(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】方位演算装置及び方位演算方法
(51)【国際特許分類】
G01S 3/48 20060101AFI20221018BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20221018BHJP
G01S 13/34 20060101ALN20221018BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20221018BHJP
【FI】
G01S3/48
G01S7/02 218
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2018093752
(22)【出願日】2018-05-15
【審査請求日】2021-04-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000237592
【氏名又は名称】株式会社デンソーテン
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘貴
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-220196(JP,A)
【文献】特開2012-159432(JP,A)
【文献】国際公開第2006/067869(WO,A1)
【文献】Tayem,Nizar, et al.,2-D Directional of Arrival Angle Estimation Non-Based on Eigen Structure Approach,IEEE 60th Vehicular Technology Conference, 2004. VTC2004-Fall. 2004,米国,IEEE,2005年04月18日,Vol.1,p.314-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74,
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ群によって受信された受信信号に基づいて、電波の到来方向を演算する方位演算装置であって、
前記アンテナ群は、第1水平アンテナ群と第2水平アンテナ群とを備え、
前記第1水平アンテナ群及び前記第2水平アンテナ群の各々は、第1間隔で水平方向に配列された第1受信アンテナと第2受信アンテナとを備え、
前記第2水平アンテナ群は、前記第1水平アンテナ群から鉛直方向に第2間隔離間して配置されており、且つ、前記第2水平アンテナ群の前記第1受信アンテナは、前記水平方向において、前記第1水平アンテナ群の前記第1受信アンテナから第3間隔離れて配置されており、
前記方位演算装置は、
前記第1水平アンテナ群によって受信された
第1受信信号に基づく
第1ビート信号と、前記第2水平アンテナ群によって受信された第2受信信号に基づく第2ビート信号と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記
第1ビート信号に基づいて
前記水平方向の電波の到来方向を示す第1水平角度を演算し、且つ、前記取得部によって取得された前記第2ビート信号に基づいて前記水平方向の電波の到来方向を示す第2水平角度を演算する第1方位演算部と、
前記第1方位演算部
により演算された前記第1水平角度と、前記第1ビート信号と、前記第1水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第1水平角度に対応する第1信号を演算し、且つ、前記第1方位演算部により演算された前記第2水平角度と、前記第2ビート信号と、前記第2水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第2水平角度に対応する第2信号を演算するベクトル分解部と、
前記ベクトル分解部
により演算された前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記鉛直方向の電波の到来方向を演算する第2方位演算部と、
を備える、方位演算装置。
【請求項2】
アンテナ群によって受信された受信信号に基づいて、電波の到来方向を演算する方位演算装置であって、
前記アンテナ群は、第1水平アンテナ群と第2水平アンテナ群とを備え、
前記第1水平アンテナ群及び前記第2水平アンテナ群の各々は、第1間隔で水平方向に配列された第1受信アンテナと第2受信アンテナとを備え、
前記第2水平アンテナ群は、鉛直方向において、前記第1水平アンテナ群と同じ位置に配置されており、且つ、前記第2水平アンテナ群の前記第1受信アンテナは、前記水平方向において、前記第1水平アンテナ群の前記第1受信アンテナから第2間隔離れて配置されており、前記第2間隔は、前記第1間隔よりも小さく、
前記方位演算装置は、
前記第1水平アンテナ群によって受信された
第1受信信号に基づく
第1ビート信号と、前記第2水平アンテナ群によって受信された第2受信信号に基づく第2ビート信号と、を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記
第1ビート信号に基づいて
前記水平方向の電波の到来方向を示す第1高分解水平角度及び第2高分解水平角度を演算し、且つ、前記取得部によって取得された前記第2ビート信号に基づいて前記水平方向の電波の到来方向を示す第3高分解水平角度及び第4高分解水平角度を演算する第1方位演算部と、
