(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】多価金属負極を有するバッテリー
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20221018BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20221018BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221018BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221018BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20221018BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0565
H01M10/058
H01M4/62 Z
H01M4/134
(21)【出願番号】P 2017563529
(86)(22)【出願日】2016-06-08
(86)【国際出願番号】 US2016036403
(87)【国際公開番号】W WO2016200907
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-06-03
(32)【優先日】2015-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516164276
【氏名又は名称】イオニツク・マテリアルズ・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジマーマン,マイケル・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリロフ,アレクセイ・ビー
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0155559(US,A1)
【文献】特開2004-265675(JP,A)
【文献】特開2011-228219(JP,A)
【文献】特開平04-267055(JP,A)
【文献】特開2014-112560(JP,A)
【文献】特開2011-028976(JP,A)
【文献】特開2014-067638(JP,A)
【文献】特開2006-210089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 10/0565
H01M 10/058
H01M 4/62
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体イオン伝導性ポリマー材料および多価金属を含んでなる第一のバッテリー電極を有するバッテリーであって、
該多価金属のイオンが該固体イオン伝導性ポリマー材料によりイオン伝導され、
該多価金属のイオンが可逆的に該第一のバッテリーの電極に入り、そして出るように輸送されることができ、かつ、
該多価金属が
、Mg
2+
イオン源からのマグネシウムであり、
該バッテリーが、該固体イオン伝導性ポリマー材料および電気化学的に活性な化合物を含む第二のバッテリー電極をさらに備えており、
該多価金属のイオンが可逆的に該第二のバッテリーの電極に入り、そして出るように輸送されることができ、
該多価金属のイオンは、該第二のバッテリーの電極に入った時に該電気化学的に活性な化合物と反応し、
該電気化学的に活性な化合物が硫黄であり、
該バッテリーが、該第一のバッテリーの電極と該第二のバッテリーの電極との間に配置された誘電性のイオン伝導性、非電気化学的に活性な電解質層をさらに備えており、
該電解質層が、該第一のバッテリーの電極と該第二のバッテリーの電極との間のイオンの輸送を可能にし、そして該固体イオン伝導性ポリマー材料を含み、および、
該第一のバッテリー電極、該第二のバッテリー電極及び該電解質層の該固体イオン伝導性ポリマー材料が、いかなる溶媒、ゲルまたは液相を通ってでもなく、固体イオン伝導性ポリマー材料を通ってイオン電導性とな
り、
該固体イオン伝導性ポリマー材料が、反応性ポリマーをMg
2+
イオン源及びドーパントと混合することにより合成され、
該反応性ポリマーが、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ(p-フェニレンオキシド)(PPO)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニルアミン、ポリスルフォン、サイダー(LCP)、ベクトラン、ポリパラフェニレン テレフタルアミド、ポリビニリデン フルオリド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)及びそれらの混合物から成る群から選択され、そして、
該ドーパントが、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン(DDQ)、テトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(クロラニル)、テットラシアノエチレン(TCNE)、三酸化硫黄(SO
3
)、オゾン(O
3
)、酸素(O
2
)、空気、金属酸化物及びそれらの混合物から成る群から選択される、
上記バッテリー。
【請求項2】
多価金属が上記の固体イオン伝導性ポリマー材料に分散される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
多価金属が上記固体イオン伝導性ポリマー材料にカプセル化される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項4】
