならない。
【0065】
修復鋳型は、所望の変更並びに標的のすぐ上流及び下流に追加の相同配列(いわゆる、左及び右相同性アーム)を含有しなければならない。各相同性アームの長さ及び結合位置は、導入されている変化のサイズに依存的である。修復鋳型は、特定の適用に依存して、一本鎖オリゴヌクレオチド(6~250ヌクレオチドの間の任意の長さを有するオリゴヌクレオチド)、二本鎖オリゴヌクレオチド、又は二本鎖DNAプラスミドであり得る。
【0066】
更なる好ましい実施形態によれば、植物細胞の集団が、更に栽培される(すなわち、本明細書の詳細のように、フィーダー植物細胞の存在下で、水性培地と接触させた後)、本発明の方法が提供され、フィーダー植物細胞は植物プロトプラストであることが好ましく、フィーダー植物細胞は植物細胞の集団と同じ植物種のものであることが好ましく、フィーダー植物細胞は好ましくは50,000~250,000個のフィーダー植物細胞を含有しているフィーダーディスクの形態で提供されることが好ましい。
【0067】
当業者は、どのようにして、フィーダー細胞の存在下で、プロトプラストを栽培するかを知っており、例えば、例中の詳細のようになされる。植物細胞が、実質的に無グリセロールであるが、CAS/CRISPRシステム成分及びPEGを含む水性培地と接触された後の培養期間の間のフィーダー細胞の存在が、本発明に従った方法の全体的な有効性及び/又は有効性を増加することができることが見出された。このことは、特に、フィーダー細胞が、水性培地中でCRISPR/CASシステムと接触させた植物細胞の集団と同じ植物種のものである場合、特に1フィーダーディスク当たり50,000~250,000個のフィーダー植物細胞の量が使用される場合(1実験当たり通常1つのフィーダーディスクが使用される)、真である。
【0068】
当業者は、Plant Science Letters (1984) 33 (3): 293-302; doi:10.1016/0304-4211(84)90020-8における詳細のような又はPlant Cell and Tissue Culture(ISBN 0-7923-2493-5; edited by Vasil and Thorpe; Kluwer Academic Publishers)を含む様々なハンドブックに記載されるようなフィーダー細胞の存在中でプロトプラストをどのようにして栽培するかにおける他の技術を知っている。
【0069】
植物細胞の集団からの個々のプロトプラストが、植物カルス、植物細胞壁を含む植物細胞、及び/又は植物へと更に栽培される、本発明の方法も意図されている。
【0070】
本発明の方法は、除草剤耐性、乾燥耐性、雄性不稔、昆虫耐性、非生物的なストレス耐性、改変された脂肪酸代謝、改変された炭水化物代謝、改変された種子収量、改変された油パーセント、改変されたタンパク質パーセント、及び細菌疾患、真菌疾患又はウイルス疾患に対する耐性の形質のうちの1つ又は複数を付与する、例えば遺伝子又はプロモーターのDNA分子、ヌクレオチド配列内にターゲティングするため特に適切であるが、DNA分子内の任意の種類の配列を標的化するため使用することができる。
【0071】
別の好ましい実施形態において、水性培地が、任意のプラスミド又はベクター材料、特に任意のプラスミド材料又はCASタンパク質及び/又はCAS様タンパク質をコードするベクター材料を含まない、本発明の方法が提供される。そのようなベクターを培地中に存在させると、植物又は植物細胞中のDNA分子において、その望ましくない導入のケースとなることがある。
【0072】
別の態様によれば、DNA分子において標的改変を有する植物細胞を提供することにおける、2~80ナノモル(nM)CASタンパク質又はCAS様タンパク質、30~600ナノモル(nM)CRISPR-CasシステムガイドRNA、0.1%(v/v)未満のグリセロール、及び100~400mg/ml PEGを含む水性培地の使用が提供される。
【0073】
当業者は、本発明の方法に関して本明細書に開示される様々な制限及び選択に関して、これらが、水性培地の上記使用に対して同様に適用されることを理解している。
【0074】
本発明に従った方法又は使用で得られる、植物細胞壁、植物、又はその種子を含むプロトプラスト、プロトプラストの集団、植物細胞も提供される。
【0075】
本発明の別の態様によれば、
CASタンパク質又はCAS様タンパク質、好ましくは、2~80ナノモル(nM)CASタンパク質又はCAS様タンパク質;
CRISPR-CasシステムガイドRNA、好ましくは30~600ナノモル(nM)CRISPR-CasシステムガイドRNA;
0.1%(v/v)未満のグリセロール、好ましくはグリセロールなし;及び