前記第1方位演算部
により演算された前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度と、前記第1ビート信号と、前記第1水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度にそれぞれ対応する第1信号及び第2信号を演算し、且つ、前記第1方位演算部により演算された前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度と、前記第2ビート信号と、前記第2水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度にそれぞれ対応する第3信号及び第4信号を演算するベクトル分解部と、
前記ベクトル分解部
により演算された前記第1信号と前記第3信号とを用いて第1広範囲水平角度を算出し、前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度のうち前記第1広範囲水平角度に近い方を、前記到来方向として採用するとともに、前記ベクトル分解部により演算された前記第2信号と前記第4信号とを用いて第2広範囲水平角度を算出し、前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度のうち前記第2広範囲水平角度に近い方を、前記到来方向として採用する第2方位演算部と、
を備える、方位演算装置。
【請求項3】
前記ベクトル分解部は、前記
第1水平アンテナ群
及び前記第2水平アンテナ群の垂直方向における各アンテナ配置位置でモードベクトルの基準を合わせる、請求項1
又は2に記載の方位演算装置。
【請求項4】
前記ベクトル分解部は、前記
第1水平アンテナ群
又は前記第2水平アンテナ群における前記
水平方向の所定のアンテナ配置位置を前記モードベクトルの基準とする、請求項
1~3のいずれか1項に記載の方位演算装置。
【請求項5】
前記第1受信アンテナ及び前記第2受信アンテナの垂直方向の開口長は
前記第1受信アンテナ及び前記第2受信アンテナの前記水平方向の開口長より長い、請求項1に記載の方位演算装置。
【請求項6】
アンテナ群によって受信された受信信号に基づいて、電波の到来方向を演算する方位演算方法であって、
前記アンテナ群は、第1水平アンテナ群と第2水平アンテナ群とを備え、
前記第1水平アンテナ群及び前記第2水平アンテナ群の各々は、第1間隔で水平方向に配列された第1受信アンテナと第2受信アンテナとを備え、
前記第2水平アンテナ群は、前記第1水平アンテナ群から鉛直方向に第2間隔離間して配置されており、且つ、前記第2水平アンテナ群の前記第1受信アンテナは、前記水平方向において、前記第1水平アンテナ群の前記第1受信アンテナから第3間隔離れて配置されており、
前記方位演算方法は、
前記第1水平アンテナ群によって受信された
第1受信信号に基づく
第1ビート信号と、前記第2水平アンテナ群によって受信された第2受信信号に基づく第2ビート信号と、を取得する取得工程と、
前記取得工程によって取得された
前記第1ビート信号に基づいて前記
水平方向の電波の到来方向を
示す第1水平角度を演算
し、且つ、前記取得工程によって取得された前記第2ビート信号に基づいて前記水平方向の電波の到来方向を示す第2水平角度を演算する第1方位演算工程と、
前記第1方位演算工程
により演算された前記第1水平角度と、前記第1ビート信号と、前記第1水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第1水平角度に対応する第1信号を演算し、且つ、前記第1方位演算工程により演算された前記第2水平角度と、前記第2ビート信号と、前記第2水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第2水平角度に対応する第2信号を演算するベクトル分解工程と、
前記ベクトル分解工程
により演算された前記第1信号と前記第2信号とに基づいて、前記鉛直方向の電波の到来方向を演算する第2方位演算工程と、
を備える、方位演算方法。
【請求項7】
アンテナ群によって受信された受信信号に基づいて、電波の到来方向を演算する方位演算方法であって、
前記アンテナ群は、第1水平アンテナ群と第2水平アンテナ群とを備え、
前記第1水平アンテナ群及び前記第2水平アンテナ群の各々は、第1間隔で水平方向に配列された第1受信アンテナと第2受信アンテナとを備え、
前記第2水平アンテナ群は、鉛直方向において、前記第1水平アンテナ群と同じ位置に配置されており、且つ、前記第2水平アンテナ群の前記第1受信アンテナは、前記水平方向において、前記第1水平アンテナ群の前記第1受信アンテナから第2間隔離れて配置されており、前記第2間隔は、前記第1間隔よりも小さく、
前記方位演算方法は、
前記第1水平アンテナ群によって受信された
第1受信信号に基づく
第1ビート信号と、前記第2水平アンテナ群によって受信された第2受信信号に基づく第2ビート信号と、を取得する取得工程と、
前記取得工程によって取得された前記
第1ビート信号に基づいて
前記水平方向の電波の到来方向を示す第1高分解水平角度及び第2高分解水平角度を演算し、且つ、前記取得工程によって取得された前記第2ビート信号に基づいて前記水平方向の電波の到来方向を示す第3高分解水平角度及び第4高分解水平角度を演算する第1方位演算工程と、
前記第1方位演算工程
