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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/33 20060101AFI20221018BHJP
   H01G 4/228 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/228 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018150365
(22)【出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2020027821
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】末正 里樹
(72)【発明者】
【氏名】関口 貴之
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-153020(JP,A)
【文献】特開2012-089743(JP,A)
【文献】特開2012-079961(JP,A)
【文献】特開2004-356160(JP,A)
【文献】特開2007-081100(JP,A)
【文献】特開2012-169525(JP,A)
【文献】特表2004-526321(JP,A)
【文献】特表2014-506001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/33
H01G 4/228
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と前記第1面に対向する第2面とを有し、前記第1面と前記第2面との間を貫通する複数の貫通孔が設けられた基材と、
前記第1面に沿って延伸する第1の部分、前記第2面に沿って延伸する第2の部分、及び、前記複数の貫通孔の内部に前記第1の部分と前記第2の部分とを接続するように設けられた第3の部分を有するMIM構造体と、
前記MIM構造体と電気的に接続される第1外部電極と、
前記MIM構造体と電気的に接続され、前記第1外部電極とは離間して設けられる第2外部電極と、
を備え、
前記第1外部電極及び前記第2外部電極は、前記MIM構造体に前記第1の部分及び前記第2の部分において電気的に接続され、
前記MIM構造体の前記第1の部分、前記第2の部分、及び前記第3の部分はいずれも、第1誘電体層と、前記第1誘電体層の下面に設けられた第1電極層と、前記第1誘電体層の上面に設けられた第2電極層と、を有し、
前記第1外部電極は、前記第1面に沿って延伸する第1電極部と、前記第2面に沿って延伸する第2電極部と、前記第1面と前記第2面とを接続する前記基材の第3面に沿って前記基材の外部において延伸し前記第1電極部と前記第2電極部とを接続する第1接続電極部と、を有し、
前記第2外部電極は、前記第1面に沿って延伸する第3電極部と、前記第2面に沿って延伸する第4電極部と、前記第1面と前記第2面とを接続し前記第3面と対向する前記基材の第4面に沿って前記基材の外部において延伸し前記第1電極部と前記第2電極部とを接続する第2接続電極部と、を有し、
前記基材の外表面の一部は、前記基材の前記第1面、前記第2面、前記第3面、及び前記第4面によって画定される、
キャパシタ。
【請求項2】
前記第1外部電極及び前記第2外部電極は、前記複数の貫通孔が延伸する方向から見たときに互いと重なり合わないように配置される、
請求項1に記載のキャパシタ。
【請求項3】
前記第1外部電極は、前記第1接続電極部の厚さT1が前記第1電極層の厚さt1よりも10倍以上厚くなるように構成される、
請求項1又は2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記第1外部電極は、前記第1接続電極部の厚さT1が前記第2電極層の厚さt2よりも10倍以上厚くなるように構成される、
請求項1から3のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記第2外部電極は、前記第2接続電極部の厚さT2が前記第1電極層の厚さt1よりも10倍以上厚くなるように構成される、
請求項から請求項のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記第2外部電極は、前記第2接続電極部の厚さT2が前記第2電極層の厚さt2よりも10倍以上厚くなるように構成される、
請求項から請求項のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記MIM構造体を覆うように設けられた保護層をさらに備える、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のキャパシタを備える回路基板。
【請求項9】
請求項に記載の回路基板を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜プロセスにより形成されたMIM構造体により容量を発生させる薄膜キャパシタに関する。本開示は、より具体的には、等価直列抵抗(ESR)を低減可能な薄膜キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜プロセスにより形成されたMIM構造体を備え、このMIM構造体により容量を発生させる薄膜キャパシタが知られている。薄膜キャパシタにおいては、小型化又は高容量化のために、単位面積あたりの発生容量を向上させることが求められている。
【0003】
単位面積あたりの発生容量を向上させることが可能な薄膜キャパシタとして、トレンチキャパシタが知られている。トレンチキャパシタは、トレンチと呼ばれる凹凸構造が多数形成された基材と、その一部がトレンチに沿って延伸するように設けられたMIM構造体と、を備えている。トレンチキャパシタにおいては、基材の厚さ方向に伸びるトレンチ内にもMIM構造体が設けられるため、単位面積あたりの容量を向上させることができる。
【0004】
特開2009-135311号公報(特許文献1)で指摘されているように、トレンチキャパシタにおいては、MIM構造体が基材の厚さ方向にも延伸していることからMIM構造体における電流経路が長くなる。その結果、トレンチキャパシタでは、等価直列抵抗(ESR)が大きくなるという問題がある。この問題は、高容量化又は小型化のためにトレンチの高アスペクト化を進めるほど深刻化する。
