(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】固形チーズ様食品用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20221018BHJP
A23C 19/055 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23C19/055
(21)【出願番号】P 2018106243
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2017109001
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】榊原 史子
(72)【発明者】
【氏名】東倉 誓哉
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-208969(JP,A)
【文献】特開2016-149991(JP,A)
【文献】特開平04-200348(JP,A)
【文献】特開2010-022252(JP,A)
【文献】特開昭60-237939(JP,A)
【文献】The Lipid Handbook with CD-ROM Third Edition, 2007, p.41-43, p.621-622
【文献】油脂化学便覧,平成4年,p.149-151「トリアシルグリセリン」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23C
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料チーズに配合して固形チーズ様食品を製造するための油脂組成物であって、融点が30℃以上のラウリン系油脂(A)と、融点が30℃未満のラウリン系油脂(B-1)、液状油脂(B-2)、パーム系油脂(B-3)、(B-1)~(B-3)の1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂(B-4)(ただし、エステル交換油脂(B-4)は、融点が30℃未満であるかあるいはラウリン酸量が30%未満である)から選択される少なくとも一種の油脂(B)とを含
み、油脂(A)は非エステル交換油脂であり、油脂(A)の油脂(B)に対する質量比(A/B)が、20/80~80/20である、前記油脂組成物。
【請求項2】
結晶化開始温度が15℃以上であり、かつ示差走査熱量測定曲線におけるピーク面積が300mJ以上である
(ただし、結晶化開始温度は、油脂組成物を80℃から5℃まで2℃/分の速度で冷却することで得たDSC曲線において、最も高温側のピークの補外開始点であり、ピーク面積は、結晶化開始温度から5℃までの範囲におけるDSC曲線とベースラインの間の面積である)、請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
30℃におけるSFC(固体脂含量)が、20%未満である請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
融点が30℃以上のラウリン系油脂(A)が、パーム核極度硬化油、ヤシ極度硬化油、パーム核ステアリンからなる群より選択される非エステル交換油脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
油脂(B)が、ラウリン系油脂(B-1)及び液状油脂(B-2)から選択された少なくとも一種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
油脂(B)が、エステル交換油脂(B-4)を含み、エステル交換油脂(B-4)が、パーム核油、ヤシ油、及びパーム核オレインから選択される少なくとも一種の油脂、並びに、液状油脂及びパーム系油脂から選択される少なくとも一種の油脂の混合油を原料油脂とするランダムエステル交換油脂である、請求項5記載の油脂組成物。
【請求項7】
30℃におけるSFC(固体脂含量)が15%以下であり、及び、結晶化開始温度が15℃以上であり、かつ示差走査熱量測定曲線におけるピーク面積が500mJ以上である、請求項2~6のいずれか一項記載の油脂組成物。
【請求項8】
原料チーズと請求項1~
7のいずれか1項に記載の油脂組成物とを含む、固形チーズ様食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形チーズ様食品用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズは、公正競争規約上、「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」に分類される。「ナチュラルチーズ」は、乳などを凝固させた凝乳(カード)から乳清(ホエー)の一部を除去したもの、それを熟成したもの、又はこれらに類するものと定義されている。また、「プロセスチーズ」は、ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したものと定義されている。