により演算された前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度と、前記第1ビート信号と、前記第1水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度にそれぞれ対応する第1信号及び第2信号を演算し、且つ、前記第1方位演算工程により演算された前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度と、前記第2ビート信号と、前記第2水平アンテナ群に対応するモードベクトルとに基づいて、前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度にそれぞれ対応する第3信号及び第4信号を演算するベクトル分解工程と、
前記ベクトル分解工程
により演算された前記第1信号と前記第3信号とを用いて第1広範囲水平角度を算出し、前記第1高分解水平角度及び前記第2高分解水平角度のうち前記第1広範囲水平角度に近い方を、前記到来方向として採用するとともに、前記ベクトル分解工程により演算された前記第2信号と前記第4信号とを用いて第2広範囲水平角度を算出し、前記第3高分解水平角度及び前記第4高分解水平角度のうち前記第2広範囲水平角度に近い方を、前記到来方向として採用する第2方位演算工程と、
を備える、方位演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波の到来方向を演算する方位演算技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の受信アンテナを垂直方向及び水平方向に沿って二次元配置することで、電波(物体からの反射波)の到来方向を水平方向の角度及び垂直方向の角度の両方で演算することができるレーダ装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-014593号公報(段落0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水平方向の角度及び垂直方向の角度の両方を演算する手法として、各アンテナの受信信号に基づいて生成された各ビート信号に対して2次元FFT(Fast Fourier Transfer)処理を施す手法がある。
【0005】
しかしながら、各ビート信号に対して2次元FFT処理を施す場合、2回目のFFT処理の処理対象となる信号が位相情報を有していなければならないため、方位演算アルゴリズムがDBF(Digital Beam Forming)に限定されるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて、方位演算アルゴリズムの自由度が高い方位演算技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る方位演算装置は、第1の軸方向及び第2の軸方向にそれぞれ複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群によって受信された受信信号に基づく前記受信アンテナ毎の信号を取得する取得部と、前記取得部によって取得された前記受信アンテナ毎の信号に基づいて前記第1の軸方向の電波の到来方向を演算する第1方位演算部と、前記第1方位演算部の方位演算結果を用いて、前記アンテナ群における前記第2の軸方向の各アンテナ配置位置でベクトル分解を行うベクトル分解部と、前記ベクトル分解部のベクトル分解結果を用いて、前記第2の軸方向の電波の到来方向を演算する第2方位演算部と、を備える構成(第1の構成)である。
【0008】
上記第1の構成の方位演算装置において、前記ベクトル分解部は、前記アンテナ群における前記第2の軸方向の各アンテナ配置位置でモードベクトルの基準を合わせる構成(第2の構成)であってもよい。
【0009】
上記第2の構成の方位演算装置において、前記ベクトル分解部は、前記アンテナ群における前記第1の軸方向の所定のアンテナ配置位置を前記モードベクトルの基準とする構成(第3の構成)であってもよい。
【0010】
上記第1~第3いずれかの構成の方位演算装置において、前記第1の軸方向及び前記第2の軸方向の一方が水平方向であり、前記第1の軸方向及び前記第2の軸方向の他方が垂直方向であって、前記受信アンテナの前記垂直方向の開口長は前記受信アンテナの前記水平方向の開口長より長い構成(第4の構成)であってもよい。
【0011】
上記第1の構成の方位演算装置において、決定部を更に備え、前記第1の軸方向と前記第2の軸方向とが同一の方向であって、前記決定部は、前記第1方位演算部の方位演算結果及びその位相折り返しを含む方位候補の中から、採用する方位を前記第2方位演算部の方位演算結果に基づいて決定する構成(第5の構成)であってもよい。
【0012】
本発明に係る方位演算方法は、第1の軸方向及び第2の軸方向にそれぞれ複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群によって受信された受信信号に基づく前記受信アンテナ毎の信号を取得する取得工程と、前記取得工程によって取得された前記受信アンテナ毎の信号に基づいて前記第1の軸方向の電波の到来方向を演算する第1方位演算工程と、前記第1方位演算工程の方位演算結果を用いて、前記アンテナ群における前記第2の軸方向の各アンテナ配置位置でベクトル分解を行うベクトル分解工程と、前記ベクトル分解工程のベクトル分解結果を用いて、前記第2の軸方向の電波の到来方向を演算する第2方位演算工程と、を備える構成(第6の構成)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る方位演算技術によると、方位演算アルゴリズムの自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係るレーダ装置の構成例を示す図