【0005】
この問題に対処するため、特開2009-295925号公報(特許文献2)に記載されているトレンチキャパシタでは、MIM構造体を構成する上部電極及び下部電極の厚さを厚くすることでESRを低減することを試みている。しかしながら、上部電極及び下部電極を厚く形成したのでは、単位面積あたりの発生容量が低下してしまう。その結果、必要な容量を得るためのキャパシタ面積が大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-135311号公報
【文献】特開2009-295925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MIM構造体を構成する電極層を厚肉化することなくESRを低減することが可能な薄膜キャパシタが望まれる。このような要望に関し、上記特許文献1に記載されているトレンチキャパシタでは、補助導体を設けることによりキャパシタに流れる電流経路を短縮し、それによりESRを低減することを試みている。より具体的には、上記特許文献1では、MIM構造体の上部電極のうちトレンチを挟んで互いから離間されている部位同士、または、MIM構造体の下部電極のうちトレンチを画定する側壁を挟んで互いから離間されている部位同士を電気的に接続する補助導体を設けることにより電流経路の短縮を試みている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のキャパシタにおいて、補助導体を流れる電流は容量発生に寄与していない。容量発生に寄与している電流は、電極内をトレンチに沿ってその上端から下端まで流れている。このように、特許文献1に記載のキャパシタにおいては、容量発生部となる電極においては電流経路が短縮されていない。このため、引用文献1のキャパシタにおいてESRの低減効果には限定的なものにとどまっていると考えられる。
【0009】
本開示の目的の一つは、ESRを低減可能な新規の薄膜キャパシタを提供することである。本発明のより具体的な目的の一つは、容量を発生させる電極を厚肉化することなくESR化を低減可能な新規の薄膜キャパシタを提供することである。本開示のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によるキャパシタは、基材にMIM構造体が設けられている薄膜キャパシタに関する。このMIM構造体は、第1誘電体層と前記第1誘電体層の下面に設けられた第1電極層と前記第1誘電体層の上面に設けられた第2電極層と、を有してもよい。当該薄膜キャパシタは、MIM構造体と電気的に接続される第1外部電極及び第2外部電極を備える。また、当該薄膜キャパシタは、前記MIM構造体を覆うように設けられた保護層を備えてもよい。
【0011】
一実施形態において、当該基材は、第1面と前記第1面に対向する第2面とを有し、当該基材には、前記第1面と前記第2面との間を貫通する複数の貫通孔が設けられている。
【0012】
一実施形態におけるMIM構造体は、少なくともその一部が当該複数の貫通孔の内部に埋め込まれるように基材に設けられる。一実施形態におけるMIM構造体は、基材の第1面に沿って延伸する第1の部分と、当該基材の第2面に沿って延伸する第2の部分と、当該基材の複数の貫通孔の内部に前記第1の部分と前記第2の部分とを接続するように設けられた第3の部分と、を有する。
【0013】
第1外部電極及び第2外部電極は互いから離間するように配置される。一実施形態において、第1外部電極及び第2電極は、前記MIM構造体に前記第1の部分及び前記第2の部分において接続され、第2外部電極が前記MIM構造体に前記第1の部分及び前記第2の部分において接続される。第1外部電極とMIM構造体の第1部分とが接続されている第1接続位置は、第2外部電極とMIM構造体の第1の部分とが接続されるている第2接続位置から離間している。同様に、第1外部電極とMIM構造体の第2部分とが接続されている第3接続位置は、第2外部電極とMIM構造体の第2の部分とが接続されている第4接続位置から離間している。
【0014】
上記の実施形態によれば、第1外部電極からの電流は、基材の第1面側にある第1の部分と当該基材の第2面側にある第2の部分からMIM構造体に流れ込む。つまり、第1外部電極からの電流は、並列に(または二手に分かれて)MIM構造体に流れ込み、この並列化された電流がMIM構造体内部を第2外部電極まで流れる。このように、第1外部電極からの電流は、並列化されてMIM構造体内部を流れるので、MIM構造体におけるESRを低減することができる。つまり、上記実施形態によれば、MIM構造体における電流経路が並列化されているのでESRが低減される。
【0015】
上記実施形態によれば、MIM構造体の第3の部分においては、貫通孔の深さ方向における両端から中心に向かって電流が流れ、この電流が当該中心付近で折り返されて当該深さ方向における中心から当該貫通孔の両端に向かって流れる。例えば、MIM構造体の第3の部分において貫通孔の第1面側から中心に向かって流れる電流は、当該中心付近で折り返されて当該第1面側に戻ってくる。このMIM構造体の第3の部分を流れる電流の経路長は、第1面側から中心に向かって流れる電流の経路長が貫通孔の深さの半分程度であり、この中心から第1面側に戻ってくる電流の経路長も貫通孔の深さの半分程度であるから、MIM構造体の貫通孔内にある第3の部分の一つを流れる電流の往復の経路長は、貫通孔の深さと同程度となる。従来のトレンチキャパシタにおいては、有底のトレンチ内を流れる電流の経路長は、トレンチの深さの約2倍の長さとなる。したがって、上記の実施形態によれば、基材の厚さ方向に流れる電流の経路長を、従来のトレンチキャパシタと比較して短縮することができる。
【0016】