従来より、コストの削減などの観点から、乳脂肪源であるチーズの使用量を減らして、又は全くチーズを使用せずに、チーズに類似した食品(チーズ様食品)を製造することが提案されている。
チーズ様食品としては、固形状のもの(例えば、シュレッドチーズ、ダイスチーズ、スライスチーズ)、ペースト状のもの(例えば、クリームチーズ、チーズフォンデュ、チーズソース、チーズフィリング、チーズスプレッド)が挙げられる。
固形チーズ様食品は、パン生地、ピザ生地、パイ生地、食パン等にトッピングして、加熱融解して食す場合が多い。また、加熱溶融後、冷めてから食す場合もあるため、固形チーズ様食品では、加熱冷却後であっても、ソフトな食感が維持されていることが望ましい。
例えば、国際公開第2013/147280号(特許文献1)には、酸処理澱粉及びSFC(固体脂含量)が10℃で45%以上かつ20℃で20%以上である油脂を含有し、蛋白質含量が10重量%以下であるチーズ様食品が記載されている。上記油脂として、具体的には、パーム油中融点画分、精製パーム油、パーム油とパーム核油のエステル交換油脂が使用されている。これらの油脂では、加熱冷却後であっても、比較的ソフトな食感を維持することができるものの、加熱時及び常温でのオイルオフ(脂肪分の分離)を十分に抑制できないという問題がある。また、固形チーズ様食品はフィルムで包装される場合が多いが、上記油脂では、フィルムへの付着量を十分に低減できないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制、加熱時のオイルオフ抑制、及び加熱冷却後の食感に優れた固形チーズ様食品用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、原料チーズに配合される油脂として、融点が30℃以上のラウリン系油脂(A)と、融点が30℃未満のラウリン系油脂(B-1)、液状油脂(B-2)、パーム系油脂(B-3)、これら1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂(B-4)(ただし、エステル交換油脂(B-4)は、融点が30℃未満であるかあるいはラウリン酸量が30%未満である)から選択される少なくとも一種の油脂(B)とを組み合わせることにより、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制、加熱時のオイルオフ抑制、及び加熱冷却後の食感のいずれの点においても優れた固形チーズ様食品が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
(1)原料チーズに配合して固形チーズ様食品を製造するための油脂組成物であって、融点が30℃以上のラウリン系油脂(A)と、融点が30℃未満のラウリン系油脂(B-1)、液状油脂(B-2)、パーム系油脂(B-3)、(B-1)~(B-3)の1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂(B-4)(ただし、エステル交換油脂(B-4)は、融点が30℃未満であるかあるいはラウリン酸量が30%未満である)から選択される少なくとも一種の油脂(B)とを含む、前記油脂組成物。
(2)結晶化開始温度が15℃以上であり、かつ示差走査熱量測定曲線におけるピーク面積が300mJ以上である、(1)記載の油脂組成物。
(3)30℃におけるSFC(固体脂含量)が、20%未満である(1)又は(2)記載の油脂組成物。
(4)油脂(A)の油脂(B)に対する質量比(A/B)が、20/80~80/20である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の油脂組成物。
(5)油脂(B)が、ラウリン系油脂(B-1)及び液状油脂(B-2)から選択された少なくとも一種を含む、(1)~(4)のいずれか1項に記載の油脂組成物。
(6)油脂(B)が、エステル交換油脂(B-4)を含み、エステル交換油脂(B-4)が、パーム核油、ヤシ油、及びパーム核オレインから選択される少なくとも一種の油脂、並びに、液状油脂及びパーム系油脂から選択される少なくとも一種の油脂の混合油を原料油脂とするランダムエステル交換油脂である、(5)記載の油脂組成物。
(7)原料チーズと(1)~(6)のいずれか1項に記載の油脂組成物とを含む、固形チーズ様食品。