100~400mg/ml PEG
を含む組成物、好ましくは水性組成物が提供される。
【0076】
当業者は、本発明の方法及び本発明の使用に関して本明細書に開示される様々な制限及び選択に関して、これらが、上記組成物に対して同様に適用されることを理解している。
【0077】
例えば、好ましい実施形態において、組成物は、10,000~2,000,000個/mlの植物細胞を更に含む。
【0078】
本明細書に開示される方法はまた、植物細胞中のDNA分子の標的改変の方法であることを当業者は理解している。したがって、植物細胞中のDNA分子の標的改変の方法であって、標的化されるDNA分子(DNA分子は標的配列を有する)を含む植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及び標的配列とハイブリダイズするCRISPR-CASシステムガイドRNAを含み、水性培地が、ポリエチレングリコール(PEG)を含み、実質的に無グリセロールである方法も提供される。
【0079】
当業者は、上記に記載される方法に関して本明細書に開示される様々な制限及び選択に関して、これらが、植物細胞中のDNA分子の標的改変の方法に対して同様に適用されることを理解している。
【0080】
最終的に、本明細書に開示される方法はまた、植物細胞中にCRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを導入する方法であることを当業者は理解している。したがって、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを導入する方法であって、植物細胞の集団を水性培地と接触させるステップを含み、水性培地が、CRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを含み、水性培地が、ポリエチレングリコール(PEG)を含み、実質的に無グリセロールである方法も提供される。
【0081】
上記に開示される方法に関して本明細書に開示される様々な制限及び選択に関して、これらが、植物細胞中にCRISPR関連タンパク質(CASタンパク質)又はCAS様タンパク質、及びCRISPR-CasシステムガイドRNAを導入する方法に対して同様に適用されることを当業者は理解している。
【0082】
以下、本発明を一般的に記載しながら、同じ発明が、例示の手段で提供され、本発明の限定を意図していない、以下の実施例に対する参照によって、より容易に理解される。
【実施例】
【0083】
実施例1-Cas9タンパク質及びインビトロ転写されたsgRNAを使用する、トマト3g095310座位でのIndelの誘導。
【0084】
材料及び方法
構築物
S.ピオゲネスCas9 ORF(
図1)(受託番号NC_002737)を、核局在化シグナルとともに大腸菌(E.coli)に対してコドン使用を最適化して合成し、次に発現ベクターpET28(Invitrogen)にクローン化して、精製のため使用することができるタンパク質のN末端での6xHISエピトープの融合をもたらした。これを、次に、タンパク質産生のため大腸菌株BL21(DE3)(Invitrogen)に形質転換した。
【0085】
S.ピオゲネス Cas9 ORF(受託番号NC_002737)はまた、トマト(Solanaceae esculentum)における最適な発現のため変更されたコドン使用頻度を有するバリアントを設計するため使用された。もたらされたORFは、
図2に示されている。ORFを、次に、XhoI(5’)及びSacI(3’)部位の両方と隣接させて合成し(www.geneart.com)、プラスミドにクローン化した。Cas9 ORF断片を、次に、XhoI及びSacIで消化後、このプラスミドから単離した。ベクターpKG7381に存在する構成的なカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを使用して、トマトプロトプラストにおいてCas9 ORFを発現させた。プラスミドpKG7381は、XhoI及びSacI部位と隣接する6xHISタグ化バージョンの緑色蛍光タンパク質(GFP)を保有する。pKG7381中のGFP ORFを、XhoI及びSacI部位を使用するCas9 ORFによって置換して、Cas9 ORFを保有させて、構築物pKG7230をもたらし、核局在化配列(NLS)及び6xHISタグをそのN末端に翻訳段階で融合させた。このベクターは、植物細胞においてCas9タンパク質の発現のため使用することができる。
【0086】
タンパク質発現及び精製