【
図2】第1実施形態に係るアンテナ群のアンテナ配置を示す図
【
図3】第1実施形態に係る信号処理装置の動作を示すフローチャート
【
図7】第2実施形態に係るレーダ装置の構成例を示す図
【
図8】第2実施形態に係るアンテナ群のアンテナ配置を示す図
【
図9】第2実施形態に係る信号処理装置の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
<1.第1実施形態>
<1-1.レーダ装置の構成>
図1は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。レーダ装置1は、例えば自動車などの車両に搭載されている。レーダ装置1が自車両の前端に搭載されている場合、レーダ装置1は、送信波を用いて、自車両の前方に存在する物標に係る物標データを取得する。物標データは、物標までの距離、レーダ装置1に対する物標の相対速度等を含む。しかしながら、本実施形態に係るレーダ装置1を方位演算装置の一例として説明するため、以下の説明においては方位演算に関する部分についてのみ説明を行う。
【0017】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部2と、受信部3と、信号処理装置4と、を主に備えている。
【0018】
送信部2は、信号生成部21と発信器22とを備えている。発信器22は、信号生成部21で生成された信号を変調して送信信号を生成する。送信アンテナ23は、送信信号を送信波TWに変換して出力する。
【0019】
受信部3は、複数の受信アンテナ31と、その複数の受信アンテナ31に接続された複数の個別受信部32とを備えている。複数の受信アンテナ31は、水平方向及び垂直方向にそれぞれ複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群を形成する。各受信アンテナ31は物体からの反射波RWを受信して受信信号を取得し、各個別受信部32は対応する受信アンテナ31で得られた受信信号を処理する。
【0020】
本実施形態では、複数の受信アンテナ31は、12個の受信アンテナ31_1~31_12であって、
図2に示すアンテナ配置のアンテナ群を形成する。
図2に示すアンテナ群では、水平方向に隣接する受信アンテナ間の水平方向距離がd[m]であり、垂直方向に隣接する受信アンテナ間の垂直方向距離がh[m]である。また、受信アンテナ31_5は受信アンテナ31_1に対して水平方向の一方に0.5d[m]ずれており、受信アンテナ31_9は受信アンテナ31_1に対して水平方向の一方にd[m]ずれている。
【0021】
図1に戻って、各個別受信部32は、ミキサ33とA/D変換器34とを備えている。受信アンテナ31で得られた受信信号は、ローノイズアンプ(図示省略)で増幅された後にミキサ33に送られる。ミキサ33には送信部2の発信器22からの送信信号が入力され、ミキサ33において送信信号と受信信号とがミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差となるビート周波数を有するビート信号が生成される。ミキサ33で生成されたビート信号は、A/D変換器34でデジタルの信号に変換された後に、信号処理装置4に出力される。
【0022】
レーダ装置1がFMCW(Frequency Modulation Continuous Wave)方式のレーダ装置である場合、送信波TWと受信波RWとの周波数差が物標とレーダ装置との距離に比例して増減するため、この周波数差が距離の変動成分となる。一方、レーダ装置1がFCM(First Chirp Modulation)方式のレーダ装置である場合、送信波TWと受信波RWとの位相差(フェーズシフト)が物標とレーダ装置との距離に比例して増減するため、この位相差によるビート信号の変動成分が距離の変動成分となる。また、物標で反射した際に受信波RWが物標の速度による影響を受け、物標とレーダ装置との相対速度(ドップラ周波数)に比例してパルス間の周波数の差が増減するため、このパルス間の周波数差によるビート信号の変動成分が速度の変動成分となる。なお、相対速度や距離の異なる物標が複数存在する場合、各受信アンテナ31にはフェーズシフト量やドップラシフト量の異なる反射波が複数受信され、ミキサ33から得られるビート信号には各物標に対応した様々な成分が含まれることになる。
【0023】
信号処理装置4は、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ41などを含むマイクロコンピュータを備えている。信号処理装置4は、演算の対象とする各種のデータを、記憶装置であるメモリ41に記憶する。メモリ41は、例えばRAM(Random Access Memory)などである。信号処理装置4は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部42、フーリエ変換部43、及び、データ処理部44を備えている。送信制御部42は、送信部2の信号生成部21を制御する。データ処理部44は、ピーク抽出部45、第1方位演算部46、ベクトル分解部47、及び、第2方位演算部48を備えている。