上記実施形態によれば、基材の第1面から第2面まで貫通する貫通孔にMIM構造体が埋め込まれているので、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタよりも、MIM構造体の表面積を大きくすることができる。これにより、上記実施形態における薄膜キャパシタによれば、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタよりも単位面積あたりの容量を増加させることができる。また、上記実施形態による薄膜キャパシタによれば、MIM構造体における誘電体層の厚さを厚くしても、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタと同程度の容量を発生させることができる。このため、上記実施形態によれば、絶縁信頼性に優れた薄膜キャパシタを実現することができる。さらに、上記実施形態によれば、該基材の厚さを薄くしても、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタと同程度の容量を発生させることができる。このため、上記実施形態によれば、低背化された薄膜キャパシタを得ることができる。
【0017】
一実施形態における第1外部電極は、前記第1面に沿って延伸する第1電極部と、前記第2面に沿って延伸する第2電極部と、前記第1電極部と前記第2電極部とを接続する第1接続電極部と、を有する。一実施形態における第2外部電極は、前記第1面に沿って延伸する第3電極部と、前記第2面に沿って延伸する第4電極部と、前記第1電極部と前記第2電極部とを接続する第2接続電極部と、を有する。
【0018】
一実施形態において、前記第1外部電極は、前記第1接続電極部の厚さT1が前記第1電極層の厚さt1及び前記第2電極層の厚さt2の少なくとも一方よりも10倍以上厚くなるように構成される。一実施形態において、前記第2外部電極は、前記第2接続電極部の厚さT2が前記第1電極層の厚さt1及び前記第2電極層の厚さt2の少なくとも一方よりも10倍以上厚くなるように構成される。
【0019】

上記の薄膜キャパシタを回路基板に搭載する場合、第1外部電極の第1電極部又は第2電極部が当該回路基板のバンプと接合される。例えば、第2電極部が回路基板のバンプと接続される場合には、回路基板から第2電極部を介して第1外部電極に流れ込んだ電流の一部は、第1接続電極部を通って第1電極部に流れる。したがって、上記の薄膜キャパシタにおいては、第1接続電極部を通る電流経路の分だけ経路長が長くなっている。しかしながら、第1接続電極部の厚さを第1電極層の厚さt1及び第2電極層の厚さt2よりも厚くすることにより、第1接続電極部におけるESRの増加が第1外部電極から第2外部電極に至る全経路でのESRに与える影響を抑制することができる。特に、第1接続電極部の厚さを第1電極層の厚さt1及び/又は第2電極層の厚さt2の厚さよりも10倍以上厚くすることにより、全経路でのESRへの影響を大幅に低減できる。
【0020】
本発明の一実施形態は、上記のいずれかのトレンチキャパシタを備える回路基板に関する。本発明の一実施形態は、当該回路基板を備える電子機器に関する。
【0021】
薄膜キャパシタと回路基板との接続に応じて、電流は、第2外部電極から第1外部電極に向かって流れることもある。第2外部電極から第1外部電極へ電流が流れる場合でも、上記の実施形態による薄膜キャパシタは、上記の作用効果を奏することができる。例えば、MIM構造体を流れる電流の並列化や貫通孔内における電流経路の短縮という効果は、電流の流れる方向にかかわらず実現される。
【発明の効果】
【0022】
本明細書の開示されている様々な実施形態によって、ESRを低減可能な薄膜キャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態による薄膜キャパシタの平面図である。
図2図1の薄膜キャパシタをI-I線で切断したYZ断面を模式的に示す断面図である。
図3a図2に示されているYZ断面の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図である。図3aは、一実施形態による薄膜キャパシタにおける電流の流れを模式的に示している。
図3b】従来の薄膜キャパシタ(トレンチキャパシタ)における電流の流れを模式的に示す模式図である。
図4】別の実施形態による薄膜キャパシタのYZ断面の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。なお、複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0025】
図1及び図2を参照して、一実施形態による薄膜キャパシタ1について説明する。図1は、薄膜キャパシタ1の平面図であり、図2は、薄膜キャパシタ1をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【0026】
図示のように、一実施形態による薄膜キャパシタ1は、基材10と、基材10に設けられたMIM構造体20と、MIM構造体20を覆うように設けられた保護層40と、を備える。MIM構造体20と保護層40との間には、不図示のバリア層が設けられてもよい。保護層40の外側には、外部電極2及び外部電極3が設けられる。外部電極2及び外部電極3は、詳しくは後述するように、MIM構造体20を構成する電極層と電気的に接続される。
【0027】
薄膜キャパシタ1は、外部電極2及び外部電極3を回路基板に設けられたランドに接合することにより、当該回路基板に実装される。この回路基板は、様々な電子機器に搭載され得る。薄膜キャパシタ1が実装された回路基板を備える電子機器には、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ゲームコンソール、及びこれら以外の薄膜キャパシタ1が実装された回路基板を備えることができる任意の電子機器が含まれる。
【0028】
図1を含む各図には、互いに直交するX方向、Y方向、及びZ方向が示されている。本明細書においては、これらの図に示されているX方向、Y方向、及びZ方向を基準として薄膜キャパシタ1の構成部材の向きや配置を説明することがある。具体的には、文脈上別に解される場合を除き、薄膜キャパシタ1の「幅」方向、「長さ」方向、及び「厚さ」方向はそれぞれ、図1のX軸に沿う方向、Y軸に沿う方向、及びZ軸に沿う方向とする。本明細書において薄膜キャパシタ1及びその構成部材の上下方向に言及する際には、図1の上下方向を基準とする。つまり、文脈上別に解される場合を除き、Z軸の正方向が薄膜キャパシタ1の上方向とされ、Z軸の負方向が薄膜キャパシタ1の下方向とされる。
【0029】
