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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-17
(45)【発行日】2022-10-25
(54)【発明の名称】五角形ベルト及びそれを用いた伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/20 20060101AFI20221018BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20221018BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20221018BHJP
【FI】
F16G5/20 C
F16G5/06 A
F16H7/02 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018190734
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2019124347
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017204277
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018009881
(32)【優先日】2018-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】中川 康一
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実公昭42-019692(JP,Y1)
【文献】特開昭53-032257(JP,A)
【文献】実開昭54-031768(JP,U)
【文献】実公昭38-010824(JP,Y1)
【文献】特開2001-310951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
F16G 5/06
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体と、前記ベルト本体の中央に配置された一本の芯体とを備えてなり、前記ベルト本体の五側面が伝達面に形成され、
前記伝達面は、初期のベルト角度差36°を形成する二側面の五つの組み合わせから形成される五角形ベルト。
【請求項2】
前記芯体は、一本の心線をベルト長手方向に幾重にも巻き付け、その外周を縛り込んで形成される請求項1に記載の五角形ベルト。
【請求項3】
前記五角形ベルトの伝達面の上幅Wを標準Vベルトの上幅と略合わせ、前記五角形ベルトの伝達面の高さThを標準Vベルトの高さより薄くした請求項1又は2に記載の五角形ベルト。
【請求項4】
第1プーリと、プーリ平面が90°傾いている第2プーリと、前記第1プーリと前記第2プーリに巻き掛けられ、ベルト長手方向に直交する断面が五角形に形成された五角形ベルトとからなり、前記五角形ベルトのねじれは18°であって、
前記五角形ベルトは、ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体と、前記ベルト本体の中央に配置された一本の芯体とを備えてなり、前記ベルト本体の五側面が伝達面に形成され、
前記伝達面は、初期のベルト角度差36°を形成する二側面の五つの組み合わせから形成されることを特徴とする、前記五角形ベルトを用いた伝達装置。
【請求項5】
第1プーリと、プーリ平面が傾いている第2プーリと、前記第1プーリと前記第2プーリに巻き掛けられ、ベルト長手方向に直交する断面が五角形に形成された五角形ベルトとからなり、前記五角形ベルトの、前記第1プーリに掛けられる伝達面と前記第2プーリに掛けられる伝達面が異なることにより、前記五角形ベルトのねじれはプーリ平面の傾き角よりも小さくなり、
前記五角形ベルトは、ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体と、前記ベルト本体の中央に配置された一本の芯体とを備えてなり、前記ベルト本体の五側面が伝達面に形成され、
前記伝達面は、初期のベルト角度差36°を形成する二側面の五つの組み合わせから形成されることを特徴とする、前記五角形ベルトを用いた伝達装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全長にわたり芯線を1本、中央に配置したエンドレスの五角形ベルト及びそれを用いた伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインに代表される多機能な作業を行う農業機械では、駆動軸から複数の従動軸へ1本のベルトで動力を伝達している。コンパクトなレイアウトの都合でプーリの平面の向きを90°傾ける場合もあり、その場合はベルトも同様に90°ひねり走行させている。