Cas9発現株を、カナマイシン(50μg/ml)を補充したLB培地中でOD600=0.6まで増殖させ、IPTGを次に1mMの終濃度を添加して、タンパク質産生を誘導した。これらの培養物を、次に、最適なタンパク質発現のため22°Cで振盪機中で一晩増殖させた。組換えタンパク質を、次に、製造者のプロトコールに従ってNi-NTAスピンキット(Qiagen)を使用して精製した。タンパク質産生を、次に、10%ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)における精製したタンパク質の分離、続いてクーマシー染色によって確認した。精製したタンパク質を、次に、20mM HEPES、150mM KCl、1mM DTT及び10%グリセロールからなる緩衝剤(G)に対して、20K Slide-a-Lyzer透析カセット(Thermo Scientific)を使用して一晩4°Cで透析した。タンパク質を、次に、カセットから除去し、Amicon Ultra-4 100K Centrifugation Filter(Millipore)に通した。フィルターにおけるタンパク質を、1xPBS緩衝液(NaCl、80g/l;KCl、2g/l;Na2HPO4、14.4g/l;KH2PO4、2.4g/l;pH7.4)で洗浄し、次に、200μl 1xPBS緩衝液を使用してフィルターから最終的に洗浄した。Cas9タンパク質の濃度を、標準として市販のCas9タンパク質(M0641、New England Biolabs、166ng/μl)を使用して、10%ポリアクリルアミドゲル、続いてクーマシーゲル染色で定量化した。
【0087】
トマト座位3g095310に関するsgRNA合成
トマトの座位3g095310の分析により、エキソン5における推定変異部位(TTACTGCATTCCATACTCGA)が同定された。次に、この配列を含むsgRNAを合成して、シロイヌナズナU6 polIIIプロモーター配列と融合した(
図3)。このプラスミド(KG9492)を、次に、プライマーT7-3g095310 F(5’-GGATCCTAATACGACTCACTATAGTTACTGCATTCCATACTCGA-3’;配列番号5)及びsgRev(5’-AAAAAAAGCACCGACTCGG-3’;配列番号6)でのPCRのための鋳型として使用して、sgRNA配列をT7ポリメラーゼプロモーターに対して融合した産物がもたらされた。PCR産物を、次に、沈殿させ、Probe Quant G50 Microカラム(GE Healthcare)で精製し、次に、Ampliscribe T7 Flash Transcription Kit(Epicentre)を使用するインビトロRNA合成のための鋳型として使用した。sgRNAを、次に、ssDNA/RNA Clean and Concentratorキット(ZymoResearch)を使用して、精製及び濃縮し、Qubitで定量化した。
【0088】
Cas9タンパク質及び03g095310 sgRNAインビトロ試験
推定変異部位を含む、この座位の536bp領域を増幅する、(フォワード、5’-aaggtgaagggggtaaaatgg-3’(配列番号7);リバース、5’-gaaggtgaagggggtaaaatgg-3’(配列番号8))プライマーを設計した。このPCR産物を、トマトゲノムDNAから増幅し、次に、精製されたCas9タンパク質及び転写された3g095310 sgRNAでの消化反応に使用した。反応について、300ngのPCR産物を、160ng Cas9タンパク質、200ng 3g095310 sgRNA及び1μl 10x反応緩衝液(20mM HEPES、100mM NaCl、5mM MgCl2、0.1mM EDTA、pH6.5)での10μl反応中で1時間37°Cでインキュベートした。1μlのRNaseA(4mg/ml)を、次に、添加し、15分間後、サンプルを、アガロースゲルで分析した(
図4)。図に示されるように、Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAは、予測されるサイズの断片を産生するPCR産物を消化できた。したがって、これらの試薬は、良好な活性を示し、変異誘発実験に使用することができる。
【0089】
トマトプロトプラスト単離及びトランスフェクション