なお、本明細書において、「チーズ様食品」とは、原料チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)に油脂を配合して得られる、チーズに類似した食品全般を包含する概念である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油脂組成物を原料チーズに配合することにより、例えば、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制、加熱時のオイルオフ抑制、及び加熱冷却後の食感に優れた固形チーズ様食品(シュレッドチーズ、ダイスチーズ、スライスチーズなど)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の原料チーズに配合して固形チーズ様食品を製造するための油脂組成物(以下、「固形チーズ様食品用油脂組成物」と称する場合がある。)は、融点30℃以上のラウリン系油脂(A)と、融点が30℃未満のラウリン系油脂(B-1)、液状油脂(B-2)、パーム系油脂(B-3)、及び(B-1)~(B-3)の1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂(B-4)(ただし、エステル交換油脂(B-4)は、融点が30℃未満であるかあるいはラウリン酸量が30%未満である)から選択される少なくとも一種の油脂(B)とを含んでいる。
【0009】
ラウリン系油脂(A)は、構成脂肪酸としてラウリン酸を30質量%以上含有し、かつ30℃以上の融点を有する油脂である限り特に制限されず、例えば、パーム核極度硬化油(融点38~42℃)、ヤシ極度硬化油(融点30~34℃)、パーム核ステアリン(又はパーム核分別高融点部、融点30~34℃)、これら1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂(選択的エステル交換油脂、ランダムエステル交換油脂)などが挙げられる。なお、パーム核ステアリンなどの分別油を得るための分別方法は、当該技術分野で公知の方法を用いて行うことができる。分別方法としては、例えば、溶剤分別法、ウインタリング法、乳化分別法、自然分別法などが挙げられ、特に限定するものではない。後述の油脂(B)として分別油を使用する場合の分別方法も同様である。また、ラウリン系油脂(A)としてのエステル交換油脂は、エステル交換後の油脂が、ラウリン酸を30質量%以上含有し、かつ30℃以上の融点を有する油脂を意味する。
これらのラウリン系油脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらのラウリン系油脂のうち、フィルム剥離性の点から、パーム核極度硬化油が好ましい。
【0010】
ラウリン系油脂(A)の融点は、30℃以上の範囲から選択でき、例えば、31℃以上、好ましくは32℃以上(例えば、33~50℃)、さらに好ましくは34℃以上(例えば、35~45℃)である。なお、融点は、後述の実施例に記載のように、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.2-90融点(上昇融点)」に記載の方法に基づき測定することができる。
【0011】
ラウリン系油脂(A)の結晶化開始温度は、特に制限されず、例えば10℃以上の範囲から選択でき、フィルム剥離性の点から、15℃以上(例えば、20~40℃)であるのが好ましく、20℃以上(例えば、25~35℃)であるのがさらに好ましい。なお、結晶化開始温度は、後述の実施例に記載のように、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0012】
ラウリン系油脂(A)の含有量は、固形チーズ様食品用油脂組成物の総質量(又は該油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、例えば、10~80質量%(例えば、15~75質量%)、好ましくは20~70質量%(例えば、30~60質量%)、さらに好ましくは35~55質量%(例えば、40~50質量%)である。ラウリン系油脂(A)の含有量が少なすぎると、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制が低下する傾向にあり、ラウリン系油脂(A)の含有量が多すぎると、加熱冷却後の食感が低下する傾向にある。
【0013】
ラウリン系油脂(B-1)は、構成脂肪酸としてラウリン酸を30質量%以上含有し、かつ30℃未満(例えば、20~29℃)の融点を有する油脂である限り特に制限されず、例えば、ヤシ油(融点23~27℃)、パーム核油(融点25~29℃)、パーム核オレイン(又はパーム核分別低融点部、融点22~26℃)、これら2種以上の混合油が挙げられる。
【0014】