【0003】
このひねり走行に用いられるベルトとしては、Vベルト(例えば特許文献1参照)または六角ベルト(例えば特許文献2参照)が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-36829号公報
【文献】特開2016-200231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
駆動軸から複数の従動軸へ1本のベルトで動力を伝達する場合、コンパクトなレイアウトではベルトのひねりが頻発する。ひねり走行下では、高い伝動能力を得るために高張力で用いられる。その結果、プーリ内へ落ち込み大きな変形(座屈変形)が生じ、特許文献1のようなラップドVベルトでは、その内部にせん断応力が発生する。特に、力学特性に差がある界面にせん断応力が集中しやすく界面剥離が生じる。
【0006】
特許文献2のようにVベルトを背面で合わせたような六角ベルトは、ベルト腹部と背部の両方で駆動できるベルトである。多軸伝動に最適であるが、ねじり伝達の場合はVベルトと同様にねじる必要がある。但し六角ベルトは、Vベルトより厚いため、ねじれには不向きである。
【0007】
そこで、本発明は、ねじり伝達に適した五角形ベルト及びそれを用いた伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1観点によると、ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体と、前記ベルト本体の中央に配置された一本の芯体とを備えてなり、前記ベルト本体の五側面が伝達面に形成された、五角形ベルトが提供される。
【0009】
本発明の第1観点によれば、五角形に形成されたベルト本体の中央に配置された一本の芯体により、どのV側面からみても芯体の位置が同じになり、ベルト本体の五側面の全部を伝達面とすることができる。
そして、伝達しようとする次のプーリの平面が傾いている場合、五角形ベルトの伝達面の組み合わせを変えることにより、少ないねじりで伝達が可能になる。それにより、ねじりに起因する、ベルトの飛び出しや転覆を抑え、発熱や疲労を抑えることができる。
【0010】
前記伝達面は、初期のベルト角度差36°を形成する二側面の五つの組み合わせから形成されるものが好ましい。これによれば、二側面の五つの組み合わせが、寸法的に均等になり、どの組み合わせであっても均等な伝達が可能になる。
【0011】
前記芯体は、一本の心線をベルト長手方向に幾重にも巻き付け、その外周を縛り込んで形成されるものが好ましい。これによれば、芯体の断面が略円形になるので、中央に配置された芯体は、伝達面からみて均等に配置される。
【0012】
前記五角形ベルトの伝達面の上幅Wを標準Vベルトの上幅と略合わせ、前記五角形ベルトの伝達面の高さThを標準Vベルトの高さより薄くしたものが好ましい。これによれば、五角形ベルトは、二側面の伝達面の上に三角断面が載る形状であるため、上幅Wの変量が小さくなる。さらに、厚みがある五角形ベルトは、高さThを薄くすることができ、標準Vベルト並の屈曲性が得られる。
【0013】
本発明の第2観点によると、第1プーリと、プーリ平面が90°傾いている第2プーリと、前記第1プーリと前記第2プーリに巻き掛けられ、ベルト長手方向に直交する断面が五角形に形成された五角形ベルトとからなり、前記五角形ベルトのねじれは18°である、五角形ベルトを用いた伝達装置が提供される。
【0014】
本発明の第2観点によれば、プーリ平面が90°傾いている場合でも、五角形ベルトのねじれは18°で伝達できるので、ねじりによるベルト飛び出しやベルト転覆のおそれが小さくなる。また、ねじれの少ない五角形ベルトは、発熱や疲労を招きにくく、耐久性に優れる。
【0015】
前記伝達装置は、第1プーリと、プーリ平面が傾いている第2プーリと、前記第1プーリと前記第2プーリに巻き掛けられ、ベルト長手方向に直交する断面が五角形に形成された五角形ベルトとからなり、前記五角形ベルトの、前記第1プーリに掛けられる伝達面と前記第2プーリに掛けられる伝達面が異なることにより、前記五角形ベルトのねじれはプーリ平面の傾き角よりも小さくなる、五角形ベルトを用いた伝達装置であってもよい。
【0016】
これによれば、プーリ平面が傾いている場合でも、五角形ベルトの、2つのプーリに巻き掛ける面を異ならせ、伝達面を変更することで、五角形ベルトのねじれをプーリ平面の傾き角よりも小さくすることができる。これにより、多様なねじれに対しても、ねじりによるベルト飛び出しやベルト転覆のおそれが小さくなる。また、ねじれの少ない五角形ベルトは、発熱や疲労を招きにくく、耐久性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
