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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/02 20060101AFI20221018BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
B23K37/02 301A
B23K9/028 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018105896
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019209342
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390014568
【氏名又は名称】東芝プラントシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大江 武
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 聡
(72)【発明者】
【氏名】天本 考洋
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159357(JP,A)
【文献】特開2013-184176(JP,A)
【文献】実開昭60-188361(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/02
B23K 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形状の被溶接物の外周に固定される環状の基部と、
前記基部に沿って環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤおよび複数の第二ギヤを含む環状ギヤ列を複数列有する歯車列機構と、
いずれかの前記環状ギヤ列の前記第一ギヤに噛み合わされる内歯を有する環形ギヤと、
前記環形ギヤに固定されて前記基部の周方向へ移動自在であって溶接ヘッドを支える旋回台と、
前記環状ギヤ列毎に少なくとも1つ設けられて、前記第一ギヤへ伝達される駆動力をそれぞれ個別に発生させる複数の電動機と、を備える溶接装置。
【請求項2】
前記環形ギヤは、中心角が180度以下の弧状ギヤ部材を複数有する請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記環形ギヤに噛み合う前記環状ギヤ列以外の環状ギヤ列の前記第一ギヤに噛み合わされる内歯を有する他の環形ギヤをさらに有し、これら複数の前記環形ギヤを一括して前記環形ギヤの状態に束ねて保持する保持枠体を備える請求項1または2に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤおよび複数の第二ギヤを含む環状ギヤ列を複数列有する歯車列機構と、いずれかの環状ギヤ列の第一ギヤに噛み合わされる内歯を有する弧状のワイヤ送給用往復動ギヤと、備える溶接装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-159357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の溶接装置は、溶接用のワイヤを送給するための動力を伝達するワイヤ送給用往復動ギヤを溶接ヘッドに対して往復動させる。つまり、従来の溶接装置は、ワイヤ送給用往復動ギヤの往復動の繰り返しを、ワイヤを送給するための一方向の駆動力に変換する必要がある。
【0005】
そのため、従来の溶接装置は、複雑なダブルクラッチ機構を備えている。このダブルクラッチ機構は、ワイヤ送給用往復動ギヤの往復動の繰り返しを、ワイヤを送給するための一方向の駆動力に変換する。
【0006】
しかしながら、従来の溶接装置における複雑なダブルクラッチ機構は、溶接ヘッドの重量を増加させたり、溶接ヘッドの小型化を阻んだりする。例えば配管のような被溶接物が密集している狭隘な場所で使用するためには、溶接ヘッドの小型化は、必達の条件である。
【0007】
そこで、本発明は、小口径配管においては無論、中大口径においては格別に十分な加工精度による溶接の正確性を確保できるとともに、ダブルクラッチ機構が不要であり、ワイヤの連続的な供給、および溶接ヘッドの小型化を両立可能な溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するため本発明の実施形態に係る溶接装置は、筒形状の被溶接物の外周に固定される環状の基部と、前記基部に沿って環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤおよび複数の第二ギヤを含む環状ギヤ列を複数列有する歯車列機構と、いずれかの前記環状ギヤ列の前記第一ギヤに噛み合わされる内歯を有する環形ギヤと、前記環形ギヤに固定されて前記基部の周方向へ移動自在であって溶接ヘッドを支える旋回台と、前記環状ギヤ列毎に少なくとも1つ設けられて、前記第一ギヤへ伝達される駆動力をそれぞれ個別に発生させる複数の電動機と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る溶接装置を示す正面図。
図2】本発明の実施形態に係る溶接装置を示す側面図。
図3】本発明の実施形態に係る溶接装置を示す背面図。
図4】本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す正面図。
図5】本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す断面図。
図6】本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図。
図7】本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図。
図8】本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図。
図9】本発明の実施形態に係る溶接装置のウォームギヤ機構を示す断面図。
図10】本実施形態に係る溶接装置の溶接ヘッドを示す平断面図。
図11】本実施形態に係る溶接装置のワイヤ送給機構の一部を示す図。
図12】本実施形態に係る溶接装置のワイヤ送給機構の一部を示す図。
図13】本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す縦断面図。
図14】本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す横断面図。
図15】本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路の動作を説明する断面図。
図16】本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路の動作を説明する断面図。
図17】本実施形態に係る溶接装置の電力供給部を示す平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る溶接装置の実施形態について図1から図17を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号が付されている。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す正面図である。
【0012】
図2は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す側面図である。
【0013】
図3は、本発明の実施形態に係る溶接装置を示す背面図である。
【0014】
図1から図3に示す本実施形態に係る溶接装置1は、筒形状の一対の被溶接物200a、200bを溶接して一体化させる。一対の筒形状の被溶接物200a、200bは、例えば配管であり、端部に突合せ継手を備えている。溶接装置1は、この継手を溶接して一対の被溶接物200a、200bを一体化させる。なお、説明を容易にするために溶接装置1は、被溶接物200a側に固定されて被溶接物200a、200b間の継手を溶接する態様とするが、被溶接物200b側に固定されて被溶接物200a、200b間の継手を溶接することもできる。
【0015】
溶接装置1は、被溶接物200aの外周に固定される環状の基部2と、基部2の周方向へ移動自在であって溶接ヘッド3を支える旋回台5と、旋回台5の駆動力を発生させる複数の電動機6と、基部2に並設されて、溶接ヘッド3へ電力を供給する環状の電力供給部7と、を備えている。
【0016】
基部2は、被溶接物200aの外周に固定されて溶接装置1全体を支えている。基部2の内径寸法は、被溶接物200aの外径寸法より大きく、被溶接物200aは、基部2の内側であって円形の空間に配置されている。
【0017】