まず、基材10及び当該基材10に設けられる複数の貫通孔11について説明する。一実施形態において、基材10は、Siなどの絶縁材料から成る。一実施形態において、基材10は、概ね直方体の形状に形成されており、その幅方向(X軸方向)の寸法は例えば50μm~5000μmとされ、その長さ方向(Y軸方向)の寸法は例えば50μm~5000μmとされ、その厚さ方向(Z軸方向)の寸法は例えば5μm~500μmとされる。本明細書において具体的に示される基材10の寸法は例示に過ぎず、基材10は任意の寸法をとることができる。
【0030】
基材10には、上面10aと下面10bとを有している。基材10には、この上面10aと下面10bとの間を貫通する複数の貫通孔11が設けられている。この複数の貫通孔11は、上面10aと下面10bとの間においてZ軸方向に沿って(すなわち、上下方向に沿って)延伸している。図1に示されているように、複数の貫通孔11の各々は、その平面視の形状が、X軸方向に沿って伸びる辺とY軸方向に沿って伸びる辺とで画定されるほぼ長方形となるように形成されている。図示の実施形態において、複数の貫通孔11の各々は、平面視において、X軸方向に沿って伸びる辺がY軸方向に沿って伸びる辺よりも短くなるように形成されている。上面10aは基材10の第1面の例であり、下面10bは基材10の第2面の例である。
【0031】
一実施形態において、複数の貫通孔11の各々は、単位面積あたりの高容量化を実現するために、高アスペクト比を有するように形成される。つまり、複数の貫通孔11の各々は、その幅(例えば、X軸方向の辺の長さ)に対する深さの比が大きくなるように形成される。複数の貫通孔11の各々の深さは、上面10aと下面10bとの間の距離に等しい。複数の貫通孔11の各々の幅(X軸方向における寸法)は例えば0.5μm~2μmとされ、その長さ(Y軸方向における寸法)は例えば5μm~20μmとされ、その深さ(Z軸方向における寸法)は例えば1μm~100μmとされる。隣接する貫通孔11同士の間隔は、例えば、X軸方法において0.5μm~2μmとされ、Y軸方法において1μm~10μmとされる。本明細書において具体的に示される貫通孔11の寸法は例示に過ぎず、貫通孔11は任意の寸法をとることができる。また、貫通孔11の平面視における形状は長方形形状に限られず、貫通孔11は任意の平面視形状を取ることができる。一実施形態において、貫通孔11は、その深さ(Z軸方向における寸法)が40μmであり、その幅(X軸方向における寸法)が1.0μmであり、その長さ(Y軸方向における寸法)が19μmとなるように構成される。
【0032】
貫通孔11は、例えばSi基板の表面に貫通孔11のパターンに対応する開口が形成されたマスクを形成した後、エッチングにより当該Si基板をエッチングすることで形成され得る。基板11のエッチング加工は、深掘りRIE(深掘り反応性エッチング)などの反応性イオンエッチング法により行われ得る。このエッチングによって、例えば、Si基板の上面10aに相当する面から下面10bに相当する面に向かって孔が掘り進められる。貫通孔11は、エッチングにより上面10aに相当する面から下面10bに相当する面まで基材を掘り進めることで形成されてもよい。これに代えて、貫通孔11は、上面10aに対応する面から下面10bに相当する面の手前までエッチングを行って有底の孔を形成し、このエッチング後に下面10bに相当する面の有底の孔に対応する位置を切削することで形成されてもよい。
【0033】
複数の貫通孔11のうち隣接する貫通孔11同士は側壁12によって隔てられている。言い換えると、側壁12は、基材10の一部であり、隣接する貫通孔11を互いから離隔させるように構成される。
【0034】
続いて、MIM構造体20についてさらに説明する。前述のように、基材10には、MIM構造体20が設けられる。MIM構造体20は、図示のように、貫通孔11の各々に埋め込まれるように、基材10に設けられている。
【0035】
図示のように、MIM構造体20は、誘電体層と導体層とが交互に積層された積層体である。一実施形態におけるMIM構造体20は、下部電極層22と、当該下部電極層22の上に設けられた誘電体層21と、当該誘電体層21の上に設けられた上部電極層23と、を有する。本明細書においてMIM構造体20における上下方向に言及する場合には、下部電極及び上部電極という慣用されている名称と整合性をとるために、Z軸方向に沿う上下方向ではなく、基材10により近い側を「下」とし、基材10からより遠い側を「上」として説明がなされることがある。MIM構造体20は、2層以上のMIM層を含んでもよい。例えば、MIM構造体20が2層のMIM層を有する場合には、下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23から構成される第1層目のMIM層の上に第2層目のMIM層が形成される。例えば、第2層目のMIM層は、上部電極層23の上に設けられた誘電体層と、この誘電体層の上に設けられた電極層と、を備えることができる。この場合、上部電極層23は、第1層目のMIM層の上側の電極層としての機能と、第2層目のMIM層の下側の電極層としての機能を兼ねる。
【0036】
MIM構造体20は、基材10の上面10a、下面10b、及び貫通孔11に追従する形状を有するように構成される。一実施形態において、MIM構造体20は、基材10の上面10aに沿って延伸する上面部20aと、基材10の下面10bに沿って延伸する下面部20bと、貫通孔11を画定する内壁に沿って延伸するトレンチ部20cと、を有する。上面部20a及び下面部20bは、XY平面に沿って延伸している。トレンチ部20cは、複数の貫通孔11の各々の内部において、Z軸方向に延伸している。上面部20aと下面部20bとはトレンチ部20cによって接続されている。上面部20aは、MIM構造体の第1の部分の例であり、下面部20bは、MIM構造体の第2の部分の例であり、トレンチ部20cは、MIM構造体の第3の部分の例である。
【0037】
誘電体層21の材料として、BST(チタン酸バリウムストロンチウム)、BTO(チタン酸バリウム)、チタン酸ストロンチウム(STO)、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化チタン(TiO2)、及びこれら以外の誘電体材料を用いることができる。誘電体層21の材料は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0038】