多価金属が粒状化された粒子を含み、そして該粒子が固体イオン伝導性ポリマー材料と混合される、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項5】
該粒状化された粒子がそれぞれ100ミクロン未満である、請求項4に記載のバッテリー。
【請求項6】
さらに電導性材料を含んでなる、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項7】
上記多価金属が、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、鉄、スカンジウム、クロム、銅およびそれらの組み合わせをからなる群から選択される第二の高金属を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項8】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料が30%より高い結晶化度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項9】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料の電導率が室温で1×10
-8S/cm未満である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項10】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料がさらにカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方を含んでなり、これにより各拡散イオンが室温で可動性であり、そして固体イオン伝導性ポリマー材料の結晶化度が30%より高い、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項11】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料の融解温度が250℃より高い、請求項1に記載
のバッテリー。
【請求項12】
固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導度が室温で1.0×10
-5S/cmより大きい、請求項
1に記載のバッテリー。
【請求項13】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料1リットルあたり少なくとも1モルのカチオン性拡散イオンが存在する、請求項
1に記載のバッテリー。
【請求項14】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料が少なくとも1つのイオン化合物から形成され、少なくとも1つのイオン化合物が多価金属を含んでなる請求項1に記載のバッテリー。
【請求項15】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料が熱可塑性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項16】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料のイオン伝導性が等方性である、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項17】
室温で1×10
-4S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項18】
80℃で1×10
-3S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項19】
-40℃で1×10
-5S/cmより大きいイオン伝導度を有する、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項20】
上記固体イオン伝導性ポリマー材料のヤング率が3.0MPa以上である、請求項1に記載のバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府資金による研究開発の記載(適用なし)
【0002】
発明の分野
記載する装置は一般に、電気化学的に活性な多価金属電極および多価金属をイオン伝導する固体イオン伝導性ポリマー材料を含む電気化学的システムに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
多価イオンはそれらがより高いエネルギー密度に寄与することができるので電気化学的システムでは望ましい。セルの容量は電気化学的に活性な負極材料および正極材料の関数なので、電気化学的な化学量論的反応に関与する電子数は、バッテリーまたは他の電気化学的システムの容量に直接関係する。
【0004】
新たな電気化学的セル化学の開発は、増え続ける再生可能な電源に対する要求に合う重要な構成要素である。米国エネルギー省の基礎エネルギー科学局の報告(DOE-BES
2007)は、アルカリ土類(例えばAl,Mg2+)のような多電子の酸化還元対(multi-electron redox couple)を使用することにより電荷密度を急激に上昇させる可能性を挙げている。表1について、この報告から様々なバッテリー化学の幾つかの計算された理論的特性を示す。
【0005】
【0006】