伝達しようとする次のプーリの平面が傾いている場合、五角形ベルトの伝達面の組み合わせを変えることにより、少ないねじりで伝達が可能になる。それにより、ねじりに起因する、ベルトの飛び出しや転覆を抑え、発熱や疲労を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の五角形ベルトを示す、ベルト長手方向と直交する断面図である。
図2】本発明の五角形ベルトの製造工程を示す図である。
図3】本発明の五角形ベルトの製造工程に用いられるプレス金型を示す模式図である。
図4】本発明の五角形ベルトを用いた伝達装置を示す図である。
図5】本発明の五角形ベルトを用いた伝達装置の作動を示す図である。
図6】標準Vベルトの寸法・形状を示す図である。
図7】標準Vベルトに対応する五角形ベルトの寸法・形状を示す図である。
図8】標準VベルトA形と五角形ベルトの寸法・形状の対比を示す図である。
図9】標準VベルトB形と五角形ベルトの寸法・形状の対比を示す図である。
図10】走行試験機のレイアウト、試験に供する五角形ベルト及び試験に供する標準Vベルトを示す図である。
図11】他の例に係る、走行試験のレイアウト、試験に供する五角形ベルト及び試験に供する標準Vベルトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1を参照して、本発明の実施形態に係わる五角形ベルトを説明する。図1(a)は、五角形ベルトの断面図であり、図1(b)は、芯体の断面図であり、図1(c)は、伝達できるV側面の五つの組み合わせを示す図である。
【0020】
五角形ベルト100は、図1(a)に示すように、ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体10と、ベルト本体10の中央に配置された一本の芯体11と、ベルト本体10の断面の周囲を被覆する外被布12とを備えてなる。
【0021】
ベルト本体10は、断面が五角形に成形された圧縮ゴム層により形成される。外被布12で被覆された五つの側面は、伝達面A,B,C,D,Eを形成する。
五角形断面は、正五角形であるものが好ましい。正五角形断面の場合、伝達面A,B,C,D,Eの長さLは、同じ長さになり、均等な伝達面とすることができる。例えば、伝達面Aと伝達面Dとの組み合わせ1は、ベルト角度36°の伝達可能なV側面を形成する。それに対して標準的なVベルトの場合、ベルト角度は40°となる。
このような伝達可能なV側面は、図1(C)に示すように、伝達面Aと伝達面Dとの組み合わせ1のほか、伝達面Bと伝達面Eとの組み合わせ2、伝達面Cと伝達面Eとの組み合わせ3、伝達面Dと伝達面Bとの組み合わせ4、伝達面Aと伝達面Cとの組み合わせ5の五つの組み合わせがある。この五つの組み合わせのベルト角度は、いずれも36°で成形される。
【0022】
伝達面Aと伝達面Dとの組み合わせ1に着目すると、上幅Wで、厚みThのV断面の上に三角断面が載る形状となっている。この形状は、五角形ベルト100の特徴であり、他の組み合わせ2~5でも同じ形状である。
【0023】
ベルト本体10を形成する圧縮ゴム層は、ゴム組成物で構成される。
ゴム組成物を構成するゴム成分は、加硫又は架橋可能なゴムであって、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム等のジエン系ゴム、エチレン-α-オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素化ゴム等であり、これらの1種又は2種以上を組み合わせたものであってよい。また、ゴム組成物には、必要に応じて、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム等)、増強剤(カーボンブラック、含水シリカ等の酸化ケイ素等)、短繊維、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル等のオイル類等)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン等)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤等)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤等)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、帯電防止剤等を配合してよい。なお、金属酸化物は架橋剤として配合してもよい。
【0024】
芯体11は、ベルト長手方向に延在し、且つ、五角形断面のベルト本体10の中央に配置された、エンドレスの一本の芯体で形成されている。芯体11の断面は、図1(b)に示すように、円形であるものが好ましい。V側面の組み合わせ1~5のいずれからみても同じ配置になるからである。