また、基部2は、正面および背面それぞれの内周縁部に配置されて、基部2の径方向へ出没自在な複数(例えば5つ)のクランプ8を備えている。複数のクランプ8は、基部2の周方向へ略等間隔に配置されている。クランプ8は、基部2の内径よりも被溶接物200a側へ移動して、基部2の内径よりも小径な被溶接物200aに接して溶接装置1全体を支えている。
【0018】
基部2は、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部2a、2bに分割されている。溶接装置1は、この基部2の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、基部2を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
【0019】
また、基部2は、半円弧部2a、2bを連結して固定する固定機構12を備えている。固定機構12は、基部2の正面および背面のそれぞれであって、半円弧部2a、2bの分割面の近傍に配置されている。
【0020】
旋回台5は、溶接ヘッド3を支えるトーチホルダ13を備えている。旋回台5は、基部2の外周縁部に沿って被溶接物200aおよび被溶接物200bの周囲を旋回し、溶接ヘッド3を移動させる。トーチホルダ13は、被溶接物200a、200bの口径や溶接ヘッド3の寸法にもよるが、基部2の円周長さに比べて極めて小さく、溶接装置1の重量軽減に寄与している。
【0021】
複数の電動機6は、例えば、旋回台5の駆動力を発生させる旋回用電動機15と、溶接トーチ19を被溶接物200a、200bの長手方向(配管の延び方向)へ移動させる駆動力を発生させるトーチ縦動電動機16と、溶接トーチ19を被溶接物200a、200bへ近づけたり、遠ざけたりする駆動力を発生させるトーチ遠近電動機17と、溶接トーチ19へワイヤを送給するワイヤ送給電動機18と、を含んでいる。なお、溶接トーチ19の被溶接物200a、200bの長手方向(配管の延び方向)への移動を、溶接トーチ19の縦動移動と呼ぶ。また、これら旋回用電動機15、トーチ縦動電動機16、トーチ遠近電動機17、およびワイヤ送給電動機18は、それぞれ1つであっても良いし、複数あっても良い。
【0022】
電力供給部7は、基部2と同様に環状である。電力供給部7は、環状の基部2の正面側に、同心状に配置されている。電力供給部7は、溶接ヘッド3へ電力を供給する電源供給導体9が挿し通される電源用貫通孔11と、電源供給導体9を被溶接物200aに接地させる接地電極片(図示省略)と、を備えている。なお、図2では、電力供給部7は、省略されている。
【0023】
また、電力供給部7は、基部2と同様に、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部7a、7bに分割されている。電力供給部7は、少なくとも基部2の分割面の同一面上で分割されている。電力供給部7は、基部2の分割面の同一面上で分割されている限り、基部2の分割面とは異なる箇所でさらに分割されていても良い。溶接装置1は、この電力供給部7の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、電力供給部7を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
【0024】
固定機構12は、基部2とともに電力供給部7の半円弧部7a、7bを連結して固定する。なお、固定機構12は、基部2の固定機構12とは別個の固定機構(図示省略)を備えていても良い。この固定機構は、基部2の固定機構12と同じ構造を有していても良いし、異なる機構を有していても良い。
【0025】
なお、溶接装置1は、溶接ヘッド3とともに旋回台5に支持されて送給前のワイヤを巻き付けておくリール(図示省略)と、ワイヤを被溶接物200a、200bの継手へ導くワイヤガイド(図示省略)と、を備えている。
【0026】
溶接ヘッド3は、被溶接物200a、200bの継手をアーク溶接で接合する。具体的には、ティグ溶接(TIG溶接:Tungsten Inert Gas welding)、マグ溶接(MAG溶接:Metal Active Gas welding)、ミグ溶接(MIG溶接:Metal Inert Gas welding)など各種のアーク溶接に好適な溶接トーチ19が適宜選択されて、溶接ヘッド3に装着されている。
【0027】
次に、溶接装置1の駆動機構について詳細に説明する。
【0028】
図4は、本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す正面図である。
【0029】
図5は、図4のV-V線において、本発明の実施形態に係る溶接装置の駆動機構を示す断面図である。
【0030】
図4および図5に示すように、本実施形態に係る溶接装置1は、筒形状の被溶接物200aの外周に固定される環状の基部2と、基部2に沿って環状に並んで交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22を含む環状ギヤ列23を複数列有する歯車列機構25と、いずれかの環状ギヤ列23の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯27を有する弧状の旋回ギヤ28と、旋回ギヤ28に固定されて基部2の周方向へ移動自在であって溶接ヘッド3を支える旋回台5と、旋回台5に往復動自在に保持されて他のいずれかの環状ギヤ列23の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯31、および外歯32を有する弧状の往復動ギヤ33と、旋回台5に支持されて往復動ギヤ33の外歯32に噛み合わされて溶接ヘッド3へ動力を伝達する動力伝達ギヤ35と、環状ギヤ列23それぞれの第一ギヤ21へ伝達される駆動力をそれぞれ個別に発生させる複数の電動機6と、を備えている。
【0031】
また、溶接装置1は、複数の電動機6それぞれと複数の環状ギヤ列23それぞれの第一ギヤ21との間に介在する減速機、例えばウォームギヤ機構36を備えている。
【0032】
基部2は、正面に配置される環状の正面面板37と、背面側に配置される環状の背面面板38と、を備えている。正面面板37および背面面板38は、アルミニウム製、アルミニウム合金製、または繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics、FRP)製である。正面面板37および背面面板38は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、CFRP)製であれば、なお良い。正面面板37および背面面板38は、略同じ内外径形状を有して、環状ギヤ列23が配置される隙間を隔てて対向している。正面面板37および背面面板38は、それぞれの内面(相互に対向し合う面)側に旋回台5を案内する環状の案内溝39を有している。
【0033】
歯車列機構25は、複数の電動機6が発生させる動力をそれぞれの環状ギヤ列23によって旋回ギヤ28または往復動ギヤ33へ伝達して旋回台5の移動、被溶接物200a、200bに対する溶接トーチ19の遠近移動、溶接トーチ19の縦動移動、およびワイヤの送給を行う。そこで、環状ギヤ列23は複数ある。具体的には、環状ギヤ列23は、旋回用電動機15から旋回ギヤ28へ動力を伝達する旋回用ギヤ列45と、トーチ縦動電動機16からトーチ縦動用往復動ギヤ56へ動力を伝達するトーチ縦動用ギヤ列46と、トーチ遠近電動機17からトーチ遠近用往復動ギヤ57へ動力を伝達するトーチ遠近用ギヤ列47と、ワイヤ送給電動機18からワイヤ送給用往復動ギヤ58へ動力を伝達するワイヤ用ギヤ列48と、を含んでいる。
【0034】
環状ギヤ列23、つまり、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47、およびワイヤ用ギヤ列48のそれぞれは、交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22によって駆動力を伝える。それぞれの環状ギヤ列23の第一ギヤ21および第二ギヤ22は、アルミニウム製、アルミニウム合金製、または合成樹脂製である。第一ギヤ21および第二ギヤ22に合成樹脂を用いる場合には、耐熱性を有すれば、なお良い。それぞれの環状ギヤ列23の第一ギヤ21および第二ギヤ22は、同一回転軸線上に配置されて、基部2の正面面板37および背面面板38に挟み込まれている。旋回用ギヤ列45は、最も背面面板38よりに配置され、次いでトーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47の順に正面面板37に近づき、ワイヤ用ギヤ列48は、最も正面面板37よりに配置されている。
【0035】