マグネシウムバッテリーは、豊富で廉価な材料を使用して高エネルギー密度を有する多価金属の一例である。マグネシウムおよび他の多価金属負極を使用することにより、2種類の正極を使用することができる。第一の種類は層状遷移金属酸化物/硫化物(例えばシュブレル相)のようなインターカレーション正極である。第二は、多価金属と電気化学的に反応する硫黄または他の材料のような転換正極を使用する。硫黄は豊富にあり、安く、しかも現行のグラファイト/リチウムコバルト酸化物バッテリーの2倍の理論的エネルギー密度を提供するので特に魅力的である(表1を参照)。しかしマグネシウムおよび他の多価金属バッテリーの重要な課題は、電解質の適合性(compatibility)であった。
【0007】
硫黄正極の使用は、セル全体を移動するポリスルフィドとして知られる反応中間体の形成に伴うさらなる適合性の課題を追加する。
【0008】
これらの適合性の課題を取り扱うことができる電解質を使用するシステムは、ほとんど
ない。複雑な液体-電解質組成を使用したMg/Sバッテリーも、良くないクーロン効率および最初の2サイクルで有意な容量の損失を示した。
【0009】
本態様は上記課題を克服し、ならびに追加の利点を提供する。
【発明の概要】
【0010】
発明の要約
本発明の一態様によれば、固体イオン伝導性ポリマー材料および多価金属を含んでなる電極を有するバッテリーが提供され、ここで多価金属のイオンが該固体イオン伝導性ポリマーにより伝導され、そしてバッテリーの電極に入り、そして出るように可逆的に輸送される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、バッテリーは:固体イオン伝導性ポリマーおよび多価金属を含んでなる第一のバッテリー電極、ここで多価金属のイオンが該固体イオン伝導性ポリマーにより伝導され、そして該第一のバッテリーの電極に入り、そして出るように可逆的に輸送される;第二のバッテリー電極、ここで該イオンは該第二のバッテリーの電極に入り、そして出るように可逆的に輸送される;および第一と第二のバッテリー電極の間に配置された誘電性のイオン伝導性、非電気化学的に活性な電解質層、ここで、該電解質層が第一と第二のバッテリー電極間のイオン輸送を可能にする;を含む。
【0012】
さらなる態様によれば、バッテリーは1もしくは複数の以下を含むことができる:
多価金属が上記の固体イオン伝導性ポリマー材料に分散され、多価金属が該固体イオン伝導性ポリマー材料にカプセル化されるか、あるいは多価金属が粒状化され、そして粒子が該固体イオン伝導性ポリマー材料によりカプセル化されるバッテリー。
【0013】
多価金属粒子がそれぞれ100ミクロン未満であるバッテリー。
【0014】
バッテリーの電極が押し出されるバッテリー。
【0015】
さらに電導性材料を含んでなるバッテリー。
【0016】
上記第二のバッテリー電極が固体イオン伝導性ポリマー材料およびインターカレーション化合物を含んでなるバッテリー。
【0017】
上記第二のバッテリー電極が、上記固体イオン伝導性ポリマー、および上記多価イオンが第二のバッテリー電極に入った時に多価イオンと反応する電気化学的に活性な化合物を含んでなるバッテリー。
【0018】
上記電気化学的に活性な化合物が硫黄であるバッテリー。
【0019】
上記電気化学的に活性な化合物が二酸化マンガンであるバッテリー。
【0020】
上記電解質層が上記固体イオン伝導性ポリマーを含んでなるバッテリー。
【0021】
電解質層が押し出されるバッテリー。
【0022】
電解質層が熱形成されるバッテリー。
【0023】
第一のバッテリー電極が熱形成されるバッテリー。
【0024】
多価金属がアルミニウム、マグネシウム、またはカルシウムであるバッテリー。
【0025】
上記多価金属が、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄、スカンジウム、クロム、銅およびそれらの組み合わせを含んでなる群から選択されるバッテリー。
【0026】
電解質層が固体イオン伝導性ポリマー材料を含んでなり、そして上記第二のバッテリー電極が該固体イオン伝導性ポリマー材料、および上記多価イオンが該第二のバッテリー電極に入った時に該多価イオンと反応する電気化学的に活性な化合物を含んでなるバッテリー。
【0027】
固体イオン伝導性ポリマー材料が:30%より高い結晶化度;融解温度;ガラス状態;および、少なくとも1つのカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方であって、ここで、少なくとも1つの拡散イオンはガラス状態で可動性である、を含んでなるバッテリー。
【0028】
材料がさらに複数の電荷移動錯体を含んでなるバッテリー。
【0029】
材料が複数のモノマーを含んでなり、各電荷移動錯体がモノマー上に位置するバッテリー。
【0030】
固体イオン伝導性ポリマー材料の電導率が室温で1×10-8S/cm未満であるバッテリー。
【0031】
固体イオン伝導性ポリマー材料が半結晶であり、そして:複数のモノマー;各電荷移動錯体がモノマー上に位置する複数の電荷移動錯体;を含んでなり、そして固体イオン伝導性ポリマー材料の電導率が室温で1×10-8S/cm未満であるバッテリー。
【0032】
材料の結晶化度が30%より高いバッテリー。
【0033】
材料がさらにカチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンの両方を含んでなり、これにより各拡散イオンがガラス状態で可動性であり、そして材料の結晶化度が30%より高いバッテリー。
【0034】
電荷移動錯体が、ポリマーおよび電子受容体の反応により形成されるバッテリー。
【0035】
材料がガラス状態、および少なくとも1つのカチオン性拡散イオンおよび少なくとも1つのアニオン性拡散イオンを有し、各拡散イオンがガラス状態で可動性であるバッテリー。
【0036】
材料の融解温度が250℃より高いバッテリー。
【0037】