【0024】
フーリエ変換部43は、受信信号に基づいて生成されたビート信号に対して水平方向にフーリエ変換を行う。フーリエ変換としては、例えばFFT(Fast Fourier Transfer)を挙げることができる。フーリエ変換によって、所定の周波数間隔で設定された周波数ポイント(周波数ビンという場合がある)ごとに受信レベルや位相情報が算出される。
【0025】
ピーク抽出部45は、フーリエ変換部43によるフーリエ変換の結果からピークを検出する。
【0026】
第1方位演算部46は、ピークを生じた周波数ビンの信号に基づいて水平方向の電波の到来方向(水平角度)を演算し、方位演算結果である水平角度をベクトル分解部47、メモリ41、及び、車両制御ECU51等に出力する。
【0027】
ベクトル分解部47は、第1方位演算部46の方位演算結果である水平角度を用いて、
図2に示すアンテナ群における垂直方向の各アンテナ配置位置V1~V3でベクトル分解を行う。
【0028】
第2方位演算部48は、ベクトル分解部47のベクトル分解結果を用いて、垂直方向の電波の到来方向(垂直角度)を演算し、方位演算結果である垂直角度をメモリ41、及び、車両制御ECU51等に出力する。
【0029】
<1-2.信号処理装置の動作>
次に、本実施形態に係る信号処理装置4の動作について説明する。
図3は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、
図3に示す処理を一定時間ごとに周期的に繰り返す。
【0030】
信号処理装置4は、所定数のビート信号を取得する(ステップS10)。次に、フーリエ変換部43は、受信アンテナ32_1~32_4に対応するビート信号を対象として水平方向に第1のフーリエ変換を行う(ステップS20)。同様に、フーリエ変換部43は、受信アンテナ32_5~32_8に対応するビート信号を対象として水平方向に第2のフーリエ変換を行い(ステップS20)、受信アンテナ32_9~32_12に対応するビート信号を対象として水平方向に第3のフーリエ変換を行う(ステップS20)。
【0031】
次に、ピーク抽出部45は、第1~第3のフーリエ変換の結果からピークを抽出する(ステップS30)。
【0032】
次に、第1方位演算部46は、方位演算処理により、第1のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの水平角度を算出する(ステップS40)。同様に、第1方位演算部46は、方位演算処理により、第2のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの水平角度を算出し(ステップS40)、第3のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの水平角度を算出する(ステップS40)。方位演算処理としては、DBFのみならず、Capon、LP(Linear Prediction)、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)等の他の周知の方位演算処理も用いることができる。信号処理装置4は、水平方向のフーリエ変換を行った後に、垂直方向のフーリエ変換を行わないからである。
【0033】
次に、ベクトル分解部47は、第1方位演算部46の方位演算結果である水平角度を用いて、
図2に示すアンテナ群における垂直方向の各アンテナ配置位置V1~V3でベクトル分解を行う(ステップS50)。
【0034】
本実施形態では、
図2に示すアンテナ群における垂直方向の各アンテナ配置位置V1~V3でモードベクトルの基準を合わせている。これにより、アンテナ群の各アンテナ配置位置が水平方向及び垂直方向に沿った矩形格子に限定されなくなり、アンテナ配置の自由度が高くなる。したがって、本実施形態では
図2に示すアンテナ群を採用している。なお、モードベクトルとは、或る角度からきた振幅1の信号の各チャンネルの理想的な信号を並べたものである。
【0035】
また本実施形態では、受信アンテナ32_1の水平方向のアンテナ配置位置H1をモードベクトルの基準としている。なお、受信アンテナ32_1以外の受信アンテナの水平方向のアンテナ配置位置をモードベクトルの基準としてもよい。水平方向の所定のアンテナ配置位置をモードベクトルの基準にすることで、モードベクトルの基準設定が容易になる。
【0036】
ベクトル分解部47は、
図2に示すアンテナ群における垂直方向のアンテナ配置位置V1でベクトル分解を行う。また、水平角度数よりもベクトル分解のアンテナ数の方が多い場合は、モードベクトルに直交するベクトルを例えばpropagator法により求めた後で実施してもよい。
【0037】
まず、ベクトル分解部47は
A=(a1(θ1),・・・,a1(θm))
を定義する。ここで、受信アンテナ32_1~32_4に関するモードベクトルa1(θ)は次のように表される。なお、λは信号の波長である。
【数1】
【0038】
ベクトル分解部47は、上記のAを以下のようにA1とA2の2つに分割する。
A1:Aの(1~m)行(1~m)列を取り出した行列
A2:Aの(m+1~4)行(1~m)列を取り出した行列
【0039】
【0040】
ここで、上付きのHはエルミート転置(要素を共役複素数に変換してから転置)であり、Iは(4-m)次の単位行列である。
【0041】
そして、Pの各列ベクトルに対して以下の計算をする。なお、以下の計算式においてPtはPの列ベクトルを示している。