【0025】
このような芯体11は、一本の心線15をベルト長手方向に幾重にも巻き付けて束ね、束ねられたものの外周をバンド材16で縛り込んで形成されるものが好ましい。束ねることにより、自ずと円形断面の均等なものが形成される。バンド材16は、ベルト長手方向の全長又は部分的に設けられるものであればよい。また、心線15のエンドレス処理は行わなくてもよい。
【0026】
芯体11の大きさは、図1(a)に示されるように、五角形のベルト本体10の星形(点線表示)内の小さな五角形内に収まる程度であるものが好ましい。どのV側面の組み合わせであっても、芯体11をV断面内の所定位置に収めることができる。
ただし、図1(a)の芯体11は、最大径の太いものを表示しており、これより小さい芯体11であってもよい。どのV断面からみても同じ所定位置にあるように、ベルト本体10の中央(同心円状)に芯体11が配置されておればよく、その太さは抗張力という観点から決まるべきものである。
【0027】
芯体11を構成する心線15は、例えば、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレート等のC2-4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維等)、アラミド繊維等の合成繊維、炭素繊維等の無機繊維からなり、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(諸撚り、片撚り、ランク撚り等)である。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば、2000~10000デニール(好ましくは4000~8000デニール)である。心線15の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5~3mm(好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm)である。
【0028】
バンド材16は、心線15と同じ素材によるテープが好ましくは用いられる。
【0029】
外被布12は、必要に応じて用いられる。五角形ベルト100を、ラップドVベルトの代用として用いる場合、外被布12が用いられる。五角形ベルト100を、ローエッジVベルトの代用として用いる場合、外被布12は用いられない。
【0030】
外被布12は、例えば、ポリエステル、ポリアミド、アラミド、ビニロン等の合成繊維、綿等の天然繊維、又は、これらの混紡糸の繊維からなり、コスト、汎用性及び強度の点では、綿とポリエステルの混紡糸の繊維からなることが好ましい。
また、外被布12を構成する織布は、RFL水溶液に浸漬した後に加熱し、織布表面にRFLの被膜を形成させる接着処理、及び/又は、ゴム糊に浸漬した後に乾燥させ、ゴム糊の被膜を形成させる接着処理を施したもので構成されていてもよい。
【0031】
次いで、図2及び図3を参照して、五角形ベルトの製造方法を以下に説明する。製造工程は、未加硫ゴムベルト成形工程、スカイブ工程、カバーリング工程、加硫工程を含む。
【0032】
未加硫ゴムベルトの成形工程は、芯体の成形工程と、四角形ゴムベルトの成形工程とをさらに含む。
まず、芯体の成形工程では、一本の心線をベルト長手方向に幾重にも巻き付け、その外周を縛り込んで一本のエンドレスな芯体を形成する。この芯体が中心に位置するように、例えば、上下二つ割りの未加硫ゴムを挟み込み、図2(a)に図示されるように、断面が四角形であってその中央に芯体を配置した未加硫ゴムベルトを成形する。
【0033】
スカイブ工程では、図2(b)に示されるように、四隅を切削し、図2(c)に示されるように、八角形の未加硫ゴムベルトとする。このとき、四隅の切削量を加減して後述するプレス金型で五角形の中央に芯体が位置する形状を確保する。
【0034】
カバーリング工程では、図2(d)に示されるように、八角形の未加硫ゴムベルトの外周に布帛を例えばらせん状に巻き付けて被覆する。なお、外被布を使用しない場合、このカバーリング工程は省略される。
【0035】
加硫工程では、例えば、図3に示すプレス金型21が用いられる。このプレス金型21は、長方形のプレス下型22と、長方形のプレス上型23とからなる。プレス下型22には、ベルト本体のV断面に相当する溝25が設けられている。プレス上型23には、ベルト本体の三角断面に相当する溝26が設けられている。長尺のベルトの場合、このプレス金型21にベルトを周方向に順に送りながら、部分的な加硫を繰り返して、最終的にエンドレスな長尺ベルトを加硫成形する。この加硫成形を繰り返す方法は、加硫時間が掛かることから、通常は複数列並べて同時に加硫成形を行う。図3の例では、三列同時に加硫成形する場合を示す。なお、ベルト長さが短い場合は、リング状の金型にベルト全体を嵌め込んで加硫成形することもできる。