材料のイオン伝導度が室温で1.0×10-5S/cmより大きいバッテリー。
【0038】
材料が単一のカチオン性拡散イオンを含んでなり、カチオン性拡散イオンの拡散率が室温で1.0×10-12m2/sより大きいバッテリー。
【0039】
材料が単一のアニオン性拡散イオンを含んでなり、アニオン性拡散イオンの拡散率が室温で1.0×10-12m2/sより大きいバッテリー。
【0040】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そしてモノマーあたり
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0041】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そしてモノマーあたり少なくとも1つのカチオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0042】
1リットルの材料あたり少なくとも1モルのカチオン性拡散イオンが存在するバッテリー。
【0043】
電荷移動錯体がポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応から形成され、各カチオン性拡散イオンおよびアニオン性拡散イオンがイオン化合物の反応生成物であるバッテリー。
【0044】
材料が少なくとも1つのイオン化合物から形成され、イオン化合物が多価金属を含んでなるバッテリー。
【0045】
材料が熱可塑性であるバッテリー。
【0046】
少なくとも1つのカチオン性拡散イオンの1つが1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0047】
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンの1つが1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0048】
少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよび少なくとも1つのカチオン性拡散イオンの両方の1つ(one of both)が1.0×10-12m2/sより大きい拡散率を有するバッテリー。
【0049】
固体イオン伝導性ポリマー材料が複数のモノマーを含んでなり、そして各モノマーがモノマーの骨格に位置する芳香族または複素環構造を含んでなるバッテリー。
【0050】
材料がさらに、環構造に包含されるかまたは環構造に隣接する骨格上に位置するヘテロ原子を含むバッテリー。
【0051】
ヘテロ原子が硫黄、酸素または窒素からなる群から選択されるバッテリー。
【0052】
ヘテロ原子が環構造に隣接するモノマーの骨格上に位置するバッテリー。
【0053】
ヘテロ原子が硫黄であるバッテリー。
【0054】
材料がパイ共役であるバッテリー。
【0055】
ポリマーが複数のモノマーを含んでなり、モノマーの分子量が100グラム/モルより大きいバッテリー。
【0056】
材料のイオン伝導性が等方性であるバッテリー。
【0057】
室温で1×10-4S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0058】
80℃で1×10-3S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0059】
-40℃で1×10-5S/cmより大きいイオン伝導度を有するバッテリー。
【0060】
材料が不燃性であるバッテリー。
【0061】
材料のヤング率が3.0MPa以上であるバッテリー。
【0062】
材料が基材ポリマー、電子受容体およびイオン化合物の反応生成物であるバッテリー。
【0063】
基材ポリマーが液晶ポリマー、非ドープ共役ポリマーまたはPPSであるバッテリー。
【0064】
イオン化合物が多価金属を含んでなるバッテリー。
【0065】
電子受容体がキノンであるバッテリー。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図面では:
【
図1】固体イオン伝導性ポリマー材料を含む硫黄正極を使用したセルのサイクル試験の性能プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
好適な態様の詳細な説明
本出願は、引用により本明細書に編入する2015年6月8日に出願した米国特許仮出願第62/172,467号明細書の利益を主張し;そしてまた引用により2015年5月8日に出願された米国特許仮出願第62/158,841号明細書;2014年12月3日に出願された米国特許出願第14/559,430号明細書;2013年12月3日に出願された米国特許仮出願第61/911,049号明細書;2013年4月11日に出願された米国特許出願第13/861,170号明細書;および2012年4月11日に出願された米国特許仮出願第61/622,705号明細書を編入する。
【0068】
記載する態様は、電気化学的に活性な多価金属電極、および多価金属をイオン伝導する固体イオン伝導性ポリマー材料を含む電気化学的システムに関する。多価金属と固体イオン伝導性ポリマー材料のこの組み合わせは、バッテリーの電極のようなバッテリーに応用することができる。
【0069】
以下の用語の説明は、この章で説明する観点、態様および目的をより詳細に説明するために提供される。説明または別段の定めがない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者が一般に理解している意味と同じ意味を有する。開示する様々な態様を検討し易くするために、以下の特定の用語の説明を提供する:
減極剤は、電気化学的活性物質、すなわち、電気化学反応の電荷移動段階中に、および、電気化学的活性材料中で、酸化状態を変化させるか、または、化学結合の形成もしくは破壊に参加する物質と同義である。電極が1より多くの電気活性物質を有する場合、それらを共減極剤(codepolarizer)と呼ぶことができる。
【0070】
熱可塑性は、しばしばその融解温度またはその付近の特定温度より上でしなやか(pliable)または成形可能になり、そして冷却すると固まる塑性物質またはポリマーの特性である。
【0071】
固体電解質は溶媒を含まないポリマー、およびセラミック化合物(結晶およびガラス)
を含む。
【0072】
「固体」は、その形状を無期限にわたって維持する能力を特徴とし、そして液相の材料とは区別され、そして異なる。固体の原子構造は結晶または非晶質のいずれかであることができる。固体は複合構造の成分と混合することができ、またはその成分となることができる。しかし本出願および請求の範囲の目的では、固体材料は、その材料が固体を通ってイオン伝導性となり、特に記載しない限り、いかなる溶媒、ゲルまたは液相を通っても伝導性とはならない。本出願および請求の範囲の目的に関して、イオン伝導性が液体に依存するゲル化(または湿潤)ポリマーおよび他の材料は、それらがそれらのイオン伝導性を液相に因る点で固体電解質とは定義されない。
【0073】
ポリマーは一般に有機であり、そして炭素に基づく高分子から構成され、その各々が1もしくは複数の種類の繰り返し単位またはモノマーを有する。ポリマーは軽重量で、延性であり、通常は非伝導性で、そして比較的低温で融解する。ポリマーは、射出、吹込および他の成形法、押出し、プレス、スタンピング、三次元プリント、機械加工および他のプラスチック加工により製品に作製されることができる。ポリマーは一般にガラス転移温度Tg未満の温度でガラス状態を有する。このガラス温度は鎖の柔軟性の関数であり、それは、系内に十分な振動(熱)エネルギーがあって、ポリマー高分子の一連のセグメントが単位として同時に動くのを許容する自由容積が創出される時に発生する。しかしポリマーのガラス状態では、ポリマーのセグメント運動は起こらない。
【0074】
ポリマーはセラミックスとは区別され、セラミックスは無機の非金属性物質であり、一般に、酸素、窒素または炭素に共有結合している金属からなる化合物で脆く、硬質(strong)で非伝導性と定義される。
【0075】
幾つかのポリマーで起こるガラス転移は、ポリマー材料が冷却された時の過冷却液体状態とガラス状態との間の中間点温度である。ガラス転移の熱力学的測定は、ポリマーの物理的特性、例えば容積、エンタルピーまたはエントロピーおよび温度の関数として他の誘導的特性を測定することにより行われる。ガラス転移温度は、転移温度で選択した特性(エンタルピーの容積)の急な変化(break)としてのプロット、あるいは傾斜の変化(熱容量または熱的膨張係数)から観察される。ポリマーをTgより上からTg未満に冷却すると、ポリマー分子の移動度はポリマーがそのガラス状態に達するまでゆっくりと下がる。
【0076】
ポリマーは非晶質および結晶相の両方を含んでなることができるので、ポリマーの結晶化度はポリマーの量に対するこの結晶相の量であり、そして百分率として表される。結晶化度の割合は、非晶質および結晶相の相対的領域の分析により、ポリマーのX線回折を介して算出することができる。
【0077】
ポリマーフィルムは一般にポリマーの薄い部分と説明されるが、300マイクロメートル厚以下と考えるべきである。
【0078】
イオン伝導性(ionic conductivity)は電導性(electrical conductivity)とは異なることに注目することが重要である。イオン伝導性はイオンの拡散性に依存し、そしてその特性はNernst-Einsteinの式により関連づけられる。イオン伝導性およびイオン拡散性は双方ともイオンの移動度の尺度である。イオンは材料中でのその拡散性が正ならば(ゼロより大きい)、その材料中で可動性であり、すなわちイオンは正の伝導性に貢献する。そのような全てのイオン移動度の測定は、特に言及しないかぎり室温(約21℃)で行われる。イオンの移動度は温度に影響されるので、低温で検出することは困難になる。装置の検出限界が、小さい移動量
を測定する因子となり得る。移動度は、少なくとも1×10-14m2/s、そして好ましくは少なくとも1×10-13m2/sのイオン拡散率と考えることができ、これらは両方ともイオンが材料中で可動性であると伝えている。
【0079】
固体ポリマーイオン伝導性材料は、ポリマーを含んでなる固体であり、そしてさらに記載するようにイオンを伝導する固体である。
【0080】
本発明の一態様には、少なくとも3つの別個の成分:ポリマー、ドーパントおよびイオン化合物からの固体イオン伝導性ポリマー材料の合成法を含む。成分および合成法は、材料の特定の応用に選択される。ポリマー、ドーパントおよびイオン化合物の選択も、材料の所望する性能に基づき変動することができる。例えば所望の成分および合成法は、所望する物理的特性(例えばイオン伝導性)の至適化により決定することができる。
【0081】
合成
また合成法も、特定の成分および所望する最終材料の形態(例えばフィルム、粒子等)により変動することができる。しかし方法には少なくとも2つの成分を最初に混合し、第三成分を任意の第二混合工程で加え、そして加熱工程で成分/反応物を加熱して固体イオン伝導性ポリマー材料を合成する基本工程を含む。本発明の1つの態様では、生じた混合物は任意に所望のサイズのフィルムに形成することができる。ドーパントが第一工程で生成された混合物に存在しなければ、ドーパントは引き続き混合物に加熱そして場合により圧をかけながら(陽圧または真空)加えることができる。全ての3成分が存在し、そして混合され、そして加熱されて、単回工程で固体イオン伝導性ポリマー材料の合成を完了することができる。しかしこの加熱工程は、いかなる混合からも分かれた工程の時に行われることができ、あるいは混合が行われている間に完了することができる。加熱工程は混合物の形態(例えばフィルムまたは粒子等)にかかわらず行うことができる。合成法の態様では、全ての3成分が混合され、そして次にフィルムに押し出される。フィルムは加熱されて合成が完了する。