計算式:sqrt4*Pt/|Pt|
【0042】
次に、上記計算をした後のPに対して、AとPを結合した4次正方行列
B=(A P)
を定める。そして、受信アンテナ32_1~32_4に対応する各ビート信号を並べた列ベクトルをXとして、
Y=B-1×X
を計算する。列ベクトルYは信号Y11、信号Y21、信号Y31が並んだものである。
【0043】
また、 ベクトル分解部47は、
A=(a2(θ1),・・・,a2(θm))
を定義し、受信アンテナ32_5~32_8に対応する各ビート信号を並べた列ベクトルをXとして、
Y=B
-1×X
を計算する。この場合、列ベクトルYは信号Y12、信号Y22、信号Y32が並んだものである。ここで、受信アンテナ32_5~32_8に関するモードベクトルa2(θ)は次のように表される。
【数3】
【0044】
また、 ベクトル分解部47は、
A=(a3(θ1),・・・,a3(θm))
を定義し、受信アンテナ32_9~32_12に対応する各ビート信号を並べた列ベクトルをXとして、
Y=B
-1×X
を計算する。この場合、列ベクトルYは信号Y13、信号Y23、信号Y33が並んだものである。ここで、受信アンテナ32_9~32_12に関するモードベクトルa3(θ)は次のように表される。
【数4】
【0045】
以上により、ベクトル分解部47は、ベクトル分解結果として、受信アンテナ32_1~32_4及び水平角度θ1に対応する信号Y11を算出し、受信アンテナ32_1~32_4及び水平角度θ2に対応する信号Y21を算出し、受信アンテナ32_1~32_4及び水平角度θ3に対応する信号Y31を算出する(
図4参照)。
【0046】
同様に、ベクトル分解部47は、ベクトル分解結果として、受信アンテナ32_5~32_8及び水平角度θ1に対応する信号Y12を算出し、受信アンテナ32_5~32_8及び水平角度θ2に対応する信号Y22を算出し、受信アンテナ32_5~32_8及び水平角度θ3に対応する信号Y32を算出する(
図4参照)。
【0047】
また同様に、ベクトル分解部47は、ベクトル分解結果として、受信アンテナ32_9~32_12及び水平角度θ1に対応する信号Y13を算出し、受信アンテナ32_9~32_12及び水平角度θ2に対応する信号Y23を算出し、受信アンテナ32_9~32_12及び水平角度θ3に対応する信号Y33を算出する(
図4参照)。
【0048】
ステップS50のベクトル分解処理が終了すると、第2方位演算部48は、ベクトル分解部47のベクトル分解結果を用いて、垂直角度を演算する(ステップS60)。具体的には、第2方位演算部48は、方位演算処理により、信号Y11、信号Y12、及び信号Y13に基づく最大2つの垂直角度を算出する。同様に、第2方位演算部48は、方位演算処理により、信号Y21、信号Y22、及び信号Y23に基づく最大2つの垂直角度を算出し、信号Y31、信号Y32、及び信号Y33に基づく最大2つの垂直角度を算出する。方位演算処理としては、DBFのみならず、Capon、LP、MUSIC、ESPRIT等の他の周知の方位演算処理も用いることができる。ステップS60の方位演算処理が終了すると、
図3に示すフロー動作が終了する。
【0049】
ステップS40の方位演算処理及びステップS60の方位演算処理がそれぞれDBFに限定されないので、レーダ装置1は方位演算アルゴリズムの自由度が高い。したがって、レーダ装置1では、ESPRIT等のDBFよりも分離性能が高い方位演算アルゴリズムを用いることができる。
【0050】
ここで、水平角度0[deg]且つ垂直角度0[deg]の方向に存在する第1の物標、水平角度10[deg]且つ垂直角度0[deg]の方向に存在する第2の物標、及び水平角度0[deg]且つ垂直角度10[deg]の方向に存在する第3の物標の検知について考察する。例えば、レーダ装置1においてステップS40の方位演算処理及びステップS60の方位演算処理それぞれにESPRITを採用した場合、第1の物標、第2の物標、及び第3の物標それぞれを分離して正しい角度で検知することができる。これに対して、従来技術である2次元FFT処理を施して物標の水平角度及び垂直角度を算出した場合、周波数スペクトラムにおいて水平角度5.4[deg]且つ垂直角度5.4[deg]の位置に1つのピークが現れるだけであるため、第1の物標、第2の物標、及び第3の物標それぞれを分離して検知することができない。
【0051】
また、レーダ装置1は物標の水平角度及び垂直角度を算出するために必要な処理ステップ数が7212であるのに対して、従来技術である2次元FFT処理を施して物標の水平角度及び垂直角度を算出するために87552もの処理ステップ数が必要となる。つまり、レーダ装置1は従来技術に比べて処理負荷を大幅に軽減することができる。
【0052】
<1-3.変形例>
本実施形態とは異なり、フーリエ変換部43が垂直方向のフーリエ変換を行い、第1方位演算部46が垂直角度を演算し、ベクトル分解部47は、第1方位演算部46の方位演算結果である垂直角度を用いて、
図2に示すアンテナ群における水平方向の各アンテナ配置位置でベクトル分解を行い、第2方位演算部48がベクトル分解部47のベクトル分解結果を用いて水平角度を演算してもよい。
【0053】
また、
図2に示すアンテナ群の代わりに例えば
図5に示すアンテナ群を用いることもできる。
図5に示すアンテナ群を用いる場合、受信アンテナ32_3の水平方向のアンテナ配置位置H1をモードベクトルの基準にすれば、ベクトル分解で用いるモードベクトルa4~a6は次のように表される。なお、モードベクトルa4は