トマト(Solanum lycopersicon var Moneyberg)のインビトロシュート培養を、高いプラスチック瓶中の0.8%寒天中のMS20培地において、16/8時間の光周期(2000ルクス)で25°C及び60~70% RHで維持した。若葉(1g)を、葉脈まで垂直に丁寧にスライスして、酵素混合物の浸透を容易にした。スライスした葉を、酵素混合物(CPW9M中の2% Cellulase Onozuka RS、0.4% Macerozyme Onozuka R10)に移し、細胞壁消化を、暗所中で一晩25°Cで続行させた。プロトプラストを、50μmナイロン篩を通して濾過し、5分間800rpmでの遠心分離によって収穫した。プロトプラストを、CPW9M(Frearson、1973)培地に再懸濁し、3mL CPW18S(Frearson、1973)を、長首ガラスパスツールピペットを使用して各チューブの底に添加した。生きたプロトプラストを、10分間800rpmでの遠心分離によって、スクロースとCPW9M培地との間の界面での細胞画分として収穫した。プロトプラストを、カウントし、MaMg(Negrutiu、1987)培地中に最終密度106個/mLで再懸濁した。
【0090】
2つの異なる試薬混合物を作製した。第1のものは、緩衝液G(20mM HEPES pH7.5、150mM KCl、1mM DTT、10%グリセロール)中の80pmolのCas9タンパク質及び600pmolの3g095310 sgRNAから構成された。第2の試薬混合物は、1xPBS緩衝液に再懸濁された8pmol Cas9タンパク質及び150pmol 3g095310 sgRNAから作った。対照として、本発明者らはまた、4pmolのプラスミド KG7230(35::Cas9)と一緒に6pmolのプラスミド KG9492(U6p::3g095310 sgRNA)を使用してトランスフェクションを実施した。これらの試薬混合物を、500μL(500,000個のプロトプラスト)のプロトプラスト懸濁液に添加し、500μLのPEG溶液(400g/lポリ(エチレングリコール)4000、Sigma-Aldrich #81240;0.1M Ca(NO3)2)を次に添加し、トランスフェクションを20分間室温で起こさせた。次に、10mLの0.275M Ca(NO3)2溶液を添加し、完全に且つ丁寧に混合した。プロトプラストを、5分間800rpmでの遠心分離によって収穫し、9M培養培地中に1ml当たり0.5x106個の密度で再懸濁し、4cm直径ペトリ皿に移し、等容量の2%アルギナート溶液(20g/lアルギナート-Na(Sigma-Aldrich #A0682)、0.14g/l CaCl2.2H2O、90g/lマンニトール)を添加した。次に、1mlアリコート(125,000個のトランスフェクトされたプロトプラスト)を、Ca-寒天プレート(72.5g/lマンニトール、7.35g/l CaCl2.2H2O、8g/l寒天、pH5.8)に広げ、1時間重合させた。プロトプラスト生存を改善するため、本発明者らは、トランスフェクトされていないが、同じプロトコールを使用してアルギナートに包埋した200,000個のトマトプロトプラスト(Moneyberg品種)を含有している「フィーダー」ディスクも産生した。プロトプラスト培養について、4mlのK8p(Kao、1975)培養培地を、フィーダーディスクと、この頂部に配置されたトランスフェクトされたプロトプラストのディスクの両方を含有している4cm組織培養皿に添加した。トマトプロトプラストにおけるindelを検出するため、トランスフェクトされたプロトプラストのディスクを、48時間後、皿から除去し、アルギナートを溶解し、プロトプラストを単離した。カルスの再生について、ディスクを、21日間28°Cで暗所で一緒にインキュベートした。この期間後、トランスフェクトされたプロトプラストのディスクを、1mg.l-1 ゼアチン及び0.2mg.l-1 GA3を補充した固体GM培地(Tan、Plant Cell Reports 6(3)、172、1987)に移し、更に3週間増殖させた、その時点で、カルスはおよそ0.3mmのサイズであった。次に、アルギナートを溶解し、カルスをGM培地の新鮮なプレートに広げ、それらをおよそ1.5mmまで成長させ、その時点で、それらを再度新鮮な培地に移し、次に、更に14日後、遺伝子型決定した。
【0091】
プロトプラスト及びカルスの遺伝子型決定
Cas9タンパク質及び3g095310 sgRNAをトランスフェクトされているトマトプロトプラストを、48時間栽培し、次にアルギナートの除去後に収集した。総ゲノムDNAを、次に、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen)を使用してサンプルから単離し、遺伝子特異的プライマーを使用する3g095310標的部位の増幅のための鋳型として使用した。この536bp PCR断片を、次に、DNeasy PCR精製キットを使用して精製し、次に、Zero Blunt PCR Cloning Kit(Invitrogen)を使用してプラスミドにライゲーションした。ライゲーションを化学的コンピテント大腸菌細胞に形質転換し、次にこれをカナマイシン(50μg/ml)を含有している固体LB培地にプレートした。次に、PCRをM13フォワード及びM13リバースプライマーを使用して96個の個々のコロニーで実施し、次に、これらのPCR産物を制限酵素XhoIで直接的に消化した。3g095310 sgRNAは、このXhoI部位にindelを誘導し、したがって、消化を受けないことによってスコアをつけられる、この部位の欠損は、indel形成の効率を決定するため多数のクローンについて遺伝子型決定する単純な方法である。XhoI消化に耐性があるPCR産物を、次に、配列決定して、indelの存在を確認した。