それぞれの環状ギヤ列23は、基部2の全周に渡って旋回台5を駆動自在な好適な間隔で第一ギヤ21を配置している。第二ギヤ22は、第一ギヤ21よりも小径である。第二ギヤ22は、隣り合う第一ギヤ21の間に配置されて動力を伝達する。なお、第二ギヤ22は、全ての第一ギヤ21間にあっても良いし、本実施形態のように円周上の1箇所を間引かれていても良い。また、第二ギヤ22は、複数箇所で間引かれていても良い。
【0036】
複数の大径な第一ギヤ21の回転中心線は、環状の基部2の同心円を描いて配置されている。複数の小径な第二ギヤ22の回転中心線は、環状の基部2の同心円を描いて配置されており、かつ、それぞれの回転中心線は、隣り合う一対の第一ギヤ21の回転中心線を結ぶ線分上に配置されている。
【0037】
第二ギヤ22は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有している。また、第二ギヤ22は、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有している。換言すると、第二ギヤ22は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されている。他方、全ての第一ギヤ21は、実質的に同じ寸法を有している。
【0038】
なお、環状ギヤ列23は、第二ギヤ22と第一ギヤ21との寸法関係を逆転させてもよい。すなわち、第一ギヤ21は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有しており、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有していてもよい。換言すると、第一ギヤ21は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されていても良い。この場合、全ての第二ギヤ22は、実質的に同じ寸法を有することになる。
【0039】
つまり、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか一方は、一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有し、他の一つ置きに第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有している。換言すると、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか一方は、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにする寸法を有するものと、第一ギヤ21と第二ギヤ22との間にゼロより大きいバックラッシを有するものとが交互に配置されている。そして、第一ギヤ21および第二ギヤ22のいずれか他方は、全て実質的に同じ寸法を有している。
【0040】
そして、環状ギヤ列23の第一ギヤ21と旋回ギヤ28の内歯27とは、バックラッシを実質的にゼロにする寸法関係にある。また、環状ギヤ列23の第一ギヤ21と往復動ギヤ33の内歯31とも、バックラッシを実質的にゼロにする寸法関係にある。ただし、第一ギヤ21と第二ギヤ22とのバックラッシを実質的にゼロにするものとゼロより大きいバックラッシを有するものとを、第一ギヤ21側に混在させる場合には、内歯27と内歯31とは転移量が大きい方の第一ギヤ21に応じて寸法を調整され、かつ、転移量が大きい方の第一ギヤ21が常時、少なくとも1つは噛み合わされていることが好ましい。
【0041】
旋回台5は、基部2の案内溝39に嵌め込まれるころ部59を備えている。ころ部59は、第一ギヤ21の回転によって旋回ギヤ28に生じる径方向外側の力に抗して旋回台5を支えている。
【0042】
また、旋回台5は、基部2の接線方向へ延びて広がるトーチ設置面61を有している。
【0043】
動力伝達ギヤ35は、トーチ縦動用往復動ギヤ56の外歯32に噛み合わされるトーチ縦動用動力伝達ギヤ66、トーチ遠近用往復動ギヤ57の外歯32に噛み合わされるトーチ遠近用動力伝達ギヤ67、およびワイヤ送給用往復動ギヤ58の外歯32に噛み合わされるワイヤ送給用動力伝達ギヤ68を含んでいる。
【0044】
複数の電動機6は、環状ギヤ列23ごとに少なくとも1つずつ設けられて、環状ギヤ列23の第一ギヤ21へ伝達される駆動力をそれぞれ個別に発生させる。つまり、少なくとも1つの旋回用電動機15が旋回用ギヤ列45に接続され、少なくとも1つのトーチ縦動電動機16がトーチ縦動用ギヤ列46に接続され、少なくとも1つのトーチ遠近電動機17がトーチ遠近用ギヤ列47に接続され、少なくとも1つのワイヤ送給電動機18がワイヤ用ギヤ列48に接続されている。複数の電動機6は、環状ギヤ列23ごとに複数設けられていても良い。つまり、複数の旋回用電動機15が旋回用ギヤ列45に接続され、複数のトーチ縦動電動機16がトーチ縦動用ギヤ列46に接続され、複数のトーチ遠近電動機17がトーチ遠近用ギヤ列47に接続され、複数のワイヤ送給電動機18がワイヤ用ギヤ列48に接続されていていても良い。
【0045】
また、環状ギヤ列23の第二ギヤ22が複数箇所で間引かれている場合、つまり、電動機6からある1つの第二ギヤ22に駆動力を与えても第一ギヤ21の全てを駆動させられない場合には、動力を伝え合うことが可能な第一ギヤ21および第二ギヤ22の組み合わせごとに、少なくとも1つの電動機6が設けられる。換言すると、複数の電動機6は、環状ギヤ列23において、互いに噛み合わされる第一ギヤ21および第二ギヤ22の組み合わせごとに少なくとも1つずつ設けられていれば良い。
【0046】
旋回用電動機15は、ウォームギヤ機構36を介して旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21に接続されていても良いし、ウォームギヤ機構36を介して旋回用ギヤ列45の第二ギヤ22に接続されていても良いし、ウォームギヤ機構36を介して旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21に接続されているものと旋回用ギヤ列45の第二ギヤ22に接続されていているものとが混在していても良い。トーチ縦動電動機16、トーチ遠近電動機17、およびワイヤ送給電動機18についても旋回用電動機15と同様である。
【0047】
ウォームギヤ機構36は、旋回用電動機15の駆動力を旋回用ギヤ列45へ伝達する旋回用ウォームギヤ機構75と、トーチ縦動電動機16の駆動力をトーチ縦動用ギヤ列46へ伝達するトーチ縦動用ウォームギヤ機構76と、トーチ遠近電動機17の駆動力をトーチ遠近用ギヤ列47へ伝達するトーチ遠近用ウォームギヤ機構77と、ワイヤ送給電動機18の駆動力をワイヤ用ギヤ列48へ伝達するワイヤ用差動歯車ウォームギヤ機構78と、を含んでいる。
【0048】
図6は、本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図である。
【0049】
図6に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の旋回ギヤ28は、環状ギヤ列23、具体的には旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21の外周に噛み合わされている。旋回ギヤ28は、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21の回転によって基部2の周方向へ移動して旋回台5の推進力を発生させる。旋回ギヤ28は、少なくとも1つの第一ギヤ21に噛み合っていれば良い。
【0050】
なお、旋回ギヤ28は、図4および図6に二点鎖線で示すように、環状にひと続きの環形ギヤであっても良い。旋回ギヤ28は、基部2や電力供給部7と同様に、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部(図示省略)に分割されている。つまり、旋回ギヤ28は、中心角が180度以下の弧状ギヤ部材を複数有している。溶接装置1は、この旋回ギヤ28の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、旋回ギヤ28を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
【0051】
また、旋回ギヤ28は、例えばアルミニウム製、アルミニウム合金製、または繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics、FRP)製、または炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、CFRP)製の芯材に、芯材とは異なる素材、例えばアルミニウム製、アルミニウム合金製、繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics、FRP)製、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、CFRP)製、またはポリアセタールコポリマー(PolyacetalmPolyoxymethylene、POM)製の内歯27を接着等で固定した部材である。往復動ギヤ33も、旋回ギヤ28と同様な構造を有している。なお、旋回ギヤ28の内歯27、および往復動ギヤ33の内歯3はいずれも、環状の芯材に対して飛び飛び(ひと続きではない、離散的な)に設けられていてもよい。換言すると、旋回ギヤ28は、芯材の周方向へ分割された複数の内歯27を備えていても良く、往復動ギヤ33は、芯材の周方向へ分割された複数の内歯3を備えていても良い。これら複数の内歯27、3のそれぞれは、芯材の周方向へ等間隔に並んでいることが好ましい。