液状油脂(B-2)は、常温(例えば、20~30℃)でSFC(固体脂含量)が0%である限り特に制限されず、例えば、大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油(例えば、オレイン酸含量65質量%以上の菜種油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、紅花油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油(例えば、オレイン酸含量65質量%以上のヒマワリ油)、亜麻仁油、胡麻油、パームダブルオレイン(又は融点18℃未満のパーム分別低融点部)、これら2種以上の混合油が挙げられる。
【0015】
パーム系油脂(B-3)としては、特に制限されず、例えば、パーム油、パーム分別油(例えば、パームステアリン、パームオレイン、パームミッドフラクションなどの融点18℃以上又はヨウ素価30以上のパーム分別高融点、低融点又は中融点部)、パーム極度硬化油、これら2種以上の混合油が挙げられる。パーム系油脂(B-3)としては特に、パーム分別中融点部(融点18℃以上)を用いることが、経済的な観点と効果の観点のバランスから好ましい。パーム核油のようなパーム核由来の油脂はパーム系油脂には含まれない。
【0016】
エステル交換油脂(B-4)としては、ラウリン系油脂(B-1)、液状油脂(B-2)、及びパーム系油脂(B-3)から選択された1種又は2種以上を原料油脂とするエステル交換油脂である限り特に制限されない(ただし、エステル交換油脂(B-4)は、その融点が30℃未満であるかあるいはラウリン酸量が30%未満である)。
エステル交換油脂(B-4)の一例は、ラウリン系油脂(B-1)のみを原料油脂とするエステル交換油脂である。また、別の例では、ラウリン系油脂(B-1)、並びに、液状油脂(B-2)及びパーム系油脂(B-3)から選択された少なくとも一種を原料油脂とするエステル交換油脂であり、より具体的には、パーム核油、ヤシ油、及びパーム核オレインから選択される少なくとも一種の油脂(i)、並びに、液状油脂及びパーム系油脂から選択される少なくとも一種の油脂(ii)の混合油を原料油脂とするランダムエステル交換油脂である。油脂(i)の油脂(ii)に対する質量比(i/ii)は、例えば、5/95~95/5、好ましくは10/90~90/10(例えば、20/80~80/20)、さらに好ましくは30/70~70/30(例えば、30/70~50/50)である。
【0017】
油脂(B)としては、加熱時のオイルオフ抑制及び加熱冷却後の食感の点から、ラウリン系油脂(B-1)及び液状油脂(B-2)から選択される少なくとも一種の油脂が好ましく、常温でのオイルオフ抑制の点から、特にラウリン系油脂(B-1)が好ましい。また、フィルム剥離性の点から、エステル交換油脂(B-4)が好ましい。前記物性のバランスの点から、ラウリン系油脂(B-1)及び/又は液状油脂(B-2)とエステル交換油脂(B-4)の組み合わせ(特に、ラウリン系油脂(B-1)とエステル交換油脂(B-4)の組み合わせ)が好ましい。
上記の組み合わせにおいて、ラウリン系油脂(B-1)及び/又は液状油脂(B-2)のエステル交換油脂(B-4)に対する質量比は、例えば、50/50~95/5、好ましくは60/40~90/10(例えば、70/30~90/10)である。
【0018】
油脂(B)の含有量は、固形チーズ様食品用油脂組成物の総質量(又は該油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、例えば、10~80質量%(例えば、15~75質量%)、好ましくは20~70質量%(例えば、35~70質量%)、さらに好ましくは40~65質量%(例えば、45~60質量%)である。油脂(B)の含有量が少なすぎると、加熱冷却後の食感が低下する傾向にあり、油脂(B)の含有量が多すぎると、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制が低下する傾向にある。
【0019】
ラウリン系油脂(A)と油脂(B)に対する質量比(A/B)は、特に制限されず、例えば、20/80~80/20の範囲から選択でき、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制、加熱時のオイルオフ抑制、及び加熱冷却後の食感のバランスの点から、25/75~75/25であるのが好ましく、30/70~70/30(例えば、30/70~50/50)であるのがさらに好ましく、35/65~65/35(例えば、40/60~60/40)であるのが特に好ましい。
【0020】
固形チーズ様食品用油脂組成物は、その他の油脂を含んでいてもよい。その他の油脂としては、動物油脂、例えば、ラード、牛脂、乳脂肪、魚油、これらの混合油などが挙げられる。