【0092】
カルスについて、direct PCRキット(Phire Plant Direct PCRキット、Thermo Scientific)及び上記3g095310遺伝子特異的なプライマーを使用して直接的に遺伝子型決定した。もたらされたPCR産物を、次に、XhoIで直接的に消化し、アガロースゲルで分析した。
【0093】
カルス再生
カルスを、2mg.l-1 ゼアチン及び0.1mg.l-1 IAA培地を補充したMS培地に移し、その後、再生したトマト苗を、温室に移す前に、0.5mg.l-1 IBAを補充したMS培地に根づかせた。
【0094】
結果
本発明者らの実験セットアップは、PBS緩衝液に再懸濁された8pmolのCas9タンパク質、150pmolのインビトロ転写されたsgRNA及び200,000個のプロトプラストを含有しているフィーダーディスクを使用してトランスフェクトされたプロトプラストの生存を保証した。本発明者らのプロトコールで処理されたトマトプロトプラストからのゲノムDNAを、トランスフェクション後48時間で単離し、3g095310標的部位を増幅するための鋳型として使用した。これらのPCR産物を、次に、indel変異を含有するクローンを同定するため、クローン化し、遺伝子型決定した。本発明者らは、クローン化したPCR産物の4%においてindel変異を検出し(
図5)、Cas9タンパク質及びsgRNAが、トマトプロトプラストに入ることができ、そこで、それらが正確なゲノム部位に標的化されるアクティブヌクレアーゼ複合体を形成することを示唆している。次のステップは、本発明者らのプロトコールが3g095310標的部位においてindel変異を有するカルスの生成を可能にすること及びこれらのカルスが予測されるindel変異を保有する植物に再生できることも実証するためのものであった。したがって、本発明者らは、本発明者らのプロトコールを使用するプロトプラストトランスフェクションを反復し、次に、カルスを再生し、これを、次に、indelの存在に関して遺伝子型決定した。本発明者らは、Cas9タンパク質及びsgRNAのための発現カセットを保有するプラスミドのトランスフェクションが関与するより確立された方法と比較して、タンパク質に基づく方法がindel変異を創出することにいかに効率的であるかを決定することにも興味をもった。本発明者らがプロトプラストへのCas9タンパク質/sgRNAトランスフェクションに由来するカルスについて遺伝子型決定すると、本発明者らは3.9%(658個のうちの26個)が3g095310標的部位でindel変異を含有していることを見出した(
図6)。プロトプラストへのプラスミドトランスフェクションに由来するカルスの遺伝子型決定は、2.8%(1128個のうちの32個)が、3g095310標的部位で変異を含有することを示した。これにより、タンパク質を使用する方法が、プラスミドを利用する、より確立された方法と同等であること、及びそれ固有の欠点がないことが実証された。本発明者らは、タンパク質及びプラスミド方法の両方から得られたカルスからトマト植物を再生できた。これらの植物について、遺伝子型決定し、元のカルスに存在していた同じ変異を含有することを見出した。
【0095】
このプロトコールの進行の間、本発明者らは、得られる結果を最適化する、特にトランスフェクトされたプロトプラストの生存を保証し、したがって、編集されたカルスの回収に成功する、重要ないくつかのパラメータを発見した。
【0096】
第1に、本発明者らは、驚くべきことに、Cas9タンパク質緩衝剤中のグリセロールの存在が、プロトプラスト生存に大きいネガティブな効果を有し、できる限り低く、好ましくは、トランスフェクション混合物(終濃度)中に0.1%(v/v)のレベル未満で維持すべきことを見出した。
【0097】
第2に、トランスフェクションに加えられる、Cas9タンパク質とsgRNAの量及び比(例えば、1::20のモル比で加えられる)が、結果に影響する。驚くべきことに、最適な実験結果を得るためには、これらは、ある特定の好ましい範囲内に入りうることが見出された。CASタンパク質(ここでは、CAS9)について、2~80ナノモル(nM)pmolの間を使用してもよく、sgRNAについて、30~600ナノモル(nM)の範囲が最適であることが見出された。