【0052】
図7および図8は、本発明の実施形態に係る溶接装置の旋回台と駆動機構との関係を示す概念図である。
【0053】
図7および図8に示すように、本実施形態に係る溶接装置1のトーチ縦動用往復動ギヤ56は、旋回台5によって移動範囲を規制される一方で、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯31によって基部2の周方向へ移動すると同時に、旋回台5に対しても移動する。
【0054】
トーチ縦動用往復動ギヤ56は、円弧形状に沿って延びる案内穴79を有している。トーチ縦動用往復動ギヤ56は、案内穴79に配置される案内棒81によって、旋回台5に支持されている。案内棒81は、第一ギヤ21の回転によって移動するトーチ縦動用往復動ギヤ56に生じる径方向外側の力に抗してトーチ縦動用往復動ギヤ56を支えている。
【0055】
そして、トーチ縦動用往復動ギヤ56の移動は、内歯31もろとも外歯32を移動させ、外歯32に噛み合わされるトーチ縦動用動力伝達ギヤ66を回転させる。
【0056】
トーチ縦動用動力伝達ギヤ66は、トーチ縦動用往復動ギヤ56、つまり往復動ギヤ33の往動および復動にしたがって二方向へ回転される。
【0057】
なお、トーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21に噛み合わされるトーチ遠近用往復動ギヤ57およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21に噛み合わされるワイヤ送給用往復動ギヤ58は、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21に噛み合わされるトーチ縦動用往復動ギヤ56と同じ構造を採用しているので説明を省略する。同様にトーチ遠近用動力伝達ギヤ67およびワイヤ送給用動力伝達ギヤ68についてもトーチ縦動用動力伝達ギヤ66と同じ構造を採用しているので説明を省略する。
【0058】
溶接装置1は、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の回転を連携させることによって、旋回台5の移動、溶接トーチ19の縦動移動、溶接トーチ19の遠近移動およびワイヤの送給を行う。
【0059】
具体的には、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21が同速度で同方向へ回転すると、旋回台5は移動する一方、溶接トーチ19の縦動移動、溶接トーチ19の遠近移動およびワイヤの送給は停止する。これは、旋回用ギヤ列45、トーチ縦動用ギヤ列46、トーチ遠近用ギヤ列47およびワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21が同速度で同方向へ回転することによって、旋回ギヤ28と往復動ギヤ33との移動が同期し、ひいては動力伝達ギヤ35が旋回台5に対して相対的に停止するためである。
【0060】
ここで、旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46に着目する。
【0061】
旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46が相対的に異なる速度で回転すると、相互の回転速度差によって、旋回ギヤ28ひいては旋回台5に対してトーチ縦動用往復動ギヤ56が移動し、ひいてはトーチ縦動用動力伝達ギヤ66が回転して溶接ヘッド3を縦動移動させる。なお、溶接トーチ19が縦動移動するか否かは、旋回用ギヤ列45およびトーチ縦動用ギヤ列46の相対的な回転速度差が生じているか否かによるものであって、旋回台5が移動しているか否かにはよらない。旋回用ギヤ列45およびトーチ遠近用ギヤ列47の組合せであっても、旋回用ギヤ列45およびワイヤ用ギヤ列48の組合せであっても、同様に作用する。
【0062】
なお、往復動ギヤ33(トーチ縦動用往復動ギヤ56、トーチ遠近用往復動ギヤ57、およびワイヤ送給用往復動ギヤ58)の原点位置は、案内穴79のいずれかの端部79a、79bに案内棒81が突き当たり、電動機6の駆動が阻止された状態を基準として設定される。例えば、電動機6としてステッピングモーター(Stepper Motor)を採用する場合には、案内穴79のいずれか一方の端部79aに案内棒81が突き当たった状態から案内穴79のいずれか他方の端部79bに案内棒81が突き当たった状態に到達するまで電動機6にパルス電力を入力し、このときのパルス電力のパルス数を計数し、案内穴79のいずれかの端部79a、79bから計数値の2分の1に相当するパルス数を電動機6に入力した位置を往復動ギヤ33の原点位置に設定する。また、案内穴79のいずれかの端部79a、79bから予め定めるパルス数を電動機6に入力した位置を往復動ギヤ33の原点位置に設定することもできる。なお、案内穴79のいずれかの端部79a、79bに案内棒81が突き当たり、電動機6の駆動が阻止された状態であるか否かは、電動機6の駆動回路側で検知することができる。
【0063】
また、往復動ギヤ33(トーチ縦動用往復動ギヤ56、トーチ遠近用往復動ギヤ57、およびワイヤ送給用往復動ギヤ58)は、図4図7、および図8に二点鎖線で示すように、旋回ギヤ28と同様に、環状にひと続きの環形ギヤであっても良い。往復動ギヤ33は、基部2、電力供給部7、および旋回ギヤ28と同様に、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部(図示省略)に分割されている。つまり、往復動ギヤ33は、中心角が180度以下の弧状ギヤ部材を複数有している。溶接装置1は、この往復動ギヤ33の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、往復動ギヤ33を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
【0064】
また、往復動ギヤ33が環形ギヤの場合には、溶接装置1は、案内穴79および案内棒81による往復動ギヤ33の保持に代えて、往復動ギヤ33が基部2の径方向外側へ移動することを規制し、かつ往復動ギヤ33のそれぞれに噛み合わされる環状ギヤ列23の第一ギヤ21へ往復動ギヤ33を一括して押さえ付けて、これらを保持する外殻バンド82(保持枠体)を備えていることが好ましい。
【0065】
外殻バンド82は、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33を一括して環形ギヤの状態に束ねて保持している。外殻バンド82は、正面面板37および背面面板38の外周部に巻き付けられるようにして正面面板37と背面面板38とを隔てる空間を閉ざし、かつこの空間の最も外側に配置されている往復動ギヤ33を一括して、摺動可能に保持する。外殻バンド82は、旋回台5に固定されて、旋回台5とともに移動する。外殻バンド82は、往復動ギヤ33を、基部2の周方向において一方向へ移動することを可能にする。つまり、往復動ギヤ33は、基部2の周方向において往復移動可能(時計回りおよび反時計回りに移動可能)である一方で、時計回り、または反時計回りに連続して何周も回転することが可能になる。
【0066】
外殻バンド82は、基部2の周方向において旋回台5の一方の端部から他方の端部へ連続するひと続きの帯状体である。外殻バンド82は、基部2、および電力供給部7と同様に、周方向において複数の部分、例えば2つの半円弧部(図示省略)に分割されている。溶接装置1は、この外殻バンド82の分割構造によって、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、外殻バンド82を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。外殻バンド82は、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21に旋回ギヤ28を押さえ付けていても良い。
【0067】
図9は、本発明の実施形態に係る溶接装置のウォームギヤ機構を示す断面図である。
【0068】