【0021】
その他の油脂の含有量は、固形チーズ様食品用油脂組成物の総質量(又は該油脂組成物中の植物油脂の総質量)に対して、例えば、30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下(例えば、0.5~5質量%)である。
【0022】
固形チーズ様食品用油脂組成物における全構成脂肪酸中のラウリン酸の含有率は、特に制限されず、例えば、20~60質量%の範囲から選択でき、加熱時オイルオフ抑制及び常温でのオイルオフ抑制の点から、25~55質量%であるのが好ましく、30~50質量%であるのがより好ましい。
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物は、トランス脂肪酸含量を特に低減できる点において好ましい。トランス脂肪酸含量は、チーズ様食品用油脂組成物の合計質量に対して、例えば、5質量%以下(例えば、0.01~4質量%)であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物は、さらに種々の添加剤、例えば、乳化剤(レシチンなど)、酸化防止剤(トコフェロールなど)、香料などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤の含有量は、特に制限されず、固形チーズ様食品用油脂組成物の総質量に対して、例えば、0.01~2質量%である。
【0024】
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物の融点は、特に制限されず、例えば、30℃以上(例えば、30~45℃)、好ましくは31℃以上(例えば、32~40℃)、さらに好ましくは33℃以上(例えば、34~39℃)である。
【0025】
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物の結晶化開始温度は、特に制限されず、例えば、10℃以上(例えば、12~35℃)の範囲から選択でき、フィルム剥離性の点から、15℃以上(例えば、15~30℃)であるのが好ましく、20℃以上(例えば、20~25℃)であるのがさらに好ましい。
【0026】
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)曲線におけるピーク面積は、特に制限されず、例えば、300mJ以上(例えば、350mJ以上)の範囲から選択でき、フィルム剥離性の点から、400mJ以上(例えば、450~800mJ)であるのが好ましく、500mJ以上(例えば、550~750mJ)であるのがさらに好ましく、600mJ以上であるのが特に好ましい。なお、示差走査熱量測定(DSC)曲線におけるピーク面積とは、結晶化開始温度から5℃までの範囲における曲線とベースラインの間の面積(曲線下面積)を意味し、5℃まで冷却した際の結晶量を表す。
【0027】
本発明の固形チーズ様食品用油脂組成物の30℃におけるSFC(固体脂含量)は、特に制限されず、例えば、20%未満の範囲から選択でき、加熱冷却後の食感の点から、15%以下(例えば、1~15%)であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、5%以下であるのがさらに好ましい。なお、SFCは、後述の実施例に記載のように、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」(2013年)に記載の「2.2.9固体脂含量(NMR法)」に準拠して測定することができる。
【0028】
[固形チーズ様食品]
本発明の固形チーズ様食品は、原料チーズと、上記固形チーズ様食品用油脂組成物とを含んでいる。原料チーズは、ナチュラルチーズ及びプロセスチーズのいずれであってもよい。ナチュラルチーズとしては、軟質チーズ(例えば、モッツァレラ、マスカルポーネなどの非熟成タイプ、カマンベールなどの熟成タイプ)、半硬質チーズ(例えば、ゴルゴンゾーラ、ゴーダなどの熟成タイプ)、硬質チーズ(例えば、エメンタール、チェダーなどの熟成タイプ)、超硬質チーズ(例えば、パルミジャーノ・レッジャーノなどの熟成タイプ)が例示できる。プロセスチーズとしては、前記例示の1種又は2種以上のナチュラルチーズを加熱溶融して乳化したものが挙げられる。これらの原料チーズは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
原料チーズの含有量は、特に制限されず、固形チーズ様食品の総質量に対して、例えば、30~90質量%の範囲から適宜選択できる。
【0030】
固形チーズ様食品用油脂組成物の含有量は、固形チーズ様食品の総質量に対して、例えば、5~30質量%、好ましくは10~25質量%である。固形チーズ様食品用油脂組成物の含有量が多すぎると、固形チーズ様食品のチーズ風味が弱くなる傾向にある。