図5に示すアンテナ群の受信アンテナ32_1~32_2に関するモードベクトルである。モードベクトルa5は
図5に示すアンテナ群の受信アンテナ32_3~32_6に関するモードベクトルである。モードベクトルa6は
図5に示すアンテナ群の受信アンテナ32_7~32_8に関するモードベクトルである。
【数5】
【0054】
また、
図2に示すアンテナ群の代わりに例えば
図6に示すアンテナ群を用いることもできる。
図6に示すアンテナ群は、垂直方向の開口長が水平方向の開口長よりも長い受信アンテナ32_1~32_9によって形成される。垂直方向の開口長が水平方向の開口長よりも長い受信アンテナ32_1~32_9を用いることで、垂直角度の分離性能を水平角度の分離性能より高くすることができる。したがって、例えば自車両にとって障害物になり得ない上方物の道路標識と、自車両にとって障害物になり得る先行車や歩行者等との識別精度を向上させることができる。
【0055】
<2.第2実施形態>
<2-1.レーダ装置の構成>
図7は本実施形態に係るレーダ装置1の構成を示す図である。
【0056】
図7に示す本実施形態に係るレーダ装置1は、データ処理部44が決定部49を備える点で
図1に示す第1実施形態に係るレーダ装置1と異なっている。決定部49は、第1方位演算部46の方位演算結果及びその位相折り返しを含む方位候補の中から、採用する方位を第2方位演算部48の方位演算結果に基づいて決定する。
【0057】
また、
図7に示す本実施形態に係るレーダ装置1は、第1方位演算部46が水平角度を車両制御ECU51ではなく決定部49に出力する点で
図1に示す第1実施形態に係るレーダ装置1と異なっている。
【0058】
さらに、
図7に示す本実施形態に係るレーダ装置1は、複数の受信アンテナ31が9個の受信アンテナ31_1~31_9であって
図8に示すアンテナ配置のアンテナ群を形成する点で
図1に示す第1実施形態に係るレーダ装置1と異なっている。
【0059】
図8に示すアンテナ配置では、受信アンテナ31_1、受信アンテナ31_4、受信アンテナ31_7、及び受信アンテナ31_10が水平方向にアンテナ間隔d1[m]で配置されている。同様に、受信アンテナ31_2、受信アンテナ31_5、受信アンテナ31_8、及び受信アンテナ31_11が水平方向にアンテナ間隔d1[m]で配置されている。同様に、受信アンテナ31_3、受信アンテナ31_6、受信アンテナ31_9、及び受信アンテナ31_12が水平方向にアンテナ間隔d1[m]で配置されている。
そして、受信アンテナ31_1~受信アンテナ31_3が水平方向にアンテナ間隔d2[m]で配置されている。同様に、受信アンテナ31_4~受信アンテナ31_6が水平方向にアンテナ間隔d2[m]で配置されている。同様に、受信アンテナ31_7~受信アンテナ31_9が水平方向にアンテナ間隔d2[m]で配置されている。同様に、受信アンテナ31_10~受信アンテナ31_12が水平方向にアンテナ間隔d2[m]で配置されている。なお、アンテナ間隔d2[m]はアンテナ間隔d1[m]より短い。また、アンテナ間隔d2[m]の受信アンテナで受信された信号を用いて物標の水平角度を算出する場合に物標の水平角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生しないように、アンテナ間隔d2[m]の値を設定する。
【0060】
上述した3点以外については
図7に示す本実施形態に係るレーダ装置1と
図1に示す第1実施形態に係るレーダ装置1とは基本的に同様の構成である。
【0061】
<2-2.信号処理装置の動作>
次に、本実施形態に係る信号処理装置4の動作について説明する。
図9は、信号処理装置4の動作を示すフローチャートである。信号処理装置4は、
図9に示す処理を一定時間ごとに周期的に繰り返す。
【0062】
信号処理装置4は、所定数のビート信号を取得する(ステップS10)。次に、フーリエ変換部43は、受信アンテナ32_1、32_4、32_7、及び32_10に対応するビート信号を対象として水平方向に第1のフーリエ変換を行う(ステップS20)。同様に、フーリエ変換部43は、受信アンテナ32_2、32_5、32_8、及び32_11に対応するビート信号を対象として水平方向に第2のフーリエ変換を行い(ステップS20)、受信アンテナ32_3、32_6、32_9、及び32_12に対応するビート信号を対象として水平方向に第3のフーリエ変換を行う(ステップS20)。
【0063】
次に、ピーク抽出部45は、第1~第3のフーリエ変換の結果からピークを抽出する(ステップS30)。
【0064】
次に、第1方位演算部46は、方位演算処理により、第1のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの高分解水平角度を算出する(ステップS41)。同様に、第1方位演算部46は、方位演算処理により、第2のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの高分解水平角度を算出し(ステップS41)、第3のフーリエ変換の結果から抽出したピークに基づく最大3つの高分解水平角度を算出する(ステップS41)。ただし、アンテナ間隔d1[m]の受信アンテナで受信された信号を用いて物標の水平角度を算出すると、物標の水平角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが発生する。ここで、レーダ装置1と前方他車両V1とが