【0082】
固体イオン伝導性ポリマー材料が合成された時、変色が生じ、これは反応物の色が比較的明るい色であり、そして固体イオン伝導性ポリマー材料が比較的暗いか、または黒色であるので視覚的に観察することができる。この変色は電荷移動錯体が形成された時に生じ、そして合成法に依存して徐々に、または迅速に起こることになると考えられる。
【0083】
合成法の態様は、基材ポリマー、イオン化合物およびドーパントを一緒に混合し、そして混合物を第二工程で加熱することである。ドーパントはガス相にあることができるので、加熱工程はドーパントの存在下で行うことができる。混合工程は押出し機、ブレンダ―、ミルまたは他の一般的なプラスチック加工装置中で行うことができる。加熱工程は数時間続く可能性があり(例えば24時間)、そして変色は合成が完了または一部完了した信頼できる表示である。合成後の追加の加熱は材料に悪い影響(negatively affect)を与えないようである。
【0084】
合成法の態様では、基材ポリマーおよびイオン化合物を最初に混合することができる。次いでドーパントがポリマー―イオン化合物混合物と混合され、そして加熱される。加熱は第二混合物工程中、または混合工程に続いて混合物に適用することができる。
【0085】
合成法の別の態様では、基材ポリマーおよびドーパントが最初に混合され、そして加熱されることができる。この加熱工程は混合後、または混合中に適用することができ、そして電荷移動錯体の形成、およびドーパントと基材ポリマーとの間の反応を示す変色を生じる。次いでイオン化合物が反応したポリマードーパント材料と混合されて固体イオン伝導性ポリマー材料の形成が完了する。
【0086】
ドーパントの一般的な添加法は当業者には既知であり、そしてポリマーおよびイオン化合物を含有するフィルムの蒸気ドーピング、および当業者には知られている他のドーピング法も含むことができる。固体ポリマー材料のドーピングでイオン伝導性となり、そしてドーピングが固体ポリマー材料のイオン成分を活性化するように作用するのでそれらが拡散イオンになると考えられる。
【0087】
他の非反応性成分を、上記の混合物に初期混合工程、第二混合工程または加熱に引き続く混合工程中に加えることができる。そのような他の成分には限定するわけではないが、減極剤または電気化学的に活性な物質、例えば負極または正極活性材料、炭素のような電導性材料、結合剤または押出助剤(例えばエチレンプロピレンジエンモノマー“EPDM”)のようなレオロジー改質剤(rheological agent)、触媒および混合物の所望する物理特性を達成するために有用な他の成分がある。
【0088】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に反応物として有用なポリマーは、電子供与体、または、電子受容体により酸化され得るポリマーである。30%より高い、そして50%より高い結晶化指数の半結晶ポリマーは、適切な反応物ポリマーである。完全(totally)結晶のポリマー材料、例えば液晶ポリマー(“LCPs”)も有用な反応物ポリマーである。LCPsは完全結晶であり、したがってこれによりそれらの結晶化指数は100%と定義される。非ドープ共役ポリマーおよびポリフェニレンスルフィド(“PPS”)のようなポリマーも適切なポリマー反応物である。
【0089】
ポリマーは一般に電導性ではない。例えば新品(virgin)PPSは、10-20S
cm-1の電導性を有する。非電導性ポリマーが適切な反応物ポリマーである。
【0090】
一つの態様では、反応物として有用なポリマーは各繰り返しモノマー基の骨格中に芳香族または複素環成分を、ならびに、複素環中に包含されるか、または芳香族環に隣接して位置する骨格に沿って位置するいずれかのヘテロ原子を有することができる。ヘテロ原子は骨格に直接位置することができ、あるいは骨格上に直接位置する炭素原子に結合することができる。ヘテロ原子が骨格に位置するか、あるいは骨格上に位置する炭素原子に結合している両方の場合で、骨格の原子は芳香族環に隣接する骨格に位置している。本発明のこの態様に使用されるポリマーの非限定的例は、PPS、ポリ(p-フェニレンオキシド)(“PPO”)、LCPs、ポリエーテルエーテルケトン(“PEEK”)、ポリフタルアミド(“PPA”)、ポリピロール、ポリアニリンおよびポリスルフォンを含む群から選択することができる。列挙したポリマーのモノマーを含むコポリマーおよびこれらポリマーの混合物も使用することができる。例えばp-ヒドロキシ安息香酸のコポリマーは、適切な液晶ポリマー基材ポリマーとなり得る。表2は固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に有用な反応物ポリマーの非限定的例を、モノマー構造および幾らかの物理特性情報と一緒に詳細に示すが、これらもポリマーがそれらの物理的特性に影響を及ぼすことができる多くの形態をとることができるので、非限定的と考えるべきである。
【0091】
【0092】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成に反応物として有用なドーパントは、電子受容体または酸化物である。ドーパントはイオン輸送および移動のためにイオンを放出すると考えられ、そして電荷移動錯体に類似の部位、または、イオン伝導性を可能にするためのポリマー内の部位を作成すると考えられる。有用なドーパントの非限定的例はキノン類、例えば:“DDQ”としても知られている2,3-ジシアノ-5,6-ジクロロジシアノキ