図9に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の旋回用ウォームギヤ機構75は、旋回用電動機15の出力軸101に回転一体のねじ歯車102(ウォーム10)と、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21に回転一体のギヤ107と、を備えている。旋回用ウォームギヤ機構75は、ねじ歯車102へ入力される旋回用電動機15の駆動力をギヤ107で旋回用ギヤ列45へ伝達する。
【0069】
トーチ縦動用ウォームギヤ機構76は、トーチ縦動電動機16の出力軸112に回転一体のねじ歯車113(ウォーム113)と、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21に回転一体のギヤ115と、を備えている。トーチ縦動用ウォームギヤ機構76は、ねじ歯車113へ入力されるトーチ縦動電動機16の駆動力をギヤ115でトーチ縦動用ギヤ列46へ伝達する。
【0070】
第一ギヤ21に回転一体のギヤ107、115は、はす歯歯車であることが好ましい。
【0071】
旋回用ウォームギヤ機構75およびトーチ縦動用ウォームギヤ機構76を含むウォームギヤ機構36のそれぞれも、同様である。つまり、旋回用ウォームギヤ機構75、トーチ遠近用ウォームギヤ機構77、およびワイヤ用ウォームギヤ機構78は、トーチ縦動用ウォームギヤ機構76と同じ構成を備えている。
【0072】
また、溶接装置1は、電動機6の出力軸112、環状ギヤ列23の第一ギヤ21、および環状ギヤ列23の第二ギヤ22のいずれかの回転角度を検出する回転センサ(回転角度検出器、図示省略)を備えている。回転センサは、環状ギヤ列23毎に設けられている。つまり、回転センサは、旋回用電動機15の出力軸101、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21、および旋回用ギヤ列45の第二ギヤ22のいずれかの回転角度を検出する旋回用回転センサ(図示省略)と、トーチ縦動電動機16の出力軸112、トーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21、およびトーチ縦動用ギヤ列46の第二ギヤ22のいずれかの回転角度を検出するトーチ縦動用回転センサ(図示省略)と、トーチ遠近電動機17の出力軸(図示省略)、トーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21、およびトーチ遠近用ギヤ列47の第二ギヤ22のいずれかの回転角度を検出するトーチ遠近用回転センサ(図示省略)と、ワイヤ送給電動機18の出力軸(図示省略)、ワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21、およびワイヤ用ギヤ列48の第二ギヤ22のいずれかの回転角度を検出するワイヤ用回転センサ(図示省略)と、を含んでいる。
【0073】
さらに、溶接装置1は、回転センサ(旋回用回転センサ、トーチ縦動用回転センサ、トーチ遠近用回転センサ、およびワイヤ用回転センサ)が検出した回転角度に基づいて、複数の電動機6の駆動または停止を制御して複数の環状ギヤ列23を等速度に同期させて回転させ、または異なる速度で非同期に回転させる制御部99を備えている。
【0074】
制御部99は、マイクロプロセッサ(図示省略)、およびマイクロプロセッサが実行する各種演算プログラム、パラメータなどを記憶する記憶装置(図示省略)を備えている。制御部99は、それぞれの電動機6(旋回用電動機15、トーチ縦動電動機16、トーチ遠近電動機17、およびワイヤ送給電動機18)と、それぞれの回転センサ(旋回用回転センサ、トーチ縦動用回転センサ、トーチ遠近用回転センサ、およびワイヤ用回転センサ)とに電気的に接続されている。
【0075】
制御部99は、マイクロプロセッサで実行される自動溶接プログラムに従って電動機6および溶接トーチ19を制御することによって一対の被溶接物200a、200bを溶接して一体化させる。
【0076】
ここで先ず、旋回用電動機15と旋回用ギヤ列45との関係について説明する。
【0077】
旋回用電動機15が発生させる駆動力は、出力軸101に回転一体のねじ歯車102から、ねじ歯車102に噛み合わされるギヤ107を経て旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21へ伝達される。
【0078】
次いで、トーチ縦動電動機16とトーチ縦動用ギヤ列46との関係について説明する。
【0079】
トーチ縦動電動機16が発生させる駆動力は、出力軸112に回転一体のねじ歯車113から、ねじ歯車113に噛み合わされるギヤ115を経てトーチ縦動用ギヤ列46の第一ギヤ21へ伝達される。
【0080】
そして、制御部99は、回転センサ(旋回用回転センサ、トーチ縦動用回転センサ)が出力する検出結果に基づいて電動機6(旋回用電動機15、トーチ縦動電動機16)を運転し、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21とを同じ角速度(回転数)で回転させる。同じ角速度で回転する旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21およびトーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21は、旋回ギヤ28とトーチ縦動用往復動ギヤ56とを同じ角速度で同期して移動させ、溶接トーチ19の従動移動を阻止しながら旋回台5を移動させる。また、制御部99は、回転センサ(旋回用回転センサ、トーチ縦動用回転センサ)が出力する検出結果に基づいて電動機6(旋回用電動機15、トーチ縦動電動機16)を運転し、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21とを異なる角速度(回転数)で回転させる。異なる角速度で回転する旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21およびトーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21は、旋回ギヤ28とトーチ縦動用往復動ギヤ56との間に角速度差を生じさせて、溶接トーチ19の縦動移動と同時に旋回台5の移動、つまり溶接トーチ19の旋回を両立させる。さらに、制御部99は、回転センサ(旋回用回転センサ、トーチ縦動用回転センサ)が出力する検出結果に基づいて旋回用電動機15を停止させた状態でトーチ縦動電動機16を単独で運転し、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21を停止させたまま、トーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21を回転させる。旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21が停止したまま、回転するトーチ従動用ギヤ列46の第一ギヤ21は、旋回ギヤ28とトーチ縦動用往復動ギヤ56との間に角速度差を生じさせて、旋回台5の旋回を阻止した状態で溶接トーチ19を縦動移動させる。
【0081】
なお、トーチ遠近用ウォームギヤ機構77およびワイヤ用ウォームギヤ機構78については、トーチ縦動用ウォームギヤ機構76と同じ構造を採用しているので説明を省略する。つまり、溶接装置1は、旋回用電動機15およびトーチ遠近電動機17を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21とを同じ角速度で回転させて、溶接トーチ19の遠近移動を阻止しながら旋回台5を移動させる。また、溶接装置1は、旋回用電動機15およびトーチ遠近電動機17を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とトーチ遠近用ギヤ列47の第一ギヤ21との間に角速度差を生じさせて、溶接トーチ19の遠近移動と同時に旋回台5の移動、つまり溶接トーチ19の旋回を両立させる。さらに、溶接装置1は、旋回用電動機15およびワイヤ送給電動機18を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21とを同じ角速度で回転させて、ワイヤの送給を阻止しながら旋回台5を移動させる。また、溶接装置1は、旋回用電動機15およびワイヤ送給電動機18を適宜の出力で同時に回転させることによって、旋回用ギヤ列45の第一ギヤ21とワイヤ用ギヤ列48の第一ギヤ21との間に角速度差を生じさせて、ワイヤの送給と同時に旋回台5の移動、つまり溶接ヘッド3、ひいては溶接トーチ19の旋回を両立させる。
【0082】
次に、本実施形態に係る溶接装置の溶接ヘッドについて説明する。
【0083】
図10は、本実施形態に係る溶接装置の溶接ヘッドを示す平断面図である。
【0084】
図11および図12は、本実施形態に係る溶接装置のワイヤ送給機構の一部を示す図である。
【0085】
