(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】寝袋
(51)【国際特許分類】
A47G 9/08 20060101AFI20221018BHJP
A41D 13/02 20060101ALI20221018BHJP
A41D 15/04 20060101ALI20221018BHJP
B32B 15/14 20060101ALI20221018BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20221018BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
A47G9/08 B
A41D13/02
A41D15/04 E
B32B15/14
B32B15/20
B32B27/02
B32B27/32 Z
(21)【出願番号】P 2018173901
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2019-04-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】596144274
【氏名又は名称】旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】阪口 清弘
(72)【発明者】
【氏名】衣川 美佳
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】冨永 達朗
【審判官】佐々木 芳枝
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3055813(JP,U)
【文献】特開2017-144633(JP,A)
【文献】実開昭62-116971(JP,U)
【文献】特開2012-192547(JP,A)
【文献】特開2013-76184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 9/08
A41D 13/02
A41D 15/04
B32B 15/14
B32B 15/20
B32B 27/02
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃及び後身頃を備え、身体を出し入れするための開口部を有する袋状に形成されて成る寝袋であって、
前記前身頃及び前記後
身頃がそれぞれ、
高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートから構成されており、
前記高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートは、高密度ポリエチレン系不織布から成る単層のシート
であり、そして、
前記高密度ポリエチレン系不織布が、高密度ポリエチレンの極細連続長繊維から成る不織布である、
寝袋。
【請求項2】
前身頃及び後身頃を備え、身体を出し入れするための開口部を有する袋状に形成されて成る寝袋であって、
前記前身頃及び前記後
身頃がそれぞれ、
高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートから構成されており、
前記高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートは、
高密度ポリエチレン系不織布から成る層の片面
にコーティング領域を有する複合シート
であり、
前記コーティング領域では、前記高密度ポリエチレン系不織布を構成する各繊維の表面がアルミニウムで被覆されており、そして、
前記高密度ポリエチレン系不織布が、高密度ポリエチレンの極細連続長繊維から成る不織布であり、かつ、
前記
コーティング領域を有する側の面が、前記寝袋の内側になるように使用されている、
寝袋。
【請求項3】
前記高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートについて、ASTM D 1518に準拠して、測定温度20℃、相対湿度65%RHの条件下で測定された固有クロー値が、0.05clo以上である、請求項1
又は2に記載の寝袋。
【請求項4】
前記高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートについて、ASTM D 1518に準拠して、測定温度20℃、相対湿度65%RHの条件下で測定された固有クロー値を、前記高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートの厚みで割り付けた値が、0.1clo/mm以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の寝袋。
【請求項5】