このようなプレス金型21を用いることにより、図2(e)のように、五角形断面のベルト本体の中央に、一本の芯体を配置した加硫ベルトを得ることができる。
【0036】
このような製法により、正五角形のベルト本体の中心に芯体が配置され、五面が伝達可能な五角形ベルトを確実に製造することができる。
【0037】
以上説明した、一本のベルトで五面が伝達可能な五角形ベルトならば、僅かなねじれ角度で要求を満たすベルトとして多用が可能になる。
例えば、コンパクト化に伴い、プーリの平面の向きを90°傾ける場合は、Vベルトも同様に90°ねじられる。ただし、五面が伝達可能な五角形ベルトならば、18°のねじれで済む。
また、プーリ平面の傾きが90°以外の場合においても、Vベルトはプーリ平面の傾き角と同じ角度ねじる必要があるのに対し、五角形ベルトならば、そのねじれをプーリ平面の傾き角よりも小さくできる。
これにより、コンパクト化に伴うねじれ条件下でも張力を上げることなく十分に伝達が可能となる五角形ベルトを提供できる。また、ねじれによる応力の負担を低減することが可能な五角形ベルトを提供できる。また、ねじれによる変形発熱を抑えて、発熱によるゴムの硬化に原因する耐久性の劣化を防ぐことが可能な五角形ベルトを提供できる。
【0038】
ただし、標準のVベルトのV角度は40°であるのに対して、五角形ベルトのそれは36°になる。
しかし、ベルトはプーリで曲がると角度が狭くなる。V断面の上幅に三角断面が載るという、五角形ベルトの形状の特徴から、プーリ挿入時にベルト外周側の幅(=上幅W)の変量は小さくなる。よってベルト角度の変量も小さくなる。すなわち初期のベルト角度差(40°と36°)は縮まる傾向になる。
【0039】
以上の特徴を備えた五角形ベルト100を用いた、伝達装置200の構成と作動を、図4及び図5により説明する。
【0040】
図4に示すように、伝達装置200は、第1プーリ31と、第2プーリ32と、五角形ベルト100とを備えて構成される。
【0041】
第1プーリ31は、水平軸を有し、直角伝動に適した駆動プーリである。第2プーリ32は、垂直軸を有し、水平伝動に適した従動プーリである。すなわち、第1プーリ31のプーリ平面と、第2プーリ32のプーリ平面とは、90°傾いている。
五角形ベルト100は、これら第1プーリ31と第2プーリ32との間に巻き掛けられる。すなわち、図示のように、五角形ベルト100は、ねじられた状態で動力を伝達する。また、五角形ベルト100は、ベルト長手方向と直交する断面が五角形に形成されたベルト本体と、ベルト本体の中央に配置された一本の芯体とを備え、ベルト本体の五側面が伝達面に形成されたものである。
【0042】
つぎに、図5に示すように、伝達装置200の作動を、標準Vベルトを用いた場合と対比して説明する。図5(a)は、プーリ平面が90°傾いた状態を示し、図5(b)は、標準Vベルトのねじれ状態とプーリでの屈曲状態を示し、図5(c)は、五角形ベルトのねじれ状態とプーリでの屈曲状態を示す。
【0043】
図5(b)に示すように、標準Vベルトの場合、点線で示されるベルトの伝達面は、90°ねじられ、伝達面は変わらない。標準Vベルトの芯体の位置も90°ねじられ、プーリに対する芯体の位置も変わらない。
それに対して、図5(c)に示すように、五角形ベルト100の場合、点線で示される伝達面は、伝達面A,Dの組み合わせ1から伝達面B,Eの組み合わせ2へと隣り合う組み合わせへと変わる。そのため、五角形ベルト100のねじりは、ベルトV角度36°の半分の18°ですむ。一方、ベルト本体の中央に配置された一本の芯体は、ねじりの程度に関係なく、プーリに対する芯体の位置は一定に保たれる。
【0044】
以上説明したように、プーリ平面が90°傾いている場合でも、五角形ベルトのねじれは18°で伝達できるので、ねじりによるベルト飛び出しやベルト転覆のおそれが小さくなる。また、ねじれの少ない五角形ベルトは、発熱や疲労を招きにくく、耐久性に優れることが判る。
【0045】
[シミュレーション]
つぎに、標準Vベルトに近似する五角形ベルトが得られるかどうかのシミュレーションを行った結果を以下に説明する。
【0046】
標準Vベルトは、JIS-6323-2008に準拠するものである。なかでも汎用的なA形及びB形を採り上げ、その主要な諸元を図6に示す。図6(a)は、Vベルト断面を示し、図6(b)は、Vベルト断面の寸法を示し、図6(c)は、使用されるプーリのV溝角度を示す。
【0047】
これに対して、図7に示すように、A形に対応する、三種類の五角形ベルトA1,A2,A3と、B形に対応する、三種類の五角形ベルトB1,B2,B3とをシミュレーションに用いた。図7(a)は、五角形ベルトの断面を示し、図7(b)は、A形に対応する、三種類の五角形ベルトA1,A2,A3の断面の寸法を示し、図7(c)は、B形に対応する、三種類の五角形ベルトB1,B2,B3の断面の寸法を示す。