誘電体層21は、例えば、ALD(原子層堆積)法、スパッタ法、CVD法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。誘電体層21は、その膜厚が例えば1nm~500nmとなるように形成される。一実施形態において、誘電体層21の膜厚は、30nmとされる。
【0039】
下部電極層22及び上部電極層23の材料として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、導電性シリコン、もしくはこれら以外の金属材料、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料、及び前記金属元素の化合物を用いることができる。一実施形態においては、下部電極層22及び上部電極層23の材料として、窒化チタン(TiN)が用いられる。下部電極層22及び上部電極層23の材料は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0040】
下部電極層22及び上部電極層23は、例えば、ALD(原子層堆積)法、スパッタ法、蒸着法、めっき法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。一実施形態において、下部電極層22は、その膜厚t1が例えば1nm~500nmとなるように形成される。一実施形態において、上部電極層23は、その膜厚t2が例えば1nm~500nmとなるように形成される。一実施形態において、下部電極層22及び上部電極層23の膜厚はそれぞれ30nmとされる。下部電極層22及び上部電極層23の膜厚は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0041】
続いて、保護層40について説明する。保護層40は、外部環境からMIM構造体20を保護するために、MIM構造体20及び基材10を覆うように設けられる。保護層40は、例えば、外部から受ける衝撃などの機械的ダメージからMIM構造体20を保護するように設けられる。保護層40の材料として、ポリイミド等の樹脂材料、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、及びこれら以外の絶縁材料を用いることができる。保護層40は、例えば、スピンコート法により感光性ポリイミドを塗布し、この塗布されたポリイミドを露光、現像、及びキュアすることにより形成される。保護層40は、これ以外の任意の公知の方法により形成され得る。保護層40は、その膜厚が例えば200nm~5000nmとなるように形成される。一実施形態において、保護層40の膜厚は3000nmとされる。保護層40の材料及び膜厚は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0042】
保護層40とMIM構造体20(又は基材10)との間には、不図示のバリア層が設けられてもよい。バリア層は、薄膜キャパシタ1の耐候性を向上させるために、主にMIM構造体20の上に設けられる。一実施形態において、バリア層は、保護層40から放出される水分や大気中の水分がMIM構造体20に到達しないように、MIM構造体20と保護層40との間に設けられる。バリア層は、水素ガスバリア性に優れた薄膜であってもよい。バリア層の材料として、アルミナ(Al23)、酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)、ジルコニア(ZrO2)、及びこれら以外の絶縁材料を用いることができる。バリア層は、例えば、スパッタ法、CVD法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。バリア層は、その膜厚が例えば5nm~500nmとなるように形成される。一実施形態において、バリア層の膜厚は50nmとされる。バリア層の材料及び膜厚は、本明細書で明示的に説明されたものには限定されない。
【0043】
続いて、外部電極2及び外部電極3について説明する。外部電極2及び外部電極3は、保護層40の外側に、Y軸方向において互いから離間するように設けられる。外部電極2及び外部電極3は、保護層40の外側に、金属材料を含む導体ペーストを塗布することにより形成される。外部電極2及び外部電極3の材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、もしくはこれら以外の金属材料、または、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料を用いることができる。外部電極2及び外部電極3には、必要に応じて、半田バリア層及び半田濡れ層の少なくとも一方が形成されてもよい。
【0044】
外部電極2は、保護層40の上面に基材10の上面10aに沿って(つまり、XY平面に沿って)延伸するように設けられる上側電極部2aと、保護層40の下面に基材10の下面10bに沿って(つまり、XY平面に沿って)延伸するように設けられる下側電極部2bと、この上側電極部2aと下側電極部2bとを接続する接続電極部2cと、を有する。接続電極部2cは、XZ平面に沿って延伸するように構成される。接続電極部2cは、基材の上面10aと下面10bとを接続する端面に沿って延伸するように設けられる。一実施形態において、接続電極部2cは、その厚さT1が5000nm~10000nmとなるように形成される。上側電極部2a及び下側電極部2bも接続電極部2cと同程度の厚さに形成される。外部電極2は第1外部電極の例であり、上側電極部2aは第1電極部の例であり、下側電極部2bは第2電極部の例である。接続電極部2cは、第1接続電極部の例である。
【0045】
外部電極3は、保護層40の上面に基材10の上面10aに沿って(つまり、XY平面に沿って)延伸するように設けられる上側電極部3aと、保護層40の下面に基材10の下面10bに沿って(つまり、XY平面に沿って)延伸するように設けられる下側電極部3bと、この上側電極部3aと下側電極部3bとを接続する接続電極部3cと、を有する。接続電極部3cは、XZ平面に沿って延伸するように構成される。接続電極部3cは、基材の上面10aと下面10bとを接続する端面に沿って延伸するように設けられる。一実施形態において、接続電極部3cは、その厚さT2が5000nm~10000nmとなるように形成される。上側電極部3a及び下側電極部3bも接続電極部3cと同程度の厚さに形成される。外部電極3は第2外部電極の例であり、上側電極部3aは第3電極部の例であり、下側電極部3bは第4電極部の例である。接続電極部3cは、第2接続電極部の例である。