図10から図12に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の溶接ヘッド3は、溶接トーチ19を縦動移動させるトーチ縦動移動機構126と、溶接トーチ19を遠近移動させるトーチ遠近移動機構127と、溶接トーチ19へワイヤを供給するワイヤ送給機構128と、を備えている。
【0086】
トーチ縦動移動機構126は、動力伝達ギヤ35のうちトーチ縦動用動力伝達ギヤ66から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19を縦動移動させる。
【0087】
トーチ遠近移動機構127は、動力伝達ギヤ35のうちトーチ遠近用動力伝達ギヤ67から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19を遠近移動させる。
【0088】
ワイヤ送給機構128は、動力伝達ギヤ35のうちワイヤ送給用動力伝達ギヤ68から伝達される駆動力によって作動し、溶接トーチ19へワイヤを供給する。
【0089】
ところで、弧状の旋回ギヤ28や、弧状の往復動ギヤ33は、旋回台5、ひいては溶接ヘッド3に対して往復動する。つまり、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68へ動力を伝達するワイヤ送給用往復動ギヤ58は、旋回台5、ひいては溶接ヘッド3に対して往復動する。そのため、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68は、正転と逆転とを周期的に繰り返すことになる。つまり、ワイヤを供給するためにはワイヤ送給用往復動ギヤ58の往復動であって、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の周期的な正転と逆転との繰り返しを、ワイヤを送給し続けるための一方向の回転、つまり正転および逆転のいずれかの回転に変換する必要がある。
【0090】
そこで、ワイヤ送給機構128は、動力伝達ギヤ35の回転方向を維持して伝達する正転ギヤ系列131、および動力伝達ギヤ35の回転方向を逆転させて伝達する逆転ギヤ系列132を有する伝達機構133と、伝達機構133によって駆動される軸135と、正転ギヤ系列131の回転を一方向のみ軸135へ伝達する第一ワンウェイクラッチ136、および逆転ギヤ系列132の回転を第一ワンウェイクラッチ136が伝達する回転の逆方向のみ軸135へ伝達する第二ワンウェイクラッチ137を有して軸135を一方向へのみ回転させるダブルクラッチ機構138と、を備えている。ここで言う動力伝達ギヤ35は、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68である。
【0091】
なお、図11は正転ギヤ系列131を示し、図12は逆転ギヤ系列132を示している。ここで、正転ギヤ系列131および逆転ギヤ系列132の各ギヤについて、反時計回りを正転と表現し、時計回りを逆転と表現する。
【0092】
正転ギヤ系列131の第一段ギヤ131aと逆転ギヤ系列132の第一段ギヤ132aとは回転一体化されている。したがって、正転ギヤ系列131の第一段ギヤ131aおよび逆転ギヤ系列132の第一段ギヤ132aは、いずれか一方が動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68に噛み合わされていれば良い。
【0093】
正転ギヤ系列131は、第一ワンウェイクラッチ136を介して軸135に支持される正転系列最終段ギヤ131bを含む偶数個のギヤを含んでいる。したがって、正転ギヤ系列131は、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向を保って正転系列最終段ギヤ131bを回転させる。
【0094】
逆転ギヤ系列132は、第二ワンウェイクラッチ137を介して軸135に支持される逆転系列最終段ギヤ132bを含む奇数個のギヤを含んでいる。したがって、逆転ギヤ系列132は、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向を反転させて逆転系列最終段ギヤ132bを回転させる。
【0095】
換言すれば、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が正転すれば正転系列最終段ギヤ131bは正転して逆転系列最終段ギヤ132bは逆転する一方、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が逆転すれば正転系列最終段ギヤ131bは逆転して逆転系列最終段ギヤ132bは正転する関係にある。正転系列最終段ギヤ131bと逆転系列最終段ギヤ132bとは、互いに逆方向へ回転する。
【0096】
そして、第一ワンウェイクラッチ136は、正転系列最終段ギヤ131bが正転している場合には正転系列最終段ギヤ131bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図11中の実線矢)、正転系列最終段ギヤ131bが逆転している場合には正転系列最終段ギヤ131bと軸135との接続を解除して正転系列最終段ギヤ131bを空転させる(図11中の二点鎖線矢)。同じく、第二ワンウェイクラッチ137は、逆転系列最終段ギヤ132bが正転している場合には逆転系列最終段ギヤ132bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図12中の実線矢)、逆転系列最終段ギヤ132bが逆転している場合には逆転系列最終段ギヤ132bと軸135との接続を解除して逆転系列最終段ギヤ132bを空転させる(図12中の二点鎖線矢)。
【0097】
また、動力伝達ギヤ35、つまりワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転方向に着目して説明すると、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が正転している場合には、第一ワンウェイクラッチ136は、正転している正転系列最終段ギヤ131bと軸135とを接続して駆動力を伝達する一方(図11中の実線矢)、第二ワンウェイクラッチ137は、逆転している逆転系列最終段ギヤ132bと軸135との接続を解除して逆転系列最終段ギヤ132bを空転させる(図12中の二点鎖線矢)。他方、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68が逆転している場合には、第一ワンウェイクラッチ136は、逆転している正転系列最終段ギヤ131bと軸135との接続を解除して正転系列最終段ギヤ131bを空転させる一方(図11中の二点鎖線矢)、第二ワンウェイクラッチ137は、正転している逆転系列最終段ギヤ132bと軸135とを接続して駆動力を伝達する(図12中の実線矢)。
【0098】
このダブルクラッチ機構138の働きによって、軸135は、一方向、ここでは正転方向のみへ回転する。
【0099】
第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、軸135の一方の端部に設けられている。第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、同様の構造を有している。第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、スプラグ式であっても良いし、カム式(あるいはローラー式)であっても良い。例えばローラー式の第一ワンウェイクラッチ136および第二ワンウェイクラッチ137は、アウターレース(外輪、図示省略)と、ローラー147と、スプリング148と、を含んでいる。アウターレースは、内側にカム面を有するポケット149を備えている。ポケット149にはローラー147が配置されている。スプリング148のばね力は、ローラー147を外輪のカム面と軸135の外周面に接触させている。軸135に対して外輪が一方向に回転(本実施形態においては正転)する場合には、軸135の外周面とカム面との間にローラー147が挟まり込んで接触面圧が高くなり、抵抗になって駆動力を伝達する。軸135に対して外輪が他方向に回転(本実施形態においては逆転)する場合には、ローラー147と軸135の外周面、およびローラー147とカム面との接触面圧が低くなり、滑って駆動力の伝達を遮断する。
【0100】
軸135の他方の端部には、ワイヤ送給ローラー146が回転一体に設けられている。ワイヤ送給ローラー146は、軸135の回転によって駆動され、溶接トーチ19へワイヤを供給する。軸135はワイヤ送給機構128の働きによって一方向に回転し、ひいてはワイヤ送給ローラー146も一方向に回転して溶接トーチ19へワイヤを供給する。
【0101】