ノン(C8Cl2N2O2)、およびクロラニルとしても知られているテトラクロロ-1,4-ベンゾキノン(C6Cl4O2)、TCNEとしても知られているテトラシアノエチレン(C6N4)、三酸化硫黄(“SO3”)、オゾン(三酸素すなわちO3)、酸素(O2、空気を含む)、二酸化マンガン(“MnO2”)を含む遷移金属酸化物、あるいは適切な電子受容体等、およびそれらの組み合わせである。ドーパントは、合成の加熱工程の温度で温度安定性のものが有用であり、そして温度安定性で、しかも強力な酸化剤キノンの両方であるキノン類および他のドーパントが大変有用である。表3はドーパントの非限定的一覧をそれらの化学的図解と共に提供する。
【0093】
【0094】
固体イオン伝導性ポリマー材料の合成で反応物として有用なイオン化合物は、固体イオン伝導性ポリマー材料の合成中に所望のイオンを放出する化合物である。イオン化合物は、イオン化合物とドーパントの両方を必要とする点でドーパントとは異なる。
非限定的例には、Li2O、LiOH,ZnO、TiO2,Al3O2,NaOH,KOH,LiNO3,Na2O,MgO,CaCl2,MgCl2,AlCl3,LiTFSI(リチウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミド)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、リチウムビス(オキサレート)ボラート(LiB(C2O4)2“LiBOB”)、ならびに他のリチウム塩およびそれらの組み合わせがある。一態様では、イオン化合物は多価金属を含み、そして拡散する多価金属イオンを含む固体イオン伝導性ポリマー材料を生成するために使用される。これら化合物の水和形(例えば一水素化物)を使用して化合物を取扱い易くすることができる。無機酸化物、塩化物および水酸化物は、それらが合成中に解離して少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる点で適切なイオン化合物である。解離して少なくとも1つのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる任意のそのようなイオン化合物も同様に適切である。好適となり得る多くのアニオン性拡散イオンおよびカチオン性拡散イオンを生じる多数のイオン化合物も有用となり得る。合成に含まれる特定のイオン化合物は、材料の所望する用途に依存する。
【0095】
例えば多価の高エネルギー密度システムを有することを望む場合の応用では、多価カチオン、多価水酸化物、多価塩化物または多価イオンに転換可能なリチウム酸化物が適切で
あろう。多価正極および拡散アニオンの両方を合成中に放出する任意の多価イオン化合物もそうであろう。さらに示すように、所望するカチオン性およびアニオン性拡散種の両方を生成することができる形態のアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、およびポスト遷移金属を含むイオン化合物が合成の反応物であるイオン化合物として適切である。
【0096】
固体イオン伝導性ポリマー材料は、多価イオンのイオン移動を必要とする任意のシステムで使用することができる。一つの態様では、記載する固体イオン伝導性ポリマー材料は両方の電極、および電極間に挿入される電解質で使用することができる。固体イオン伝導性ポリマー材料の組成は、3つの適用の全てで同じであることができ、そしてバッテリー系では3つの適用の全てが特定のイオン、例えば多価カチオンの特異的イオン移動度(specific ion mobility)を可能にする必要性を共有する。しかし電極では固体イオン伝導性ポリマー材料は、グラファイトまたは他の炭素のような電導性添加物の添加により電導性に改変することができる。固体イオン伝導性ポリマー材料組成は、バッテリーシステムに十分なイオン伝導性を維持しながら特定の物理特性について至適化することもできる。特定の基材ポリマーを使用することにより、固体イオン伝導性ポリマー材料のヤング率を改変(modify)することができ、そしてレオロジー改質剤を使用して固体イオン伝導性ポリマー材料の押出しを補助することができる。固体イオン伝導性ポリマー材料の形態は変えることが(altered)でき、そして異なる適用に必要とされ得るようなフィルムまたは粒子に形成することができる。したがって一態様では、固体イオン伝導性ポリマー材料の使用は、同じバッテリーシステム内でも各適用で同じ固体イオン伝導性ポリマー材料である必要はない。
【0097】
多価バッテリーシステムの負極は、多価正極(polyvalent cathode)材料を含む。多価材料の一態様では、それは粉末または粒状形であり、そして固体イオン伝導性ポリマー材料中に分散される。分散される場合、多価粒状物は固体イオン伝導性ポリマー材料によりカプセル化される。固体イオン伝導性ポリマー材料が電導性ではない場合、または電導性を上げるために、追加の電導性添加物を他の負極成分と混合して負極を電導性とすることができ、電子が多価(polyvalent)から負極集電体へ負極と通電して流れるようにすることができる。そのような添加物はバッテリーに一般的で、そして通常はグラファイトを含む高表面積炭素を含んでなる。このように負極は多価金属イオンをイオン伝導するように作用する。
【0098】