【0098】
トランスフェクションにおけるプロトプラストの量は、好ましくは、10000~2,000,000個/mlの細胞の範囲であってもよい。最終的に、フィーダーディスク(好ましくは、50,000~250,000個のプロトプラストを含有)が、トランスフェクトされたプロトプラストの生存を改善するため使用される場合、最適な結果が得られた。実際、標的部位でindelを含有している植物を最も提供する、最適な結果は、これらの最適な条件の全てが、単一トランスフェクションにおいて組合せて使用される場合、得られた。実験が、最適な条件の上記組合せを使用して、他の植物において類似の結果を提供し得ることを当業者は理解する。
【0099】
実施例2-トマトプロトプラスト生存におけるグリセロール濃度の効果
トマトプロトプラストを、葉から単離し、1ml当たり1x10
6個の密度に培地中に再懸濁した。続いて、本発明者らは、0.5mlのプロトプラストを取って、1μgのCas9タンパク質、5μgのsgRNA及び様々な量の60%グリセロールを添加した(
図7)。次に、PEGを各サンプルに添加(500μlを与えて最終的な容量の1ml)し、標準的なトランスフェクションを実施した(実施例1を参照)。次に、プロトプラストをアルギナート溶液中に再懸濁し、次に、これを重合させ、プロトプラストを72時間培地中でインキュベートした。プロトプラストを含有しているアルギナートディスクを、次に、バイタル色素FDA(vital dye FDA)でインキュベートし、各サンプル中の生きているプロトプラストの数を計算した。
【0100】
結果
トランスフェクションの間の0.14%グリセロールの添加が、わずか36時間培養後に単一細胞レベルで生存するプロトプラストにおいて既にネガティブな効果を有していることを結果は示している。本発明者らの少量のグリセロールをトランスフェクションに加えることが、カルス形成を厳密に阻害することができるとの以前の観察を考慮すれば、細胞生存における小さな減少でさえ、いかなるカルスも実験から得られないポイントまで細胞分裂も劇的に阻害することを本発明者らは予期する。
【0101】
以上、本発明が完全に記載されたが、同じ発明が、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく且つ過度の実験なしで、広範囲の同等なパラメータ、濃度、及び条件内で実施することができることは当業者に理解されよう。
【0102】
本発明はその特定の実施形態に関連して記載されてきたが、更なる改変が可能であることが理解されよう。この出願が、通常は本発明の原理に従う本発明の任意の変形、使用、又は適用も網羅することが意図されており、これには、本発明が関係する技術分野の公知又は慣用の実施の範囲内に収まり、添付の特許請求の範囲に従うものとして先に記載された必須の特徴に適用され得るような本開示からの逸脱も含まれる。
【0103】
本明細書において引用されている全ての参照は、雑誌論文若しくは要約、公開された若しくは対応する特許出願、特許、又は任意の他の参照を含み、全体が参照により本明細書に組み込まれ、引用されている参照に提示される全てのデータ、表、図、及びテキストを含む。加えて、本明細書において引用されている参照内に引用される参照の全体の内容も、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0104】
公知の方法ステップ、従来の方法ステップ、公知の方法又は従来の方法への参照は、本発明の何らかの態様、説明又は実施形態が、関連性がある技術分野において開示、教示又は示唆されているとの何らかの承認ではない。
【0105】
特定の実施形態の前述の説明は、他が、当業者の知識(本明細書に引用されている参照の内容を含む)を適用することによって、過度の実験なしで、本発明の一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態の様々な適用に関して容易に改変及び/又は適応することができるほど完全に、本発明の一般的な性質を明らかにする。したがって、そのような適応及び改変は、本明細書に提示される教示及びガイダンスに基づいて、開示される実施形態の均等物の意味及び範囲内であることが意図されている。本明細書の語法又は用語法は、説明の目的のためであり、制限されなく、本明細書の用語法又は語法は、本明細書に提示される教示及びガイダンス、当業者の知識の組合せに照らして、当業者によって解釈されることが理解される。
【配列表】