【0031】
本発明の固形チーズ様食品は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、溶融塩、乳蛋白、加工澱粉が挙げられる。
溶融塩としては、例えば、リン酸塩(例えば、ポリリン酸ナトリウム)、クエン酸塩(例えば、クエン酸三ナトリウム)が挙げられる。溶融塩の含有量は、特に制限されず、例えば、固形チーズ様食品の総質量に対して、0.1~5質量%である。
乳蛋白としては、例えば、カゼインナトリウムが挙げられる。乳蛋白の含有量は、特に制限されず、例えば、固形チーズ様食品の総質量に対して、1~10質量%である。
加工澱粉としては、例えば、酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉が挙げられる。加工澱粉の含有量は、特に制限されず、例えば、固形チーズ様食品の総質量に対して、0.1~5質量%である。
【0032】
固形チーズ様食品の具体例としては、短冊状(又は細切り状)のシュレッドチーズ、サイコロ状のダイスチーズ、シート状のスライスチーズなどが例示できる。
【0033】
本発明では、加熱時(又は加熱溶融時)のオイルオフを有効に抑制することができるため、加熱(又は加熱溶融)用(例えば、電子レンジ、オーブンレンジ、オーブントースターでの加熱用)の固形チーズ様食品を製造するための油脂組成物として好適に使用できる。加熱用の固形チーズ様食品は、例えば、70℃以上に加熱される食品であってもよい。
【0034】
[固形チーズ様食品の製造方法]
本発明の固形チーズ様食品は、慣用の方法、例えば、原料チーズと、本発明の油脂組成物と、必要により添加剤と、水とを加熱混合する工程、及び、加熱混合物を冷却する工程を含む方法により、製造することができる。
加熱混合工程において、各成分の配合量は、固形チーズ様食品中の含有量に応じて適宜選択される。加熱温度は、例えば、60~100℃程度である。加熱混合の間、必要により脱気を行ってもよい。
冷却工程において、加熱混合物は、例えば、1~10℃程度に冷却される。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
[固形チーズ様食品用油脂組成物の評価方法]
(1)融点
試料の融点は、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.2-90融点(上昇融点)」に記載の方法に基づき測定した。
(2)結晶化開始温度と示差走査熱量測定(DSC)曲線におけるピーク面積
油脂組成物5.0~6.0mgをアルミニウム製パンに充填し、密閉した。油脂組成物を充填したパンを80℃で15分保持することで完全に溶解させた後、2℃/分の冷却速度で5℃まで冷却し、状態変化の際に生じる熱量変位を示差走査熱量測定(DSC)装置(Perkin Elmer:DiamondDSC)により測定し、DSC曲線[縦軸:熱流(Heat Flow/mW)、横軸:温度]を得た。DSC曲線において、最も高温側のピークの補外開始点(ピークの傾きが最大となる点における接線とベースラインとの交点)を、試料の結晶化開始温度とした。
また、結晶化開始温度から5℃までの範囲におけるDSC曲線とベースラインの間の面積を、試料のDSC曲線におけるピーク面積とした。
(3)30℃でのSFC(固体脂含量)
試料のSFCは、日本油化学会編「基準油脂分析試験法」(2013年)に記載の「2.2.9固体脂含量(NMR法)」に準拠して測定した。具体的には、試料を70℃の恒温槽で加熱し、均一にして試験管に入れた。試験管に入れた試料を60.0±0.2℃で30分間保持した。この試料を0±0.2℃に30分間保持し、さらに25±0.2℃に移し30分間保持した。再び0±0.2℃に30分間保持した後、測定温度(T±0.2℃)に30分間保持して、試料のNMRシグナルを測定した。測定後は試料を次の測定温度に移し、30分間保持した後、試料のNMRシグナルを測定した。以下、同様の操作を繰り返した。測定温度は5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃であり、低温から順に測定した。
(4)トランス脂肪酸含量
トランス脂肪酸含量は、日本油化学会編「基準油脂試験分析法」(2007年)に記載の「トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」により決定した。
【0037】
[固形チーズ様食品の評価方法]
(1)フィルム剥離性
ナイロンポリ袋(福助工業株式会社製、ナイロンポリ袋Kタイプ)に充填したチーズ様食品を、麺棒で延ばしてシート状(約12cm×12cm)にし、5℃で一晩冷蔵した。ナイロンポリ袋からチーズ様食品を剥がした際のチーズ様食品の付着量を、以下の基準で評価した。