一態様では、正極は負極と同じ構成であることができる。インターカレーション物質または転換材料は任意の電導性添加物と一緒に固体イオン伝導性ポリマー材料に分散することができる。電気化学的に活性な正極材料は固体イオン伝導性ポリマー材料と混合、その中に分散、そしてそれでカプセル化される。一態様では、固体イオン伝導性ポリマー材料は、その合成中に取り込まれた(incorporated)拡散イオンのみについてイオン伝導性となる。したがって例えば硫黄またはポリスルフィドのような硫黄含有材料は、伝導性とはならず、したがって正極内に留まり、バッテリーサイクルを非効率とする経路(pathway)は減少する。
【0099】
また固体イオン伝導性ポリマー材料は、バッテリーの電解質として作用することができる。固体ポリマー電解質として使用する態様では、これは電導性ではなく、代わりに負極と正極との電極間で誘電体として作用する。固体イオン伝導性ポリマー材料は薄いフィルム(100-10マイクロメートル)に押し出すことができ、そしてこの形状で熱可塑性を維持する。したがってフィルムはいずれかの電極化、または両電極に熱的に取り付けられて製造の経費を節減し、そして良好なイオン伝導経路を確実にすることができる。一態様では3成分を同時に押し出して単一の3成分フィルムバッテリーを形成することができ、それはサイクル中に多価イオンを負極と正極との電極間で効率的にイオン伝導することができる。
【0100】
材料の純度は、いかなる意図しない副反応も防ぎ、そして合成反応の効率を最大にして高度に伝導性の材料を生成するために潜在的に重要となる。一般に高純度のドーパント、基材ポリマーおよびイオン化合物を含む実質的に純粋な反応物が好適であり、そして98%より高い純度がより好適であるが、さらに高い純度、例えばLiOH:99.6%、DDQ:>98%、そしてクロラニル:>99%が最も好適である。
【0101】
本発明の固体イオン伝導性ポリマー材料の用途、および固体イオン伝導性ポリマー材料の上記合成法の多様性をさらに説明するために、多数の電気化学的応用に有用で、それらの応用により識別される数種の固体イオン伝導性ポリマー材料を記載する。
【実施例1】
【0102】
固体イオン伝導性ポリマー材料サンプルは、LCPポリマー、Saint GobainからのSRT900 Zydar、およびイオン化合物を表4に挙げた比率で混合することにより作成した。DDQはドーパントとして使用した。ポリマーのモノマー対ドーパントのモル比は、4.2:1であった。3成分の混合物は、基材ポリマー、ドーパントおよびイオン化合物の徹底的な混合により作成した。次いで混合物を約350℃で約30分間、中圧下(500-1000psi)で加熱した。加熱後、変色を観察し、そしてこれは固体イオン伝導性ポリマー材料の合成を伝えている。
【0103】
サンプルをステンレス鋼製電極間に挟み、そして試験装置に配置した。ACインピーダンスは800KHz~100Hzの範囲でBio-Logic VSP試験システムを使用して記録し、各固体イオン伝導性ポリマー材料サンプルのイオン伝導性を測定した。
【0104】
測定されたイオン伝導度の結果を表4に示す。観察されたイオン伝導度は、固体イオン伝導性ポリマー材料が多価カルシウムCa2+、マグネシウムMg2+、およびアルミニウム3+イオンを含む多数のイオンを伝導できることを示す。
【0105】
【0106】
金属負極を持つ電源はカプセル化されることにより可能となるか、または別法で固体イオン伝導性ポリマー材料により活性状態を維持されることができ、全てリチウムよりも安定で、しかも経費が低い。
【0107】
ナトリウム-およびカリウム-系のエネルギー保存システムは、低コストおよび比較的
豊富な原材料により主導され、Li-イオンの代替と見られている。カルシウム、マグネシウムおよびアルミニウムのイオン伝導性は、Li-イオンのバッテリーの能力を越えてエネルギー密度を上げることができる多価インターカレーション系に必要である。
【0108】
このようにイオン性のポリマー電解質はMg2+を含む多価イオンを伝導するように工作することができる(20℃で8mScm-1)ことが証明された。このポリマー電解質はこのように再充電可能なマグネシウム-硫黄(Mg/S)バッテリーに理想的に適している。
【0109】
本出願およびこの詳細な説明は、請求の範囲、要約および図面を含め以下の出願の全明細書を引用により編入する:2015年5月8日に出願された米国特許仮出願第62/158,841号明細書;2014年12月3日に出願された米国特許出願第14/559,430号明細書;2013年12月3日に出願された米国特許仮出願第61/911,049号明細書;2013年4月11日に出願された同第13/861,170号明細書;および2012年4月11日に出願された米国特許仮出願第61/622,705号明細書。
【0110】
引用により編入した関連出願では、固体イオン伝導性ポリマー材料をバッテリーに包含している硫黄正極の証明された改善された性能が示された。
図1について、そのような硫黄正極を含むバッテリーについて、容量対サイクルが示されている。一態様では、そのような硫黄正極と協働での多価カチオンの使用は、固体イオン伝導性ポリマー材料を使用する有用な多価カチオンバッテリーを提供する。一態様では、多価カチオンは適切な別のインターカレーション物質と、または転換正極と合わせる(couple)ことができる。
【0111】
本発明を特定のその好適な態様に従い本明細書に詳細に記載してきたが、それらの多くの改変および変更は、当業者により本発明の精神から逸脱せずになされ得るであろう。したがって我々は本発明が添付の請求の範囲により限定されるだけであり、本明細書に記載した態様の詳細および手段によってはどのようにも限定されないことを意図している。
【0112】
本発明の概念から離れることなく前記構造に様々な変更および改良を行うことができると理解され、そしてさらにそのような概念は明白に別段の定めがある場合を除き、以下の請求の範囲により網羅されることを意図していると理解される。