図10(a)に示す位置関係であって、アンテナ間隔d1[m]の受信アンテナで受信された信号を用いて物標の水平角度を算出すると、物標の水平角度に関するレーダ装置1の出力有効範囲において位相折り返しが2回発生する場合を考える。
【0065】
この場合、ステップS41において算出されたそれぞれの高分解水平角度に関して、3個の方位候補が存在することになる(
図10(b)の物標T1参照)。
【0066】
次に、ベクトル分解部47は、第1方位演算部46の方位演算結果である高分解水平角度を用いて、
図8に示す丸印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置、
図8に示す三角印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置、
図8に示す四角印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置それぞれでベクトル分解を行う(ステップS50)。
【0067】
本実施形態では、
図8に示す丸印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置でモードベクトルの基準を受信アンテナ32_1の水平方向のアンテナ配置位置H1にし、
図8に示す三角印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置でモードベクトルの基準を受信アンテナ32_2の水平方向のアンテナ配置位置H2にし、
図8に示す四角印で示した受信アンテナのアンテナ配置位置でモードベクトルの基準を受信アンテナ32_3の水平方向のアンテナ配置位置H3にしている。ベクトル分解の詳細は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0068】
ステップS50のベクトル分解処理が終了すると、第2方位演算部48は、ベクトル分解部47のベクトル分解結果を用いて、広範囲水平角度を演算する(ステップS61)。具体的には、第2方位演算部48は、方位演算処理により、信号Y11、信号Y12、及び信号Y13に基づく最大2つの広範囲水平角度を算出する。同様に、第2方位演算部48は、方位演算処理により、信号Y21、信号Y22、及び信号Y23に基づく最大2つの広範囲水平角度を算出し、信号Y31、信号Y32、及び信号Y33に基づく最大2つの広範囲水平角度を算出する。なお、広範囲水平角度では位相折り返しが発生しないので、ステップS61において算出されたそれぞれの広範囲水平角度に関して、複数の方位候補が存在することはない(
図10(c)の物標T1参照)。
【0069】
次に、決定部49は、ステップS40において算出されたそれぞれの高分解水平角度に関して、3個の方位候補の中から最も広範囲水平角度との差が小さい方位候補を物標の水平角度として採用する(ステップS62)。ステップS62の採用決定処理が終了すると、
図9に示すフロー動作が終了する。
【0070】
ステップS41の方位演算処理及びステップS61の方位演算処理がそれぞれDBFに限定されないので、レーダ装置1は方位演算アルゴリズムの自由度が高い。したがって、レーダ装置1では、ESPRIT等のDBFよりも分離性能が高い方位演算アルゴリズムを用いることができる。
【0071】
また、ステップS41において算出されたそれぞれの高分解水平角度に関して、3個の方位候補が存在することになるが、ステップS62の採用決定処理によって1個の方位候補に絞ることができるため、位相折り返しの問題を解消して、レーダ装置1によって導出される物標の水平角度精度を向上させることができる。
【0072】
<3.その他>
本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。また、本明細書中に示される複数の実施形態及び変形例は可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。
【0073】
上述した第1実施形態では水平方向及び垂直方向にそれぞれ複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群を用い、上述した第2実施形態では水平方向に複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群を用いたが、受信アンテナの並ぶ方向は水平方向と垂直方向に限定されることなく、第1の軸方向及び第2の軸方向にそれぞれ複数の受信アンテナが配置されたアンテナ群を用いればよい。なお、上述した第1実施形態と同様に第1の軸方向と第2の軸方向は異なる方向であってもよく、上述した第2実施形態と同様に第1の軸方向と第2の軸方向は同じ方向であってもよい。
【0074】
例えば、レーダ装置において、上述したFCM方式やFMCW方式の代わりに、例えばドプラシフトをビート信号の周波数ではなく複数のパルス信号間の位相変化として検出するパルスドップラー方式等を採用してもよい。
【0075】
上述した実施形態では車載レーダ装置について説明したが、本発明は、道路等に設置されるインフラレーダ装置、航空機監視レーダ装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 レーダ装置
4 信号処理装置
41 メモリ
42 送信制御部
43 フーリエ変換部
44 データ処理部
45 ピーク抽出部
46 第1方位演算部
47 ベクトル分解部
48 第2方位演算部
49 決定部
32 受信アンテナ