【0048】
図8及び図9に、シミュレーション結果を示す。図8は、標準VベルトA形(点線表示)と三種類の五角形ベルトA1,A2,A3(実線表示)との嵌め込み状態を重ね合わせて示す。図9は、標準VベルトB形(点線表示)と三種類の五角形ベルトB1,B2,B3(実線表示)との嵌め込み状態を重ね合わせて示す。いずれの場合も、五角形ベルトのV断面の上側に載る三角断面はその表示を省略している。
【0049】
図8及び図9から、五角形ベルトの伝達面の上幅Wを標準Vベルトの上幅と略合わせた、五角形ベルトA3及び五角形ベルトB3が標準Vベルトのそれに良く近似している。また、この場合、五角形ベルトの伝達面の高さThは標準Vベルトの高さより薄くなっていることが判る。
すなわち、V部の外周側に三角断面が載る五角形ベルトの形状の特徴から、プーリ挿入時にベルト外周側の幅(=上幅W)の変量は小さい(幅が狭くなり難い)。よって、ベルト角度の変量も小さい。一方、厚みのある五角形ベルトはVベルト並みの屈曲性を求めてベルトの厚み(Th)を薄くできる。
これらのことから、標準VベルトA形に対応するものとして、五角形ベルトA3が望ましく、標準VベルトB形に対応するものとして、五角形ベルトB3が望ましいことが判る。
また、標準Vベルトに近似させようとする場合、五角形ベルトの伝達面の上幅Wを標準Vベルトの上幅と略合わせ、五角形ベルトの伝達面の高さThを標準Vベルトの高さより薄くしたものが好ましいことが判る。
【実施例
【0050】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
以下に示す実施例である五角形ベルト、及び、比較列である標準Vベルトを、走行試験機に掛けて、耐久試験を行った。
図10(a)及び図11(a)は、走行試験機のレイアウトを示す図であり、図10(b)及び図11(b)は、試験に供する五角形ベルトを示す図であり、図10(c)及び図11(c)は、試験に供する標準Vベルトを示す図である。
【0051】
実施例の五角形ベルトは、ベルト形式がB形に準拠したものであり、図7(c)のB3(W=16.3mm,Th=9.5mm)寸法で形成されている。
図 10(b)に示すように、実施例の五角形ベルトは、ベルト本体10(圧縮ゴム層)の中央に芯体11を配置し、その外周に外被布12を設けて構成される。
【0052】
実施例のベルト本体10(圧縮ゴム層)は、下記表1に示すゴム組成物1で構成されている。
芯体11は、一本がポリエステル繊維の撚りコード(平均線径0.5mm以下)である撚りコードを、長手方向に幾重にも巻き付けて束ね、芯体径3.5mmとしたもので構成されている。
外被布12は、布帛にフリクション処理によりゴム組成物を擦り込んだものである。布帛は、綿の織布であり、平織りで構成される。その繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸とで構成される。経糸及び緯糸の糸密度は、75本/50mm、目付けは280g/m2である。布帛に対するフリクション処理には、下記表1に示すゴム組成物3が用いられる。フリクション処理は、カレンダーロールを用い表面速度の異なるロール間に未加硫ゴム(ゴム組成物3)と布帛とを同時に通過させ、布帛の繊維間にまで未加硫ゴム(ゴム組成物3)を擦り込む。フリクションの処理回数は、表裏の2回である。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例の標準Vベルトは、ベルト形式がB形であり、図6(b)のB(W=16.5mm,Th1=10.9mm)寸法で形成されている。
図 10(c)に示すように、比較例の標準Vベルトは、心線53を埋設した接着ゴム層52の両面に、圧縮ゴム層50と伸張ゴム層51とを配置し、その外周に外被布54を設けて構成される。
これら圧縮ゴム層50と伸張ゴム層51とは、前記表1のゴム組成物1で構成される。接着ゴム層52は、前記表1のゴム組成物2で構成される。
前記心線53には、平均線径1.985mmのポリエステル繊維の撚りコードが用いられる。
なお、外被布54には、実施例の外被布12と同じものが用いられる。
【0055】
[ねじり走行耐久試験]
上述した実施例の五角形ベルト及び比較例のVベルトについて、図10(a)の走行試験機を用いる。
この走行試験機は、外径が300mmの駆動プーリDrと、プーリ平面が90°傾いており、外径が130mmの従動プーリDnとの間に、実施例又は比較例のベルトを巻き掛けて構成される。駆動プーリDr及び従動プーリDnは、V溝を有するVプーリである。
駆動プーリDr及び従動プーリDn間の軸荷重は2000Nとし、駆動プーリDrの負荷は12psとした。また、駆動プーリDrの回転数は、843rpmとした。