なお、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33が環状にひと続きの環形ギヤの場合には、溶接装置1は、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33を一方向へ回転させ続けることができる。つまり、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33が環状にひと続きの環形ギヤの場合には、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68へ動力を伝達するワイヤ送給用往復動ギヤ58は、旋回台5、ひいては溶接ヘッド3に対して一方向へ回転し続けることができる。そのため、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68は、正転または逆転を連続することができる。つまり、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33が環状にひと続きの環形ギヤの場合には、溶接装置1は、ダブルクラッチ機構138を用いることなく、ワイヤ送給用動力伝達ギヤ68から軸135へ直接的にワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転を伝達して、ワイヤを送給し続けることができる。換言すると、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33が環状にひと続きの環形ギヤの場合には、軸135にダブルクラッチ機構138を介することなく、直接的に固定される最終段ギヤ(図示省略)へ直接的にワイヤ送給用動力伝達ギヤ68の回転を伝達して、ワイヤを送給し続けることができる。
【0102】
次に、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路について説明する。
【0103】
図13は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す縦断面図である。
【0104】
図14は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路を示す横断面図である。
【0105】
図15および図16は、本実施形態に係る溶接装置のパージガス供給経路の動作を説明する断面図である。
【0106】
図13に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の電力供給部7は、基部2の正面面板37に設けられている。電力供給部7および旋回台5は、パージガス供給経路151を備えている。
【0107】
パージガス供給経路151は、電力供給部7のハウジング150に設けられるガス供給口152と、ハウジング150の内外を繋げるガス導入路153と、ハウジング150に設けられるガス溜部155と、を備えている。
【0108】
ハウジング150は、環状の基部2に同心状に配置されている。ハウジング150は、少なくとも基部2の分割面の同一面上で分割されている。ハウジング150は、基部2の分割面の同一面上で分割されている限り、基部2の分割面とは異なる箇所でさらに分割されていても良い。なお、パージガス供給経路151は、分割されたハウジング150毎に独立している。つまり、ガス溜部155は、ハウジング150の端面に設けられる閉塞板(図示省略)で閉じられている。
【0109】
ガス導入路153は、ガス供給口152に流れ込むパージガスをハウジング150へと導く流路である。ガス導入路153は、分割されたハウジング150毎に設けられている。
【0110】
ガス溜部155は、旋回台5を臨む方向へ開放される溝状の空間である。ガス溜部155は、ハウジング150の全周に渡って環状に設けられている。
【0111】
また、パージガス供給経路151は、全周に渡って配置される複数のガス流出口156を有する環状の弁座体157と、複数のガス流出口156のそれぞれを開閉させる複数の弁体158と、旋回台5が移動範囲のいずれの場所に移動しても、複数のガス流出口156のうち少なくとも一つに繋がるガス流路159を有して旋回台5に設けられる弧状のガス中継体161と、ガス中継体161に繋がるガス流出口156を閉ざす弁体158を開くバルブ駆動機構162と、を備えている。
【0112】
弁座体157は、ハウジング150のガス溜部155を塞ぐ蓋の役割を担っている。弁座体157は、溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部でもあり、導体である。弁座体157は、ハウジング150に固定されているが、弁座体157とハウジング150との隙間からパージガスが漏洩することを防ぎ、かつ弁座体157とハウジング150との電気的な絶縁を図るために、弁座体157とハウジング150との間には、絶縁体のシール板163が挟み込まれている。
【0113】
弁座体157の内周面は、ハウジング150のガス溜部155を塞ぐ一方、ガス流出口156の弁座165を兼ねている。弁座165は、弁座体157の内周に設けられる円形の凹部である。
【0114】
弁座体157の外周面は、旋回台5側に固定されるガス中継体161に接触している。
【0115】
弁体158は、ハウジング150のガス溜部155内に配置されている。弁体158は、ウレタンゴム製であって円柱形状を有し、弁座165に対する接触部分である先端部に半球形状を有している。弁体158は、ガス溜部155内に設けられる弁体保持枠体166、弁体保持枠体166に固定される弁軸167、および弁軸167に摺動自在に設けられるガイドブッシュ168によって保持されている。また、弁体158は、コイルバネ169から作用するばね力によってガス流出口156を閉ざす方向に押さえ付けられている。
【0116】
弁体保持枠体166は、ハウジング150に締結部材170で固定される一方で、弁座体157を締結部材171でハウジング150に固定する固定具の役割を果たしている。弁座体157と正面面板37との電気的な絶縁を図るために、弁体保持枠体166も絶縁体である。弁体保持枠体166は、複数の弁体158を保持して弧状に延びている。弁体保持枠体166は、ガス流出口156ごとにハウジング150の全周に渡って配置される弁体158と同じく、ハウジング150の全周に渡って複数、設けられている。弁座体157は、ハウジング150の分割を阻害しないよう、ハウジング150の分割に応じて分割されており、ハウジング150ごと、周方向において複数の部分に分割して被溶接物の外周に配置自在である。
【0117】
なお、弁体保持枠体166は、弁座体157の内周面に接してこれを支える一方で、弁体158の直径よりも幅狭でありガス流出口156へ流れ込むパージガスを阻害しない。
【0118】
弁軸167は、弁体158の中心線に沿って弁体保持枠体166に締結されている。
【0119】
ガイドブッシュ168は、弁体158に固定されている。ガイドブッシュ168は、バルブ駆動機構162に連動して弁体158を開閉させる。
【0120】
コイルバネ169は、弁軸167およびガイドブッシュ168に差し込まれて弁体158と弁体保持枠体166との間に挟み込まれている。
【0121】
ガス中継体161は、溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部でもあり、導体である。弁座体157およびガス中継体161は、相互に接触し合う導体であって溶接トーチ19へ電力を供給する電路の一部を担っている。弁座体157およびガス中継体161は、旋回台5が基部2の周囲を旋回する最中も電気的に接続されて導通を保っている。つまり、弁座体157およびガス中継体161は、被溶接物200a、200bに対して静止状態にある基部2側から被溶接物200a、200bに対して旋回する溶接ヘッド3へ電力を供給する。
【0122】
ガス中継体161は、絶縁体のホルダー172を介して旋回台5に固定されている。ガス中継体161は、旋回台5の一部であってホルダー172とともに基部2の周囲を旋回する。ガス中継体161の内周面は、弁座体157の外周面に臨み、旋回台5が移動範囲のいずれの場所に移動しても、複数のガス流出口156のうち少なくとも一つに覆い被さっている。
【0123】
ガス流路159は、ガス中継体161の内周面から外周面へと延びており、ホルダー172および旋回台5内のガス室173、およびガス室173に接続されるガスチューブ(図示省略)を経て溶接トーチ19へパージガスを供給する。
【0124】
バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動場所においてガス中継体161が覆い被さってガス流路159に繋がるガス流出口156を開放する。なお、旋回台5が移動してきておらず、ガス中継体161が覆い被さっていないガス流出口156は、コイルバネ169に押さえ付けられる弁体158によって閉じられている。
【0125】
バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動にともなってガス中継体161に接触して回転して弁体158を開くカム175を備えている。カム175は、弁座体157に摺動ブッシュ176を介して回転自在に支えられるバルブ開閉棒177に設けられており、バルブ開閉棒177の一部を切り欠いた半円形のカム面を有している。弁体158が弁座165を閉じている状態において、カム175は、半円形のカム面の弦部分をガイドブッシュ168の先端に当てている。他方、カム175は、バルブ開閉棒177の回転、ひいてはカム面の回転にともなって弁体158を弁座165から浮き上がらせる。
【0126】
バルブ開閉棒177は、弁座体157の両側面を貫いて延びている。バルブ開閉棒177の両自由端部は、弁座体157の側面から突出している。バルブ開閉棒177の一方の自由端部には、スイングアーム178が設けられている。スイングアーム178は、バルブ開閉棒177の径方向、かつ基部2の径外方向に向いている。
【0127】
また、バルブ駆動機構162は、旋回台5に設けられるスイングガイド179を備えている。スイングガイド179は、旋回台5の移動方向に傾いた傾斜面を有して旋回台から基部2側へ向かって突出する台形状または三角形状の山部である。スイングガイド179のうち傾斜面の一部、および山の頂上に相当する台形の上底または三角形の頂点は、旋回台5の旋回移動にともなって、スイングアーム178に干渉する軌道上を移動する干渉領域である。
【0128】
つまり、バルブ駆動機構162は、旋回台5の移動に同期してスイングガイド179の傾斜面をスイングアーム178に接触させ、スイングガイド179の山の頂上に相当する台形の上底または三角形の頂点を含んだ干渉領域によってスイングアーム178を倒し込み、バルブ開閉棒177を回転させ、ひいてはカム175を回転させて弁体158を弁座165から浮き上がらせてパージガスを流通させる(図15)。また、バルブ駆動機構162は、旋回台5が移動してスイングガイド179とスイングアーム178との干渉が解消されると、弁座165を弁体158で閉じてパージガスの流通を遮断させる。これは、スイングガイド179とスイングアーム178との干渉が解消されることによって、コイルバネ169のばね力が弁体158を弁座165に押し付ける作用によるものである。弁体158を弁座165へ押し付けるばね力は、カム175を回転させてバルブ開閉棒177およびスイングアーム178を復帰させる(図13図14図16)。
【0129】
次に、本実施形態に係る溶接装置の電力供給部について説明する。
【0130】
図17は、本実施形態に係る溶接装置の電力供給部を示す縦断面図である。
【0131】
図17に示すように、本実施形態に係る溶接装置1の電力供給部7は、ハウジング150の内外を貫通する電源供給導体9を備えている。電源供給導体9は、ハウジング150の電源用貫通孔11を通じてハウジング150内の電路の一部を兼ねる弁座体157に電気的に接続されている。電源供給導体9は、複数、例えば3つに分割されて断面積を確保されている。それぞれの縦断電路182は、絶縁体のシース183に覆われている。
【0132】
電路の一部を兼ねるガス中継体161は、旋回台5とガス中継体161との間に設けられるコイルバネ185によって、弁座体157に押し付けられている。コイルバネ185は、ガス中継体161と弁座体157との導通の安定を図っている。
【0133】
なお、電力供給部7は、被溶接物200a、200bの長手方向に沿って、基部2の正面側(正面面板37)に重ねて多段に配置することができる。例えば、ハウジング150を多段階に重ねて配置しても良く、またそれぞれの個別に弁座体157を収容する多数のパージガス供給経路151を有する一体型ハウジング(図示省略)を正面面板37に設けても良い。また、パージガス供給経路151は、いずれか1つの電力供給部7に設けられていれば良く、パージガス供給経路151を備えていない電力供給部7があっても良い。パージガス供給経路151を備えていない電力供給部7は、パージガス供給経路151を備える電力供給部7に比べて極めて簡潔に構成される。
【0134】
本実施形態に係る溶接装置1は、交互に噛み合う複数の第一ギヤ21および複数の第二ギヤ22を含む環状ギヤ列23と、環状ギヤ列23の第一ギヤ21に噛み合わされる内歯を有する環形の旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33と、を備えている。そのため、溶接装置1は、従来の溶接装置のように弧形のギヤを往復動させることなく、環形ギヤを一方向へ回転させ続けることができる。つまり、溶接装置1は、従来の溶接装置のように複雑なダブルクラッチ機構138を用いることなく、ワイヤ送給用往復動ギヤ58を連続的に一方向へ回転させてワイヤを送給することができる。
【0135】
また、本実施形態に係る溶接装置1は、中心角が180度以下の弧状ギヤ部材を複数有する旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33を備えている。換言すると、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33は、半円弧よりも中心角の小さい弧状ギヤ部材を組み合わせて環形をなしている。そのため、溶接装置1は、被溶接物200aの外周に配置自在である。溶接装置1は、旋回ギヤ28を分割することによって、被溶接物200aへ容易に着脱できる。
【0136】
さらに、本実施形態に係る溶接装置1は、旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33を一括して環形ギヤの状態に束ねて保持する外殻バンド82を備えている。そのため、溶接装置1は、従来の溶接装置のように、往復動ギヤ33に案内棒81を挿し通す案内穴79がなくても旋回ギヤ28、および往復動ギヤ33を保持しておくことが可能である。
【0137】
したがって、本実施形態に係る溶接装置1によれば、小口径配管においては無論、中大口径においては格別に十分な加工精度による溶接の正確性を確保できるとともに、ダブルクラッチ機構138が不要であり、ワイヤの連続的な供給、および溶接ヘッドの小型化を両立できる。
【0138】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0139】
1 溶接装置
2 基部
2a、2b 基部の半円弧部
3 溶接ヘッド
5 旋回台
6 電動機
7 電力供給部
7a、7b 電力供給部の半円弧部
8 クランプ
9 電源供給導体
11 電源用貫通孔
12 固定機構
13 トーチホルダ
15 旋回用電動機
16 トーチ縦動電動機
17 トーチ遠近電動機
18 ワイヤ送給電動機
19 溶接トーチ
21 第一ギヤ
22 第二ギヤ
23 環状ギヤ列
25 歯車列機構
27 内歯
28 旋回ギヤ
31 内歯
32 外歯
33 往復動ギヤ
35 動力伝達ギヤ
36 差動歯車機構
37 正面面板
38 背面面板
39 案内溝
45 旋回用ギヤ列
46 トーチ縦動用ギヤ列
47 トーチ遠近用ギヤ列
48 ワイヤ用ギヤ列
56 トーチ縦動用往復動ギヤ
57 トーチ遠近用往復動ギヤ
58 ワイヤ送給用往復動ギヤ
59 ころ部
61 トーチ設置面
66 トーチ縦動用動力伝達ギヤ
67 トーチ遠近用動力伝達ギヤ
68 ワイヤ送給用動力伝達ギヤ
75 旋回用ウォームギヤ機構
76 トーチ縦動用ウォームギヤ機構
77 トーチ遠近用ウォームギヤ機構
78 ワイヤ用ウォームギヤ機構
79 案内穴
79a、79b 案内穴の端部
81 案内棒
82 外殻バン
3 リングギヤ
85 ピニオンシャフト
86 ピニオンギヤ
87、88 サイドギヤ
89 ドライブシャフト
91 ドライブギ
9 制御部
101 出力軸
102、103 ギヤ
105 軸
106、107、108、109、111 ギヤ
112 出力軸
113、115 ギヤ
126 トーチ縦動移動機構
127 トーチ遠近移動機構
128 ワイヤ送給機構
131 正転ギヤ系列
132 逆転ギヤ系列
131a 第一段ギヤ
132a 第一段ギヤ
131b 正転系列最終段ギヤ
132b 逆転系列最終段ギヤ
133 伝達機構
135 軸
136 第一ワンウェイクラッチ
137 第二ワンウェイクラッチ
138 ダブルクラッチ機構
146 ワイヤ送給ローラー
147 ローラー
148 スプリング
149 ポケット
150 ハウジング
151 パージガス供給経路
152 ガス供給口
153 ガス導入路
155 ガス溜部
156 ガス流出口
157 弁座体
158 弁体
159 ガス流路
161 ガス中継体
162 バルブ駆動機構
163 シール板
165 弁座
166 弁体保持枠体
167 弁軸
168 ガイドブッシュ
169 コイルバネ
170 締結部材
171 締結部材
172 ホルダー
173 ガス室
175 カム
176 摺動ブッシュ
177 バルブ開閉棒
178 スイングアーム
179 スイングガイド
181 電源供給系統
182 縦断電路
183 シース
185 コイルバネ
200a、200b 被溶接物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17