【0046】
保護層40のうちMIM構造体20の上側に設けられている部分のY軸負方向の端の近くには溝41が設けられており、Y軸正方向の端の近くには溝42が設けられている。同様に、保護層40のうちMIM構造体20の下側に設けられている部分のY軸負方向の端の近くには溝43が設けられており、Y軸正方向の端の近くには溝44が設けられている。溝41~溝44はいずれも、X軸方向に沿って延伸するとともに保護層40をZ軸方向に貫通するように設けられている。溝41には引出電極2dが設けられ、溝43には引出電極2eが設けられ、溝42には引出電極3dが設けられ、溝44には引出電極3eが設けられる。
【0047】
引出電極2dは、その上端が外部電極2に接続され、その下端がMIM構造体20の下部電極層22に接続される。引出電極2eは、その上端がMIM構造体20の下部電極層22に接続され、その下端が外部電極2に接続される。引出電極3dは、その上端が外部電極3に接続され、その下端がMIM構造体20の上部電極層23に接続される。引出電極3eは、その上端がMIM構造体20の上部電極層23に接続され、その下端が外部電極3に接続される。この接続を実現するために、引出電極3d,3eは、そのX軸方向寸法が引出電極2d,2eのX軸方向寸法よりも小さくなるように構成される。
【0048】
引出電極2d,2e,3d,3eの材料として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、もしくはこれら以外の金属材料、または、これらの金属元素の一または複数を含む合金材料を用いることができる。引出電極2d,2e,3d,3eは、蒸着法、スパッタ法、めっき法、又はこれら以外の公知の方法により形成される。
【0049】
外部電極2は、上面部20a及び下面部20bの各々においてMIM構造体20のうち下部電極層22と電気的に接続されている。より具体的には、外部電極2は、基材10の上側で引出電極2dを介してMIM構造体20の上面部20aにおける下部電極層22と電気的に接続されており、基材10の下側で引出電極2eを介してMIM構造体20の下面部20bにおける下部電極層22と電気的に接続されている。
【0050】
外部電極3は、上面部20a及び下面部20bの各々においてMIM構造体20のうち上部電極層23と電気的に接続されている。より具体的には、外部電極3は、基材10の上側で引出電極3dを介してMIM構造体20の上面部20aにおける上部電極層23と電気的に接続されており、基材10の下側で引出電極3eを介してMIM構造体20の下面部20bにおける上部電極層23と電気的に接続されている。
【0051】
続いて、一実施形態による薄膜キャパシタの製造方法について説明する。まず、Si基材を準備し、この基材の上面に貫通孔のパターンに対応する開口が形成されたマスクを設ける。このマスクは、図1に示されている貫通孔11に対応する開口パターンを有する。当該マスクに形成されている複数の開口は、平面視において概ね長方形の形状に形成される。次に、このマスクが設けられた基材にエッチングを行うことにより、当該基材に複数の貫通孔が形成される。このエッチングは、深掘りRIEにより行われても良い。貫通孔は、エッチングと切削とを組み合わせて形成されてもよい。この場合、基材へのエッチングを上面から下面の手前まで行って有底の孔を形成し、このエッチング後に基材下面の有底の孔に対応する位置を切削することで貫通孔が形成される。このようにして複数の貫通孔11が形成された基材10が得られる。
【0052】
次に、基材10からマスクを除去した後、基材10の表面及び貫通孔11の内部に下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23を積層する。例えば、誘電体層21はジルコニアから形成され、下部電極層22及び上部電極層23はTiNから形成される。下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23は、ALD法により形成され得る。下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23は、基材10の凹凸構造に追従する形状に形成される。下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23は、基材10の上面10a、下面10b、及び複数の貫通孔11の各々の内部に形成される。下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23は、従来のように有底のトレンチではなく貫通孔11に積層される(貫通孔11を画定する内壁に積層される)ため、各層の膜厚をより均一にすることができる。すなわち、ALD法にて電極層や誘電体層を形成する場合には、原料ガスが有底のトレンチの底部へは十分に行き渡らないことがあるが、本実施形態においては、基材10に有底のトレンチではなく貫通孔11が形成されているため、貫通孔11内部に偏りなく原料ガスを供給することができる。これにより、本実施形態においては、下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23の膜厚をより均一にすることができる。
【0053】
誘電体層22の材料はジルコニアには限られず、下部電極層22及び上部電極層23の材料はTiNには限られない。下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23は、ALD法以外の様々な公知の方法により形成されてもよい。このようにして、下部電極層22、誘電体層21、及び上部電極層23が積層されたMIM構造体20が基材10に設けられる。
【0054】
次に、MIM構造体20の上に保護層40が形成される。次に、保護層40のうちMIM構造体20の上側に設けられている部分のY軸方向の両端の各々の近くに溝41,42がそれぞれ設けられる。また、保護層40のうちMIM構造体20の下側に設けられている部分のY軸方向の両端の各々の近くに溝43,44がそれぞれ設けられる。溝41~溝44は、例えば、エッチングにより形成される。
【0055】