実施例及び比較例には、前述したB形105inchのベルトを用い、掛け本数は1本とした。
【0056】
この走行試験機を用い、実施例及び比較例のベルトを走行させた。
図10(b)に示すように、実施例の五角形ベルトは、18°だけひねらせ、両プーリ間で伝達面A,Dから伝達面B,Eと掛け替えた。
図10(c)に示すように、比較例のVベルトは、90°ひねらせ、両プーリ間で伝達面A,Bは変わらない。
【0057】
そして、スタート時、1時間後、24時間後、48時間後、120時間後のスリップ率、1時間後、24時間後、48時間後、120時間後のベルト温度、走行寿命、破損現象について計測した。その結果を下記表2に示す。
なお、前記ベルト温度は、ベルト側面(図10(b)の伝達面A,DあるいはB,E及び図10(c)の伝達面A,B)の発熱を測定して得られたものである。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示す通り、90°の「ひねり」を連続で続けながら走行する標準Vベルトは、18°の「ひねり」を連続で続けながら走行する五角形ベルトに比べて断続的にスリップ率が高く、ベルト温度も高く推移している。ひねり角度の差異がベルトの滑りを抑え、ベルトの発熱を抑制していることが判る。
【0060】
表2に示す通り、ゴム亀裂発生までの時間が、五角形ベルトのそれは、標準Vベルトのそれに比較して、倍近く伸びている。その結果、発熱によるゴムの硬化が原因のクラック(亀裂)発生までの時間(寿命)が長くなり、ベルトの長寿命化が図れることが判る。
【0061】
[反転(八の字)走行耐久試験]
上述した実施例の五角形ベルト及び比較例のVベルトについて、さらにねじりが大きくなる、反転レイアウトでの耐久試験を行った。具体的には、図11(a)の走行試験機を用いる。
この走行試験における、駆動プーリDr及び従動プーリDnの外径、プーリの種類、プーリ間の軸荷重、駆動プーリDrの負荷及び回転数は、先に説明した、ねじり走行耐久試験のものと同じである。実施例及び比較例には、前述したB形100inchのベルトを用い、掛け本数は1本とした。
【0062】
この走行試験機は、駆動プーリDrに対して従動プーリDnが180°反転し、回転方向が逆になっている。図11(b)に示すように、実施例の五角形ベルトは、36°だけひねらせ、両プーリ間で巻き掛けられる側面(伝達面)が異なっている。図11(c)に示すように、比較例のVベルトは、180°ねじって巻き掛けており、両プーリ間で伝達面A,Bは変わらない。
【0063】
この走行試験機を用い、実施例及び比較例のベルトを走行させた。そして、スタート時、1時間後、24時間後、48時間後、120時間後のスリップ率、1時間後、24時間後、48時間後、120時間後のベルト温度、走行寿命、破損現象について計測した。その結果を下記表3に示す。
なお、前記ベルト温度は、ベルト側面(図11(b)の伝達面A,DあるいはA,C及び図11(c)の伝達面A,B)の発熱を測定して得られたものである。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示す通り、180°の「ひねり」を連続で続けながら走行する標準Vベルトは、36°の「ひねり」を連続で続けながら走行する五角形ベルトに比べて断続的にスリップ率が高く、ベルト温度も高く推移している。ひねり角度の差異がベルトの滑りを抑え、ベルトの発熱を抑制していることが判る。
【0066】
表3に示す通り、心線剥離発生までの時間が、五角形ベルトのそれは、標準Vベルトのそれに比較して、倍近く伸びている。発熱がゴムを硬化させて心線との接着力を低下させるが、発熱を抑制できる五角形ベルトでは心線剥離までの時間(寿命)が長くなり、ベルトの長寿命化が図れることが判る。
【0067】
なお、前述した反転レイアウトの例に示されるように、プーリ平面が90°傾いている典型例に限られない。プーリ平面が、36°より大きく傾いている場合、第1プーリに掛けられる伝達面と、第2プーリに掛けられる伝達面とを異ならせることにより、五角形ベルトのねじれをプーリ平面の傾きより小さくすることができる。
すなわち、プーリ平面が36°傾いている場合、2つのプーリに巻き掛ける面を異ならせ、伝達面を変更したとしても、ねじりは36°であるが、
例えば、プーリ平面が37°傾いている場合、ねじりは35°となる。
プーリ平面が72°傾いている場合、ねじりは0°となる。
ここで、プーリ平面の傾きとは、第1プーリ中心と第2プーリ中心を結ぶ直線を回転軸としたときの、第1プーリと第2プーリのプーリ平面の回転方向の傾きを指す。
【符号の説明】
【0068】
10 ベルト本体
11 芯体
15 心線
31 第1プーリ
32 第2プーリ
100 五角形ベルト
200 伝達装置
A,B,C,D,E 伝達面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11