更にフードを有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の寝袋。
【請求項6】
前記フードが、
高密度ポリエチレン系不織布から成る単層のシート、又は
高密度ポリエチレン系不織布から成る層の片面若しくは両面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シート
から構成されている、請求項
5に記載の寝袋。
【請求項7】
1着当たりの重量が200~2,000gである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の寝袋。
【請求項8】
1着当たりの重量が250~500gである、請求項
7に記載の寝袋。
【請求項9】
1着当たり1,000~10,000cm
3のサイズに折り畳み可能である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の寝袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寝袋に関する。
詳しくは、寒冷地で使用することができる保温性と快適な通気性とを有するとともに、自治体等が備蓄するために好適な小サイズに畳むことができる、寝袋に関する。
【背景技術】
【0002】
地震、大雨、洪水、津波、大規模火災等の災害時に、避難所等で使用する場合に備え、自治体、企業等では、寝具(特に寝袋タイプの寝具)の備蓄が行われている。
災害時には、都市ガス、電気等のライフラインの途絶が想定され得るため、特に寒冷地の備蓄寝具には十分な保温性が求められる。
一方で、少ないスペースにできるだけ多くの寝具を備蓄できるようにするため、備蓄用寝具のサイズはコンパクトであることを要する。
【0003】
特許文献1には、身頃部、袖部、及びフード部が互いに着脱可能に形成され、これら身頃部、袖部、及びフード部は、充填物を表地と裏地との間に介在させた多層構造を備える、防災用品が開示されている。該特許文献1には、この防災用品は、身頃部の裾部に袖部又はフード部が装着されることによって、寝袋として利用可能であると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-76184号公報
【文献】特許第4731560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
充填物を表地と裏地との間に介在させた多層構造は保温性に優れるから、このような多層構造を有する寝袋は、寒冷地の使用に適すると考えられる。
しかしながら、このような多層構造を採ると、必然的にシート1枚が厚くなり、収納時のサイズが嵩張ることになる。
本発明の目的は、寒冷地で使用することができる保温性を有するとともに、適度の通気性を有して着用時に快適であり、かつ、小さなサイズに畳んでコンパクトに収納することができる、寝袋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の概要は、以下のとおりである。
《態様1》
前身頃及び後身頃を備え、身体を出し入れするための開口部を有する袋状に形成されて成る寝袋であって、
前記前身頃及び前記後身頃がそれぞれ、高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートから構成されている、寝袋。
《態様2》
前記前身頃及び前記後身頃がそれぞれ、
高密度ポリエチレン系不織布から成る単層のシート、又は
高密度ポリエチレン系不織布から成る層の片面若しくは両面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シート
から構成されている、態様1に記載の寝袋。
《態様3》
更にフードを有する、態様1又は2に記載の寝袋。
《態様4》
前記フードが、
高密度ポリエチレン系不織布から成る単層のシート、又は
高密度ポリエチレン系不織布から成る層の片面若しくは両面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シート
から構成されている、態様3に記載の寝袋。
《態様5》
1着当たりの重量が200~2,000gである、態様1~4のいずれか一項に記載の寝袋。
《態様6》
1着当たりの重量が250~500gである、態様5に記載の寝袋。
《態様7》
一着当たり1,000~10,000cm3のサイズに折り畳み可能である、態様1~6のいずれか一項に記載の寝袋。
【発明の効果】
【0007】
本発明の寝袋は、高い保温性と適度の通気性とを有し、寒冷地の着用に好適であり、かつ、小さなサイズに畳んでコンパクトに収納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明における複合シートの構成を示す、概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の寝袋の構成を説明するための、概略平面図である。