5:チーズ様食品の付着が全く又は殆どない
4:チーズ様食品の付着が少ない
3:チーズ様食品が付着しているが、許容できるレベルである
2:チーズ様食品の付着が多い
1:チーズ様食品の付着がかなり多い
(2)常温(30℃)でのオイルオフ抑制
耐熱保存容器(幅120mm×奥行120mm×高さ60mm)から取り出したチーズ様食品を、シュレッダー(遠藤商事、18-0四面チーズオロシ)を用いて約7mmの幅にシュレッドし、シュレッドした試料15gを濾紙の上にのせて、30℃恒温槽で3時間静置した。濾紙に染み出た油脂量を、以下の基準で評価した。
5:濾紙に染み出た油脂が全く又は殆どない
4:濾紙に染み出た油脂が少ない
3:油脂が濾紙に染み出ているが、許容できるレベルである
2:濾紙に染み出た油脂が多い
1:濾紙に染み出た油脂がかなり多い
(3)加熱時オイルオフ抑制
耐熱保存容器(幅120mm×奥行120mm×高さ60mm)から取り出したチーズ様食品を、シュレッダー(遠藤商事、18-0四面チーズオロシ)を用いて約7mmの幅にシュレッドし、シュレッドした試料20gをプラスチック容器(容積:140mL)に入れ、3サンプルずつ電子レンジ(600W)で1分加熱した。加熱試料から分離した油脂量を、以下の基準で評価した。
5:分離した油脂が全く又は殆どない
4:分離した油脂が少ない
3:油脂が分離しているが、許容できるレベルである
2:分離した油脂が多い
1:分離した油脂がかなり多い
(4)加熱冷却後の食感
(3)と同様に試料を加熱した後、30℃程度になるまで常温に静置した。8名のパネラーにより、試料の食感を以下の基準で評価した。
5:かなり軟らかい
4:軟らかい
3:少し硬いが、許容できるレベルである
2:硬い
1:かなり硬い
【0038】
[固形チーズ様食品の調製]
実施例及び比較例の固形チーズ様食品の処方を以下の表1に示す。
【0039】
【0040】
実施例及び比較例の固形チーズ様食品は、以下の方法により調製した。
表1の処方となるように、10Lミキサー(株式会社イズミフードマシナリ製)に、ナチュラルチーズ、表3~4に示す油脂組成物、カゼインナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(松谷化学工業株式会社製、ファリネックスVA70WM)、クエン酸三ナトリウム、水を投入し、1200rpmで撹拌しながら蒸気を直接吹き込み、85℃まで加熱し乳化した。加熱混合中、65~75℃の間は真空ポンプを用いて脱気を行った。乳化後、耐熱保存容器(幅120mm×奥行120mm×高さ60mm)及びナイロンポリ袋(福助工業株式会社製、ナイロンポリ袋Kタイプ)に充填し、5℃の冷蔵庫で16時間以上冷却することにより、固形チーズ様食品を得た。
以下、表3及び4に記載される各油脂の性状について記載する。
1) パーム核極度硬化油:ラウリン酸48質量%、融点40℃)、
2) パーム核ステアリン:パーム核油の分別油(ラウリン酸57質量%、ヨウ素価7.5、融点32℃)
3) ヤシ極度硬化油:ラウリン酸48質量%。融点32℃
4) パーム核油:融点28℃
5) ヤシ油:融点25℃
6) パーム分別中融点部1:パーム油の分別油(ヨウ素価45.0)
7) パーム分別中融点部2:パーム油の分別油(ヨウ素価33.5)
8) パーム極度硬化油:融点57℃
9) ヤシ油/パーム油エステル交換油脂:ヤシ油:パーム油を40:60の質量比で混合し、この混合油を、0.12%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(エステル交換後のラウリン酸18質量%、融点33℃)。
7) ヤシ油エステル交換油脂:ヤシ油を、0.12%のナトリウムメチラートを触媒とし、90℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行い、脱色、脱臭することにより得た(エステル交換後のラウリン酸47質量%、融点27℃)。
【0041】
各油脂のトランス脂肪酸量については以下の表2に示す。
【表2】
表2のトランス脂肪酸含量から、表3の実施例の油脂組成物のトランス脂肪酸含量を計算すると、いずれも1%より低い値であった。
【0042】
【0043】
【0044】
表3~4の結果から明らかなように、実施例の固形チーズ様食品は、比較例の固形チーズ様食品に比べて、フィルム剥離性、常温でのオイルオフ抑制、加熱時のオイルオフ抑制、加熱冷却後の食感のいずれの点においても優れている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の油脂組成物は、原料チーズに配合して、固形チーズ様食品(シュレッドチーズ、ダイスチーズ、スライスチーズなど)を製造するのに好適に利用することができる。