次に、めっき法により溝41~44の内部に引出電極2d,2e,3d,3eがそれぞれ形成され、保護層40の表面に外部電極2及び外部電極3が形成される。以上により、薄膜キャパシタ1が得られる。
【0056】
続いて、図3a及び図3bを参照して、薄膜キャパシタ1における電流の流れを従来のトレンチキャパシタにおける電流の流れと対比して説明する。図3aは、図2に示されている薄膜キャパシタ1の断面の一部を拡大して模式的に示す拡大断面図であり、当該薄膜キャパシタ1のMIM構造20における電流の流れを模式的に示している。図3bは、基材に形成されたトレンチにMIM構造が埋め込まれた従来の典型的なトレンチキャパシタにおける電流の流れを模式的に示す模式図である。
【0057】
まず、図3bを参照して、従来のトレンチキャパシタ301における電流の流れを説明する。図3bには、従来の典型的なトレンチキャパシタ301が示されている。このトレンチキャパシタ301は、基材310にトレンチ311が形成されており、このトレンチ311内にMIM構造体220が埋め込まれている。MIM構造体220の上面にはMIM構造体240を覆うように保護層240が設けられている。MIM構造体220は、下部電極層222と、誘電体層221と、上部電極層223と、を有する。下部電極層222は、正極の外部電極(不図示)に接続されており、上部電極層223は負極の外部電極(不図示)に接続されている。この従来のトレンチキャパシタ301においては、正極の外部電極から下部電極層222に供給された電流は、下部電極層222内を負極の外部電極まで流れる。具体的には、正極の外部電極から下部電極層222に供給された電流は、下部電極層222内を基材310の上面310aに沿う向きに流れた後にトレンチ311の深さ方向に沿って下向きにトレンチ311の底部まで流れ、底部において誘電体層221を介して上部電極層223に流れこむ。このトレンチ311の底部で上部電極層223に流れ込んだ電流は、上部電極層223内をトレンチ311の深さ方向に沿って上方に流れ、次に上面310aに沿って負極の外部電極へ到達する。このように、従来のトレンチキャパシタ301において、電流は、トレンチ311の内部を流れるときにトレンチ311の深さに相当する距離を往復すると考えられる。
【0058】
次に、図3aを参照して、一実施形態による薄膜キャパシタ1における電流の流れを説明する。薄膜キャパシタ1においては、外部電極2が上側電極部2a及び下側電極部2bを有しており、外部電極3が上側電極部3a及び下側電極部3bを有しているため、薄膜キャパシタ1は、その上面及び下面のいずれもが実装面となり得る。説明の便宜のため、以下の説明においては、薄膜キャパシタ1は、外部電極2の下側電極部2b及び外部電極3の下側電極部3bが回路基板のランドに接続されることで、回路基板に実装されると仮定する。この場合、回路基板から外部電極2の下側電極部2bに供給された電流は、MIM構造体20の下面部20bにおいて下部電極層22に流れ込むとともに、接続電極部3cを通って上側電極部2aに流れ込み、この上側電極部2aからMIM構造体20の上面部20aにおいて下部電極層22に流れ込む。このように、外部電極2から下部電極層22に流れ込んだ電流は、並列化されて(二手に分かれて)、その一方が下面部20bにおいて下部電極層22に流れ込み、他方が上面部20aにおいて下部電極層22に流れ込む。
【0059】
上面部20aにおいて下部電極層22に流れ込んだ電流は、貫通孔11内に下向きに流れ込む一方、下面部20bにおいて下部電極層22に流れ込んだ電流は、貫通孔11内に上向きに流れ込む。このようにして上面部20aから貫通孔11内に下向きに流れ込んだ電流は、貫通孔11の深さ方向の中央付近で誘電体層21を介して上部電極層23に流れ込み、この上部電極層23内を上向きに流れて上面部20aまで戻ってくる。同様に、下面部20bから貫通孔11内に上向きに流れ込んだ電流は、貫通孔11の深さ方向の中央付近で誘電体層21を介して上部電極層23に流れ込み、この上部電極層23内を下向きに流れて下面部20bまで戻ってくる。
【0060】
このように、薄膜キャパシタ1において、貫通孔11内を流れる電流(正確には、MIM構造体20のうち貫通孔11内に設けられたトレンチ部20cを流れる電流)は、貫通孔11の深さ方向の中央付近で折り返されるので、貫通孔11内においては深さの半分に相当する距離を往復することになる。よって、薄膜キャパシタ1によれば、トレンチ311の深さに相当する距離を往復する従来のトレンチキャパシタ301と比べて、MIM構造体を流れる電流の電流経路が短縮される。より具体的には、薄膜キャパシタ1によれば、基材10の厚さ方向に流れる電流の電流経路が短縮される。
【0061】
薄膜キャパシタ1においては、外部電極2に供給された電流は、その下側電極部2bから接続電極部2cを通って上側電極部2aに流れるため、接続電極部2cの長さの分だけ電流経路が長くなる。しかし、この接続電極部2cの厚さT1は、下部電極層22の厚さt1及び上部電極層23の厚さt2よりも10倍以上大きいため、接続電極部2cを通る電流経路は、薄膜キャパシタ1全体のESRをほとんど増加させない。
【0062】
図2のように構成された薄膜キャパシタを流れる電流の電流ベクトルをシミュレーションにより確認した。その結果、貫通孔内において、上面10a及び下面10cから貫通孔の深さ方向の中心に向かう電流ベクトルと、これとは逆向きの中心から上面10a及び下面10bに向かう電流ベクトルと、が確認できた。これにより、薄膜キャパシタ1においては、貫通孔11内に上下から流れ込んだ後に当該貫通孔11の深さ方向の中央付近で折り返される電流の流れが生じることが確認できた。
【0063】
続いて、図4を参照して、別の実施形態による薄膜キャパシタ101について説明する。図4は、薄膜キャパシタ101のYZ断面の一部を拡大して模式的に示す断面図である。薄膜キャパシタ101は、外部電極2に代えて外部電極102を備え、外部電極3に代えて外部電極103を備える点、及び、引出電極2d,2e,3d,3eに代えて引出電極102d,102e,103b,103cを備える点で、薄膜キャパシタ1と異なっている。
【0064】