【
図3】
図3は、実施例1で作製した寝袋の前面上部を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《寝袋》
本発明の寝袋は、
前身頃及び後身頃を備え、身体を出し入れするための開口部を有する袋状に形成されて成る寝袋であって、
前身頃及び後身頃がそれぞれ、高密度ポリエチレン系不織布から成る層を含むシートから構成されていることを特徴とする。
本発明の寝袋は、更にフードを有していてよい。
【0010】
〈前身頃、後身頃、及びフードの構成材料〉
本発明の寝袋は前身頃及び後身頃を備え、任意的に更にフードを有していてよい。
本発明の寝袋における前身頃及び後身頃は、それぞれ、高密度ポリエチレン系不織布(HDPE不織布)から成る層を含むシート(HDPE不織布シート)から構成されている。本発明の寝袋が任意的に有するフードは、HDPE不織布シートから構成されていてよい。
【0011】
(HDPE不織布シート)
寝袋の透湿性及び保温性は、HDPE不織布シートの面密度(目付)と深く関連するから、本発明におけるHDPE不織布シートとしては、適切な面密度を有するシートを採用することが好ましい。HDPE不織布シートの目付は、30g/m2~120g/m2であることが好ましく、40g/m2~100g/m2であることがより好ましく、50g/m2~80g/m2であることが更に好ましい。
HDPE不織布シートの厚さは、透湿性及び防水性を両立するとともに、寝袋としたときに、収納時に畳まれるとき、或いは寝具として使用するときの機械的強度を十分に高くするとの観点から、0.05mm~5.0mmであることが好ましく、0.1mm~3.0mmであることがより好ましく、0.15mm~1.0mmであることが更に好ましい。
【0012】
本発明の寝袋におけるHDPE不織布シートは、
高密度ポリエチレン系不織布(HDPE不織布)から成る単層のシート、又は
HDPE不織布から成る層の片面若しくは両面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シート
であることが好ましい。
本発明におけるHDPE不織布シートは、好ましくは充填物を有さない。
【0013】
-高密度ポリエチレン系不織布(HDPE不織布)-
HDPE不織布シートにおけるHDPE系不織布は、高密度ポリエチレンの極細連続長繊維(HDPE極細連続長繊維)から成る不織布が好ましい。HDPE極細連続長繊維不織布は、立体的な3次元構造を有するウェブから成り、繊維間に有意の間隙があるため適度の透湿性を有し、かつ、高密度ポリエチレンという素材に由来する強靭性を有し、更にフラットエンボス構造によって表面の平滑性にも優れることから、本発明の寝袋を構成するシートの素材として適している。
このHDPE極細連続長繊維不織布から成るシートは市販品として入手することも可能であり、例えば、旭・デュポン フラッシュスパンプロダクツ株式会社製の「タイベック(登録商標)」が好ましいものとして挙げられる。
【0014】
-複合シート-
複合シートは、HDPE不織布から成る層の片面又は両面の各繊維の表面にアルミニウム層を有するシートである。
「繊維の表面にアルミニウム層を有する」とは、HDPE不織布を構成する繊維(HDPE繊維、好ましくはHDPE極細連続長繊維)の表面が、アルミニウム層で被覆されていることを意味する。アルミニウム層の厚さは、15nm~150nmであることが好ましく、30nm~60nmであることがより好ましい。
【0015】
複合シートの片面又は両面では、HDPE繊維とアルミニウム層との間に中間有機樹脂層を有していてよく、アルミニウム層の外側に外側有機樹脂層を更に有していてよく、これら中間有機樹脂層及び外側有機樹脂層を重畳的に有していてよい。
中間有機樹脂層及び外側有機樹脂層を構成する材料は、(メタ)アクリル樹脂若しくはフッ素化(メタ)アクリル樹脂、又はこれらの共重合体若しくは混合物であることが好ましい。
中間有機樹脂層の厚さは、0.02μm~2.0μmであることが好ましく、0.02μm~1.0μmであることがより好ましく、0.02μm~0.6μmであることが更に好ましい。外側有機樹脂層の厚さは、0.2μm~2.5μmであることが好ましく、0.2μm~1.0μmであることがより好ましく、0.2μm~0.6μmが更に好ましい。
【0016】
複合シートの片面又は両面において、表面にアルミニウム層を有する繊維が存在する深さは、複合シートの表面から、該シートの厚さの1%以上30%以下までの範囲が好ましく、5%以上20%以下までの範囲がより好ましい。例えば、複合シートの厚さが0.18mmである場合、表面にアルミニウム層を有する繊維が存在する深さは、該複合シートの表面から深さ方向に、1.8μm~54μmの範囲を例示できる。
【0017】
図1に、本発明における複合シートの一例を説明するための概略断面図を示した。
図1の複合シート(50)は、HDPE繊維(31)から構成されるHDPE不織布シートの片面に、コーティング領域(20)を有する。この複合シート(50)は所定の厚さ(t)を有し、コーティング領域(20)は、HDPE不織布シートの片面の表面から所定のコーティング深さ(d)の範囲に存在している。コーティング領域(20)では、HDPE不織布シートを構成するHDPE繊維(31)の表面にアルミニウム層(32)及び外側有機樹脂層(33)がこの順に形成されている。
【0018】
複合シート(50)のうち、HDPE不織布シートの片面の表面から所定の深さ(d)よりも深いところは、非コーティング領域(10)であり、この領域では、HDPE繊維(31)の表面はコーティングされておらず、HDPE繊維(31)のまま存在している。
【0019】
このような構成の複合シートは、もとのHDPE不織布シートの繊維間の間隙が閉塞されていないから高い透湿性を維持しており、アルミニウム層による熱の反射効果を享受することができるから保温性に優れ、更に、外側有機樹脂層によってアルミニウム層が保護されているから長期保存及び繰り返し使用にも耐え得る。
したがって、この複合シートは、自治体等が備蓄する寝袋の材料として、極めて好適である。
このような複合シートは、例えば、特許文献2に記載の方法により、製造することができ、又は市販品を用いてもよい。本発明の寝袋に好適に適用される複合シートの市販品として、例えば、旭・デュポン フラッシュスパンプロダクツ(株)製のタイベックシルバー等を挙げることができる。
【0020】
〈寝袋の構成〉
本発明の寝袋は、前身頃及び後
身頃を備え、身体を出し入れするための開口部を有する袋状に形成されて成る。ここで、前身頃及び後
身頃を構成するHDPE不織布シートが、HDPE不織布から成る層の片面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シートである場合、アルミニウム層を有する繊維側の面が寝袋の内側(使用者の身体側)になるように使用されることが好ましい。
図2に、本発明の寝袋の実施形態の一例を、概略平面図として示した。
【0021】
図2の寝袋(100)は、前身頃(1)及び後
身頃(2)を有する。
前身頃(1)と後
身頃(2)とは、それぞれ、矩形であってよく、これらを袋状に形成するために、周端部が縫合又は接着されていてよい。ただし、使用者の頭部を突出させるための頭部突出口(4)については、前身頃(1)と後
身頃(2)とを縫合又は接着せずに開口させておいてよい。
図2の寝袋(100)では、前身頃(1)と後
身頃(2)とが、周端部のうちの頭部突出口(4)を除く部分が、縫合部(3)によって縫合されて、袋状に形成されている。
【0022】
前身頃(1)及び後身頃(2)の矩形の大きさは、通常想定される成人男子の体格を基準として設定されてよい。
前身頃(1)及び後身頃(2)の矩形の大きさは、縦方向の長さ(L)が、1,700mm以上、1,750mm以上、1,800mm以上、又は1,900mm以上であることが好ましく、2,500mm以下、2,200mm以下、又は2,000mm以下であることが好ましい。
前身頃(1)及び後身頃(2)の矩形の、横方向の長さ(W)は、600mm以上、700mm以上、又は800mm以上であることが好ましく、1,200mm以下、1,100mm以下、又は1,000mm以下であることが好ましい。
頭部突出口(4)の長さは、成人男子が首を突出できるように、150mm以上、180mm以上、又は200mm以上であることが好ましく、寝袋の保温性を損なわないように、300mm以下、270mm以下、250m以下、又は230mm以下であることが好ましい。
【0023】
身体を出し入れするための開口部(5)は、前身頃(1)の頭部突出口(4)から下方に向けて形成されていてよく、好ましくは頭部突出口(4)と連続した開口として形成される。
開口部の長さ(T)は、成人男子が身体の出し入れを楽に行い得るように、500mm以上、600mm以上、又は700mm以上であることが好ましく、保温性を高めるために防寒着、毛布等を着込んだ状態においても身体の出し入れを楽に行う観点からは、800mm以上、900mm以上、又は1,000mm以上であることが好ましい。一方で、寝袋の保温性を確保するためには、本発明所定のHDPE不織布シートの生地の連続性をできるだけ維持することが好ましく、この観点からは、開口部の長さ(T)は、1,500mm以下、1,400mm以下、1,300m以下、又は1,200mm以下であることが好ましい。
【0024】
開口部(5)には、使用者の身体を寝袋(100)内に収納した後、頭部突出口(4)よりも下方の開口を閉じて保温を図るためのファスナー(6)が装着されていてよい。このファスナー(6)は、エレメント(務歯(むし))の噛み合わせから暖気が漏れることを防ぐために、コンシールファスナーであるか、又はエレメント部分を覆う当て布を有するファスナーであることが好ましい。