外部電極102は、板状の形状を有しており、基材10の左端面に設けられている。外部電極102は、その上端から基材10の内方(Y軸の正方向)に延伸する引出電極102bを介して、MIM構造体20の上面部20aにおいて下部電極層21に接続されている。また、外部電極102は、その下端から基材10の内方(Y軸の正方向)に延伸する引出電極102cを介して、MIM構造体20の下面部20bにおいて下部電極層21に接続されている。
【0065】
外部電極103は、板状の形状を有しており、基材10の右端面に設けられている。外部電極103は、その上端から基材10の内方(Y軸の負方向)に延伸する引出電極103bを介して、MIM構造体20の上面部20aにおいて上部電極層23に接続されている。また、外部電極103は、その下端から基材10の内方(Y軸の負方向)に延伸する引出電極103cを介して、MIM構造体20の下面部20bにおいて上部電極層23に接続されている。
【0066】
外部電極102及び外部電極103は、上側の保護層40の上面及び下側の保護層40の下面の少なくとも一方まで延伸するように構成される。これにより、薄膜キャパシタ101は、その上面または下面を実装面として回路基板に実装される。
【0067】
以下、上記の実施形態の作用効果について説明する。上記の一実施形態によれば、第1外部電極2からの電流は、基材10の上面10a側にある第1の部分20aと基材10の下面10b側にある第2の部分20bからMIM構造体20に流れ込む。つまり、第1外部電極2からの電流は、並列化されてMIM構造体20に流れ込み、この並列化された電流がMIM構造体20内を流れる。このように、第1外部電極2からの電流は、並列化されてMIM構造体20内を流れて第2外部電極3に到達するので、MIM構造体20におけるESRを低減することができる。
【0068】
上記の一実施形態によれば、MIM構造体20の第3の部分20cにおいては、貫通孔11の深さ方向両端から中心に向かい、当該中心付近で折り返されて中心から両端に向かう電流の流れが生じる。MIM構造体20の第3の部分20c内を中心に向かって流れる電流の経路長は貫通孔11の深さの半分程度であり、折り返された後に中心から基材10表面側に流れる電流の経路長も貫通孔11の深さの半分程度であるから、MIM構造体20の第3の部分20cを流れる電流の合計の経路長は、貫通孔11の深さと同程度となる。他方、従来のトレンチキャパシタにおいては、有底のトレンチ内を流れる電流の経路長は、トレンチの深さの2倍程度の長さである。したがって、上記の実施形態によれば、基材10の厚さ方向に流れる電流の経路長を、従来のトレンチキャパシタと比較して短縮することができる。これにより、薄膜キャパシタ1のESRを低減することができる。
【0069】
上記の一実施形態によれば、基材10の上面10aから下面10bまで貫通する貫通孔11にMIM構造体20が埋め込まれているので、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタよりも、MIM構造体20の表面積を大きくすることができる。これにより、上記の一実施形態による薄膜キャパシタ1によれば、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタよりも単位面積あたりの容量を増加させることができる。また、上記の一実施形態による薄膜キャパシタ1によれば、MIM構造体における誘電体層の厚さを厚くしても、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタと同程度の容量を発生させることができる。このため、上記の一実施形態によれば、絶縁信頼性に優れた薄膜キャパシタ1を得ることができる。さらに、上記の一実施形態によれば、基材10の厚さを薄くしても、有底のトレンチにMIM構造体が埋め込まれている従来のトレンチキャパシタと同程度の容量を発生させることができる。このため、上記の一実施形態によれば、低背化された薄膜キャパシタ1を得ることができる。
【0070】

上記の薄膜キャパシタ1を回路基板に搭載する場合、外部電極2の上側電極部2a又は下側電極部2bが当該回路基板のバンプと接合される。例えば、下側電極部2bが回路基板のバンプと接続される場合には、回路基板から下側電極部2bを介して外部電極2に流れ込んだ電流は、接続電極部2cを通って上側電極部2aに流れる。したがって、薄膜キャパシタ1においては、接続電極部2cの長さの分だけ電流経路が長くなっている。しかしながら、接続電極部2cの厚さを下部電極層22の厚さt1及び上部電極層23の厚さt2よりも厚くすることにより、接続電極部2cにおけるESRの増加が薄膜キャパシタ1の全経路でのESRに与える影響を抑制することができる。特に、接続電極部2cの厚さを下部電極層22の厚さt1及び/又は上部電極層23の厚さt2の厚さよりも10倍以上厚くすることにより、接続電極部2cにおける追加された電流経路が、MIM構造体20の全経路でのESRへ与える影響を大幅に低減できる。
【0071】
薄膜キャパシタ1においては、外部電極2が基材10の上面10aに設けられた上側電極部2a及び下面10aに設けられた下側電極部2bを備えており、外部電極3が基材10の上面10aに設けられた上側電極部3a及び下面10aに設けられた下側電極部3bを備えているため、上下を逆にしても回路基板に実装することができる。このように、薄膜キャパシタ1においては、実装工程において高い自由度が得られる。
【0072】
薄膜キャパシタ101においては、外部電極2及び外部電極3が保護層40の上面から上方に突出しておらず、また、保護層40の下面から下方に突出していない。このため、薄膜キャパシタ101は、より一層の低背化が可能となる。
【0073】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0074】
本明細書において、一の物体が他の物体の「上」、「上面」、「下」、又は「下面」に設けられると説明される場合には、当該一の物体は当該他の物体と直接接していても良く、別の層や膜を介して間接的に接していても良い。例えば、保護層40がMIM構造体20の上に設けられると説明される場合には、当該保護層40は、MIM構造体20の上に直接(MIM構造体に接するように)設けられても良いし、他の層(例えば、バリア層)を介してMIM構造体の上に間接的に設けられても良い。
【符号の説明】
【0075】
1,101 薄膜キャパシタ
2,3,102,103 外部電極
10 基材
11 貫通孔
20 MIM構造体
40 保護層
図1
図2
図3a
図3b
図4