図2の寝袋(100)では、ファスナー(6)を開口部の長さ(T)のほぼ全長を覆う当て布(7)が配置されている。
【0025】
本発明の寝袋は、更にフードを有してしてよい。
フードが、HDPE不織布から成る層の片面の各繊維の表面にアルミニウム層を有する複合シートから構成される場合、この複合シートは、アルミニウム層を有する繊維側の面が内側(使用者の頭部側)になるように使用されることが好ましい。
【0026】
図2の寝袋(100)は、フード(8)を有する。フード(8)は、使用者の後頭部を覆い、顔部で開口する形状を有している。フード(8)の後頭部にあたる部分は、後
身頃(2)の上部と連続している。フード(8)は後
身頃(2)と一体に形成されていてよく、又はフード(8)の後下端部と後
身頃(2)の上端部とが縫合若しくは接着されていてよい。また、フード(8)は、使用者の前首部を覆う部分を有していてもよく、この部分の下端部は、例えば、前身頃(1)の上端部と縫合又は接着されていてよい。
フード(8)の大きさは、成人男子の頭部を楽に収納し、かつ、保温のために使用者の頭部とフードの生地との間の隙間を小さくする観点から、前身頃(1)及び後
身頃(2)の矩形から上方に突出する部分の長さ(フードの長さ(F))として、250mm以上、260mm以上、270mm以上、又は280mm以上であることが好ましく、350mm以下、340m以下、330mm以下、又は320m以下であることが好ましい。
【0027】
本発明の寝袋についての上記の各部のサイズは、いずれも、通常想定される成人男子の体格を基準として設定された普通サイズの寝袋の推奨範囲である。ほとんどの成人男子及び成人女子は、この普通サイズの寝袋を快適に使用することができる。しかしながら、身体の小さい使用者、特に、小柄な女性及び子供にとっては、普通サイズの寝袋では大きすぎて、快適に使用できない場合があり得る。そのような場合のために、普通サイズの7~9割程度の大きさの寝袋を別途用意して、普通サイズの寝袋とともに備蓄しておくことも、本発明の寝袋の適用範囲に含まれる。
【0028】
本発明の寝袋の形状は、上記に説明した例に限定されず、寝袋として使用可能なあらゆる形状であってよく、例えば、マミー型、封筒型、エッグ型、人型等、及びこれらの混合型等であってよい。本発明の寝袋を例えば寒冷地の備蓄用に適用する場合には、使用時の保温性に優れ、及び収納時のサイズがコンパクトであることから、マミー型の寝袋が好ましい。
【0029】
〈寝袋の物性〉
本発明の寝袋は、薄いシートから構成されており、コンパクトに畳むことができるとともに、実用的な高い保温性を有する。
本発明の寝袋を構成するHDPE不織布シートの保温性は、ASTM D 1518に準拠して、測定温度20℃、相対湿度65%RHの条件下で測定された固有クロー値として、例えば、0.05clo以上とすることができ、好ましくは0.10clo以上、0.20clo以上、又は0.25clo以上とすることができる。
更に、HDPE不織布シートと毛布とを組み合わせて用いた場合には、クロー値を、0.5clo以上、0.7clo以上、0.8clo以上、0.9clo以上、又は1.0clo以上とすることができる。
【0030】
本発明の寝袋を構成するHDPE不織布シートの、厚み当たりの保温性(上記のクロー値をシートの厚みで割り付けた値)は、例えば、0.1clo/mm以上とすることができ、好ましくは0.5clo/mm以上、1.0clo/mm以上、1.2clo/mm以上、又は1.5clo/mm以上とすることができる。HDPE不織布シートと毛布とを組み合わせて用いた場合には、厚み当たりの保温性は、0.5clo/mm以上、0.6clo/mm以上、0.7clo/mm以上、又は0.8clo/mm以上とすることができる。
後述の実施例(比較例)において、市販の寒冷地用寝袋を構成する生地について測定した厚み当たりの保温性は、0.04clo/mmであったことから、本発明の寝袋を構成するHDPE不織布シートは、厚み当たりの保温性に著しく優れていることが定量的に理解される。
【0031】
上記のクロー値とは、被服の保温性の指標であり、気温21.2℃、相対湿度50%、風速10cm/秒の大気中で、椅子に腰かけて安静にしている成人男子が平均皮膚温33℃の快適な状態を継続し得る保温性が1クロー(clo)と定義されている。クロー値をシートの厚みで割り付けた値(clo/mm)は、当該寝袋を構成するHDPE不織布シートの熱抵抗を示す指標である。
【0032】
本発明の寝袋の実用的な保温性は、例えば、サーマルマネキン試験によって見積もることができる。サーマルマネキン試験は、具体的には後述の実施例に記載の方法によって行うことができる。
本発明の寝袋について、市販のサーマルマネキン(例えばMeasurement Technology Northwest社製、Simon Manikin)を用いて3℃の恒温室内で測定した保温性(クロー値)は、例えば2.0clo以上とすることができ、好ましくは2.3clo以上、2.5clo以上、2.6clo以上、又は2.7clo以上とすることができる。
更に、本発明の寝袋と毛布とを組み合わせて用いた場合には、サーマルマネキン試験によって見積もられるクロー値を、3.0clo以上、3.5clo以上、4.0clo以上、4.3clo以上、又は4.5clo以上とすることができる。
【0033】
本発明の寝袋について、サーマルマネキン試験によって見積もられる、厚み当たりの保温性(上記のクロー値を、当該寝袋を構成するシートの厚みで割り付けた値)は、例えば、2.0clo/mm以上又は2.5clo/mm以上とすることができ、好ましくは5.0clo/mm以上、7.5clo/mm以上、10.0clo/mm以上、12.5clo/mm以上、又は15.0clo/mm以上とすることができる。本発明の寝袋と毛布とを組み合わせて用いた場合には、厚み当たりの保温性は、3.0clo/mm以上、3.2clo/mm以上、3.3clo/mm以上、3.4clo/mm以上、又は3.5clo/mm以上とすることができる。
後述の実施例(比較例)において、市販の寒冷地用寝袋について、サーマルマネキン試験によって見積もられた厚み当たりの保温性は、0.09~0.1clo/mm程度であったことから、本発明の寝袋は、厚み当たりの実用的な保温性に著しく優れていることが定量的に理解される。
【0034】
本発明の寝袋は、軽量であり、コンパクトに折り畳めるので、備蓄用の寝袋として好適である。
本発明の寝袋は、1着当たりの重量を、例えば200~2,000gとすることができ、好ましくは210~1,500g、220~1,000g、230~800g、240~600g、又は250~500gとすることができる。
本発明の寝袋は、一着当たり、例えば1,000~10,000cm3、好ましくは、1,200~8,000cm3、1,400~6,000cm3、1,600~5,000cm3、1,800~4,000cm3、又は2,000~3,000cm3のサイズに折り畳むことが可能である。
【実施例】
【0035】
《試験方法》
以下の実施例及び比較例における各種の試験は、それぞれ、以下のように行った。
【0036】
(1)布帛試験
(1-1)透湿性試験
シートの透湿性は、JIS L 1099のA-1法(塩化カルシウム法)に準拠して測定した。
【0037】
(1-2)保温性試験
シートの保温性は、ASTM D 1518に準拠して、測定温度20℃、相対湿度65%RHの条件下で測定された放熱量(W/(m2・℃))から、下記数式によって算出される固有クロー値を、保温性の指標として用いた。
固有クロー値(clo)=トータルクロー値(clo)-空気層のクロー値(clo)
トータルクロー値(clo)=6.461/試料の放熱量(W/(m2・℃))
空気層のクロー値(clo)=6.461/ブランクの放熱量(W/(m2・℃))
【0038】
(2)サーマルマネキン試験
各シートを用いて、
図2に示した形状の寝袋を作製した。この寝袋の各部のサイズは、以下のとおりとした。
縦方向の長さ(L): 1,910mm
横方向の長さ(W):960mm
開口部の長さ(T):1,100mm
フードの縦方向の長さ(F):300mm
【0039】
得られた寝袋を、サーマルマネキン(Measurement Technology Northwest社製、Simon Manikin)に装着させた。温度を3℃に設定した恒温室内で、寝袋を装着させたマネキンを、パイプベッド上に厚み12mmの合板を設置した上に寝かせて、0.5時間静置した。0.5時間後にマネキン表面温度及び環境温度を測定し、クロー値を算出した。得られたクロー値、及びこのクロー値をシートの厚みで割り付けた値を、それぞれ、表1に示した。
サーマルマネキン試験は、マネキンにスウェットスーツ上下を着用させた状態で行った。
【0040】
《実施例1》
実施例1では、デュポン社製、タイベックシルバー3563M(高密度ポリエチレン不織布シートの片面の各繊維の表面に、アルミニウム層と、外側有機樹脂層としてのアクリル樹脂層とをこの順にコーティングしたもの)のシートを用い、布帛としての透湿性及び保温性を調べる布帛試験、並びに寝袋としたときの保温性を調べるサーマルマネキン試験を行った。
布帛試験の透湿性試験においてシートを透湿カップに載せる際には、アルミニウム層及びフッ素樹脂層のコーティング面を透湿カップ側に向けた。保温性試験では、コーティング面を熱板側とした。
サーマルマネキン試験の際の寝袋は、タイベックシルバー3563Mシートのコーティング面を内側にして作製した。実施例1で作製した寝袋につき、開口部を開いた状態で撮影した前面上部の写真を、
図3に示した。
試験結果は表1に示した。
【0041】
《実施例2》
実施例2では、実施例1で用いたタイベックシルバー3563Mと、市販の毛布(ポリエステル製、目付254g/m2、寸法140cm×190cm)とを組み合わせて用いて試験を行った。
布帛試験の保温性試験では、熱板上に毛布を設置し、その上にタイベックシルバー3563Mを、アルミニウム層及びフッ素樹脂層のコーティング面が毛布に接するように設置して試験を行った。
サーマルマネキン試験では、マネキンに、毛布を前後から挟むように着用させたうえで寝袋を装着させて、実施例1と同様に試験を行った。
試験結果は表1に示した。
【0042】
《実施例3》
実施例3では、デュポン社製、タイベック1569B(高密度ポリエチレン不織布)のシートを用いて布帛試験を行った。
試験結果は表1に示した。
【0043】
《比較例1》
比較例1では、実施例2で用いたのと同じ毛布を用いてサーマルマネキン試験を行った。このサーマルマネキン試験は、マネキンに、毛布を前後から挟むように着用させた状態で行った。
試験結果は表1に示した。
【0044】
《比較例2》
比較例2では、市販の寒冷地仕様の寝袋を用いて試験を行った。
布帛試験の保温性試験では、寝袋の背側の布地を裁断して試料とし、身体側となる方の面を熱板側に向けて設置して、試験を行った。
サーマルマネキン試験では、この寝袋をサーマルマネキンに装着させて試験を行った。
試験結果は表1に示した。
【0045】
【0046】
【0047】
表1中のシートの素材欄の略称は、それぞれ以下の意味である。
3563M:デュポン社製、タイベックシルバー3563M、高密度ポリエチレン不織布シートの片面の各繊維の表面に、アルミニウム及びフッ素樹脂をこの順にコーティングしたシート
1569B:デュポン社製、タイベック1569B、高密度ポリエチレン不織布シート
毛布:市販品、ポリエステル製、目付254g/m2、寸法140cm×190cm
【0048】
サーマルマネキン試験において、比較例1の毛布は3.3cloのクロー値を示し、概ね10℃以上の環境下で快適な寝具であると考えられる。比較例2の寒冷地仕様寝袋は、のクロー値は5.0cloであり、気温0℃の環境下で快適な寝具であると考えられる。
しかし、これらの毛布及び寝袋は生地が厚く、特に比較例2の寒冷地仕様寝袋は充填物を含む多層構造の生地によって構成されている。そのため、生地厚み当たりのクロー値は、比較例1では3.3clo/mm、比較例2ではわずか0.1clo/mm程度であった。
更に、これらを収納するときのサイズ、及び重量は、毛布が12,300cm3及び1,350g、寒冷地仕様寝袋が96,100cm3及び4,030gであり、いずれも備蓄用品としてのコンパクトさに欠けている。
【0049】
一方、高密度ポリエチレン不織布シートの片面の各繊維の表面にアルミニウム及びフッ素樹脂をコーティングしたタイベックシルバー3563Mを用いた実施例1の寝袋は、厚み0.18mmの薄い生地を用いているにもかかわらず、サーマルマネキン試験において2.8cloのクロー値を示し、概ね毛布に匹敵する保温性を有することが確認された。この寝袋の生地厚み当たりのクロー値は、15.7clo/mmと非常に大きな値を示した。この実施例1の寝袋と毛布とを併用した実施例2では、サーマルマネキン試験において4.6cloのクロー値を示し、寒冷地仕様寝袋に匹敵する保温性が確認された。
【0050】
また、実施例1で用いた生地は、布帛試験の結果、適度の透湿性を示し、夏季でも快適に使用できることが示唆された。
【0051】
高密度ポリエチレン不織布シートを用いた実施例3でも、布帛試験の結果、適度の透湿性及び保温性を有することが確認された。実施例3の高密度ポリエチレン不織布シートは、生地厚み当たりのクロー値は0.6(clo/mm、布帛試験)と、比較例2の寝袋生地と比較して顕著に大きかった。
【0052】
《実施例4》
実施例4では、本発明の寝袋と毛布とを組み合わせて用い、実施例2のサーマルマネキン試験と同様に装着した状態で、屋外に駐車した車内で一定時間を過ごすフィールド試験を行った。
試験は、2018年3月の北海道にて、屋外に停め、エンジンを切って暖房を止めた乗用車2台の中で、それぞれ、成人男子の被験者が本発明の寝袋を着用して、午前5時から午前8時までの3時間を過ごし、その間の寝袋内の温度を継続的に記録する方法によって行われた。試験開始時(午前5時)及び終了時(午前8時)の外気温及び車内温度は、それぞれ、表2のとおりであった。
【0053】
【0054】
どちらの車でも、寝袋内の、被験者の腹側の毛布内側温度は試験中継続して25℃付近を維持し、本発明の寝袋が寒冷地の実用において十分な保温性を有することが検証された。
【符号の説明】
【0055】
1 前身頃
2 後身頃
3 縫合部
4 頭部突出口
5 開口部
6 ファスナー
7 当て布
8 フード
10 非コーティング領域
20 コーティング領域
31 HDPE繊維
32 アルミニウム層
33 外側有機樹脂層
50 複合シート
100 寝袋
F フードの長さ
L 縦方向の長さ
T 開口部の長さ
W 横方向の長さ
d コーティング深さ
t 複合シートの厚み